ムウのメビウス・ゼロはコロニーの残骸の中をエンジンを切り進んでいた。狙いはザフト軍、クルーゼ隊、旗艦ヴェサリウス。
追撃を振り切らなければ、アークエンジェルはおろか、自分の命すら危うい。ヴェサリウスの位置は、大体、判明している。後は、機関部に一撃を与え、アークエンジェルが逃げる時間を稼げればいい。
メビウス・ゼロのレーダーが音をたてる。
――捕まえた!
「うおりゃぁぁー!」
ムウは、メビウス・ゼロのバーニアに火を灯し、最大加速でヴェサリウスに突撃をかける――。
ヴェサリウスからは、雨のように砲弾とビームが降ってくるが、ムウはうまくすり抜け、リニアガンを撃ちまくる。ヴェサリウスの機関部から火が上がる。
「いーよっしゃぁぁー!」
ムウは奇襲がうまくいったのに声を上げ、離脱の為にワイヤーアンカーを発射、ヴェサリウスの外壁に撃ち込み。メビウス・ゼロは振り子のように慣性にまかせ、気体を反転させ、ワイヤーを切り離脱していった。
ヴェサリウスのブリッジに激しい揺れが襲い、警告音が鳴り響いた。
「機関損傷大!艦の推力低下!」
「敵モビルアーマー離脱!」
「撃ち落とせぇぇー!」
「第5ナトリウム壁損傷、火災発生、ダメージコントロール、隔壁閉鎖!」
オペレーターが艦の状況を伝える中、アデスはメビウス・ゼロの撃墜を命じる。
「離脱する!アデス、ガモフに打電!モビルスーツに帰還命令を出せ!」
クルーゼの顔には、今まで、アデスが見た事のないような、怒り表情が現れ、唸るように命令を告げるのだった。
アークエンジェルのブリッジではオペレーターが、ムウの奇襲成功の報を伝えた。それにブリッジのクルー全員が歓声を上げる。
マリューは、「ほっ」と、息を吐くとすぐさま命令の声を出した。
「機を逃さず、前方ナスカ級を討ちます!フラガ大尉に空域離脱を打電!ストライクとνガンダムにも射線上から離れるように言って!」
「ローエングリン、1番2番、斉射用意!」
ナタルは、マリューの命令に、アークエンジェルの最大の武器である"ローエングリン"の発射準備を指示すると、アークエンジェルのカタパルトデッキ下のブロックが開放され、砲身が姿を現した、その時、オペレーターが声を上げた――。
「――ストライク、イージスに捕獲されました!フェイズシフト、ダウン!」
アスランは、苦楽を共にした戦友の機体、ジンの爆発を目の当たりにし、声を上げた。
「ミゲル――!くっ――!」
イージスのコックピットが揺れる。キラはこの機を逃さず、ストライクを掴んでいる、イージスのアームを引き剥がそうとしていた。
「――キラ!」
「アスラン!どういうつもりだ!?」
キラの言葉にアスランは思案し、言葉を繋いだ。
「……このままガモフに連行する」
「ふざけるなっ!僕はザフトの船になんか行かない!」
「お前はコーディネイターだ!僕達の仲間なんだ!」
「違う!僕はザフトなんかじゃ――」
「いい加減にしろ、キラ!このまま来るんだ!でないと僕は、お前を討たなきゃならなくなるんだぞ!」
「……アスラン」
「血のバレンタインで母も死んだ――」
「――アスラン!わかるけど、君達はコロニーを壊して、みんなの帰る家を壊して――戦争をして、そう言って、戦争と関係ない人を殺すの!?」
「――!――うわっ!」
アスランは、一瞬、言葉に詰まった。地球軍のモビルスーツがあったとは言え、ザフト軍がヘリオポリスを襲い、崩壊させたのは事実なのだ――。そう思った時、アスランに激しい揺れが襲った――。
アムロは、ジンが爆発した事で、敵モビルスーツの動きが止まったのを察知すると、空になったビームマシンガンのエネルギーパックを交換し、ストライクを捕らえているイージスに向かって加速をかける。
――あのパイロットは、気づいていない!?
すぐさま、νガンダムをイージスの機体の上に乗せ、ストライクを掴んでいるアームの一本に向かってビームマシンガンを発射する。イージスにアームが爆発し、ストライクがもがくようにイージスから離れた。
「キラ、早く船にもどれ!」
「――あっ、はい!でも――」
「いいから早く戻るんだ!」
「はいっ!」
アムロに言われた通り、キラはストライクはバーニアを吹かし、アークエンジェルへと向かった。ストライクを追うようにザフト側のGATシリーズが動きだすが、νガンダムはストライクを守るように、
動き出した他のGATシリーズを牽制しながら立ちふさがる。
「――残りの弾薬は、残り一つでか」
GATシリーズを見据えながら、アムロはνガンダムの腰の装甲にワイヤーで括りつけたエネルギーパックを確認する。これを使い切れば、残りはビームサーベルと、2秒も撃てば弾がついてしまうバルカンだけだ。
イージスがストライクを追うように動き出すが、ビームマシンガンを数発撃って牽制する。イージスはモビルスーツ形態へと変形し、何とか回避しすると、再度、ストライクを追う。
それを見かねたかのように、バスター、ブリッツがνガンダムの上方からストライクへ、デュエルはνガンダムに向かって動きだす。
「赤いのは、キラを落とす気が無い!?――行かせるか!」
イージスがストライクを落とさないと判断すると、アムロはイージスを無視し、足止めの為に頭上を通り過ぎようとするバスターとブリッツに向けて、ビームマシンガンを凪ぐように連射する。そこへ、デュエルがビームサーベルで切りかかってきた。
「――甘いっ!」
νガンダムは、バスター、ブリッツを正面にするように各部のアポジモーターとバーニアを駆使し、機体を滑らせ、デュエルに足を向けた。
切りかかってきたデュエルに、蹴りを喰らわす形で足場にし、バスター、ブリッツに対して、水平飛行でバーニアを吹かした。
νガンダムの足場にされたデュエルを見て、援護が必要だと判断してニコルがディアッカに通信を入れる。
「ディアッカ、僕はイザークの援護にいきます。逃げたモビルスーツをお願いします!」
「分かった!」
ブリッツはすぐさまνガンダムに方向を向けビームライフルを放ち、バスターはストライクに向かって加速をかけた。
ニコルはνガンダムを狙うが、動きが素早く、ビームが当たらない。しかも、デュエルが接近戦を仕掛けているので、デュエルに当たらないようにしながら撃たなければならず、援護に苦労する。
「イザーク、離れてください!」
「うるさいっ!こいつは俺が倒すと言っているだろう!」
「しかし――」
イザークは、νガンダムにいいようにあしらわれ、苛立ちから声を荒げる。その時、コンソールのモニターにヴェサリウスの被弾と帰還命令が表示される。
キラは、必死にストライクをアークエンジェルに向けバーニアを吹かしていた。アムロの援護で、GATシリーズとは距離がとれていた。
「ストライク!エールストライカーを射出する!早く装備の換装を!」
「――え!?わ、分かりました」
コックピットにナタルの声が響き、慌てるようにキラは返事をした。
「ストライクに近づけさせるな!」
「バジルール少尉、タイミングは任せます」
「了解!艦のコントロール、こちらへ!」
通信の向こう側から、ナタルとマリューのやり取りが聞こえてくる。
「――レーザーデジネーター、オンライン!ストライクとの相対速度合わせ。カタパルトの射出モーメント制御を、エールストライカーのコンピュータに渡せ!」
「――はい!」
ナタルからの指示に返事をし、キラは腹を決める。
――今はやるしかない。
コンソールモニターに進入指示が表示され、キラは、その通りにストライクを動かした。
「カタパルト、射出!」
ナタルの声に後に、アークエンジェルからエールストライカーパックとシールド、ビームライフルが射出された。
νガンダムは、デュエルとブリッツの攻撃を掻い潜り、ストライクを超高インパルス長射程狙撃ライフルで狙撃しようとするバスターに追いすがろうとしていた。
「――っ!イザーク、ニコル、しっかりやれ!」
「うるさい!せめて、あいつを落とすぞ!」
「待ってください!帰還命令が出てるんですよ!?」
ディアッカは、νガンダムを抑え切れていないイザークとニコルに激を飛ばす。その激にイザークは、さらに怒りを表し、νガンダムを睨みつける。
ニコルは、帰還命令を理由に制止しようとするが、イザークとディアッカは攻撃を続けていた。
「――うわっ!モビルアーマー!?」
ブリッツのコックピットを振動が襲った。ムウのメビウス・ゼロが背後からのリニアガンをお見舞いしたのだ。フェイズシフト装甲で守られている為、ブリッツには傷ひとつ付かない。
ブリッツは、メビウス・ゼロを狙うが、ムウは機体を回避行動を取りながら、そのまま戦域を離脱していった。
「――くっ!しつこい!」
ディアッカは、νガンダムから放たれた攻撃を辛くも回避し、再度、ストライクを狙う。マーカーがストライクをロックした瞬間、超高インパルス長射程狙撃ライフルがと左腕が爆発を起こす。
νガンダムが、デュエルとブリッツの攻撃を掻い潜り、狙撃するバスターを狙撃したのだ。
「うっ!――まだだっ!」
ディアッカは爆発を無視し、トリガーを引くと、バスターの220mm径6連装ミサイルポッドから、ストライクに向けミサイルが発射された。
キラは、ストライクからソードストライクの武装を外し、エールストライカーに換装をしようとしていた瞬間、コックピットを警告音が襲う。
「――もう少し!来た!――えっ、ミサイル!?当たる――!」
キラは、バスターから放たれたミサイルに全身の毛穴が開く。
暗い宇宙空間に、ひときは目立つ激しい爆発と閃光が走った――。
「ストライクが――!?」
アムロは爆発に目を見張りながらも、冷静にデュエルとブリッツの相手をしていた。
――キラは生きている、――攻撃、来る!
アムロの直感が、キラの生存と敵の攻撃を告げる。
爆発の中から鮮やかなトリコロールに機体を染めたストライクが飛び出してきた。それを確認すると、ビームマシンガンを手放し、振り向きざまにスペアサーベルを装備し、切りかかってきたデュエルの右腕を切り飛ばし、そのままコックピットを狙う。
「ちっ――、狙撃か!?」
アムロは、いち早く、ブリッツの狙撃を察知し、先ほど手放したビームマシンガンをνガンダムの空いている左手に掴ませると、デュエルから一気に離れ、さっきまでνガンダムがいた箇所をブリッツの放ったビームが通り過ぎていった。
アークエンジェルから花火のような閃光弾が打ち出される。
「――後退信号か!?」
アムロは光を確認すると、νガンダムのバーニアを吹かし、戦域を離脱していった。
再び、アークエンジェルのブリッジにマリューの声が響く。
「ローエングリン、発射!」
マリューの号令と共に、アークエンジェル艦首、カタパルトデッキ下の発射口から陽電子破城砲"ローエングリン"が光の帯をヴェサリウスに向け発射された。
「――熱源接近!方位000、着弾まで3秒!」
「右舷スラスター最大!躱せっ!」
ヴェサリウスのオペレーターが慌てるように声を上げ、クルーゼは、すぐさま大声で命令を出すが、ヴェサリウスは反応が遅く、左舷を光の帯がかすり装甲が焼かれ、激しい揺れが襲う。
「っ!――モビルスーツの帰還はまだか!?後退するぞ!」
クルーゼの怒りの声がヴェサリウスのブリッジに響き渡った。
ストライクはストライクを追ってきたイージスに向かってビームライフルを構えた。イージスはサーベルを構え、ストライクに対峙する。
「――キラ、一緒に来るんだ!」
「アスラン、僕達を追わないで!君と戦いたくないんだ」
「――っ!」
アスランは再び、キラに声をかけた。しかし、キラは拒絶する。キラの「君と戦いたくない」と言う言葉に友と言う希望と、敵と言う絶望がアスランの心の中に沸いてくる。アスランの両目からは涙がこぼれていた。
「俺だって――!」
「ごめん……アスラン」
ストライクはイージスに背を向け、アークエンジェルへと加速していった。
アスランは去っていくストライクをただ見送る事しかできなかった。
「アスラン、帰還命令が出てます。後退しますよ」
「ああ……、分かった……」
ニコルから通信が入り了解すると、アスランは機体を並べ、ヴェサリウスへと向かう。その途中、救難信号を受信した。どうやら、ヘリオポリスの救難ポットから発信されていた。
『――君達はコロニーを壊して、みんなの帰る家を壊して――戦争をして、そう言って、戦争と関係ない人を殺すの!?』
アスランの心にキラの言葉が思い出された。その言葉に自問自答するように言い訳をする。壊したくて壊したわけじゃない。殺したくて殺したわけじゃない――。
「……ニコル、すまない。先に戻っててもらえるか?」
「どうしたんですか?」
「……救難信号をキャッチした」
アスランは、ニコルの問いに答える。
「助けるんですか?救助は来ますよ」
「ヘリオポリスの崩壊は、なんであれ俺達にも原因がある……。絶対に救助が来るとも限らない……」
「アスランは優しすぎますよ……。分かりました、僕も手伝います」
「すまない」
ニコルは、アスランの言い分に納得しながらも、兵士としては優しすぎると思った。でも、その優しさは、人として否定される物ではない。そんなアスランを同僚としても、友人としても好きだった。
アスランは、ニコルに礼を言うと機体を救命ポットへと向け、推進部の壊れた救命ポットを拾い、ヴェサリウスへと帰還するのだった。