DESTINY-SEED_118 ◆RMXTXm15Ok氏_004話2

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:42:39

「ラクスならキミから聞きたいって言いそうだからね。キミはラクスのお気に入りだし」
 ラクス・クライン。オレの後見人で、ヤマト隊長へのパイプになった人。そして、本来は、“プラント”最高評議会のメンバーにして国防委員長の女性。
 帰る場所を失い、彼女が“ユニウスセブン”の難民たちが集められた場所に視察へ来た際、そのあまりに天然で平和ボケした性格に虫唾が走り、その場で何かしら文句を言ってやった。投げ捨てるように吐き出した台詞だったからか、何を言ったのかもう憶えてなかった。それ以降何故かオレは彼女に気に入られてしまった。
 けれども、オレはヤマト隊長を差し置いて彼女のお気に入り、と言われるほどではなかった。
「クライン国防委員長の『お気に入り』は、ヤマト隊長の方でしょう」
 オレはソッポ向いて言い返した。ヤマト隊長はクスクス笑い、そうだったかな? と返事をした。続けるように、彼はこんなことを言った。
「じゃあ、キミの婚約者に久しぶりに会いに行くっていうのはダメ?」
 なんとしてもオレを連れ帰り、クライン国防委員長に会わせたいらしい。オレは顔を歪めながら解りやすいくらい嫌な顔をして返答した。
「嫌です」
 今は“足つき”を追いたい、というのもあるけれど、普段もその婚約者と特に会いたいと思わなかった。
 なぜなら、その女の子と婚約する過程が非常におかしかった。婚姻制がどうの以前の決め方をされたから。
「だいたい、あれ。ヤマト隊長たちがノリで決めた人じゃないですか。もう少し考えましょうよ」
 クライン国防委員長に引き取られたとき、彼女はオレの母になると言い出した。
 冗談とは思ったけれど、その場で、はっきり断った。彼女はヤマト隊長と同じくらいの年齢。一回りもしない歳の人の子供が出来るほど、オレは愉快な性格じゃない。
 しかし彼女はその返事を全く聞かず、私の子供なら婚約者がいないと格好付きませんね、という意見から始まり、何故か居合わせていたヤマト隊長が、ザフトにいい子がいるよ、と続き、今思い出しても頭の痛くなる会話の流れで決定したのがその婚約者。決してその婚約者が悪いわけでは無いけれど、未だに納得いかなかった。
「おまえ、贅沢。一応彼女、アイドルだろ?」
 アウルに呆れながら突っ込まれた。そう、『一応アイドル』だ。それも、やっぱりクライン国防委員長たちのノリで。
 元No.1歌姫であるクライン国防委員長プロデュースデビュー、現歌姫というザフトのトップアイドル。詳しくは省略するが、その経緯は婚約者話と大差ない。そんな流れでアイドルになったら、本人は迷惑だろうに。
「それとも他に好きな女の子でもいるの?」
 ヤマト隊長が、潤ませた目で話しかけてきた。この人の目を見ていると、反論する気が失せる。けれどちゃんと否定しておかないと、後でヤヤコシイ目に合う。そう思った矢先、ネオが余計な事を言い出した。

「そういえば“ストライク”を敵に渡したのはショウガナイけれど。2回目の出撃後、勝手についていったのに、ソイツに攻撃することなく帰ってそうだな。お前、ひょっとして……」
 声色を落し、いかにも真剣な事を話すかのように喋ろうとしていた。彼がこういうことをするとき、大抵ふざけた話である場合が多い。
「……惚れたな」
 オレは顔半分を右手で覆い、露骨にため息をした。そんなことは気にも留めず、ネオは続けた。 
「お前が“イージス”“ストライク”のある格納庫で出会ったのは、オーブ時代、隣に住んでいた毎朝起こしにきてくれる女の子。当時は彼女を意識することなく、そして幼いうちに、彼女側の家の引越しによって二人は別れ離れになっていた。しかし長い年月を経て再会したときの彼女は、上はセーラー服で、下はミニスカートとニーソックス、絶対領域もちろん完備。小顔で二重の大きな目に、スレンダーで小柄なのに巨乳。踝まで伸びるサラサラのロングヘアが魅力の女の子だった。お前は一目ぼれ。
 だから待機命令無視して勝手に出撃した。そして“ストライク”に乗っているのが、彼女と知るといなや、してもいない結婚の約束を持ち出しプロポーズ。でもって、その場で丁重に断られたけど、お前の心は彼女に捕らわれたまま」
 それなんてエロゲ? とアウルが突っ込んだことが唯一の救いだ。オレは顔を上げ、呆れながらネオと向き合い、それはない、と困った顔に乾いた笑い方で返した。
「ま、そりゃ冗談として。少し元気が出てきたかな」
 突然話を変えるように、ネオからそう言われた。春の日差しで乾かした布団を縁側で昼寝しているときに掛けられた気分にさせる声色だ。
「シン、“ヘリオポリス”から、ず~っと調子おかしかったぜ。思いつめたみたいでさ」
 左手からアウルが顔を出し、そんなことを言った。弟を見るみたいな優しい目と心配で垂れた眉の寂しい笑顔だった。
「一緒に侵入した仲間が死んで悲しいのは分かるけど、お前のせいじゃないからな」
 右肩をポンと叩かれ、スティングにそう言われた。視線は合わせないけれど、服に付いている埃を払ってくれるブラシみたいな強く柔らかい声だった。
 今はマユのことで悩んではいるけれど、その言葉は的外れでもなかった。それは仲間を失うたびにいつも思うことだから。
 赤服にはなれたけれど、実戦という現実は容赦なかった。オレに力が足りないからまた失ってしまった。まだ足りない。もっと力が欲しい。全てを裁けるだけの力が。
「シン、一人で背負うなよ」
 スティングのその言葉も、いつも言われているような気がした。仲間達の優しさに、オレの中の何かが少しずつ解けていきそうな感じがした。でもそれを否定して、再び解けかかった心の一部を凍らせようとした。
 優しさを否定するのは、歪みたいわけでも撓みたいわけでもない。甘えたくないだけ。
「だから、そう深く考えるなって」
 この言葉とともにネオの右手が、オレの頭にそっと触れ、そのまま撫でてきた。オレは首を大きく振り、その手をどかせ彼を睨んだ。仮面の向こうの表情は読み取れないけれど、彼の声は穏やかなものだった。

「お前、すげぇ疲れた顔してるぜ。一度、本国に帰って、気分を入れ換えてこいよ。でないと、とりかえしの付かない失敗をするかもしれない」
 周りを見回すと、アウルの目もスティングの横顔も心配する雰囲気を漂わせていた。ネオは、さらに付け加えた。
「ちっとは俺たちを頼りな」
 オレは、まぶたを深く閉じ考えた。
 ネオたちだって間違いはある。“ヘリオポリス”で撃墜されたあいつのようになるかもしれないし、マユの乗る“ストライク”を墜としてしまうかもしれない。ここで引いたら、オレはまた後悔するかもしれないんだ。
「だったらさ、お前が帰るまで、あのMSも“足つき”も取っといてやるよ」
 明るい声色が聞こえた。その声の源を見ると、さっきとはうって変わった自信に満ちた顔をしていた。オレの顔から、少しだけ力が抜けるのを感じた。すると、今度はスティングの声がした。同じく自信たっぷりの口元と、胸を軽く叩くような熱い声だった。
「俺たちは死なない。ザフト最強のヤマト隊の、そのまた無敵の赤服だ。そうだろ?」
 現実的に、それはありえないことだと分かっていた。それでもこの言葉は、オレが聞きたい台詞だった。
 改めて三人を見回すと、どいつもこいつも熱い視線を送ってきていた。そのせいか、凍らそうとした心の一部が固まりきらずに解けてしまった。
 今のオレの顔ははにかんだ笑顔だろう。その表情を見たことに満足したのか、棒立ちになったオレを置いて三人は笑顔で待機室を出ていった。
 このままじゃ、くやしい。やり返すことは出来ないけれど、何か言わないと。
 オレは待機室を飛び出し、格納庫へ続く通路を歩いていく三人の背中に言ってやった。
「お前ら、絶対残しとけよ! オレが帰って来るまで、あのMSも“足つき”もお前らもどれ一つ欠けるなんて許さないからな!」
 彼らは振り返らずに、あいよ、わかった、任せろって、と返事をし去っていった。
 その背中が見えなくなってから、オレは表情を引き締め、ヤマト隊長とともに、彼らが進んだ方向と反対側へ歩いていった。

 ――プラント本国にて。
 緊急に開かれた評議会は、定例的な印象を感じた。
 議員たちが連合のMSの報告に対して動揺を見せても、クライン国防委員長の一言で場が静まるから。
 相変わらず、映える人だな、と思った。これだけ議員たちをまとめられるのなら、いっそ議長にでもなればいいのに。
 議会が終了した後ヤマト隊長に、少しノンビリしていけば、と言われたけれど、そんな暇はないはずです、と返答した。
 オレは急ぎ足で“ヴェサリウス”へ向かおうとしたら、トイレに行きたいんだけど、とか、のどが渇いたね、とかいう感じに、ヤマト隊長の時間稼ぎが始まった。置いていけないオレもオレだけど、この人にどこぞの小型犬のような潤んだ瞳で見つめられたら、どうにも頼みを断りきれなかった。この人は強さじゃなくて、この顔で隊長格になったんじゃないのか?

 彼の時間稼ぎが功を奏したようで“ヴェサリウス”のハッチの手前に、評議会議員の女性が一人待っていた。
 腰まであるピンクの長い髪を、白いリボンを使い頭の後ろでまとめ、ふちに紫のラインを持った黒の長襦袢を来た女性が、温めに入れたお茶に浮かぶ茶柱のように立っていた。
 無言で敬礼してそのまま通り過ぎようとしたが、彼女の前を越えた直後、後ろから腰のベルトをヤマト隊長に掴まれたらしく、体が前へ進まずその場に停止した。
「お久しぶりですわ。キラ、それにシン」
 それは他の人からすれば、可愛い唇から出る穏やかで愛らしい声だろう。今のオレには、すぐに風呂に浸かりたいのに、いくらひねっても少量しか湯を出さない蛇口から出る湯が水面に当たって出るチョロチョロいう音のように聞こえていた。
 ヤマト隊長が、久しぶりだねラクス、と言い出した。仕方がなくオレは彼女へ向き直り、お久しぶりです、クライン国防委員長、と作り笑顔で挨拶した。そうしたら彼女の目は、微笑みから悲しみへ変わりこう言った。
「いつになったら、お母様と呼んでくださるのでしょう」
 どうすれば、こんな思考回路が月まで伸びているような超々高度の感覚を保ち続けていられるんだろう。
 彼女の柔らかく静かで寂しげな言い方に対して、オレはこめかみに筋を浮かばせた笑顔で、優しく断言した。
「絶対に呼びませんから、いい加減に諦めてください」
 彼女は残念ですわね、と目を伏せながらため息をついた。踵を返し艦内へ行こうとしたら、忘れるところでしたわ、と彼女に呼び止められ、オレは不機嫌な声で、何です? と体を半分だけ振り向かせて足を止めた。
「“ユニウスセブン”の追悼慰霊のために、視察に向かわれた船が行方不明になりましたの」
 聞く耳持たずという感じに、はあ、とだけ相づちを打った。その続きで聞こえてきた内容は、彼女のゆっくりとした口調とはかけ離れたイメージを持つものだった。
「その船にはメイリンが乗っていまして。心配ですわ。捜索に出た部隊も戻らないと聞きましたし」
 血の気が一気に引いた。ヤマト隊長はどこかに穴が開いているんじゃないかと疑いたくなるようなノンビリした口調で、それじゃあシンが迎えに行かないとね、と言った。
 この人たちは慌てるという感情が抜け落ちているのか? 二人が落ち着き具合がオレの心を刺激し、引いた血の気が戻ってきた。
 メイリンは一応だけど婚約者。それ以前に、友人だ。彼女をこんな思考の人たちの指揮の元で行われる捜索部隊に任せておけるかと、腹の底が熱くなってきた。
 ただし同時に、忙しいときに用事を増やす原因になった人へ対する気持ちも肺の中に膨らんできた。
「なんで、こんな時に! ああ、もう! まったくあのバカ!」
 大きな声でぶつける対象のない気持ちを吐き出したオレは床を蹴りだし、“ヴェサリウス”へ駆け出した。すぐ後ろについて来ていたヤマト隊長は、彼女が悪いわけでもないでしょ、と、いきり立つオレの台詞に言葉を添えた。
 それは分かっている。でも、なんでこう、次から次へと変なことが舞い込むんだ。
 すると考えていたことがどうやら声に出ていたらしく、ヤマト隊長が、こんなことを言った。
「でも、ほら。変なこと続きなら、ひょっとしたらさ。迎えにいくと運良く“足つき”とメイリン、同時に出会えるかもしれないね?」
 その気が無いのは分かっているけれど、優しい笑顔と呑気な声はワザとこっちの神経を逆立てしているように感じて、そんな都合の良いこと起きる訳無いでしょ! と怒鳴って返した。

 ――場面は変わってデブリベルト付近“アークエンジェル”の格納庫にて。
「知れたこと。この歌姫は救命ボートへ引き返し、我々は“アークエンジェル”のカタパルトを使い、白鳥座X-1か射手座Aスターへそれを飛ばしてやればいい」
 右手で猫さんを抱え、左腕で大きく救命ボートを指しながら、釣り目をさらに釣って、良く通る声を張って、ジブリールさんはそう言った。
 マユです。また拾い者をしました。デブリベルトへ使えるものの回収作業に出ているとき、また救命ボートを見つけました。拾って持ち帰ると、中から出てきたのはツインテールの髪型の女の子が一人。その正体は、“プラント”現最高評議会議長の娘にして、歌姫のメイリンさん。
 彼女の扱いを巡って、“アークエンジェル”格納庫内は揺らいでいるところです。
「そんなややこしいことせずに、思い切り良く地球に落せば?」
 救命ボートの入り口より三歩ばかりでた所で立ちすくむツインテールの女の子を輪になって囲む集団の中。私の立ち居地が彼女から見て右手前方で、その対角にいるコニールが、そんな怖いことを言っている。しかもツインテールの女の子に親指立てて見せながら、流れ星になれるよ、と余計な事を付け加える。
「流れ星、綺麗。ステラ、好き」
 話をちゃんと聞いているのかいないのか、コニールの隣にいるステラさんが、笑顔でそんなことを零す。
 ……って、何で二人がここにいるの? 私達は作業でいるからだけど、コニールたちは生活区で待っていなければならないのに。
 暇だから、と一言で済ますコニールと、猫 会いに来た、と同じく一言で済ますステラさん。ツインテールの女の子の左となりに立っている藍髪の人は、デュランダルさんたちの相手で疲れていたらしく、そんな二人に注意をせず悩ましそうに頭をかいている。そこへザラ艦長、と藍髪の人を呼ぶ声が聞こえてくる。
「私は彼の意見に賛成です」
 規律に厳しそうな跳ねた髪の毛を持つ赤い髪の人が、ジブリールさんの非人道的意見に賛同する。
「なんか前世で、その女に好きな人を取られたような気がするんです」
 ぜ、前世?
 赤い髪の人は、困惑するツインテールの女の子に対して、黒いオーラを出しながら理不尽なことを言っている。
「女の勘です。この女を生かしておけば、個人的に、何かよくないことが起きる気がします」
 ツインテールの女の子は怯えるというより、状況を掴めないという表情を浮かべている。さっきから周囲の人たちが、どこまでが冗談でどこからが本気か分からないことを喋るたびに、その声のする方に不安な顔を向けている。
 藍髪の人は、いつからこんなに風紀が乱れたんだ、と呟きながら、私の傍に立っている男の人三名を恨めしそうに見つめている。 

「落ち着かないか、ジブリールもホーク少尉も。彼女は“プラント”現最高評議会議長の娘だ。それ相応の良い使い道がある」
 デュランダルさんが、いつもの深く低音の落ち着いた声で話すと、場が静まり返る。
皆が彼に注目するまで待ってから一言。
「人質」
 ひ、人質?
 デュランダルさんは周囲の雰囲気が動揺していることなどお構いなしで、落ち着き払った声と背後にキラキラと輝く星が見えるような笑顔で言う。
「みんなで幸せにならなろうじゃないか」
 さらにジブ猫もそう言ってるにゃん、と付け加えて、私の猫の意見を勝手に代弁するな、とジブリールさんに怒鳴られる。
 とりあえずバカ話は一段落してから、藍髪の人は、ツインテールの女の子を、普通の民間人として生活区へ案内をするために慣れた手つきで彼女の肩に手を回す。MA乗りの人がそれを見てセクハラか、と零せば、彼はその手をパッと離して咳払いをする。視線を別の所に向けてみれば、どことなく赤い髪の人の目とMA乗りの人の目が冷たいような気がする。気のせいかな?
 ツインテールの女の子が私の前を通り過ぎようとしたとき、ちらっとこちらを見る。そして、目が合う。彼女は足を止め、私をじっと見つめる。
「あなた、もしかしてマユちゃん?」
 迷子を捜す人のように、彼女は私に問いかける。私は拍子抜けしたように、はい、と小さく返事をする。
「やっぱり! あなたのお兄ちゃん、シン・アスカだよね? あなたのこと、写真で見せてもらったことがあるもん」
 ツインテールの女の子は、パチンと手を叩いて楽しそうに話しかけてくる。
 そのとき、待て、とデュランダルさんが言ったような気がする。けれど“プラント”側の人で、私はお兄ちゃんを知っている人に出会えたことが嬉しい。私の知らない情報を聞けるかもしれない。だから誠意を込めて、ツインテールの女の子に、今度は大きく返事する。
「はい、そうです。メイリンさんは、お兄ちゃんの知り合いですか?」
 ツインテールの女の子は、知り合いっていうか何というか、と歯切れの悪い返事をする。私がもっと話を聞こうとすると、虎さんが、あいや待った、と割って入ってくる。
「マユの兄さんは、“あのシン・アスカ”なのかい!?」
 虎さんは右目を大きく見開き、まるで瓢箪から駒が出てきた瞬間を目撃したように、驚いている。その顔を見て私もつられて驚く。
 そういえば、写真は見せたことあるけれど、名前を教えたことは無かったかな?
 お兄ちゃんは有名なんですか? と聞くと、名前だけは、と返される。それはそうかな。その有名人の顔を知っていれば、そんな質問しないもん。
 他の国の芸能ニュースなんて縁遠いものだけど。ひょっとして、歌姫情報がネットに流出したのかな? 恐らく知人程度だろうと思われる人の名前なんて出さなくて良いのに。それにしても『あの』というのが気になるなぁ。どんな伝わり方してるんだか。
 ふと気温が少し下がったような感じがした。和やかで温かみのある雰囲気が、硬く冷たいものに変わっていく。それは、脅威に対する人々の反応が隠さず現れ出ているような空気。

 いつも無愛想な顔をしている藍髪の人が、信じられないものを見たような驚きの表情に変わって口が半開きになっている。赤い髪の人もその他名前の分からない人たちも同じ顔になっている。そして、その人たちの顔すべてが私に注目している。
 突然変化した隣の人たちの態度に、コニールは何のことだか分からないって表情してる。ステラさんは、変わりなくいつも通り茫洋としてる。
 デュランダルさんと虎さんは、この状況を見据える、まるでデモと機動隊の一触即発な雰囲気を見守るような目つきになっている。ジブリールさんは眉間にシワを寄せ、起きて欲しくない状況を見てしまったかのように思慮深く目を瞑っている。
 ツインテールの女の子は周りの気配が変わったことに戸惑い、不安で肩をすくめながら視線を漂わせる。
 窓の隙間から聞こえる風の音くらいの小さな話し声が聞こえ始め、それは次第に、障子に強風が当たったとき出る音くらいの大きな声に変わる。
 そしてはっきり聞きとれる声で、誰かが、私にこう言った。
「こいつも、コーディネイター!?」

……続く。

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