CCA-Seed_427◆ZSVROGNygE氏_37-1

Last-modified: 2014-05-11 (日) 01:36:19
 

「ブライト司令、ラクスの話を聞いて頂けないでしょうか」

 

キラ・ヤマトの申し出に、私とアムロは訝しげるが、一方でどこかこうなるであろうという気持ちもあった。
アムロも無言で私に頷く。

「わかった、部屋に入り給え」

執務室に入り、私が席に座るとアムロは私の隣に立つ。
キラは促す形で、ラクスとアスランを部屋に案内する。
おそらく、私とアムロだけで聞くべきでもない。用事にかこつけて、クワトロ大尉とメラン、
レーゲンの3人も呼び出す。数分もすると全員が部屋に揃った。

 

「私はあくまで抗うつもりです。たとえ、アスランの父と争うことになっても、
 平和への道に突き進むことに迷いはありません」

 

口から出た言葉は、宣言であった。いつか私が問うたことに対する答えであったのだろう。
彼女は言葉を続ける。

「そして、そのためには血も流します。
 父が望んでいたこと、私に願いを抱くものとも異なる答えかもしれません。
 ですが、平和とは人が人として生きていくことができる世界だと思うのです。
 私は大地を耕し、ものを作り、皆が当然として生きる世界を目指します。
 その未来を勝ち取るために、戦います。少なくとも人間のエゴで人類を滅ぼしてはならないのです」

 

沈黙がその場を支配する。
かつての彼女とは違う考えに、驚きを覚える一方、コメントするべきか考えあぐねている空気だ。
そこで口を開いたのは、アスラン・ザラだった。

「ラクスもキラも、あなた方との交流を経て変わったと思います。それは自分にも当てはまります。
 自分は、プラントのためだと言いながら、母の怨念返しという気持ちがありました。
 しかし、怨念はまた新しい怨念を生み出すことを、カガリ・ユラ・アスハから教えられました。
 ニコルやディアッカを助けたあなた方から、この戦争で怨念ではない形の姿を
 見ることが出来たと思います。ですから、僕が見たその可能性を潰すわけにはいかない。
 だから、俺もラクスやキラと、形は違うかもしれないけれど、未来のために行動するつもりです」

 

かつて狂気にも近い決意で母なる惑星を潰そうとした男が口を開く。

「君たちの望む世界は、かつて君らが望んだ世界よりも、できるかもしれない世界だ。
 だからこそ困難な道だぞ。キラ、君はどう思う?」

キラは、クワトロ大尉やアムロ、私をしっかり見据えて言葉を紡ぐ。

 

「僕は、この戦争でたくさんのことを知り、学びました。
 ブライト司令やアムロさんに言われたように、考えました。
 ラクスが言ったことは、僕もロンデニオンで一緒に考えたことです。
 僕は、人の命を奪った事に対しての責任を果たしたいと思います。
 もちろん、ここに立っている以上は、今後も命を奪うか、奪われる存在です。
 だからこそ、ここに立ち続ける限り、この戦争に関わったものとして、すべきことをしたいと思います。
 そしてアムロさん、ニュータイプが環境に適応していく人間であるなら、
 コーディネイターである僕は、ジョージ・グレンが言うcoordinater(調整する者)ではなく、
 coordinater(調和する者)でありたいと思います。
 それが、父さんが僕を「人間」として育てたことだと思うから」

 

アムロやレーゲン、メラン、レーンといった面々が笑みをこぼす。
私も同じだったかもしれない。クワトロ大尉も穏やかな顔だ。
少年だったと思っていたが、青年と呼んでも差し支えのない、精悍な顔つきだった。

 
 

失いし世界をもつものたち
第37話「少年の終わり青年の始まり」

 
 

暖かい空気が流れる中で、艦橋から連絡が入った。

「艦長、残存補給艦隊とコンタクトが取れました。先任参謀、いえ、参謀長もご無事の模様です」

面々に安堵のため息が漏れる。

「そうか、物資の面でも安心だな」
「技術部が試験的に開発した武装なども無事の模様です」

レーゲンが、報告書に目を通しながら目録の内容を伝える。

「ジェガンの強化装甲や、精度は全く低いレヴェルですが、
 サイコ・フレームのプロトタイプが完成したとのことです」

クワトロ大尉の顔がほころぶ。

「できてくれたか」
「私としては、ジェガンの強化装甲で、一部の機体をスターク・タイプに改装できることがありがたいな。
 フレームについてはどれほど役に立つかわからないが、チェーンのことがある。
 試験もかねて一部パイロットに支給していいだろう。
 フリーダムにも配備する。キラ、お前なら反応速度を上げることにも活用できるだろう」
「わかりました」
「技術部によると、今回の強化装甲をトランスフェイズシフト装甲にすることで、
 より生存性を高めることに成功したとのことです」

私の顔だけでなく、アムロも力強い頷きを見せる。

「よし、ラクス君、アスラン君、君らの決意もわかった。やるのだね?」

ふたりは頷く。

「わかった。今回の作戦は君たちの行動にも掛かっている。頼むぞ」

 

話しに区切りも付き、メランが部屋を退出すると、レーゲンやクワトロ大尉も動き出そうとする。
しかし、キラはラクス・クラインが動かずにいたので肩に手を置いた。
ラクスはその手にそっと自らの手を乗せると、私に向き直った。

 

「ブライト提督、ロンデニオン共和国で知った歌を歌いたいと思うのです。許可を頂けないでしょうか」

 

※※※

 

部屋にはアムロが残る形となった。

「俺はあそこまで若いときに考えていたか疑問だな」
「アムロ?」

アムロは珈琲を傾けながら韜晦しているようだった。

 

「いや、一年戦争の時、俺はあそこまで世界の事なんて考えている余裕はなかったな」
「あれは特殊な状況だったからな。一概に比較はできんさ。・・・だが」

私はマフティー・ナビーユ・エリンを思う。

「ブライト?」
「いや、世界を変えるのに、急ぎすぎてはいけないということかもしれんと思ってな」
「わかる話だ。俺はアクシズでシャアにそれを言った。あのときの奴にどれだけ響いたのかは疑問だが」

アムロが一口ほど珈琲をすする。

 

「人類が半分も失われ、大切なものを次々と失うと急ぎもするかもしれない。
 だからさ、ハサウェイは死人に引っ張られたんだ」
「アムロ・・・」
「贖罪、なんだろ?」
「人はじっくり悩めば、何かを生み出すことが出来る。彼らを見ていると思うんだ。
 一年戦争のおわりに、アレはいつだったかな。アムロ、おまえが言った言葉を思い出す事がある。
 人類は環境に適応する力がある。それを妨害するものには抵抗しなくちゃいけないってな。
 あれがお前なりの反地球連邦であり、反ジオニズムの姿勢なんだろうと思う。
 人と人の繋がりやそこから生み出される社会なんてのは、そういうことなんだろう。
 人が社会を環境に適応させて紡いでいく、
 実はニュータイプとは新しい環境に合わせることが出来た先駆者に過ぎないだろうな。
 俺はハサにそういったことを示せなかった。けれども俺はこうしてこの場に生きている。
 ロンデニオンの元首としては言ってはならないことだが、キラやシン達が、こうして成長してくれる事が
 何より嬉しいと思うんだ。
 失ったものに対する穴埋め、いや、出口のない夢で自己満足な贖罪をしているのかもしれん・・・」

 

アムロが無言で、コーヒーを差し出してきた。気が付いたら私の方が韜晦していたようだ。

「ありがとう。・・・なんだ、アイリッシュ・コーヒーか」
「少しリラックスした方がいい。無理かもしれないが、あまり思い詰めないでくれよ」
「色々あって疲れているのだろう。補給艦との合流まで少し休ませてもらおう。
 睡眠薬をもらったことだしな」

 

アムロと別れ、少し眠った私は、久しぶりに笑うハサウェイの夢を見た。
ただ、心のからの笑顔というより、困った親父を笑う顔だった。