CEvsスペゴジ第2部_第01話

Last-modified: 2014-03-10 (月) 15:43:28

クリスタル1飛翔後







アスラン・ザラの葬儀が静かに行われていた。

しかし、柩の中のアスランは頭から下が無かった。、ヘルメットに守られていた頭部以外は、ジャスティス爆発の際にバラバラになってしまったのだ。

葬儀に出席していた二人の女性…カガリとメイリンは終始、アスランの死に涙を流していた。

この葬儀に、キラ・ヤマトの姿は無かった。

彼は、クリスタル1への恐怖心を取り除くためにプラントへと戻っていた。





多くの人間がアスランの死を悲しんでいる頃、ロンド・ミナ・サハクの下でクリスタル1の研究が進められていた。

その研究によって、クリスタル1は重力操作を行うことが可能であると言うことが分かった。

重力操作を行える生命体…もはや常識が通じるようなものではなく、研究チームは絶望しそうになっていた。

しかし、ミナの「生物であるならば、必ずどこかに弱点があるはず。それを探し当てれば勝機はある」の発言を受け日夜、生物の弱点探しに明け暮れている。

その研究が進められるのと同時に、地上軍にAFSの配備が進められていた。ちなみにこのAFSは、エネルギー効率の問題点を解決した改良型である。



そして、飛翔後、行方が分からなくなっていたクリスタル1は現在、太平洋に浮かぶ名も無い無人島で確認された。

島そのものを結晶体で覆い尽くしていたがそれ以上動く気配は見られず、すぐに都市へと向かう様子も見られなかった。

一部の人間は、今のうちに攻撃するべきだと主張したが、こちらの戦力がまったく整っていない状態で挑むのは自殺行為だと多くの人間に咎められた為、監視するだけに留まった。









アスラン・ザラの葬儀が終わってから2日後



プラントからオーブ復興のため、支援部隊が補給物資と共に到着していた。

もっとも、オーブ首都は壊滅的ダメージを受けており、復興するよりも遷都した方が良い状況だがそのための土地がオーブには無かった。

そのためプラントは、オーブ復興に手を貸すため、部隊を送り込んだのだ。

支援部隊は物資を担当部署に渡すと、そのまま首都へと移動した。

移動する部隊の中には、死亡したアスランとは同期であるイザーク・ジュールを隊長とした部隊の姿もあった。









オーブ首都



この町で支援部隊がやる事というと、結晶体の除去ならびに遺体の処理。

つまるところの後片付けである。ゲリラがいたり地雷でも埋まっていない限り、この任務で死人はまず出ない。

そのため、部隊の人間の殆どが経験の浅い…所謂新人である。

その新人部隊の一つを預かる軍人…彼は、前大戦を生き抜いたザフト軍人の一人である。もっとも、大戦中は後方待機であり、前線へは出ていないが。

彼の部隊は今、他の部隊に先んじて町の奥へと進んでいた。

そこで彼は、得体のしれない何かを感じていた。

休暇中にホラー映画を見ているときのように、突然化け物か何かが出てきそうな静けさだった。

以前ならば『そんなもの現実に出やしない』と思っていたが、クリスタル1が出現して以来は『出ててきてくれるな』と思うようになった。

そういうこともあり、彼は先行することに抵抗感があった。もっとも、上の命令を聞かなければならないのが軍人の悲しいところである。

不意に部下から通信が入る。どうやら怪しく動く何かを見つけたらしい。あんな化け物の居た場所で動いているとは、穏やかではない。

いよいよもってホラー映画になってきたな。と思いながら通信をよこした部下の下に向かった。





部下が動く何かを見つけた場所についたが、そこには何も居なかった。

部下に通信を入れるが、繋がろうとしない。



音がした。何かが動く音がした。

彼はすぐさま、機体を動かし周りを見回す。今のところ周りで動くものは無い。

そんな状態が十数秒間続くが、危険は無いと分かり、張詰めていた空気が自分の中から一気に抜けた



その時だった。

上から音がして見上げてみると









こちらへと飛び掛ってくる『何か』があった。

彼は声を上げようとしたが、その声は上がることはなかった。





「ジュール隊長」

他の部隊と共に、結晶体の除去を行っていたイザークの機体に通信が入る。通信を入れたのは彼の部下の一人である、シホ・ハーネンフースという女性だった。

女性ではあるが、彼女はイザークと同じく前大戦、前々大戦を生き抜いた数少ないザフト軍人である。

彼女が通信を入れた理由は、町の奥へと進んでいた部隊との通信が途絶したためらしい。

イザークはまず、周辺の部隊に警戒するよう指示すると、自分の指揮する部隊を連れて通信の途絶した場所へと急いだ。



なお、移動中に彼の同期であるディアッカ・エルスマンから通信が入った。

その内容はというと、平凡かつどうでもいいものだったが。



部隊は今、通信が途絶した場所の周辺に到着した。

周辺を調べてみるが、今のところ、何らかの発見は無い。

何の発見も無い。そう、通信の途絶した部隊も発見されていないのだ。

この場に居る多くの人間は、そのことに危機感にも近い疑問を持っていた。

もう少し奥に進もうとしていると、妙な音が聞こえた。イザーク達は音のした方へとMSを向ける。





そこに居たのは、クリスタル1とはまったく違う巨大な生物だった。

クリスタル1に比べると、かなり小型ではあるがMSよりも一回り大きい。

外見もまったく違う。結晶体に口が一つと目が二つ、背中だろうと思われる部分からはブースターのように結晶体が突き出し、そして前足と後足だと思われる部分に申し訳程度に三本の爪のような物が生えているだけで、生物と言うよりも結晶体といわれたほうが納得できるものだった。

その生物の足元にはMSの残骸が確認できる。おそらく、連絡を絶った部隊のものだろう。





生物はジュール隊に気づくと体の向きを変え爪を一気に伸ばすと突き出した結晶体を輝かし、そのまま襲い掛かった。



生物は想像以上の難敵だった。

接近戦を挑もうとすれば、その巨体には見合わぬ速度で回りこまれ巨大な顎にコクピットブロックごとMSの上半身を噛み砕かれ、距離を置いてビームライフルで攻撃してもバリアを展開して無力化し、逆に光線を放ってMSを破壊していった。

その姿はまるで、小さくなったクリスタル1だった。

にもかかわらず、イザークはグフの右腕に装備されているビームマシンガンを撃ち続けている。当然ではあるが生物はバリアを張ってこれを防いでいる。

イザークの撃ったビームの雨が止むと、同時にディアッカの放った無数のミサイルが生物目掛けて飛んでいくが、これもかわされてしまう。

ミサイルはかわされ、再度ビームは効かないことを確認させられる。多くの隊員は絶望している。しかし、このような状況であってもイザークは冷静だった。



イザークの機体に通信が入る。ディアッカからだ。彼は一度撤退するべきだと進言した。普段はお調子者口調の彼だがこの状況からか、少しばかり焦っている。

しかし、イザークは撤退はせずこのまま戦うという。ディアッカはなぜこのまま戦うのか?と聞くと、『ここで仕留めておかなければオーブ復興に大幅な遅れが出る』と答えた。

続けて、シホから通信が入る。彼女は周辺の部隊を呼ぶべきだと進言するが、イザークは『実戦経験が殆ど無いひよっ子を呼んでも足手まといになるだけだ』とばっさり切り捨てる。

『じゃあ、どうするつもりだ?』とディアッカとシホから詰め寄られ、イザークは自分の考えた作戦を二人をはじめとした隊員達に話した。

ディアッカはその作戦を聞き、あきれ返っていた。彼の立てた作戦というのは

『生物の動きを止めたところに、シホの乗るガナーザクの高出力ビーム砲を結晶生物に撃ち、その追撃にディアッカのザクファントムとウィザードパックを装備したザクのミサイル攻撃を叩き込み、それでも生きていた場合はイザークの駆るグフの対艦刀で叩き切る』

というものだった。この作戦を立案したイザークは、絶対にうまくいくと断言した。これには正直、ディアッカとシホは呆れていた。

そのため二人は、ビームによる攻撃はせずともいいだろうと主張したが、イザークはこれを却下した。

もっとも、ビーム砲が効かなくとも追撃のミサイルによって生物を追い込み、グフでダメージを与える。という考えはあながち間違いでもない。

二人をはじめとした隊員達は、渋々と了解した。



先に動いたのは生物だった。背中の結晶体を輝かせながらジュール隊のMSに向かって、突進してくる。

その突撃をジュール隊は散開してかわす。生物は散開したMSに向けて光線を放つが狙いをつけて放っているはずも無く、簡単にかわされる。

隊員達は生物に向けてライフルを撃つ。生物はこれをバリアによって防御する。その瞬間、バリアを展開するために動きを止めたのだ。

そこへ間髪入れずにシホの駆るザクが高出力ビーム砲『オルトロス』を生物目掛けて撃ち込む。生物はこれをバリアで受け止めた。





数秒間、ザクの放ったビームはバリアを撃ち破らんと突き進み、生物の展開したバリアはビームを防ごうと抗っていた。

ビームとバリアは拮抗を保っていたが、数瞬後にはビームがバリアを撃ち破り、生物の無防備な体を打ち抜いていた。

この光景に多くの隊員達が呆然としていた。ビームを撃ったザクのパイロットであるシホでさえも呆然としていた。が、イザークの怒号が耳に響き正気に戻ると、ディアッカのザクを筆頭に次々と生物目掛けミサイルの雨を降らした。

生物はその雨に晒されるとあっさりと消し飛んだ。先程までクリスタル1の如き強さを見せていた生物は、この上なくあっさりと消えてなくなった。

十数秒ほどの間、静寂が続いたが一人の叫びを皮切りにジュール隊は歓喜に包まれた。



この歓喜の中、ディアッカとシホはイザークに一つの疑問を問いかけていた。

『なぜ、生物のバリアの特性を見抜けたのか?』と



イザークは、さも当然と言うようにこう答えた。











      『    勘    』











この答えにディアッカは腹を抱えて爆笑、シホは完全にあきれ返っていた。





翌日、ジュール隊は動くことが可能なオーブの部隊と共に生物の確認された場所からさらに奥のほうへと向かった。

が、今回は戦闘が発生することはなかった。

なぜかと言うと、生物を発見することはあってもその殆どが死んでおり、生きた個体は発見されなかった。

死骸に変わっていたものを幾つか回収し、回収しなかった死骸は、ナパーム弾によって焼却処分された。

回収された死骸と生物は、町中で回収されたクリスタル1の皮膚片と共にオーブの研究機関に送られることになった。





それから三日後





ロンド・ミナ・サハクは忙しかった。この上なく、今までの公務以上の忙しさだった。

多忙の原因はクリスタル1の出現もあるが、もう一つの原因は首長であるカガリにあった。

アスランがクリスタル1との戦闘によって戦死して以来、仕事を放り出して部屋に篭りっぱなしなのだ。

そして、カガリが放り出している仕事の殆どはミナの元へとやって来るのだ。

ミナはこれらの仕事を要領よくテキパキとこなして行くが、すぐに次の仕事が入ってくるため休む時間が殆ど無い状況が続いているのだ。

そんなミナの元に、研究機関から報告書が届いた。

三日前に交戦した結晶生物、コードネーム『クリスタル・イミテーション』とクリスタル1の細胞に関するものに、クリスタル1の作り出した結晶体に関してだ。





報告書の内容は簡単に纏めると以下のものだった。



1 クリスタル1の作り出した結晶体は一種の生物であることが判明。結晶体は地球上の生物でいうと珊瑚に近い種であると推測される。



2 回収されたクリスタル1の細胞は、弱々しくも十数時間以上も細胞分裂を繰り返しており、活動を続けていた。

  実験として、細胞にいくつかの放射線を浴びせてみたところ、そのことごとくが放射線を吸収して細胞分裂が活性化した。

  放射線を浴びせた細胞は、現在も細胞分裂を行いながら活動を続けている。

  また、活性化した細胞を実験用のマウスに投与してみたところ、その殆どが異形・凶暴化し、まったく違う生物に変化…いや『進化』した。



3 クリスタル・イミテーションは結晶体にこの細胞が付着、ジャスティスの爆発時に発生した放射能を吸収した結果、あのようになったと推測される。







この報告書をみて、ミナは思った。





『まだ、人類に勝機はある』と



普通の人間ならばこんな考えが思い浮かぶはずはなく、むしろクリスタル1の能力の高さを再確認し絶望に打ちひしがれるであろう。



なぜ彼女がこんな考えに思い至ったかというと、二日前に提出された今回とは別の報告書を見ていたからである。





その報告書の内容は



1 今回出現したクリスタル1とは別の結晶生物はクリスタル・イミテーションと命名されることになった。

   名前の由来は、クリスタル1に似通った能力を持つことか来ている。



2 クリスタル・イミテーションの体は、約89%を割合でクリスタル1の作り出した結晶体と同じものである

   背中から生えてきている結晶体は一種の重力制御機関である。しかし、どのように重力制御を行っているかは不明。



3 回収されたクリスタル・イミテーションの死骸には外傷が無く、衰弱死が原因だと推測される。 

  

4 なお、今回クリスタル・イミテーションの死骸と共に回収された結晶体とクリスタル1の皮膚片は現在解析中である

 





この報告書に記載されているクリスタル・イミテーションの死因と、最新の報告書に記載されている

クリスタル1の細胞片に関する報告を重ね合わせてみると、クリスタル1の弱点が一つだけだが導かれる。



導き出されたクリスタル1の持つ生物らしい弱点、それは『常に多量のエネルギーを吸収していなければならない』というものだった。



これが弱点ならばブルーフレームと交戦した時、なぜ光線を放ったり重力操作を行わなかったのかが説明できる。

おそらく、交戦時クリスタル1は体内に蓄積されたエネルギーが心もとなかったため使わなかったのだろう。

フリーダム、ジャスティスを相手に戦ったときも、最初はブルーフレームのときと同じく結晶体のみを打ち出していた。

途中から光線などを使ったのは、クリスタル1自身が二機が余りに鬱陶しくなったからであろう。



だが、この弱点が分かっただけではクリスタル1を倒す事は出来ない。その理由は、どのような方法でエネルギーを吸収しているかまるで分かっていないからだ。

ともあれ、クリスタル1の弱点が一つ分かった事は、大きな一歩であることは変わりない。



ミナは、事の終わった後の研究機関で働く学者達への報奨を考えつつも、山となった書類を頂から片付けていく。