DEMONBANE-SEED_デモベ死_04_2

Last-modified: 2013-12-22 (日) 05:15:03

 右側にディン、左側にオレンジ色の新型機のエスコートを受けて、上空から極彩色のザクウォーリアが降りてくる。その掌に手を振る人影が乗っているのが地上から判別できるようになった頃に合わせて、会場に設置されたスピーカーが大音響でアップテンポな曲を流す。長い前奏の後、女性の声で歌が流れ始めた。

『静かな この夜に 貴方を 待ってるの』

 派手なMSの掌の上で、派手なフリを付けながら、派手な衣装を着た少女が歌う。ディオキア基地の一角に集まったいい年こいた軍人の集団が、熱狂的な歓声を上げて彼女―――ラクス・クラインを迎えた。1フレーズ歌い終えた頃に3機のMSは着陸したが、九郎らの居る位置からはまだ距離があった。

「う~ん、やっぱここからじゃ遠くてよく見えないな」

「妾は全く見えん」

 子供のような体格のアルは、完全に人込みに埋もれていた。

「そうだな、よし」

 唐突にしゃがみ込んだ九郎が、アルの股下に潜り込む。

「うにゃぁ? な、なにをする!」

 抵抗する間もなく、アルは肩車で担ぎ上げられた。

「これで見えるだろげ!? 肘はやめろ!」

「このうつけ! 変態! 場所を考えろ!」

 顔を真っ赤にしたアルが、九郎の脳天に肘打ちの連打をかます。

「あんたも場所を考えろよ」

「うっ……すんません」

「ふんっ」

 隣に居たヨウランの冷たい声で周囲の視線に気付き、九郎は腰低く頭を下げ、アルは拗ねて鼻を鳴らすと股下の主と融合、マギウススタイルとなった。周囲の者が突然の怪異にどよめくが、ヴィーノらミネルバ整備兵は気にもせずライブに熱狂していた。

 このラクス・クライン慰問ライブを見る為とはいえ、デモンベインの被弾箇所を徹夜で修理してくれた整備兵達に誘われたのが、九郎とアルがこの場に居る理由の一つだ。二人は魔術で視覚を増幅し、遠くで歌うラクス・クラインを名乗る少女に値踏みするような視線を向けた。

「どう思う?」

「うぅむ……微妙だな」

 もう一つの理由は、本物のラクス・クラインを知る二人の、贋物がどれだけ似ているかという興味だった。

「顔立ちは整形で似せておるし、声もよく似ておるが、表情も体型も違う。2年前までのあ奴しか知らぬ者ならともかく、最近会った者なら騙せまい」

「ああ、特に胸の大きさなんか全然違ryててててっ!」

 九郎の肩に乗ったちびアルが、耳を捻り挙げた。

「それに唄も全く違うな。本物の方が数段上だ」

「へえ、お前あの人嫌いじゃなかったのか?」

「無論大嫌いだ。だがそれと能力の評価は別であろう」

「能力って……歌ってなそんな風に割り切るものか?」

「唄は魔術的には言葉に魂を込める技法の一種だ。偽りか捻じ曲がっているかも知れぬが、その視点ではあ奴は間違いなく一流であろう。もっとも……」

 そこで区切ってアルは、ノリノリで歌うラクス(偽)を見やる。

「向こうの唄に込めた想いは間違いなく本物であろうな。好みで判断するならこっちの方が良い」

「確かにすげー楽しそうに歌ってるな。だからいい年こいた連中も熱狂するのか?」

 既に会場はアイドルコンサートのノリだが、そんなもの無い時代から来た九郎は面食らうばかりである。とはいえそれは物珍しいという事でもあり、二人はなんだかんだ言ってそれなりにライブを楽しんでいた。

 その日の夕方九郎とアルはディオキア市内のホテルに呼び出され、ラクス(偽)と共に来たデュランダルと会談する事になった。

赤服の士官に案内されてスィートルームのバルコニーに来ると、先に来ていたタリアと共にデュランダルが出迎えた。

「やあ、久しぶりだね。活躍は常々聞いているよ」

 相変わらずの芝居がかった親しさで、握手を求めて来る。

「どうも、お世話になってます」

 九郎は低姿勢で、アルは仏頂面で応じた。

「活躍は常々聞いているよ。ガルナハンでは見事な働きだったとか。このディオキアが解放されたのも、君達があそこを落としてくれたおかげだ。いや、本当によくやってくれた」

「いえ、自分の出来る事をやっただけです」

 饒舌に語るデュランダルに、九郎は気の無い返事しか返さない。

「ふむ、やはり人殺しの成果を誉められても嬉しくないか」

「っ! いえ、そんな」

「いや無理はない。君達が我が軍に参加してくれているのは、純粋に流血を減らしたい為に、多数の市民が住むプラントを護る為というのは理解しているつもりだ。本当は最前線ではなく、プラント防衛に回りたいのだろう?」

「はい、正直言ってその通りです」

 核によるプラント全滅を防ぐのが、九郎たちがこの世界で戦う理由だ。彼らが直接プラント防衛に就いても、その分の戦力が前線に送られるのは当然であり、ならば自分達が手を汚そうという判断だが、このまま超常の力を振るい続けて良いものか疑問は付きまとう。

「だが君達は少々目立ち過ぎたようだ。連合軍内では君たちの話題でもちきりだよ。人知を超えた術を操る謎の超巨大MS…・・・まあMSではないのだが、連合にとっては相当な脅威だ。それが最終目標と共にあれば、彼らは全力を持って潰しに来るだろう」

「つまり俺達がプラントに行けば、かえってプラントが危険に晒されると?」

 民間人の住むコロニーに核を使う事を躊躇しない者の全力―――あまり想像はしたくない。

「残念ながらその可能性は大きい。だが君達がこのまま地上で戦い連合の注意を地上に引き付ければ、その分プラントは安全になる。それにガルナハン・ゲートでの戦いが連合に与えた衝撃はかなりのものだ。何もない場所から突然デモンベインが現れる

可能性に恐れを抱き、各拠点の防御強化に全力を注いでいる。しばらくは攻勢に出られないだろう」

「このまま遊撃戦力として戦うのが最善って事ですか」

「その通りだ。頼めるかね?」

「俺達はもう軍隊に入っちまったしな。断る理由もないっすよ」

「妾は汝を信じた訳ではないがな」

「こらアルっ!」

「ははは」

 アルの無礼な言葉にも、デュランダルは苦笑しか返さない。

「例のあの事件の事かね? あれは調査中だが、私への嫌疑は晴れたものと聞いていたが」

 九郎とアル、タリアは顔を見合わせ、傍らに立つ赤服の士官に視線を向ける。

「ハイネ、少し話が長引きそうだから、アスラン達に待っていて貰うよう伝えてくれ」

「了解しました」

 視線の意味を敏感に察知し、デュランダルはハイネとかいう士官を口実をつけて退室させた。

「マルキオ邸襲撃事件については現在調査中だが、とりあえずは君達の存在と能力を知っている私が、君達への対抗手段がないまま襲撃指示を出す筈がない、という話だったと思うが」

「それに関しては……これを見て貰った方が良いな」

 そう言って九郎は、一枚の記録ディスクを出す。

「オーブで付けて貰ったデモンベインの戦闘記録装置だけど、マルキオ邸では稼動させてなかったと報告してます。これの内容はタリア艦長にしか見せていません」

「ほう……では早速見てみよう」

 一行はバルコニーから室内に移動し、備え付けの再生装置にディスクを入れた。映像が再生され、MSアッシュが次々と破壊される様子が映し出された。

「見事な戦闘だ。さすが伝説の鬼械神……うん?」

 デュランダルはすぐに違和感に気付いた。過剰に破壊されるアッシュだが、動力部に被弾しても爆発は起こらず、機体の中に手足が歪に付いたものが混じっている。やがて連合のMAが出現すると驚愕の声を上げ、その後の怪異には絶句した。

「こっ…・…これは……」

 アッシュと連合MAは融合して巨大な怪異となり、デモンベインとフリーダムを追い詰めるが、両者の協力で撃破された所で再生が終わった。

「正に妾達に似合いの相手、対抗手段としてはこれ以上なかろう?」

 アルの刺のある言葉に反応せず、デュランダルは何やら考え込んだ様子だ。

「増殖、融合、再生……まさかな」

「何か心当たりがあるんですか?」

「うぅん……この世界で魔道技術が発達していないのは、何故だと思うかね?」

「はあ?」

 九郎の問いに、デュランダルは関係なさそうな話を始めた。

「かつてはこの世界でも魔術の研究はもう少し盛んだったのだが、ある研究をきっかけに魔術は徹底的に忌諱され、そのものだけでなく歴史の記録すら抹消されたんだ」

 魔術に関しては相変わらず蚊帳の外のタリアだが、初耳という様子で息を呑む。

「ある研究?」

「ああ、魔道書のコンピュータ・プログラム化、いわばコンピュータ言語への翻訳だ。この研究がどれだけ危険を伴うか、アル・アジフ君なら理解出来るだろう?」

 話を振られたアルは、真剣な表情で答える。

「無限にコピーされ、ネットワークを伝って移動、拡散するコンピュータ・プログラム。外道の知識をそんなものにすれば、どんな脅威が生まれるのやら。妾にも想像は付かぬ」

「再構築戦争で使われた核の何発かは、魔道汚染した都市を焼き払い、EMPパルスでコンピュータを破壊する為に、軍が自国や友好国に投下したと言われている。確たる証拠はないが、記録上は誤爆となっているそういった事例があるのは確かだ」

 デュランダルとアルの会話は、九郎とタリアにはにわかに信じられないものだった。

「コンピュータのプログラムそのものが怪異になるってのか? そんな事が……」

「汝にはプログラムを記述と言い換えたほうがわかり易いか。妾の制御を離れたそれがどうなるか、汝はよく知っておろう」

 アル・アジフの制御を離れた記述の断片。それには九郎も確かに覚えがあった。

「ページ・モンスター? でもあれは……」

「あれらは妾の霊的因子の断片を拠り所に実体化していたが、この世界には多用な力の発生源があり、電子ネットはその大半へ繋がる事が出来る。その力を使って実体化というのもあり得るし、もっと直接的な力であるMSや兵器もデータのやり取りに電子回線を使用する。妾達が遭遇したのはそういったものだと言うのか?」

 アルは九郎への説明の最後に、デュランダルに問う。

「その可能性はある。だれがどこでそんなものを作ったのか、元々組み込まれたものか、どこかで感染したのか、情報の少ない現状ではなんとも言えんな」

「うむ。大本は連合のMAか、アッシュとかいうザフトのMSか。もっと別の何かなら、現場であるオーブにも疑いはある」

「アル君達から見れば、容疑者の最有力候補は私という事になるか」

「妾らの知る限り、動機らしきものがあるのは汝だけだ。当然であろう」

 元の世界でもそうだったが、アルの雇い主への容赦の無さは相変わらずだ。

「もう少し言い方を選べよお前」

「言葉を変えても事実は変わらぬ」

「いやアル君の言う通り。この嫌疑は自分で晴らすしかない。今後も事件の捜査に全力を尽くそう」

 デュランダルの答えはいつもの通り芝居じみていて、本気か嘘か見分けられない。

 その後の会話は大した進展もなく、アスランやシンらミネルバ所属の赤服仕官も合流しての会談となった。この世界の戦争を影から煽る軍需産業の存在も話題に上がったが、世間の流れに疎い事この上ない九郎や世俗に興味の薄いアルにはあまり付いていけない内容だった。会談も終わってデュランダルの手配したホテルの一室に泊まる事になり、部屋を出ると派手な衣装を着た娘がやってきた。

「アスラン!」

 一行を見るとその娘、ラクス・クライン(偽)は歓声を上げて駆けて来る。

「ミーっ、いやラクス?」

 ラクスを贋物と知っている九郎らの前でも、アスランは彼女の本名を一度も口にしていない。口の堅い彼が思わず言いかける程に、間近で見るステージ衣装の印象は強烈だった。

「これはラクス・クライン。お疲れ様でした」

「ありがとうございます」

 デュランダルの労いに笑顔で答えながら、ラクスはアスランの腕を取った。

「あっ!」

 彼にモーションをかけているルナマリアは当然面白くない。

「ホテルにおいでと聞いて急いで戻って参りましたのよ。今日のステージは見てくださいました?」

「え? ああ、まぁ……」

「本当に? どうでしたでしょうか?」

「あ、ああええ……」

 妙にテンションの高いラクスに、アスランは圧倒されている。

「彼等にも今日はここに泊まってゆっくりするよう言ったところです。 どうぞ久しぶりに二人で食事でもなさって下さい」

「 まあ、本当ですの? それは嬉しいですわ。アスラン、では早速席を」

 デュランダルがどこか面白そうに口を挟むと、アスランが何か言う間もなくラクスは話を進めていく。

「やはりあまり似ておらぬな」

「ああ、明るいっていうか何と言うか」

 横で見ていても気圧されている九郎とアルがこそこそ話していると、ラクスの視線がこちらを向いた。

「あら、貴方達がもしかして大十字様とアル様?」

「え? ああはいそうです」

「まあまあ! お噂はかねがね伺っておりますわ!」

 突然矛先を向けられて動揺する九郎らの前に、アスランを解放したラクスが迫って来た。

「世界を救った英雄! 異世界から来た魔法使い! 悪を断つ正義の刃の使い手! それがこんなにハンサムな方と、可愛らしい方なんて」

「い、いやあそんな……」

 間合いを詰めたラクスが九郎とアルを交互に見やり、アルに熱い視線を向け―――

「う~ん、本当に可愛い!」

「うにゃ!?」

 いきなり抱きついた。

「ああっ!」

 非公認アルたんファンクラブ会員No001、ちびアルと通常アルのどっちが萌えるか妹と日夜言い争っているルナマリアが、いつも自分が我慢している行為を目の前でされて悲鳴を上げた。

「こ、この、気安く―――」

「ラクス様とご一緒に居たのですってね?」

「っ!?」

 振りほどこうとしたアルの耳元で、ラクス(偽)が囁く。

「私の本名はミーア・キャンベルといいます」

 アルだけに聞こえるように名乗ってから離れ、にっこりと微笑む。

「お二人とは是非、ゆっくりとお話がしたいですわ」

「そっそうか、なら俺は今夜は遠慮するから、食事は三人ですると良い」

 逃げ道を見つけたアスランが口を挟むと、ラクス改めミーアは自分が二兎を追っていると気付いた。

「う~ん……やっぱり今夜はアスランと過ごしますわ。お二人とは是非次の機会で」

 しばし悩んでから優先目標を、先に狙った方に決めた。

「ええ!? いや次にいつ会えるか判らないし」

「それはアスランも同じですわ」

 狙われたアスランが説得を試みるが、旗色はどう見ても悪い。

「何だかな……」

「何であろうな……」

「何なんだ……」

「むぅ~っ」

 九郎とアルとシンは流れに付いていけずに脱力した感想を漏らし、ルナマリアは子供のように頬を膨らませていた。







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