GUNDAM EXSEED_B_17

Last-modified: 2015-04-26 (日) 13:31:50

出撃はすぐだった。アルマンドが急に思いついたように出撃の号令をしたのだ。軍師らしいクリスティアンは何も言わない。
セインも出撃ということになった。ほとんど休まず出撃はセインにはかなりキツかった。
「敵は退けたぞ、この勢いに乗って恭順派の陣地を奪う!」
陣取り合戦のようなものなのかとセインはぼんやりと思ったが、すぐにぼんやりもしていられなくなった。
敵の機体が見えたのだ。識別コードはクライン公国、敵に間違いは無かった。セインのブレイズガンダムは敵機にビームライフルを3連射する。その内、1発だけが敵機に当たりダメージを与えるが、敵機はまだ動けていた。
「くそ、そんなに簡単にいかないか」
見ると敵の機体は続々と都市部を駆け抜けてくる、セーブル解放戦線のMSも同じように都市部を駆け抜け、両軍が激突する。
乱戦状態となった中で、ビームライフルを使うのは同士討ちの危険もあるため、セインのブレイズガンダムはライフルを腰にマウントし、ビームサーベルを抜いて、慎重に1機ずつ仕留めていった。
敵の技量は高くない。これなら自分でもやれる。セインがそう思った時だった。
「おいエースが来るぞ!」
アルマンドの叫びと共に、味方の機体の信号が次々と消失していく。
「おい、お前が行けよ!そのために仲間にしたんだぞ!」
何を勝手なとセインは思ったが、それでもこんな敵は放っておけない。セインが、そのエースとやらを相手にしようと決めた時だった。敵は向こうからやって来た。
乱戦状態の戦場の中から、1機のMSが飛び出し、セインのブレイズガンダムに襲い掛かってくる。セインは咄嗟の判断でシールドを使い、防御した。
ビームアックスの一撃がシールドに直撃する。だが、シールドは無事に攻撃を防いだ。
「ほう?」
敵の機体からの通信が入る。聞いたことのある声だった。しかし、セインの視界にあるMSは見たことのない機体であった。
とにかく特徴的なのは頭部、クライン公国の系列機らしくモノアイのメインカメラだが、可動式のそれが4つX字に配置されているのだ。
そして、全体のシルエットは重量型のどっしりとしたもの、そして両肩はスパイクアーマーになっている。
パイロットの趣味なのか、武装はビームアックスを両手に1本ずつ持ち、ビームライフルも2丁、腰にマウントしており、背中にはバズーカを2丁背負っている。
そして何より褐色の機体だった。この色にはセインは見覚えがある。そしてビームアックスの二刀流である。ある敵を思い出さずにはいられなかった。
「この!」
セインのブレイズガンダムも乱戦を抜け出し、ビームサーベルを収め、ビームライフル抜き、褐色の機体に狙いを定めようとした。だが、褐色の敵機はすでにいない。
「遅いな!」
敵機は一瞬でブレイズガンダムの懐に飛び込んでいた。そしてビームアックスが閃く。ビームアックスがブレイズガンダムに直撃する。だが、かろうじてフルアーマー(仮)の装甲が機体を守ってくれた。
「くそ!」
セインはヤケクソ気味にシールドで敵を殴ろうとしたが、敵機は一瞬で間合いを離した。見た目は重量型なのに異常に素早い機体だとセインは思った。
「いい機体だ。だが、パイロットの腕が見合ってないな」
通信で相手の声が聞こえる。その声を聞き、セインは間違いないと思った。
「おまえ、月で戦った奴だな!」
「ん?月でか?覚えがないな」
返答が返ってくると同時、ビームアックスが投げられ、ブレイズガンダムに襲い掛かってくる、セインは咄嗟にシールドでガードしたが、それは悪手だった。自ら視界を狭めてしまったのだから。

 
 

「甘いんだな、考えが!」
褐色の敵機が突撃し、肩のスパイクアーマーを利用したタックルをブレイズガンダムにぶちかます。シールドの上からだったのでダメージは無い。だが、ブレイズガンダムは衝撃で吹き飛ばされ、倒れる。
そして、褐色の機体は倒れたブレイズガンダムの上に立ち、腰のビームライフル一丁抜き、そのライフルをブレイズガンダムの頭に向ける。
「とりあえず、装甲板が着いてない頭だな」
そう敵のパイロットは言って、ライフルを撃ってきた。しかしブレイズガンダム本体には バリアがあるため、それを防ぐ。
「なに?」
相手が軽く驚いた声が聞こえた同時に、セインはブレイズガンダムの腕を動かし、倒れたまま相手にライフルを向ける。が、ブレイズガンダムが銃を向けた瞬間には敵機は、再び距離を取っていた。
そして、いつの間にか、投げたビームアックスを拾っている。それだけ余裕があったということだ。
「そうか、月で戦ったガンダムか、着膨れしてるので分からなかったぞ。そうかなるほどなぁ、パイロットはあの下手くそか。下手くそ向けに装甲板を着せてもらったわけか、なるほどなるほど」
馬鹿にしたような声が聞こえ、セインは怒りと共にビームライフルを褐色の機体に向けて連射する。だが、褐色の機体は重量型のシルエットからは想像もできないほど素早く動き、ビームを全て躱す。
「は、下手くそは卒業で3流パイロットといったところか」
褐色の機体はビームアックスを収め、ビームライフルを2丁抜き放ち、両手にライフルを持って、ブレイズガンダムに連射する。
セインにその射撃を回避できる技量はない。なのでシールドで防御するしかない。だが、2丁のライフルを使った怒涛の連射をされると防御した瞬間、ひたすら防御に回るしかなかった。
「下手くそを卒業した記念だ。俺の名前を教えてやる。ドロテス・エコーだ」
名前は聞こえた、しかし、セインには自分の名前を言って返す余力はない。ブレイズガンダムに防御させるだけで精一杯だからだ。
「3流パイロットの名前なんぞ聞いたところで仕方ないから言わんでいいぞ。どうせ、ここでなくとも、すぐに死ぬ人間の名前だ。憶えておく価値は無いからな」
ドロテスは明らかな侮りを持って、そう言うのだった。
「くそ、なめるな!」
「舐めようもない程度の腕で吠えるなよ」
セインは一瞬、だが、敵の機体の攻撃が緩くなったような気がして、防御しながらライフルを向けようとする。だが、それは単純に褐色の機体が武器を持ち替えていただけの間だった。
褐色の機体はバズーカを二丁持ち一斉に発射する。
セインはマズイと思い、やはり咄嗟にシールドを構えるのだが、バズーカから発射された砲弾はシールドを一撃で破壊した。そして、破壊された衝撃でブレイズガンダムは倒れる。
「姿勢制御が下手だから、すぐ転ぶ。3流にありがちだな」
やはりドロテスの声には侮りがあった。
「俺の機体じゃ、その機体を潰すには骨が折れそうなんでな、選手追加だ……ギルベール!」
セインは別の誰かを呼ぶ声を聞いた、その瞬間、都市部そのビルの上から何かが降ってくるのが見えた。赤い何か、いや、赤いMSであった。
「クラッシュっ!」
赤いMSはブレイズガンダムを思い切り踏みつけた。機体自体にダメージは無いが、衝撃でコックピットが揺らされ、セインにはダメージがあった。
「しゃあ、おらぁ!」
赤いMSは何度もブレイズガンダムを踏みつけると、飛び退き、ドロテスの乗る機体に並ぶ。

 
 

「はっはー、俺って偉くね、ずっと待っててやったんだぜぇ」
「ああ、偉い偉い。待てができるってのは賢いな、たぶん犬より賢いな」
敵の会話も通信でセインに聞こえていた。赤いMSもやはり敵だった。1機の相手だけでも絶望的なのに、2機に増えた、それだけどうにもならないとセインは思った。
そして改めてセインは赤い機体を見る。機体のベース自体は、ドロテスという男の乗っている機体と同じである。
違うのは、左右の肩に形状の違う大型のシールドを装備していること、そして大型のバックパックを背負い、右手には棘のついたハンマーつまりは鉄球を持っている。そして赤色の機体である。
「よう、3流。俺はギルベール・サブレットだ。死ぬまでの間よろしくな!」
新たに現れた機体のパイロットからも名乗られたが、セインには返す余力がないし、気持ちも折れかかっていた。
「おいおい、静かになんなよ。俺が滑ってるみてぇじゃん」
「滑ってるといえば、滑ってるな、お前の人生は大滑落といった感じだからな」
敵の2人のパイロットはセインとブレイズガンダムのことなど眼中に無いように話しをしている。そのことに折れかかった気持ちが息を吹き返す。
「だから……なめるなぁ!」
ブレイズガンダムはビームライフルをチャージモードで発射し、2機をまとめて消し飛ばすつもりだった。
だが、巨大なビームの閃光は2機に軽く回避される。
「なめるなってよぉ、なぁ、ドロテス?」
「無理を言うなという話しだ」
ブレイズガンダムはライフルをアサルトモードに2機に向かって乱射する。半ばヤケクソの攻撃だった。
「舐めてんのはそっちじゃねぇかよ――インパクトぉ!」
ギルベールという男の叫びと共に、鉄球がブレイズガンダムに高速で飛来する。回避――は無理だった。鉄球は推進機構を備えているようで弾丸の速さで、ブレイズガンダムに直撃し、ブレイズガンダムが吹き飛ばされる。
「あまりフラフラとするな、狙いがずれる」
吹き飛ばされている状態のブレイズガンダムに、ドロテスの機体のバズーカが直撃し、今度は逆方向に吹き飛ばされる、そして吹き飛ばされた先にはギルベールの赤い機体がいる。
「空中コンボだぜ!――シザース!」
ギルベールが再び叫ぶと、ギルベールの赤い機体の右肩のシールドが変形する。シールドが真ん中から二つに分かれ巨大なハサミのように変形した。
そして、そのハサミで吹き飛ばされてきたブレイズガンダムをキャッチする。キャッチした箇所は左肩であった。そして肩を掴んだ状態から、ブレイズガンダムを地面に叩き付ける。
「ギリギリいくぜぇ!」
ギルベールの言葉通り、左肩を掴むハサミはぎりぎりと圧力を増し、ブレイズガンダムの肩をはさみ潰すように、動いていた。
「そのまま、動きを止めておけ。俺は逆の腕を貰う」
ドロテスの機体が動き出す、その両手には一本ずつビームアックスが握られていた。そしてそのビームアックスでブレイズガンダムの右肩を狙う。
セインは右手のライフルを使い迎撃しようとしたが、ドロテスの機体にライフルは軽く蹴り飛ばされ、ブレイズガンダムの手を離れていった。

 
 

赤い機体と褐色の機体は2機がかりでブレイズガンダムを地面に抑えつけ、両肩を切り落とすつもりだった。
ドロテスの機体のビームアックスが右肩を襲う。だが、アックスは装甲で止まる。すぐに切れないのはレビーたちの好意で付けてもらった肩の装甲板のおかげである。
「おい硬いぞ。そっちはどうだ」
「こっちも硬いけどよ、もうすぐ潰れるぜぇ!」
そうギルベールが言った直後、装甲板がひしゃげ、砕かれる。
「しゃあ、おらぁ!」
ハサミはそのままブレイズガンダム本体の肩を潰すために圧力を強める。
「こっちも切れるぞ」
右肩の方もドロテスがビームアックスを押し当て続けた結果、装甲板が両断され、アックスのビーム刃が本体に届く。
「くそ、くそぉ」
ブレイズガンダム本体にはバリアシステムがある。だから攻撃は防げるはず。だが、そのバリアがどれくらい持つのかを把握するためのゲージが尋常ではない勢いで減っていく。それだけ、この2機の攻撃が強力ということだった。
「両腕、取ったらどうすんよ?」
「持って帰るか、貴重な機体のようだからな」
ドロテスもギルベールという男も完全にセインを仕留めたと思っている。そんな会話だった。そもそも相手になっていたのかという疑問さえ湧いてくる。この男たちは最初からセインなど相手にならないといった感じだった。
そんなに自分は弱いのか、セインは悔しさで、思わず涙がこぼれた。その間もバリアのゲージは凄まじい勢いで減って行く、おそらく1分程度でバリアが切れる。それで終わりだ。
「こんなところで……」
終わるのか?セインの心を絶望が覆う。もう終わりだと、結局なにもできないまま終わるのかと、そんな絶望に心が沈んだ時だった。
「あ、やべぇ」
急にギルベールという男の乗る機体がハサミをブレイズガンダムの肩から外した、そして同時にドロテスの機体もビームアックスを収める。
なんだ?とセインが思っていると、機体のレーダーに無数の、いやそれ以上に大量の味方機の信号が映る。
「援軍?」
セインは不思議な気がした、そんな戦力はセーブル解放戦線には無かったはずだ。だが、助かったのは確かだった。
「数が多いな」
「逃げっか、ドロテス」
赤い機体と褐色の機体は同時に撤退していった。ギリギリだ。ギリギリで助かったと思った。しかし、助かったと思うと、最後の敵の態度がセインは許せなかった。
仕留めきれなかったことを悔しがるようなそぶりが無かったのだ、あの2機のパイロットは。セインは、これはつまり自分などいつでも始末できるという意味だと受け取った。
そして、そう理解すると悔しくてたまらなかった。どんなに強い機体を手にしても結局、自分は弱いままなのかと、そんな思いに囚われたのだった。そしてその悔しさから思わず涙がこぼれた、自分はなんて情けない、セインは自らに失望するのだった。

 
 

「大丈夫かい、セイン君?」
自らに失望している中、通信が入ってきてセインは我に帰る。そういえば、まだ戦闘中だったと思い、辺りを見回してみるが、戦闘はすでに終わっているようだった。
「戦闘は終わったよ。一応はこちらの勝利だ。きみが敵のエースを引き付けてくれたおかげだ」
引き付けたというよりも遊ばれただけだとセインは思うが、口には出したくなかった。とりあえず、この声に返事をしなければと思い、声の主を思い出す、確か――
「クリスティアンさんでしたか」
「クリスと呼んでくれないかな。歳も近いことだし」
そう言われてセインは尋ねる。
「じゃあ、クリス、敵はなぜ撤退を?」
「それは簡単さ」
クリスが、そう言うと1台のトラックがブレイズガンダムのそばにやって来た。その荷台には大破したゼクゥドが乗っている。
「これを使ったんだよ」
大破したゼクゥドを?と思い。セインは混乱する。
「たいしたことじゃないよ。こんな風にMSの最低でも胴体だけ載せたトラックを大量に走らせて戦場に近づけた」
それで何故、敵が撤退したのかセインは理解ができなかったが、クリスが説明を続けてくれた。
「MSは胴体だけあれば識別信号を出せるからね、それで敵のレーダーを騙したんだ。きみの機体にも友軍機の信号が近づいてくるのが分かったろ?」
確かにレーダーには友軍が近づいてくるように映っていた。
つまりは胴体だけのMSに識別信号を出して友軍機に見せかける。大破しているから当然動かないから、基本は意味がないが、トラックに載せて動かすことで実際にMSが動いているようにレーダー上で偽装したというわけか。
「一発芸みたいなものだから、2回目は通じないけどね」
クリスは軽い口調で言う。しかし、よく思いついたなぁとセインは感心するばかりだった。
「きみの方は中々に大変だったみたいだね。相手の機体は新型でザイランと言うらしい。新型に乗ったエース2人相手に大健闘でスゴイよセイン君は」
クリスの声には心からの感嘆があるようにセインには聴こえた。ザイラン――新型の機体それもエース2人相手だ。よくよく考えれば仕方ないかもしれない。
そうだ、勝てなくても仕方なかったんだ、セインはそう思うことにした。そうしたら心が僅かに軽くなった、
けれど大事な物が欠けていくようにも感じたが、気にしないことにした。セインは自分は良くやった方だと思うことにしたのだった。

 
 

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