GUNDAM EXSEED_08

Last-modified: 2015-02-26 (木) 22:52:40

【オーブ編】

 

[オーブ市街地]
「疲れたか?」
ハルドは赤いガンダムのパイロットに訪ねた。
「もう少しかな?」
アッシュはストライクΔのパイロットに答える。
二人とも敵手とこんな場所で共闘するとは思っていなかった。
想像以上に良く動くとアッシュは思い。
機体以上に良く働くとハルドは思ったが実際のところ二人とも限界だった。あまりにも数が多すぎる。
「オーブ軍の援軍は?」
ハルドが赤いガンダムのパイロットに訪ねる。
「もうすぐ来ると」
アッシュがストライクΔのパイロットに答える。
「蕎麦屋の出前じゃねぇんだぞ」
突っ込んで来る機動兵器の頭にナイフを突き刺し切り裂きながらハルドが言う。
「それはなんだ?」
逆方向から来る機体の頭部にナイフを刺しながらアッシュは尋ねる。
「昔の言い回しだよ!」
突っ込んできた機体の上に重なるように棒人間型機動兵器が襲い掛かってくるが、それを避け、新たな機体の頭部にもナイフを突き刺す。
「興味深いな」
アッシュの方は1機で済んだようで、機体はナイフを構えなおし平然としている。
「そっちの部隊は?」
ハルドが訪ね、アッシュが答える。
「元気にやってるよ。そっちは?」
「最高に元気だ」
さっきから「死にます死にます殺されます」という叫びが複数名の声で聞こえるが、まぁ大丈夫だろう。
「強い部隊だな」
アッシュに言われ、ハルドは答える。
「まぁな」
実際のところはどうだか知らんとハルド思っていたが……
「ところでだ」
周囲を棒人間型機動兵器に囲まれながら、急に話を変え、アッシュは言う。
「さっきから、幻聴が聞こえるようになっている」
ハルドは周囲の敵を警戒しながら尋ねる。
「どんな奴?」
聞いた瞬間、敵機が襲い掛かってくるがペットを相手にするように捌いて仕留める。
「女の声で『助けて』と言っている」
アッシュも敵を捌きながら答える。
助けて……か?
「アタシも聞こえました。あれはリーザの声です!」
急にサマーが割り込んでくる。戦い続けて撃ち落とされた女だ。誰が通信機を付けておいたままにしたとハルドは思う。
「間違いないです。あれはリーザの声です。敵を撃ち落とす度にリーザが痛いって……だからアタシ……」
とうとうイカレやがった。クソが。とハルドは思いながら、近寄ってくる敵を始末する。だが、リーザという名前にハルドも捨てきれない思いがある。
リーザには特殊な能力がある。もしかしたら、唐突ではあるが、ハルドはそんな考えが浮かぶ。
「おい、赤いの」
ハルドは赤いガンダムのパイロットに呼びかける。可能性の一つだ。外れでも休憩の一つになるとでもいいとハルドは考えることにした。

 
 

「声は、どこらへんから聞こえるか分かるか」
ハルドは尋ねた。本人が幻聴と思っていることを追及するのはおかしいと思いながらも。
「分かります。アタシには分かります!」
サマーが叫んでいる。正直うるさい。
「医務官鎮静剤!切れたらMSに乗せて死なせとけ」
ハルドは叫び、直後に赤いガンダムのパイロットに尋ねる。
「どっから聞こえるか分かるか?」
尋ねると、疑問を返すこともなく、ハルドの機体に座標を送ってくれた。その場所は山の奥である。
「こいつはまさか……」
ハルドは座標と今までの経緯を照らし合わせてみた。そして答えは赤いガンダムのパイロットのパイロットが出してくれた。
「機動兵器が出てきたところだよ」

 

[東側]
「まぁ、気づくころだ。SEED持ちがいるならな」
甲板上のロウマ・アンドーは胡坐どころか甲板上に寝転んでいた。
「結局のところ、勝負を決めるのは度胸ってことだ」
「以前に大佐は勝負を決めるのは兵力差とおっしゃってましたが」
「そうだね」
ロウマとしては、結末の見えた勝負だ興味はない。どちらかが動く。それで終わりだ。
「あとは馬鹿の始末をして帰りかぁ。かっこ悪いなぁ、俺」
「大佐はイケメンだと自分は思いますが」
「そうだね」
ロウマは思う。パーティーは後数十分で終わるが裏方の自分の仕事はまだあるのだ。

 

[オーブ市街地]
「おい、鷹の坊ちゃん!」
ハルドは叫ぶ。ある結論に達したからだ。
「俺を、声のする所まで連れてけ!」
ハルドは赤いガンダムのパイロットに、乱暴に頼んだ。
その返答は――
「勝算があるのか!」
アッシュは敵ではあるもののストライクΔのパイロットにはある種の信頼があった。10年以上前の機体で自分と渡り合う、技術と機転を持った奴。そんな男が必死で頼んでいるのだ。何かあるに違いないとアッシュは思った。
「勝算はある。俺が全部一発で決着を付けてやる」
「ならば、道を開く!」
我ながらバカな話だと思うが、ストライクΔ乗りの言葉に乗ってしまったのだとアッシュは思う。眼前には無数の敵。道は無い。だが、その状況でアッシュの意識は限界まで覚醒した。
「ついてこい、ストライクΔ!」
借りてたナイフを捨て。エネルギーの節約のために使わなかったビームサーベルを二刀流で抜き放つイージス・パラディン。
「声のする所までの道は開いてやる!」
アッシュが、そう叫んだ瞬間、イージス・パラディンは鬼神となって眼前の敵、全てを薙ぎ払って進んでいく。棒人間型機動兵器とて何もしてないわけではない、当然イージス・パラディンに襲い掛かっているが、一瞬とて近づけない。
サーベルの斬撃で切り払い、それができない相手には蹴りが飛び、弾き飛ばす。イージス・パラディンは竜巻と同然だった。

 
 

「俺がすることは?」
鬼神の動きをする赤いガンダムのパイロットにハルドは尋ねる。
「あとで、ナイフを貸してくれ」
帰ってきた答え。それはつまりエネルギー切れということだ。
「おい!」
飛ばしすぎるなとハルドが言おうと思った時だった。
「道は開いてやるといったろう」
なるほど漢気のある男だと思った。鷹の坊ちゃんは失礼な呼び方であると反省した。
「ライナス機、援護に入ります」
「リチャード機、援護します」
違う部隊の2機が隊長機たちを援護する。
洞窟まではもうすぐ、2機は一気に突っ切る。
そして洞窟内にも棒人間型機動兵器はいた。しかし、
「数は少ないな!」
ハルドとアッシュの敵ではない。2機はついに研究所らしき施設の扉にたどり着く、ストライクΔがライフルで、その扉を破壊する。
「あとは頼むぞ」
ハルドはそれだけ言うと、ストライクΔから降り、破壊した扉から研究所らしき施設の内部に侵入する。
対して、アッシュのイージス・パラディンはエネルギー切れ寸前である。パイロットがいなくなったストライクΔが持っているナイフを借り、
押し寄せてくる棒人間型機動兵器相手に、ナイフを構える。
「さぁ来い。長くは持たんぞ」
アッシュのそれは、兎にも角にも思いつく全ての相手に言った言葉であった。

 

[東側]
「おーいいねぇ、キミが来るかぁ」
ロウマはどこかの監視モニターの映像を眺めていた。
「大佐、街の戦況は良いのですか?」
「そうだね」
まぁ。妥当なラインかとロウマは思うし、こうでなければ興ざめだ。ロウマは監視モニターの映像が映る端末を置くと、興味を失った表情を浮かべていた。
「1番は駄目だなこりゃ」
破壊されている町を眺めながらロウマは言う。
「攻撃性が低すぎるよ、博士」
「あの兵器は攻撃的だと思いますが?」
「そうだね」
ロウマとしては、もうどうでも良い。あとはヒロイックな結末を見てスッキリするだけ。そして、馬鹿の始末をしたら、終わりだ。
「さて、行こうか、ディレックス君」
「どこへですか?」
「宇宙へ。次は宇宙で戦争があるからさ」
「宇宙で、ですか?」
ディレックスは何も分からず困惑した表情を浮かべている。
「なぜ、わかるのですか?」
困惑したディレックスは思わず尋ねるが。それに対し、ロウマはというと
「俺がデウス・エクス・マキナだからさ」
何のてらいもは恥じらいなく、そう答えるのだった。
そう、自分はデウス・エクス・マキナ。みんな掌の上。戦場が読めるのも、戦争が読めているのも自分だけだ。
読めるだけだがねと最後にロウマは、世界の全てに対して注を付けて、甲板上から去ったのだった。

 
 

[研究所]

 

「おい、なんだ貴様は」
そう言った警備兵の頭をハルドは撃ちぬく。
ハルドが侵入した研究所では避難が行われている様子は全くなかった。
「なんだ、はお前らだろ?。外があんな戦場になっているのによ」
ここだけは安全ということか?とハルドは考える。実際、研究所の入り口のそばに棒人間型機動兵器は近寄って来なかった。
取り敢えず、ハルドは研究所の奥に進もうとしたが、
「ここは立ち入り禁止だぞ!」
新手の警備兵がやってきた。完全装備である。耐弾ヘルメットに防弾服。
「そんなの知らんよ」
消えるようにハルドは動き、ナイフを警備兵の首に突き立てる。
「そんなの知らんと言っとるだろうが」
ナイフを絶命が確認できるまで刺し続けるハルド。その顔には狂気が浮かびつつあった。
本人が言われたら否定するが、放つ雰囲気はエルザ・リーバスが持つ狂気のそれと酷似していた。
ナイフを抜いてハルドは鞘に納めると武器を確認する。
手持ちは拳銃一丁にアサルトライフル。マガジンは殺した兵士から奪い、いくつかある。
ハルドの感覚的には数十人は殺せる装備だった。
「さて行くか」
取り敢えず、ライフルは撃たないで拳銃とナイフだけで対処しようとハルドは決めた。
ライフルは数が多い時に使うことに決めたし、ライフルでは威力がありすぎて、尋問用には向かないのだとハルドは知っていた。
警備兵が何人か現れる、その度に防弾装備の唯一の隙間の首に、弾丸を撃ち込むハルド。完全にルーチンワークになっていた。
「弾は意外と当たらないものだよ」
昔エルザ・リーバスが言っていたことを急に思い出しながら、ハルドは片づけを続ける。
「世の中の人間は、人間自身の拳の威力を過小評価している。それはもちろん猛獣の爪には劣るが……」
偶然に銃弾を抜けてきた兵士がいた。ハルドは不意にエルザの言葉を思い出しながら、彼女と同じように全力の右フックを叩き込んだ。
兵士の首が180度回転し、即死する。エルザ・リーバスは嫌いだが、彼女の言葉には真実があるとハルドは知っていた。
片付けは順調に進んでいる。もう十数人は殺害しただろう。
研究所の片づけをしながら歩く途中、人の気配を感じた。正確には人の気配と言うよりは人が放つ恐怖の気配だが。
ハルドはそんな気配がする扉の前には、内側から出られないように物を置くなどの工夫をして閉じ込めておいた。
なぜ、そんなことをしたかハルド自身もわからなかったが、
「強い奴を倒せば強くなるというのは幻想だよイヌ。私たちは弱い獲物を喰らって強くなっていくんだ。
だからエサは大事に取っておかないとな、私たちの血肉にするために」
エルザの言葉が頭をよぎった。
さっきから、おかしいとハルドは思っていた。やけにエルザの言葉を思い出す。
生身の戦闘のせいで高ぶっているのだとハルドは断じた。そして気にしないことにした。
「適度に人を殺した実感がないと弱くなっていく気がする」
「オマエは本当に良いイヌだよ。もの覚えが良い」
「才能はないな。だが努力は認める。それにオマエは誰よりも野蛮だよ」
「私たちは根本的に人として終わっているのだよ、気にするな。いくら終わっていようが人間は人間だ」
「これだけ目をかけているのオマエというイヌは、少しも芸が上達しない!」
俺はなんだとハルドは思う。リーザを助けに来たはずなのに、エルザの言葉ばかりが思い出される。
それもあの女が正常の時の姿で気持ちが悪い。
ハルドはもう数えきれない数の警備兵をナイフで刺し殺した直後に、吐いた。吐瀉物を廊下にぶちまける。直後に思ったのは
「うがいしたい」
吐いたのは最後の人間性だったのかもしれない。

 
 

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