Canard-meet-kagari_第15話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:31:15

第15話

 漆黒の宇宙の中、光り輝く繭が浮かんでいる。
 ユーラシア連邦の宇宙要塞『アルテミス』
 要塞周辺にアルテミスの傘と呼ばれる全方位光波防御帯を発生させる事であらゆる攻撃を防ぎ、難攻不落の要塞として知られている。その要塞の中では付近の宙域で行われている戦闘を静かに観戦していた。
「新たに三機のMSが戦闘に加わるもようです」
 オペレーターの報告を聞き、この要塞を預かる司令官はスクリーンに写る新たに現れた三機のMSを見つつ
「戦闘データの記録を引き続き行え、特にザフト側のを念入りにな」
「ハッ!あの大西洋側のはよろしいので……」
 オペレーターは敬礼をした後、連合側で戦っている機体について訊ねた。今までの戦いから見るにその機体のデータを収集するのが有効だと思ったからだ。
「もう直ぐ、間近で見れるのをわざわざ記録するまでもないだろう?」
「ザフト側のMSは四機なのですよ……とても勝てるとは思えません」
「わしの感が正しければ必ずやって来る」
 司令官はそう言うと黙ってスクリーンを見据える。
(大西洋の馬鹿共め、せっかく開発したMSを奪われるとは……)
 司令官は拳を握り締る、大西洋連邦がMSを開発する時間を作れたのは彼等が自分達にした裏切り行為のおかげだという事を思い出したからだ。
(それにしても、やはり生きていたか)
 指令の手元の端末にはMIA認定をされた彼の部下が画面の中から睨んでいた。

「アスラン、貴様はココで見ていろ、ヤツは俺が倒す」
「待て!イザーク、アイツは……」
「ディアッカ、援護しろ」
「OK」
 デュエルがビームライフルを構えつつ、ストライクに向かい、後方からバスターが援護射撃をする。ストライクはシールドでビームを受け止める。
 このままでは、火力の違いからストライクが撃墜されるのは明白だった。
「なら……こうするまでだ」
 ストライクはビームサーベルを構えつつデュエルに向かっていく
「面白い……格闘戦かぁ!」
 イザークは、ニヤリと笑うとデュエルにビームサーベルを抜かせストライクに迫る。ストライクのビームサーベルをデュエルがシールドで受け止め、デュエルのビームサーベルをストライクがシールドで受け止める。
 その様子を見ていたディアッカは舌打ちをする
「あのバカ、あんなに近づいたら撃てないだろうが……」
 ストライクとデュエルは近づきすぎていて、撃とうものならデュエルにまで当ってしまう、そう判断したディアッカは引き金を引けずにいた。
「裏切り者がぁ!!」
 イザークは叫び声と共にストライクを押そうとするがデュエルのバックパックとエールストライカーとでは推力が違う。押す事も引く事も出来ずにいるとストライクの首が動きデュエルのメインカメラに目掛けてイーゲルシュテルンが襲い掛かる。
「ヒィイ!!」
 イザークは怯えて叫び声を漏らす。デュエルもPS装甲である為ダメージは無いが、そうと解っていても人間はそう簡単に恐怖心は消せないものだ。
「続けて!!」
 怯んだデュエルに今度はストライクが体当たりをする。
「グァアッ!!」
 エールストライカーの強力な推力を得たストライクの体当たりを受けデュエルが吹き飛ぶ。
「まずは一機!!」
 カナードはそう言うとストライクにビームライフルを構えさせ吹き飛んでいったデュエルに向ける。

「イザーク!!」
 仲間の危機に両肩のミサイルを発射しつつビームライフルとガンランチャーを撃ちながらバスターが突撃してくる。ミサイルと砲撃の雨をAMBACとエールストライカーのスラスターを細かく操作しながらバスターに向かっていく。
「しまった!!」
 ディアッカが声を挙げるが、もう遅いビームサーベルを抜きバスターに切りかかるストライク。バスターには攻撃する為の近接装備も、防御をする為のシールドもない。
 しかし、ストライクの腕が不意に止まる。見ると腕にはワイヤーが巻きついている
「ディアッカ!!早く逃げてください」
 ブリッツのニコルから通信が入る、ストライクの攻撃をブリッツの左腕に装備されたワイヤークローで止めたのだ
「サンキュー、ニコル……グフォ!!」
 ディアッカが油断したその時、ストライクのキックがバスターの腹に決まりバスターが吹き飛ばされる。カナードはストライクの腕に巻きついたワイヤーを力ずくで引きちぎろうとするがワイヤーはびくともしない。
「しゃらくさい」
 ワイヤーを引きちぎるのを諦めたカナードは、ストライクに盾を構えさせブリッツに突っ込んでいく。ニコルはブリッツの右腕に装備された攻盾システム『トリケロス』に内蔵されたレーザー砲を使うがストライクなどが装備しているビームライフルに比べ出力が小さいのでPS装甲に決定的ダメージを与えれない。そのままストライクがブリッツに体当たりし、その衝撃で右腕に巻きついていたワイヤークローが外れる。
 一連の攻防の中でカナードは自分の予想が正しかった事を確信する。
(やはりコイツラは機体に慣れてないな)
 カナードがナタルに四機の同性能のMS相手に勝てると断言した理由がこれだった。
 三度の実戦をストライクで経験し、機体の特性を完璧に把握した自分と違い、敵のパイロットは自分のMSの事を全く知らないのだ。
 もちろんデータなどで機体スペック等は知っているだろうが所詮データだ。実際に自分が動かし、戦ってみて初めて機体の性能は解ってくるのである。
 イザークはPS装甲があるにもかかわらず実弾を恐れ、ディアッカは自機の武装を考えず突撃し、ニコルは武器の威力を知らなかった。
 そしてアスランもそうだ、カナードと互角の腕を持っているのだが機体に慣れていない為に反応が遅れ、左腕を使えなくしてしまい、さらにイージスには両腕両足にビームサーベルが仕込んでありにも拘らず右腕一本だけでストライクに挑んでいた。
 両足のサーベルを使いこなせていれば、ストライクに勝つ事だって出来たはずだ。

「これで終わりか?エース揃いのクルーゼ隊が聞いて呆れるな」
 Gシリーズ専用回線を使い、カナードが嘲笑する。
「おのれ……言わせておけばぁ」
 イザークが歯軋りをしつつ、単機でストライクに挑みかかろうとするのを、イージスが立ちふさがり止める
「待つんだ、イザーク」
「アスラン!!除け!ここまでコケにされて貴様はザフトの戦士としての誇りが無いのか!!」
「一人で戦っても、またさっきの様に返り討ちに遭うのが解らないのか?ここは全員で協力するんだ」
「アイツは俺のエモノだ!!」
「いい加減にしろ!!俺達の任務を忘れたのか?あの機体はなんとしても今倒さなければいけない……そうしなければラスティ達の死は無
駄になってしまう」
「アスラン……いいだろう、ディアッカ、ニコル、ストライクを囲むぞ」
「了解、了解」
「解りました」
 四機のMSがストライクを包囲しようとするが、やはり機体に慣れてないか動きがぎこちない。その動きををカナードは鼻で笑う。
「フン!自分の機体すら満足に動かせない連中が俺とガンダムを捕まえられるものか!!」
 エールストライカーのスラスターが火を噴き、凄まじいスピードで逆に四機のガンダムを翻弄する。
「クッ!このままでは……」
 何とか一機だけストライクの動きについていけるイージスの中でアスランから焦りの言葉が漏れる。

「馬鹿な、ザフトレッドが四人がかりで手も足も出ないだと!!こんな……こんな事が……」
 アデスは狼狽を隠せない様子で五機のMSの戦闘を見ている、一方クルーゼは冷静に敵の動きを見ていた。
「やはり慣れているのといないのではこうも違うか……」
 四人の動きはジンより高性能な機体に乗っていてもジンに乗ってる時と殆ど変わらない。さらにクルーゼはカナードですら気づいていないストライクと他の四機との運動性の違いも知っていた。
(機体の追加改良が仇に成ったか……元々彼用に調整していたのだが、あのパイロットがヤツの言っていた失敗作なら使いこなせても不思議ではないな……全く運命とはいつも皮肉なものだな、私とムウが繋がっている様に彼もあのパイロットと繋がっているという事か……)
 そこでクルーゼは、ふとムウが戦闘に出ていないことに気づいた。
「敵はMS以外は出してないのか?」
「はい、確認できる限りでは、しかしこうもデブリが多くては……」
「敵艦の様子は?」
「最初の砲撃以来まったく攻撃してきません、MSに流れ弾が当るのを恐れてるのでは?」
「なら今度は此方から打って出るぞ、ヴェサリウス砲撃開始だ」
「主砲、発射準備!照準、敵戦艦!」
「主砲、発射準備!照準、敵戦艦!」
 アデスの指示をオペレーターが復唱する。クルーゼは戦場でその気配を現さない宿敵の事に思いを巡らせていた。
(彼にやられたMAの修理が終わってないのか?それに敵艦の動き……ッ!!!この感じは!!)
 クルーゼの脳髄に稲妻が走り、彼の宿敵の存在を知覚する。
「機関最大!艦首下げ!ピッチ角60!急げ!」
「一体どうしたんです隊長?」
 アデスが突然の上司の命令に怪訝な顔をしたその時にオペレーターが慌てふためきながら報告する。
「本艦底部より接近する熱源、モビルアーマーです!」
「何だと!!どうして今まで気づかなかった!!げ、迎撃!!打ち落とせ!!」
「間に合いません!!!」
「間に合わせろ!!」
 殆ど半狂乱になったアデスを尻目にクルーゼが冷静に対処する
「総員、対ショック姿勢」
 クルーゼが言い終わるのと同時に鑑底部からの砲撃がヴェサリウスを襲う。
(ムウめ……)
 衝撃に揺れるブリッチの中でクルーゼは苦虫を噛み潰した様な顔を仮面に隠しながら撤退を指示する。
「離脱する!アデス!信号弾を撃て」