G-Seed_?氏_第九話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 19:44:13

「では、今日より本格的な修行に映る! 用意はいいか?」
「はい、師匠」
 シンが、
「分かりました。お師匠様」
 ルナマリアが、
「できています。ドモン師父」
 レイが、それぞれ気合に満ちた声で答えた。
 ところが、何故かそれを聞いたドモンは黙ってしまう。
「師匠・・?」
「す、すまん。あ~、うむ。では始めるぞ!」
 三人の弟子は怪訝そうな顔で、焦ったような態度を取る師を
見つめた。
(『師匠』『お師匠様』『師父』どれもいい響きだ・・・。などと悦に
入っている場合か!  ドモン・カッシュ!)
 内心で自分を思い切り罵倒しつつ、新米師匠は声を張り上げた。
「ルナマリア!」
「はい!」
「丁度いい。怪我をしている方の足を出してくれ」
「あっ・・・。はい」
 そっと、ドモンはルナマリアの足に手を当てると、意識を集中した。
「えっ!?」
 ルナマリアが驚きの声を上げる。
「どんな感じだ? ルナマリア」
「えっと・・・。何か、『力』がぐるぐる回ってるような・・・」
「うむ。これを『周天』という。気を対流させる、基礎にしてもっとも
重要な技だ。痛みはどうだ? ルナマリア」
「引いていきます! すごい・・・。」
「うむ。周天により肉体は活性化し、回復力が促進される。極めれば
常人の何倍もの回復力を発揮することが可能だ」
 ルナマリアが動けるようになるまで周天を行った後、ドモンは立ち上がった。
「次はお前だ、シン。やはり、実際に気の対流を感じねば、分からんだろう」
「は、はい!」
 ドモンは、シンの身体に手を当てた。シンの身体から疲労が消えていく。
(すげえ・・・。回復魔法みたいだ)
 オーブで良くやっていたRPGを思い出し、シンは胸を高鳴らせた。
 だが、周天法は彼等を非常に手こずらせた。何せ、『気』などまったく
意識してこなかったのであるから、何をどうやっていいのか分からないのである。
「焦るな! 焦れば雑念が生まれる。雑念が混じれば内なる流れを感じること
など不可能だ。あるものと信じて意識を集中しろ!」
 言いつつ、何度もドモンが気の流れを体感させてくれるのだが、ドモンが
触れなくなると同時にその感覚は雲散霧消してしまい、どれほど意識を集中
しても感じ取ることはできなかった。

「よし、今日はこれまで。後は各自、暇を見つけてやっておくように!」
「分かりました」
 三人は唱和した。
「さて、次に・・・。と言いたい所だが、お前達はまだ肉体という器ができ
あがっておらん。お前達は、前のメニューをこなせ」
 露骨にではなかったが、シンとルナマリアはそれぞれウンザリという顔をし、
レイですら形の良い眉を少しもち上げた。
 途端にドモンの雷が落ちる。
「馬鹿者! 肉体という器を鍛えずして、どんな技も『気』も無意味と知れ!」
「し、失礼いたしました!」
 大慌てで三人は唱和する。
「うむ! では行くぞ!」
 同時にドモンも走り出す。
「師匠!」
「何だ? シン」
「お前達は、ってことは師匠は、今日は何を?」
「俺は本来の修行に戻る。この半月、流し程度の修行しかやっていない。身体
を鍛えなおさねばならん」
 嫌な予感がして、
「・・・というと、今、俺達がやっている修行メニューって本当の修行メニュー
じゃないということでしょうか?」
「それはそうだろう」
 ドモンは苦笑した。
「いくら何でも、いきなり東方不敗のメニューを、鍛えているとはいえ素人
にやらせたりはせん。――これ以上の会話は時間の浪費だ。質問は、
食事の時に聞く。各自、何かあればまとめてくように!」
 言うなりドモンは疾風となって駆け去った。
「・・・流しだってさ」
「・・・そうだってね」
「・・・今後このメニューは増えていきこそすれ、減りはせんということだな。
ドモン師父がまず、周天法を教えた理由が理解できた。睡眠で回復できる
レベルまで自力で回復せねば、疲労で死ぬぞ・・・間違いなく」
 嫌な沈黙が満ちた。
「くっそぉぉ! 望む所だぁぁ!!」
 ヤケクソ気味な気合を上げ、シンがスピードを上げて走り出し、レイと
ルナマリアもそれに続いたのであった。

 ――昼食時

 必死の形相で周天法に取り組んでいる三人を見ながら、
(感心なものだ。やはり俺の目に狂いはなかった・・・)
 などとドモンが自画自賛していると、コアランダーの計器が音を立てた。
「むっ?」
 コアランダー乗り込み、通信データーを表示する。
(ミナからか・・・。なになに・・・。暇が出来たら、オーブへ行ってくれ。
オーブにある大使館で書状を受け取って、オーブ行政府へ届けてくれ・・・か)
 ドモンはしばし考え込む。
(暇が出来たら、ということは、それほど火急というわけではないな。
ここの清浄な空気は、『気』の訓練場としては最上だ。もう少し後にするか)
 しかし、弟子達の修行にかまけるうちに、ドモンはアッサリとそのことを
忘却の彼方においやってしまう。

 ドモンが、『いくらなんでも、そろそろ行け』という通信をミナから受け取るのは、一月後のことであった。