DEMONBANE-SEED_獣と種の人_03

Last-modified: 2013-12-22 (日) 19:35:41

「ナチュラルの分際でMSなんて、生意気なんだよ!」

「くっ、流石に同じ機体であったとしても、乗りなれている者と比べれば格段に劣るか」

アレイスターは、ミゲルと戦いながらそう小さく呻いていた。

ミゲルを相手に防戦一方とは言え、たった二度しかMSに乗っていない人間が行っているのだ。

「マスター、背後にヘリオポリスの格納庫らしき物があるようです」

「そうか、だがこのままではどうにもならぬ…グッ」

ビーム砲を避けた拍子にバランスを崩し、ミゲルの乗るジンに蹴り飛ばされ格納庫の隔壁を破壊しながら内部に吹き飛ぶ

「機体各部に損傷を確認、航行には問題はありませんが戦闘は難しいようです」

「そのようだな…、だが此処は一体?」

「格納庫と言うよりも、此処で開発をしていたようですね。残っているパーツから、ストライクとは違ったMSの予備パーツと思われます」

「エセルドレーダ、今すぐソレを組み立てられるか?」

「五分…いえ、三分で組み立ててみせます。ですが、コクピット部分のパーツが不足していて動かすとなると…」

「よい。今回はリベルレギスのコクピットから遠隔操作する。出来次第、そちらに移れば良い。何より、アークエンジェルに戻る前にコクピットを組み立てておけば問題なかろう」


「イエスマスター。何時までも何処までも」

エセルドレーダは次の瞬間、アレイスターの膝の上から本のページにバラけ虚空へと消えた

「全く、ままならぬ物だな。だが、それで良いのだ…余はあの無限の苦しみから解き放たれているのだからな」

そう言いながら、アレイスターは満足気な表情でその場から飛び出し、ミゲルの乗るジンに向かって行くのだった







「艦長、あのアレイスターって奴は本当にナチュラルなのか?」

「大尉もあの場でそう聞いたでしょう」

「まぁ、そうなんだけどな。ザフトのパイロット相手に一方的に押されてるとは言え、素人がよく戦ってるよ」

そうブリッジで言いながら、アークエンジェルは二機のジンの相手をしていた。すると、少女の声が響き渡る

「マスター、準備完了いたしました。何時でも乗り換え可能です」



・・・・・・・その言葉を聞いたブリッジの空気が凍り付く

ブリッジに居る1名を除いた全員が、目が点になり何を言ったのか解らないと言う表情をしているのだったが、舵を取るノイマンだけは真面目に攻撃を避け続けていた。

「……大尉、彼等は一体何を言ってるんでしょうね?」

「俺だって、知らないよ! つうか、あの嬢ちゃん何て言った?」

「乗り換えって言ってたんですよ、大尉。もう歳ですか?」

マリューやムウの会話に、舵を取っていたノイマンが攻撃をバレルロールで回避しながら答える。案外余裕のようだ…







「大儀であった、エセルドレーダ。しかし格納庫から少々離れ過ぎた。そちらに向かう余裕が無い」

「畏まりました。マスター、困った事にバーニアの出力が思ったよりも低いようです。これでは、地球で飛行する事は出来ません」

「この機体のバーニアを使って出力を上げれば良かろう。どうせもう必要無いものだ」

アレイスターは、偶々自分達が住んでいた家が近くにあるのをそこから見るディスプレイの映像で思い出し、家の方に移動する。

そして、ミゲルの駆るジンが発射したビーム砲を回避し、自分達の家を破壊させ自身の乗るジンも砂埃で見え難くしつつ、コクピットを開け飛び降りる。

無限螺旋で、共に戦い続けたエセルドレーダが、自分を裏切るなど有り得ない。そう理解しながら飛び降りた先は、空間転移して来たロボットのコクピット。そして、コクピットはアレイスターが入った瞬間閉まり、アレイスター自身は最も見慣れたコクピットに居た。


「マスター、バーニアの出力改良はジンのバーニアのパーツを利用し改造、増設する事で完了いたしました」

「ご苦労であった、エセルドレーダ。では、無粋な客人にはご帰還願おう」

「イエス・マスター」

右手にジンの重斬刀を手にし、左手にビームライフルを持った、黒いアストレイが立ち上がり砂埃が晴れる。

黒き王が、最も得意とする操作方法で遠隔操作するのだ。

故にこの瞬間、この時だけは、黒きアストレイこそがCEにおいて最強のMSとなった。

その威圧感はいかほどの物か、その圧倒的な存在感はどれ程の物か…。

この時その姿を見た者にしか、この恐怖は解らないだろう。

「では、貴公にはご帰還願おう」

発せられた声、ソレは先程まで戦った相手の声だと解りミゲルは興奮した。

「好き勝手やられていた分際でーー!!」

「止めるんだミゲル、逃げろ!」

その黒きアストレイを見たアスランは、必死で叫ぶ。本能が告げるのだ、アレの相手など誰にも不可能だと…

そしてほんの数秒、いや数瞬足らずかもしれない時間で、ミゲルの乗るジンはビーム砲と機体の右腕部と左脚部を斬られたのだった。

「疾く去ね。今の余を貴公等が相手にするなど、不可能だ」

それだけを言って、黒き王の駆るアストレイはその場から離れていった







アークエンジェルの中にも、黒いアストレイの姿を見た者が居た。

「おいおい、つまりあのアレイスターって奴があの黒い機体に乗ってるって事だよな…」

「大尉、早く迎撃をして下さい」

軽口を叩くムウに、マリューは大声で言う

「…してるさ、まだ死にたくないしな。」

「一体彼がどうかしたのですか大尉?」

「少尉は見てなかったのか。言うのは簡単だ、ジンの重斬刀で殺さず相手の戦力を簡単に奪っちまったのさ」

そして、ムウは小さく「一瞬、俺は違う機体が背後に見えた気がした」と呟いたがソレを聞いた者は誰一人として居なかった





「ミゲルーー!」

アスランのミゲルへの叫びが、空しくヘリオポリスに木霊する

「ストライク、ジン!何をやっている。こちらは敵の攻撃を受けている!」

ナタルからの通信が入る。しかし通信を気にもせず、キラはただ目の前のイージスだけを見ていた

「…アスラン! アスラン・ザラ!」

「キラ! キラ・ヤマトなのか?」

ストライクとイージスの二機が互いに見つめ合っていると、ヘリオポリスが崩壊して行く

「うわぁぁぁぁ!」

「キラーー!!」

そして、ストライクとイージスの二機はヘリオポリスの外に放り出された。





ヘリオポリスの外に飛ばされる最中、ようやくコクピットが完成した黒いアストレイにアレイスター達は乗り込んでいた。

「マスター、先程のジンはザフト艦の方に飛ばされた模様です」

「そうか…。ならば存分に生き足掻く事だろう」

「楽しそうですね、マスター」

「そうだな…そうさな。余は楽しいぞ、エセルドレーダ。思い通りに動かぬ玩具に、それと戦う兵士達…無限螺旋では味わえなかった事だ」

そう言い、大声で笑い出すアレイスターを見ながら、エセルはアレイスターの膝の上に座りつつも、嬉しそうに見守っていたのだった。

しかし、それも長くは続かず無粋な通信が入って来たのだった

「…アレイスター、X-105ストライク、応答せよ!X-105ストライク、アレイスター、聞こえているか?応答せよ!」

アレイスターからは顔が見えないように角度に向けながら、忌々しそうな表情で通信機器をエセルは調整する

「どうしたのだ、慌しい」

「…帰投しろ。…戻れるな?」

「無論だ。帰投する」

そして、黒いアストレイはストライクより一足先に帰投した







その頃アフリカでは、一人の少年と一人の大男が傭兵としてザフトに雇われ、レジスタンスの者達を殺していた。

「おらよ、いっちょあがりっと」

返り血で血まみれになった少年が腕を振るうだけで、真空の刃が生まれ人々を切り刻んでいく。

その近くで、轟音と共に破壊される建物があった

「コロォォォォオオオオス!」

ただの拳の一撃から迸る衝撃が爆ぜ、馳せ人々の命を蹂躙していく。

それが、緑色の髪の少年と、巨大な筋肉の鎧を纏った大男が引き起こす惨事。





それと時を同じくして、一つの連合基地に奇襲をかけた者達も居た。

「疾っ!」

そう言いながら放たれた斬撃に、ブルーコスモスのメンバーが身体を両断される

剣を振るうのは、時代劇の銀幕から抜け出したような一人のサムライ。



「―――ガルバ、オトー、ウィテリウス!」

腹に開いた口から、黒い水銀の本流のような何かが吐き出され、ソレが連合の兵士達を飲み込み貪り尽していく。

それを行っているのは、好々爺のような顔をした一人の老人。



この四人は、たった一つの傭兵部隊の者達。

彼等が属する傭兵部隊の名前・・・ソレの名は

 アンチクロス

「逆十字」 。サーペントテールのように有名では無く、最近登録されたばかりの新人の傭兵達。

これが彼等の初仕事でありながら、上げた成果は非常に大きくかった。

たった四人だけで、ザフトと敵対するアフリカのレジスタンスの拠点一つと、連合の基地一つが、地図から消える事となったからだ。







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