CCA-Seed_427◆ZSVROGNygE氏_36-2

Last-modified: 2012-09-12 (水) 04:49:13
 

失いし世界をもつものたち
第36話「ヤキンドゥーエ」(後編)

 
 

艦橋にあがり席に座ると、先ほどの会議には参加せず、艦橋にいたメランが複雑な顔で私に座席を譲る。
ハルバートン少将と同じような心境であろう。
そこへズマ少尉が、ラクス一党からの続報をまとめた書類を回してきた。
その情報はひどく人間くさいものであったが、それだけに信用できるものに感じる。
女のため、か。 恋人を救うために、テルミドールの反動に貢献した男がいた事を思い出す。
ギルバート・デュランダルなる男は、我らにとってのジャン・ランベール・タリアンとなるか。

 

私が報告書に目を落とし、考え込んでいたせいか、メランが咳払いをして確認する。

「νとペーネロペー、出せます。しかし、よろしいのですか?
 誤報であれば、いらぬ問題を引き起こす可能性がありますが」
「この時期にラクス達がこんな誤情報を出す理由はないだろう。
 それに、カナーバ外相なら誤解を解くことは出来るさ。
 そんな狭量な奴なら最初から交渉など妥結しないしな。これまでの行動からもそれは出来るはずだ。
 ラクス達はキャナダイン大将らにも連絡を入れている。向こうからも口添えすれば大事にはならん」
「わかりました」
「よし、出せ!!!」

メインモニターに、カタパルトが映る。

「ガンダム、出るぞ!!」
「レーン・エイム、発進する」

2機のガンダムがカタパルトより打ち出される。
アークエンジェルからも、リゼルとフリーダムが射出された。
そしてリゼルの背中にあるアームに、νとフリーダムが掴まる。

「落とされんなよ、アムロ、キラ!飛ばすぜ!!!」

ペーネロペーとリゼルが、加速していく。あとはモニターからの情報で確認するしかない。

 

「間に合うでしょうか」

ハムサット少佐が不安げに言う。

「間に合わせるんだよ。総旗艦は?」
「電文については了解なれど、情報の真偽について問い合わせています」
「そうだろうな」

参謀長代行のハルバートン少将が苦虫をかみ殺した表情を見せる。
そりゃ突飛が過ぎるといわれたら仕方ない。

「先のジェネシスの件があるからもう少し信用されると思ったのですが・・・」

ハムサット少佐は焦燥と悔しさを混ぜた表情だ。メランがそれに応じる形で答える。

「総旗艦は、先の攻略戦にはいなかったからな。
 むしろ、キャナダイン大将の方が動いてくれているようだが、元帥を動かせてはいないようだ」

そこにクワトロ大尉が、モニター脇に映る。

「ブライト艦長、どうか」
「大尉か、残念ながら。まだ動きはない」

そこに嫌な報告があがる。

「艦長!!妙です!!!ヤキン側からMSが接近中!!!」
「来たな。アムロ達は!?」
「連中に先駆けて、展開は出来ます!!2分猶予があります!!」
「ザフトの機体か?」
「そのようです!!ジンの重装備型が12機!!」

なんとかなるだろうか。それにしても、この後のことをどう考えているのだ、ラウ・ル・クルーゼめ。

 

「艦長!!交渉中の代表団が一時避難を決めたとのことです。
 連合全権はパラメデスに移乗し、ボアズに帰還します。
 なお、交渉については決裂ではなく前進しているという追伸もあります!」

そうなるだろう。これはクルーゼの読み間違えだろうか、
ギルバート・デュランダルがこの行動を取ることを想定しなかったというのか。
確かに人間は万能ではない。何もかも陰謀的に考えるのも危険だ。
だが、事態が進行する中で楽観するのは危険といえよう。

「艦長!!!パラメデスより入電!!」
「よし、回線開け」

画面には、マクファースン元帥とオルバーニ全権が映る。

「ブライト司令、報告の要点は理解した。直ちに援軍に来て欲しい。
 ボアズにも高速移動が可能な艦艇と機動部隊を回すように要請した。むろん、ヤキン側にもな。
 ただ、どうも回線が混乱しているのか、ヤキンからの反応がない。どうにも嫌な感じだ」

しかし、オルバーニ全権は元帥の不安を遮る。

「いいかな元帥?ブライト司令、はじめてお目に掛かる。全権代表のウィレム・オルバーニです。
 元帥は、これがザフト側の計画的な謀略を疑っておられるようだ。
 しかしだ、カナーバ外相は講和には積極的であるし、連合側もここまで妥協点を提示している。
 連中が教条的でもなければ妥協の余地はある。
 もちろんどちらの勢力にも教条主義者というのは確かにいる。
 今回のこれが教条的な連中の行動とすれば、それこそ思い通りにするわけにはいかないでしょう」
「それはそうです。最善を尽くします」

始めて目にするオルバーニは、この和平交渉を本気で妥結したいという思いを感じる。
おそらく連合首脳では一番この講和に真剣であろう。
私は、この温度差が彼の解任に繋がったのではないかという場違いな感想を覚えた。

 

そうこうしているうちに、講和使節の乗る両艦が、戦時としては珍しく連携して迎撃態勢を取った。
グラディス艦長の檄が飛ぶ。

「友軍であるが任務目的が不明である!!コンディション・レッド発令!!!
 フェイスには、迎撃を要請したい!CIWS起動!!友軍機に重ねて行動を照会せよ」

同時にマクファースン元帥も、機動兵器を展開させる。

「MS隊を発進させろ!!愚か者に相応の報いをくれてやれ!!」

護衛のMSは、アガメムノン級だけに配備されている。
元帥はその部隊を二手に分かれてラプラスとパラメデスに展開させた。
ザフト側もそれぞれ相互信頼のためか、双方の護衛をする。
ラプラスから射出されたMSの中にはジャスティスの姿も確認できた。
ザラ隊が警備担当だったのか。パトリック・ザラの思考がどうにも読み切れない。
カナーバ外相の差し金なのか。
いずれにせよ、我々を除けば大戦を通じて連合とザフトが共同で行動する初めての状況が出現した。

 

タリア艦長が重ねて目的を問うが、彼らはそれに応じることはなく、攻撃が開始された。

「ザフトの機体・・・、所属識別コードは消去されているのか。だが、塗装の急な消し方が目立つ。
 残念だけど、こちらの跳ね上がりのようね。フェイスはこれを撃破せよ!!!」

タリア艦長は自分の指揮下の部隊とアスラン・ザラ指揮の部隊に対して、
はっきりと友軍の可能性が高い部隊に攻撃命令を出した。
同乗している、フェイスのユウキ司令からの言質を取ったのかもしれない。
独立行動権を持つ指揮官を会談に派遣して、万が一の事態に備えたのだろう。
そうすると、やはり突発的なものか、クルーゼの独断のどちらかなのだろう。

 

「使節団の乗艦する艦艇は別方向へ散開せよ!!的を絞らせるな!!」

マクファースン元帥は、連中の目的に明かな敵意を想定し、堅固な防空体制を整える。
この手際の早さは、最高司令官に上り詰めた事を示すにふさわしいものであった。

「5機ずつにチームを組み、フォーメーション・ダイヤモンドだ!!!
 実弾主体のザフトに古代ローマの恐ろしさを味合わせよ!!」

護衛のダガー部隊は古代ローマの亀甲体制にスクラムし、重装備の実体弾に対抗しようとする。

「ザフトの護衛部隊に通達!!こちらが防ぐから、敵戦力を排除させ!!
 ザフトのMSは機動力でかき回せる!!」
「アスラン・ザラ了解!!ザラ隊各機は、引き込んだところを側面攻撃を行う!!」
「オーケー!!くだらねぇことする奴らをなぎ払ってやる!!」

ディアッカ・エルスマンの声が回線に入る。彼はアスランの指揮の下にいるようだ。
それにしても、元帥の指揮は、さすがに戦い続けた相手の特徴を考えての戦闘配置である。

「迎撃開始!!!」

展開した部隊は、再三の警告も無視して突撃してくる部隊に対し、ついに砲火を開く。
進撃してきたザフトの不明部隊は、攻撃を避けつつその重火器を艦隊に放った。

大西洋連邦所属艦のパラメデスには光波防御帯が装備されていない。
対空砲と亀甲陣形部隊からのビームで、第1波ミサイルの大半が撃破される。
抜けてきたミサイルにローマ伝統の防御陣形が対応した。

「おっかねぇ!!」

ダガーパイロットの悲鳴が聞こえる。しかし、盾に着弾するが、
一発だけということもあり形が変わるだけで済む。

「よし側面攻撃に掛かれ!!!」

一方で、同時に襲撃されていたラプラスでは、アスラン指揮する部隊が味方への攻撃を開始する。
そこでようやく不明部隊からの回線が開かれ、罵倒のような声が響く。

 

「この売国奴ども!!!連合軍との屈辱的な和平条約など結んでいいのか!!!」
「ふざけるなっ!!!」

 

アスラン・ザラは心の底からの叫びを相手に浴びせる。

「何が売国奴だ!!!お前達は、何様のつもりなんだ!!
 軍人が、議長の意向を無視して和平の道を台無しにしようとしているんだぞ!!
 お前らの方が、よほど国賊じゃないか!!!」

ジャスティスのブーメランのような武器が、突進してくるジンの脚部に命中してその勢いが弱る。
そこを純白のジン・ハイマニューバが撃墜する。

「人殺しをする職業が最低限のルールも守れないでどうする」

搭乗者の冷笑に近い声が耳に入る。アスラン・ザラと白いジンは連携を以て敵を駆逐していく。
こうして元帥の構築した防御陣形は、第1波、第2波と防ぎ、そこにアムロ達が到着する。

 

「よし、間に合った!レーンとムゥはパラメデスへ!!」
「了解!!!」

リゼルとペーネロペーはパラメデス方面へ向かう。

「アスラン!!!」
「キラ!!!」

キラは、マルチロックで広域攻撃を実施して第3波のミサイル群を撃破した。
そうするとすぐさまアスランの側に向かい互いに連携して敵に当たる。
その連携で一機を火球にするとアムロに回線を開く。

「お久し振りです、アムロ中佐!!!」
「ああ、アスラン!残りは何機だ!?」
「こちらに来た連中は6機でしたが、後続が4増えて10機です!!」
「まだ何とかなるか・・・!グラディス艦長!!俺たちロンド・ベルは、
 遊撃部隊として機動兵器撃破に当たる!このままボアズ方向に待避してくれ」
「・・・この状況ではやむを得ないでしょう。アスラン・ザラには後退の支援を!
 本艦は地球軌道水準面に対し下げ舵45をとり、半円を描いてボアズへ向かう!!」
「解りました、自分はアムロ中佐と邀撃します。アレック・ラッド!!直掩は任せます!!」
「了解だ。戦争だからこそ、守らねばならんこともあるという事が理解できぬ、愚か者に裁きを!!」
「ああ!!!」

純白に塗装されたジン・ハイマニューバは、アスランの応答に満足したように右手を挙げ、
部隊を引き連れ後退を始める。
ボアズに向けて動き出すラプラスの背後を守るために展開する亀甲隊形の両脇に移動して、
その弱点をカヴァーするように布陣した。
どうやらこちらは大丈夫だな。

 
 

「賢しいんだよ!!!!」
「やることがせこいぜ全く!」

レーンとムゥはそう叫ぶと、各々のメガ粒子を侵攻してきたジンに浴びせかけて火だるまにする。
それに続いて、後方からロングレンジの攻撃で二人を支援してきたものがいた。
2人は全天球モニターの後方を見やる。

「よっ、レーンにおっさん!!」
「おっさんじゃない!!!」
「ディアッカか!?支援頼む!!」
「オーケー!!任されて!」

ディアッカは気持ちが昂揚しているようだ。直ちにペーネロペーの脇に控えて支援体制に入る。

「よく来てくれた!!」

マクファースン元帥は破顔一笑し、檄を飛ばす。

「これでどうにでもなる!!艦隊は、地球軌道水準面を地球軌道よりに弧を描いてボアズへ向かう!!!  
 あの、常勝無敗のロンド・ベルと我が直営艦隊、そしてザフトの最精鋭がいるのだ!!!
 戦友諸君!!!負ける要素はないぞ!!!!!」
「おおっ!!!」

沸き立つ将兵を尻目に、レーンとムゥ、ディアッカはザフトの機動部隊とともに前進して
艦隊に近づけずに迎撃することにした。
艦砲射撃の支援は長射程の主砲に委ね、さっさと離脱してもらう算段である。

 

アムロ達の到着で、一気に形成がこちらに傾く。かなりのスペックを取り戻したνとペーネロペー、
そしてMA乗りの特技を生かせるリゼルが、不明部隊を圧倒しているのだ。
それだけではない。キラとアスランが、フリーダムとジャスティスという、
本来対であった機体がその性能を如何無く発揮したのだ。

「いくぞキラ!!!」
「やらせない!!!」

2人の広域攻撃に、第3派攻撃を仕掛けた部隊が、大混乱に陥る。
この2人は今次戦争でともに過ごすことがなかったにもかかわらず、このような事が出来るのか。

「そこだっ!!」

アムロが、シールドミサイルとビームライフル、ファンネルと全ての兵器を混乱した部隊にたたきつける。
かろうじてミサイルやビームをよけたとしても、そこには容赦のないファンネルが、
攻撃部隊を赤々とした花火の後に宇宙の闇へ返す。
こうしてプラント講和使節団に向かってきた部隊は、
キラとアスラン、アムロの見事な連携で全機を撃墜した。

もう一方でも、レーンのオールレンジ攻撃を切り口にムゥとディアッカ、
そして彼の指揮下の部隊による一斉射で壊滅した。
私は漸く安堵の気持ちが湧く。そこに、予期せぬ人物からの通信が入る。

 

「ブライト艦長よろしいか?」
「ハサン先生?」

私がいぶかしむ表情を見せると、先生も複雑な表情を見せる。

「実は、シン君のことなんだが」
「シンがどうした」
「先ほどから頭痛がひどくてね、単なる頭痛ならばわざわざ連絡する必要もないのだが」
「違うと?」

私が先を流そうとしたとき、前線に異変が起きた。

 

「ブライト!!!これはまずい!!!!光が・・・!!!また来るぞ!!!」
「アムロ!?どういう・・・まさか!?」

 

レーンも声を上げる。

「艦長!!!これは・・・また来ます!!!」

馬鹿な。講和交渉中なんだぞ。だが、ここで迷いは致命的なことになる。私は即断した。

「全軍に警戒警報!!!ザフトがジェネシスを撃つ可能性有り!!!」
「司令!!!?」

ハルバートン参謀長代行は驚くが、今度は止めることはなかった。

「ラプラスとエターナルに通告!!!何でもいい、回線でも何でも聞き出し、
 連中の正確な標的を調べさせろ!!!」
「はっ!!!」

クワトロ大尉が複雑な顔をする。

「・・・今から間に合うとは思えん!!」

その直後、エターナルは情報収集を続けていたおかげで情報を得ることができた。

「艦長!!!連中の目的は!!!使節団です!!!」
「どっちだ!!!」
「連合総旗艦パラメデスです!!!」
「急いで航路変更を指示しろ!!!」
「了解!!!」

だがその時、オペレーターが悲鳴を上げた。

 

「ジェネシスに発射反応確認!!!!来ます!!!」

 

その報告が出されて数秒も経たないうちに、圧倒的な光が目の前を覆ったのである。

 

※※※

 

まばゆい光は、我らの視界を奪うとともに、そこに存在した物質を消し去っていた。

「パラメデスは?」
「パラメデス・・・反応消失しました。
 マクファースン元帥以下総司令部並びに連合側講和使節は・・・全滅の模様です。
 幸い、別の空間で戦闘していた、ペーネロペーとリゼル並びに、
 ディアッカ指揮下のザフト部隊は健在です・・・」

・・・なんてことだ。艦橋にいる全員が唖然とする。さらなる衝撃が報告される。

「か、艦長!!!!さ、先ほどの砲撃が・・・」
「どうした、報告は動じずにせんか!」

メランが怒鳴りつける。

「申し訳ありません!!・・・先ほどの攻撃が、後詰めの艦隊並び月面に着弾、
 艦隊が壊滅しプトレマイオス基地も消滅した模様!!」
「ぬぁ!?」

全身に身も毛がよだつ。それだけではない、
後ろからナイフで刺されたかのような冷や汗が、ノーマルスーツの体温調整機能を無視して流れ出す。
怒鳴りつけたメランですら、目が点となっている。
では、トゥースはどうなった。彼は後方にいたはずだ。それだけではない。
艦隊の被害状況はどうなのか、補給部隊も壊滅したとなると事態は深刻である。
我々は再編したとはいえ、第一撃で甚大な被害を受けている艦隊なのだ。
どう対処すればいい。あまりの状況に思考の整理が出来ない。

 

「艦長!!!全世界に通信です!!!これは・・・艦長!!!」

映像に映ったのは、最高評議会議長ではなかった。

 

「ラウ・ル・クルーゼ・・・」
「全世界に通達する。私はザラ最高評議会議長の名代、ラウ・ル・クルーゼである!!!!」
「あの男は何を言い出す気だ!!!」

ハルバートン参謀長代行が叫ぶ。

 

「全世界の市民諸君に伝える。和平会談は決裂した。その理由は何か!!!
 地球側のあまりにも悪辣な言いようである!!
 連合が、プラントに対し無条件降伏に等しい行為に出たのだ!!!」

 

何を馬鹿な。一同が完全に唖然とする。事態の整理が追いつかない。

 

「この暴挙に対して我々は、連合政府に思い知らせるために、
 月面プトレマイオス基地への攻撃を敢行した!!!
 諸君、許されざるべきは、この事態を呼び起こした連合政府である!!
 彼ら政府首脳は、ブルーコスモスに支配され彼らとともに我らを根絶やしにするつもりなのである!!!
 これは、かつてのナチスドイツによるユダヤ人、ジプシー虐殺、
 ソヴィエトによる大粛正をも越える悪行なのだ!!!
 我々は戦う!!!プラント市民並びに連合市民達よ!!我らが戦うのは自らの生存を掛けた戦いなのだ!!

 

 それを認めない地球連合政府に対し、我々は最後の勧告を行う!!!
 私の演説終了24時間以内に我らプラントの独立並びに血のヴァレンタイン事件の賠償、
 連合政府によるむこう10年にわたる経済保障を入れられないというのであれば、
 我々は地球連合事務総長選出国である東アジア共和国首都台北に対するジェネシス照射を敢行する!!!
 このことが人類においてさらなる悲劇を及ぼすことはザラ議長閣下も承知されている。
 そうなるかはひとえに連合政府の判断であろう!!!

 

 考えてみて欲しい!!なぜ我々がこうするのかを!!!
 我々がここまでしなければ、誰が我々プラントが本気と受け止めただろうか!!!
 我々が本気であると言うことを連合市民は知るべきである!
 これより半日は、人類が新たなる段階へ進化するための儀式なのである!!!
 我々は生命のゆりかごを壊す事を辞さない覚悟を以てあたる!
 新たなる歴史を紡ぐことが出来るのものは覚悟を以て当たらねばならない!!!
 以上のことをザラ議長はおっしゃっている!!
 全世界の諸君!!!私は軍権を委託されたものとして、
 議長の覚悟を受け止め躊躇することはないだろう!!!
 12時間後に台北および東アジアが深刻な事態に陥ろうとも、
 その苦難を乗り越えた先に理想郷があると信じて邁進するものである!!!」

 

回線が切れたとき、我々はしばらく言葉を発することが出来なかった。
あまりに、そうあまりの展開に理解できる事態ではなかったのだ。

 

※※※

 

クルーゼの宣言より1時間後、ボアズ要塞司令部に集まった幹部は、カナーバ外相に状況の説明を求めた。
ラプラスは離脱しようにも、ダガー隊やアムロ達に押さえられていたのだ。
とはいえ、彼らの意志でもあった。
不満を述べたザフト将兵を説得したのは、アスランだった。
被害状況についてはまだ全く状況整理が出来ていない。
私は参謀長の安否を案じるが、今は目の前の問題に当たることにした。それでも悔しさが募る。
こんな事態になるとは、自分自身にどこか楽観があったのではないか。
大兵力さで優位であることにどこか油断があったのではないか。
私が考え込むのを見て、後ろの席に座っていたアムロがペンで小突いてくる。

「ブライト、外相が説明するぞ」
「あ、ああ」

 

アイリーン・カナーバ外相が、今回の会談に至る経緯を説明した。

「では、パトリック・ザラは講和には前向きではなかったのだな?」
「彼は、一撃講和論者でした。講和そのものはすべきであるが、このままでは敗戦が続いている状況では、
 不利な条件を呑まざるを得ない。だから一定の勝利をした段階で交渉するという立場でした」

外相は苦渋に満ちた表情で、講和会談直前の議長のスタンスを明かす。
機密漏洩であるという自覚があるとはいえ、もはやそういう状況ではないことを外相も理解していた。
23時間後、地球は重大な事態を迎えるのである。

「だからこそ、ボアズでのジェネシスを用いた戦勝は、
 一撃講和における一撃になりうるものだという話になったのです。
 議長はまだ不十分と考えていましたが、和平派と中間派の主張を容れ、呼びかけるという形になりました。
 もちろん、議長は積極的ではありませんでしたが、成功しなくても口実にはなると考えていたようでした。
 しかし、まさか会談中にこんな行為に走るなど、信じられない。
 パトリック・ザラは講和交渉そのものは実施した上での戦闘再開を望んでいたはずです。
 閣議においてもそれは主戦派和平派ともに一致していました」
「そうはいっても現実はどうだ!!!!」
「君が単に政治的に敗北しただけではないのか!!!」

カガリ・ユラとエクスマス提督が激昂する。諸提督も怒りを隠さない。
もっとも本来一番激昂する可能性が高いサザーランド少将は、憤怒のあまり血圧上昇で医務室であったが。

 

「落ち着き給え!!!」

 

序列に基づき総司令官代行となったキャナダイン大将が一喝する。

「ここで外相をなじっても何も建設的な議論は得られん!
 ともかくザフト側の状況は把握する必要がある。
 外相はいま国賊、売国奴と罵られても仕方のない行為をしておられる!!!
 敬意を以て遇せずなんとするか!!少佐!!!本国との通信はまだ繋がらないのか!!!」
「申し訳ありません!!!」

怒鳴りつけられた副官は、蒼白の表情で謝罪する。大将は憮然と腕を組む。
さらにカガリ・ユラやエクスマス提督もその発言を外相にわびた。
カナーバ外相は、総司令官代行に頭を下げた。ユウナ・ロマが毒づく。

「しかし軍部と政府の穏健派が揃って代表だったことが最悪ですね。
 これは事実上の政治的陰謀と受け止められても仕方がありませんよ」

カナーバ外相はますます苦悶の表情を浮かべる。
それを察してレイ・ユウキフェイス総司令が、フォローをする。

「皆さんが言いたいことは解りますが、こちらとしても信じられない気持ちです。
 講和交渉前の議長は、機密に付き具体的内容まではもうしませんが、
 ある程度の妥結点も指示しておりました。それが、こんな・・・」

その脇でアスラン・ザラも蒼白な表情で両手を握りしめている。
その手には爪が肉に深く刺さり、血をにじませていた。

 

少し冷静になったエクスマス提督が、椅子に体を預け天井を見やりながら言う。

「確かに外相に怒りをぶつけても仕方はないし、むしろ貴女が生き残ってよかったと思う。
 仮にあの襲撃で両代表が死亡していたら、目も当てられん。コペルニクスの悲劇の繰り返しだ。
 それにしても状況は最悪だぞ・・・」

本多提督が頭をかきながら言う。

「しかし、こうもずさんな陰謀をパトリック・ザラがするのか?
 彼のこれまでの行動から鑑みればあまりにも短絡的で、何か違和感が残る」
「ですが、実際やらかしたわけですよ?何を考えるにしても、連中のあれに対応しなければならない。
 漸く戦力再編が整った矢先に後詰めと兵站拠点を失ったのだ。士気に影響が及ぶのは避けられない」

第6艦隊司令代行クールズ少将は、危機感を隠さない。
しかしながら、私には本多提督に意見対して同感だった。

 

パトリック・ザラは強硬派の政治家であり、強硬論を唱えるし、情報操作もする。
が、それはそれなりの見通しと展望があって行ってきた。
今度のはどうだろう。息子も含めてプラントの使節団を皆殺しにするつもりだったのだろうか。
ジェネシスにそれほどの自信があるのか。
あるにしても、今度の条件を前回よりも強硬なもので、連合がのめないことはわかりきっているのだ。
ここまで愚かな政治家だったのだろうか。

いや、少なくとも先の発射後は即時返答などという愚かなことはしていない。
どの交渉でもむしろ強硬派をうまく動かして対話をしていた。
そもそもいくら元首とはいえ、閣僚なり本国に全く知らせず軍部のみの判断で
こういう事が出来るものなのか。
私が外相にこのような事が出来るのかを訪ねようとしたとき、地球との通信が回復した。
劉慶主席が画面に映る。

 

「諸君、全権と元帥のことは残念だった。また、カナーバ外相、貴女が無事で何よりです。
 貴女が無事であることで、我々は次の手が打てる」

カナーバ外相が怪訝な表情を見せる。内心では嫌な予感しかしまい。

「まずは結論から言おう。連合政府はこのような要求には応じない。
 もちろん、ジェネシスを唯々諾々と食らうつもりもない。
 そこで諸君には再編成が済み次第、直ちに残存戦力を持ってヤキン・ドゥーエに侵攻し、
 ジェネシスを破壊してもらう。
 間違えないで欲しいが、第一目標がジェネシスだ。ヤキンもザフトもプラント本国も無視しても構わない。
 時間が限られている。ジェネシス撃退までは、何をするかについては
 総司令官キャナダイン大将に一任する。
 本国の参謀本部が作戦を立てる暇など無いだろう。現場が最善と信ずる行為をしてほしい。

 もちろん、こちらの動きにジェネシス照射の可能性は大いにある。
 政府は現在北京への緊急遷都を決定した。それでも念のため台北市民には疎開命令を発している。
 君たちは後顧の憂いを考えることなく任務に当たって欲しい」

 

「しかし、ジェネシス照射を防ぐ手立てがあるのですか?」

キャナダイン大将が確認する。

「現在情報工作員を投入し、攪乱作業を命じた。
 とにかくミラー交換を妨害させる。早ければそろそろ動きもあろう。
 だがそれでも、絶対の自信はない。焼け石に水だろう。
 率直に言って君たち主力部隊が頼りだ。それとカナーバ外相に通達がある」
「なんでしょうか?」
「ランズダウン侯やコートリッジ大統領にも了解を得て、閣議決定されているが、
 交渉は事実上決裂したと理解している。
 君は使節団を引き連れプラント本国へと帰国されたい。護衛も付け無事を約束しよう。
 今度の件で連合政府とザラ政権での和平は完全に断たれたと了解されたい。
 それを報告されるがよかろう。もちろん我が政府は、貴国を絶滅させる気など無い。
 和平会談は応じる用意がある。首脳が替わる、このことがその唯一の条件、とだけ言っておこう」

 

カナーバ外相は苦虫をかみつぶした表情を見せる。
つまり、帰国してクーデターをしてこいと言っているのだ。
ユウキ司令も拳を握りしめる。
おそらく、彼らが行動を起こさねば、プラントはこの世界から消滅するだろう。
しかし、本当に売国奴同然の行為をしなければならない。自業自得とはいえ、気の毒に感じる。
ましてや、彼らは和平派なのだから。
カナーバ外相は沈黙する。実際には2分程度だったのだが、10分以上の長さにも感じられた。

「・・・了解しました。まずは本国議会に報告して、ザラ議長ともよく相談いたします。
 閣下のご配慮には感謝に堪えません」
「講和使節団に対する配慮は当然です。貴国が国際的規範を逸していようとも、です」

劉慶主席は、カナーバ外相を一瞥すると、改めて我々に語りかける。

「諸君、月並みな言葉で申し訳ないが地球圏の運命は君らに委ねる。
 私は君たちに賭けた。命を賭けたのだ。見合う成果を期待している」

 

その言葉とともに通信は終わった。キャナダイン大将は画面からこちらに椅子を回して宣言する。

「あまり時間もないしシンプルにいこう。こうなれば、核兵器を含めてあらゆる手段を以てアレを叩く。
 だが、切り札はあなた方だ。ブライト司令」
「我々ですか?」
「そうだ。貴艦隊のネェル・アーガマに搭載されている、ハイパーメガ粒子砲を
 ローエングリンとともにあそこにたたき込む。
 小惑星にこれほどのダメージを与える兵器だ。人工施設が破壊できないわけはないだろう。
 だが、念を入れて接近して放つ必要がある。全艦隊による肉薄攻撃を仕掛ける」
「しかし、それでは・・・」

不安を覚える一同に、ひとり強い意志を持った声が響く。

「それしかあるまい」

キャナダイン大将の司令部立て直しと、戦力再編のためボアズに残っていた江天祥総参謀長だ。

「我々は混成艦隊で立ち向かわねばならん、もはや精緻な連携を想定して動くのは危険だ。
 用兵家としては、思うところはある。いや、用兵家だからこそ言える、
 この状況ではおおざっぱな戦略目標の下で、戦闘はもはや個々の司令官の戦術判断に任せる方がいい」

各司令官は、それぞれの仕草で一考した後、覚悟を決めて頷く。それを見てキャナダイン大将が続ける。

 

「ロンデニオン艦隊、特にネェルアーガマを失わないことが絶対条件だ。
 それと、陽電子砲装備艦艇は全てロンデニオンと合流させ、全艦隊はそれを囲み防壁となる。
 損害を顧みず、突撃し、規定ポイントに到達した時点でマルチ隊形をとりジェネシスに打ち込む」
「キャナダイン提督それでは!!!」

私が立ち上がりかけると、手を挙げ制止する。

「ブライト司令、我々は別に君たちを守りたいだけでこういう事をしているわけではない。
 むしろ、異世界人に最後の決め手を任せるなど、自分たちの無能を宣言しているようなものだ。
 笑ってくれていい。
 だが、我々はそれでも勝たねばならない。おそらく次の戦で全てが決まる。
 馬鹿馬鹿しい話かもしれんが、どうやら我々に地球の命運が掛かってしまったらしい」

その言いように、エクスマス提督が吹き出す。

「全く馬鹿馬鹿しいですな。アメリカ人でも軍人にこんな役割持たせた映画、今時作らないでしょう」

 

各々に、そして私も苦笑いが浮かび上がり、そのうちに大声で笑い出すものも現れ、
一同それを止めず、釣られて笑い出していく。
まさか戦争の最後の最後で正義のヒーローみたいなことをしないといけないのか。
そんな事実に軍暦を重ねた指揮官達は笑うしかないのだ。
私自身も、アムロも笑うしかない。地球の危機を異世界にまで来て救わないといけないのか。
我々は単に元の世界に帰還したいだけだったのに、どうしてこうなったのだ。
アムロだけではない、クワトロ大尉も、ハルバートン少将も、後ろに座る各艦艦長達も笑っている。
笑うしかないのだ。
ハサ、お前も笑っているのだろうな。
私の脳裏でハサウェイが、久しぶりに笑顔を見せてくれたような気がした。

 

※※※

 

こうしてヤキン攻撃が決まった。各司令は直ちに準備にあたり、決戦に備える。
余談であるが、各艦艦長や私が将兵に伝えるとやはり皆笑った。

 

「ロンド・ベルなんて名乗るべきじゃなかったかもしれませんね。
 やはりロンド・ベルなんて名前だと世界を救いたくなるじゃないですか」

 

誰かが言ったその言葉に将兵一同は爆笑したのだった。皆、各々の形で決戦に向き合おうとしているのだ。

 

将兵への説明を終え艦橋に戻る途中、アムロが話しかけてきた。

「何を考えているにせよ、我々はこれから狂人を相手にしなければならないな」
「クルーゼか?」
「あの演説を見ても、あいつが何かしていると見るべきだろう。
 もしかしたらザラ議長を何らかの形で丸め込んでいる可能性もある」

そこに、クワトロ大尉が口を挟む。

「下手をしたら、監禁されている可能性もある。
 奴が人類抹殺を考えているのであれば、このタイミングで動くのが一番なのだからな」
「そうだな、しかしそれにしてもこの暴走に誰も疑問を持たないのか。私にはそれが奇妙に感じてならんよ」

 

私が艦に戻り、一通りの指示を終え、最後の休息をアムロとすごそうと思い、ふたりで自室に向かうと、
キラ・ヤマトとアスラン・ザラ、そしてラクス・クラインが決意をした表情で待ち構えていた。

 

第36話「ヤキンドゥーエ」end.

 

 

【次回予告】

 

「僕は貴方を許せない」

 

第37話「少年の終わり、青年の始まり」