Canard-meet-kagari_第07話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:29:35

第7話

 カナードはアークエンジェル格納庫にストライクを着艦させる。
 格納庫に居るのはメカニックと数名の仕官、その先頭にいるのは士官服の黒髪のショートカットの女だ。おそらく先程の通信で呼びかけていたのも彼女だろう
「さあ、ストライカーパックを渡せ!」
 外部スピーカーからカナードの声が格納庫に響く。
「いや、渡すのは君の方だ」
「何!」
 士官服の女が手にしていたマイクで返答する。カナードは最初はその言葉の意味が理解できなかったが、格納庫に連れて来られた少年達の姿を見てすぐにその言葉の意味を理解した。
「すまない……」
 カガリが申し訳なさそうな顔をして謝る。彼らは全員、銃を向けられ一列に並んでいる。
「お前達!」
 少年達に銃を向け、ここまで連れて来たのはもちろんアノ作業服の女だ。
(あいつら、だから捨てておけと言ったんだ)
「機体から降りて投降しろ!さもなくば……解っているな!」
「……」
 MSからの返答がない事を了承と見た二人の女は互いを褒め合う。
「ラミアス大尉、アナタのお陰です」
「バジルール中尉もよくこの艦を……」
「いえ、執るべき行動をしたまでです。さあストライクのパイロット降りて来い!」
 形勢逆転そう思った士官服の女は高圧的態度で再びカナードに命令する。
「クククックハハハハハハハハハッ」
「何?」
「どうした、気でも振れたか」
 カナードの笑い声が格納庫に響き、ストライクが一歩、その巨体を歩みだす。
「止めろ!人質がどうなってもいいのか!」
「残念だが、俺にとってソイツ等がどうなろうと知ったことじゃない!!」
 外部スピーカーから告げるその一言に格納庫に居た全員が絶句する。
「止めろ、そんな嘘を……」
「嘘じゃない、ソイツ等に聞いてみろ、そいつ等とはさっき会ったばかりだ」
「そんな……」
「そうなの?」
 ラミアスと呼ばれた作業服の女がカガリに問いかける。カガリはポカンと口を開けた顔をゆっくりと縦に振る。
「そう言う事だ」
「信じられるものか!」
「信じられないのなら撃ってみろ……関係のない民間人を」
 士官服の女はカガリに銃を向ける。
 カガリはビクリと体を震わせるだが士官服の女は引き金を引くことが出来なかった。
 本来なら迷わず引き金を引けたのだがカナードの人質を無視した行動にが彼女を迷わせる。
「どうした?撃ってみろよ」
 カナードはそんな彼女を嘲笑する。そしてまた一歩、ストライクが轟音と共に前に踏み出した。
「くっ来るな!!」
 先程の自信に満ちた態度とは逆に恐怖に歪んだ顔で迫り来るMSを見つめる。そしてストライクが鋼鉄の腕が彼女を掴み上げ一気に機体の頭の高さまで持ち上げ、宣言する。
「この女の命が惜しいのなら、くだらない小細工は止めて今度こそ降伏しろ!」
 格納庫に居た全員が作業服の女の顔を見る。どうやらこの中で一番階級が高いのが彼女らしい。
 展開の移り変わりに付いていけなかった彼女だが自分が決断しなければならないことに気づき、側に落ちていた先程まで士官服の女が持って居たマイクを拾い上げるが、決断に迷っている。
「大尉、こんなヤツの言う事を聞いてはいけません!このMSはわが軍の機密です。自分にかまわず……」
(まだ意識があったか……あの女はすぐ気絶したんだが)
 カナードは士官服の女が意識があることに少し驚いていた。
 一気にMSの頭の高さまで上げたので失神したものと思っていたのだ。
 その上この状況でも軍の事を考えるその意思。それ等が少し彼の心をイラつかせ決断を急がせる。
「早く決断しろ!この女を見捨てるのか!しないのか!」
 作業服の女は覚悟を決め返答を口にしようとする。
「解ったわ……要求を……」
「ちょっと待った、答えを出すのはまだ早いぜ!」
 作業服の女の声を遮り、若い男の声が格納庫に響く。
 ツカツカと足音を立てて、紫色のパイロットスーツの男が格納庫に入ってくる。
(何だコイツは?)
 カナードは男を注意深く見る。
(正規のパイロットスーツじゃないな……それなりの腕のエース……あのMAのパイロットか)
 通常、地球軍のパイロットスーツは青を基調としており、この男の様な紫色といった特別な色はエースでなければ着る事が出来なかった。
 そうこう考えているうちに男は作業服の女の側まで歩み寄り彼女の手からマイクを引っ手繰る。
「ストライクのパイロット、聞こえているか?」
「ああ、聞こえている。さっきのMAのパイロットだな?」
「ご名答、良く解ったな!それにしてもアノMS強かったな!アイツじゃなかったみたいだが……」
「そんな事を話しに来た訳じゃないだろう、さっさと本題に入れ!」
「そう急かすなよ、男はゆとりがないといけないぜ」
(なんだコイツ、飄々としてイラつく野郎だ)
 本当なら頭部バルカンで問答無用でミンチしている所だが生憎弾切れだ。そもそも弾が残っていたなら最初の段階で格納庫に居た全員を撃ち殺して終了していたのだが……
「じゃあ、本題に入るぞ。大体事情は解ってるが目的の物を手に入れたらどうする?」
「決まっている、ザフトを叩くそれだけだ!」
「その後は?」
「船を奪ってこのコロニーから脱出する」
「そいつは無理だな」
「何だと!」
「港はアノMSにヤラレ壊滅……船なんか残っていないよ」
(クソッ!どこまでもイラつかせるMSだ)
 カナードは漆黒の闇に消えたMSを倒しておけば良かったと激しく後悔する。最もこの後悔はこの先何度もする事になるのだが……
「つまりだ、こんな事をしても無駄って事だ……解ったならのならMSを降りて」
「おい、お前!この俺を雇え!」
「はあ?」
「外にはザフトが居て、このMSを狙っている。この艦だけじゃザフトのMSに対抗できない、だが俺を雇ったのなら話は別だ安全圏まで俺がエスコートしてやる。報酬はそうだな……頭金で50万、MS一体につき2万……払えなきゃこのMSでいい」
 カナードの自分勝手ないい分にMSの手の中にいる士官服の女がキレた
「ふざけるな!お前になど守ってもらはなくともコチラには大尉殿がいる」
「その男のMAは修理が必要だ、MA乗りであるこの男にはこのMSは乗りこなせない……違うか?」
「悔しいがその通りだ……だが俺にはこの船の決定権はない」
 格納庫にいた全員が士官服の女を見上げるが
「艦長以下、艦の主だった士官は皆、戦死されました。今は、ラミアス大尉がその任にあると思いますが……」
 今度は作業服の女に皆の視線が集まるがカナードがその事に突っ込む。
「待て、その女は技術士官だろ!何故決定権がある?」
「……ラミアス大尉はMSという新兵器の技術体系を学ぶ事によってMSの運用をより円滑に行うため技術部に出向されていたのだ……そうですねラミアス大尉?」
「えっ!ええ……そういう事に成ってるのね……」
(何がそういう事に成ってるのか知らんが……大丈夫か?)
 カナードがその事実を知るのはもう少し後のことになる。
「解りました、十分な報酬が出して貰えるか約束できないけど、ハルバートン提督にお願いしてみるわ」
「決まりだな」
 こうしてカナードはアークエンジェルに乗ることになった。
 それが世界の行く末を決める戦いの始まりだとは誰一人知る由ではなかった。