CEvsスペゴジ第2部_第05話

Last-modified: 2014-03-10 (月) 15:42:12

少し時間を遡る…

再改修されたネオジェネシスを搭載した要塞『オラトリオ』

その要塞の中を走る影があった。影の名はアンドリュー・バルトフェルド、前々大戦では砂漠の虎の異名で地球軍から恐れられ、

現在はラクス・クラインのために裏の仕事をこなしている元軍人である。

その彼がなぜこのような所にいるかと言うと、この要塞に関して不審な点があったために極秘調査を行っているからだ。

その不審点というのはオラトリオの出所に関係する。

そもそもオラトリオは前大戦においてデュランダル派が建造した要塞『メサイア』を回収、修復を行っただけものである。

にもかかわらず、オラトリオ内部に元となったメサイアにあるはずの無いエリアが存在していたのだ。

このことが分かったのはオラトリオが建造されてから1年後、クリスタル1が襲来する2年前である。

当時、そのエリア付近で怪しい動きは特に無かったため放置していたが、数日前に起こったある事件以降からエリア周辺が騒がしくなっており調査に踏み切ったのだ。





バルトフェルドがそのエリア内を調べていると、見るからに怪しい気配を放つ扉が目に入った。

周辺に見回し、誰もいないことを確認するとその扉へと近づき周囲を調べた。調べて分かったことはこの扉は電子施錠されおり、

そのパスワードはラクスが把握しているものを使っていなかったことである。

どうしたものかと悩んでいると後方から何者かが扉へ近づいてくる。バルトフェルドはすぐさま身を隠し、様子を見ることにした。

近づいてきたのは若い女性の科学者で、扉付近にある端末の前に着くと慣れた手つきでそれを操作し扉を開けた。

女性はそのまま扉の内側へと消えていった。バルトフェルドも足音を立てないようにしつつ、急ぎ足で扉の内側へと入っていった。



天井にある小型の蛍光灯のみが照らす通路を奥へ奥へと進んでいくバルトフェルド。通路の先には先ほどのものよりも小型の扉があった。

これは施錠その物がされておらずバルトフェルドは扉を開け、内部へと踏み込んだ。



そして、驚愕の光景を目にしてしまう。

そこには数日前、とある事件で行方が知れなくなっていたクリスタル1の細胞がカプセルに培養されていたのだ。

それも、一つや二つだけではない。大量に、数え切れないほど大量に培養されていたのだ。おそらくその殆どは行方が知れない間に増やしたものであろう。

バルトフェルドは通信機を使いオラトリオ司令部にいるだろうダコスタへ連絡を入れようとするが、背中に硬く冷たい鉄の塊を押し付けられて通信機から手を放す。

どうやら銃を突きつけたのは、先ほどの女科学者らしい。彼女相手ならば楽に逃げることも出来るのだが、その後ろにある扉の向こう側から無数の足音が聞こえてくる。

この部屋へくるまでの通路に分かれ道は一つだけで、その分かれ道はこの部屋を出てかなり先にしかない。うかつに動けば即、蜂の巣か穴あきチーズになるだろう。

それならば、捕縛され脱出のチャンスを待ったほうが賢明だろうと考え、抵抗はせずにそのまま連行されることにした。

もっとも、連行先が独房とかではなくオラトリオ司令部なのには驚いたが。

司令部へと連行される前に、銃を突きつけた女性になぜクリスタル1の細胞を調べるのかを聞くと、彼女は人類全体を幸せにするためだと言った。





司令部に到着した直後、バルトフェルドと彼を拘束する兵たちは目に映った光景に驚いていた。

その光景はと言うと、クライン派の幹部がジェネシスをクリスタル1への発射を指示し、ラクス・クラインがジェネシス発射をやめるよう側近たちに命令しているものだ。

ジェネシスを使う。といっても、対象へ直接浴びせるのではなく。ジェネシスから大型デブリを目標周辺に向けて発射するものであり、

前々大戦において、ザフトのMSリジェネイトがジェネシスαをブースターとして利用したのと同じ原理である。

しかし、側近たちはラクスの命令を無視し、発射を阻止しようと動いたダコスタの制止も振り切り、幹部の命令を実行した。

ジェネシスの光によって、凄まじい加速を行った大型デブリは、数分ほどたってから目標であるクリスタル1周辺へと直撃した。

デブリはクリスタル1とそれが形成したフィールド、そしてクリスタル1の追撃を受けている残存部隊を飲み込んだ。





この凶行にラクス達は命令を下した幹部とその命令を実行した側近たちに何者なのかと問う。

この幹部と側近たちは所謂隠れザラ派でありラクスの質問を聞くと、この事をあっさり明かした。

彼らは長い間、パトリック・ザラの無念を晴らすために表向きはデュランダル派、クライン派へと心変わりを繰り返す利権目的の人間を演じていたのだ。

同じザラ派から裏切り者だと言われても、彼らは耐え忍び機会を待っていたのだ。

そして、キラやアスランをはじめとするラクス・クラインの私有戦力が弱体化した今こそ好機と見て、決起したのだ。

さらに彼らは、自分たちにとっても脅威であるクリスタル1が倒された今、パトリック・ザラの無念である『ナチュラルの抹殺』を遂行することも、

その手始めに地球をジェネシスの直接照射で焼く事も暴露したのだ。

バルトフェルドは幹部に、なぜクリスタル1の細胞を培養しているのか聞くと、幹部はあまりにも恐ろしい答えを口にした。

その答えは『体細胞から自分たちの言うことを聞くクリスタル1をクローニングし、MSを超える生物兵器として運用する』という、

まともな人間ならば思いつこうともしないものだった。



それを聞いたラクスがその考えを改めるよう幹部を咎めようとするが、側近の報告がそれを遮った。

その報告は『地上の残存戦力、形成されていたフィールドは消滅。しかし、クリスタル1は依然健在を確認』という、衝撃的且つ絶望的なものであった。

まったくの無傷のクリスタル1は、まるでこちらを見るように空を睨んでいた。司令部にいる者全員は、こちらを睨んでいるのではなく空を見ているだけだと思った。

いや、思い込みたかった。

そんな司令部の思いも知らぬクリスタル1はそれまで確認された物よりも大型の結晶体を精製した。

司令部の人間はクリスタル1が再びフィールドを形成するつもりだろうと思い、ジェネシスの再発射を急がせた。





しかし、クリスタル1のとった行動は司令部の予想を超えたものだった。

クリスタル1は精製した結晶体を宇宙目掛けて打ち出したのだ。司令部がどこへ向けて打ち出されたものか調べた結果、あろうことかこのオラトリオへ向けて発射されたものだった。

司令部はこの結晶体を撃ち落すように命令するが、結晶体はジェネシスの射線をなぞりながら接近していたために安全圏へ避難していた部隊の迎撃が間に合うはずもなく結晶体はオラトリオに着弾、

オラトリオを大きく揺らした。なお、結晶体着弾地点はちょうど細胞が培養されていたエリアであり、その場にある全てのカプセルが割れ、その中身が周囲にブチ撒かれいた。

さらに、着弾した結晶体はオラトリオ内で凄まじい速さで増殖していた。司令部は内部の人間全員に避難命令を出そうとするが、突然機能障害に見舞われた。

彼らは知らないが、この機能障害は結晶体にオラトリオのメインシステムのコントロールを奪われたからである。

司令部はメインが機能しないことが分かると、すぐさまサブシステムに切り替え再度避難命令を出そうとするが、いくつものエリアから次々と救援要請が入ってきたのだ。

オラトリオ内部に泥の塊のような生物が現れ、会う人間を片っ端から取り込んでいるのだ。この生物は、培養されていたクリスタル1の細胞が集まって変異したものである。

現れた変異体にオラトリオ内は騒然とし、避難命令を聞くどころではなかった。

司令部では、どうやってこの混乱を収めるか話し合われようとしたが、扉を破壊して現れた変異体によって司令部は話し合いが出来ないほど混乱、我先にと逃げ出した隠れザラ派の幹部と側近達だったが、

結局、全員が変異体に取り込まれてしまった。





ザラ派の人間が取り込まれている間に、ラクスとバルトフェルド、ダコスタは急いで司令部を出た。

彼らはオラトリオ脱出のため、バルトフェルドが潜入に使ったMSの下に急いだ。



MSの下へ急いでいたが、その途中、アスランが死亡してからオラトリオの士官室で引きこもっていたメイリンがいたことを思い出したラクスは、一旦メイリンの下へ行くことを希望した。

バルトフェルドも最初は断っていたが、ラクスの目を見ているうちにその意志を動かされ、メイリンの下へと走った。

もっとも彼女は部屋へ行く途中に見つけることが出来た。変異体のおまけ付きで。

変異体に向けて銃弾を浴びせるが効果は無く、その体を広げメイリンへと襲い掛かっていった。恐怖の余りメイリンは目を閉じるが、何者かがメイリンを庇うように抱きかかえ変異体から彼女を守った。

変異体は再び襲いかかろうとするが、誰かが投げた手榴弾で吹き飛ばされた。

メイリンは恐る恐る目を開けて、自分を助けた人間を見ようとした。

最初、彼女はバルトフェルドが庇ってくれたと思ってたが、自分を庇ってくれたのはバルトフェルドでは無く、









地球圏のトップに立つ、ラクス・クラインその人であった。







彼女の顔は苦しそうで、その背中にはメイリンを庇ったときに受けたのであろう火傷の様な傷をあった。

その彼女を見たメイリンは、今にも泣き出しそうな顔をして謝ろうとするがラクスはそれを制して脱出することが先決だ、と息絶え絶えに言った。

メイリンはラクスを抱え、バルトフェルドらと共にMSの下へと急いだ。

走り始めて数分ほど経つと、ようやく出口まで続く一本道に差し掛かった。するとバルトフェルドは急に立ち止まり、ダコスタ達に先へ行くよう言った。ダコスタはまさかと思い、彼にどうするつもりなのか聞いた。

ダコスタの予想通り、彼はは変異体の追撃を防ぐためにその場に残ると言い出した。ダコスタはバルトフェルドも一緒に脱出するべきだと言うが、バルトフェルドは残る意思を変えようとはしなかった。

二人の話は平行線のまま続いてたが、後方から変異体の群れが近づいていた。

バルトフェルドはダコスタの肩をつかむと、一言はなった。







「必ず戻る」と





ダコスタはその言葉を信じ、メイリンとラクスをつれてMSの下へと走っていった。

そして、ダコスタの後ろを走っていたメイリンの姿が見えなくなる頃、肉眼でも確認できる距離に変異体の群れを捉えた。

バルトフェルドはかつて敵対したキラに言い放った言葉を思い出した。

『戦争に明確なルールはない』『どちらかが滅びるまで戦う』

彼はその言葉をラクス・クラインに付くことで一度は否定した。だが、今戦っている化け物達はかつて否定した自身の言葉がぴたりと当てはまるものだった。

まるで自分を始めとした人類への皮肉だな、と思いながら手に握られている銃のセーフティを外し、襲い掛かってきた変異体へと鉛の弾丸を贈った。









潜入に使ったMSへと乗り込むとダコスタ達はラクスの治療もあるため、急いで脱出した。

メイリンはMSのモニター越しにオラトリオを眺めていた。要塞は無数の結晶体に覆われ、搭載されたジェネシスも結晶体に貫かれ無残な姿を見せていた。

だが、モニターは信じられないものをメイリンたちに見せた。

生えていた大量の結晶体が要塞を飲み込むように変形を開始。それに付け加え、無数の結晶体が重なり合うように左右対称に二つ出現し、何かを形作るように変形していく。

極めつけは搭載されていたジェネシスを無数の結晶体が飲み込み、恐ろしく巨大な何かを形作り始めていたのだ。



数分ほど経つと、宇宙要塞オラトリオは先ほどとはまったく別の存在になっていた。



要塞を飲み込むように変形した結晶体は強靭な鎧となり、連なるように出現・変形した結晶体は巨大な腕と変わり、

ジェネシスを取り込みながら変形した結晶体は巨大な竜を思わせるような頭部へと変わっていた。





それはもはや、宇宙要塞などではなく想像を絶するほど巨大な結晶怪獣だった。