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Last-modified: 2011-02-23 (水) 20:20:42
 

~旧ドイツ首都・ベルリン

 

辺り一面が一本の草もない焦土と化したベルリンに、
ZAFTのみならず周囲の無事だった地域・街から、救援物資や、
ボランティアで救難活動に参加する人々が集まってきていた。
よくよく見ると、ZAFT軍人と地域の大人達が、
MSを駆使し協力して瓦礫を持ち上げ、中にいたはずの人の名を呼び、
共に協力して活動に当たる姿は、後にあるべき時代の姿を現しているように見える。
わが子の名を叫びながら、瓦礫に抱きつき離れようとしない母親。
自分を放り出し瓦礫に潰された父の血を、呆然と見つめる少年。
冷たくなり動かない弟を抱き、死んだことを受け入れず話しかけ続ける幼い姉。
彼だけ遠出していたのだろう……、家族全員の名を叫びながらフラフラと歩き回る青年。
二機の怪物によって焼き尽くされ、破壊の大盤振る舞いが行われたかつての大都市は、
悲惨という言葉すら当てはめられないほどの状況になっていた。
その惨状の中、焼け野原になったかつての大公園の真ん中にミネルバは巨体を休めている。
ミネルバのハンガーは先ほどの戦闘で負ったMSの修復でてんやわんや。
また戦場で散乱した味方の残骸が、ジャンク屋のハイエナ共に回収される前に回収すべく、
ミネルバに積載されていたトラックも何台か出ては戻ったりしており、外とあまり喧噪は変わっていない。
アスラン・ザラ、レイ・ザ・バレルらミネルバのパイロット達は、
復旧作業の合間を縫って、ベルリンのある一画へ足を運んでいた。
連合のMA‘デストロイ’が自爆した跡が残る、クレーターの中と、
アスランの友人であり、短い間であれ言葉を交わした青年、
キラ・ヤマトがアスランとシンを身を挺して守った箇所に。
その二箇所に土を持って墓所とし、木材で組んだ簡単な十字架を立てた。
ここに入るべき遺体は、もう残っていない。
墓前には、残っていたフリーダムとデストロイの装甲の欠片と、一人一人が一本ずつ選んできた、
イチョウ・紫のオダマキ・オミナエシ・スノーフレーク・キンセンカ等の花を置く。
鎮魂・勝利への決意・約束を守る・穢れ無き心・別れの悲しみ。
それぞれが皆の心の中にある彼、彼女への思いや誓いの全てが込められている。
ステラ・ルーシェの墓へはレイが、キラの墓にはアスランが代表として花を添え、
それを最後に二人は泣くことはなかった。
「戻りましょう……」
キラの墓前で立ち上がったアスランが隊長、シャア・アズナブルに言う。
言葉にはかつての頼りなげな部分が無く、
父パトリックのように言葉に重みが加わって、迫力が増した。
親友の死によって、彼の中で何かが確実に変わっていた。
「ミネルバはそろそろ、ベルリンでの役目を終えます。
 ジブラルタルへの帰投命令が出るまでは時間の問題でしょう」
アスランの予想は、当たった。ミネルバへ彼らが到着し数十分で、
トラックらがディン、バビの残骸を回収し帰艦。
連絡のとぎれたミネルバへジブラルタルから、
直接命令書を携えたディンが着艦したのは約二時間後のことであった。
スティーブンズを初めとする地上部隊がそのまま、
ベルリン駐留軍として復興作業に当たる事となり、
ミネルバは巨体を浮かせて、船首を南西へと向けた。

 

そして、ミネルバがフランス南部アキテーヌ地域圏へ差し掛かり、
ピレネー山脈を望む中、ミネルバのブリッジで、
「艦長、東アジア共和国が全世界へ向けて声明を!」
メイリン・ホークが驚きに目を見開いて、艦長タリア・グラディスへ報告する。
ブリッジのクルーは驚愕し彼女を振り返り、
タリアは彼女にそれを艦内モニター全てに映すよう命じた。
メイリンが回線を艦内大型モニターに接続し、
レクルームやハンガー、ロッカールーム、個室のモニタ全てに、
東アジアの紋章をバックに、今どきの政治家と言うより、
古の覇者とも称すべき威圧感を放つ、黒髪の男が立つ。
『この放送をご覧の、世界に住まう方々全てに申し上げたい。
 私は、東アジア共和国大統領、ツァオ・フェンであります』
(やっと、密林から猛虎が出てきたか)
ジブラルタルの執務室にいる男や、太平洋の島国の男女。
宇宙の要塞でモニタを眺める二人の男女が、奇妙なことに考えることが一致していた。
『地球連合各国と、プラントとの戦闘状態が解決せぬまま、
 不躾な声明をお送りすることをお許し願いたい。
 各国政府による情報統制により、今だ知らぬ方々がいると承知の上で語りたいのです』
そして、モニタに映し出されたのは、‘デストロイ’であった。
ミネルバクルー、特にパイロット達の息が、少しの間止まる。
ベルリンの映像では、なかった。
ワルシャワとプラハの伝統ある町並みが、
デストロイの手で焼き尽くされていく映像が流される。
『昨日、欧州東側から欧州中央部にかけ、
‘大西洋連邦’の新型巨大兵器が侵攻したことは、皆重々承知の事と思います。
 宣戦布告や降伏勧告も無く、あっても受け付けず、はねつけ、
 各都市を軍人のみならず、民衆ごと焼き尽くしていきました』
ワルシャワやプラハで今なお続く救助活動と、泣きわめく人々の映像、
そして、ぼかした上で凄惨な死体の映る現場等を次々と映していく。
『この巨大兵器はベルリンにまで食指を伸ばしたとの事ですが、
 聡明なるギルバート・デュランダル議長らの指示の下、
 勇敢なZAFT軍の精鋭達がこれを撃破したとの情報が入っています』
ここに至って、レクルームにいたシャアとハイネは気づいた。
クィン・マンサのバックにいるであろうラクス・クラインが、
なぜああも大量のミノフスキー粒子をばらまいたのか。
ミノフスキー粒子の影響下ではデジタル式のカメラの撮影に影響が出て、
デジカメだと思えないくらい写りが悪い時がある。
恐らく、クィン・マンサを撮影したであろう電子機器には、十中八九悪い影響が出ているはず。
アンダーグラウンドでフィルムやビデオカメラの映像が出回る頃には事態は進展しきっているはずだ。
そして、民衆が次第に冷静になりつつある時に、
“ZAFTでも連合でもない別の勢力が、「悪魔の兵器」を破壊した”
という認識に切り替わるように。
呆然となった二人を余所に、モニタに映るツァオは続けた。
『今回の惨劇を起こしたのは地球の国家であるはずの大西洋連邦であり、
 被害を被ったのは同じ地球の人間であります。
 この時大西洋連邦は何と言ったか、皆さんはご存じか?
‘ZAFTの高圧的支配からの地域の開放’と宣ったのです!』
いつ、彼らが高圧的にヨーロッパの民衆に接した?
開放するにせよ、もっと別の方法だってあったはずでは?
そう画面の向こうで投げかけるツァオの言葉に、
周囲のクルー達がどんどん引き込まれて行く。
シャア、ハイネ、アスラン達あの場にいたパイロットだけが、
何とか“ツァオの領域”に踏み込まず、一歩外に立っていられた。
『ZAFTの軍人達が開戦から今まで何をしてきたかを、良く思い出して頂きたい。
 我々も無論、その中に入っているのでありましょうが、
 連合国からの分離・自治独立を目指す地域や国、無意味な戦いから手を引いて、
 平和に暮らしたい人々に、彼らはずっと手をさしのべ続けてきた。
 一部のコーディネイターによって引き起こされた、
 ブレイク・ザ・ワールドで悪名を着せられながらも!』
次に映ったのは、主に東アジアとオーブのメディアが撮影した映像である。
連合の悪行を罵り、ZAFTを賞賛する内容が殆どであった。
画面がツァオに戻ったとき、彼は顔を俯かせ、
演説台に顔を下げ身体を震わせていた。まるで、怒りに震えているかのように。
『我々は、かの災害の被害が少ないことを良いことに、
 ZAFTとの戦闘へも参加せず、傍観を決め込んで参りました。
 しかし私はここに至って、コレは罪以外の何者でもないと、確信したのであります!
 我々は、傍観し続けた我々自身を許さない!
 大西洋の暴虐を止めようともしなかった、第二の強国ユーラシア連邦を許さない!
 そして、平和を求める同胞に『裏切り者』のレッテルを貼り付けた、大西洋連邦を、決して許しはしない!
 私は、この場に置いて『世界安全保障条約』を破棄し、
 大西洋連邦並びにユーラシア連邦へ、宣戦布告することをここに宣言します!』
メディアによるフラッシュの嵐の中、ツァオ・フェンが壇上から降り、
東アジア共和国の放送は終わりを告げた。ミネルバ艦内は、
船の後方のエンジンの音がハッキリと壁を通して聞こえるほどに、
皆が凍り付き、語る言葉を失っていた。
地球連合内において、第三の強国にして東洋最大最強の国家が、
公然と地球連合第一と第二の国家に牙をむいたのである。
これにオーブが賛同していて、水面下で事がすでに起きているなどと、
この時は誰も想像していなかった。

 
 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY IF
~Revival of Red Comet~
第24話

 
 

~大西洋連邦・旧ハワイ州・オアフ島

 

真珠湾。旧世紀、日本軍によって奇襲攻撃を受けた事で知られるこの地は、
現在もなお、大西洋連邦軍・太平洋艦隊の駐屯地として活用されている。
そして今また、一本のビームによって、
かつての真珠湾攻撃を彷彿とさせる光景が繰り広げられようとしていた。
以前と違うのは、そこにMSの姿があることと、
攻めてきたのが日本人に限っていないという所であろうか。
「くそ、くそ、くそ! 何なんだ、何なんだよ、あれはぁ!?」
基地防衛隊のストライク装備のダガーLが、岩陰に隠れ、
海岸線に横たわっている鉄くずへと目をやった。
それは先程まで共に、敵の来るはずが無い暇な海岸線警備の任にあったダガーの残骸だった。
海中から発射された一本のビームが、その胴体を焼き尽くし一つの命を易々と奪ったのである。
ダガーのパイロットは、恐怖に震えた。
こんな僻地で戦略的意味合いがもう無くなっているはずの島に、何故敵が来る?
なんで、基地のソナーで感知できなかった!?
入り乱れる思考の中で、彼は必死になって海の中へと目をこらす。
太陽の光のせいでよく見えない。彼は一歩だけ、岩場から足を踏み出し、
……彼のダガーを、背後から大きなクローが貫いていた。

 

これは、ツァオの宣戦布告からわずか5秒後の出来事である。

 

真珠湾全体が、サイレンのけたたましい音に包まれ、
ハンガーから次々とウィンダムとダガーが出撃していく。
彼らにストライカーを装備している暇は無く、
早朝訓練に出ていた部隊しか装備していないという有様であった。
彼らにとって不幸だったのは、訓練の行われている地点が、
すでに敵性アンノウンに襲われているという点だ。
「くそ、あり得ねぇ、なんて早さだ! あんな、寸胴型の癖に……」
ウィンダムのパイロットが、アンノウン達の常識はずれの機動性に圧倒され、一歩一歩後ずさる。
アグニの砲塔からくり出されるビームの奔流が、悉くかわされる。
それも、ZAFT系水陸MSの特徴である動きの鈍さなど微塵もなく、
全身のスラスターで高い機動性を発揮しながら、
クローと、ミサイルと、腕部ビーム砲で次々と仲間を屠ってゆく。
ソード装備のダガーが、腕の長いタイプに斬りかかった。
シュベルトゲベールと呼称される対艦用兵装が、アンノウンを切り裂かんとしたが、
実体剣部を腕ではじき、胴をクローで貫く。
そして、とうとうウィンダムの後ろに音もなくグレーの水陸MSが姿を見せる。
アッシュとグーンを足し、よりマッシブにすればこうなるだろうか?
そうおもわせる外観を持つ其奴が、腕部を背に押し当て、ビームを発射した。

 

※※※※※※※

 

ツァオの宣言から一時間後。
速度を上げたミネルバがジブラルタル基地のドックに入ったとき、
基地内モニタで続いていたニュースが、速報を流し始めた。
プラントでは知られたキャスターは、渡された一枚の紙に目を通し、
驚愕に目を見開いて、しばらくの間声を出せずにいたが、
『…………!? し、失礼いたしました。
 た、ただいま入った情報に寄りますと。
 ハワイの大西洋連邦軍・太平洋艦隊基地が、
 東アジア・オーブ連合軍によって陥落したとの事です。繰り返します……』
キャスターが全てを言い終える前に、ジブラルタル基地はどよめきに包まれた。
ここまで早く、言ったことの斜め上を行くとはと、皆が驚きを隠せない。
そんな中で、手に持っていた飲み物の缶を取り落とした青年が、一人いた。
シン・アスカである。
彼の後ろにいたアスランも、取り落としはしなかったものの、眼はかっと見開いていた。
二人が反応したのは他でもなく、たった一つの単語。
「今、『オーブ』って……?」
「ああ、確かに言った。
 オーブはすでに東アジアと結託していたか……」
「何で……! 何でアンタはそう落ち着いていられるんだ!」
アスランが思いの外冷静に言い切ったので、
シンは頭に血が上り、彼の胸倉を掴み挙げていた。
シンの異常に気づいたルナマリアとレイが止めに入り、ノエミがアスランを引きはなす。
「オーブが、また外に仕掛けたって事じゃないか!
 ニュースじゃ、アスハに非難の声が挙がってすらいないって」
「そういうことなら、そういうことだ、シン。
 オーブの国民も大西洋連邦に反感はあったろうし、
 より強い国として世界に名乗り出るためと納得した上で、決めたんだろう」
アスランも内心、カガリとユウナの二人が、
ギリギリの路線で梶を切っていることに危機感は感じている。
しかし、ツァオ・フェンの一件によって、
大西洋連邦とユーラシア連邦の影響力が落ち始めているのも事実。
大国から大国へ、オーブという小国が生き残るにはああする他無いのだ。
「オーブの人間達が苦悩の末出した決断で、狼狽える訳にはいかんさ。
 それに俺たちには基地司令部から、
 速やかにとの追伸付きで出頭命令が出ているんだぞ?」
アスランはそう言って、ミネルバ近くに停車していた軍のハンヴィーに飛び乗る。
シンは渋々と彼の隣に座り、レイ、ルナ、ノエミが続く。
ジブラルタル基地は、綺麗な基地であった。
掃除が行き届いているとかそう言うわけではない。
右側にそびえるザ・ロックと、左に見える海と、太陽の光が入り交じり、
人工物の間を走っていることを、しばらくの間忘れさせてくれる。
しかし、時間が経つにつれて……、
「ねぇ、基地司令部って、中央管制塔の近くだよね?」
「そのはずだが?」
「じゃあ、さっき通り過ぎたあそこは何?」
ノエミが、レイに聞いた。
彼女の言うとおり、基地司令部が置かれているのは、
まさしく彼らが通り過ぎた建物の中であり、
自分たちが全く違う方向、さらに先のハンガーブロックへ向かっている事である。
「間違いはありませんよ。
 司令部は皆さんを12番区へお連れしろと……」
運転手が、不審に思っていたノエミ達に言い、彼らは不思議に思いながらも口をつぐむ。
12番区と言えば、基地内で最も奥にありかつ最も大きなハンガーの集合区域ではないか。
そう思いながら、彼らの乗る車が、厳重な検問の間を通過して行く。

 

……ますます、変だ。

 

何故、軍の中でさらにこうして層を作るように検問を行う必要が?
この先に一体何があると言うのだろうか?

 

その12番区の入り口で、四人の男女がすでに顔を合わせていた。
「あなた自らが紹介されるおつもりですか、議長」
「そう厳しく言わないでくれたまえ、シャア隊長。
 それにハイネも、隊長職から外してしまったとはいえ、
 楽しくやっているようで安心したよ」
「いえ。弟や妹が増えたと思えば、楽しい所ですよミネルバは」
「ねぇ、アスランはぁ?」
シャア、ハイネ、そしてデュランダルとミーア・キャンベルが、
ここへ来るであろう少年達を待っていた。
デュランダルは、シャアがミーアに対し警戒心を抱いていることに、
無視できぬ疑問を感じていたが、それが軽微なものであることに少し安心していた。
ブルルルとエンジンの音が聞こえ、彼らがその方向へと目をやると、
二台のハンヴィーに送られたシン達が、ちょうど降り立つ所であった。
「失礼いたします! アスラン・ザラ以下、ミネルバMSパイロットをお連れいたしました!」
「うむ、ご苦労だった。君は持ち場へ戻り休んでいると良い」
デュランダルは運転してきた兵二名をねぎらい、
「到着早々呼び出して済まないね」
「いえ、お気になさらず。
 不躾ではありますが、ご用件とは?」
サッと横一列に並び敬礼する中、アスランは答える。
ずしりと、デュランダルやミーアの心底にのしかかってくる響きがあり、
デュランダルは、少しの間で彼に何が起こったのか、すこし気になった。
ミーアはと言うと、一段と立派になったアスランに見惚れ、
ポーッとなって彼の顔を見つめている。そして、彼の下に近づいて行く。
ふと、ピリリとした感覚が彼女を襲う。何事かと列を見れば、
それがシン・アスカとレイ・ザ・バレルの二人から発せられていると知った。
二人は、彼女を射殺さんばかりの眼をしており、彼女は訳がわからずオロオロとし始めた。
「……!? ああ、そうだ。
 君たちをここへ呼んだのは他でもない、
『ここ』の中を見てもらおうと思ってね。こっちだ」
ソレを察したデュランダルは、パイロット達を連れてハンガーへと入っていった。
薄暗く広々とした空間の中は、少し肌寒く、
足場を歩く各々の足音が響き渡り、何とも不気味な音色を作り出している。
二列で進む中、ミーアはアスランの腕にべったりとひっつき、
アスランは何故彼女がこうも震えているのかがわからずにいた。
だんだん、暗さに目が慣れてきて、広いハンガーは円形状に作られていて、
取り囲むようにMSが居並んでいることに気づく。
影だけを見ても、従来のMSより一回り意大きく作られていた。
ちょうど真ん中にあたる場所にコンソールがあり、
その前に立ったデュランダルは、大きな赤いスイッチを押し込んだ。
「これは……!」
パッとライトが点いた瞬間、シャアとハイネを除いて、
全員が目の前に広がる光景に度肝を抜かれた。
「「MS? これが…!?」」
シンとレイが同時に声を上げた。
目の前に立っているMS群は、ベルリンで遭遇した緑の怪物のように、
自分たちの知る『MS』というカテゴリに入れるべきかどうか定かでない、そう言う代物だった。
「これらが、今度からミネルバで運用される新しい機体。
 どれもが、従来のMSとは別次元のものとなるだろう」
別次元と言うところに少し含ませた言い方をしたデュランダルは、
「左端から、名称だけ言おう。
 Gタイプは、『デスティニー』と『レジェンド』……シン、レイ。君たちの機体だ」
デュランダルは一機一機指し示しながら説明していく。
デスティニーは、ヴォワチュール・リュミエールと呼ばれる新たな駆動システムを採用し、
ムーバブル・フレームと関節部のコーティングによって、機動性が格段に向上。
戦闘面に於いては、インパルスの特性を引き継いだ後継機とも言える。
レジェンドは、前大戦で猛威を振るった『プロヴィデンス』の正当な後継機であり、
デスティニーと同じ駆動系にコーティングを施し、
ドラグーンのパーツに新機軸のパーツを盛り込んだらしい。
それは後のお楽しみだと、デュランダルは微笑して、ギラ・ドーガへ移る。
「このギラ・ドーガは、ザクやグフの到達点とも言うべきMSだ……。
 これには、ハイネ、ルナマリア、ノエミ君等に乗ってもらう」
出力、機動性、火力、追従性。全てにおいて高い水準でバランスを保つ化け物。
デュランダルはギラ・ドーガをそう称する。
表現に難があるように思えるが、シャアは何も言わず、彼の後ろ姿を見、
右の方に見える赤い機体へもチラリと目をやった。
「さぁ、いよいよとりだ」
彼はそう言って最後の二機、赤い巨体を誇るMSへと一同の目を向けさせる。
(久しぶりだな……)
シャアは、一方の機体を見上げ郷愁に近いものを感じる。
数ヶ月前までコレに乗り、地球を亡ぼそうとしていた。
それが、何年も前のことのように思える。
「デスティニー・レジェンド。そしてこの二機こそ、
 今後のZAFTを牽引するフラッグ・シップとなるだろう。
『サザビー』……そして、『シナンジュ』。シャアとアスランに乗ってもらうものだ」
色のせいだろうか?
最後に議長が挙げた二機のMSの存在感は、
威圧感・存在感を伴ってシン達の眼に入ってくる。
サザビーは従来のMSより一回り大きいデスティニーやギラ・ドーガよりも、
さらに一回り大きい体躯を持ち、威圧感はこの中で最も大きかった。
全身に設けられた小型スラスターと、大型のビームライフル。
肩にあるドラグーンらしき武器と、腹部のジェネレータ直結式のビームカノン。
武装は奇抜なものよりシンプルなものを純粋に強化したものが多いようだ。
シナンジュは、そのサザビーをよりスマート・スタイリッシュに仕立てたような印象がある。
サザビーがオールレンジ攻撃可能なタイプだとして、シナンジュはソレを廃した替わり、
サザビー以上に機動性へ力を割り振っていると見受けられる。
武装も至ってシンプルで、ビームライフル・サーベル・バルカン・シールドの神器が四つ。
そしてシールド裏にはグレネードと、サーベル以上の威力を持ったアックスを搭載。
それらを、呆然となってシン達は眺めており、
横顔を見て満足そうに頷いたデュランダルの後ろに、
事務官が近づいて耳打ちする。
「……うむ、来賓室で会う事にしよう。
 大使にはそこで待っていてもらってくれ、私もすぐに行く。
 各々、機体についての説明は基地の担当員に聞いておいてくれたまえ」
そう言って去るデュランダルを、パイロット達は敬礼し見送っていたが、
半分以上が半ば無意識のうちにそれをやってのけており、
デュランダルが去るのを見るや、各自自分にあてられた機体の下へダッシュしていった。

 

「え!? コクピットなのか、これが!?」

 

シナンジュのコクピットハッチを開いたアスランが、叫ぶ。
シンも、レイも、ルナも、ノエミも、同じようにハッチの前で固まっていた。
中にあるコクピットは、自分たちが知るそれとは大きく異なり、
球状の空間の中に、シートが浮かんでいる。
そう言う印象を与える構造になっていた。
「『全天周囲モニター・リニアシート』と、我々は呼んでます。
 パイロットにかかるGも軽減され、
 戦闘時の状況確認もしやすくなっているはずです」
アスランは、半信半疑で球体の中へ入って行く。
座り心地はともかくとして、想像以上に中は広々としていて、
従来と変わっていないのはスラスター用の足のパネルくらいだろうか。
操縦桿も、レールに固定されていた従来のタイプに手を加え、
手首でもう一段階複雑に動かせるように作られている。
「『アームレイカー』という新設計の操縦桿だそうです。
 気に入らなければそこだけ元の操縦桿に戻せますが?」
「いや、使ってみないことにどうこう言えないよ。どれ……」
試みとして、アスランは整備用の機動スイッチを入れる。
エンジンに灯が入り、ディスプレイ部が下からせり上がる。
真ん中がメインのマルチディスプレイで、
右には、他機の型式番号が映っていることから通信装置だろう。
左がには、壁が映っているところから見るに、後方警戒用のモニターだ。
そして、ただの壁であった周囲のモニターに映像が映し出されて行き……、
「うわぁ……」
アスランは感嘆の声を上げた。右に連綿と居並ぶMS達はおろか、
先程まで自分たちが立っていたキャットウォーク、
見下ろせばMSの足下とメカニックマン達までくっきりと見える。
上を見上げても天井が見えるし、まるで自分が宙に浮いているかのような気分になった。
余韻に浸りながら一度アスランはコクピットから出てみると、
向こうのデスティニーやレジェンド、ギラ・ドーガでも、
彼らが自分と同じ事をやっているのを見て苦笑する。
ここしばらくは皆でシミュレータづけの日々だな……。
そんな事を考えながら、アスランは彼らの所へ向かっていった。

 

だが彼は知らなかった。
最初のシミュレータ訓練で、シャア以外全員が、
全天周囲モニターの『映像酔い』で胃の中身を戻す事になるなどと…………。

 

一方、当のシャアはコクピットの使い心地が依然と変わらないことに安心しつつ、
先程デュランダルが言った『新機軸』という言葉が、
U.C.の技術を指しているのだと察しを付ける。
皆の興奮度合いから見るに、ギラ・ドーガ以外も全天周囲モニター式になっているのだろうし、
関節にはマグネット・コーティングを施し、ムーバブル・フレームを採用しているはず。
気になったのは、デスティニーとレジェンドだ。
……色が最初から付いていたのである。
「君、一つ聞くが、あのデスティニーとレジェンドというMSには、PS装甲を採用していないのだな」
「ええ。装甲材にはチタン系の新しい素材を使っています。
 ギラ・ドーガやこのサザビーほどの硬度はありませんが、軽さならほぼ同等です」
少し前まで、この若い技師は本国でずっとネオ・ジオン系MSの解析に携わっていた人間らしい。
シャアの事もあらかじめ聞いていたそうで、先程から二人の会話は小さめの声で行われている。
そして、彼は、言いにくそうな表情になる。
「どうした?」
「あ、その、ですね。 違うのはそこだけでなく、
 アクシズ追跡時に回収した戦艦、そこで発見したパーツも使っているんです」
嫌な予感しかしない。
今のシャアの心境を一言で現すなら、こうなる。
「サザビーのコクピットブロックに使用されているのと、 全く同じ素材が発見されたのです。
 人の精神波を感知・増幅する装置が、粒子レベルで金属に封じられている奴です。
 それが、相当数出てきまして……」
シャアは一瞬目の前がふらつき、シートに身をもたげ、
おでこに手を当てて、デュランダルの悪戯小僧めいた表情が目に浮かぶようであった。
「それを、双方並びにシナンジュのコクピットブロックに埋め込み、スラスター制御等に回線を繋ぎました。
 結果として、三機の追従性は当初の数値を大幅に上回る結果を叩き出しています。、
 レジェンドのドラグーンシステムも、あのフレームを基準にしたものへと仕様を変更しています」
用は量子通信で行われるはずのドラグーンを、
ファンネルと同じ脳波制御にした上で、通信方法までもそちらに近づけたということか。
そう結論づけたシャアは、ふぅと一息つく。
その『サイコフレーム』はサザビーの予備品だったのだろうか、
レウルーラやムサカ級の格納庫に眠っていた代物が、今になって使われるとは……。
因果めいたものを感じながら、シャアは此方へ向かって走ってくる少年達へと目を向ける。

 

アムロの時のように、サイコフレームが彼らに人の心の光、
人の可能性を見せてくれることを、切に願っていた。

 

※※※※※※※

 

~旧ロシア・ウラジーミル州

 

青年は重い瞼を開け、目の前に広がる白い空間に一瞬戸惑った。
「知らない天井だ……」
病室のようであった。
微かに残る薬品の臭いと、隣の棚におかれた花の香り、
そして、仄かに漂ってくるオレンジの香り。
ゆっくりと身を起こし、まず視界に入ったのは、
自分の寝ていたベッドの皺と、隣にあるもう一台のベッド。
オレンジの香りはそこから漂っているようだった。
それにしても、
「何で僕、こんな所にいるんだっけ?」
全くと言っていいほど、思い出せない。
断片的にではあるが、ヘリオポリスのカレッジ、ストライク、アークエンジェル。
一つ一つのワードが、朧気に出てくるくらいだ。
デュエル、バスター、ブリッツ、イージス。
「……あぁ……あ……」
その段階で、頭の中に鮮明に浮かんでくる映像があった。
《お前がニコルを! ニコルを殺したぁぁ!!》
猛攻を仕掛けてくるイージスと、あの男の声。
そして、傷つくストライクと、イージスの盾が飛ぶシーン。
「…ト、トール……」
大粒の涙がボロボロと頬をしたたり落ちる。
《今まで、守ってくれてありがと》
あの時、宇宙で守れなかった小さな少女も頭に浮かぶ。
ため込んでいたものをはき出すように、青年はむせび泣き、
ベッドの上を苦しみと悲しみのあまりのたうつ。
心の中にどす黒い蛇がとぐろを巻き始めているのを、彼は感じ始めていた。
平穏な学生生活を壊し、戦争に巻き込み、
あの少女の命を奪い、果ては親友の命をも奪われた。
その時に必ずそこにいた、かつて親友と呼んだ男の名を、
グラグラと煮立つ心境の中、彼はひねり出す。
「ア…ス…ラン……ザラぁ!」
青年は思いっきり拳を握りしめ、ベッドを力任せに叩きつける。
鉄製のフレームがひしゃげ、鈍い音が部屋に響き渡った。
すると、その音に反応したのか隣のベッドの住人がうめき声を上げ、彼は其方に目をやった。
一瞬、青年の頭は思考という行為を止めていた。
長く伸びた美しい赤い髪の毛に、忘れようもないその横顔。
「フレ…イ…?」
自分の腕に巻き付いた点滴のチューブを引きちぎり、
彼はベッドから出て、彼女が横たわるベッドに近づく。
「……!? あぁ……」
彼女の顔をのぞき込んだとき、彼は愕然となった。
美しかった彼女の顔の右側は、痛ましい火傷の跡が広がっており、
心なしかその辺りの髪の毛も少し短かった。そして彼はまた思い出す。
今さっき憎しみを込めて名を叫んだ男と共に戦った事。
剣山を背負ったようなMSと、『ラウ・ル・クルーゼ』という忌々しい名前。
彼の手に掛かって、彼女はこのような傷を負うことになってしまった。
青年は、震える手で彼女の顔に手を伸ばし、火傷の跡へ手を触れた。
彼女の頬は温かかった。彼は、ポタポタと彼女の顔に自分の涙が落ちていることに気づき、
慌てて手でソレを拭うと、彼の手を掴む手が現れる。彼女の、手であった。
うっすらと目を開けて、彼の顔をジッと見つめる少女、フレイの顔は、
今まで彼が見たことのない、優しく慈愛に満ちた顔であった。
「キ…ラ…」
「フレイ!」
もう、限界だった。彼は流れる涙を止めようとせず、
彼女の胸に顔を埋め泣き叫び、彼女はそれを拒むことなく、
そっと青年=キラ・ヤマトの頭を抱きしめた。
そんなマジックミラー越しに映る男女の様子を、ジッと観察する人影が三つあった。
「こんなの趣味じゃねぇんだけどな……」
ネオ・ロアノークは思わずそう漏らしていた。
うら若い男女のささやかな幸せを、こうしてのぞき見るのは、
正直野暮な気がしてならない。
「仕方ありませんよ、大佐。
 あの青年に加えた‘調整’がうまくいったのか見なければなりませんし」
「と言うけどよ、お前はどうなんだ、大尉」
研究員の言葉を聞いたネオは、傍らに立つファブリスに向き直る。
彼も、ネオ同様苦い顔をしていた。
「気分良くはないですね。でも仕事ですから」
彼らが何のためにこんな事をしているのかというと、
ベルリンで回収したフリーダムのパイロットが、
元々は大西洋連邦のMSパイロットのコーディネイターだという事が先日判明。
上層部から、この『キラ・ヤマト』と呼ばれる青年を、
‘調整’するようにという命令が下ったのである。
具体的には、ZAFTに対する好意的な感情を全て抹消し、
連合パイロットとしての自覚を持たせただけなのだが。
「一体何やってるんだか、俺たち」
ステラは泣いてるかもなぁ、そう胸の中で呟くと、
ネオとファブリスは見ていられなくなり、部屋を後にした。

 
 

第24話~完~

 
 

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