CCA-Seed_427◆ZSVROGNygE氏_37-2

Last-modified: 2014-05-11 (日) 02:52:33
 

失いし世界をもつものたち
第37話「少年の終わり青年の始まり」(中編)

 
 

再編成を終えた艦隊は、ロンデニオン艦隊を中心に紡錘陣形を形成している。
ジェネシスの側面から攻撃する形であるが、ザフト側の防衛線も重厚であった。

 

「やはり戦力を二分して、片方をヤキン攻撃に回すべきかもしれんな」

画面には、キャナダイン大将とエーヴァーハルト大将、カガリ・ユラ・アスハ女王が映る。
陣形を整え、改めてヤキンの戦力配置を見ると、当然ながらジェネシス防衛の布陣が強固であった。
その布陣を見て、キャナダイン大将が作戦の変更を提案した形だ。

「しかし時間的余裕がない。作戦通り、ジェネシス破壊だけに目標を絞るべきではないか」
「セイラン外相が言われることもわかるが、ヤキンにはパトリック・ザラがいる。
 奴を実力で排除するという方法もある」

カガリの脇にいるユウナ・ロマが時間的懸念を示し、
エーヴァーハルト大将はヤキン攻撃の利点を主張する。
ユウナ・ロマは重ねて反論した。

「それはカナーバ外相が、プラント確保してからだと思います」
「それでは遅い」
「セイラン外相、政治的問題よりも軍事的にはどう思われるか」
「軍事的な視点ですな。実は重要な点があると思う。
 時間的な制約は、ミラーだけでも破壊できれば、ある程度軽減できる。
 やはり二分してジェネシス攻撃の主力たるロンデニオン艦隊への負担を回避するべきではないかと思う」
「ならば・・・」
「ですが、我々は形勢不利な再編艦隊です。戦力二分で混乱するより、集中させた方がよいと思う」

その言葉にはさすがに居並ぶ指揮官達も首肯せざるを得なかった。カガリ・ユラが口を開く。

「では、当初の予定通りにしましょう。
 号令はまだ出ていないが、これ以上の命令遅延は混乱の元であると思う」

 

そこに報告があがる。

「艦長!!!サザーランド少将指揮下の部隊が攻撃を開始しました!!!」

他の指揮官達が目を剥く。

「まだ司令部からの命令は出ていないだろう!!」

トゥース参謀長が怒鳴る。

「どうやら、ザフト側の威力偵察部隊と偶発的な衝突をしてしまい、救援のために進軍、
 艦隊がヤキン側に引き込まれつつあります。戦線が拡大中!!!」

好戦的な指揮官を陣形外縁に配置したのが裏目となったか。
苦虫をかみつぶした顔のキャナダイン大将が宣言する。

「やむを得ん。泥沼になる前に戦線をコントロールする!第4艦隊には敵の攻撃を引きつけてもらう!!
 各艦隊進撃を開始せよ、当初予定通りにミラーに対する波状攻撃、次いでジェネシス本隊を破壊する!!
 全艦攻撃開始!!」

キャナダイン大将の号令の元、各艦隊は進撃を開始する。

「よし、我々も進撃を開始しよう。火力を前方に集中させ、有効射程内の敵戦力を排除する!
 機動兵器はまだ出さないでいい。以後の指揮は戦闘ブリッジで行う」

「了解しました」

参謀長が敬礼すると、艦橋要員は階下に移動を開始する。
私がボタンを押すと、椅子がスライドを始め、戦闘ブリッジへ滑り込む。

 

艦隊は進撃は紡錘陣形をとり、ヤキンのジェネシス側面部へと動き出した。
第4艦隊こそ釣られて動き出してしまったが、まずまずの艦隊運動である。

「艦隊旗艦より通信、3分後に全艦による主砲斉射三連、
 敵がひるんだところに、第1次ハイメガ砲およびローエングリン攻撃を行い突入口を開くとのこと」
「よし、オットー艦長並びにラミアス艦長、バジルール艦長に連絡してエネルギー充電開始させ」
「了解!!!」

慌ただしくオペレータが作業をしている中、私はメイン・モニターで艦隊の位置を把握する。
ロンデニオン・オーブ艦隊と連合軍陽電子砲装備艦隊を中心に、その周囲を地球連合艦隊が固める格好だ。
総旗艦は司令部機能の安全も考慮し、中核部隊の艦艇に配した
アークエンジェル級ガブリエルに設定されている。

対してザフト側は、ジェネシス周辺に重厚な楕円形のレンズのような陣形を構築し、
徹底した防御をするつもりだ。
当然中心部の突破は難しい。加えて突入すれば両翼から袋だたきにされるだろう。
また、ジェネシスの方向転換も試み、我が艦隊への攻撃にも使うつもりのようだ。
ただ、それを行えば、地球への使用が遅れるうえに、射線上の空間が空く。
私は、その行為にどこか違和感を覚えた。
だが、レーゲン・ハムサット少佐が沈黙する私に声を掛け、一斉砲撃の時間がその疑念を打ち消す。

 

「時間です」
「ン・・・。よし、撃てっ!!」

各艦から斉射が3度行われ、そのエネルギーの光がザフトの防衛部隊に降り注ぐ。
不運なザフト艦艇は火球となり、その身を宇宙と同化させる。
ザフト軍は機動兵器を差し向け、損害の穴を埋めつつ反撃を始めた。

「光波防御帯、展開せよ!!!」

光波防御帯装備の艦艇が、光のカーテンで自らを包み込み、その身を守る。
この技術は飛躍的に防御力を上昇させたが、欠点もある。
ひとつは、防御帯が艦艇のエンジン出力に出力を左右されること、
もうひとつは装備艦艇に僅かであるが油断を招く。
戦線投入された艦艇のいくつかは、引き時を見誤った艦艇もいたのである。
コンスタンティノープルの城壁を過信してはならないのだ。

 

キャナダイン大将の号令が飛ぶ。

「第1次ハイメガ・ローエングリン攻撃を開始する。全艦発射ぁ!!」
「ハイパーメガ粒子砲、発射!!!」
「ローエングリン、てっーい!!」

ネェル・アーガマの巨砲を中心に、先の艦砲射撃よりも遙かに強力な光が渦巻きとなって
ザフトの防衛陣に叩き付けられた。
防御陣形には大穴が空けられ、第一目標であるジェネシスに装填されつつあったミラーを
ひとつ消し飛ばしたのである。

艦橋が明るくなる。私自身も口元が緩んだ。
これで時間稼ぎが出来る。総司令官キャナダイン大将の号令が飛ぶ。

「第4艦隊は、そのまま敵の戦力を引きつけろ!!第6、第7艦隊は急進して突破口に突入せよ!!
 あけた穴を埋めさせるな!!!」

両艦隊は急速に進軍し、ザフトの防御陣形の穴に突き進む。

「機動部隊出撃!!!」
「ザフトの迎撃部隊を排除せよ!!友軍の道をあけるのだ!!!」

クールズ少将が第6艦隊代理旗艦であるアガメムノン級ミュティレネから、
ボース少将が第7艦隊代理旗艦のアガメムノン級エリュトライより指示を出す。

「ロンド・ベルの連中だけが機動兵器乗りと思われたくなければ、ザフトに一泡吹かすぞ!!!
 当たり前の戦果を出せ!!」

第7艦隊の機動部隊のモーガン・シュバリエ中佐が檄を飛ばす。
彼は先の戦力再編で昇進し、艦隊の機動部隊を統括している。
そして自らのその機体、ガンバレル・ダガーを駆り旗下の部隊を振り向けた。
対してザフト側は、なんとしても防御陣を再構築させるために、艦隊に襲いかかる。
突入部隊の先頭集団に容赦ない攻撃が降りかかる。

 

「突破されたら終わりだぞ!!!なんとしても防ぐ!!」
「機動兵器で進路を阻害し、艦隊は急速移動して防壁を形成せよ!!」

ハイネ・ヴェステンフルスとジョン・ウィラードが全面に立ちはだかるよう陣形を立て直す。
どうやらザフト側は先のボアズ戦を踏まえて指揮系統を整えたようだ。
空間は徐々に埋められていくが、防御陣には確実にくさびは打ち込まれる。
機動部隊が衝突し、各地で火球が生じた。そこにキャナダイン大将は第二次攻撃を指示する。

「第二次ハイメガ・ローエングリン一斉射撃!!!ミラーを破壊しつつ突破口を確保せよ!」

艦隊は予定通りに再びエネルギーの奔流をミラーに叩き付ける。
射線上のザフト軍は再び光に呑まれていき、その先のミラーが破壊された。

「よし、大分時間は稼げたはずだ、次の攻撃ポイントへ進撃せよ!!第6と第7は主力の盾となれ!!!」

しかし、艦隊が進撃すればするほど、ザフト側は包囲戦術を実行し始める。
我々が1点突破を計る以上、左右および後方から囲い込む事は妥当といえよう。
最左翼にいたイザーク・ジュールは後背から第6艦隊に襲いかかる。

「EEF第1艦隊は、後方を防衛せよ!!」

エーヴァーハルト大将は第二次攻撃を決行したポイントにて、艦隊を主力から分離し、
反転して後背への備えを行う。
こちらは損耗覚悟の突撃とはいえ、包囲攻撃により主力が打ち減らされる事だけは避けなければならない。
そこで損害も軽微で統率も取れているEEF艦隊が背後を守る形で布陣する。

もともとジェネシス攻撃を目的にした突撃なのだ。
要は直接攻撃部隊を被害少なく予定ポイントに突撃させればいい。
しかし、そうなると最初の違和感が再びもたげてくる。
私が画面を眺めていると、メランが声を掛けてきた。

 

「司令、何か?」

さすがに長年付き合う部下である。表情から何かを察したようだ。私は素直な疑問を口にする。

「パトリック・ザラが、平静を失っていることはクルーゼを見ればわかる。
 ならばジェネシスの能力を考えれば、今からでも台北か他の主要都市を直撃すればいい話だ。
 なぜそれをしない?」
「先ずは、我々の方を脅威と見たのでは?ブルーコスモスもいますし、
 プラントへの直接攻撃を報復としてされたらかなわないというところではないしょうか」
「それにしても、場当たり的だ。何らかの意図があるとすると、クルーゼだろうが・・・」

私は手元のコンソールを操作して、MSデッキのアムロとアークエンジェルのクワトロ大尉を呼び出した。

「なんだ、ブライト」
「何か?」
「アムロ、クワトロ大尉、もしクルーゼが世界に対して憎しみで戦っているとして、
 このタイミングをどう利用すると思う?」

ふたりは思うところがそれぞれあったらしく、しばし考えたあとに各々口を開く。

「確実にジェネシスを利用するだろうな。
 だがパトリック・ザラも人類滅亡を望んでいないだろう、なら・・・」
「奴ならば、既に議長を排除しているかもしれん。
 クルーゼの真意を把握しているかはさておき、奴の支持者は少なからずいるだろう。
 適当に理由を付けて監禁をしているかもしれないな」
「この状況で、ですか?」

メランとレーゲンが訝しむが、私も、この一連の行動で議長が前面に出ないことに違和感を覚えていた。
仮にパトリック・ザラが拘束状況にあるとして、ザフトはそれに気付かないものなのか。
現段階ではまるで根拠がないし、具体的な対策があるわけでもない。
すでに戦端が開いた現状で、先のジェネシスの時のように、ニュータイプの勘に近い推測で
方針を決めるわけにはいかないだろう。ジェネシスは依然として危険なのだ。
「ブライト、シャアの言うことも一理ある。
 ア・バオア・クーの時に、キシリアがギレンを排除したことがあっただろう。
 混乱した戦場では主導権を握りやすいかもしれない」

アムロの指摘には、十二分に同意できる。しかし、そこを突くことは実際に出来るのだろうか。

 

「艦長!!!第4艦隊の損耗率が4割を超えました!!このままでは!!」

画面に目を戻すと、最初に攻撃を受け持った第4艦隊はザフトの右翼部隊に囲まれ、袋だたきにされていた。
艦隊はすでに壊滅しつつある。
だが、サザーランド少将は自らの役割を完璧に理解し、救援を求めてこない。
そればかりかこちらの包囲攻撃を試みる部隊を遮り行動を妨害する。

「全てをなぎ払え!!!我々の行動が主力を救うのだ!!!
 核の使用も許可する!!!そうすれば連中はこちらに殺到するぞ!!」

サザーランド少将は、我が意を得たりという声で、指揮下の部隊に核攻撃を下命した。
すると明らかに第4艦隊の攻撃は強力になり、我々もすぐさま状況を理解する。

「馬鹿なっ、止めさせろ!!」

カガリ・ユラが叫ぶ。私も江天祥大将との約束を思い出し緊張する。
しかし、この状況は暴走といえないし、いまは自分の指揮下ではない。
どうすべきか。キャナダイン大将は決断した。

「構わん!!!どのみち第4艦隊に救援は出せない。
 核攻撃をすれば、威力云々ではなく、むこうに攻撃が集中する、その間に進撃すればいい。
 少将に連絡、第4艦隊の果たした義務を地球連合軍は忘れることはない、そう伝えよ!」

サザーランド少将は、満たされた表情だった。
ブルーコスモスとしての思いと軍人としての義務が混ざり合ったのだろう。

「おおっ!!我らの行動が勝利に繋がるぞ!!
 残存機動部隊並びに核兵器未保有艦艇は核兵器で作った血路より、主力に合流せよ!!
 艦隊だけで十分対応できる!!!」

第4艦隊の残存戦力で核兵器を装備する部隊は一斉に核攻撃を開始した。
最初の攻撃で、殺到したザフト機動部隊が数十機の単位で消滅する。
機動部隊のうち、サザーランドの命令を無視して直掩に残る部隊もいたが、次々に脱出していった。
戦力の必要性は各々が理解しているのだ。
右翼ザフト部隊は、核攻撃の混乱を持ち直すと、第4艦隊へ憎しみに駆られるように襲いかかった。
包囲下に残る第4艦隊は、1隻、また1隻と打ち減らされいく。
そして、ついに旗艦ワシントンに直撃した。

 

「青き清浄なる世界のために!!」

 

旗艦ワシントンは、さらに数発被弾しながら核攻撃を敢行し、周辺のザフト軍を道連れに撃沈した。
残存戦力は、友軍と合流すべく核兵器で血路を開こうと試みるも、
突破できるだけの力は残されていなかった。
ここにサザーランド少将指揮下の連合第4艦隊は全滅したのである。
ザフト右翼部隊はその戦力の3割と引き替えにすることになった。