EVAcrossOO_寝腐◆PRhLx3NK8g氏_EX_1話

Last-modified: 2014-03-05 (水) 12:51:21

―2年前 松代にて

 

「じゃあ、シンジ君? 打ち合わせ通りね。NERV本部でやってた通りにやればよいから」
「解りましたミサトさん」
「リツコにあんまし長く話すとハックされて面倒だって言われてるから短いけどコレだけね?
 あ、それと自分の名前……後、指令の事をお父さんって言わないでね? 色々面倒になるかもしれないから」
「はい。その説明は聞いてます」
「っと、えーと入り口の反対側を向いて。それの斜め下ね。ちょっと出っ張ってる所。 
 あそこでお父さんも見てるんだからしっかりね! 中に乗ればきっとカメラで見える筈よ」
「え? 父さんが来てるんですか? ……は、はぃ! 頑張ります!」

 

 少年のやや弱弱しい声も父の存在を明らかにすれば、少し覇気が出てきたのか
 声も僅かに上ずっている。土を深くえぐる様に削られた巨大なクレーターの様な場所。
 NERVの第二実験場松代基地。其処に将来的にEVAと呼ばれる巨人が鎮座していた。
 黄色がかったカラーリングに一つ目に見える頭部のデザイン。
 汎用人型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオン試作零号機。
 それがその巨人に付けられた名前だ。あくまで、動かす事が可能か不可能か立証する為の巨人。
 ミサトさんと呼ばれた女性は司令部とは遠く離れた車両から直接通信を掛けていた。
 搭乗位置まで運ぶクレーンの移動中、シンジと呼ばれた少年と携帯で僅かに言葉を交わしている。
 ミサトと呼ばれた女性は少年に方向と位置を指示して顔を向けさせる。シンジと呼ばれた少年は
 映像と指先を追えば、ガラス張りの監視室の様な場所にある人影が目に入る。
 数人の大人。老人が1人、中年の男が1人、中年とまで行かなそうな男女が3人。
 それと多くの技術者らしき人物が機械に張り付いている。
 まるで、クーラーボックスの様に詰められた様な白い壁に囲まれた施設の中
 その出っ張った部分への人の密集率は異常だった。
 
「ユニオン軍技術顧問、ビリー・カタギリであります」
「AEU所属戦術予報士、リーサ・クジョウであります。
 本日は大変名誉な機会に恵まれ、光栄であります」
「左に同じく。まさか、噂の決戦兵器の起動実験に立ち会えるとは」
「うむ。話は聞いているよ。まぁ掛けたまえ。堅苦しいのは抜きだ」
「「はっ! 恐れ入ります」」

 

 監視室らしき部屋の中、ポニーテールの長髪をした眼鏡を掛けた男と
 やや癖の強い髪をなびかせる女性が老人へ挨拶をしていた。
 二人とも違う所属だがその衣装や立ち居振る舞いから軍人である事を確信させる。
 ぴしっと背を伸ばし、掲げられる敬礼は白髪交じりのオールバックを固めている
 老人にやれやれと肩を竦ませる。そんなやり取りが行なわれている中、入り口の扉からはサングラスを掛けた男が1人
 無愛想な態度を崩さぬままやや頭を垂れた後、つかつかと金髪の白衣の女性の方へと歩いていく。
 憮然とした態度。声を一言も掛けずにちらりと視線を送っただけでまるで虫けらの群れを見つけた程度の様な興味ない素振り。
 挨拶を交わす間もなく、進行方向へと進んでいるその男に対し、軍人二人は顔を見合わせながらも首を傾げる。

 

「何アレ? 無愛想な人ね」
「あのぉ……あの方は?」
「すまない。彼は碇ゲンドウ。中々気難しい男でね」
「っ!? 指令自ら指揮を執っているのでありますか?」
「彼も私も学者肌でね。ああ見えて、好奇心旺盛なんだよ」
「はぁ。人は見かけによらないもので」
「こら、クジョウ君!」
「あ! すいません。大変、失礼な事を」
「ははっ、私も彼に対しては第一印象から随分と認識が変わっている1人だ。
 ところで二人は見知った仲なのかね?」
「え? ええ、実は同じ大学の出でして」
「ふむ。そういえば、二人とも例の国際大学で名前を見た様な……確か、君はエイフマン教授の教え子か」
「はい。エイフマン教授の勧めで冬月副指令の論文は僕も拝見した事があります。実に興味深い内容で」
「おや、ユニオンは技術屋にまでそんなリップサービスを仕込んでいるのかね?」
「い、いぇ! それは僕自身が興味を持って取り寄せたものであの内容はですね!」

 

 訝しげに入ってきた中年の男を僅かに観察した後、クジョウと呼ばれた女性が気味悪そうに言葉を漏らす。
 老人から説明を受けると軍人の男女二人はぎょっとした様子で慌てて敬礼を返した。
 しかし、ゲンドウと呼ばれた男はそれを見る事も無くつかつかと歩を進めている。
 白髪交じりの老人、冬月副指令と呼ばれた男は無愛想な男のフォローの為、砕けた言い回しで言葉をぼやきの様に語りだす。
 一見堅物そうな老人には見えるが話の物腰は柔らかく、徐々に緊張していた二人の軍人を落ち着かせる様な言葉と
 此処が軍任務で来ている事を忘れさせる様な話題のチョイスをしてくる。冬月と呼ばれた老人は二人の経歴書は事前に目を通していた。
 ただ、それを敢えて”今”気付き、線が一つに繋がっている様に演じている。
 冬月と呼ばれた老人は勿論そのエイフマン教授と言う男性の方の師である人は見知っている。
 少し思い出すのに時間を掛ければ、それなりの話題も出せるだろう。だから、敢えて話を濁す。
 たわいもない会話。カタギリと名乗った男の方は体よく食いついてくれた。
 良くも悪くも実に熱心な技術者なのだろう。その良心を利用するのは聊か冬月も心苦しい所があった。
 もう1人の女性も方も「また、始まった」と感じたのかため息を僅かに漏らす。
 ”出来るだけ詳細は覚えず、良い思い出話だけは持って返させる”
 そんな意図が冬月にあったとも知れずに軍人二人と老人はたわいもない話の花を咲かせていた。

 

「しかし、AEU、ユニオンの軍隊が査察ですか。我々も信用されてませんね」
「もしもの時の為だろう。いざという時はわれわれ諸共というつもりだ。
 上では煩そうに爆撃機やら色々と配備されている」
「普段いがみ合う二陣営が仲良く共通の気がかりを見学。まして、日本政府がそれを許しているとは」
「所詮、ユニオンの経済特区となった日本の自治政府などその程度だ。我々は我々で勝手にやる」
「碇指令。その……やはり、本部に残った方が」
「いや、私は此処で見届けねばならん」
「解りました。折角のご子息の晴れ舞台ですものね」
「……あぁ。そんな所だ」

 

 ガラスに数センチで鼻が着きそうになる位まで接近し、凝視する男女。
 ゲンドウと呼ばれた男の傍らで白衣を見に纏い、髪はショートボブ程度の金髪、唇には赤いルージュを塗った女性は
 冬月と軍人二人の空気とは真逆。此方は愚痴やぼやきなどというレベルではない。
 異物である二人に対する嫌悪。そして、それを許している現状に絶望の色も僅かに漂わせている。
 そう、コレは長年に渡って自分達の組織が積み上げてきたものだ。
 ホイホイと未だに「世界戦略ごっこ」をやっている俗物には見せるべきものではない。
 迂闊な野心と好奇心を刺激して、折角のEVAを戦争なんて下賎なモノに使われたら溜まったものではない。
 そういった、共通した認識が二人の会話を最低限の音量と言葉で確認しあっている。
 故にその言葉は、もし二人が聞いていたら胸を突き刺さる程に重く、悪意は露骨であった。
 最後、男の子供の話をされるとゲンドウと呼ばれた男は氷の様に固まる。
 嘘なのか、テレなのか、それとも自分が一番想定したくない動機なのか、白衣の女性には図りかねていた。
 いや、むしろ全部なのかもしれない。どっちにしろ、”今”聞くのは得策ではない。
 白衣の女性は賢かった。故にその話をそれで区切る事にし、作業の陣頭指揮を再開する。
 通信にスイッチを入れる。顔は出さないし、音声も加工されている。軍人二人に対する配慮だ。
 身元が割れたら色々と面倒な事になる。優秀な人材の引き抜きは何時の世も何処の世界でも変わらない。

 

「では、テストパイロット。此方の通信は聴こえるかしら?」
「はい。リツコさ、っとすいません。技術主任。聴こえています」
「私の名前は割れてるから問題ないわ。
 ちょっと不恰好だけど許してね。いろいろ計測しなきゃならない機器が多くて」
「いえ。……こう、なんかコスプレみたいですね。拘束されてる感が」
「ふふっ。思ったよりリラックスしてるのね。その試作型プラグスーツ。
 今回データが取れれば、もっとすっきりしたモノを作るから」
「は、はい」
「何色が好き? カラーリング位は自由に出来るわよ?」
「え……ええぇと……空……空みたいな青が好きです」
「スカイブルー? 解ったわ。では、今回はプランA-1からT-3まで」
「解りました。その、ありがとうございます」
「その程度お安い御用よ。じゃテスト始めるわよ?」

 

 リツコと呼ばれた白衣の女性は少年に手に取る様に感じられる緊張をほぐそうとする。
 本来、こういう事は現場主任の女性が担当なのだが、彼女は嘘が下手なので最低限の通信をする様に断っている。
 当の少年はごてごてとしたコードに計測器、バイザーのついたヘルメットも被っており
 そのまま、変身ヒーローとなり地方の採石場や港付近の倉庫街で悪の怪人を叩き伏せそうなデザインだ。
 無論、そんな様子は少年以外は観測用カメラしか捉えておらず、軍人二人には絶対に目に掛かる事はない。
 少年のたどたどしいながらも僅かな要望にリツコと呼ばれた女性はくすりっと笑みを返して、それに応える。
 そして、起動テストは始まる。専門用語の羅列。かちかちっとコンソールを叩く音に画面はめまぐるしく変わる。
 オペレーター同士はインカムで互いに確認を取り合い、一見物静かに見える中、凄まじい量の伝達と情報が流れていく。
 軍人二人は老人と話を進めながらも、聞き耳を立てている。

 

「話の感じから言って男かしら?」
「女っぽくも聴こえる。優しい感じだしね」
「実は子供だったりして?」
「いや、うーん。けど、子供にあんな大きな機体動かせるかな? 制御機器とか大変そうだし」
「実は口頭命令だったりね。『いっけぇーロボォッ!』とかで動いたり?」
「はははっ、まぁこの国のアニメではよくありそうな話だけど、流石に現実的じゃ。
 ん? いや……ありえるかな、それも。コレを見せられたらね」

 

 クジョウは勘が鋭かったがビリーはそれを現実的に散見して可能性の低さを指摘する。
 お互いにこの機体に関しての知識は殆ど聞き及んでいない。ただ、巨大な人型の兵器で
 パイロットは1人。軍すらも関与出来ない特殊な世界機関が関わっている事。
 そして、それが現実に存在する事を目のあたりにして驚愕していた。
 人型兵器など実用性で言えば、ナンセンスだ。まず、人型というシルエットは被弾効率が悪過ぎる。
 それ故にに実際、戦場では歩兵達が匍匐全身をして、塹壕を掘っているのだ。
 あの大きな巨体でどうやって戦車の砲弾や戦闘機のミサイルを避けるのか?
 ビルですら隠れられないし、そもそも維持費諸々は天文学的な数字になるだろう。
 そんなモノは本来は存在し得ない。まぁ、言うならばロマンではあるのかもしれない。だがそれが現実にある。
 ビリーも言った様にアニメの中でしかありえない存在が目の前にいる事で
 その既存の理論で組み上げられた”可能性”の脆弱さを露呈させていた。

 

 リツコと呼ばれた女性が「ふむ。此処までは順調」と言おうと口を開いた途端、警報がなる。
 次々とクリアされていた確認事項が赤い文字へと変わっている。
 画面一杯にERRORの文字が躍る。次の瞬間、目の前に居た巨人は背中についていた何本のコードを引き千切り
 その場所へと拳をたたきつける。へしゃげるフレームに割れるガラス。
 殺意の篭った一撃に対し、ゲンドウと呼ばれる男はまっすぐにそのEVAと呼ばれる予定の巨人を見つめている。

 

「なっ、どうしたの? まさか、暴走!?」
「碇、彼でもダメなのか?」
「……っ! 状況を報告しろ。何が起きている?」
「内部で熱源が発生。このパターンは!?」
「なんだ?」
「パターン青! 使徒です!」
「「!?」」
「エヴァの中に居たというのか!」

 

 ゲンドウと呼ばれた男は僅かに歯軋みをしながらも、静かに命令を伝達する。
 その場に居た全員に衝撃が走っていた。敵の潜入、それも試験中の機密情報の塊にもぐりこまれる。
 その失態もそうだが、何より距離が近過ぎる上に、対抗策が一切無い。
 使徒と自分達の間に立ち塞がるモノは既に皹も入り、節々が割れて砕けている強化ガラスのみだ。
 使徒を倒す為の”EVA”。その唯一にして、完成形に最も近いとされる零号機が今、この瞬間”使徒”になってしまった。

 
続きの予定は未定。だが、物語は確実に続いている

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