GUNDAM EXSEED_B_44

Last-modified: 2015-09-05 (土) 21:25:04

「さて、使者のハルドが意識を失った現状、当座のクランマイヤー王国側の責任者は僕、アッシュ・クラインになるわけだが何か問題はあるだろうか?」
アルバは首を横に振った。アッシュはハルドが何かをしでかすのではないかと気が気でなく睡眠不足となり、その結果目が座った状態だった。そのため眼光は鋭く、アルバを睨みつけるような形になってしまっていた。
その視線から、アルバはその視線からクランマイヤー王国の人間は戦闘民族だという確信を強めたのだった。
「敵は面白いですね。戦力の逐次投入は愚策と言われるのにあえて、それをやってこちらを翻弄していますね」
クリスがそれまでの戦闘の情報を眺めながら言う。
「かなりつらい相手ですよ。長期戦は避けられませんし、向こうは補給も考えている、常識的な方法では、一発逆転を行えないように徹底的に封じている。そのくせ負けてもいいかという投げやりさが見える。恐ろしく気持ちの悪い相手ですj
そう言われアッシュは思い至ることがあった。
「常識的な方法で逆転が狙えないなら非常識な方法では?」
そう言うとクリスはニヤリと笑うのだった。
「問題はありますがやれます」

 

クリスの策は名づけて「ハルドロケット作戦」というものだった、敵の旗艦はつねに移動しこちらに動きを悟らせないようにしているようだが、クリスは予測が可能だと言った。
作戦は単純、クリスが予測した敵の旗艦の位置に対してハルドを乗せたネックスをぶつけるというだけの作戦だった。
問題はハルドが意識不明の重体だったことだが、それに関してはいつものというか相変わらずのレビーとマクバレル謹製のアーマーを装着させた瞬間にむりやり意識を覚醒させたられたので問題はなかった。
ハルドは戦えるのは戦えるが、肉体的には色々と問題があるようで、肺に穴が空いたり、その他内蔵も大変なことになっているようだった。医師曰く本来の形より平らになっているとのことだった。
どうやら、さすがのハルドも内蔵ダメージには耐性がないらしく、全身の臓器がGによって押しつぶされ平らになっているようだった。
それでも「ハルドロケット作戦」は実施されることとなった。ハルドが気合と根性を身体を動かす燃料にしてコックピットに乗り込んだからだった。コックピットに乗り込む際にハルドから、しくじったら殺すという視線が放たれ、それがクリスを捉えていた。
クリスは大丈夫ですよという視線を震えながらハルドに送った。クリスは70%ぐらいの確立で敵旗艦とハルドのネックスはぶつかるだろうと予測していた。駄目だったら、ハルドに戻ってきてもらって、何回でも突っ込ませればいいだけだと思った。
「では作戦開始です」
いつの間にかクリスがアメノミハシラの司令本部を掌握していた。

 

「ふぅん、一隻援軍が来ただけで空気がかわるものね」
「そうですねぇ」
ロウマとアッシナー中将は菓子とジュースを飲食しながら、アメノミハシラの様子を眺めていた。
「艦の移動ルートを変更、AルートからBルートへ」
アッシナー中将は操舵手及び艦長に命令を下す。ロウマにはアッシナー中将の考えがだいたい分かった。相手は恐らく起死回生で突っ込んでくるだろうということを読んでのルート変更だろうと思った。
「Bへ移動後、規定ポイントに到達したらルートをCに変更、その際に“土産”を置く。土産の設置準備を各員に徹底させるよう!」
アッシナー中将は考えた、敵にも参謀格はいるだろう。かなり手加減したが、どのくらい読んでくるだろうかアッシナー中将は楽しみだった。
敵には一機だけで戦術を組み立てられるレベルの機体があるため、それ頼りにの戦術を取ってくるだろうが、アッシナー中将は、それは構わないと思った。使えるものを最大限に使うのは悪いことではないという考えがあるからだった。
そんなことを考えている内に、どうやら少し気合が入りすぎたようだとアッシナーは周囲の緊張した感じを読み取ったので、ふざけた態度で最後に言った。
「じゃ、みんな、よ・ろ・し・く♪」
いい年をした男が少女のような仕草でそう言った。ブリッジにいた全員が気持ち悪いといった表情をするのを見るのがアッシナー中将の楽しみだった。

 
 

「それじゃ、ハルドさん。よろしくお願いします」
クリスがコックピットのハルドに通信で呼びかけたが返って来た返事は、
「うるせぇ、死ね」
という暴言だったので、クリスは若干傷ついた。だが我慢してハルドに発進命令を出したのだった。
「ハルドさん。出撃してください!」
「うるせぇ、ボケ」
そう言いながらもハルドのネックスは動き出した。
敵は全周囲からアメノミハシラに攻めてきているように見せているが、これも恐らく、ダミーが殆ど、クリスはそう分析し、全軍に指示を出す。
「ハルド機以外は攻撃を停止、敵反応はダミーの可能性高し、敵が撃ってくるまでは索敵に専念してください」
そう命令されてはアメノミハシラの軍もクランマイヤー王国の軍も攻撃は出来なかった。ただ、ハルド機以外は、自機の突破口を切り開くためにダミーだろうが何だろうが破壊して突破するしかなかった。
こっちは止まれねぇんだぞ分かってんのか、そう思いながらハルドはダミーだろうが何だろうが構わずに破壊し、機体を最大速度で機動させる。その瞬間に一瞬キラキラとした粒子が破壊されたダミーからまき散らされた。
「何だ?」
アルバが疑問に思ったが、それよりもダミーではない敵の捜索に集中したのだった。
そのころ、ハルドは機体を操りながら疑問に思った、敵の旗艦周囲はこんなにも守りが薄いものかと、ハルド自身は戦闘経験が長い方だが、旗艦を沈めるような仕事を仕事をしたことが無いので、わからなかったが、もう少し守りの部隊があっても良いような気がした。
しかし、そんなことを考えている内にクリスの言ったポイントで敵の旗艦らしきものを見つけた。ダミーかそうでないかの判別は近接しなければ出来ない。そのため、ハルドは攻撃に踏み切ろうとした、その瞬間だった。敵の旗艦らしき物体が自らはじけ飛んだ。
ハルドは瞬間にクリスがしくじったことを悟ったが、その文句を述べている暇など無かった。ダミーの中から現れたのは超大型のビーム砲だったからだ。

 

「ほら、かかったぁ♪」
アッシナー中将は全く別の位置にいる旗艦から、敵が自分の罠にかかったことを喜んでいた。
「いい感じ、いい感じ。相手がオジサンだったら、だめだけど、若い子だったらセンスがアリアリ」
アッシナー中将は相手が引っかかったことをあざ笑うよりも、むしろ敬意を示す気持ちが強いようだった。

 

「クリスしくじったな!ダミーでビーム砲だ。後で殺す」
ハルドはGがかかっている中でも確かにそう言った。クリスはまさかと思った。こちらの考えが読まれきっていた思い、一瞬、崩れ落ちそうになったが、幸いハルドの殺すという言葉で考えをしっかりまとめることにした。
歴史上で見てもこれほど命の危機に味わった軍師はいるだろうかと思い(三国志or中世などを除いて)、気持ちを奮い立たせた。
クリスは何分かの時間が欲しかった。
敵はこちらを読んでくると考え、罠を張った。敵は常に遊びが一部にあるから、読みの先を行かれる。余裕をなくす?いや向こうはそういうタイプじゃない。とにかく先読みをしてハルドさんを動かさなければと思った。
クリスは思う。チェスで言えば、ハルドさんは敵陣のど真ん中にいるクイーンだ。どの方向にも動けるうえに、最強の攻撃力を持っている。チェスで考えれば反則だが、どの駒に攻撃されても反撃して、倒す能力がある。
最強の駒。しかし、それを動かす手をクリスは迷っていた。
「えーと、ハルドさんはビーム砲の破壊を……」
「もうやってる!これはヤバい奴だ!要塞用のシンプルな奴だ、一度しか見たことがねぇが威力がヤバい!」
ハルドはネックスを操り、機体の全弾を叩き込んだが、ビーム砲に損傷は見られない。ビーム発射までの余剰エネルギーをビームシールドに回しているせいだろうとハルドは思った。
「俺の機体じゃ破壊は無理だ!。被害は仕方ないとして、敵の旗艦を探せ!」
言われて、クリスは戸惑った。どうするべきか、アメノミハシラを完全に守るにはハルドにビーム砲を何とかしてもらいたかったが、それだと、敵艦の予測軌道にハルド機が追いつくのが無理になる。どうすればいいか迷った瞬間だった。

 
 

「大丈夫だ、アメノミハシラは僕が守る!」
オーバーブレイズガンダムが大型ビーム砲とアメノミハシラの間に立ちはだかった。
「いけるよな、オーバーブレイズ。……コード:ブレイズ」
その瞬間、オーバーブレイズガンダムの背中の大型スラスターから翼が生えた。それもただの翼ではない。炎を思わせるような翼だった。
「フィルタリングが無いからなのかな、すっごく辛いけど。僕はこれでいい!」
セインは炎の翼を翼を広げるオーバーブレイズガンダムの中で叫んだ。
「全員死ぬ気でやってんだ、てめぇも死ぬ気を出さねぇでどうすんだ!クリスッ!」
ハルドの叫びがクリスに届く。
ああくそ、わかったよ。どいつこもこいつも熱血で嫌になると、クリスは思いながら敵艦の移動ルートをとにかく考えた。相手は自分よりも上の指し手だが、それでも。この一手だけは上回る。それがクリスの決意だった。
「ハルドさん。僕が言ったポイントに移動する準備をしてください。敵はビーム砲の成果を見てから動きます。僕が敵の旗艦のポイントを予測するので最速で移動してください。最速でない場合、ハルドさんが死刑です」
クリスの言葉にハルドは鼻で笑った。
「お前が俺に死刑か。笑えるぜ!」
そう言いながら、ハルドはネックスを発進させる準備を整えていた。
そんなやり取りをしている最中だった、旗艦のダミーとして用意していた、対要塞ビーム砲が発射される。
長距離ビームが一閃に向かってくるかと思った瞬間だった。ビームが直前で散弾となった。それはアルバ一瞬だが気にした粒子によるものだった。
「ビームを拡散させる粒子体!?」
クリスは愕然とした、それによってビームが拡散させられれば、アメノミハシラの被害はただでは済まなくなる。そう思った瞬間だった。
「オーバーブレイズガンダム。限界を見せろおぉぉぉぉぉっ!」
セインの乗るオーバーブレイズガンダムの炎の翼がセインの精神力の限界まで展開されたのだった。
その結果、放たれたビーム砲は全て炎の翼に飲み込まれて、消失した。
「これが僕の限界です。ハルドさん。あとは……」
そう言って、セインはコックピットのなかで、疲れ切って静かに息を立てて休むのだった。

 

「ビーム砲、発射されたましたが、アメノミハシラは無傷です!」
ブリッジクルーからの報告を受けてアッシナー中将は即座に判断を下す。
「ルートはAのパターン。対空戦闘準備。敵は高速機よ!」
おそらく、敵の読み手は、こちらの位置を確実に読んでくるはずだという勘がアッシナー中将にはあった。
「読み切った!ハルドさん、ポイントを送ります!」
「上等だ!クリス!」
ハルドはネックスを操り宇宙を進む。身体がGの影響でどうにもならなくなっているのがハルド自身にも分かった。自分の身体はノーマルスーツの上に装着しているアーマーでかろうじて動いているのも理解していた。
だが、どんな形であれ戦える。ハルドはそれで充分だった。

 

「ロウマ君」
アッシナー中将はロウマの名前を任務に必要な存在として呼んだ。ロウマもそれを察し、MSハンガーへと向かい、乗機としているマリスルージュにすぐさま乗り込むのだった。
マリスルージュはスナイパーライフルを片手に甲板上に出ると甲板に機体を固定し、望遠カメラを用い、迫ってくる機体に狙いを定めた。そうしているうちにロウマは、ふと人生で二番目の殺しは狙撃だったなと思い出した。
ハルドは旗艦の甲板上にマリスルージュがいて。スナイパーライフルを構えているのを望遠カメラで確認した。この期に及んでロウマがいるとは、ハルドにとって予想外だった。
ヤバい!ハルドはそう直感し、全身がどうなろうと構わず、機体を横にスライドさせた。その直後、実体弾のライフル弾がネックスの肩に直撃する。ネックスの速度とライフルの弾速の相乗効果でネックスの右肩が完全に破壊される。
ハルドはしくじったと思いながら背中のプラズマキャノンを発射する。しかし、ハルドは直撃しなかったという確信があった。

 
 

ズれた。そういう感覚がハルドにあった、ロウマのマリスルージュの妨害のせいだった。肩に直撃した弾の影響で機体のバランスが崩れて、狙いがズれたという感覚があった。
その感覚は確かであり、プラズマキャノンは確かに当たったが、敵の旗艦にはかすり傷程度の損傷しか与えていなかった。ロウマのマリスルージュはハルドのネックスに対し、親指を下に向けた状態で甲板上に待機している。
減速のできないハルドのネックスは敵の旗艦を通り過ぎた。旋回し追撃をするか?ハルドは考えたが、この重装備でロウマのマリスルージュと戦うのは危険が大きいという考えもあった。
「ハルドさん。敵の旗艦は!?」
クリスが叫んできたので、ハルドは怒鳴り返す。
「見つけたよ!だけど仕留めそこなった!
「なにやってんですか!」
「うるせぇ!こっちはヤバいのと遭遇して、判断に迷ってんだ」
そんなやり取りをしている内に敵の旗艦は奇妙な動きを見せる。それまでとは違い、明らかに、逃げるような動きだった。
「ハルドからクリスへ、敵旗艦は移動ルートをパターン外に変更。撤退の様子に見える」
そうハルドからクリスへ伝えた時、アメノミハシラ周囲でも動きがあった。アメノミハシラ周囲を囲んでいたダミーではない戦艦が撤退を始めたのだ。
「とりあえず、敵は退いてくれているようだが、どうするんだ、クリス?」
アッシュがクリスに今後の動きを尋ねる。
「追撃戦と行きたいところですが、そんなこと出来る、気力が残っている人なんていないでしょう。無視でいきましょう。ほっときゃいいです」
クリスも疲れてウンザリといった感じに聞こえた。
「俺も同感だ、一旦休み、ただ、敵の撤退がただのフリって可能性もあっから、警戒要員は以外、一旦全員休憩だ」
ハルドがそう言うと、MS隊とシルヴァーナは休憩の運びとなった。その後、ハルドが心配していたように敵の撤退はフリというわけではなく、本格的な撤退のようだったようで、敵が再襲撃をかけてくるということはなかった。
敵が全て撤退したことで、結果的にはアメノミハシラ側の勝利となったわけだが、戦っていた者たちには、イマイチ、ピンと来ない勝利だった。

 

「まぁ、こんな感じで負けちゃったわけだけど、ロウマ君は何かある」
アッシナー中将は撤退行動を行う旗艦のブリッジで敗将とは思えないほど余裕を見せていた。
「俺は特にいうことないですねぇ。まぁノンビリした戦争だから楽で良かったくらいですね」
そう言うとアッシナー中将は頬杖をつきながら、頷くのだった。
「ほんとはゆっくりの戦争の方が良いのよ。無粋な奴らが、どんどん戦争の時間を短くしようと躍起になっている。そういうの私は嫌ね。戦争は長い方が美しい人間ドラマが生まれると思わない?」
さぁ、とロウマは首を傾げた。正直興味が無いのでどうでも良かったからだ。ロウマが好みなのは一対一の遊びくらいで、戦争全体に対して何か思うところがあるわけではなかった。
アッシナー中将は理解者が少なくてがっかりとした態度を明らかにさせるのだった。

 

誰もが勝利を直接は実感できなかったが、司令部のクリスは腕を組み、胸を張って言いのけた。
「僕たちの勝利です!」
そう自信満々に言われ、司令部の中も、そうか勝利か、と段々に納得してきたようで勝利の喜びに湧き立っていった。その流れは、アメノミハシラのMS隊、そしてアメノミハシラに居住する市民へと伝わり、急に勝利を祝う大合唱が始まったのだった。
「まぁ、勝ったのなら悪くないか」
「そうですね」
アッシュは自分たちが特別何かをやったような感じはしなかったが、おそらくは多少勝利に貢献しただろうと思うことにしたのだった。
「クランマイヤー王国の皆さん!本当に感謝します!」
アルバも通信でしきりに感謝の言葉を述べている。アッシュたちからすると、大げさすぎて照れ臭かった。その時だった。大出力のプラズマ砲がアメノミハシラに向けて飛来してきた。誰もが油断していて、防御のことなど考えていなかった。

 
 

だが、プラズマ砲の砲弾は明らかにアメノミハシラを外れる軌道を取り、各員はホッと胸を撫で下ろし、直後にまだ敵がいるのかと思い、索敵を開始したのだった。だが、撃ったのは敵ではなかった。
「てめぇら、死にそうな俺を忘れて楽しくやってんじゃねぇか、いいですねぇ!」
死にそうな声のハルドからの通信が届き、続いて、ようやく動いているようなネックスの姿も確認された。
「ハルド殿、落ち着いてください。後で回収に行こうと――」
アルバのゴールドフレームがネックスに近づいた瞬間、ゴールドフレームはネックスの手によってバラバラに解体された。パイロットは無事だが機体は駄目だなと、アッシュは思った。
「ハルド殿、ご乱心!ご乱心ー!」
アルバの叫びを聞き時代劇かよと思いながら、アッシュは仕方なく乗機のキャリヴァーでネックスを取り押さえに行った。セインのオーバーブレイズガンダムも同じように行動している。
アッシュとセインの機体が取り押さえに行くと、ネックスは素直に動きを止めた。おそらくパイロットが限界なだけだろうとアッシュは思った。最後にハルドから通信が入る。
「無理だ。もう指一本動かせねぇ。コックピットのハッチは開けておくから適当に回収してくれ」
そうハルドは言い残し、ネックスのコックピットハッチを開けると沈黙したのだった。
アッシュは状況から考えてハルドの処置を急いだ方が良いと考え、コックピットからハルドを取り出し、緊急でアメノミハシラの医療施設へと搬送したのだった。
その結果、ハルドは医師でも説明が難しいような身体状態になっていた。医師が言うには体が全体的に平べったくなっているというのである。
Gを受け過ぎた影響というが、本当かという疑問がアッシュには色々とあったが、それ以前に身体中の骨や内臓が駄目になっているのでしばらくの入院は必要だそうだった。
アッシュは仕方ないので、そのままアメノミハシラの病院に入院ということにしてハルドに関しては始末をつけた。

 

そして他にも始末をつけないといけない案件がアッシュにはあった。
「クランマイヤー王国との同盟に関して承諾いただけたのは非常にありがたく思います。使者の者が大変な無礼をしたとは思いますが、その件に関しては水に流して。今後の両国の発展のための建設的な話しをしましょう」
事のあらましは、だいたい噂で聞いている。とりあえず国家元首に飛び蹴りと裏拳を叩き込んだというのは確実らしい。
国家元首の息子にも何かしたそうだが、すでに一番上に暴行を働いているので格下はどうでも良いだろうとアッシュは色々と常識を捨て去って物事を考えることにした。
するとアメノミハシラの代表のエルドは僅かに悪戯めいた笑みを浮かべながら言う。
「ふむ、私が2ノックダウンのTKOで敗北。そちらの言うことを全面的に聞かないといけないのかと思ったが、アルバよ。どうやらクランマイヤー王国は思ったよりは野蛮な国ではないらしい」
アッシュはハルドがいなくて良かったと思った。ハルドがいたならば、今の発言で、じゃあ3ノックダウンであの世に送ってやるよ!などと言ってエルド代表の頭が180度回転していたろうと思った。
「父上、そのようなことを言っては今度こそハルド殿に殺されてしまいますよ」
アルバが笑いながら父の肩を叩いた直後だった。部屋の扉が勢いよく開いた。まさか本当にハルドが来たのかと思い、エルドとアルバの両名は体をビクッと震わせたが、扉を開けて入ってきたのは良く見れば小奇麗な顔をした少年だった。
「なんで、きみが来るんだクリス」
この少年も面倒を起こすタイプのため、アッシュは敬遠したかった。だがエルドもアルバもクリスの登場には好意的な視線を向けていた。
「おお軍師殿!これはどうも」
アルバに至っては一礼すらしている。やめてくれ、クリスが調子に乗る。とアッシュが思った矢先、すでにクリスの顔には調子に乗った笑みがあった。
「あー申し訳ありません。お二方、この者は喋る空気だと思って無視していただきたい」

 
 

アッシュはなるべくクリスを会話に加わらせたくなかった。この少年は何の相談も無しに自分の思い付きを公共の場でぶちまける厄介な存在なのだ。
「無視だなんて、とんでもない。我が国の窮地を救ってくれた名軍師に対してそのような扱いなど」
ああ、良い人物だなアルバ殿はだが、そうやって褒めると調子に乗る人間だからやめて欲しいと思った。
「少年を軍師に命ずるなど他所の国では考えられぬこと、そして驚くべきことは少年の命令に誰も逆らわず一糸として乱れない統率を保っていること。このようなこと他の国では絶対にないでしょう。
これはクランマイヤー王国が徹底した実力重視の人材登用を行っていることの表れだと私は思います。
しかし、これも皆摂政であるアッシュ殿の政によるものと私は確信しております。実力主義の制度には不満が出やすいもの、しかし皆、アッシュ殿下で嬉々として働いております。アッシュ殿こそ真に見事な為政者です!」
ああ、クズが多い環境で暮らしているとアルバ殿ような存在は凄く救われるなぁとアッシュは思うのだった。
アッシュは、まぁこのまま褒められていても良いと思いそうになったが、そういう訳にも行かないと思い出し、口にする。
「単刀直入で申し訳ないのですが、今後のアメノミハシラの方針について伺いたいのですが」
嫌がられるだろうなぁと思いながらアッシュはしょうがなく口火を切ったのだった。
「それはもちろん、オーブの奪還です!」
アルバが血気盛んにそう言い放った。アッシュはこういうのは嫌だと思いながらも冷ややかな眼差しというものを作って、アルバを見て言った。
「それは現実的に可能なことですか?ここは現実的な問題を話し合う場です。あなたの願望を述べても意味はありません。
アルバ殿は何か勘違いをしているのかもしれませんか?私たちが今回支援に来たのは、アメノミハシラと同盟関係にあり、アメノミハシラが共通の敵国であるクライン公国に侵略されていたため救援に参ったのです。
我々はアメノミハシラの人々がオーブの奪還を望もうとも、現状オーブは地球連合の占領下にあります。私たちは手出しをするということも協力も何もしません」
アッシュは嫌な言い方だったかなと反省した。チラリとみるとアルバは顔を真っ赤にしている。アッシュは正直謝りたくなってきた。
「ぶっちゃけ、独立ですね。アメノミハシラがオーブから完全に独立」
空気もといクリスが喋り出した。喋り出すと止まらない少年だ。アッシュは誰にも聞こえないように溜息をつき面倒なので放っておこうと思った。
「もともとオーブとアメノミハシラは二重政権状態だったじゃないですか。アメノミハシラをロンド・ミナ・サハクが治めていた時代からの。今まで何となく繋がっていたそれを、一旦切り離して独立国家になるのも良いと思いますよ」
クリスの軽い物言いアルバは憤慨した。
「我々はアメノミハシラの民であると共にオーブの民だ!」
「そういう事言っていてもなんも進まないでしょう。現状アメノミハシラは、宙ぶらりんです。独立した存在なのか、それともオーブなのか。
でもオーブってことを認めたら、今度はそれを盾に地球連合はアメノミハシラの占領を始めますよ。じゃあ、宙ぶらりんままだと?条約があるんで、一応クランマイヤー王国は防衛に協力はしますがね。
クライン公国からは、延々に攻められますよ。現状、国家の主権がハッキリしてないのがアメノミハシラなんですから、取り敢えずMS突っ込ませて、取ったー!って言えばクライン公国の領土と宣言しても良い状態になってますからね」
そうなのかとアルバは若干冷静になったようだった。アッシュは机の下でクリスの脚を蹴った。黙れという合図だった。
「とにかく、アルバ殿には少し冷静になって考えて欲しい。地球連合とて、そこまで悪辣な組織ではない。返還要求を行えば少し時間はかかるが返還をを行い、オーブの自治と独立を返してくれるだろう」
これでアルバが自分の力で奪い返さなければ許せない人間の場合、面倒なことになるが、その時はクリスに何とかしてもらって、最悪のケースの場合はハルドが使えないので虎(フー)を使って武力制圧しようとアッシュはヤケクソの気分で考えた。

 
 

「……アッシュ殿。私は独立にかけてみようと思う」
エルドはそれまで閉ざしていた口を開いた。
「いや、楽しい時代だ。何もかもが目まぐるしく変わっていく。私自身が年老いてしまっているのが残念だ。世は乱世か?」
「少なくとも、私の周りはそうです」
そう言うとエルドはフッと笑い、アッシュへ手を差し出した。すぐさま手を出しアッシュもそれに応じ、アッシュとエルドは固い握手をする。
「独立に際してだが、こちらにも要求はある」
「もちろんです」
アッシュはエルドが手を離すと懐に手を入れ一枚の紙をエルドに渡した。
「クランマイヤー王国から貿易品目のリストです。アメノミハシラ単体では食糧の自給に問題が生じると考え、関税等調整しました。そちらにはこちらと親密な国交を結んでも損にはならないはずです」
エルドは一通り目を通すとニヤリと笑った。貿易品目や関税に関してはユイ・カトーに全て任せて紙にしろと命令し、それを見てエルドが笑った、この意味は何か。ユイ・カトー曰く、絶対に損が出ないようにしてあるといったが、向こうは笑っているがどうなんだ。
「アッシュ殿、本当にこれでいいのかな?」
「ええ、構いません」
そう言うと、エルドは極めて上機嫌になった。
「ははははは、アルバよこれでアメノミハシラに食糧問題はなくなったぞ。そしてお前は毎日ステーキが食える!」
そういうとエルドはアルバの髪をクシャクシャとかき回す。
「うむ、アッシュ殿。このリストは後生大事に預からせてもらう。極めて重要な書類としてな。独立の件は任せておきたまえ。もともとオーブからの独立を願うものも多い土地柄だ。議会は白熱するが。結果はすぐ出る。それを見てから帰りたまえ」
そう言うとエルドはアルバを引き連れ部屋を後にするのだった。
「上手く行きましたね」
クリスが自分の手柄だという表情をするので、アッシュはクリスの頭に手刀を軽く打った。やはりコイツは調子に乗らせない方がいいなと思いながら、アッシュも部屋を後にするのだった。
その後はアッシュは特に思うことはなかった。クランマイヤー王国との同盟も、白熱するかと思ったアメノミハシラの独立問題もたいした議論もなく、可決となり、アメノミハシラは“アマツクニ”と名を変えたのだった。
「いやー、あの貿易品目リストを見せておいたら誰も反対する人間などいませんよ。それにあの関税設定。素晴らしい!」
後日、エルドは陽気にアッシュの肩を叩き言った。その後ろではアルバが俯いていたのでアッシュが声をかけると。アルバは顔に心からの反省を浮かべていた。
「このアルバ。武にかまけるあまり政治というものを全く知らなかったことを恥じているのです!これからは武のみではなく政も学ぶことを決心しました」
そうか、それは頑張ってほしいなとアッシュは思った。アッシュの知っている人間の中では数少ないクズでもゲスでもキチガイでもない人間だからだ。
とりあえずアッシュのここでの厄介ごとは全て済んだ。ハルドは入院中だから置いていくのは仕方ないとして、レビーとマクバレル、それに数名の技術者がシルヴァーナから機材などを運び込みしばらく滞在するという。
「面倒は起こすなよ」
アッシュは念のため言っておいた。だがレビーとマクバレルの場合、レビーがブレーキ役になって、マクバレルの行動を止めるため心配は少ないだろうと思った。
「では、帰るとするか」
シルヴァーナの艦長のベンジャミンが言うと、アッシュも同意するした。現状アッシュがこの国ですることはないからだ。
「うーん、では出港で」
まぁ、たいした問題はないはず。問題は自分が留守中に溜まってしまっているであろう摂政の仕事だった。
そんなアッシュのたいしたことのない心配を乗せたままシルヴァーナは宇宙へと飛び去って行った。
それを見送るレビーとマクバレルの口元には笑みがあった。
「さて、ここの施設を使ってアレを仕上げるとするか」
「はい、教授」
レビーとマクバレルは目は笑わないながらも口元だけ楽しげな様子をみせながら機械工作の作業に取り掛かるのだった。
レビーとマクバレルは誰の干渉も無い中で最高の機体を仕上げようと考えていた。プロメテウス機関がどうだというのだ。最高の機体を仕上げるのは自分たちだというプライドがあった。
そして今こそが、それを見せつける最高の機会。アメノミハシラ現在はアマツクニが保有する最高の機械設備を存分に駆使し世界中のありとあらゆる人間に、目にものを見せてやるつもりだった。

 
 

GEB第43話 【戻】 GEB第45話