EDGE_第08話

Last-modified: 2022-04-27 (水) 10:57:16

【機動六課-隊舎前】

 

「ついたぞ」
「……気分最悪…」

 

元気な彼とは違いなんかグロッキーな感じのギンガが車から降りる。
青白い顔のギンガにアスランは人事のように尋ねる。

 

「どうしたんだ?」
「どうしたって?…あんな運転されれば誰だってこうなるわよ…」
「?…そんなに酔う運転じゃなかっただろ?」

 

鈍い彼にギンガは憤怒する。

 

「命の危険感じて、こうなったの!」
「あ~…その……すまない」

 

自分は時間に遅れないために突っ走ったのだが、
それは常人にはかなり危ない運転だったようだ。

 

「…まあ生きてたからいいじゃないか?」
「よくないわよ!!」

 

さっきまでの青い顔は怒りで赤くなっている。
相当な怖さだったようだ。
怒るギンガをなだめつつ二人は隊舎の入口へと入っていく。

 

受付をしてロビーの方に行くように指示されたのでそれに従い向かう。
着くとそこには六課の隊長らしき人達がいた。
最初に一歩前に出てきたのは他の人達よりも少し背が低い女性。
印象は髪留めと明るい笑顔だった。
その人が敬礼したのでギンガとアスランも敬礼をする。
癖でザフト式の敬礼になりかけたので慌てて直す。

 

「ギンガ、ようきたな。元気にしとった?」
「はい、八神部隊長もおかわりなく」
(…部隊長って…ええっ!?)

 

何気ない会話をしてる二人に内心アスランは驚いている。
この若さで一つの部隊を仕切っていることになるからだ。
それほどの権力や力を持っているのか、と彼は予想してはやてを見据える。
視線に気づいて今度はアスランに挨拶をするはやて。

 

「どうもはじめまして。この機動六課の部隊長をやっております、
 八神はやてです。君が…アスラン・ザラ君?」
「あ……はい」

 

握手を求めてきたのでちゃんと返すアスラン。
その時にじーっと顔を見るはやて。
疑問に思い尋ねる。

 

「あの…何か?」
「いや~名前だけしか聞いてなかったからどんな人かなと思ってたんよ。
 そしたら背は高いし、結構ハンサムなんで驚いたわ~」
「はあ…どうも(データ渡してなかったのか…)」

 

後半はスルーして曖昧な返事をするアスラン。
横目でギンガを見ると片手をあげてゴメンのポーズをしていた。
いいかげんだな、と思い視線を戻す。

 

「まだ試験まで時間あるからその間に、アスラン君のデータもらおうかな」
「…わかりました」
「ああ、あと試験官をやってくれる人を紹介するな。なのはちゃん」
「はい」

 

呼ばれて前に出てくる女性。
白い制服を着て長い栗色の髪をサイドテールにしていた。
そしてはやてと同じく明るい表情。

 

「試験官を勤める高町なのは一等空尉です。よろしくね」
「アスラン・ザラです」

 

敬礼をし合い、ふと思い出すその名前。

 

(ああ、ギンガの言ってたのはこの人のことか)

 

数々の功績と圧倒的な強さをもち、不屈のエース・オブ・エースと呼ばれている。
だがこうして見ると普通の女性だ。

 

「どうしたの?」
「あっ、いえ別に…」
「?」

 

しかし、とくに興味もないのでそのことには触れず誤魔化すアスラン。
この人はあくまで他人なので拘る必要もないだろうと。
はやてがその様子を見終えるともう一人の試験官を呼んだ。
はーい、と可愛らしげな声がして前に出てくるが…

 

「リィンフォースⅡ(ツヴァイ)空曹長です!」
「!?」

 

その姿を見て固まるアスラン。
目の前にはふよふよと浮いている可愛らしげな人形?じゃなくて人。
はっきり言って自分の目を疑う。
ここまでは初めて見る人たちと同じ反応だ…しかし彼は違った。
数秒は口をパクパクさせて驚いていたが、
やがて自分の中で納得させたのか、今度は興味心身で…

 

「よくできたナビゲーションロボットじゃないか」
「ふぇ!?」

 

ぱしっと戸惑いなくリィンをつかみ、まじまじと見る。
いきなりの行動に逆に言葉を失う、彼以外の人たち。

 

「すごい細かな作りだな…浮遊制御はどうやってるんだ?」
「あのぅ…ひゃう!!」

 

その小さな体をぶつぶつ言いながら確かめるように触りまくるアスラン。
次第には中はどうなっているのかと服まで脱がそうとしていた。
絵的にやばいこの現状。先に動いたのはギンガだ。

 

「アスラァァァン!!」
「へぐっ!!」

 

スパーンと見事顔面に平手打ちが決まり、その拍子にリィンは開放される。
顔を手で抑え、痛みに絶えるようなうめき声。
やがて…

 

「なにするんだ!!」
「あなた馬鹿!?この人はこんな体してるけど曹長だってば!!ロボットじゃないわよ!!」
「……えっ?だってこんな小さ…」
「…小さくて悪かったですね…」

 

あ…と前を見ると顔を真っ赤にしながら怒っているリィンがいた。
目には涙を溜めて肩をわなわなと震わせている。
やばいと感じたギンガは慌ててアスランの頭をつかみ一緒に謝罪する。

 

「す、すいませんリィン曹長!!なにぶん彼はこういう経験は初めてでして。
 悪気はなかったんです!(アスランもほらっ謝って!!)」
「え、えっと…申し訳ありませんでした…」

 

深々と頭を下げる二人を見てリィンは少し機嫌を良くして、

 

「それならいいですけど…いいですか、アスランさん!
 もう二度とこんなことしちゃだめですよ!」
「は、はい…」

 

なんか変な気分だと思いながら謝るアスラン。
この人に関してはさまざまな疑問がでてくるがこれ以上ツッコムときりがないので、
とりあえずはギンガの言うことを信じ現実を見ることにした。
さっきからその様子を見てた人達は口を押さえ笑っていた。

 

「あ~~さっきの最高やったわ。まさかリィンを…ぷっくく」
「笑っちゃかわいそうだよ。はやてちゃん…ふふ」
「今までにないパターンだな」

 

笑いあうはやてとなのはに視線を向けるが、急に視線がさがる。
腕を組みニヤニヤと笑っている、赤い髪を三つ編みにした少女がいた。
また意外そうな視線を向けるアスラン。

 

「ん?…なんだよ?」

 

視線に気づき女の子は不満そうな顔をし、アスランを睨む。

 

「……子供?」
「ふんっ!!」

 

今度は思いっきり足を踏まれ、悲鳴をあげるアスラン。
その後、ヴィータの説明をされ再び頭を下げることになった。

 

(一体何なんだ?この部隊は…)

 

試験の準備をしながらアスランは六課の印象を変える。
この世界に来てたくさんの不思議なことを体験したが、ここは特に別格だった。
漫画で見るような小さな人やどう見ても10歳未満の子供が副隊長を務めているからだ。
はっきりいってファンシー過ぎる。
後ろをチラッと見るとギンガとなのは達が楽しそうに話している。
自分はこの場には不似合いだと感じ、早く終わらせて帰ろうとアスランは誓う。
……その時

 

「あっ!ギンねぇ~~~~!!」

 

ロビーの入口近くから元気な声が聞こえてきた。
つられて一緒に振り返ると、ボーイッシュな髪型の女の子が走ってきた。
ギンガの元に着くとあいさつなのか軽くパンチングをして最後にぱしっと手を合わせる。

 

「スバル、久しぶりね~」
「うん!ギン姉も元気だった?」
「もちろん♪」

 

仲ほほえましくじゃれ合う二人。
それを見て、この子がギンガの妹かと認識するアスラン。
確かに容姿がなんとなく似ている。
話していると女の子のギンガへの視線がアスランに変わる。

 

「えっと…あなたがアスランさんですか?」
「え?…ああ」
「はじめまして!わたし、ギン姉の妹のスバル・ナカジマです!」

 

元気よく自己紹介をするスバル。
ギンガとは違いえらい人懐っこい子だとアスランは思い微笑する。

 

「こちらこそ……君のお姉さんとゲンヤさんにはずいぶん世話になった」
「へ?そうなんですか?」
「ああ、今俺がここにいられるのは二人のおかげだ」
「そんな大事だったんですか!?」

 

その言葉にびっくりするスバル。
死にかけてたのを助けられた、と付け加えると姉の方を見て関心する。

 

「君はいい家族をもったな」

 

アスランの褒め言葉にスバルはにっこり笑い返す。

 

「はい♪わたしの自慢のお姉ちゃんとお父さんです」

 

そうか、といいアスランも頬を緩める。
ギンガも照れくさそうにしていた。

 

「あ、ところでスバル、ティアナたちは?」

 

ギンガがこの場にいない残りのフォアード達のことを訊く。
いつも一緒のティアナもいない。

 

「まだランチ食べてると思うよ」
「そう、もしよかったらアスランのこと紹介しようと思ったんだけど…」
「え…なんで?」

 

スバルがそう質問すると彼女はアスランの腰元に指を向ける。
そこにはホルダーに掛けられた黒い銃があった。
おお、とスバルは驚き食い入るように銃を見つめて尋ねる。

 

「アスランさんも射撃型なんですか?」
「ああ、まあこっちはサブだな。俺のデバイスはこっちだ」

 

ポケットから赤紫色のデバイスをだす。
綺麗な光沢をだし、∞のエンブレムが鮮麗に刻まれている。

 

「へ~二つも扱えるんか?」

 

横からはやてが興味気に覗いてきた。

 

「あ…ええ、こっちは練習用に使ってきたのですっかり馴染んでしまって…」

 

本当はとっくの昔に慣れているのを適当にごまかし、
あまり見えないように手で銃を覆う。
その行動にはやては少し眉を動かし、
探るような目で見たがすぐに元の表情にもどる。
そのとき、タイミングよくなのはが試験の準備ができたことを知らせる。
やっとか、と待ちわびていた気持ちが溜め息になりはやての方を向く。

 

「これが私のデータです。では」

 

手早く自分のプロフィールをはやての端末に送り、ロビーを去ろうとする。

 

「アスラン」

 

親しげな声に振り返るとギンガが笑顔で見つめていた。

 

「頑張ってね」
「ああ…わかってる」

 

何かその笑顔に違和感を感じつつもこう言ってくれる彼女には
感謝しなければいけないのでアスランは微笑してかえす。
そして、訓練場の位置はすでに教えてもらっているのでそそくさと出て行く。
移動の最中にまた何人かの隊員らしき人たちとすれ違う。
一人はロングの金髪の女性とピンク色の髪をポニーテールにした女性だった。
軽く会釈をして、すぐに通り過ぎるアスラン。また嫌な疑問が増えた。
二人はえ?という表情でその後ろ姿を見送り、妙な気持ちのままとりあえず
ロビーに戻る。

 

アスランが去ったロビーでは隊長たちと新人4人が彼と入れ違いになりながらも
全員そろっていた。はやては端末を開き、アスランのデータを見ようとしていた。

 

「で、アスランさんもティアと同じような銃型デバイスもってたんだよ」
「……あっそう。だからなに?」
「え?…いや、なんか仲良くなれそうだな~って…」
「私はその人に会ってないし、名前も聞いたことないわよ」

 

スバルはティアナに彼が同じ銃使いだと教えていたが、
ティアナは興味ないのか、どうでもいいという返答をしていた。

 

「お、でたでた」

 

はやてがアスランのデータをモニターで出し、それを読み上げる。

 

「アスラン・ザラ、異世界からの時空被災者か…これはさっき聞いたな」

 

ギンガの説明で彼のことは大まかには報告してあった。
こういったことはまれにではあるが起こることだ。
そのことに関しては彼自身が既に割り切っているのだが、
あまり触れないでほしいとのこと。

 

「強いね、彼…」

 

なのはが感想を口にする。
慣れ親しんだ世界から突然違う世界にきて、帰れないとわかったら
どんな悲しい気持ちになるのだろう。自分だったら壊れてしまうかもしれない。
そんな感情を押し殺して彼はここにいるのだろうか。
だとしたら相当の精神力の持ち主だ。

 

「そうやな……っと私達が暗くなったらあかんな。アスラン君に悪いよ」

 

はやてが同情しようとしたが、それは耐えている彼に対して失礼だと思い
周りに活気になるよう促す。
確かにそうだと了承し、もう触れないことにした。

 

「ええと、年齢は18歳か…」

 

アスランの歳を聞いてヴィータが気づくことがあった。

 

「その歳でBランク試験か…あんま順調とはいえないな。
 まあ、慣れてないだけかもしんねぇし」

 

確かに、と他の人たちも頷くがギンガはくすくすと笑っている。
不適な笑みに疑問を持つ六課の魔導士達。

 

「なにがおかしいの、ギン姉?」
「ふふ、八神部隊長…彼がこの世界にきた日付と魔法学歴を見てください」
「え?うん…」

 

そう言って画面をすべらしその情報が書かれている行を見る。

 

「…ミッドチルダ転移記録、新暦75年…2月!?」

 

え……とギンガ以外の全員が固まり場が静まり返る。
沈黙をやぶったのはなのはだ。

 

「ちょ…ちょっとまって。彼ってつい最近に管理局に入隊したの!?」
「はい、そうですよ」

 

何かを勘違いしてたようでアスランがここにきたのは、もっと前だと思ってたらしい。
なのはだけではなく、恐らくはここに集まっている全員がそう思っていただろう。
そして、さらに読み上げる。

 

「魔法経験-ミッドチルダに来るまでは存じずまったくの初心者…。
 その後、魔導士になること希望しこの世界での永住を決意、訓練学校に入隊する…」

 

唖然となるはやて達。さらに

 

「3ヶ月の特別講習プログラムを無事終了し、……単身総合成績1位で卒業!?」

 

壮絶なる経歴を聞き静まり返るロビー。スバルが恐る恐る言葉を出す。

 

「アスランさんって全くの初心者で…たった3ヶ月でランクCまで……」
「あ、今回は特別に飛び級で試験を受けることになってるんです」

 

ギンガの一言にまたさらにえ?という顔。
ギンガ曰く訓練学校に滞在している間にアスランはとんでもない成績をだして、
DやCのノルマをいつの間に超えていたらしい。
なので受けさせても無駄とわかったのでゲンヤが特別に飛び級を認めたのだ。
驚きの事実だが、この場でもっと驚いているのは新人4人。
まさか魔法を知らない人がたった3ヶ月で自分達の同等の位置になろうとしているのだ。
3年間でやっとBランクになったスバルとティアナには羨ましいすぎる結果だろう。

 

「彼って以前、なにかやってたの?」
「え……あ、はい。何かたくさん習い事をやってたみたいです…」

 

フェイトからの質問に笑顔を取り繕って答えるギンガ。
内心は嘘をついてしまったので自虐心でいっぱいだ。
でも、これはアスランとの約束、守らないといけない。

 

「そうか…でもこれはまれに見る天才ってわけやね」

 

はやてがさきほどまでと違い、今度は目を光らしてアスランのデータを見ている。
ギンガは予想道理の反応をみてほくそ笑む。
作戦成功の兆しが見えてきた。

 

「あ…なのは、そろそろ時間だよ」
「え?……わっ!ほんとだ」

 

試験開始時間が迫っているのをすっかり忘れていて、
慌ててなのはとリィンは訓練場に向かう。
しばらくすると、はやてが思いついたように意見をだす。

 

「みんな午後はヒマやろ?」

 

その質問にうなずく新人4人とシグナム、ヴィータ、フェイト。
皆の反応を見てからムフフと笑うはやて。
・・・まさか

 

「アスラン君がどんな実力か…知りたいと思わへん?」

 

そう言ってロビーに備えてある大きめのモニターに電源を入れる。
それに写っているのは、訓練場の前で腕を組んで待っているアスランだった。
【六課訓練場前】

 

「………遅いな」

 

とっくのとうに訓練場に着いていたアスランは不満の声を漏らし、イラついていた。
試験開始時間まであとわずかだというのに、姿を見せないなのはとリィン。
自分のことで何か問題でもあったのか、もしくはギンガが何か余計な事を言ったのを心配する。

 

(いや…疑うのはよそう)

 

だが、彼女に限ってそれはないと判断し悪い思考を振り払った。
そして、後ろから聞こえてくる声に安堵し振り返る。
なのはが走ってくるのが見えた。

 

「ごめんね。ちょっと話してたら遅くなっちゃって…」
「すいませんです~」
「いえ…大丈夫ですよ」

 

ぺこりと謝る彼女らに怒ってはいないが呆れた表情で返す。
試験官がこんないい加減でいいのかと不安に思う。

 

「じゃあ、ルールの説明と―」
「それなら来る前に把握しておいたので問題ないです。
 コースとターゲットの位置だけを教えてください」

 

説明しようかと思いきやぴしっと言葉を切られ、
一瞬場の空気が張りつめられた。

 

「そ、そう。なら大丈夫だよね」

 

にゃははと笑いながらもなのはは、
アスランが内心怒っているのではないかと不安になっていた。
だが、確かに遅れたのは自分のせいだから
不満気に思われるのは仕方のないこと。
心の中で自分の悪い点を反省し、感情を切り替える。

 

「はい、これがコースデータとターゲット情報ですよ。
 それと、アスランさんの場合は普通の試験場より狭い空間でやるので
 ターゲットの増量とタイムが短くなりました。なので注意してくださいね」

 

リィンが画面にターゲットの位置を表示させる。
アスランにはわからないが普通より増えているらしい。
ゴールまでの道のりとターゲットを即座に頭にいれる。
その間、およそ数秒。

 

「覚えました」
「え!もういいんですか?」
「はい」

 

横にいたなのはも彼の記憶能力に驚いていた。

 

「……ところで、一体どこでやるのですか?」

 

準備は完了したが肝心のコースがない。
あるのは海に浮かぶ平地だ。
それを待ってましたと言わんばかりになのはは微笑みウィンドウを出す。
ステージセットという音声が聞こえたと思ったら、
さっきまで何もなかった平地が見る見る盛り上がり、あっという間に町ができた。
これには素直に驚くアスラン。

 

「最新の立体空間シュミレーターなんだよ~」

 

得意げに説明するなのは。
アスランは興味心身で試しに触ってみるが、しっかりと感触はある。
本物とまったく変わらなかったので、すごいと思わず声をだす。
自分の世界にはMSはあったがこのような技術はなかった。
改めて魔法技術の便利さを実感する。

 

「じゃあ私はビルの上から監視してるからね」
「リィンはゴールで待ってるですよ~」
「…わかりました」

 

二人は決めれらた役割のためにそれぞれの位置に向かう。
残されたのはアスラン一人。
ふう、と溜め息をつくとポケットからデバイスをだす。

 

「…なんか本当に信じられないな」
『あの人達のことですか?』

 

ジャスティスが訊いてくるがアスランは首を横に振る。

 

「いや…それもあるけど、今俺がこんなことになってるってことだな」
『……』
「魔法なんて漫画やアニメの世界だけだと思っていて……だけど実際ほんとにあって…」
『…ワタシもです。しかしこの世界に来てワタシもこのような姿になりました…』
「MSなのにな…」
『はい。でもこの姿になったからマスターと話せることができるようになったので
 ワタシは嬉しいです』

 

その言葉にアスランは微笑むと少し思ったことを発した。

 

「…恨んだりしてないか?」
『なぜです?』
「俺がC.Eでお前に乗っていた時は兵器として思ってたから…。
 それで俺の我侭にたくさんつきあわせてしまって…」
『…マスターのやってきたことは正しい事かはわかりません。
 ですが、その想いだけは決して間違ってはないと思います』
「…そうか」
『それに…何度も言わせないでください。どんなことになっても、
 アナタはワタシの最高の乗り手でありマスターです』

 

最後のジャスティス言葉にアスランは胸打たれてゆっくりとうつむく。

 

「…ありがとう」
『……はい』

 

そして、会話が終わったその直後目の前に画面が現れるとリィンの顔が写る。

 

「はい!それではアスランさん準備はよろしいですか~?
 …ってあれ?どうかしたんですか?」
「い、いえなんでもないです!」

 

顔を下げて悲しそうな表情をしていたのでリィンは心配するが、
アスランは慌てて表情を元に戻し問題ないと告げる。
さっきの会話はどうやら聞かれてなかったようだった。
怪しむようにリィンは見るが、それもすぐに終わる。

 

「…では気をとり直してーアスランさん準備はよろしいですね~?」
「大丈夫です」
「それでは!カウント3秒前!」

 

画面が切り替わり3個の点が現れ、一つ消える。
段々とアスランの眼が変わる。
さきほどの穏やかな目でなく何かを成し遂げるための灯が点いた眼だ。
さらにもう一つカウントが消える。

 

「…よし、いくぞ。―ジャスティス!!」
『OK!!my master!!』
「セットアップ!!」
『SET UP-Form AEGIS』

 

デバイスを前にかざし光る自身の体。
光が治まるとアスランは灰色のジャケット姿になる。
右手には盾、左手に銃を。
それと同時に最後のカウントが消える。

 

「スタート!!」

 

リィンの気合の入った声がビル間に響きアスランは走り出す。
いつの間にかジャケットの色はローズピンクに変わっていて、
両腰には三角形の物体が装着されていた。
見た目はイージスに付いていたスラスターだ。

 

助走をつけてまずは手ごろのビルの上に跳ぶ。
その上から見える範囲のターゲットの位置を視認して狙いを定める。
攻撃用のオートスフィアもアスランに気づき一斉に射ちはじめた。
くっ、舌打ちをするとそのままビルの上から飛び降りて、
スラスターでブレーキと左右に動き弾の雨をかわす。
その際にこちらも空中で狙いを定め直し魔力弾を連射する。
弾と弾の合間をすり抜け、全弾オートスフィアに命中し爆散。
ターゲットも着地するまでにすべて破壊した。
地に着いたアスランは一言、

 

「…やっぱり楽してクリアはできないな…」
『そのようですね』

 

そこでニヤッと笑みを浮かべてアスランは不定しなおす。

 

「いや…そうでもないさ」
『?』

 

どうやら何かを思いついたようだ。
再びビルの上までブースターを使って飛び乗り、向かいの大きなビルを見る。

 

「今度はあの中か……」
『いちいち入っていくのであれば結構なタイムロスになりますが…』
「そんな面倒くさいことしなくてもいい」
『ではあれを?』
「ああ、頼む」
『OK、ビル内スキャニング開始』

 

盾の宝石の部分から薄い緑色の一線が出てビル全体を上から下までなぞる。
アスランの前に画面が現れ、建物内部の立体映像が写る。
そして赤い点と青い点が所々に表示される。
赤が攻撃スフィアで青がターゲットのようだ。

 

『スキャニング完了』

 

ジャスティスからの終了を聞き届けると画面を横目で見て、ビルの窓の一角に銃を向ける。
魔力弾が形成され、それをさらに小さく圧縮させる。

 

(障害物の配置場所と壁の位置からすると……ここだ!)

 

一発の弾を窓の中に撃ち込み、さらにもう一発照準をずらし撃つ。
最初の一発は窓の手前にいたスフィアを撃ち抜くが、それで終わらず
撃ち抜いた弾は壁を反射し、別のスフィアを破壊する。
さらにまた反射…反射…反射。
壁という壁をつかい見事、的確にスフィアを壊していきあっという間に残骸だけを残す。
別の位置から入ったもう一発の弾は同じように反射連鎖し、ターゲットを破壊した。

 

カシャッと銃をブローバックさせ、画面を見る。
さっきまであったビル内の点が全て消えていた。

 

『お見事です。マスター』
「お前の協力がないとできないさ…それにあれの装甲が薄いからうまくいっただけだ」
『謙遜しないでください』
「そういう訳じゃ……まあいい。急ぐぞ」
『了解』

 

余計な話しをしていると時間がもったいないと察し、
会話を打ち切りアスランは他のビルに飛び移る。

 

ところ変わり六課のメンバーのいるロビーでは

 

「………」

 

驚愕な顔と沈黙がそろいぶみであった。

 

「す、すごい…アスランさん」

 

先程のアスランの反射撃ち(リフレクトショット)を見た感想に言葉が震えるスバル。
隣ではティアナが眼を見開き、口が開けっ放しになっていた。
そしてやっと言葉を紡ぐ。

 

「誘導性もなしに……あんな複雑なショットを…」

 

おまけに最初の空中降下での狙い撃ちも驚いている。
あんな体勢から、普通は照準がぶれて難しいはずなのに彼は問題なしに命中させた。
画面を見続けているが、明らかに連射、弾速、反応対応速度が自分より速い。
撃ち漏らしも見ている限りでは一つもない。完全的確にすべてを命中させているのだ。
アスランの数々のベストショットを見ているうちに、
いつしかティアナの中に段々と対抗心への炎が燃え上がっていた。

 

「それにしても…あのデバイス、何か変ですね」

 

画面を見ていて気づいたライトニングの若き少年戦闘員エリオが言う。
一瞬でビル内部を高度スキャンしたからだ。デバイス単体であの機能は確かにすごい。

 

「どうやら、あのデバイスは分析能力に優れているようだな」

 

シグナムが予想をたてエリオは納得する。
しかし、彼女は他にも疑問があるようでアスランをじっと観察した。
そうしてアスランは順調に次々と目標を撃破し、ゴールへと向かっていく。
良々な彼に見ていたはやては腕を組み嬉しそうに言う。

 

「ここまでは確かにすごいな。やけど本番はこっからや」

 

その言葉にティアナとスバルが反応する。ああ、あれかと。

 

「大型オートスフィア。生半可な射撃じゃこいつのシールドはやぶれんよ。
 さあ、どうでるアスラン君?」

 

アスランはビル内と路上にあるターゲットとスフィアを全て壊し、あとはゴール前だけだ。
なので今、彼はゴールに向かって走っていた。
だが、その途中にいた巨大スフィアが進行を妨げる。
アスランを認識した瞬間にスフィアから弾丸の雨が降り注ぐ。
すぐに物陰に隠れ、アスランは身を潜める。
そして銃撃が止んだ瞬間を狙って即座に魔力弾を放つが、強固なシールドに弾かれ消滅する。
驚いたのも束の間、またスフィアからの攻撃が始まる。
再び障害物に隠れるアスラン。

 

「なるほど…あれがラスボスってわけか…」
『どうしますか?』
「あのシールドを破らないかぎりこっちの攻撃は通らない…なら」

 

そう言って銃をいったんホルダーにしまい、タイミングを見計らう。
そしてその時がきて、音が途切れた瞬簡にとびだしスフィアへと走る。
三度放たれる弾丸にアスランは両手甲から紅いサーベルを抜刀させ、
向かってくる弾をはじきながら距離をつめる。
無理な弾は避け、可能ならば弾き飛ばし近づいていく。
それを繰り返しいつしか距離は0になる。

 

「はああああああっ!!」

 

気合と共に両サーベルをシールドに突き刺し、広げようとする。
バリバリと音を立て、ひびが徐々に入るシールド。

 

「でえええぇぇいッ!!」

 

力を振り絞り、さらに深く突き刺すとシールドは音を立てて砕ける。
後ろに跳躍し距離をとってジャスティスをスフィアに向け構える。
その際にスフィアはまた攻撃をしようとするが、

 

「させないっ!」
『claw bind』

 

スフィアの前に4個の紅い爪のような物が出現した。
それがX状にクロスして、スフィアを捕捉する。
直で捕まれスフィアは身動きと砲撃ができなくなった。

 

『Skylla stanby』

 

アスランの足元に魔方陣が浮かぶ。
しかし、それはミッド式でもベルカ式でもない。
円の中に大きなZの文字と細かな文字が回転する。
彼はこれを“ザフト式”と呼ぶことにした。
そして、盾の先端に魔力が集中する。

 

「スキュラ・ブラストォッ!!」

 

深紅の強大な魔力の奔流がスフィア目掛けて放たれる。
装甲にあたりじわじわと下がってはいるが破壊するにはまだまだのようだ。
時間のロスだと感じアスランはイラつく。ならば―

 

「魔力…供給っ!」
『magic charge』

 

ジャスティスから膨大な魔力がアスランの体を道にして放出される。
一気に光線は膨れ上がりスフィアを飲み込む。
路上に一筋の閃光が奔り、爆発を起こす。

 

それをゴール前で見ていたリィン曹長は唖然としていた。
散りきらない灰色の露煙が空に上がる。
彼はどうなったのだろう。爆発に巻き込まれたのか。
心配になったので見に行こうかと思った矢先に、空から放たれる魔力弾。
彼女の横をかすめ、後ろにあったターゲットスフィアに命中する。
へ?という感じで砕けたスフィアを見た後、視線を空へとあげれば…そこに彼はいた。
アスランはゆっくりと地上に降下してくる最中だった。
あの爆発の一瞬になんとかハイジャンプし爆炎から逃れたのだろう。恐ろしい瞬発力だ。
スラスターを使いそのままゴールの線に悠然と着地、ピンとゴールサインが点灯する。
口をポカーンと開けたままリィンはアスランを見ていた…試験官だということを忘れて。
そして、彼は立ち上る煙を眺め一言。

 

「やりすぎたな…」

 

ムキになりすぎたことを反省するのであった。