CCA-Seed_98 ◆TSElPlu4zM氏_第07話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 17:37:31

艦のロッカールームでアスランは体を勢いよく壁に打ち付けられた。

 

「――貴様!どういうつもりだ!お前があそこで余計な真似をしなければっ!」
「とんだ失態だよ――しかも、目の前でミゲルまで……あの動き、味方殺しでもするつもりか?」

 

 イザークは怒りを露に、アスランの胸倉をねじ上げる。壁にもたれ掛かっていたディアッカも険しい表情でアスランを睨みつける。
 イザークとディアッカは、ザフト軍の中ではエリートと呼ばれる"赤服"である自分達が、コーディネイターよりも劣るナチュラルに軽くあしらわれたのに腹を立てていた。
挙句には仲間まで亡くし、奪取した機体まで損傷させてしまった事にプライドが許さなかった。
少なくともアスランが変な動きをしなければ、ストライクは撃破出来たし、ミゲルもあの時点で戦死する事はなかったと思っていた。

 

「――!俺はただ……」

 

 アスランはディアッカの言った『味方殺し』に大きく反応する。――そんなつもりはなかった。ただ、キラを助けたかっただけだった。
 そんな事は言い訳に過ぎず、結果、ミゲルが戦死したのは事実で、アスランは言葉を続ける事が出来ずに目をそらした。
 イザークがさらにねじ上げようとすると、ロッカールームの扉が開きニコルが入ってきた。ニコルは険悪な雰囲気に、その場を収めようと声を上げる。

 

「何やってるんですか!止めて下さい!こんなところで!」
「5機でかかったんだぞ!それで1機も仕留められなかった!しかも、ミゲルまでやられて――こんな屈辱があるか!」
「だからといって、ここでアスランを責めても仕方ないでしょ!」

 

 イザークは顔を歪ませながら怒鳴るが、ニコルはアスランとイザークの間に入り諫める。

 

「――くっ!次にこんな事があれば、俺はお前を撃つからな!覚悟しておけ!」

 

 イザークはアスランを睨みつけると、突き放すように掴んでいた手を離しロッカールームをディアッカと共に出て行った。

 

「俺が……ミゲルを殺し……たのか……?そんなつもりは……なかった……のに……」
「――違います、ミゲルは戦死です……。アスラン……貴方らしくないとは、僕も思います……。でも……」

 

 ロッカールームが二人だけになると、アスランは、呻くように言葉を漏らす。
 ニコルは、アスランの言葉を否定する声をかけるが、辛さの為か、アスランは顔を背ける。

 

「今は……放っておいてくれないか、ニコル……」

 

 ニコルはアスランの表情と言葉に何も言えないまま、ロッカールームを出て行く。ニコルの表情は、――僕には何も出来ないのか――と、でも言った感じで悔しさをにじませていた。
 一人残ったアスランは顔を床に向け、信じていた友人の名前を呟く。

 

「――キラ」

 

 どうして、こんな事になってしまったのか――。アスランの伏した顔は、今にも泣きそうな表情だった。

 
 

 激戦を切り抜け、アークエンジェルの格納庫は帰還してくる機体の収容作業でごった返していた。その中、キラだけがコックピットから降りてくる事がなかった。
 業を煮やしたマードックが、降りてこないキラに怒鳴る。

 

「おーい!こらボウズ!」
「――どうした?」
「いやぁ、なかなかボウズが出てこねぇえんで……」

 

 νガンダムから降りてきたアムロがマードックに声をかけた。マードックの返事にストライクを見上げる。
 一足先に帰還したムウが、ストライクのコックピットカバーの強制開放スイッチを押し、ハッチが開いたところだった。
 ムウはハッチの開いたストライクのコックピットを覗くと、キラが今も操縦桿を握り固まっていた。ムウはコックピットに体を滑り込ませ、操縦桿を握るキラの指を声をかけながら、一本一本、外していった。

 

「おやおや。おーい、何やってんだ!こら、キラ・ヤマト!もう終わったんだ。ほら、もう、とっとと出てこいよ。お前も俺も死ななかった、船も無事だ。上出来だったぜ」
「――あっ……」
「よくやったな……」

 

 キラはムウの呼びかけに我に返り、緊張が解けたのか息を吐いた。そんなキラを見て、ムウは、兄が弟を褒めるようにヘルメットを軽く叩いた。
 キラとムウがストライクから降りてくると、無事、帰還してきたキラに、アムロが声をかけると、つられるようにマードックも声をかけた。

 

「よくやった、キラ」
「ボウズ!よくやったな!」

 

 マードックが声をかけた事で、船を守ってくれたキラへの偏見が解け始めたのか、少しずつだが伝染するかのように他のメカニックマン達もキラに声をかけ始めた。
 キラは予想外の事に、呆然としながらメカニックマン達を見回した。――僕に、みんなが声をかけてくれてる!?
 コーディネイターの自分に誰も声をかけてくれるとは、キラは思いもよらなかった。

 

「俺達、案外、いいチームだと思いぜ!」
「ああ、俺も同意見だ」
「――あっ……はい!――ありがとうございます!」

 

 ムウはキラに笑いかけ、キラの肩を叩きながら言った。その言葉にアムロも微笑みながら頷く。
 キラは、ムウとアムロの声に我に返り、返事をすると、声をかけてくれたクルー全員に向かって、上ずった声を上げ、頭を下げた。
 ナチュラルから見れば敵かもしれない自分に、こんな風に声をかけてくれる事に、キラは涙がこぼれそうになった。

 
 

 ムウはキラを促し、アムロと共にロッカールームに引き上げようと歩き出すが、アムロは歩みを止め、マードックに声をかけると、マードックは聞き返してきた。

 

「マードック軍曹、すまない」
「なんですか?」
「ああ、ビームマシンガンのエネルギーパックが心許なくなってきた。何か代わりになる物はないかと思ってな」
「分かりました、考えておきますよ。あと、メットのバイザー、割れてるんじゃないですか?直しときますよ。ロッカーに置いといてください。」
「すまない、よろしく頼む」

 

 アムロはマードックに伝えると、ムウ達と共にロッカールームに歩き出した。その後ろでは、マードックが顎をさすりながら難しい表情をしていた。
 ロッカールームに着くと、キラは疲れたと言わんばかりにベンチに腰を下ろし、息を吐いた。その姿に、アムロとムウは、「本当によくやった」と言わんばかりに肩を叩く。
 キラの心の中では、戦闘が終わった安堵感とアスランの事が思い出されていた。
 ムウは早速、パイロットスーツを脱ぎ、制服に着替える。アムロがジッパーを下ろす音を耳にすると、思い出したようにアムロとキラに声をかけた。

 

「あ、アムロ大尉。いつまでもパイロットスーツだとなんだし、連合の船の中なんだから、そこらの制服を着ちゃってください。もちろん、階級か大尉を付けといてくださいよ。艦の知らない連中は、連合の大尉と思ってるんですから。あと、キラも着替えるんだぞ。」
「わかった」
「あっ、はい」

 

 アムロとキラは、ムウの言葉に頷き、アムロは着替えを始める。キラはベンチに座ったまま、床を見ていた。その姿にアムロは気づき、声をかけた。

 

「キラ、どうした?」
「いえ、なんでも……」
「なんでもって、感じに見えないぜ」
「……」

 

 キラの濁すような言葉に、ムウは心配するように言う。キラは床を見つめ、押し黙るだけだった。

 

「あの赤いガンダムが関係あるのか?あの機体は、ストライクに対して攻撃の意思を感じなかったからな」
「――!」

 

 アムロの言葉にキラは息が詰まる。
 アムロもムウも、その様子に気づいているが、あえて声をかけなかった。

 

「……あ、あの機体に、は、友達が……、アスランが乗って、いるんです……」

 

 キラは苦しむように言葉を吐いた。床には涙が落ちてゆく。その後も、キラと敵パイロット、アスランの関係がキラの口から紡がれる。
 アムロとムウは、キラの独白を聞き、ただ黙るだけだった。その後、キラは泣くだけ泣き、疲れからか膝を抱えるように眠りに落ちた。
 アムロとムウは、寝てしまったキラをベンチに横たえると毛布を掛け、ロッカーを後にする。その表情は苦々しい。

 

「この事は、ここだけの話に出来ないか?」
「……ええ、いいですよ。それにしても戦争ってのは、まったく……」

 

 アムロは、ムウに頼むように言う。ムウも頷き、戦争の無常さとキラの不運に嘆く。

 

「あのモビルスーツ、キラの手で落とさせるわけにはいかないな……」
「そうですね……」

 

 アムロとムウは、決意するように呟くとブリッジへと向かった。

 
 

 アスランはクルーゼからの出頭命令を受け、隊長室で命令違反同然の出撃に対しての申し開きをしていた。クルーゼの問いにアスランはキラの事も包み隠さず答えていた。

 

「――仲の良い友人だったのだろ?」
「……はい」
「分かった。そういうことか……そんな相手に銃は向けられまい。私も君に、そんなことはさせたくない。転属願いでも――」
「――! いえ、隊長!それは――!」

 

 クルーゼの言葉にアスランは驚き、身を乗り出しながら、首を振る。焦るようなアスランを見ながら、クルーゼは淡々と言葉を続けた。

 

「君のかつての友人でも、今、敵なら我らは討たねばならん。それは分かってもらえると思うが?」
「――キラは!あいつは、ナチュラルにいいように使われているんです!
優秀だけど、ボーっとして、お人好しだから、その事にも気づいてなくて――だから私は、説得したいんです!
あいつだってコーディネイターなんだ!こちらの言うことが分からないはずはありません!」
「君の気持ちは分かる。――だが、聞き入れないときは?」

 

 アスランは必死になって捲くし立てるように言葉を繋ぐが、クルーゼは、それを諫めるように問いただす。その言葉にアスランは息を呑む。そして一瞬、目を伏せると覚悟を決める。

 

「――!……その時は……私が討ちます……」
「……そうか、分かった。ヘリオポリス崩壊の件で、評議会からの出頭命令が出ている。まぁ仕方ない。
オーブに対しては、君とニコルが拾ってきた救命艇の事で、人命救助と言う名分も出来た。あれはガモフを残して、引き続き追わせる。
奪取したモビルスーツは全て、ヴェサリウスに移動させ、艦の修理が終わり次第、本国へ向かう」
「――は!」

 

 アスランの返答にクルーゼは、事務的な口調で答え、今後の行動命令を伝える。アスランは敬礼をすると踵を返し、退室する。
 クルーゼの仮面の下の表情は引きつるように微笑んでいた――。

 
 

 アークエンジェルのブリッジでは、月にたどり着く為の進路を決める話し合いが行われていた。その話し合いの中、ナタルがユーラシアの軍事要塞"アルテミス"への入港を提案してきた。
 ムウは提案に対して異議があるらしく、違う進路を提案する。

 

「アルテミスねぇ……。食料、弾薬もそれなりにあるんだし、それならストレートに月に向かった方が早いんじゃないか?
それにアルテミスにいけば、俺達はストライクやνガンダムの事で拘束されるだけだろう?」
「地球軍は一枚岩ではないって事か?」
「ええ……」

 

 ムウの言葉に、アムロはマリューに軍の内情を問いただすと、顔色がさえないマリューは頷いた。
 アムロは、マリューの顔色に気づき、言葉をかけ、ムウも顔を覗き込むかのように問いただす。

 

「ラミアス大尉、顔色がさえないが大丈夫か?」
「ああ、確かに顔色が良くないな。確か、怪我してただろう?治療はしたのか?」
「……いいえ、バタバタしてて……」
「――馬鹿っ!」

 

 ムウの問いにマリューは申し訳なさそうに答えると、それを聞いたムウは頭を掻き毟るように呆れて怒り、マリューの手を取り、医務室に向かおうとする。

 

「――えっ、フラガ大尉!?ちょっと待ってください!せめて、先に進路を決めないと!責任者として、この艦を無事に届けなければいけないんです。お願いします!」
「――ったく、分かったよ。その代わり、話が済んだら、医務室に連れてくからな!」
「……はい」

 

 マリューはムウの行動に驚くが、責任感からか、アークエンジェルの事を最優先させる。マリューも必死に生き残る事を考えていたのだ。
その想いが伝わったのか、ムウは仕方なく了承するが、話し合いが終わり次第、治療する事を取り付け、マリューもそれに頷いた。
 アムロは、アークエンジェルの操舵士であり、進路の探索を行っていた、アーノルド・ノイマン曹長に声をかけた。 

 

「ノイマン曹長、これしか進路はないのか?」
「いえ、通りようはあると思いますが、現実的には、このあたりのルートが妥当かと。こう進路を取れれば、月軌道に上がるのも早いんですが……」

 

 ノイマンは答えながら、ムウの提案した最短コースを示す。

 

「宙域図と戦力分布図――そうだな、あと、進路の障害になりそうな物は重ねて出せるか?」
「あ、はい。ちょっと待ってください」

 

 アムロは他のルートを捜す為に、ノイマンにデータの表示をするよう指示を出す。ノイマンは、モニター次々とデータを映し出した。

 
 

 マリューは、モニターに表示されるデータを見ながら、困ったと言う表情でナタルに聞いた。

 

「戦闘はなるべく回避したいわね……、無理かしら?」
「事態が事態ですし、ザフトの追撃もあると思われます」
「戦闘ねぇ……」

 

 ナタルは、マリューの言葉に、さも当然と言わん感じで答える。その言葉に、ムウは顎に手を当て、モニターを見ながら考え込む。
 少しの沈黙が支配すると、それを破るかのようにムウが声を上げた。

 

「……あっ、待てよ!デブリ帯か――、要は敵にも味方にも見つからなけりゃいいんだよ!」
「はっ!?」

 

 マリューとナタルは、突然の言葉に素っ頓狂な声で聞き返した。
 ムウは思いついた進路の説明を、その場で始めた――。
 それは、最短経路、または、アルテミスを経由すると見せかけ途中で進路変更し、遠回りになるがデブリ沿いに移動するルートだった。
最大の利点は、デブリと間違えやすく、移動しながらでも発見されにくい事。しかも、わざわざ遠回りして月に入るなど、ザフト、地球両軍も思うまい。
ゴミが多く、監視も手薄なところを通る為、戦闘も回避しやすくなる――。

 

「なるほど……、確かに可能かもしれないな」
「しかし、それでは時間が……」
「急がば回れって言うだろ!これで決まりだ!俺は不可能を可能にする男だからな、俺とアムロ大尉がなんとかして見せるさ!――さっ、とっとと、医務室いくぞ!」

 

 ムウの説明を聞き終わると、アムロは裏を突く意外さに同意する。しかし、ナタルは言葉をにごしながら、賛成とは言えないようだった。
ムウはアムロの言葉に気を良くすると、有無を言わさず、渋るナタルに言い聞かせ、医務室へと向かう為、マリューを引っ張ってブリッジを出て行った。

 
 

 ムウとマリューが出て行った数分後、ブリッジの扉が開き、「何かあったのか?」と言わんばかりの表情をしながらマードックが入って来た。

 

「さっき、すれ違ったけど、艦長どうかしてんですか?」
「ラミアス大尉なら、怪我の治療に行かれた。それよりもマードック軍曹、ブリッジに何の要だ?」
「艦長に話しがあったんだが……、まあ、大尉さんがいるなら話は出来ますから」

 

 マードックの言葉に、艦長席に座ったナタルが逆に聞き返した。
 マードックは頭を掻きながら、ノイマンと共に迂回ルートの修正作業をしていたアムロに目線を向ける。アムロもマードックに気づき、声をかけた。

 

「マードック軍曹、さっきの事か?」
「さっきの事……?いったい、何ですか?」
「ええ、νガンダムの武器の事ですよ。大尉さん、ビームマシンガンどれくらい持ちそうなんですか?」

 

 ナタルはアムロの言葉に見当がつかず、不思議そうに聞き返したが、それにはマードックが答え、再びアムロへと向き直り、口を開いた。

 

「そうだな……、無駄弾を撃たなければ、良くてあと二回だろうな。実質、次、戦闘があれば――」
「えっ!?――そんな大事な事を先に教えてくれなかったんですか!?」
「すまない、バジルール少尉。それで、どうにかなりそうか?撃てればいいだけなんだが……、やはり無理か?」
「マードック軍曹、どうにかならないのか?」

 

 アムロは腕組みをすると、少し考え込み答える。ナタルは、その内容に驚き、眉間に皺をよせ、怒ったように言った。
 アムロはナタルに謝罪をすると、マードックに聞き返す。ナタルも事が事だけに、艦の存亡がかかっているだけに、いつもに増して真剣な表情で聞いてくる。

 

「いや……なんせ、規格が違いますからねぇ……ストライクのビームライフルはエネルギーの供給システムとコネクターが合わねえし……」

 

 マードックは難しそうな顔をしながら、答えた。その言葉にナタルは落胆の表情を隠せずにいた。アムロは予想いてたのか、ナタル程ではないがあきらめ顔をしている。
 二人の様子にマードックは、顎をさすりながら、もう一度頭の中を整理してみる。頭の中には全ての武器の特徴を思い出し、どうすればいいのかを考える。
 ――マニュピレーターのコネクターを介さず――エネルギーを直結させれば……?
 少しの沈黙の後、マードックは思いついたように声を上げた。

 

「――んっ!?本当に撃つだけでいいんですか?狙いがつかなくても?」
「……ああ、それだけで充分だが――」
「――それなら、何とかなるかもしれないですよ!こりゃ、すぐ確かめねぇと!それじゃ、失礼しますよ!」

 

 マードックの突然の声に、アムロは少し戸惑うように口にする。アムロの返答にマードックは喜々として、答えるとブリッジを大急ぎで出てゆく。
 ナタルは「なんだ!?」とばかりに不思議そうな顔で、マードックの出ていった扉を見つめていると、アムロが口を開いた。

 

「当てでも思いついたのか……?それなら、俺としては、ありがたいが」
「さあ……?――コホン!私は、アムロ大尉を完全に信用した訳ではありません。艦に関わる事ですし、さっきの事も含め、せめて、信用されるように相談くらいしてください!」

 

 アムロの言葉に、ナタルは首を傾げるように答えるとアムロの視線に気づき、呆然としてたのを誤魔化すように咳払いをして捲くし立てる。その表情は慌てているようで、少し頬が赤らんでいる。

 

「――ああ、わかった。次から当てにさせてもらう事にするよ」

 

 アムロは微笑むようにナタルに返事をするのだった――。