G-Seed_?氏_第二十三話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 19:47:57

 タリア・グラディスは前を行くデュランダルに
「――何も議長自ら出迎えることはないと思いますが・・・」
「何を言うのかね、グラディス艦長。彼等3人は、このプラントを背負って戦う戦士。そして、ドモン・
カッシュ大使はミハシラの最重要ともいえる人物。私が出迎えなければ逆に失礼にあたると言う物だよ」
 デュランダルは肩越しに振り返りながら、タリアに笑いかけた。
 ほどなく所定の場所につき、待つこと二分。
「来たようだね・・・・」
 デュランダルが小さく呟いた。
 ジブラルダル基地を出て以降、またも長らく消息を立っていた3人がようやく今回の議長の招集に
応じてプラントに帰還するのである。
 周りを取り巻く兵士達や、特別に同席することが許された3人の家族や友人達は、身を乗り出した。
「・・・何でシャトルをゴッドガンダムが手で持って運んでるんだ?」
 だが、ジブラルダル基地の人間が存在すれば既視感を感じたであろう言葉が誰かの口から漏れると、
噂を聞いている人間はもしやと思い、顔を引きつらせ、突如場の空気は重さと密度を増した。
 ほどなくゴッド・ガンダムがふわりと降り立ち、やがて マントをまとった黒髪に鋭い目付きをした一人の
男がコクピットから姿を現した。、
 その男は議長達の方へは向かわず公用機の方へと向かっていく。
 ほどなく、3人の少年少女・・・だと思しき、最大限に美麗な装飾語を用いても『落ち武者』としか
形容し難い格好の3人の人影が現れた。
 そして、よろめくようにちかづいてくる人影に伴い、3人のものとおぼしきか細い声が聞こえてきた。曰く、
「・・・彗星かな? いや、彗星はもっと、バア―ッと動くもんな―」
「ミー 、チャンプネ・・・ツヨイネ・・ ヘイ 、ジャブネ・・・」
「ギルルルルルルルルルルルル・・・」
その場にいた全員が動きを止める中、その3種類の声だけが響き渡るという悪夢のような光景は、
「衛生兵――――――――っ!!」
 我に返ったタリア・グラディスが絶叫するまで展開された。

「地球ではここまで酷くはなかったんだが、プラントが見えた途端、急に・・・」
 困惑気味にドモンが呻くと、
「――医師によると、久しぶりに故郷に戻ってきた事の安堵感で一時的
に錯乱したのではないか、のことです」
 タリアが淡々とデュランダルに報告した。
「つまり、あくまで一時的なものだと考えていいのだね?」
「断定はできませんが」
 タリアの言葉に、その場にいた全員が胸を撫で下ろした。この期に及んで3人ともリタイアでは洒落にもならない。
「それにしても大使、もう少しこう何というか、手心というか・・・」
 タンカに乗せられる3人から視線を外し、デュランダルはドモンに幾分非難のこもった視線を向けた。
「だが議長、痛く無ければ覚えない。人の限界を超えるためには限界を超えた領域を感じ、我が物とするしか――」
 そこまで言って、みなから非難がましい視線を浴び、流石のドモンも口ごもった。
「確かに俺もこの一月は、これ以上やらせるとまずいかもしれないと何度か思ったんだが・・・」
「何度くらいかね?」
「30回ぐらいだ」
 その瞬間、人々は微風しか吹くはずのないプラントに、一陣の風が吹いたのを感じた。一呼吸置いて、
「それは、毎日と言うんじゃないのか――――――――――っ!?」
 人々の目線が一斉に声を上げた少女に集中し、その赤い髪の少女はさっと顔色を変え、下を向いた。
「ご、ごめんなさい。わ、私・・・何てことを・・・」
 先程のキレのあるツッコミをした時の勢いはどこへやら。ツインテールの少女の顔は、羞恥心と後悔とで
赤くなったり青くなったりしている。
「メイリン!! 大使、部下がご無礼を。申し訳ありません。処分は必ず――」
「待ってくれ。そんなとはしなくていい」
 タリアにそう言い置き、ドモンは、ツインテールの少女の方へ歩み寄った。
「ひょっとして、と思うんだが、君はメイリン・ホークか?」
「は、はい・・・」
「やっぱり、そうか」
 ドモンは柔らかい笑みを浮かべた。
「君のことは、ルナマリアから聞いている。何でも大変な秀才で、頑張り屋で、よく気が効いて、気立てが――」
「や、止めてください。私、全然そんなんじゃないです」
 熟した林檎のように顔を赤くし、メイリンは小さな声でドモンの言葉を遮った。
 ドモンはわずかに眉をしかめた。メイリンの反応に、秘められた深刻な感情を感じ取ったからだ。わずかに
露出したその感情に気づくことができたのは、ドモンもまた幼少の頃からずっとその感情と戦ってきたからであろう。
 だがその考えは、取りあえず心の収納庫にしまい込み、
「・・・とにかく、俺は君の大事な姉さんをあんな風にしてしまった。
君が怒るのは当然だ・・・。すまなかった」
 ドモンは深々と頭を下げた。
そのあまりの素直な謝罪の態度に、
「あ、えっと・・・。そんな、私の方こそ大変ご無礼なことをいたしまして・・・」
 面食らったようにメイリンは、あわあわと手を振りながら、赤くなったり青くなったりし、周囲の人間は
目を丸くした。
 小なりとはいえ、一国の押しも押されぬ高官であり、単独で世界を相手取れる力を持った人間であるに
もかかわらず、目の前の青年の態度は傲慢さや高慢さといったものから縁遠いものだったからだ。
 そしてその驚きが、ドモンに対する好感に変わるには時間はかからなかった。

「ふむ・・・。大使がそうおっしゃるのならば、メイリン・ホークの処分は見合わせることにしますが・・・。
メイリン・ホーク! 今回は大使の意向もあるゆえ罪に問わないが、次は許されない。
それを肝に命じたまえ」
 柔和な表情を浮かべながらも、厳しさを感じさせる声でデュランダルが言うと
「はい! 大使、本当に申し訳ありませんでした!」
 メイリンはもう一度深々と頭を下げた。
「いや・・・。悪いのは――」
 俺だ。
 と言いかけてドモンは言葉を飲み込んだ。
 仮にとはいえ、ミハシラ首長国の全権大使という立場上、これ以上何かいうと話が
こじれそうであると感じたからである、
「では、大使。こちらへ」
「・・・ああ、分かった」
 デュランダルに促されるままに歩を進めながら、
(立場ってのは、不自由なもんだ・・・)
 ただただ、試合に集中していれば良かった前の世界とは違い、こちらでは色々と考えて動かなければならない。
 ドモンはこっそりと一つ、ため息をついたのであった。

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