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Last-modified: 2011-07-11 (月) 14:17:45
 

失いし世界をもつものたち
第32話「憎悪と愛情」(後編)

 
 

戦闘終了後、我々は比較的被害の少ないEEFのコロニーで会談を行う事になった。
ただけれども会議は翌日に延期された。
それというのも、各艦隊は被害状況の確認や投降した部隊、ガルシア艦隊だけでなくジャンク屋や海賊、
果てはエターナル部隊の処理があったためである。

 

我が艦隊の損害報告に関しては、キルケー部隊の所属するM1が数機撃墜された。
1名は脱出できたものの、3名が戦死し、艦隊乗員も部隊全体で13名の殉職者が出た。
覚悟していたが、パイロットの消耗は今後も頭を悩ませる事になりそうだ。
M1を早急にジェガンなりリゼルに交換しなければならないな。
そしてキラの父親である、ハルマ・ヤマトは一命を取り留めたが、依然として予断を許さない状況である。
EEFは第2艦隊に500名以上の犠牲者を出すことになった。
これはガルシア艦隊の側面攻撃に晒されてしまったためである。
救援に到着した連合艦隊は、機動部隊に16名、艦隊乗員に267名の戦死者を出した。

 

率直に言えば、当初の想定よりも大きな被害であった。
半ば演習気分であった我々には手痛い損害であったといえよう。
私自身もその意識が無かったかと言えば嘘である。

 

ドミニオン以下投降艦艇の扱いについて、連合艦隊とは多少揉めた。
特に月面方面から来た、本多提督と大西洋連邦のネヴィル・ボース准将は、
即時の引き渡しを要求して来たからである。
ただ、本多提督の要求は義務的で命令以上のこと知っている様子はなかった。
さらに第2艦隊のエクスマス提督は、手順上我々が扱うことに問題がないと取りなしてくれた。
もっとも、援軍として来るのが遅いことと、いきなり大西洋連邦と共に来たことに対する遠回しで、
少なくとも御本人はそのつもりだった、婉曲な批判もあって援護してくれた側面がある。
ボース准将は、不満な表情を見せたが、強く言える立場にないとの自覚があったようで、
会議の場で改めて話し合わせてほしいと述べて、一応は了承してくれた。

 

被害報告とその対処が一段落した頃、ガルシア艦隊の投降部隊を代表して、
ネルソン級バルバリーゴ艦長のピエロ・フランコ大佐とバジルール少佐が、
幹部を連れてラー・カイラムへとやってきた。
アガメムノン級ヘルモラオスは、連合の砲撃で艦橋が破壊され艦隊副司令官以下幹部は戦死している。
武装も破壊されているため、同艦は放棄されている。

 

ラー・カイラムのデッキには、私の他にハルバートン少将、トゥース准将以下参謀たち、
アムロ、そしてラミアス艦長が待機していた。
整備で慌ただしい状況であったが、MSパイロットも野次馬的に集まっている。
その中には父親を心配してラー・カイラムに残るキラの姿もあった。

 

「大西洋連邦軍第3特務艦隊所属、戦艦バルバリーゴ艦長のピエロ・フランコ大佐です。
 投降を受け入れて頂き感謝します」
「ロンデニオン共和国軍ロンド・ベル司令、ブライト・ノア中将です。このたびはお気の毒でした」
「正直に言うと、まだよくわからないという気持ちです。
 どうしてこんな事になったのか、艦長の私がしっかりしなければならんのですが。
 全く、ご面倒をお掛けします」
「そうでしょう。我々も、そう思うときはありますよ」

 

私の言葉にみんなが苦笑いする。 どうしてこうなった。 我々もその言葉を何度つぶやいたことか。

 

「投降後の処遇だが、希望者は我が国に受け入れる用意はあります。
 また亡命を受け入れがたいという方にも、ロンデニオンへと帰還した後に対応する用意はあります。
 ただ、その方には、しばらく拘禁という扱いになると言う事をご了承下さい。
 詳しくは、法務官のモリス大佐に聞いて下さい」
「わかりました」
「とりあえず、細かい話は会議室で行いましょう。では」
我々が振り向いて、会議室へと向かおうとした直後、少女の声がデッキにこだました。

 

「キラッ!!!!」

 

聞き覚えのある声に振り向くと、赤い髪の少女、フレイ・アルスターがキラに飛びついていた。

 

「フッ、フレイ!?」
「キラッ、キラぁ・・・」

 

2人は、抱き合ったまま無重力を漂う。バジルール少佐が説明する。
「こういう形になりましたし、彼女も連れてきました。
 まさか、ヤマト少尉が生きているだけでなく、この船にいるとは思いませんでしたが」

少し丸くなったのだろうか。不思議そうな顔をしてみると、少佐は帽子を目深に直すと、
やや照れた様子で弁解する。

「いえ、その・・・彼女が心細かろうと思いまして」
「ナタル、ありがとう。私も貴方とこうして会えて嬉しいわ。なにより殺し会わなくて死んだのですから」

ラミアス艦長が穏やかにほほえむ。私も頬を緩めるとアムロの手が私の肩に置かれた。
「ブライト、彼女は優しい人だよ。
 ナタル、君が今後どうするかはともかく、俺も戦わなくて済んでよかったと思う」
「アムロ中佐・・・」

 

私は咳払いすると、キラを見やる。キラはフレイがここにいることよりも、彼女の行動に驚いているようだ。

「フレイ、どうして?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
 今更私はこんなこという資格なんてないのは解っているの。謝りたかった」
「・・・フレイ、僕の方こそ君を傷つけてしまった。ごめん」

絡み合うように、ふたりは抱き合う。そしてフレイが、感極まったのか、口づけして叫ぶ。

 

「好きなの、わたしはキラが好き!好きなのぉ・・・」
「・・・!!」

 

抱き合いラブシーンを見せつけられた私は、図らずも先に思った言葉を浮かべることになったのである。
どうしてこうなった。

 

※※※

 

半日後、コロニー港湾部の会議室で各艦隊の幹部は顔を合わせた。
我々とエクスマス提督ら第2艦隊幹部は、まず大西洋連邦軍の参加について詳細を求めることになった。
本多提督が参謀長に説明させる。

 

「実は、EEF並びにロンデニオン共和国軍が出港する前後に、
 バミューダでランズダウン首相とコートリッジ大統領の間で会談が開かれたのです」

 

列席者は、驚きの表情をあらわにする。さらに続く発言は、なおも衝撃的であった。
つまり会談の結果、両国に一時的な協調体制がされることになったのだ。
また大統領は、一連の混乱の責任を取る形で地球連合事務総長を辞任することになった。
後任に両国は東アジア共和国主席の劉慶氏を臨時連合事務総長に推薦した。
東アジア共和国と連合議会は即日承諾したという。
法律的に怪しいとの批判もあるが、戦争終結後の連合の組織見直しを条件とともに、
戦時における非常措置ということで承認されたそうだ。

 

もともと連合政府は、旧国連に軍事権と外交権を強化して、半ば間に合わせに近い形で
議会を作り上げた組織であった。
そもそもこの世界では国連が前年まで存在していたのである。
代替組織として作り上げたはいいが、組織として間に合わせて作ったため、
多くの混乱を引き起こしたことは否めない。
加えていえば、前事務総長のウィレム・オルバーニが、構成国のリーダーに比べて
調停能力がなかったことも大きい。
外務省は政治家で有力大使経験者だったランズダウン侯を選べたものの、
――余談になるがオルバーニ最大の功績は大西洋連邦を気にしてランズダウン侯を
外相に任命したことだといわれている――国防相ポストは悲劇的だった。
連合軍組織への予算や指揮系統の関係上、構成国の持ち回りという措置であったために
アラスカ事件のような一件を引き起こす事になったのである。
つまり、コートリッジ大統領が事務総長に就任できたのも、地球連合という組織の脆弱さにあるといえる。
実際、この数ヶ月の間に連合政府がかつてなく効率的に運用され、
対ザフト戦でも優勢である理由のひとつに、大西洋連邦と地球連合政府の命令系統が
一本化されていたという事情があった。
そうした状況の中で連合代表に東アジア共和国主席を据えるところが、
両者の政治家として老練さを見せつけられる。
劉慶主席は、首相時代から複雑な民族事情を抱えながらも、東アジアをまとめている実績がある政治家で、
日本と朝鮮の離脱した混乱も素早く収束させている。
元々ユーラシアと大西洋連邦のいがみ合いに巻き込まれているという不満のあった、
東アジアの支持を取り込もうという思惑もかいまみえる。
東アジアの存在はその人的及び天然資源からして軽視はできない。
EEFが表だって連合と事を構えなかった理由でもあるし、連合軍が半ば崩壊しかけた中で
連邦主導の再編成で主軸となったのは、他ならぬ東アジア共和国であった。

 

そうした状況で、未だしこりの残るEEF、大西洋連邦を
東アジア共和国がまとめるという構図にしたのである。
そして、今後各国は戦力を拠出する形で連合軍を編成するという事で合意した。
ちなみにロンデニオン共和国の扱いは、一時保留であるがランズダウン侯がEEFのみが窓口であることを
理由に、連合への組み込みは同国の意向次第と言う事になったそうだ。
新連合軍は、言うなればかつての日本連合艦隊のようなものである。
協調体制をまとめるため、現連合軍上層部の人事は刷新された。
参謀総長は解任され退役し、後任には東アジア共和国軍出身の連合地上軍司令、
司馬敬大将が元帥に昇進し就任した。
司馬将軍は、混成軍の性格が最も色濃い地上の各部隊を、劣勢の中でもよくまとめて運用しており、
その運営能力と統率力が買われたそうだ。
前線型の軍人で、アラスカ事件の時には、南京でカオシュン攻略の部隊を再編していたために、
事件に関係していなかったことも選ばれた理由である。
ウェリントン元帥や前線部隊の総責任者にあたる連合軍総司令官アミッド・マクファースン元帥を
推す声もあった。
けれども前者はEEF色が強くなることを本人も含めて周囲が避け、
後者についても前線の総責任者はこのまま留任させた方がいいという意見と、
アラスカ事件を了承している件があったために、EEFの反発を受けるだろうという事で回避されたのである。

 

「それにしても、共同作戦を採るならしっかり情報を回して欲しい物だ。
 せめて作戦開始の時刻を前倒しにすれば、ガルシア艦隊への対応も変わったはずだ」

 

エクスマス提督が、葉巻を咥えて不満げにいう。

 

「傍受の危険とか下らんこというなよ。そもそも今回の作戦は、威嚇行動的な側面が強かったんだ。
 EEFと連邦が組んだと知れば、海賊どもがすたこらさっさと逃げたのかも知れん。
 総、おまえが艦隊を率いていながら、そういう配慮もできなかったのか?
 ブラッディでくだらん政治的配慮で、ガルシアのタコの部下も含めりゃ
 1000名以上の犠牲者を出しているんだ。
 俺は部下の遺族に、『政治的配慮ために部下を殺して申し訳ありませんでした』と
 手紙書かなければならんのか?Cock極まりない」
「閣下、その辺で・・・」

 

スキナー参謀長がテーブルから半ば身を乗り出して押さえる。
本多提督は目を閉じて眉間にしわを寄せ、黙って聞いていた。
そこに、脇に座っていた大西洋連邦のボース准将が口を開く。

 

「その点は、小官が責めを負います。
 本多提督も月面出航後にカオシュンとオーブから打ち上げされた艦隊である、
 我々から始めて状況を知らされたのです。
 今頃は月面の宇宙軍本部、アルテミスやロンデニオンにも情報が伝わっていることかと思います。
 今回ギリギリまで、秘匿されたのはひとえにガルシア少将に気取られないため、
 また軍上層部の刷新も電撃的に行わせるためです。ご理解下さい」
「それは、俺ではなく、遺族と医務室で寝ている連中にいってくれ。
 腹は立つが政治家とはそういうもんだという事くらい解っている」

 

なおも気炎をあげるエクスマス提督から、准将は私に体を向ける。

 

「ともかく、ガルシア艦隊には様々な容疑がかけられています。
 我々としては、投降した将兵を全て引き渡して頂きたい」
「准将、彼らはロンデニオン共和国に投降したのだ。一応その辺りの事情を理解していると思うが?
 当然ながら、我々は現在のところ連合には加盟していないから、
 連合の指揮系統に従ういわれもないのだが」
「もちろんですが、そこを曲げてお願いします。容疑を固めるためにも証人は必要です。
 また、連合に対して捕虜の解放もガルシア艦隊は不当に確保しているそうですね。
 そちらもお引き渡し頂きたい」
「その捕虜も先ほど、こちらへの参加を希望している」
「ブライト提督、私は与えられた法に基づいて要求している。
 貴国が法治国家を名乗るのであれば、法に基づき行動して頂きたい」

 

彼は、やたら将兵を確保したがっているように見える。やはり、ガルシア艦隊は犠牲の羊にされたようだな。
みすみす見殺しにするのも居心地悪い。だがフレイ・アルスターの扱いについては、面倒なことになるな。
隣に座るハルバートン副司令が口を開く。

 

「証拠と言う事であれば、こちらが捕縛した艦艇のデータを引き渡すという事でどうかね。
 基本的には証拠があればいいのだろう」

 

ボース准将は、事務的に対応しながらも、多少の焦りを見せる。そして私自身が予想した搦め手を指摘した。

 

「しかし、捕虜の名前、アルスター二等兵ですか。彼女は連合軍所属で、捕虜として回収されたと聞きます。
 さらに、アルスター二等兵は、何か重要な情報を持っているようだ。
 それは、連合の財産として見なされるべきではないか」

 

私は、ややうんざりしながらも相手の言い分に首肯すべきところがあると認めざるを得なかった。
しかし、仮に私が疑っているように連中がバジルール少佐たちを切り捨てたのであれば話は変わる。
ガルシア艦隊は正規軍として動いていた。だとすれば、回収した段階で捕虜ではあるまい。
もっとも、あの戦況で自由意志の亡命をしたとはとてもいえないが。
キラとの事を考えると、今は確実に連合に残る気はないと思う。
投降した連合の将兵は、かつての第3戦隊以上に連合への怒りをあらわにしていた。
任務に忠実に働いていたら、逆賊扱いになったのだから無理もない。
ましてや、投降信号を出した後に問答無用で砲撃してきたのである。
彼らは、嫌が追うにも帰れないと受け止めていた。
もちろん、まだ迷う物も多いが、そうした連中も今のこのこ連合に戻れば、
殺されるので即時引き渡しは避けて欲しいとの要望が出ていた。再びハルバートン少将が続ける。

 

「そちらもデータだけ引き渡しましょう。
 少なくともあの少女は、ロンデニオン共和国から去るつもりはなさそうです。
 その件も含めて、こちらは即時引き渡しには応じかねる。EEFの外交ルートを用いて欲しい」
「やむを得ませんな。データに関しては譲歩して下さるという、貴方方の姿勢は
 譲歩と受け止めないといけませんな。
 本国に掛け合ってみましょう。せっかくの共同作戦終了後に、
 私の主張で司令方の気分を害することになるのは、小官も本意ではありません」
「感謝する」

 

しかし、フレイ・アルスターの持つデータとは何だろうか。
ハルバートン少将は、人的資源と鹵獲兵器の確保を重視したいようだ。
もちろん、会談前に私もその線で行く事に同意している。
何か引っかかるが、ニュータイプでもない私に解るわけもない。
私は頭を振り、この宙域や交易ルートの確保、そしてラクス・クライン一党の問題などの
協議に入ることにした。

 

※※※

 

「つまり、EEFと大西洋連邦、さらに東アジア共和国は再び戦争終結のために協調すると言う事か」

 

ラー・エルムのレディング艦長が、左手であごを支えて思案しながら発言する。
コロニーでの会議の後、ロンデニオン帰還前に艦長会議が開かれた。
列席者からは、今回の作戦で地球の情勢に関する情報の不足を不安視する意見が多く出された。

 

「やられましたな。これは出汁に使われたのではないか。
 連中にとって都合の悪い連中をまとめて掃除する片棒を担がされたようなものだ」

 

ラー・ザイムのコンタリーニ艦長が毒づく。ピレンヌ艦長が続ける。

 

「我々は地上における情報収集能力を殆ど持っていない。
 前はキルケー部隊のメインザー大佐が、オーブにいたからまだマシだったが、
 彼は今コロニーの運営を任せている。
 今更外へ出すわけにも、いや、そもそも外に人員を出せるのか?」

 

ハルバートン少将が、腕を組み思案する。

 

「確かに人材がいない。能力面ではなく単純に人手の問題だ。参謀スタッフには限りがある。
 かといって、旧ユーラシアの人員は、まず割ける状況にないし、転移者組を1人で出すなど論外だ。
 これまで作戦準備と内政にかまけて、外交は、主要幹部が大使と交渉に当たり、
 派遣大使の問題は後回しにしたところがあったからな。そのツケがもろに出たな」
「しかし、考えねばなるまい。我々は情報の扱いを間違えたら国家が滅亡する。
 確かにランズダウン侯爵は、信用に足る政治家だった。
 けれども、恥ずかしいようだが今回のことで改めて思い知らされる。あくまで他国の指導者だ。
 いや、迂闊というほかない」

 

レディング艦長が嘆く。リューリクのエリアス大佐が口を開く。

 

「彼は、その調整能力で戦役前半の連合を支えていましたからね。
 いずれにせよ、最低でも佐官クラスで1人、スタッフに最低15名ですか。
 それでも少ないですが、EEFには大使を出さなければなりませんね。
 今後の事を考えると主要国には出さないといけませんな」

 

ハルバートンの副官兼先任参謀のオルトヴァン少佐が、悩ましげに言う。

 

「しかし、佐官クラスで出せる人員など現実いませんよ。
 尉官クラスを一時的に昇進させて対応させるしか手がない」
「だがそれでは経験不足が露呈するだけだ」
「元々外交の専門家が1人もいないんですよ。せいぜい対応できる人員となると参謀連中ですが・・・」
「それこそこれ以上割ける状況にあるまい」

 

トゥース参謀長が、ため息混じりに言う。堂々巡りに近い議論になったところで、クワトロ大尉が発言した。

 

「少なくとも、大使は出さざるを得まい。誰が貧乏くじを引くにせよな。
 引きこもることができればいいが、不可能であるし、
 だからこそ我々は外界と付き合い生きていくと決断したのだ。
 大使派遣については帰国後に不在の艦長たちとも話し合うべきだろう。
 とりあえず我々は、今回投降した人々を引き渡さない。
 そのためにハルバートン提督が述べたように幾分譲歩はする。しかし、気になる点がひとつある」
「それは?」

 

アムロがクワトロ大尉を促す。

 

「フレイ・アルスターの持っていたというデータだ。
 今はドミニオンにあると言うが、中身くらい確認してもいいのではないか?
『戦争を終わらす鍵』とまで言っている。ましてや、あのクルーゼが渡したものだ」

 

一同が再びうめく。クルーゼの件も報告されている。
その狂気じみた発言に一同はあきれかえると共に、その危険性を認知した。
しかしながら我々が何かやれることでもあるまいということで、
現実の脅威として出た地球情勢の変化に議題は移っていた。

 

「シャア、ではそのデータを引き渡さない方がいいと?」
「そうまでは言わないが、中身を見ることぐらいかまわないだろう。
 バジルール少佐なりドミニオンの士官の誰かが、戦闘中に確認したという事くらいにすればいい」
「確かに、あの男が何を考えて鍵とやらを渡したかは解らないが、あの主張が本心だとすれば、
 ろくでもないものでありそうなことは確かだ」

 

アムロの意見に私も同意する。

 

「よし、とりあえず連合の要求はここでは却下することにしよう。
 大使に関しても帰国後に話し合うことにする。他についてだが・・・」

 

会議はその後、ジムの評価とM1損害に鑑み、ジェガンの生産体制を早期に確立することでまとまった。
そして3時間後、EEF第2艦隊と共に帰還の途につくことになった。

 

※※※

 

会議が終わり食堂でコーヒーとハンバーガーを受け取ると、
冷水器の近くにアムロたちがキラを囲んで集まっているのが見えたので、そこへ向かう。
レーンが気付いてアムロのとなりを私に譲る。
私の前には、キラとフレイ、そしてラクス・クラインが座っていた。
彼女は脱出時に、ラー・カイラムに移りそのまま乗艦している。
ドタバタしていたことと、彼女がキラを心配していたという事、エターナルが中破という事情もあり
バルトフェルド隊長の要請でこちらに乗艦することになっていたのである。
ラインハルトだけがその護衛に残る辺り、こちらを信頼しているという姿勢を見せるつもりなのだろう。
ともかくレーンの空けた席に座る。

 

「すまんな」
「いえ」
「何を話していたんだ?」
「キラとフレイが、どうなったのかを根掘り葉掘り聞いていたのさ」
「「ア、アムロさん!!」」

 

アムロが茶化して答え、私は苦笑する。キラが父親のことで不安に感じていることを気にしているのだろう。
レーンやシン、トールやキラと縁のある連中が集まっていたのもそれが理由だろう。
特にシンやニコルは、自分の父親のことを思い出しているのかも知れない。私も茶化すことにした。

 

「キラ、大丈夫か?ラクス君との関係がフレイ君にばれるとまずいのではないか」
「ラクスとの関係って・・・キラ?」
「ちょ、ブライト司令!!」

 

一同が冷やかして笑う。フレイの表情は、嫉妬というよりも、驚いている表情だった。
彼女にしてみれば、キラが生きていたという事だけでなく、
ラクスがここにいることもよくわからず混乱しているところだろう。
ただレーンが言うには、彼女がかつて見せた激しさは見えなくなったそうだ。
ラクスが、改めて求めた握手も何か憑きものが落ちたように穏やかに握ったそうだ。
けれどもキラとの関係となると穏やかではないようだ。そこに、さらなる爆弾が投下される。

 

「なんだキラ、おまえフレイちゃんに、ラクス・クライン嬢とふたりきりで過ごしたとかいう、
 そりゃあ甘い看護生活については、説明していなかったのか?」

 

トマス・パトナム少尉がハンド・グレネイドを投げ込む。一同が苦笑する中で、キラの顔が青ざめる。
対して隣に座るラクスが顔を髪と同じように桜色に染める。

 

「甘いだなんてそんな・・・」
「ちょっパットさん!!!」
「キラ・・・」
「待ってフレイ!!そんなくらい顔しないで!!」
「・・・」

 

フレイは、怒っていいのかそれとも仕方ないと思うべきか、真面目に受け止めるべきか悩んでいるようだ。
これは少しかわいそうだな。しかし、周りは悪乗りした。

 

「あー、これだから女たらしは嫌だなー、シン」

棒読みのレーンである。

 

「キラさんは酷い人ですよねー、トールさん」

同じく棒読みのシンだ。その顔は悪戯っ子のそれである。

 

「確か、キョルショー大尉にも・・・」
「トォールゥゥゥ!!!わーわー!!皆酷いですよ!!」
「いいじゃないか、元気出ただろ?変にふさぎ込むよりマシさ」

 

レーンが、笑いながら言う。彼らも組みとってくれたのだ。
キラの出生の話と父親の話に纏わるいざこざに彼が悩んでいたことを。
私は正直、こうしてフレイ・アルスターが来たことでキラの精神状況は
良い方に向かうのではないかと安堵した。
実のところラクス・クラインの乗艦を認めたのも、キラを献身的に看病した少女が、
彼をいやしてくれないかと期待したのだ。
少なくともキラに対しての愛情に偽りは見えなかったから。だが、結果として少し気の毒だったな。

 

「その辺で許してあげましょうよ」

さすがに見かねたニコルがフォローを入れる。
私もそれに同意し、一応この状況を作り出してしまっただけにまとめることにした。
するとそこに、この場にいたら話をさらにややこしくするだろう人物、
チャールズ・スミス中尉がやってきた。

 

「司令!!例のディスクですが、プロテクトがかかっています!!」

私は、キラの隣に座るフレイを見る。

 

「私、プロテクトコードと一緒にファイルを渡しましたよ」
「それが、どうやらドミニオンの保管場所に我々の攻撃が命中したようで・・・」
「ファイルも吹っ飛んだのか?」
「ファイルは無事です。
 正確に申し上げるなら、運んでいた士官が、運んでいる際に吹っ飛ばされたそうです。
 その、女性や食事中の司令を前に申し訳ないのですが、その時にコードの書かれたケースに
 士官の肉がこびりついてしまったそうで・・・」
「困ったな、何とかなるか?」
「ハサン先生や整備班に洗浄を依頼しているのですが、何とも・・・・」
「あの・・・」

キラが、私に声を掛ける。

 

「データの解析ならばお役に立てるかも知れません」

 
 

キラの解析したデータは、再び我々に悩みの種を与えることになる。
ラウ・ル・クルーゼの憎悪は確かに本物であったのだ。

 
 

第32話「憎悪と愛情」end.

 

 

【次回予告】

 

「俺たちは、帰るその時まで生きていかなければならない」

 

第33話「揺れ動く世界の中で」