CCA-Seed_427◆ZSVROGNygE氏_34-2

Last-modified: 2012-03-27 (火) 11:27:25
 

会議終了後、部屋を出ると、江天祥大将に呼び止められた。

 

「ブライト司令、少しよろしいか」
「ええ、・・・私ひとりがよろしいか?」
「ふむ・・・。いや、別に構わない」

 

連合軍総参謀長は、一瞬考えたがアムロとクワトロ大尉、トゥースの同行を認めた。
どのみち私のから話が伝わると踏んだのであろう。

 

「参謀長、アムロも呼んできてくれ」
「わかりました」

 

トゥースが、アムロを呼びに行く間、クワトロ大尉が用件を尋ねる。

 

「何か、ここで話せない話なのでしょうか」
「立ち話をするにしても、ここではね。
 我々の会話など、どうしても機密に関わらざるを得ないからな。私の部屋で話したい」

 

その言葉に私は内心で警戒を強める。あの無茶な艦隊編成に関わることだろう。
不審な顔を浮かべてしまったが、幸いアムロが来たので他の連中には見せないですんだ。
アムロは、何人かの軍人と連れ立ってきた。
各々は総参謀長と私に敬礼をした後に、代表して中年の男性を皮切りに自己紹介を始める。

 

「失礼します、ブライト司令でありますね?」
「貴官は?」
「自分は第7艦隊所属機動部隊中隊長モーガン・シュバリエ少佐であります」
「同じく第7艦隊所属、エドワード・ハレルソン大尉です」
「第7艦隊所属ジェーン・ヒューストン中尉です」
「第2艦隊機動部隊中隊長のレナ・イメリア少佐であります」

 

後で聞いたところによれば、いずれもエースパイロットだという。
年長者と言うことでシュバリエ少佐が彼らの自己紹介に続け、連れ立っていた事情を話す。

 

「今度の作戦では、貴艦隊の機動部隊とも連携が求められますのでご挨拶に窺った次第です。
 先ほどはアムロ中佐と有益な議論をさせていただきました」
「そうですか、ブライト・ノアです。よろしく」
「ブライト、シュバリエ少佐は、オールレンジ攻撃ができるそうだ」
「ほう、ではフラガ少佐と知り合いか?」
「いえ、自分は大戦初期は北アフリカで戦車隊を指揮していたので、
 宇宙軍に長くいたフラガ少佐とは轡を並べたことないのです」
「そうですか、ですが機動部隊を指揮するという。柔軟な発想をお持ちのようだ。
 戦闘の際はよろしく頼みます」
「ええ、むかうところ敵なしのロンド・ベルとともに戦える。
 小官はこれだけで生き残っていけると思います」

 

ハレルソン大尉も、明るい表情を見せる。

 

「小官などは、閣下に感謝申し上げたいと常々思っておりました。
 自分の故郷である、南米の待遇が改善されたのは、ロンデニオン共和国が起こした波紋だと思っています」

 

そういわれても、実感が湧かない。
私が返答を考えていると、江天祥大将がやんわりと我々に執務室への移動を促す。

 

「提督、大尉、すまないがいいかな?」

 

代表してモーガン少佐が、顔を引き締め敬礼する。

 

「総参謀長閣下、申し訳ありません」
「いや、話が連合が誇るふたつ名を持つパイロットたちが、ロンデニオンの勇者たちと親交を深める機会は
 大いに喜ばしいのだが、この面子がいつまでも立ち話をしていると何事かといぶかしまれる」

 

皆で苦笑いすると、少佐はアムロとの再会と模擬戦闘の申し込みをして別れていった。

 

※※※

 

参謀長の執務室に通されると、ソファに座るように促される。

 

「わざわざすまなかったね」
「構いません。貴官らとこうして話し合うことも重要でしょう」
「そういっていただくと助かります」

 

総参謀長は、指を鳴らして従卒にコーヒーを持ってこさせる。
ふむ、バルトフェルド君と趣味が合いそうな男のようだ。ずいぶんいい豆を使っている。

 

「会話には、いいコーヒー、いいお茶、いい酒が不可欠ですからな」
「同感です」

 

私の相づちに続けて、クワトロ大尉が切り出す。

 

「総参謀長閣下、我々を呼び出した理由はどのあたりにあるのですかな」

 

総参謀長はコーヒーの味わいを楽しんでいたが、その穏やかな表情のまま大尉をよく観察する。

 

「噂通り、一介の大尉には収まらない男のようだ。ふむ、では本題に入りましょう」

 

江大将はカップをテーブルに置くと、ソファに体を預けて語り出した。

 

「提督も今回の艦隊編成の件は、さぞ不満であると思います」
「不満、そう不満と言えばそういう言い方がいいのでしょうか。と、言うよりも解せません。
 現状の軍首脳部を見ていると、率直に言えば、やっかいごとを押しつけるだけで
 今回の編成になるとは思えません。
 オーブ艦隊というよりもサザーランド少将の部隊を私の指揮下にした理由には、色々おありのようですが」

 

この人物には、このような言い方でも許されるだろう。
よしんばダメであるとして、限られた時間で連合軍首脳の性格を押さえることは必要だ。
参謀長は特に気分を害した様子はない。

 

「まぁ、いささか露骨でしたからね。ただ、実際のところ、嬉しい評価であるのですが、過大評価です。
 実際はやっかいごとは面倒だと言うことが本心ですな。
 まず、オーブ艦隊は、主力艦隊に編入しても面倒だと言うこと。
 次にサザーランド艦隊に関しては、独立艦隊を理由に好き勝手されるよりかは、
 信頼すべき人物の管理下に置くという考えです」

 

その言葉に、アムロが反応する。

 

「自分たちは、他国となるが信頼に値すると言うことでしょうか」
「少なくとも私は、君たちがこの世界に現れてからの行動を評価している。
 その判断はこの会談でより強化されているよ」

 

参謀長の真摯な姿勢に、我々の信頼は強まる。しかし、言うべきことは言わねばならない。

 

「総参謀長、いまひとつと言われた。まだあるのだろうか」
「うん、実のところ最初の問題と関連しているのだが、政府と軍部はブルーコスモスの横やりを警戒している」
「そういわれると?」

 

トゥースが聞き返す。

 

「こうして話し合えば、人間同士において信頼は醸造されよう。あの、サザーランド君であろともね。
 誤解しないで欲しいが、私は彼を高く評価している。彼は軍人としてはきわめて優秀だ。
 それは間違いない。しかし、組織とは別の理屈で動くものだ。特に軍や秘密結社などというものはね」

 

言わんとすることはわかる。個人と組織の論理は、往々にして起こりうる。
誰かにとって愛すべき人が、組織の中では憎まれていることなどよくある話だ。
私とアムロの一年戦争における関係もそのひとつといえる。

 

「現在のところ、アズラエル氏がジブリール氏を押さえているけれど、
 状況などどう変化するかわかったものではない。戦だからね。そこで・・・」

 

総参謀長は一拍おいて切り出した。

 

「万が一、ブルーコスモスが暴走してプラント本国に核兵器を使用しようとした場合、
 背後から攻撃して欲しい」

 

ある程度予想されていたとはいえ、私はソファに身を預けてため息をつく。

 

「このあたりも予想されていたでしょう。あまり驚かれていないようであるし、
 貴軍には反ブルーコスモス派だったハルバートン君もいるからね」
「総参謀長閣下、これは閣下の独断ですか?」
「アムロ中佐、我々は民主国家の軍人だよ。もちろん政府からの指示だ。
 総司令官同席だとさすがに露骨だから、私が話している。
 まぁ、総司令官はあの通り血の気がある方なので、こうした話し合いに向かない。
 そこは役割分担であろう」

 

臆面なく上司を論じる言い様に苦笑させられる。

 

「政府の希望としては、純粋に無傷の産業設備を有するプラントを
 狂気の沙汰で破壊したくないということのようだ。
 元々地球の経済において重要な役割を担っていたからね。
 ただ、政府としては落としどころとして、あそこの経済力を講和の材料にしたいようだ。
 詳細は私も知らない。外交ルートで調べたら、君たちの方が詳しく知ることができるだろう」
「軍事施設ならまだしも、民生施設に手を出す場合には対応しろと言うことでよろしいか」
「そうです」

 

クワトロ大尉が苦笑いしつつ確認する。

 

「なんとも、内輪の事情のようですな」
「だからだ、まかり間違った場合の事だ。そのときはよろしく頼む。
 こちらとしても、はっきり言えば戦時に友軍が同士討ちするのは具合が悪いので、
 君たちに委ねた方が禍根は少ない」
「はっきり言いますな」
「隠すつもりはない。だからだ。
 最初の問いに戻るが、やっかいごとだけで組んだ艦隊編成と言っていいだろう」

 

そこで、こちらの懸案を伝えることにした。

 

「そこでというわけでもありませんが、総司令部が月面にある以上は、
 こちらからも連絡員を残しておきたい。
 つまり、政府及び軍首脳の方針が可能な限り手に入れやすい状況を確保したいのです。
 これはオーブ側からもおそらくでるだろうと思いますが」
「ふむ、わかる話だ」
「それで、こちらのトゥース参謀長を派遣する予定です。許可をいただけないか。
 もちろん、直ちに返答しなくても結構です。艦隊が作戦のために出撃する前に返答していただきたい」
「承知した。決戦時に余計な疑念に時間を割くのは好ましくない。私個人としては前向きだ。
 もっとも、先の会議でも述べたが、ボアズ陥落後は総司令部はボアズに移す予定ではあるので、
 それほど指揮系統に齟齬は起きないと思うがね」

 

参謀長が応答し終わると、その機会を待ったように副官が次の予定を伝えた。

 

「ではそろそろ・・・」
「大変有益な議論でした。おそらく次に直接会うことになるとすれば、作戦終了後、
 ともすれば戦争が終結しているかもしれません。
 ロンデニオン共和国には、かなり料理や喫茶に凝っていると聞きます。何か理由をつけて訪ねたい」
「そのときは喜んで」

 

握手を交わして、我々は参謀長執務室を後にした。

 

「アムロ、どう思う?」
「まぁ、ある意味では想定されていた範疇だろう。
 連合軍の首脳が思ったよりも好意的なことが以外だったが」
「癖のある人物のようだったが、演技のようにも見えなかったからな」

 

クワトロ大尉も今のところは、アムロと同意見のようだ。

 

「参謀長、君には彼と渡り合ってもらうことにあるが、気をつけてくれ」
「地上では、ウィラー中佐が困難な状況にも関わらず外交官をやっているのです。
 それに比べれば、軍人同士です。最善を尽くしましょう」
「頼む、参謀長代行はハルバートン少将に任せよう」
「ロンデニオンを丸裸にするわけにはいきませんし、サラミスを何隻かは残さないといけませんからね。
 遠征用に艦隊を再編して、少将の戦隊を一度ばらす必要もありますからな。
 そのときに浮くスタッフを私と派遣スタッフの代行とすればいいかと思います」

 

私は頭をかき、今後のことを思うと深いため息を吐くしかなかった。

 

※※※

 

ラー・カイラムに戻り、アムロと食堂で休んでいるとキラがやってきた。その表情が暗い。

 

「・・・ブライト艦長」
「どうした、キラ」
「ロンデニオンから連絡があり、父が、亡くなりました」

 

あまりに寝耳に水の話である。アムロも私も言葉が出てこない。
確かに命は取り留めながらも、腕を無くした後も対処が遅かったこともあり、具合が優れなかった。
父親を失った少年に、かける言葉が見つからない。

 

「そうか・・・」
「キラ、大丈夫か」
「・・・。まだ、実感が湧きません。でも、僕は・・・」

 

うつむく少年に、アムロがしばらく無言だったが、暖かい声をかけた。

 

「無理をする必要はない。本当なら、ここで俺たちに何か言う必要もないんだ」

 

そこに、フレイ・アルスターがやってきた。
彼女は看護要員として、メアリー曹長やグラネ少尉の補佐をしている。
本音ではキラのそばにいたいのだ。ラクス・クラインがハンカチ握りしめて悔しがっていたという。
私には想像しにくい光景である。

 

「キラ、ハサン先生とメアリーさんから聞いたわ」
「フレイ・・・」
「キラ、こういう時はしばらく部屋に戻るといい。余計なことは考えるな。迂闊な考えに縛られてしまう。
 ひとりで、いや君を心配するひとがいる。一緒にいるといい」
「アルスター一等兵、任務を解除する。しばらくキラのそばにいてやって欲しい」
「はい」

 

フレイに寄り添われながらも、うつむいたまま自室に戻るキラを眺めつつ、
彼が怨念で動かないか不安になる。その雰囲気を察したのか、アムロが口を開く。

 

「ブライト、心配するな。繊細なのは若いからだ」
「そう、かな」
「そうさ。俺やシャアとも違う道をたどって欲しいと俺も思う。
 どこか昔の俺たちを思い出させるということもある」
「そりゃアークエンジェルが、ホワイトベースを思い出させるからな」
「ここはどこか似た世界だからな。だからといって全てが同じじゃないし、
 同じことを許したら、俺たちに進歩がなさ過ぎる。ニュータイプなんて言葉は2度とクチにできないさ」

 

数ヶ月とはいえ、わずかひとりでこの世界と向き合ってきたアムロには、
私以上にこのパラレルワールドと言って差し支えない世界を見て思うところがあるのだろう。
私自身も、思わないでもなかったことだ。

 

「ブライト、俺にはアスラン・ザラが、
 キラにとってのシャア・アズナブルではないかと思ったときがあるが」

 

キラ・ヤマトにとってアスラン・ザラは、その背景や経歴からでは考えられないほどに
敵という存在ではない。
むしろ敵対意識を抱いた時期は、きわめて少ないといえるだろう。

 

「難しいところだな。かといってクルーゼをシャアといえるかと言えば」
「クルーゼは奴じゃないさ。シャアとでは考え方に違いがありすぎる。
 あの怨念は悪い方向に向かわせている。これはシャアにはない考えだ。
 仮に奴に怨念があるとしたら、人類じゃなくて、俺だけに向けられたものさ」
「そりゃあ」
「奴が嫌気が差したことも本当だが、嫌気が差したことと怨念をぶつけることは違う」
「人の思念、いや怨念か」
「ああ、そこには人が持つオーガニックな力があると思う。悪しきにしろ、な」
「人の思念か・・・」

 

俺とアムロには、サイコフレームの共振という言葉が念頭にあったかもしれない。
あるいは、ア・バオア・クーの時か、それとも・・・。
ニュータイプと呼ばれた少年たちを思い起こす。

 

「俺たちは、できなかったことをやり直されているんじゃないかと思うときがある」
「アムロ・・・」

 

アムロの視線は、手元のカップから部屋の入り口へと向く。
特に誰かが入ってきたわけでもない。外に対して目がいったのだろう。

 

「俺たちはここまで関わってしまったんだ、少なくとも知り合った連中だけでもどうにかしたいさ」
「そうだな。俺たちなりに落とし前はつけないとならんな」

 

私たちは、幻ではない。ここにいるのだから。