Canard-meet-kagari_第11話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:30:22

第11話

「アイツ……この借りは必ず返してやる」
 怒りに燃えるカナードは、自分をこんな目に合わしたイージスのパイロットに復讐を誓った。
 デブリの群れに飲み込めれたストライクだったが、PS装甲のお陰で目立った外傷はない。これがもし通常の装甲だったら、ストライクも今頃はあたりを漂うデブリの仲間入りをしていただろう。
 しかし、そのせいでストライクのバッテリーは大幅に消耗させてしまっていた。
(またコイツに助けられたな……)
 そんなことを考えていると通信機に通信が入る。
「こちらアークエンジェル、ストライク応答せよ、繰り返すストライク応答せよ」
「こちらストライク『ガンダム』、聞こえているぞ」
 カナードがわざとガンダムを強調して答える、生死を共にしたストライクに対して彼なりの拘りがあるのだろう。
「直ちに帰還して欲しい所だが、問題が発生した。先程、救命ポッドからSOSをキャッチした。
「救命ポッドがSOS通信を出すのがどうして問題になるんだ?」
 通常コロニーからパージされた救命ポッドは救難信号を発信しながら救助を待つ、だからポッドが救難信号出しているのは普通のことなのだ。
「それがデブリが衝突して、推進システムとライフシステムの一部が故障したらしい……救助船を待っていたら助からない」
「それは大変だな、それで俺に救助しろというつもりか?」
「……その通りだ」
「ふざけるな!何で助けなければいけない、だいたい物資にそんな余裕は無いはずだ」
「しかし、見捨てたとあれば大西洋連邦の威信に関わる問題なのだ」
「何が威信だ、そこら中に戦争を広げておいて落ちる威信があるのか?」
 カナードの非難にナタルは痛いところを突かれたのだろう、用件だけを伝えて通信を切った。
「とにかくポッドを回収したら、今後のことを話し合いたいのでブリッチに来い。以上だ」
「おい、勝手に話を進めるな!……チィッ!」
(まあ、避難民の事で悩むのはアイツ等なんだから別にいいか)
 そう思うとカナードは指定された座標に向け、ストライクを移動させる。後にカナードはこの事を何度も後悔するわけだが、それは先の話である。

 カナードがポッドを回収し、ストライクをアークエンジェルに着艦させる。すぐに整備班が機体に取り付き、ダメージチェックと整備を開始する。
 カナードがコックピットが開くとマードック軍曹が労いの言葉を掛ける。
「こっちでも見てたが、お前さん大した腕だな」
「当然だ。機体の整備を頼む、ブリッチに呼ばれている」
「解った」
 カナードがブリッチに向かおうとすると後ろから話し声が聞こえる。
「フレイ!」
「サイ!本当に実物のサイなのね」
「どうしたんだよ、そんな事言い出して……」
「だって空気が脳にいかなくなると、幻覚とか見るって……」
「大丈夫、幻覚なんかじゃない俺はここにいるよ」
「良かった」
「あ~あ、見せ付けてくれるよなぁ」
「トール!止めなさいって」
「うらやましい……」
(能天気な奴らだ)
 カナードは、そう思いながらブリッチに向かう通路を進んで行く。
「おーい、カナード!」
 カガリが手を振りながらカナードの方へに向かってくる。手には大きな台車を押している。その台車の上には沢山のレーションがキチッと整頓されて乗っている
(一番能天気なヤツがココにいたか)
 そう思ってるカナードを尻目にカガリが一方的に用件を伝える。
「非難した人達にゴハンを配りたいから手伝ってくれ」
「断る」
「何でだ!」
 手伝うのが当然と考えていたカガリが理由を問いただす。
「俺はブリッチに用が有る、そこをどけ」
「アンナ奴らに構うなよ、さっきだって避難民を回収するかどうかで艦長と副長が揉めてたし、それに今だって私がゴハンを配るって言っても駄目だって言うし……」
 どうやらブリッチ内でもポッドを回収するかどうかで一悶着あったようだ、それより問題なのは……

「ちょっと待て、ブリッチの連中が配れって言ったんじゃないのか?」
「いいや、これは私の意志だ!困っている人達にゴハンを配るんだ、それのどこに問題がある!」
 カガリはどうだとばかりに胸を反らす、だが問題なのはそこではなく。
「大有りだ、物資だって限られてるんだ勝手な真似をするな!」
「ああっ!お前っ、副長と同じことを言う気か!」
 どうやらブリッチでも似たような事をナタルが言ったらしい……当然だが。
「とにかく、何を言われようと私はパンを配る」
 何を言っても無駄だと思ったカナードはヤケクソ気味に
「解った、解った、好きにしろ」
 そう言うとレーションの一つを持ってブリッチに向かう。
(もう、どうにでもなれ)

「遅いぞ、何をしていた」
 カナードがブリッチに入るとナタルがキツイ口調でカナードを問いただす。だがカナードは悪びれもせず、
「ちょっと腹ごしらえをしていただけだ」
「いい気なものだな……!?待て貴様、何処から食料を持っていった」
「アイツがポッドの連中に配ろうとしていたのを貰っただけだ」
「まさか……シモンズか!」
「他に誰がいる」
 そういえば、そんな名前だったなと思いつつカナードがナタルに答える。
「アイツ~」
 ナタルは頭を掻き毟りたい衝動に駆られるが必死にこらえ、若干声を荒げつつ。
「すぐに止めさせます」
 ナタルがブリッチから飛び出そうとするのをムウが止める。
「まあまあ、落ち着きなって、もう配ってるだろうから途中で止めたりできないだろ?それに避難民には、いつか食事を配らなきゃいけないんだ。今は今後の対策を考えようや」
「はっ、はい、解りました」
 ナタルが向き直り、いつもの口調に戻しブリッチいる全員に向かい
「まずは、メインスクリーンに注目してもらいたい」
 メインスクリーンに宙域図が呼び出され、アークエンジェルとザフト艦、それと周辺の軍事施設が映し出される。
「まず、敵の戦力だがヘリオポリス崩壊前に確認されたのは、ナスカ級一、ローラシア級一です、共に艦載可能MS数は六機ですが奪ったGシリーズを曳航させてるとは思えないので、全部で七機のMSを積んでいたと考えるのが筋でしょう、他にも一機、新型MSが確認されていますが、これはひとまず敵の戦力から外しておきましょう」
「どうしてだ?」
 その言葉に不審に思ったカナードが質問する。
「理由は後で説明する」
 ナタルはそう言うと説明を続けた。
「次に、残りの敵戦力ですが……」
 ナタルが言葉に詰まる、彼女にしては珍しい。間の長さに我慢できなくなったカナードが口を挟む。
「どうした?」
「数が多いのだ、こちらの予測よりも」
「何を言っている、ガンダムの起動時に一機、さっきの戦闘で六機、合わせて七機だ」
「いや、俺がコロニーの外で二機落としたから、今までに倒した敵は全部で九機になるんだ」
 カナードが息巻いて言うのをムウが横から訂正する。七機しか積んでないはずの敵艦から九機のMSが発進した……どう考えてもおかしい。
「流石は『エンディミオンの鷹』だな……敵が三機撃墜されて格納庫に偶然、空きが出来た、またはMSが別部隊からの増援だったり、MSが曳航されていた可能性は?」
 カナードの質問にマリューが答える。
「敵は機体の自爆装置を解除した上で奪って行ったのよ、そんな事まで知っている敵にしては偶然空きが出来たと考えるのはお粗末ね。それとヘリオポリスの管理データでは、MSの航続稼働範囲内にいるザフト艦はあの部隊に以外ないし、望遠映像でもMSは曳航されてい無いわ。あの短時間で撃墜された機体を回収、修理したとは思えないし……」
 ブリッチに沈黙が広がる、敵はこちらの予測を超えた数のMSを送り出してきている。敵の得体の知れなさにブリッチに集まったメンバーが少なからず恐怖する中
「始めから積んでたんだろ?」
 突如、場違いな少女が沈黙を破った。
「カ、カガリさん」
 ブリッチの全員が入り口に現れたカガリに注目する。カナードが呆れ顔でカガリに
「何でお前が出てくる……」
と言うとカガリは少々ムッとして、
「私が出てきて悪いのか!艦長に用事があって来たら、みんな難しい顔で七機なのに九機じゃおかしいって、話してるから最初から九機だったんだろって言っただけだ」
 カナードは、ため息交じりにカガリに聞く
「なんで七機なのか知ってるのか?」
「知らない、そもそもなんの数なんだ?」
 コイツには構ってられない、誰もがそう判断した時、マリューがカガリに向き直って、用件を聞く。
「それで?私に用事って何かしら」
「ああ、そうだった。非難した人の中にお医者さんが居て、艦長の肩の怪我の事を話したら手当てしてくれるって」
 マリューの肩の傷は、格納庫での銃撃戦で、飛んできた銃弾が掠っていった時に負傷した物だ。
 カナードに手荒く扱われたせいで、かなり広がってしまい、今は痛み止めで抑えているものの、早く適切な処置をしなければいけなかった。
「そう……ありがとう。会議が終わったら診てもらうわ」
「ああ、それと避難民の中にも怪我人がいるから医務室を使わせてくれって」
 おそらく医者にとって、そっちの方が重要なのだろう。マリューの怪我の手当てをするのはついで、いやそれよりも自分が医務室を使い、避難民の中の怪我人を手当てするための方便だろう。
「ええ、許可します。カガリさん医務室は解る?」
「薬とかを運んだ部屋の隣だろ?」
「そうよ」
 二人のやり取りを見ていたカナードが、はき捨てるように言う。
「用が済んだなら、さっさと行け」
「私がいたら悪いのか」
「今は大事な話をしている、お前がいると話が前に進まない」
「私が何時、みんなの話を止めた!」
「今も頓珍漢な事を言って会議を止めただろう」
 カナードの言葉を先程から何かを考えていたナタルが打ち消す。
「あながちシモンズの言った事は、間違っていないかも知れんぞ」
 それを聞いたブリッチのメンバーがざわつく。
「何?」
「どういう事なの?」
「説明してくれるか少尉」
 カナードとマリューが不審に思い、ムウが説明を求める。
「はい、敵は最初から九機のMSを積んでいたと言う事です」
「でも、それは……」
「敵が最初から五機のMSを狙っていたら考えにくいでしょうが、もし敵が狙ってたのが三機ではどうです」
「どういう事だ?」
 ますます訳が解らないと言いたそうなカナードの質問にナタルが答える。
「事前に敵が察知した情報では、三機だったという事だ」
「あっ!」
 マリューが小さく驚きの声を上げる、何か気づいた様だ。
「御気好きになられましたか、GATX-105とGATX-303は、さる事情でロールアウトが遅れていた。そうですねラミアス大尉?」
「そうよ。たしか……ストライクがストライカーパックのアタッチメントの調整とイージスが変形機構の調整のせいで……」
 マリューの言った事は、表向きは事情だが実際は違っていた、ストライクはフレーム強度と追随性の強化、イージスは変形機構を利用した攻撃をする為の改造、どちらも本来乗るはずだった人物の意見を元にした強化改造だったが、その事実をマリューは知らない。
「そのため、敵が情報を知った時は三機だった……そう考えれば敵の戦力にも納得がいきます」
 ナタルは、そう推論するが実際は違う。全ては連合、ザフトを巻き込んだ壮大な計画の一部だという事を彼女は知らない。
「そう言えば、格納庫の敵は大型の火器は持ってなかったな」
 カナードが思い出したように言う。確かにカナードが言うように、格納庫にいた敵部隊は、バズーカなどの装備は使ってなかった。
 もし格納庫に展開した部隊がそれらの装備を持ってたらカナードが乗り込む前にストライクは奪われていただろう。
「おそらく格納庫の部隊は陽動の為の工作部隊だろう、何らかの事情で格納庫の二機のことを知り、急遽、強奪することになった。そう考えれば装備が整ってなかったのも納得がいきます」
 ブリッチに居た全員が、なるほどとうなずき合い、ナタルの推論に感心する。一名を除いて……
「何が納得いくんだ?」
「お前のお陰で敵の戦力の謎が解けたという事だ」
「ほら見ろ、私は邪魔者ではない」
「解ったから、さっさと出て行け。用事はもう済んだだろ」
「何だ、その言い方は……」
 まだ何か言いたそうなカガリをナタルとマリューが両脇からカガリをブリッチから追い出す。外に出し、ドアをロックを忘れずに掛ける。

「となると……後はアノ新型の事か?」
 ムウが敵の戦力の中で最も不可解な存在について口にする。敵戦力が撤退する中、一機だけ現れ、バッテリーの残量が少ないとはいえカナードとストライクを後一歩まで追い詰めたMSだ。
 そのMSの映像がスクリーンに映し出される。
「この機体は、おそらく新型MSの『シグー』でしょう、まだ一部のエースにしか配備されてない機体なのですが……」
「この機体の事は敵艦の戦力に入れて無かったわね」
 どうして?と言いたげなマリューにナタルが答える。
「当然です。この機体は……」
「このMSは、目の前の敵艦から発進したんじゃないんだ」
 ムウがナタルの言葉をさえごり、実際に見たことを自分の口で説明する。
「この機体は俺が二機目のジンを落とした直後に、それまでの敵と逆方向から現れたんだ」
「近くのザフト艦から発進して、逆方向から回ってきたって可能性は?」
 カナードが質問するのをナタルが答える。
「ヘリオポリスのデータでは発進したMSは三機だけだ」
「それにこの映像では解らないが、ヤツが現れたときは腰の両サイドと背中にプロペラントタンクを積んでたんだ……奇襲のための遠周りにしては些かオーバー過ぎるだろ」
「恐らくこの機体は機動力、航続距離を重視した改造が加えられているのでしょう。反面に小回りと防御力は低いので戦闘力は本来の七割という所でしょう」
 ナタルの分析にカナードは内心穏やかではなかった。
(あれで七割だと……パイロットは何者なんだ)
「何処から来たとしても俺達が撃墜したし、クセも強いだろうから乗りこなせるパイロットは何人も居ないだろうから、あれ一機だけだと思いたいね」
 ムウは軽い調子で言ってるが、あの機体のパイロットと同じ腕のパイロットなど考えたくないのだろう。
「それよりも今敵の戦力で最も注意しなければいけないのは『G』シリーズでしょう、カナード君、イージスと戦ってみて、あれが後三機を相手にして勝てる自信はある?」
 マリューが短刀直入にカナードに聞く
「……今なら他に三機のガンダムが加わったとしても勝つ自信がある」
 少し考えた後、カナードが自信満々に答える。
「今ならか……」
 ムウが意味深に呟く、どうやらカナードの言いたい事が解ったらしい。
「奪われた四機のスペックデータをくれるなら、より確実になるが……」
 カナードの提案を聞いたマリューがしどろもどろに答える。
「それは……その……なんというか……」
「寄越すのか、寄越さないのかはっきりしろ!」
「いいだろう、『G』シリーズのデータを提供しよう」
「バジルール少尉!」
「我々の今の最重要目標は本部と連絡を取る事です。より確実な方法をとるべきです。そして針路ですが私は『アルテミス』に針路を取るべ
きだと思います」
「アルテミスだと……」
 その言葉にカナードが過敏に反応する。
「傘のアルテミスかい?あそこはユーラシアの軍事要塞だぜ?すんなりいくとは限らないぜ」
「しかし、物資の都合上、月に針路を取ることは出来ません、アークエンジェルとストライクは、我が大西洋連邦の極秘機密だと言うことは、無論私とて承知しております。ですが今はアルテミスに入って補給を受け、そこで月本部との連絡を図るのが、最も現実的な策かと思いますが」
「解りました、針路をアルテ……」
「待て!俺は反対だ!!」
 カナードが突如、声を張り上げる。
「何故だ、我々の物資では……」
「物資が足りないのなら、避難民を降ろせばいい」
 カナードの突拍子のない発言にムウが反論する。
「無茶言うなよ、そんな事を言ったら暴動に成りかねないぞ」
「貴様、何かアルテミスに行けない理由でもあるのか?」
「グッ、なっ無い!」
 ナタルの指摘にカナードは図星を突かれるもとっさに否定する。
「なら良いじゃないの、針路をアルテミスに!良いわねカナード君?」
 カナードはしばらく黙り、何かを考えた後、短く
「……解った」
 と答えた。