Canard-meet-kagari_第21話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:32:33

第21話

「ミラージュコロイド生成良好。散布減損率35%。使えるのは、80分が限界か……それでもやれる」
 ニコルはコクピットの中で呟き、ブリッツを慣性移動でアルテミスに向かわせた。アルテミスはガモフが離れると傘を閉じ、今は全くの無防備と言っていい。
 ブリッツは音も無くアルテミスに辿り着くと、少しでもコロイド粒子を節約する為にミラージュコロイドを解除し、グレイプニールで砲台を潰していく。
 アルテミスの管制室は、ようやく敵機の襲来に気づき慌てて傘を展開するが、それが仇になった。
「それが傘の発生器か!!」
 ニコルは展開しきる前に発生器を破壊し、そしてドッグに向かって突き進んでいく。途中、銃座による迎撃があったがPS装甲を起動させたブリッツには効果が無かった。緊急発進したメビウスをイーゲルシュテルンで打ち落とす。
「思ったより展開が早い……急がないと」
 もしストライクが今、迎撃に出てきたらニコルの考えた戦法は通用しなくなってしまう。ニコルはブリッツのスラスターを吹かしアークエンジェルの収容されているドッグへ急いだ。

「内骨格系および駆動系解析完了、それとビームライフル制御系とOSデータコピー完了しました、あとビームサーベルが30%解析完了してますがPS装甲の解析が難航しています……」
「そうか……おい、もっと急げ!!」
 部下からの報告を聞きガルシアは自分に銃を向けながら解析を進めてるカナードを急かした。カナードは先程ガルシアから貰ったパイロットスーツを着て、自分の体になじむスーツの感触を確かめつつストライクのキーボードを叩きながら答えた。
「これが最速だ、横からゴチャゴチャ言うな!」
「何だその態度は!それが上官に対する態度か!」
「もうアンタの部下じゃない」
 そう言うとカナードは黙って解析を続けた。
「まったく貴様という奴は……」
 直後に振動がアルテミス全体を襲う。
「何だ!状況を報告しろ」
 ガルシアは直ぐに司令室と通信を繋ぎ状況を聞いた。
「解りませんザフト艦からの砲撃とは思えませんが……あっ!外部監視カメラに機影を確認、これは…連合のMSです」
「近くの銃座から迎撃、近くの発進口から準備の整ったMA部隊を出撃、迎撃させろ」
 しかしそんな事は気休めにしかならない事をガルシアは良く知っていた。そして次の命令を出す。
「……アークエンジェルのクルーの拘束を解除し発進準備をさせろ、それと艦長たちもアークエンジェルに向かわせろ」
「は?しかし……」
「敵艦が直ぐ近くにいるんだぞ!アルテミスの戦力ではどうにもならん……敵の狙いは、おそらくこのアークエンジェルとMSだ。もしアークエンジェルが発進すれば奴等は必ずアークエンジェルの方へ向かう」
「侵入したMSはどうします?」
「それはストライクに迎撃させる」
「しかしMSの解析は……」
「あとはビームサーベルとPS装甲の解析だけだ……少々惜しいがやむおえん」
「了解しました」
 ガルシアの部下が通信を切るとガルシアはカナードに向き直る
「そういう事だ…カナード頼んだぞ」
「勝手に決めるな、クソ、スーツのクリーニング代だ!!やってやる」
「あまりアルテミスに被害を出すなよ、近接格闘用の装備が在っただろう?それを使え」
「ったく、いつもいつも面倒な注文をつける」
 カナードは不本意だがガルシアの指示に従い、ガルシアをコクピットから出し、ストライクを移動させようとする。
「忘れ物だ」
 ガルシアがカナードにヘルメットを投げ渡す。スーツと同じく特別製のメットを被りながらカナードはストライクをカタパルトに移動させる。
「こちらカナード・パルス、ソードストライカーを早く寄越せ!!」
「おまえ……無事だったんだな!ちょっと待て……え~と」
 カナードの通信に答えたのは、なんとカガリだった
「またお前か」
 カナードがウンザリして言った。
「私だと不服だというのか」
「ああ、その通りだ。作業が遅い……前にオペレーターしてた奴はどうした?」
「ミリアリアはサイの代わりやってる」
(サイってダレだ……ミリアリアの隣にいた奴だったか?まあいいか)
 カナードはサイという人物の顔が思い出せなかったが気にせず質問を続けた。
「そのサイって奴はどうしたんだ?」
「サイはいない……」
「何で居ないんだ!」
「それは……お前が悪い」
「ハァ?それはどういう……」
「ほら換装終わり!さっさと倒して来い」
「言われなくても行く。カナード・パルス、ソードストライクガンダム出るぞ」

「見つけた!」
 ドックに侵入したニコルは何隻かの連合の戦艦の中で一際異彩を放つアークエンジェルを捕らえると、ドック内の他の艦を破壊しながらアークエンジェルに向かう。破壊された戦艦の残骸はドック内の酸素を燃やし、黒煙がドッグ内に広がっていく。
(これで舞台は整いました。早く出てきてくださいストライク)
 ニコルがそう思ってるとアークエンジェルのカタパルトが開き中から大剣を担いだストライクが出て来る。
「やはり予想通りソードですか……」
 ニコルの考えた戦法で一番厄介なのは飛び道具であり、それらを装備する他のストライカーパックは多少だが脅威だった。
 しかしニコルはストライクがソードストライカーを装備する事を確信していた。この狭いドッグ内でランチャーは威力がありすぎるし、エールでは機動性が発揮できないからだ。
「ミゲル達とイザークの仇は取らせて貰います」
 ニコルはそう言うと会心の秘策を実行した。

 出撃したカナードは、まず見たのはドッグ内に立ち昇る黒煙だった。
「チィ、視界が悪い」
 辺りを見回そうとするとすぐ目の前の戦艦が爆発する。
「もう来たか」
 カナードは黒煙の中からブリッツの漆黒の装甲を見極めるとシュベルトゲベールを抜きブリッツの左側から切りかかる。こうする事により武装が右腕に集中してるブリッツは僅かに迎撃が遅れるからだ。
 だがストライクのシュベルトゲベールが切り払ったのは煙だけでブリッツの姿は何処にも見当たらない。すると直ぐにストライクの背後からレーザがストライクの肩を掠める。
「何だと!?」
 ブリッツは煙の中のはず、なのになぜ後ろから攻撃が来るんだ。後方モニターには敵機の姿は無い。
(どこだ?)
 ストライクのセンサーを最大にして索敵を行うが敵機の姿は見えない。
(来る!)
 戦士としてのカナードの直感が、とっさに機体を横にステップさせブリッツの攻撃を避ける。
「クッ!どこだ!」
 熱センサーを使うがドック内の炎のせいで、まるで役に立たない。カナードはレーザー攻撃が飛んできた方向を注意深く見るが特に何も無い。
 いや僅かだか空気が揺らめいている。最初はドック内の炎に熱せられた空気のせいかと思ったが違う、揺らめきが巨大な人の形となっている。
「ミラージュコロイド……」
 カナードは以前見たブリッツのデータに記載されていた特殊装備のことを思い出した。特殊なコロイド状の微粒子を磁場で機体表面に定着させる事で、その物体に対し電磁的・光学的にほぼ完璧な迷彩を施す事が可能な装備だ。
「しかしスラスターが使えない。ソコだ!」
 カナードは慣性移動するブリッツの位置を予測しストライクの左肩に装備されたビームブーメラン『マイダスメッサー』を抜き投げさせるが、それは虚しく空を切りドッグの壁にめり込む。
「グゥ!なぜだ?ブリッツの軌道は完全に予測したはず……AMBACか!!」
 AMBACとは機体の手足を動かす際の反作用で機体の向きを変える操縦テクニックの一つだ。
「ならこれならどうだ!!」
 カナードはストライクの頭部バルカンをブリッツが居るであろう方向に乱射した。ミラージュコロイドの展開中はPS装甲は使えない、このままではブリッツは蜂の巣かあるいは…
「さあPS装甲を起動させてみろ、狙い斬りにしてやる」
 ストライクがシュベルトゲベールを構える、しかしブリッツの姿は現れない。その直後にストライクの背後が揺らめいた。
「後ろだと!?」
 ブリッツがビームサーベルを振るうが間一髪で避ける。
「バカな!AMBACで背後に回るなんて…」
 通常では考えられない事だったAMBACで出来るのは軌道を少しずらす程度だ。ストライクの前方にいたブリッツが背後に回る事は不可能な事だった。
 また背後からその後直ぐに右から、そして今度は左から…全方位からの予測不能な攻撃がストライクに襲い掛かる。発射された角度から敵の位置を予測しようにも煙と炎のせい発射位置が解らず、さらにスピードがバラバラな為にカナードでも予測が出来なかった。
「何がどうなっている!?」

(上手くいった)
 ニコルはコクピットの中で安堵した。敵は完全にこちらを見失っている。
 ブリッツ搭載されたミラージュコロイドとこのドック内の状況、その二つがカナードとニコルの間にあった差を完全に埋め、二コルがこの戦闘の流れを掴んでいた。
 この流れを生んだのは二コルが、このドック内の状況を味方につけた事が要因になる。ドッグ内に抑留された多数の戦艦、ドック内という四方を壁に囲まれている場所、味方の拠点内でストライクがソードストライカーを使うしかない事の三つを自分が有利になるように上手く利用したのだ。
 ニコルは周りの戦艦を撃墜し、燃え上がる炎と煙の中に隠れることでレーザーで攻撃した後の僅かな余熱と発射位置をカナードに察知されないようにし、AMBACと四方の壁にグレイプニールを打ち込みワイヤーを巻く事、さらに壁をブリッツが蹴る反動を使いスラスターを使うことなく加速したのだ。
 ニコルは、この三つを巧に使い分け慣性移動しか出来ないミラージュコロイド展開中のブリッツの動きを予測の出来ないように動かしていたのだ。
 そしてソードストライカーというストライクの装備が最後の決め手になった、もしランチャーストライカーなどを装備し、飛び道具を辺り構わずに乱射すればブリッツが流れ弾を食らう可能性もあったからだ、しかし今のストライクには飛び道具はほとんど無い、ビームブーメランを失い、さらにバルカンも使いきった様だ。
 ストライクは抵抗の意思を失くしたのかドッグの中央に対艦刀を構えて立っている。
「これで終わりにさせます」
 ブリッツは壁を蹴り、ストライクに止めの一撃を振るおうとする、しかし動きを止めていたストライクが対艦刀をフルスイングする。
「いい勘です……けど早い!!」
 ブリッツが止めを刺すことを予測しての攻撃だろうが、まだストライクとブリッツの距離は十分に離れている為ブリッツにかすりもしない。
(え!?これは…!!)
 二コルがカナードの真の目的に気づいたが既に遅かった。

「クッ!どこにいる!!」
 ストライクの装甲にブリッツのレーザー攻撃が容赦なく降り注ぐ。
(こうなったら……使うかあの感覚を……)
 ストライクの機体に耐えられるか解らないがあの極限の感覚ならブリッツの居場所を見つける事が出来るかもしれない。
 カナードは目を閉じ、精神を集中させる極限にまで……
「おいコラ!何やってるんだ」
 カナードは通信機から聞こえるカガリの声を無視する、今は精神を高めあの感覚を呼び覚ますのだ。
「聞こえてるのか!おい!さっさと倒せ」
 精神を集中するのだ極限まで……
「人には作業が遅いとか言ってたくせに……自分はそのザマか!このバカ、クズ、ロクデナシ、ヘタレ」
「やかましい!!静かにしてろ!!!」
 カナードは精神統一を邪魔するカガリに怒鳴る
「何だと!だったらさっさと倒せ!」
「姿の見えないのにそう直ぐ倒せるか!!」
「だったら、見える様にすればイイだろう!!」
 カナードはその言葉に反応する。
(見えるように……ハッ!そうか…アレを使えば……)
「クックック…何で気づかなかったんだ?クッハハハハハハ」
「おい、お前どうした?大丈夫か」
 コックピット内で笑うカナードをカガリが不審がる。
「お前のお陰で倒せそうだ」
「え?どういう……」
 カナードは通信を切り、勝負をかける一瞬を待った。

(…………今だ!!)
 ソードストライクがシュベルトゲーベルを猛スピードで振るい周囲の煙を吹き飛ばす。吹き飛ばされた煙はストライクを中心に放射状に広がり、その一部がブリッツの機体に沿って流れ、ブリッツの形が浮かび上がる。
 ブリッツの機体を隠す煙が逆にブリッツの位置を知らせる事になったのだ。
「そこかぁ!もう逃がすか!!」
 ストライクがシュベルトゲーベルを振り被りながらブリッツに近づきブリッツに振り下ろす。シュベルトゲーベルのビーム刃がブリッツの肩に食い込む、ブリッツはトリケロスを使い懸命に防ぐがジリジリと押されていく。
「でぃぃあああああああああああああああっ」
 カナードは気合と共にシュベルトゲーベルを振るい下ろされ、ブリッツは地面に叩きつけられる。
 PS装甲を展開してなかった為に叩きつけられた衝撃で、何処かが故障したのだろうミラージュコロイドが解除され灰色の装甲をしたブリッツの姿が浮かび上がる。
「悪いがあのアスランって奴の事を聞き出させてもらう」
 ストライクがゆっくりとブリッツに近づくだが、ストライクとブリッツの間に太い火線が走る。
「なんだ!?」
「おっとそこまでだ。ニコル無事か?」
「ディアッカ…」
 ディアッカの操縦するバスターがブリッツの側に寄る。
「チィ!バスターか邪魔をするなら……お前も倒す」
「お宅の都合なんか聞いてられないんだよ!グッバイ!!」
 バスターの両肩のミサイルポッドを展開し一斉発射する。その隙にバスターはブリッツを回収しアルテミスを離脱していく。
「待て!!」
 追いかけようとするがアークエンジェルから撤退命令が入る。
「発進するぞ戻れ」
「解った」
(この有様じゃ俺に回せる船は無いだろうからな)
 アークエンジェルは爆炎上がるアルテミスを後にした。

 アークエンジェルにストライクが着艦すると整備の班が修理に掛る。
「まったくボロボロにしやがって……って何だその格好?」
 マードックが愚痴りながらカナードのノーマルスーツを指差す。
「これか?俺に良く馴染む良いスーツだ」
「お―――い」
 カガリが慣れない無重力移動に戸惑いつつもカナードに近づいてくる。
「お疲れさん、ほら飲めよ」
 手に持ったドリンクをカナードに手渡す。
「何だ気が利くじゃないか」
「いや……その…お願いが……」
「何だ?お前のお陰で助かったからな、聞いてやっても良いぞ」
「そうか、じゃあ……」
 カガリが言おうとした時に後ろからカナードに声が掛る。
「あの……」
 カナードが振り返るとフレイが申し訳なさそうに居た。
「何だ貴様か!」
「私……その……アナタに……」
「あの時の落とし前がまだだったな」
 カナードは拳銃を取り出すとフレイの眉間に狙いを定め引き金を引く。
「まっ!!!」
「ひぃ!!!」
 だが銃声もなければ弾も出ない。
「次は無い、以後気をつけるんだな」
 放心状態のカガリとフレイの間抜け顔を見て満足したカナードがそう告げて立ち去っていく。
「アイツ!!」
「……何なのよ」
 二人は呆然とムウに機体データをユーラシアに漏らした事で連行されるカナードを見ていた。

 アルテミスでは必死の消火作業のかいがあって比較的被害が少なかったのだが全将兵達は悲痛にうな垂れていた。この基地の指令であるジェラード・ガルシアが戦死したからである。
 撃墜されたMAの一機がガルシアに落下……不死身の男と言われた英雄のあっけない最後だった。アルテミスに居る全将兵がガルシアが戦死した場所に集まった偉大なる指揮官の死を悲しんでいる。
「我々は今、偉大なる英雄を失った……指令の数々の輝かしい武勲、伝説は未来永劫ユーラシア連邦軍で語り継がれる事だろう……全員、軍神ジェラード・ガルシア大将に敬礼!!」
 副官がそう告げると兵士達は無言の敬礼でユーラシアの勇者を送り出した。
 その先頭に立つ副官は飛び込んできた幸運に体を震わす。
(アークエンジェルを拿捕したのをアノ禿の独断という事にして全ての責任を押し付け、X計画を私のモノにすれば……軍での私の地位は約束されたものとなる)
「諸君、我々は何時までも悲しんでいる訳にはいかない、私は亡き指令の意思を継ぎ、指令の成し遂げれなかったX計画を完遂する事に全身全霊を捧げる所存である!!」
 割れんばかり拍手と喝采が巻き起こる、アルテミスの全将兵は副官の本心を他所に熱狂した。
「力の足りぬだろう私に諸君の……」
 そこまで副官が言った所で目の前の瓦礫が崩れ落ちる。
「ふぅ~まったく死ぬかと思ったぞ」
 瓦礫を押しのけボロボロの制服のガルシアが這い出てくる。
 副官を始め他の将兵がゾンビを見る顔でガルシアを見ていると
「何をボサボサしている!ストライクのビームブーメランがどこかにあるから回収せんか!」
「は、はい!ただいま……それにしても良くご無事で」
「死ねるものか。アイツが泣きながら土下座して『乗せて下さい』と言う様なMSを作るまでな」
 そう言うとガルシアは、今回のアークエンジェル拿捕は副官の独断であるという報告書を作る為にドッグを後にした。