GUNDAM EXSEED_09

Last-modified: 2015-02-26 (木) 22:54:42

【オーブ編】

 

ハルドはトイレを見つけ水道で口をすすいだ。なんだか、すごくスッキリした。
リーザを助けるためだったら、なんでも良いじゃないかと考えられるようになっていた。
警備兵は打ち止めのようだった。もう、だれも襲ってこない。
ハルドは、取り敢えず人がいそうな部屋のドアの前に内側から開かないように仕掛けを置きながら、リーザを探しつつ歩いていた。
考えることは、このあとリーザとどこにいこうかとか、誘って断られたら嫌だなといった思春期の男子が女子に対する甘い思いである。
しかし、彼の歩いていた道は死体が普通に転がっている道である。
ハルドは歩くうちに、研究所内で一番大きな扉を見つけた。確信はないがここだと思った。
扉を開けると、そこは白い部屋である。リーザと最初にあったような部屋とは違い、研究所らしく、壁面が白でまとめられているだけだが。
しかし、ここで、ハルドはリーザをついに見つけた。感動の再会ではない。当然の再会だとハルドは思う。だから、大げさに騒ぐこともない。
しかし、ガラスの壁がハルドを阻んだ。
そこでハルドは少し冷静になった。この部屋の中には自分とリーザ以外がいると。
周りには研究者がいる。皆、一様にハルドを怯えた表情で見ている。
「入りたいんだけど?」
ハルドがガラスの壁を拳銃でコンコンと叩くと、1人の研究者が動き出し、脇にあった扉が開いた。
ハルドは研究者たちを一瞥もせずリーザの元にむかう。
リーザは寝台に横たえられ、頭には電極が貼り付けられていた。
取り敢えずハルドは脈と呼吸を計る、どちらも少し荒れているが正常の範囲に収まる。
それにより、ハルドはリーザが無事だと確信した。すると、今度は別のことをする余裕が出てくる。
ハルドは逃げようとして、部屋から出ようとする研究者の先頭にいた者の手を拳銃で撃った。研究者の手がちぎれぐちゃぐちゃになる。
ハルドは腕や足を撃っても案外、人間のショックは少ないとエルザに聞いたことを思い出していた。
それよりも、人体の先端を吹き飛ばした方がグロテスクでショックが大きいとエルザに言われたことを思い出していた。
ちぎれ飛ぶ指や足などに人間はショックを覚えると聞いたことを思い出す。
「少し聞きたいことがあるんだがいいかな?」
ハルドは努めて笑顔で言ったが、その行動自体が既に狂気であり、彼自身からも狂気がにじみ出ていた。

 

「ここで何の研究をしていた?」
ハルドはドアの前に陣取り誰も逃がさないようにしていた。
警戒心や怯えを解くために銃は向けていない。
「SEED……いえEXSEED(エクシード)の研究です」
恐怖に耐えかねた研究者の一人が、言い放つ。他の研究者は、それを咎めるような視線を送るが、その研究者は無視して、続ける。
「SEEDを超えた能力を持つというEXSEEDの研究を我々は行っていました」
言われて、ハルドは何となく頭に思い浮かべる。
「EXで特別。で、特別なSEEDでEXなSEED。EXSEED(エクシード)か」
安易だと思いながらも聞いてみる。

 
 

「EXSEEDが特別な点は?」
「それは、より宇宙に適応した人類ということです」
そんな特別なもんかと思い、ハルド尋ねてみる。
「イメージを浮かべる能力は?」
「未知の相手と接触した場合、それが危険かどうかを判断する能力です」
なるほどと思い続けて聞く。
「人の位置を察する能力は」
「宇宙は広大ですから、いずれEXSEEDはその能力でお互いに交信したり、相手を探したりするはずです」
ほう、なるほどとハルドは思っていた。リーザの能力はそういうものなのかと。
「じゃあ、最後に聞きたいんだが、外のアレを動かした能力はなんだ?」
ハルドがそう言った瞬間、研究者は口ごもった。なので、銃を向ける。
「精神波です!EXSEEDは自分の精神意識を飛ばして物体に送信することができるという仮説が立てられていました!その実験です」
意識を飛ばす?
「兵器的にはドラグーンと同じか?」
「いえ、もっと精密な……送信された物体が本人そのものになるくらいの、でも感情制御に問題が……」
最後まで言わせず、ハルドはその研究者の頭を撃ちぬいた。
思考が巡る。この時ほど、自分がバカであったらと良かったとハルドは思わなかった。
「意識を飛ばす。意識が乗り移る。物体が本人になる……」
思考が飛躍しているのは感じていたが、ハルドはあの棒人間がリーザの乗り移っていたものだと結論付けた。
「なぁ、リーザ……その女の子は痛がってなかったか」
別の研究者に訪ねる。怯えながら研究者は答えた。
「は、はい痛がっていたので、精神送信の実験はせいこ」
最後まで言わせずにハルドは頭を撃ちぬいていた。そうか、そうか。とハルドは色々合点がいった。狂った頭で整理しよう。

 

リーザは実験台に使われた。実験は精神を物体に宿らせるというオカルトチックなものだ。しかし、実験は成功で棒人間型機動兵器は動き出した。
だが、感情の制御が出来なかったので、棒人間は勝手に暴れだした。撃破する時に「痛い」と言っていたのはリーザが乗り移っていたからだ。
ここまで整理してからハルドは思い出した。
「装置を止めろ……」
言うと研究者の1人が装置を緊急停止させた。ハルドの通信機から敵の動きが止まったという声が聞こえてくる。
「そうか、そうか」
とハルドは誰に対してでもなく言う。
そして、自分が潰した棒人間の数を数えようとするが無理だった。倒した数は数えられるような量ではない。
「自分はあれか。助けようとしてた人間を殺していたわけか」
声は聞こえていなかった。しかし、「痛い、痛い」というリーザの声が頭にこだましてくる。
「あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
大切な、大切な人間を殺していたのだ。実際には殺していないが、殺した時と同じ苦痛を味あわせていた。
リーザを守るために、自分は動いていた。違う、途中からはリーザのために生きていたんだ。もう、だめだ。ラインを正気のラインを超える。
エルザ・リーバスの声がする
「ラインを越えたら楽になるぞ」
そうだな。ハルドは過去の言葉に同意した。とりあえず、目についた研究員を打ち殺した。
「あ、あの私には家族が」
そうか、だいたいの人間にはいるさ。ハルドはもう一人を撃ち殺した。
「た、助けて、命だけは」
オマエが俺に差し出せるものに命以外の何があるのか。ハルドは最後の1人を撃ち殺した。研究員は全員、殺した。あとはリーザだが……

 
 

ハルドはこの上なく優しく、リーザの様子を見る。
荒れていた脈拍と呼吸は正常に戻り眠っているようだった。ひとまずは良い。しばらくは起きないだろうという確信がある。
ハルドは銃を片手にリーザのいる部屋から出ると、研究所の職員を殺して回った。
わざわざ閉じ込めておいたのだ。狩りは楽だった。色々言う人間が多かったが無視して殺した。
不思議なことに、命乞いを聞くたびに頭の中のリーザの声が小さくなってくる。
そうか、これでいいのかとハルドは思い、気づいた時に研究所内にはハルドとリーザ以外、生きている人間はいなくなった。
もうこれでいいと、ハルドは思った。頭の中の声は無いし、罪悪感も消えた。あるのはリーザを救った達成感と人間を実験体にする悪の研究所を潰したという充実感だった。
ハルドは最後にリーザを迎えにいった。
動けないので抱きかかえると、リーザは目を覚ます。
「あれ、お姫様だっこだね、ハルドくん」
「そりゃ、姫様にはこうするさ」
言って、ハルドはリーザを連れて研究所を出るのだった。

 

[東側]
「はっはっはははははははは、コイツ、サイコー!」
ロウマ・アンドー海上巡洋艦内で狂喜していた。見ているのは、どこかの場所の監視モニターである。
「ぶっ壊れた。ほんとにちょうどいい具合にぶっ壊れた」
言いながら、ロウマはディレックスに動画をみせている。
「普通に男が女を抱きかかえているようにしか見えませんが」
「そうだね」
ロウマは知っている。ずっと見ていたから、研究所の職員を皆殺しにしたあと、この男は廊下掃除を始めたのだ。まるで普通な様子で、当然のように。
大事な姫様に様々な穢れを見せないためにだ。そういう発想が良い。ロウマにとっては最高に好みな趣向だ。
本人は無意識にやっているだろうが、それはどうでも良いのだ。
「クライン機、未確認機が停止したので、帰還しました」
報告が聞こえクライン小隊の面々が無事に戻ってくる。しかし、ロウマにはもう、どうでも良いことだった。
「クライン小隊は宇宙にも連れていくよ。ディレックス君」
「しかし、彼らは地球兵団所属ですが」
「そうだね」
しかし、そんなものは自分が紙一枚書けば済むことだ。
「彼はあんまりだね、クライン君は」
「彼は今回も良い働きをしていたと思いますが」
「そうだね」
ロウマとしては別にパイロットとしての技量など求めていない。パイロットなら最悪、自分で良いのだから。ロウマが欲しいのはもっと別の何かだ。
「彼には光るものを感じないんだよなぁ」
そう言ってから、ロウマは立ち上がる。
「少し、買い物に出てくる。すぐ戻るよ」
「現状、市街は危険では」
「そうだね」
まぁ、どうでも良いことだとロウマは思った。

 
 

「こんなはずじゃなかったんだんだ」男が海沿い公園で頭を抱えていた。
「馬鹿はたいてい、そう言うね」
男の後ろから、男に向けて声をかける人物がいた。ロウマ・アンドーである。男はロウマの姿を見ると逃げようとするが、その前に、ロウマは懐に隠した拳銃を見せていた。
「やめようぜ、音が鳴るのは好きじゃない。それに護身用で撃つ気はない」
そう言った直後、男は肩を落としうなだれる。ロウマは男に対し、肩を叩き、言う。
「まぁ、座ろう」そう言って、海を眺めるベンチに誘うのだった。二人は隣あってすわる。
「こんなはずじゃなかったんです。本当に、ただ、成果が……」ベンチに座ると男はロウマが何も言わずとも口を開いた。
「そりゃ、わかるよ成果が重視される仕事だからな」
「実験を成功させるためには、薬を増量するしかなかったし、スケアクロウの数だって多くなければアピールができない」
「わかる。わかるよ。大変だって」実際は聞いてないがロウマは男の言葉にうなずいていた。
「研究は成功だったんです。でも、あんなことになるなんて……」
「そうだね、大変だったね」もういいかなぁ、とロウマは思い言う。
「キミには少し休養が必要かもしれないね」
言われて、男は驚愕の表情を浮かべる。
「いえ、私はまだ働けます」
「いや、そういう思い込みが危険なんだよ。キミは少し疲れてる」
ロウマは極めて優しい口調で続ける。
「しばらく、家族にも会ってないだろう?少しは家族サービスするといい」
「それでは、私のポストが」
「大丈夫だよ、俺が後ろ盾に立つから、少し休憩しなさい。キミは優秀だ」
言われて、男は少し安心した表情を浮かべる。
「では、お言葉に甘えて、少し」
照れながら男は言う。
「恥ずかしながら、妻子には家族サービスということをしたことがなくて」
「じゃあ、なおさらだ。ゆっくりとするといい」
「そうですね。では、そうさせていただきます」
そう男が言った瞬間だった。ロウマの手が素早く動く。
「え?」
男は何が何だかわからなかった。なのでロウマが人生最後の説明を彼にする。
「無針の注射器。中身は毒だ」
男はくったりとベンチに座ったままである。
「苦しくないし、眠るように死ねる良い毒だ」
ロウマは言ってから立ち上がる、注射器に関する全ては誰にも見られていない。
「家族サービスは無理だけど。ゆっくり休むといい。永遠にね」そしてロウマは立ち去り、人ごみに紛れて、自身の艦内に戻るのだった。

 

ベルゲミールの艦内では医務室でリーザの容体の調査が行われた。結果は、特に問題なし。しかし、しばらく安静とのことだった。
「観光はできなくなっちゃったね」
「まぁ、機会はいくらでもあるさ」
医務室のベッドに横たわるリーザとその隣に座る、ハルドはそんな言葉を交わしていた。だが、その直後だった。
「ハルド少尉!すぐにブリッジへ、ブリッジへきてくださーい!」
やかましい、ユイ・カトーの艦内放送が響き渡る。
「行っていいよ、私は寝てるから」
「じゃあ、行ってくる」
ハルドとリーザはそれだけ言葉を交わすと分かれた。ハルドがブリッジにたどり着くと、ベンジャミン艦長が神妙な顔をしていた。
「ハルド、ゆっくりはできんぞ」
そう言うとベンジャミン――ベンは一枚の紙をハルドに渡した。それは命令書である。
書いてある内容はというと、特務遊撃隊マスクド・ハウンドはクライン公国衛星要塞ヘクターの制圧に参加せよ。というものだった。
その命令書を受けた瞬間からハルド達、マスクド・ハウンドはカリフォルニア基地へ即刻戻ることを強要されたのだった。

 
 

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