CCA-Seed_427◆ZSVROGNygE氏_11

Last-modified: 2009-04-27 (月) 22:50:30
 

失いし世界を持つ者たち
第11話 『オーブ出国、そして・・・』

 
 

 ムルタ・アズラエル氏が帰ってから数時間後、ブリッジで搬入物資の確認をしていると、マリュー・ラミアス艦長とナタル・バジルール中尉、カガリ・ユラ・アスハ嬢がアムロとともにやってきた。彼女達の表情は厳しく、敬礼するとラミアス艦長が話を切り出した。

 

「ブライト司令! 国防産業理事のアズラエル氏と会談したのは本当ですか!」
「事実だが、何か問題があるのか?」

 

 彼女にキャプテン・シートを向け、事実を淡々と指摘する。言葉の通りで、彼女らは我々に何かものを言える立場にない。ラミアス艦長らは口を濁らせるが、動じないものもいる。

 

「奴はブルーコスモスの盟主だぞ!」
「それがどうした」
「なんだと!」

 

 激昂するカガリ嬢に事実を冷静に指摘する。

 

「我々は独立国だ。どの勢力と会談しようがそれは我が国の問題であり、君たちがどうこう指摘するのは内政干渉だぞ」

 

 カガリ嬢も言葉を詰まらせる。

 

「もちろん、貴女方が危惧していることは、わかるつもりだ。忠告は受け止めておこう。……君たちに話す必要は本来ないが、話しておこう。私はアズラエル氏からの連合軍参加要請を拒絶した」

 

 その言葉に安堵したのか、ラミアス艦長は平静さを取り戻すと、自分の行動が恥ずかしくなったらしく、謝罪を述べた。

 

「申し訳ありません。ブライト司令」
「いや、気にしなくていい。驚きはしたがな」

 

 バジルール中尉が一瞬ためらったが、口を開く。

 

「申し訳ありません。非礼を承知でお尋ねします。……どうして、司令は会談に応じたのでありますか。アムロ大尉、いえ中佐のお話から、司令は軍事産業、というより戦争を通じた商売を行う者に好意的ではないと伺っていました」

 

 彼女がこの種の発言をすることに、意外性を感じ、さらに興味を持った。私は手を顎に当て、考えるそぶりを見せて、忌憚ない意見を言ってみせた。

 

「ふむ、あながち間違ってはいない。だが、興味はあった」
「興味……ですか?」
「そうだ、この世界を実際に動かすことができる相手が、自ら会談を希望してきたのだ。礼節の問題とは別に、直に会って、相手の考え方を知りたいと思ったのだ」

 

 私の言い方に、冷静さを取り戻したカガリ嬢がいぶかしむ形で危惧している気持ちを述べる。

 

「危険ではないのか」
「彼はSFの異星人のような洗脳電波を発する人物ではないぞ。むしろものを考える人間だ。だからこそ何を考えているのかを知りたい。君も覚えておくといい、好き嫌いを口にする前に、自分で判断するに十分な材料を揃えるべきだ」

 

 もちろん心の中ではいくらでも毒づいていいが。

 

「今回の会談はそうした材料の一つにしたかった。私はニュータイプではないからな。ただ一度の会話で物事を理解できん。もちろん向こうだって、会談をたかが一度しただけで、すべてうまくいくとは思ってはいまい。
今後も打診してくるだろうし、私はそれに応じるつもりだ。それに関して君たちにとやかく言われるいわれはない」

 

 彼女たち、もっともバジルール中尉は当初から感情を激したわけではなかったが、各々思うところはあったようだが、とりあえずは了解してくれたようだ。
 もちろん、我々にとっては協調という点を除けば、あまり意に介する必要がないことではあるが。若い女性が3人も艦橋にいるにもかかわらず、華やかな空気が生まれそうになかった。

 

   ※   ※   ※

 

 彼女らが去った後で、私は溜息を吐いた。アムロが同情してくる。

 

「大変だな、国家元首殿は」
「茶化すな」

 

 艦橋に笑いが広がる。慣れないことをしている自覚は常に持っている。

 

「艦長を見ていて思うが、俺はシャアみたいに政治家はやれないな」
「連邦政府の首脳に教えてやりたいな。おい、誰か録音とっておけよ」

 

 再び笑いが広がる。アムロは手を振って皆の笑いを遮ろうとする。効果はないが。

 

「茶化すなよ。ロンデニオンでシャアに会ったとき、言われたんだ。『貴様と違って、パイロットだけをやっているわけじゃない』ってな。そしてこうも言われた。『今すぐ愚民たちに叡智を授けてみろ』ともな」
「アムロ……」

 

 アムロは言葉を続ける。彼にしてみれば数か月前の話だ。

 

「同じことを繰り返すようだが、奴は急ぎすぎたと思う。もちろん、奴の主目的は俺との決着さ。だがな……カミーユ・ビダンが引き金かもしれないが、奴は本気で人間に愛想を尽かしたのさ」

 

 彼は歩きながら艦橋の窓へ足を向ける。私は立ち上がって、彼の横に立つ。

 

「カミーユは元気か?」
「ああ、今は医者になってファ・ユイリィと一緒にフォン・ブラウンで暮らしている。ここ1年ほどは会っていないが」
「そうか……」

 

 アムロに複雑な表情が浮かぶ。

 

「……話を戻すが、俺はブライト、いや艦長と違って士官学校を出たわけじゃないし、教養もそんなにあるわけじゃない。政治家として持つべき資質に欠けると思う。そりゃ、7年間することもなかったから、勉強する時間はあったがな」

 

 アムロが自虐気味に笑う。私が口を開くのを手で制する。

 

「ともかく、俺は政治的なセンスがないと思う。少なくとも演説は得意じゃないな」
「あまり自分を枠に規定するのは感心しないぞ、アムロ」
「そう、かもしれない。だが奴のようにニュータイプを過剰に期待する社会を求めてない。……いや、俺は奴とは違う意味で人類がニュータイプになってほしいと思っている」
「違う意味で、とは?」
「人が人を穏やかに理解しあえる存在になってほしいってことさ。そういった社会を目指すために、俺は何ができるだろうか、と考えた時、俺には政治家という選択肢はないと思う」
「そりゃおまえ……」
「社会を変えるためにやるべきことが、すぐに政治的な活動であるとは、俺には思えない。強いて挙げれば、啓蒙運動だろうが、それこそジオン・ダイクンの二番煎じだよ」

 

 アムロは再び自分を笑って見せた。私はなんとなく、今の境遇が偶然でないような、非論理的なものを感じた。あまりまとまっていないことを口にする。

 

「……その意味では、我々がこの世界に来たことも関係しているのかもしれんな」
「そうかな。いや、そうかもしれないな」
「アムロ、今後も私は様々な人物と会うことになるだろう。その時はおまえにも同席して欲しいな」
「そうだな、そうしてくれると嬉しいな」

 

 互いに前に目を向ける。艦橋からは地下ドックが見えるだけだ。アムロはシャア・アズナブルに思いを馳せているのかもしれない。私がマフティー・ナビーユ・エリンに思いを馳せるように……

 

 しばらく沈黙していると、スミス中尉が録音を止める許可を求めてきた。
 どうやらオペレーターとつるんで本当に録音していたらしい。彼は怒りよりも呆れたメラン以下艦橋の面々に袋叩きにされることになった。私とアムロも呆れて笑ってしまった。袋叩きされている中尉を見ながら、ふと気になったことを思い出したので、アムロに問うことにした。

 

「そういえば、今日も一緒にいたが、カガリ嬢と何かあったのか」

 

 アムロはスミスを笑いながら眺めていたが、また別種の苦笑いを浮かべて話してくれた。

 

「ああ、昨日のあれか。彼女が怒りながら歩いてきたから、何だと思って眺めていたら話しかけられたのさ」
「彼女は何と?」
「ああ、『オーブの実態に幻滅しただろう、あまり技術供与をしない方がいい』と説得されたよ」

 

 私は肩をすくめた。

 

「まっすぐな娘だ」
「俺もそう思う。純粋なんだよ、彼女は」
「それで、なんて言ったんだ?」
「『君の言いたいことは分かっているが、俺たちには生存するために他に選択肢はないよ』」
「彼女は?」
「『それでも、いつかはすべて知り尽くされる。そうなったら終わりだぞ!』ってね。彼女はどこまで考えて言っているかはわからないが、案外鋭いな」

 

 アムロは苦笑いした。おそらく、その場でもそうしただろう。

 

「全くだな。いっそ『ラビアン・ローズ』でも転移してきてほしいよ。だが、どんな物事にも永遠はない。宇宙そのものが永遠ではないようにな。
 オーブとの協定はあくまで一時の措置に過ぎん。かといって、すぐに対策があるわけではない。いずれ検討はしなければならんな」
「ああ」

 

 我々が深刻な話をしている傍で、スミス中尉が悲鳴をあげてきた。

 

「もう勘弁して下さい! 司令助けて下さい!」

 

 私は苦笑しながら言った。

 

「お前さんはすこし反省しろ」
「そんなぁ!」

 

 参謀チャールズ・スミス中尉の情けない声は、僚艦の巡察に出ていた先任参謀のトゥースが何事かと止めに入るまで、しばらくやむことはなかった。

 

   ※   ※   ※

 

 夕食の後、私が自室でアムロと酒を酌み交わしていると、メランから意外な人物が来艦したという報告を受けた。
 私はふたつ返事でその人物との面会を了承して、メランにその人物を私の部屋に案内させた。

 

「失礼します」
「どうした、ヤマト少尉、アムロに何か用か?」

 

 キラ・ヤマト少尉が、ラー・カイラムの私の部屋にやってきたのだ。メランは敬礼して部屋を出ていく。

 

「いえ……実はラミアス艦長とフラガ少佐たちに相談して、ブライト司令に伝えるべきだと勧められて、報告したくやってまいりました」

 

 慣れない言い回しが、酒の入った我々に笑みを浮かべさせる。

 

「そうか、それで何かな?」

 

 彼を促す。続いて彼の口から出た言葉は、我々を驚かすのに十分な言葉であった。

 

「実は、昨日演習の後、トリィ……アスラン・ザラが作ってくれたトリのロボットを探しに行ったことを覚えていますか」

 

 そういえばそうだったな。アムロと私は頷いて先を促す。

 

「それで、係りの人に聞くと外へ飛んでいくを見かけたと聞いて、外へいくと……彼が、アスランがいたんです」
「なんだと?」
「ですから、今はザフト軍に所属しているアスランがオーブにいたんです。他にも数名のコーディネイターと一緒に、作業着を着て……」
「そうか……」

 

 私は、彼の友人の行動力に驚きつつも、『アークエンジェル』がオーブにいることを知られてしまう形になったことに、危機感を抱いた。

 

「彼とは何か話をしたのか?」

 

 アムロが問う。ヤマト少尉は頷き、彼との再会及び会話の内容を我々に告げたが、プライベートな内容で、深刻な内容ではない。
 もちろん、他人のふりを突き通してほしいとは感じるが、この少年にそういったアドリブは無理であろう。私は自然と考えていることを口に出した。

 

「すると、どうやらしっかりと待ち伏せされることになるな」
「すみません」
「キラ、君が謝る話ではない。運が悪かったんだ」

 

 俯くヤマト少尉をアムロがなだめる。

 

「そうだな、これは運が悪かっただけだ。君が気にすることではない。しかし外交上の圧力はないだろうが、オーブに網を張られることは間違いないな」
「ああ」
「明日、艦長会議で皆に伝えよう。だが騒ぎにする必要はない。艦長や佐官レベルに情報を抑えておこう。どのみち対策を立てるのは、我々だ」
「そうだな」
「本当に申し訳ありませんでした。では失礼します」

 

 退室しようとするヤマト少尉を、私は呼びとめた。

 

「ヤマト少尉」
「はい」

 

 私は引きとめると、空のグラスにブランデーを注いだ。

 

「せっかくここまで来たんだ。せっかくだ。一杯飲んでいくといい」
「ええっ?」

 

 彼は明らかに動揺した。

 

「そんな、僕は未成年ですよ!」

 

 観念しろ。酒の回った大人2人のいる部屋に来たのが、運の尽きだ。

 

「いいから座れ! 16歳にもなってアルコールの味を知らないなど不健全だ!」
「フ、そうだな」

 

 アムロも乗ってきた。

 

「アムロさんまで!!」

 

 ヤマト少尉は非難の声を上げる。

 

「良い機会だ。貴様のフレイ・アルスターへの思いをじっくり聞かせてもらおう」
「そうだな」

 

 既にアムロも止める気はない。ラー・カイラムの夜は少年の叫び声を合図に、女性の肉体に関する作戦会議ともに更けていくことになったのである。
 翌日、メランとラミアス艦長並びにバジルール中尉に正座で怒られることになったのである(もっとも、ラミアス艦長と同席したフラガ少佐は、自分たちがその場に居なかったことに強い不満を持っていたようではあったが)。

 

   ※   ※   ※

 

 1週間後、アークエンジェルの修理は完了した。その間に我々はより互いを知りあう機会を得たが、今この場ですべてを語るのは冗長になろう。
 少なくとも、マユ・アスカ嬢に言われた一言に傷ついた私が鬚をそぎ落とした一件や『ペーネロペー』の修理に関する話は、いずれどこかで語る必要があるかもしれないが。ともあれ、我々は協定に従い出港することになった。

 

「総員に告げる! 我が艦隊はこれより、アークエンジェル護衛任務のために作戦行動に入る! 今回の任務は我々全員が異邦人であることを認識してから、初の作戦行動である!
 我々はいうなれば、『アナバシス』におけるギリシア傭兵団になったわけだが、我々のすべきことに変わりはない! 各々が最善を尽くすことを願うものである! 全艦出航準備!」

 

 艦橋にいる一同が敬礼して答える。各々が配置につき最終チェックに入る。そんな中で、オペレーターのルイス・ズマ少尉が声をあげた。彼は旧南アフリカからサイド5に移民した家系の出身である。お調子者のきらいがあり、先日も録音の件でスミスと袋叩きにあった男だ。

 

「艦長! ウズミ前代表から通信です!」
「そうか、回線開け!」

 

 画面にウズミ・ナラ・アスハ前代表が映る。

 

『忙しいところすまない。ブライト司令、余計なことであるを承知しているが、あまり目立つ行動を取ってほしくはない。万事慎重に行動してくれると助かる。諸君とは話さなければならないことは多い』

 

 前代表の発言は本心からのものであろう。

 

「私も同感です。もちろん、懸念されていることも承知しています。不要な戦闘は避けるつもりです。ですが、我々が望んで回避できるたぐいのものでもないでしょう。
 いざとなれば、公式発表として世界に我々のことを発表して下さい。少なくとも、オーブはそれで法的には逃げることができるかと思います」

 

 前代表はうなずいた。

 

「では閣下、何事もなければ1週間ほどで戻ってまいります」

 

 私は敬礼し、通信を終えた。メランが私に敬礼する。

 

「艦長、全艦出航準備完了しました!」
「よし、『ロンド・ベル』全艦出動する!」

 

 こうして、我々はオーブ連合首長国を後にすることになった。
 次にこの島に来るときには元の世界へ帰還する方法が見つかってほしいものだが、期待はできまい。私は前方に広がる太平洋を見つめつつ、予想される敵の攻撃への対応に思索に耽ることにした。

 

   ※   ※   ※

 

 艦隊が出港するのに合わせて、オーブ側はアークエンジェルに配慮する形で、護衛艦隊を同時に3方向に出港させた。
 また、敵の目を欺くため当初北西に進路をとったが、ヤマト少尉の報告を考えれば、たいした意味はないかもしれない。

 

 サンタクルーズ諸島を南西200kmを航行しているとき、オペレーターが報告の声をあげた。

 

「司令! ニューカレドニア方面から飛行物体確認! その数25!」

 

 いよいよだな。

 

「総員、第1戦闘配置! 各艦にも発令急げ!」
「了解!」

 

 号令が艦橋に響き渡る中、オペレーターが新たに声を上げる。

 

「後方100kmに物体の浮上を確認! ボズゴロフ級潜水艦の模様!」
「司令! ラー・ザイムより入電! サンタクルーズ諸島方向より10機の飛行物体を確認!」
「ラー・キェムより報告! 『南東に飛行物体確認セリ・ソノ数10』!」

 

 ずいぶんとわらわらと出てきたな。

 

「司令、これは我々をソロモン諸島に追い込む気ですな」

 

 トゥースが、画面を見て敵の作戦を推測する。同感だな。

 

「この布陣なら、まだ包囲は完成していません。サンタクルーズ方面の敵に突進し、一挙に突破を図ってはどうでしょうか」

 

 確かにそれでこの場は逃げることができるだろう。だが、その後も追撃を受けることになる。私は少し思案した後、決断した。

 

「いや、トゥース、この際だ。ここで敵の追撃の意思を失くさせよう。ここで勝利すれば、もう追撃はないだろう。」
「リスクが大きすぎませんか」

 

 先任参謀は私を諫めようとするが、私の腹は決まっていた。

 

「いや、むしろ包囲網が完成していないことは、各個撃破のチャンスだ。機動戦力を以って各個撃破を行った上で、敵の誘いに乗ってやろう」
「すると……包囲網から計算すると、おそらくここで敵の主力と接敵ですかな」

 

 彼はパネルを操作し、ひとつの島を拡大する。その島の名はガダルカナル。
 我々はそこで再び大きな出来事に遭遇することになる。

 

 

【次回予告】

 

「キラ! おまえがぁぁぁぁぁ!」

 

  ―第12話「ガダルカナル島の戦い」―