CCA-Seed_427◆ZSVROGNygE氏_33-1

Last-modified: 2011-08-01 (月) 00:33:38
 

失いし世界をもつものたち
第33話「揺れ動く世界の中で」(前編)

 

「キラ!!行ったぞ!!」
「わかりました!!!」

 

νガンダムが、ジンの右腕を破壊してフリーダムの方向へと追い込む。
キラはアムロに習い、その継戦能力を奪おうと試みる。
フリーダムはキラの意志を汲み取ったのか、ビームの光がジンの頭部、左腕を破壊する。

 

「これでもう戦えないだろ!!降伏するんだ!!!」

 

ジンが動きを止め、壊れた腕を上げると共に投降信号を出す。
その一方で、レーンは容赦なくキラとアムロが無力化した機体の僚機を火球にした。

 

「ふん、セコイまねをするからだ」

 

彼は普段の愛機ではなく、ジェガンに乗っている。これは、補給パーツの製造に一段落したので、
実験的に組み上げた機体をテストしているのである。
テストの相手として、この2ヵ月の間というもの散発的に仕掛けてくる傭兵、
ないしザフト軍と想定される部隊は適当な相手といえよう。
ちなみに今戦闘に投入しているカール・マツバラのリゼルも同様である。

 

そして、画面を見るに後方にいた輸送船もリゼル隊とEEFのメビウス隊が拿捕したようだ。
サブ・パネルにアムロの顔が浮かび上がる。

 

「状況終了、これより帰還する」
「ご苦労。捕縛した連中は、EEF艦艇に引き渡せ、
 それと捕縛した機体のデータは、念入りに破壊しておいてくれ」
「わかった」

 

アムロとのやりとりを聞き終えると、横のキャプテン・シートに座るオットー艦長が
警戒態勢への移行を指示する。ネェル・アーガマを中心とした小艦隊は、戦場の後始末を始める。
一通り指示を終えた、オットー艦長が私に話しかける。

 

「しかし散発的ですな」
「データを回収する腹積もりなのだろう。しゃくに触るが当然だろうな。
 だからこうして念入りに対応するわけだが、限界はある」
「はい、先のコロニー平定戦で大きな根拠地がなくなったために、大規模な行動は出来ないようですが、
 金や物資に困った連中の威力偵察がこうも増える結果になるとは」

 

参謀長のトゥースがため息混じりに言う。

 

「やはりこの世界の機動兵器のコストが安すぎます。流通も容易ですから、
 アリの駆除をしているような感覚を持ってしまう。 それにこうも散発的に攻撃してくるのは、
 情報欲しさに連中を焚きつけている連中がいるのでしょうが・・・、必ずしも敵だけじゃないでしょう」
「連合も情報は欲しいと?」
「はい、EEFとて脇でデータくらい収集しているでしょう。
 これは推測の域を出ませんが、大西洋連邦なりブルーコスモスなりが傭兵を焚きつけ、
 戦闘データをEEFと示し合わせて回収するつもりではないでしょうか。
 つまり、傭兵なり海賊なりが適当なところで引き揚げそのデータを回収、
 EEFは友軍の視点で情報を確保する。連中が失敗しても情報は得られる」

 

オットー艦長が不満げに言う。

 

「とんだサーカスだな」
「全くだ。だが、対応しないわけにも行かないからな」

 

そこへCICより報告が上がる。ケイト・ロスがサブ・パネルに映し出された。

 

「艦長!!!11時の方向80000、暗礁空域に戦闘の光を確認、民間船が襲われている模様です。
 攻撃しているのはジン3機の模様!!!
 加えて民間船からロンデニオン共和国に対する救難信号も受信しました!!」

 

オットー艦長は、サブ・パネルから視線を私に移す。

 

「またお客さんですかね」
「こちらも問題だよ・・・」

 

私は司令席のシートに深く体を沈めつつも、すべき指示を出すことにした。

 

「捕縛船をメビウスに任せてリゼル隊を向かわせろ!!マツバラの一隊で対応できる!!!
 ブルックス准将にも連絡!!」

 

我々は結局のところ、あれだけ不本意としていた、世界の深みにはまりつつあったのである。

 
 
 
 

「フリーダムとジャスティスのデータだと?」

 

不可解な表情でレディング艦長が、報告者たる情報参謀のコレマッタ少佐に問う。
少佐はキラに詳細な説明をするよう促す。
本国に帰還した後に、今後の対応を検討する会議をする中で、
キラが解析したデータが議題に上がることになった。
そして、問題となったデータにはキラが乗るフリーダム、
かつてアスラン・ザラの乗っていたジャスティスに関する内容が記載されていたのである。
これはコズミック・イラにおいて非常に重要なデータであろう。
すなわち、ニュートロンジャマーキャンセラーを搭載した機体の情報なのだ。
これはとりもなおさず、ニュートロンジャマーにより深刻化した地上のエネルギー問題が
解決することを意味している。
以上の報告は一同を驚かせるには十分であった。何よりその情報の出所も含めてであろう。
重い沈黙を破り、ハモンド艦長が口を開く。

 

「まず確認したい。つまり、我々の売りである融合炉は不要になるというのか」

 

若干の焦りに近い感情が見られる。対してピレンヌ艦長やハルバートン少将が応じる。

 

「いや、それは早計だ。ニュートロンジャマーのリスクがなくなる融合炉は、依然として価値がある」
「その通り。核融合炉はこの世界のエネルギー問題を考える上で無視できない。
 さらに軍事技術と運用ノウハウと併せて、ロンデニオン共和国はその価値を失っていない」

 

その発言にやや安堵めいた空気が流れた。頭ではわかっていても、誰かが口にすると安心する物だ。
だがその安堵は別の問題で打ち消される。

 

「しかし、それではクルーゼは何を考えてこのデータを流出させたんだ?」

 

ガルブレイス艦長が、悩ましげな顔を隠しもしないで述べる。
それに皮肉混じりに答えたのは、オットー・ミタス艦長だった。

 

「そりゃあ、アレなんだろうな」
「あれってなんです?」
「ネジが飛んでいるんだろ」

 

横からコンタリーニ艦長が口を挟む。

 

「前のプラントの時の行動は全く理解出来なかったが、先のコロニーでの話を総合すると推測が出来る。
 要は、振り切れてしまっているんだろう。悪い意味で馬鹿な方向にな。
 もっとも仮面を付けて軍を指揮しようとしているだけでも、おめでたい発想の持ち主だが」

 

報告のために臨席しているクルーゼの告白に立ち会った面々は、決して嬉しくない理由から笑みをこぼす。
もっとも、キラとシンは苦笑で誤魔化すという、大人の悪癖を身につけておらず、憮然としていたが。
そして、誰とはなくクワトロ大尉へと視線が集まることでも、苦笑が漏れる。
当の本人もクルーゼに対する物とは違う、自虐めいた笑みを浮かべていた。

 

それに気付いたアムロは、これまた違う笑みを押さえつつ、意見を開陳する。

 

「むしろ問題は、核兵器の類も使用可能になるという事だ。
 この世界には禁止する類の条約などないのだ、使う気になれば使うだろう」
「アムロ中佐・・・」

 

ナタル・バジルール艦長が心外とも思える表情を浮かべてアムロを見る。

 

「ナタル、俺たちの世界じゃ禁止されていても使おうなんて考える奴が出てきた。
 規定がないなら躊躇う理由なんてないさ。
 そもそも開戦時に既に使われている以上、ブレーキなどないだろう。
 問題は、それが軍事施設で済むかと言う事だ」
「ブルーコスモスですね」

 

ラミアス艦長が応じる。アムロはそれに頷き続ける。

 

「そうだ。今のところ、ムルタ・アズラエルはコーディネイターの根絶を穏やかな形で行う事を
 志向しているようだが、核兵器が使えるとなれば方針を変える可能性は十二分にある。
 この世界にどれだけ核兵器があるか知らないが、旧時代からの核が残っていることは確かだろう。
 それら全てを使用してもプラント破壊にはおつりが来るさ」

 

バジルール艦長も、そしてこの世界の艦長たちも一様に考え込む。
心当たりがありすぎるのだろう。アムロの意見は真剣に考えるべき危険である。
しかし、我々はこのデータを渡すと応答している。 迂闊のそしりは逃れないだろうな。
考え込む我々の中で、サングラスをかけた男が手を挙げて発言の許可を求めてきた。

 

「アムロの言うことはもっともだ。ならば、こちらから先手を打たねばなるまい」

 
 

※※※

 
 

食堂では、既にアムロがレーンとキラといったパイロット連中と共に食事をしていた。
私は、副官のハムサット少佐とその輪に入る事にした。

 

「ブライト?」
「ああ、一緒に食べても良いかな?」
「かまわないさ」

 

アムロは周りのパイロット連中に目を配らせる。彼らは敬礼するなり、頷くなりして同意の仕草を見せる。
アムロ・レイという存在にさすがに慣れたのか、彼の周囲には多くのパイロットが集まるようになっていた。
アムロ自身もそうした変化を受け入れつつあるようだ。かつての性格を知る私には、何とも愉快にも見える。
一方の私は、パイロットと交流できるので、艦内食堂で食べることに愉しみを見いだしていた。

 

着席すると、席の端にフラガ少佐も確認した。重傷ゆえに、いまだにラー・カイラムで治療しているのだ。
脇には、すぐに医務室に戻れるようにするためであろう、美人の看護士がいる。

 

「大丈夫か?少佐」
「ご心配をかけました。司令、ラー・カイラムの美人看護士に囲まれていると、
 治りが早いのですが、それが惜しくも感じます」

 

こういう物言いが出来れば、回復に向かっているとわかるものだ。ベアード少佐が茶化して言う。

 

「まさか、メアリーちゃ・・・。こほん、メアリー曹長の手厚い看護を堪能しているのか?少佐」
「いえ、俺は貧乳には・・・。こほん、ソフィア軍曹ですね。献身的で治りが良い」

 

少佐の面倒を見るソフィア・グレース軍曹は、メアリー曹長の部下で献身的な看護兵である。
曹長とは対照的に穏やかな性格で、一部では女神と称されているらしい。
青色に近い紺色の髪で、何ともいえない色合いが美しいと私も思う。
しかし、大丈夫か。ラミアス艦長にばれたらえらいことになる気がする。

 

ひとしきり食事を済ませ、コーヒーを飲んでいると、アムロが独り言のように語り出す。

 

「ラウ・ル・クルーゼ、あの男の狂気は人類全てに向けられている」
「そうだな」

 

私の言葉にフラガ少佐が、つらい表情で言い出す。

 

「ふざけていることに、自分の父のクローンであることは間違いありません。あの顔は父親そのものでした」

 

フラガ少佐が、複雑な表情で語る。キラが続ける。

 

「僕にもショックでした。僕はあの研究所で開発された、最も人工的なコーディネイターだって。
 さっき父にも聞きました」

 

ハルマ氏は、未だに予断を許す状況にないが、一時的に意識が戻ったとき、
ハサン先生に頼んで先生臨席の下で全てをキラに伝えたのだ。
私はハルマ氏の了解を得て、ハサン先生より報告を受けている。

 

「よくわかんねーけど、それはコーディネイターとどう違うわけなんだ?サイやミリィも心配していたぜ」

 

艦長会議ため連絡艇を運転して来艦している、トール・ケーニヒが直球で聞く。
パトナムや、マクニールといったキラと親交のある連中も口々に同様の声を掛ける。

 

「そうだな、で、実際何が違うんだ?いきなり髪を逆立てマッチョにでもなれるのか?」
「そもそも俺にしてみれば、コーディネイターと強化人間の違いだっていまいちわかんねーんだが」

 

マクニールに対して、アムロが指摘する。

 

「強化人間は、さすがに違う。アレは戦闘のためのマシーンだ。
 コーディネイターは全体的な能力の底上げといった方がいい。
 ただ、種として完全かと言えば必ずしもそうではない。
 人間の持つ遺伝子は、多くの可能性を秘めているわけだが、
 調整するということは可能性を削るという事でもある」
「それは、進化の可能性を削るという事でしょうか?アムロ中佐」
「そうだ。レーン、人間は環境の変化に対応するために進化を続けた。
 その帰結としてジオン・ダイクンはニュータイプを提示して見せた。
 コーディネイターは、その世代の能力と引き替えに、自然の進化を阻害する可能性がある」

 

キラはやや複雑そうな表情を見せるが、他のパイロットはアムロの口から出るニュータイプ論に
関心を向けて気付かない。唯一、トールを除いて。

 

「俺が自分なりにこれまで調べてみて、コーディネイターはそういう存在じゃないかと思う。
 ただ、ジオンの思想が変質したように、ジョージ・グレンが本来望んだ在り方とは
 また違うようにも感じる」
「マルクスはマルクス主義者ではないという事か?アムロ」
「言い出しっぺと取り巻きに齟齬があることはいつも同じさ。だから革命家は世捨て人になる。
 ・・・話はそれたが、彼は遺伝子をいじることをコーディネイターとは捉えていなかったと思う。
 他者と他者の調整者という考えは、他者と誤解なくわかり合えるというニュータイプ的在り方に見えて
 決定的に違うことがある」
「それは?」
「ジョージ・グレンの言う他者とは、地球外の存在をも想定しているという事さ。
 俺たちの世界とはそれが決定的に異なる」
「エビデンス01・・・」

 

キラのつぶやきに、私はこの世界には地球外生命体が現実に確認されているという件を思い出した。
そういえば、この世界に来たときに異星人扱いされたことがあったな。
アレはそれなりにマニュアルに基づく行為だったのだろうか。
とりあえず、エビデンス01までは知らないパイロットもいたのでその説明で少し話がそれた。
ちなみに、その話を聞いたパイロットの反応は一様に形容しがたい表情であった。
アムロが改めて切り出すが、少しぎこちない。
話の腰が一度折れたために少し喋りすぎたことが、自分に似つかわしくないという事を自覚したようだ。

 

「かなり話がそれたが、要するにコーディネイターとして完成度が高いからと行って、
 キラが戦闘マシーンかというとそうじゃないということさ」
「アムロさん・・・」
「もちろん身体的な側面は、高い調整を受けているのだ。
 訓練さえすれば、俺たちよりも優れたところは出てくるだろう。
 けれど、人間には感情や意志がある。それはコーディネイターといえども変わらない。
 この世界の連中にはそれを考えることを忘れているんだ。
 ラウ・ル・クルーゼなどは、最も悪い形で具体化した姿だろう」

 

キラとフラガ少佐は、各々なりに思うところがあるようだ。
特にフラガ少佐は、少し思い詰めているようにも見える。

 

「アムロ、俺は・・・思うんだ。俺のクソ親父が、実験なんてしなければ
 こんな事にはならなかったんじゃないかって。あいつの肩を持つ気なんて全くないがよ・・・」

 

あのメンデルでの全てに対する激しい憎しみは、もはやフラガ家に対する憎しみを超越している。
もちろん、それだけの絶望を感じたためなのだろう。
しかし、アムロは強い調子でフラガに語りかける。

 

「ムゥ、それは違う。いくら絶望を見せつけられても、
 それを他者に向けることなどあってはならないさ。それじゃエゴだよ」

 

アムロの頭には、世界に立ち向かい続け、可能性を信じたジュドー・アーシタのこと、
あるいは全てを背負い壊れたカミーユ・ビダンのことがあるのだろうか。
あるいは、最終的に絶望し、人類粛正を考えたシャア・アズナブルか。
私にとっては、ハサウェイも・・・。
沈みかけた思考は、ダニエル・タイラントの言葉で引き戻された。

 

「しっかし、スケールがでかい話だ。俺の愛するアイルランドにだって、
 絶望して人類を滅ぼすなんてぶっ飛んだ野郎は出てこないぜ。
 みんなアイルランドを愛しているからな。
 だいたい、クルーゼが何歳だか知らないが、明日明後日死ぬのか?あれで。
 絶望して人類滅ぼす前に、やることはたくさんあるだろ」

 

アイルランド人は声もでかいし、お国自慢がうるさいぞ。
少し感傷的になった自分の気分を害された私は、にわかに給与査定にマイナスの棒を引こうとする。
大尉にとって幸いなことに、アムロがすぐに応じたので、それほど査定のことに
私の思考が向けられることはなかった。

 

「そういう話じゃないさ。問題は奴が勝手に絶望しているにしろ、本気で人類を滅ぼそうとしていることだ。
 そしてその具体的な方策まで用意してあることだ」
「なんてはた迷惑な野郎だ」

 

レーンが、両手を頭の後ろで組み体を伸ばす。各々に乾いた笑いが起こる。
そこにクワトロ大尉が、食事を持ってやってきた。どうやら他の幹部と話し込んでいたようだ。

 

「だが、笑っているわけにも行くまい?手段を持っている人間の暴走ほど危険な物はない」
「経験者が言うと含蓄があるな」

 

アムロの言い様にまたしても笑いが起こる。この数ヶ月の時間は、我々とクワトロ大尉、
いや、シャア・アズナブルとの向き合い方を整えることが出来る様になったと思う。
先の会議では幹部にも指摘されるようになったが、俺やアムロが率先して釘を刺すなり、茶化すことで、
偶像としての赤い彗星を地に落とし、各々の中で感情を消化しているのではないか。

 

「アムロ、だからこそだ。他にもあるかも知れないが、さしあたりクルーゼを排除しない限り、
 我々は今後も面倒ごとに巻き込まれる。
 会議でも言ったがな、パイロットの諸君も留意しておいて欲しい。
 既に聞いていると思うが、あのクルーゼという男の狂気を」

 

シャア・アズナブルの言葉を、彼だからという理由で拒否する者は既にその場にはいなくなっていた。

 
 

※※※

 
 

問題は山積みだ。
私は画面に映るカール・マツバラの報告を聞きながらうんざりする気持ちを押し殺していた。

 

「司令、艦長、民間船にはプラントからの難民、813名を確認しました」
「これで何度目だ・・・」

 

オットー艦長が、帽子の上から頭を掻く。

 

「この2ヶ月で、4000名近い数です。今回の件で5,000名と言うところですか」

 

補給参謀のトムソン少佐が答える。その表情は悩ましげだ。
我々がこの2ヶ月の間、最も悩まされているのは、ロンデニオン共和国にそれなりの信頼を置いて
亡命してくる連中が1週間に1回くらいの割合で来ることである。
スパイの可能性は警戒されているが、現時点では調べようもなく、
さらにはその素性が人道上拒絶しにくいという事情もあった。

 

「プラント出身のハーフ、「サーカス」という施設から逃げてきた両親不明の子どもとその引率者、
 オーブを見限り移住してくる人々、地球上からも逃げてくる奴がいるとは・・・」
「なまじコロニー群が安定しましたから、そちらの移住者を装いこちらに来る一団も出ましたからね・・・」
「連れてきたから見学させろと行ったジャンク屋もいたな」

 

艦橋に苦笑いが広がる。問題なのは、この手の国外離脱を計る者は、
おしなべて若い連中に多いということだ。
プラントでは軍役に付く年齢が低いために、年齢が我々の基準で青年に満たしていなくとも、
工作員の可能性を否定できない。
ただバルトフェルド隊長によると、現時点でそういう気配はないとのことだ。
ちなみに、ラクス一行は大破したエターナルと共にロンデニオンに滞在している。
我らが国は、働かざる者食うべからずの貧乏国である。
当然ながら工業系はさせられないので、ラクス嬢共々農作業をしてもらっている。
ダコスタ君も今回は事情が事情のために不満はないようだ。協力を期待している節はあるが。
但し、バルトフェルド隊長にはプラントの内情に関する問題で意見をもらうときがある。
もちろん、ハーネンフース大使に裏を取ることも忘れない。
加えて我々の介在無しに両者が接触すること遠慮して頂いている。
この辺りはコロニーという閉鎖空間だからこそ、ある程度出来る行為といえよう。
ハムサット少佐が、これまでのリストを端末で確認する。

 

「青年層が多いですね。男女比率も偏りがない。むしろ女性が多いときがある」
「バルトフェルド隊長によると、人口政策が極めて管理的なことに反発を持つ者が少なくないそうだ。
 特に、移民第2世代という自由恋愛で生まれた家庭の子どもに多いらしい」
「うちの国でもそのうち問題になりそうですがね」
「その前に元の世界に戻るという選択を忘れているぞ」

 

またしても苦笑が広がる。

 

「若い連中を含めた家族も多いですね」
「先の事情もあるが、両親がナチュラルの移民者という事情もあるだろう」

 

かつてドイツから脱出したユダヤ人亡命者のようなもので、
財のある者や、新しい生活に踏み出せることにこだわりがない者が、まず流出するものだ。

 

「国家体制が事実上軍事政権だというのに、よく来る気になりますよ」

 

作戦参謀のスミス中尉が皮肉混じりに言う。

 

「プラントに住んでいれば、それほど違和感もないのだろうが、地上からはさすがにな」
「それだけではありません。オーブからの移民は火種になりますな」

 

参謀長が悩ましげに言う。
正直に言えば、オーブの移民者はプラントからの亡命者よりも深刻な問題になり得る危険がある。
オーブの脱出者御一行は、先般ようやく国内沈静化を目指して行動を開始している。
ユウナ・ロマとロンド・ミナが外交交渉に当たり、カガリ・ユラが国民へ呼びかけの演説を行うことで、
オーブの人心を掌握しようとしているようだ。
劉慶連合新総長やランズダウン侯にコートリッジ大統領らは、速やかな戦争終結の手段として
戦力の拡充に努めており、アメノミハシラに集結している戦力は、それなりに魅力的に見えるようだ。
また、オーブ本土の国力が落ちていることも、ここに来て好条件となりつつある。
つまり、もともと大西洋連邦の駐屯は反発をもたれているので、新体制になったことの象徴として、
オーブの主権を回復させて新連合に加えようというわけだ。
しかも、かつてのオーブならば厄介であったが、工業力が著しく低下している現状のオーブでは、
主権を回復させたところで面倒なことにはならないと踏んでいるのであろう。
ましてや、駐屯や統治に対するコストも浮くのだから、それなりに応じても良いのではないかという
雰囲気が醸成されつつある。

 

オーブ側も、ユウナとロンド・ミナがカガリを強い調子で説得し、
中立理念など捨ててでもかまないから、まずは主権回復を目指すという方針を取っている。
ゆえに、実はオーブの主権回復が近いうちに実現しそうなのだ。
しかし、オーブの主権が回復すると、我が国との関係が面倒なことになる。
先の技術全面供与の件や、移民者の扱いは火種になること確実なのだ。

 

「そこは、全権大使殿に頑張ってもらうしかないでしょうな」

 

オットー艦長が言う全権大使とは、作戦主任参謀であったトマス・ウィラー中佐と
情報参謀のグレイス大尉である。
EEF派遣に伴い、中佐は大佐に、大尉は中佐へと昇格させている。
結局作戦部と情報部から人員を拠出することになった。
空席になった作戦主任参謀にはオルトヴァン少佐を中佐に昇格させ、その任に充てている。
参謀長は不安げだ。

 

「クワトロ大尉の言う工作と共に、うまくいけばいいのですが」
「相手は百戦錬磨の外交官だからな。
 だがウィラーも、ジオン出身でありながらここまで軍歴を重ねた経験がある。
 ワンサイド・ゲームにはならないだろうと思いたい」
「むしろ地上とここの時間差が不安ですね」
「全くだな」

 

私は再びシートに体を埋め、思索に入る事にした。