Fortune×Destiny_第17話

Last-modified: 2007-12-04 (火) 10:04:53

17 イクシフォスラー

 

シンたちは10年前のハイデルベルグにもどってきた。
城を見ると飛行竜はいなくなっていたが、別に修復された後はなく、崩れたままだ。
彼は元の時代に戻ってきた、という実感を持つことが出来て、何だか嬉しかった。
シンはここで気づいた。ナナリーも一緒に来てしまっているのだ。
「ナナリー、何でここにいるんだ!?」
「あたしも時間転移に巻き込まれちまったんだよ。」
リアラは慌ててペンダントの力を解放しようとする。
一人だけならレンズなしでも何とかなる。
「ごめん、今からあなただけ元の時代に……。」
「ストップ。あたしもついてくよ。あんなこと聞かされてそのまま戻れやしないよ。あたしも手伝う。いいだろ?」
というわけで、ナナリーも仲間に加わり、一緒にハイデルベルグ城へと入っていった。
どうやら戻ってきた時間軸は、自分たちがエルレインによって飛ばされてから1時間も経っていないのではないかと思われた。
あちこちに負傷した兵士が治療を受けているからだ。
「とりあえず、ウッドロウさんのところに行こう。」
カイルはそう言い、6人は連れ立って玉座の間へと足を踏み入れた。
「ウッドロウさん、大丈夫ですか?」
ウッドロウは医師の手当てを受け、どうにか玉座に座ることだけはできたらしい。
ただ、傷が痛むのか顔を顰めている。
「カイルさん、それにみなさん、ご無事でしたか。」
兵士の一人がカイルに話しかけてくる。やはりエルレインに転移させられたのを見たのだろう。
そして、きっと心配していたのだ。
「何とか。それで、ウッドロウさんは!?」
「見ての通りです。ですが、やつらは陛下の命も奪わず、何もせずに帰っていきました。」
「何もせずに……? ウッドロウ陛下、レンズ保管庫がこの城にあるのでしたね? そこの確認はなさいましたか?」
シンは何か引っかかっていた。何もせずにというわけがない。
それに、エルレインの力や未来の歴史書を見る限りは、レンズは持ち去られている可能性が高いのだ。
「いや……だが、確認してもらえないだろうか。あれを奪われることだけは……!」
6人は玉座の後ろにある隠し通路を通り、保管庫へと足を向けた。
この保管庫はファンダリア中から集められたレンズが保管されている。
18年前の騒乱以降、レンズの使用を控える機運が高まったため、レンズの処理に困った人々がウッドロウ王に預けていたのだ。
だが、彼もそのレンズを廃棄することも使用することも、
ましてや破壊することもできないため──大量のエネルギーが放たれるためだ──仕方なく保管庫に保存しておいた。
レンズというものは恐ろしくエネルギー密度の高い物質だ。
そして、ファンダリア中から集められたとなれば相当な数になるはずである。
それを奪われたとすれば一大事だ。
そして、シンの予感は的中してしまった。
カイルたちが謁見したときに見せてもらったときには大量に存在したレンズが、跡形もなく、それこそ一つ残らず持ち去られていたのだ。
「やはり……エルレインはレンズを集めている。自分の力と……そしてフォルトゥナに与えるエネルギーとして……。」
「大変だ! 早くウッドロウさんに知らせないと!」
カイルは急いで玉座の間へと戻った。そして、レンズがなくなっていることをウッドロウに告げる。
「やはり……すまん、カイル君。一日だけ考えさせてくれ。明日の朝にまた話したい……。」
彼は王としての苦境に立たされている。
最悪の場合、アタモニ神団を相手取って戦争になるかも知れないのだ。
だが、平和を好む、かつての騒乱で平和を望んだ自分を知るウッドロウにはそこまでしようという気にはならなかった。
とはいえ、非は向こうにある。
飛行竜で乗り付けて、レンズを強奪したのだから。採るべき道を考えねばならない。
それも、できるだけ平和的に、早急にだ。

 
 

「カイル君たちはこの城に泊まっていってほしい。必ず明日には答えを出す。」
ウッドロウはそう言った。
こちらのハイデルベルグではまだ13時を過ぎたくらいだが、6人はホープタウンを朝に出発してカルビオラに到着したのは夕方という、こちらとは違う時間帯で行動している。
時差ボケを直すという意味でも、今から寝た方がよさそうだ。
ロニは少々疲れた様子で自分の肩を揉み、伸びをしながら言った。
「さてと、寝るか……。リアラとナナリーは一緒にあっちな。」
「……夜這いかけたら関節外すからね。」
ナナリーは指をぽきりと鳴らした、彼女は対ロニ用の技として関節技を備えている。
モンスターや敵対人物には使わない。あくまでも対象はロニのみだ。
大抵はロニの女癖の悪さに対するお仕置きに使われる。
そうでない場合はロニへの八つ当たりや、恥ずかしさを紛らわすというのが主なパターンだ。
「だーれがお前みたいな凶暴女に夜這いなんかかけるか。相手くらい選ぶって……あぎゃああああああああああああああ!」
ロニが最後まで言わないうちに、ナナリーのコブラツイストがロニに炸裂した。
あれで結構仲がいい、と思うのだが。
この態度では夜這いをかけてほしいと言っているようなものだ。
「いやああああああああああ、俺の関節はそっちには曲がりません、やめてくださいナナリーさん!」
カイルは眠そうにロニを見遣り、ベッドに寝転がった。
「ロニ、うるさいよ……ふあーあ、俺もうくたくた……おやすみ……。」
ジューダスも騒音などまるで聞こえないように、ベッドに横たわった。
「僕も休ませてもらおうか。明日からはまた忙しい。」
シンはシンで慢性的に精神疲労がかさんでいる。周囲の音など全く聞こえていなかった。
「やっと安心して寝られる……疲れた……。」
3人の男たちはロニそっちのけで、口々に言いながら眠りに就いた。
「あ、この薄情者! お前ら人間の情ってもんが……あああああああ! 夜這いもしてないのに関節を外そうとするな、このオトコオンナ!」
「誰がオトコオンナだ、このドスケベがああっ!」
さらに力をこめる。関節こそ外れなかったが、激痛が彼を襲う。
「あっ、あっ、あああああああっ…………!」
この後、ロニは結局ナナリーの関節技のために気絶し、白目を剥いて男たちに宛がわれた部屋のソファに沈んだものだ。
その様子を確認したナナリーもリアラを連れて女部屋へ引き上げ、疲れと時間合わせのために眠りに就いた。

 
 

15時。リアラはハイデルベルグ記念公園にいた。
カイルのこと、そしてエルレインのことが頭の中を駆け巡り、考えが全くまとまらない。
彼女はカイルをひどく傷つけたと思っている。
いくら使命と仲間の意志との板ばさみに耐えかねたとはいえ、特別な感情を持っている相手を傷つけたことは後悔している。
カイルに顔を合わせるのさえ辛かった。
もう、これでカイルとの関係も終わってしまったのだろう。そう思うと寂しかった。
「こんなとこにいたんだ、ちょっと起きたらいなくなってたからびっくりしちまったよ。」
ナナリーだった。いなくなったリアラが心配で探しに来たのだった。
「ナナリー。」
「今何考えてるか当ててあげよっか? カイルのこととエルレインのこと、同時に考えてるからどっちも整頓が着かないんだろ。」
「……うん。」
「まあ、エルレインの方は止めなきゃいけないのはわかりきってるわけだからおいといて、問題はカイルの方だね。どう? 後悔してる?」
「後悔してる……と思う。これで終わりだって思ったら……。」
「どうして終わりなんだい? あのさ、あんたたち、結構仲良さそうだったし。
後悔しない方がおかしいよ。あたしだってルーと喧嘩してたしね。」
「……仲良かったのに?」
「仲がいいからだよ。喧嘩するときは大抵自分のことをわかってほしいってときなんだよ。
そして、向こうもこっちも本気だし。そうしたら喧嘩になるってわけ。」
リアラは考える。確かに、あの時は自分のことをわかってほしかった。
けれど、と思うが、ナナリーは続けた。
「喧嘩になったら怒鳴りあって、時には手だって出て、それから傷ついて。でも、そうやってはじめてお互い分かり合えるんだ。
どうでもいいやつと喧嘩しないだろ? だから、終わりじゃない。今あんたたちは始まったんだ。これからなんだよ。」
理解し合いたいときに意見が食い違うことも、勿論存在する。
全く同じ考えを持つ人間など存在しない。ぶつかり合いこそが相互理解に繋がるというものだ。
リアラはどこか寂しそうに漏らした。
「これからなんて、あるのかな……?」
「当たり前じゃないか。さあ、また寝よう。明日からはまたしっかり動くんだから。」
ナナリーは欠伸混じりにそう言うとハイデルベルグ城へと戻っていった。だが、リアラはまた寂しく呟く。
「これからなんて、あるわけ、ない……。」
彼女は、もうカイルたちに迷惑はかけられない、自分一人で何とかする。そう決意していた。

 
 

朝になった。
シンはジューダスに頼み込んで剣の訓練をつけてもらった。
かなり上達したが、まだまだ甘いとジューダスに言われた。
上達したと言われるだけマシだ、とシンは思う。前進しないわけにはいかないのだ。
まだカイルは寝ている。女部屋の方でもそろそろリアラとナナリーが起きるだろう。
シンはそう思い、リアラたちが寝ているはずの部屋の扉をノックした。
「おーい、起きてるー?」
すぐに扉は開いた。ナナリーがあわてた様子で顔を出した。
「シン、リアラ知らない?」
「いや、俺は知らないけど。何かあった?」
「いなくなっちまったんだ。さっき起きたらいなくて……謁見の間に先回りしているとは思えないし……。」
「わかった、俺が探してみる。城の人にも聞き込みしてくるから。
とりあえずカイルたちと合流して、俺が探しに行ったことを伝えておいてほしい。」
「ん、そうする。ありがと、シン。」
リアラがいない。いやな予感がする。
カイルとの遣り取りやこちらの時代に戻ってきた後のリアラの様子を考えると、かなり思いつめているようだった。
「リアラ……どこに行ったんだ!?」
城の人間に聞き込みをしているうちに、有力な証言が手に入った。
「リアラらしき少女が『いかなきゃ』と呟きながら光に包まれて姿を消した。」
つまり、単身エルレインを止めに行ったということだろう。自らの転移能力を使って。
「なんという無茶なことを。とにかく、カイルたちのところに行こう。」
シンは急いでカイルたちのいる寝室へと向かった。全員が起きていた。
どうやら寝ぼすけのカイルもリアラが姿を消したことに驚いているらしい。
「兵士の証言があった。彼女は光に包まれてどこかへ転移したらしい。
時間移動する必要はないわけだから、おそらく、ストレイライズ大神殿にいるエルレインのところに向かったんだろう。」
「そして、単身でエルレインを止めるつもり、というわけか。」
ジューダスはあくまでも冷静だが、新たに発生した問題を深刻に受け止めている。全員が押し黙ったが、あえてロニが口を開く。
「リアラのことは心配だが、どっちにしろストレイライズ大神殿に殴りこむんだ。まずはウッドロウさんのところへ行こうぜ。」
レンズを強奪された以上、取り返さなくてはならない。そして、リアラも。
そのためにはウッドロウの力を借りる必要もある。一同は謁見の間へと足を向けた。

 
 

ウッドロウはやつれてはいたが、眼光は王らしさを取り戻していた。
さすがにファンダリアの国王だけのことはある。
「……ふむ、リアラ君が。それは困ったことになったな。」
「俺たち、助けに行きます。大切な仲間なんです。」
カイルは決然と言う。ウッドロウのところに向かう前は悩んでいた。
また会うことがあったとして、リアラに傷つけられるのではないか、そしてリアラを傷つけることになるのではないかと。
だが、カイルは決めたのだ。
何があっても、どんな障害があってもリアラを助ける。それが彼の結論だった。
「ここで君たちが行動を起こせば、間違いなく我が国とアタモニ神団間で戦争になる。
戦乱を引き起こすこと、それは英雄スタンの望むことなのだろうか?」
「ウッドロウさん、俺、それは違うと思います。仲間一人も助けられなくて、英雄になんてなれやしないです。俺は、行きます。」
ウッドロウは微かに笑みを浮かべたようだ。彼は懐から書状を取り出した。
「試すような真似をしてすまなかった。今の君にならこれを渡せる。勅命状だ。」
カイルがそれを受け取り、シンはそれの内容を目で追った。
内容はこうだ。
この書状を持つ者はレンズ奪回の任務に当たるものである。
ファンダリア国王ウッドロウ・ケルヴィンの名において、この任務の障害となるものを排除する権利を与える。
どうやら、ウッドロウも本気らしい。レンズの集中は混沌を招く。
アタモニ神団とエルレインの暴走を止めねばならない。彼なりの決意だった。
「行き給え、カイル君。ほかの誰でもない、リアラ君の英雄となるために。」
「ありがとうございます、ウッドロウさん。俺、行ってきます!」
5人はウッドロウの前から退出し、方策を考える。まず、ジューダスが状況確認をする。
「リアラを救出するためには迅速にストレイライズ大神殿に向かわなくてはならない。
だが、船では数日かかる。その間にエルレインはレンズをすべて使い、力を得てしまうだろう。そうなったらどうすることもできない。」
「だとしたら、どうする?」
「シンはレンズに関する書物は読んだな? この近くの地上軍拠点跡地に飛行艇がある。それを使うぞ。」
シンは記憶をたどり、読んだ内容を思い返してみる。
「ああ、あったあった。イクシフォスラーだったな。最高速度は第一宇宙速度を誇る超高速航空機だ。
開発者はハロルド・ベルセリオス……ソーディアンの開発者だ。それがこの近くにあるのか。」
この時代から1000年前、この世界は天上と地上にわかれて戦争を行った。
その時に開発されたのがソーディアンと呼ばれるレンズ技術を結集して作り上げられた、6つの剣である。
人格投影されたそれは、使い手と同じ人格を剣に持つことで自分の「分身」を手にできた。
故に、強大な戦闘能力、そして今の時代よりもはるかに強力な晶術を使えた。
イクシフォスラーはそれを開発した人物が、天地戦争終結後に完成させた航空機だ。
超高性能を備えていて当然なのかもしれない。しかし、このスピードは明らかにオーバースペックだ。
第一宇宙速度とは音速に直すとマッハ23.2で、地球の丸みに沿って飛ぶだけで遠心力で浮いていられる速度である。
宇宙空間にある静止衛星はこのスピードで飛んでいる。
この世界の技術レベルから考えても、常識的に考えてそんなことができるとは思えないのが当たり前だ。
天才たるハロルドが作ったからこそ納得できるというものだ。
「そうだ。ここから南東に進めば見えてくるはずだ。」
彼らは自然に駆け足になっていた。
なんとしても助けなくてはならないのだ。雪も降っていなかった。天候は味方してくれたらしい。
ハイデルベルグを出てから1時間30分後、崖の下にそれらしきものが見えた。
だが、ここから直接行ける道はなく、回り道のようだ。時間をかけていられない。
「面倒だ。俺が一人ずつ崖の下に降ろすよ。」
こういうとき、シンの持つ飛翔能力は便利だ。あっという間にショートカットできた。
「お前がいてくれて面倒が省けた。」
「どうも。さあ、行こうか。」
シンにとっては、リアラのことも心配だが、それ以上に気がかりなのは自分に運命付けられた未来だ。
おそらく、このまま向かえばエルレインと戦うことになる。
そして、エルレインと戦って負ければ、待っているのは10年後の自分から告げられた結末だ。
変えなければいけない。だが、準備する期間はまったくなかった。
もう、その場で対応するしかないのだ。
泣き言は言っていられない。カイルたちを死なせたくないならやるしかない。
そして、リアラも助け出さねばならない。
シンに背負わされたものはあまりにも重かった。
しかも、誰かに変わってもらえはしない。
「やるしか、ない……!」
彼は地上軍拠点跡地を管理する兵士に勅命状を見せ、イクシフォスラーの格納庫へと向かった。

 
 

「これがイクシフォスラーか……。」
赤い扁平な凧型のボディ、そして滑らかな表面。
後部にはレンズのエネルギーを用いた推進システムが搭載されている。
見たところ音速を超えたときに発生する衝撃波を無力化する方策は採られているように見えないが、何らかのシステムで障壁を作っているとも考えられる。
「誰が操縦するんだ?」
ロニの問いは尤もなものだ。機械をまともに扱える人間はそういない。
「僕はこの手のマシンには経験がある。」
だが、ジューダスをさえぎったのはシンだった。
「俺はこの手の機械で戦争やってたし、一応エースパイロットだった。俺が操縦しよう。」
「わかった、頼む。」
5人はイクシフォスラーに乗り込み、シンを除いて乗員席に座った。
シンだけは操縦席に座り、シートベルトを締め、コックピット周辺の機械を操作する。
「……これはこのシステムで……それから……元の世界の機械と操縦方法はそんなに変わらないな。よし!」
イクシフォスラーは高速機動を志して設計されている。
武装らしいものは存在しないが、強襲上陸攻撃用のアンカーが備えられている。
これを打突武器として使用することくらいはできそうだ。
彼はコンピュータを操作し、必要な情報をコンソールを叩いてモニターに映し出す。
そして、しっかりと操縦桿を握り締めた。
シンは決意を固めた。
そして、それを自らに知らしめるように、かつてモビルスーツで出撃するときにそうしたように叫ぶ。
「シン・アスカ、イクシフォスラー、行きます!」
VTOL機能を起動し、イクシフォスラーを垂直に離陸させた。
そして、必要な高度まで上昇させると一気にエンジンを最大加速にし、北東方向に進路をとった。
「ストレイライズ大神殿まではすぐだ! 準備はしておいてくれ!」

 
 

リアラはかつてカイルたちがバルバトスと戦った、ストレイライズ大神殿の礼拝堂に閉じ込められていた。
正確には、その中にあるエルレインが作り出した結界の中にだ。
「……。」
彼女は単身エルレインに挑んだ。背後から攻撃したのだから間違いなく奇襲だったのだが、エルレインはそれを予測していたらしい。
そして、圧倒的な力の差を見せ付けられ、こうして幽閉されてしまった。
リアラはカイルに縋りたかった。だが、自分はカイルを傷つけた。
彼女のカイルへの思いは、沈みかけたアルジャーノン号を浮かせたあたりから募り始めていたが、決定的だったのはハイデルベルグでのことだ。
ハイデルベルグ記念公園から、カイルとともにどこまでも広がる雪原を見たとき、彼女は途方もない、そして漠然とした不安を抱いた。
先が見えない、どこに行けばいいのかわからないから不安だと。
だが、カイルは違った。どこまでも広がる雪原のその先に何があるかわからない。
わからないからこそ、その先に行ってみたい。彼はそう言った。
どこまでも前向きになれるカイルがうらやましく、そして眩しかった。
カイルは「まあ、俺は馬鹿だからそうなっちゃうし、リアラは繊細だから。」と言った。
だが、リアラはカイルはそこまで愚かではないと思っている。
どこまでも自分と仲間を信じて突き進める。
そんな彼に助けてもらえたらどんなに嬉しいか。
心のどこかで諦めつつも、彼女はカイルのことを想い続けていた。

 
 

シンの操縦するイクシフォスラーはストレイライズ大神殿の屋上に着陸した。
「総員、陸戦準備! 敵兵が来るぞ! ハッチの開放とともに強襲を開始する!」
5人はばらばらとイクシフォスラーから降り立ち、一番警護が固そうな場所を探した。
シンはすぐにフォース形態をとり、一緒になって探す。
「おい、あそこを見ろ! 礼拝堂だけやたら兵士がいるぞ!」
ロニの言葉は正しい。
おそらくはそこにリアラとエルレインがいるはずだ。そこに護衛兵が駆けつける。
「侵入者め! ここから生きて帰れると……!」
最後まで言えなかった。鋭く輝くサーベルで首筋を掻き切られたのだ。
「だったら、お前から死ね!」
シンだった。既に狂気に取り憑かれていた。
血飛沫を浴びたその表情は鬼気迫るものがある。
目がつりあがり、赤い瞳は殺意に染まり、口元から憎悪そのものが漏れ出している。
4人の仲間が表情を引きつらせたのにも気づいていない。
さらに迎撃にきた兵士たちに向かって突撃していく。
リアラとレンズを巡るストレイライズ大神殿の戦いは、まだ幕を開けたばかりだった。
そしてこの日、歴史は姿を変える。
他ならぬシンと、そしてエルレインの手によって。

 
 
 
 
 

TIPS

 

称号
 エースパイロット
  かつて戦場で幾多の敵機を撃ち落した。
  今も戦場に身を置く彼は、呪われているのか。
   命中+1.5 SP回復+0.5