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Last-modified: 2008-03-30 (日) 18:05:32

【108部隊―隊舎】

 

「ぐしゅ…うぅ…」

 

自分の部屋のソファーに一人座り、すすり泣いている女性がいた。
ハンカチで涙を何度もぬぐい嗚咽をもらす。

 

「ふえぇ…なんて…なんて…」

 

涙ながら言葉をつむぐ彼女。

 

「なんていい話なのーーー!!」

 

次の瞬間ムードが一変に変わった。滝のように一気に涙が流れ、絶叫する。
その様子は泣いていたというより感動していたというほうが正しいのかもしれない。
彼女―ギンガ・ナカジマの前にはテレビが光々とついていた。
さっきまで見ていた映画のスタッフロールが流れ、そのテーマ曲がまたいいものだったりする。

 

この映画はギンガの同僚から借りたもので、ミッドチルダの中では名作と謡われているそうだ。
なんでも第97世界の人がこの世界に持ち込んだらしく、その面白みは一気に広がったらしい。
内容はラブロマンス。主に女性には大人気らしい、その理由は男性役の俳優が超カッコいいから。
ヒロイン役の女性も美人で男性にも人気がある。
だがこの映画、ラストシーンは男性が死に別れるといった可哀想な展開になる。
そこまでに二人の愛の絆というものが嫌というほど描かれていたのでいっそう深みが増していた。
ギンガもその一人で最後のシーンに感涙していた。

 

一通り泣き終え今度はさっきからとても気になっていたことがある。

 

「ぐすっ…それにしてもあの俳優の声…アスランにすっごい似てたなぁ…」

 

映画が始まってその男の役の人が喋った時には驚いた。
自分の知っている男性友達の声にうりふたつなのだ。
似たような人はいるものだと思って見続けていたが、独特の言葉遣いなど
やたらと彼に似すぎていたためどうもにも重ねてしまっていた。

 

(もしも…俳優があの人じゃなくてアスランだったら……)

 

何故かそんなことを想像し始めてしまうギンガ。
どうしてかといえば、単純明快。あの男性俳優はギンガにとってタイプではなかったから。
他の女性はかっこいいとか言っていたけど、彼女にしてはそれ程ではないと感じた。
そして彼女の心にあるのはいつも話していた友達、アスラン・ザラ。
タイプというか印象が強いから根付いたかもしれないが、ギンガにはわからなかった。
モヤモヤと想像図を浮かべるギンガ。

 

~シーン1~

 

『ほら、ここに立って』
『怖いわ…』
『大丈夫、俺がちゃんと支えてあげるから』
『絶対よ…』
『ああ、約束だ』

 

夕焼けが煌めく水平線。二人は船の先端に立ち、柵に脚をかけギリギリまで身を乗り出す。
彼女は目を瞑りながら、両手を水平に広げる。腰にはちゃんと彼の手が添えられていた。

 

『開けてごらん…』

 

優しく呟かれ彼女は目を開ける。

 

『うわぁ…きれい』

 

広がる視界は全て夕焼けにそまっている海原。きらきらと反射し絶景を彷彿させる。
風が身をかけ、心地良い。

 

『まるで空を飛んでるみたい…』
『気持ちいいだろう?』

 

後ろに顔を向けると彼が微笑みを浮かべている。
その凛々しい表情にうっとりと頬を染める。
そして、彼の方から顔を近づけてきた。
彼女も自然とつられなすがままに唇を……

 

(きゃああーーー///)

 

突如、現実に戻され赤い顔をソファーに突っ伏せばんばんと叩く。
自分は今なんという妄想をしてしまったのだろう。
あろうことかヒロインを自分に置き換えてしまったのだ。
羨むシーンはあったがあんなことされたら誰って恥ずかしいに決まっている。
はぁはぁと息を荒げたがどうにか落ち着きを取り戻すギンガ。
だが、一旦想像し始めたら止まらない。次から次へとモワモワと浮かぶ。

 

~シーン2~

 

『じゃあ…そこに寝て手をこんな風にあげて…』
『うん///…これでいい?』
『ああ、そのまま動かずにそうやっててくれ…』

 

彼の言われたとおりに彼女はソファーに身を預け、片手を仰向けにしておでこにつける。
とてつもなく恥ずかしい。…彼の翡翠の瞳が自分の体をまんべんなく見つめていた。
それもそのはず、今彼女は一糸も纏わぬ裸体を彼に曝け出しているからだ。
真っ白の肌は羞恥のせいでうっすらと高揚している。
だが決して厭らしいことではない。彼にとって今の彼女は一つの芸術として見られているからだ。
視線がキャンバスと彼女の体を行き来してペンを動かす。
彼の真剣な表情と瞳に自分の体が吸い込まれそうな気がした。

 

きゅぼんっ!!

 

変な音を立て頭から湯気が吹き上がり現実に再びもどる。
そしてまたソファーをドンドン叩きながら一人盛り上がっていた。

 

(あっ…でもアスランは絵は苦手っていってたから…多分これは…ないわね…)

 

アスランの苦手なものに気がついて今の妄想を誤魔化すギンガ。
さらに妄想はエスカレートする。

 

~シーン3~

 

救命ボートが徐々に下がる。周りの人は恐怖と混乱で入り乱れている。
彼女は見上げる。そこにいるのは愛した彼。
自分はいいから先に行けと、何より彼女を優先させた。
彼も彼女を見下ろしている。二人だけの視線がつながり時間がゆっくりと流れているように感じた。
もう会えない、そんなのは嫌だ、あなたと一緒にいたい。
拭い切れない切なさと不安が彼女を競りたて、気付いたときには下のデッキに飛び乗っていた。
彼も驚いてすぐに下に向かって走る。彼女も上に向かって一直線に走る。
向かう場所は二人ともとうに意識できている。
逸れる気持ち、焦がれる想い。全てが重なり二人は再び抱きあう。

 

『まったく君は!!…なんて馬鹿なんだっ!!』
『ごめんなさいぃ!…でもっワタシ、わたしはぁ!!』

 

怒りながらも彼は涙して彼女の唇に何回もキスをする。
乱暴な口付けだが彼女にとっては何より愛おしく最高のキスだった。

 

『私はあなたと一緒に居たいのぉ!!』

 

その言葉に彼はさらに大粒の涙を流す。

 

『…ああっ!!俺もだっ!!』

 

二人はこれ以上ないってぐらいに抱き合い、激しい口付けを交わした。

 

ぶふぅッ!!

 

思わず出そうな鼻血を必死に堪えるギンガ。
これはさすがに初心(ウブ)な彼女には刺激が強すぎたようだ。

 

(いけないわね…これ以上想像すると血圧がMAXになっちゃう…)

 

もう変な妄想は止めようと彼女はテレビを消して少し早い就寝をした。

 

~シーン4(夢)~

 

『…おいで…ジョセフィーヌ……ふたりで…いっしょ…に』

 

満天の星空を見ながら彼女は歌う。だがその声は今にも消え入りそうで儚いものだった。
人一人しか乗れない木材にのって彼女は海を漂う。
昼間見た綺麗な海と心地よい風は、今は地獄と化していた。
絶対零度の冷たさが体の体温を奪い肌を蒼白に染めまるで死人のようだ。
感覚がなくて手足が付いているのかさえわからない。髪は凍りつき、小さな氷柱を作っている。

 

生きているのが不思議だなと彼女は思った。もうこんなにも酷い有り様なのに。
このまま眠ってしまいたい……。

 

そんな衝動を彼女を襲ったが視界が明るくそまったのですぐにやめた。
救助に来てくれた人たちがライトを照らしながら生存者を探している。

 

――ああ、やっと来てくれたんだ…

 

信じて待っていたかいがあった。助かるんだ…。
希望が心に生まれてきた。
これも彼のおかげだ…そうだ、彼を起こしてあげないと…。
きっと喜んであの笑顔を見せてくれる。
体を反転させ、しがみついている彼の手に自分の手を添える。

 

『起きて…ねえ…助けがきたよ』

 

手を握りゆさぶる。嬉しさで顔が綻ぶ。

 

『私たち…助かるん……だよ』

 

何度もなんども揺り起こそうとしたが、彼は目を開けない。
次第に彼女の表情が変わっていく。認めたくない現実が迫っているからだ。

 

――いやだ…こんなのって…ないよ…。せっかくここまできたってゆうのに…こんな結末なんて…

 

泣き叫びたいのに声が出ない。
愛した彼は先に逝ってしまっているのに、こんなに悲しい気持ちなのに。
彼女は彼の手に顔をうずくめ、小さな嗚咽をもらす。
そして覚悟を決めなければならなかった。
いつまでも泣いているわけにはいかない。今自分が生きているのは彼のおかげだ。
なら彼と約束したとおり私は生きなければならない。

 

凍りついた手を優しく引き剥がし、最後のキスをその手の甲にする。

 

『私……生きるからね…ぜっ、たい…』

 

離したくない想いを決意でとかしてゆっくりと彼を海に沈める。

 

『約束だよ………アスラン』

 

彼が暗い海に沈んでいくのをギンガは最後まで見届ける。

 

「ッ!!つぶはぁっ!!」

 

がばっと勢い良く布団から起きて、夢から戻ってきたギンガ。
体は汗ばんでシャツがくっついている。
ぜえぜえと息を荒げて、周りを見渡す。

 

「ゆ、夢か…」

 

どんだけ影響されているんだと感じ、恥ずかしくなった。
だけどやっぱり不安で念のためすぐに通信をいれる。

 

「アスランっ!!」
『へ?』

 

いきなりのギンガからの通信がかかったので驚くアスラン。
見れば彼はいま着替え中だった。

 

『えっ!?ちょっとまて、なんなんだいきなりっ!?』
「ああぁっ!!///ごめんなさい!!」

 

慌ててズボンを穿くアスラン。ギンガは赤くなってすぐに顔を背ける。
少ししたらようやく落ち着いて二人は向き合っていた。

 

『で?…どうしたんだ急に?』

 

呆れた感じで尋ねる。ギンガはあっといった表情をした。

 

「えっと~…その…嫌な夢を見ちゃって…少し心配になったから…」
『夢?』
「うん…」

 

恥ずかしそうに顔を伏せるギンガ。たかが夢でこんな大げさなことをしてしまったのだ。
子供だと思われるかもしれない。だがアスランはきょとんとした表情から微笑になる。

 

『そうか……ありがとうなギンガ』
「…えっ?」
『心配してくれて』

 

アスランは馬鹿にしたりもせずに本当に嬉しそうにお礼を言ってきた。

 

『大丈夫だよ。俺はちゃんと生きてるから』

 

夢の内容を見透かしたように微笑みながら言うアスラン。
ギンガもちょっと驚いたが、その笑顔に癒され安堵する。

 

「うん!」

 

満面の笑みで返事をするのだった。

 

~おまけ~

 

「おいっ!!アスランっ!!」
「は?」

 

後ろから名指しされ振り向くアスラン。
見ればヴィータがアイゼンを両手にこっちを睨みつけていた。

 

「どうしたんです?副隊長…」
「てめぇ…まさかあいつだとは思わなかったぞ」
「え?」

 

何がなんやらで首を傾げるアスラン。

 

「覚悟しろやぁぁー!!邪悪な魔法使いめえぇ!!」
「はいいぃ!?」

 

猛烈ないきおいで槌を振りかぶってきたので急いで避けるアスラン。
まじでなんのことだかわからない。

 

「日記を渡せぇぇッーーー!!」
「ちょ!!…なんのことだ―ぎゃああああああ!!」

 

隊舎に轟音と可哀そうな男の悲鳴が響き渡った。
事情をシグナムが聞いたところ、なんか前夜にやっていた映画がどうたらこうたらと
訳のわからないことを言っていたそうな。