FateinC.E73_第01話

Last-modified: 2007-11-17 (土) 17:47:21

 Oct・2・C.E.73
 アーモリー1
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、ただいま着任いたしました」
 MS搭載強襲戦闘艦・ミネルバ。
 翌日に就役式を控えたこの艦の艦橋で、フェイトは艦長、タリア・グラディスに報告し
ていた。傍らにアーサー・トライン副長も立っている。
 着ている制服は、ZAFT軍事アカデミーの修了者のうち、上位10名だけが着る事が出来る
というザフト・レッド。
「よろしく。任務の詳細については追って説明する」
 タリアは返礼しながら言うと、それを解いてから、笑い混じりに言う。
「もっとも、貴女に関しては既に機体の搭載も済んでいたわね」
「はい。よろしくお願いします」
 そう言って敬礼を解く。
 タリアたちと別れ、人員用のエレベーターに乗る。
 居住区のレベルに移動しようとしてボタンを押しかけ、少し躊躇ってから、格納庫のフ
ロアを押す。
 ドアが開く。
 舷側の格納庫はまだがらんとしている。完成して就役する艦ということもあり、“愛機”
の概念が強いZAFTでは、他の搭乗員が着任とともに割り当てられたMSを運んでくるのだろ
う。
 2セットだけ、特殊なMSが、中央のリフト型格納庫に、既に搭載されていた。
「バルディッシュ……」
 中央格納庫を見上げ、呟く。
「よっ、おっつかれさん!」
 軽い口調で話しかけてきたのは、整備員のヴィーノ・デュプレ。年恰好はフェイトと変
わらない。
「シンは? ヨウランと一緒に出るって言ってたけど」
 フェイトはヴィーノに訊ねる。
「2人ともまだ来てないぜ」
 ヨウランはヴィーノの同僚になる整備員。フェイト同様、シンと共にミネルバに着任す
るはずだった。
「街でうろついてんじゃねーの? シンはともかく、ヨウランが一緒じゃな」
 ヴィーノは呆れたような苦笑で言う。
「でも良いよなー、羨ましいよなー、シンの奴」
 ヴィーノは手を頭の後ろに組み、そう言った。
「彼女と2人して赤服で、一緒の艦に乗って、オマケに部屋まで同室? ここホントに軍
隊?」

「べっ」
 ヴィーノの言葉に、フェイトは顔を真っ赤にして、裏返った声を出してしまう。
「……別に、そういう理由で同室ってワケじゃ、ないから…………」
「関係については否定しないんだな」
 ヴィーノは、呆れきって直立しながら、ぼやく様に呟いた。
 フェイトはその場で俯き、哀しげな顔をする。その様子に、ヴィーノはさすがにまずい
と思ったらしく、慌てて声をかける。
「ご、ごめん! わ、悪気はなかったんだ、冗談なんだよ!」
「あ……」
 フェイトは顔を上げた。
「ちがう……ただ……私とシンは、互いに自分しか…………」
「す、すまん。本当に」
 ヴィーノは真正面で手を合わせ、頭を下げる。彼は仏教徒や日本神道の信者ではないは
ずなのだが……
 2人はオーブ出身で、何れも天涯孤独の身だと、周囲には知られている。
 シンの家族は、前大戦におけるオーブ戦の際に、戦闘に巻き込まれて亡くなった、とい
う事実のままに。
 そして、フェイトは、周囲にはそれ以前から孤児であったと説明していた。
「気にしないで、ください」
 深々と頭を下げるヴィーノに、フェイトの方が困惑してしまい、おろおろとしながら言
う。
「ホント、ごめんな」
 ヴィーノは顔を上げたが、表情はまだ、“苦味”が多い苦笑だった。
 その2人を他所に、人員用のエレベーターがフロアに到着し、扉が開いた。
「おやぁ~?」
 エレベーターから降りてきたヨウラン・ケントは、フェイトとヴィーノが一緒にいると
ころを見ると、ニタニタ笑いながら降りてきた。
「だめだぜヴィーノ、フェイトにコナかけたって、彼女にはだな……」
「ばっ、バカっ!」
 腰に手を当てて、妙に得意げな態度で話そうとするヨウラン。しかし、ヴィーノが驚い
たような声を出すと、首に手を回して、無理やり引きずってフェイトから離れていく。
「あーフェイト~シン、先に部屋に行っているってよ~」
 ヴィーノに締められつつ、ヨウランは手を振りながら、そう言った。
「あっ……」
 思わず表情が明るくなってしまう。ヨウランが降りてきたエレベーターに乗り込み、格
納庫を後にした。

「ですから姫、その問題には我々としては如何なる回答もいたしかねると、申し上げてい
るはずです」
 プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルは、困惑と、呆れと、憤りの混じ
った険しい表情で、そう答えた。
「何故だ! 元々彼らはオーブの国民だぞ!?」
 激しい口調で、明らかに敵意を持った表情で言う、カガリ・ユラ・アスハ、オーブ首長
国連合代表。
「今は違います。既に彼らはプラントの国民です。その彼らの職業や居住の自由をオーブ
が制限する事は、プラントに対する内政干渉であるだけではなく、彼らに対する人権蹂躙
でもあります」
 険しい表情のまま、淡々と言い返すデュランダル。
「しかしっ、……それが戦争である必要はないはずだ!」
 言葉に詰まりかけ、感情的な言葉を吐くカガリ。
「姫。軍事技術が即戦争につながるというのはいささか短絡的過ぎです」
 デュランダルはウンザリしたような様子を見せながら、そう答える。
「その、姫というのはやめてくれ!」
 カガリは、顔を紅潮させながら言った。
「では代表、と。先ほど私は同胞と申しましたが、実のところ、オーブからはコーディネ
ィターのみならず、ナチュラルの難民も少なからず受け入れているのですよ。そしてその
ほとんどがこのアーモリー・シティに在住している」
「それはっ……」
「彼らの生活と人権の擁護を、プラントの代わりにオーブが補償できるというのですか?
1人の例外もなく」
「…………」
 デュランダルの言葉に、カガリは言葉を失い、しかし表情は相変わらず、敵意をむき出
しにしたような険しい顔。
 随員のアレックス・ディノは、表情をサングラスの下に隠していたが、どちらかという
とデュランダルに対して、眉を潜めているのが見える。
「だが────」
 カガリが、何か言おうとした時。
 デュランダルの背後で、閃光が迸った。

 居住室の扉が開き、フェイトは室内に足を進める。
「シン」
 シン・アスカはザフト・レッドの制服に着替えつつ、何かを手悪戯していた。ピンク色
の携帯電話。妹、マユ・アスカの形見。
 2年前、フェイトの足元に転がってきたこれを、シンは追いかけてきた。そしてそのお
かげで、家族の中で彼だけが生き残った。
 ────でも、結局それで、私は彼を苦しめてしまっているのかもしれない。
 フェイトが俯きかけた時、シンは顔を上げた。
「ああ、フェイト」
 笑顔を見せるシン。携帯電話をズボンのポケットに押し込む。
 フェイトの表情は晴れなかったが、シンの仕草を見て、ふと思い出した。自分のズボン
のポケットに、手を入れる。
 取り出したのは、ペンダント。“q”の字の円の部分がやや大きい形をしている。中心
の円には、ルビーのような、シンの瞳と同じ色の素材が嵌められていた。
「これ、シンにお守り。持ってて」
「あ、ありがと」
 フェイトからペンダントを受け取り、シンは早速首にかける。
「色違いなんだね」
 シンが言う。フェイトの首には、同じ形で、周りの金属の部分が濃いグレー、中央が黄
色の素材が嵌められた、ペンダントが下げられていた。
「フェイトのお守りは効くからな、嬉しいよ」
 シンが笑顔で言うと、フェイトもはにかむ様に笑った。
 室内の空気が、和やかになった、そう思った時。
 アラートが、室内、いや艦内全体に鳴り響いた。
『工廠地区でMS強奪発生、インパルスとバルディッシュに出撃要請。繰り返す、工廠地区
でMS強奪発生、インパルスとバルディッシュに出撃要請』
 女性オペレーター、メイリン・ホークの声が、放送で響く。
「強奪だって!?」
 シンは飛び上がるようにして、部屋を出る。フェイトはそれに続く。
 ブリーフィング・ルームから続くロッカー・ルームに飛び込む。当然ながら、フェイト
とシンの駆け込むそれは別々だ。
 フェイトはロッカー・ルームに駆け込むと、ザフト・レッドの服を脱ぐのではなく、胸
にかけているペンダントを握った。
 ガチン!!
 ペンダントの、“q”の字の“柄”になっている部分が、音を立てながら収縮した。蒸
気のような物が、あふれ出る。

 ザフト・レッドの制服が消え、レオタード状のバリアジャケットが現れる。ガントレッ
ドとブーツはオミットして、ベルトはクロスではなく横一線に改めているが、ほぼ以前の
イメージを踏襲している。
 ペンダントの“柄”の部分が一度延び、そこから薬莢のようなカートリッジが排出され
た。
 その上からパイロットスーツを着込む。バリアジャケット装着状態ならば宇宙空間に放
り出されても平気なはずだが、その存在を知られたくないというのと、もう一つ、この世
界の時代に、魔力素に干渉しその流動を妨害する何かが存在しているということが理由だ
った。
 ブリーフィング・ルームへ飛び出す。シンと同時。一瞬、目を合わせる。
「気をつけてね……」
「フェイトこそ」
 さらに格納庫へ飛び出し、キャットウォークの階段をシンは上へ、フェイトは下へと駆
けて行く。
『コアスプレンダー1号機、発進待機位置へ』
 エレベーターが動き、コアスプレンダーが、ミネルバの中央航空機用発艦デッキに上げ
られる。
「シン・アスカ、コアスプレンダー、出るっ」
 格納庫側から射出口へ向かってガイドLEDが順に点灯し、リニアカタパルトが1機目のコ
アスプレンダーをアーモリー1の作られた空へと打ち出す。
『インパルス、チェスト・フライヤー、レッグ・フライヤー、射出します』
 航空機型に変形している、インパルスのチェスト・フライヤー、レッグ・フライヤー、
『シルエットフライヤー、ソードシルエット、射出!』
 そして、ソードシルエットを組み込んだシルエットフライヤーが、コアスプレンダーを
追いかけて飛び上がって行った。
『コアスプレンダー2号機、発進待機位地へ』

 Generation
 Unrestricted
 Network
 Drive
 Assault
 Module
 COMPLEX

 YFX-M56-2 CORE-SPLENDER

 インパルスのコアスプレンダーに対して、2機目として改善点があるものの、カタログ
スペック上はまったく同一機種のコアスプレンダーが、発艦デッキに上がる。
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、コアスプレンダー、行きます」
 静かに良い、そしてリニアカタパルトに、コアスプレンダーは射出された。
『バルディッシュ、チェスト・フライヤー、レッグ・フライヤー、射出します』
 インパルスのそれに良く似たそれらが、次々と射出されていく。
『デバイスシルエットフライヤー、ソード・デバイスシルエット、射出!』
 最後に、戦闘機型の無人輸送機に搭載されたそれが、打ち出されていった。
 フェイトはコアスプレンダーをほぼ垂直上昇状態にする。主翼を折りたたみ、そこへレ
ッグ・フライヤーがドッキングしてくる。
 スロットルを絞り、チェスト・フライヤーとドッキング。チェスト・フライヤーはイン
パルスと異なり、航空機形態時の主翼は腰元へスライドするように移動して、シーリング

リフターになる。

 COMPLETE. ZGMF-Y56S/Adv BARDICHE

 形式番号が示すとおり、元はZGMF-X56Sインパルスの量産化評価用として2機製造されて
いた機体のうち、1機を改修したものだった。そのため、背中にはシルエットシステム用
のインターフェイスの他に、ニューミレニアムシリーズで採用されたウィザードシステム
用のインターフェイスも併設されている。
 そのインターフェイス部分に、ソード・デバイスシルエットが被さる様にドッキングす
る。
 ウェポンキャリアから、ビームグラディウスを抜く。従来のビームサーベルとは異なり、
柄の先に突起状のビームジェネレーターを持ち、幅広の刀身ビームを発生させる。
 MA-M941T『シグナム』。命名はフェイト自身に依った。
 エクスカリバー対艦刀を連結させ、ファイティングポーズをとるインパルスと、背後同
士を向けるようにして、降り立った。ポーズをとることはせず、アンチビームコーティン
グ・ウェポンキャリーシールドを構える。
『何でこんな事、また戦争がしたいのか! アンタ達は!!』
 通信と、インパルスの外部スピーカー越しに、シンの声が聞こえてくる。
 だが、フェイトはモニター越しに工廠の惨状を見ると、目を細めて、呟くように言った。
「違う、……この人たちは、戦争を知らない」