セインはオーバーブレイズガンダム・ブラスターのブレイズブラスターを撃った瞬間に限界を感じ、レビーとマクバレルに連絡をしていた。 「すいません。この武装、このままだと僕には無理です」 そう言うと、レビーとマクバレルは笑顔で装備を交換しようと言い出した。セインはその時何も感じずに一旦、工業コロニー内に戻ったのだった。 そうして、戻ったセインはコックピットハッチを開けると同時にベテラン整備兵に引きずり出され、首筋に基本使用料一本の栄養剤を二本連続で注入された。 「か弱い女の子に体液注入をしておいて、自分は何か変な液体を注入されるのを嫌がるのは道理に合わないと私は思うけど」 セインが暴れるのでレビーが言ったが、セインにも反論はあった。 「注入どころか挿入もしてません。ギリギリで駄目でした!」 ああ、そう。とレビーは憐れみながら、セインを見つつ、とりあえず、新しい装備の説明をした。 「オーバーブレイズガンダム・ブレード。名前の通り高エネルギービームブレイドを出力する装備。装備箇所は肩だから、背中の大型スラスターもそのまま使えるわ。 ブラスター装備と違ってコード:ブレイズを発動しなくても使えるけど、コード;ブレイズを使った方が威力が上なのは理解してね。形状は片刃剣で峰の部分はスラスターとして使えるから上手く使うように。まぁ、こんな感じ」 そう言うとレビーは去っていき、セインはベテラン整備士たちによってコックピットの中へ押し込まれた。ベテラン整備士たちは最後にゼリー飲料をセインに渡して去って行った。 セインは機体をチェックすると機体名がオーバーブレイズガンダム・ブレードになっていることを確認したうえで、機体を出撃させた。 そのすぐだった、盾に並んだ二隻の戦艦が、真っ直ぐにこちらへと向かってくるのは、ぶつけるつもりか?だったら、叩き切ってやる、そのためのブレード装備だとセインは思った。向かってくる二隻の戦艦を見据えながら、セインは恐らくだが、必要な言葉を呟いた。 「コード:ブレイズ……」 しかし、その言葉を呟いても、機体に変化は起きなかった。どういうことだと思い、セインはコックピットの中を見回すと、ウイング、ブレードの二つのメーターを発見した。 なるほど、ウイングを装備しているのだから、ウイングにエネルギーを回す場合もあるなと悠長に思っていたがそんな暇はなかった。 すぐにブレードにエネルギーを充填しなければいけないと思い、コックピット内に浮かぶ立体表示の中からブレードを選び、エネルギーのチャージを開始する。 「いけるか?」 チャージの速度はブラスターより早いが、ウイングとの同時使用は無理だと感じた。しかし、先ほど注射された栄養剤のおかげで気分が最高にハイになってきているため、ゲージのチャージ速度が明らかに加速されていく。 二隻の戦艦はもう目の前だ。だが、間に合うという確信があった。そして、その確信はすぐに現実となった。ブレードのチャージが完了したのだ。 距離的にはギリギリかもしれないが、行けるだろう。セインはそんな直感を得て、武装名を叫ぶ。 「ブレイズブレード、いけぇ!」 その叫びに合わせ、両肩に接続されたビームブレードが巨大なビームの刃を発生させる、その長さは100kmをゆうに超えていた。セインは、長大なビームブレードを水平にすると、その峰部分のスラスターを使い機体を突撃させる。目標は目の前の二隻の戦艦だった。 「切り裂く!」 そのセインの意思に合わせ、ビームブレードを接続するアームが稼働し、片方は縦に、そして、もう片方は水平に、その刃を一閃させる。振るわれた刃は十字の軌跡を描き、二隻の戦艦を切り裂いたのだった。 しかし、そこでセインの精神力は尽き、コード:ブレイズが強制的に解除され、長大なビームの刃も消失する。 #br #br 「まだ止めんな!押し続けて、ぶつけろ。艦隊は接近戦用意!敵防衛線とガチンコでやりあう!」 ロウマは切り裂かれ、分かたれた戦艦であろうと、とりあえずの盾になるし、ぶつけるのに関しては質量的には充分なはずだと考え、命令を下した。 「オーバーブレイズは一旦下がらせろ、敵はそのまま突撃してくるぞ!」 アッシュが全軍に伝え、自身も既に目の前まで接近している敵部隊に対応する。そこからは乱戦となった。 クライン公国軍は、大破した戦艦を質量兵器としてクランマイヤー王国軍の防衛線に叩き付けると同時、MS部隊を突入させる。それ応じてクランマイヤー王国側も近接戦闘に移る。 戦艦の直撃を受けていないクランマイヤー王国側から見て右側の防衛線にもクライン公国軍のMS隊が突撃を仕掛けていた。 「さがるな!さがったら終わりだぞ!」 アッシュが全軍に対し、奮起を促すように叫ぶと、その声に応じて、クランマイヤー王国の将兵は雄たけびをあげた。 「押し潰せ、戦力の有利はこっちにある!」 ロウマもクライン公国軍の将兵に、檄を飛ばした。こうなっては、気合と気合のぶつかり合いだ。口では戦力の有利があるとはいったものの、そんなものは幻想に近い。士気が低い兵は弱いのだ。歴史上でも寡兵で大軍を破る例はいくらでもあるため油断はできない。 そんな風に思っていたロウマの耳に、突如思いもよらぬ報告が入る。 「後方の二隻撃沈です!」 ハルドが来たとロウマは一瞬で理解した。だったら自分が出なければ、どうにもならないと判断し、ロウマはブリッジを後にし、格納庫のマリスルージュに乗り込み、出撃する。 やってやるぞ。ハルド、こちらは今、良いところなのだ邪魔をさせるわけには行かない。ロウマは自身の敗北を思い浮かべながらも、機体を戦場の空へと疾駆させる。 アッシュは乱戦の中にありながらも、圧倒的な技量で、敵のMSをビームサーベルで斬り倒していた。アッシュにとって予想外だったのは、アルバ・ジン・サハクがアマツクニの部隊と共に加勢してくれていたことだった。 借りができたと思いながら、アッシュの乗るキャリヴァーは敵MSを蹴り飛ばし、即座に振り返りながら背後から迫るMSのコックピットにビームサーベルを投擲し、一機撃破。 そして蹴り飛ばした敵に対しては、残り一本のビームサーベルを抜き打ちの一刀で両断し爆散させる。アッシュは問題ないと思った。後、何十機でも倒せる。後ろに守るべきものがあるなならば。 #br 「見えてきたぜ、最前線」 結局、戦場を大回りすることになったが、ようやく戦闘の真っ只中に到達だとハルドはコックピットから見える景色を見て思う。自分は戦艦を全部潰すのが仕事だ。それさえ終われば、この戦いはクランマイヤー王国の勝ちで終わり、万事が解決だ。 ハルドはそう思い、行動をしていたが、それをさせたくない人間が当然いる。 「ハルドおぉぉぉ!」 ロウマの乗るマリスルージュが大量の武装を担ぎ、それらを斉射し、ヴァリアントガンダムへと攻撃する。だが、シャウトペイルのブースターボードに乗ったヴァリアントガンダムは異様な機動性を見せて、発射された全てを回避する。 「ははっ、やっぱいいな、これ。マクバレルに作ってもらうか」 ハルドは奪ったブースターボードの性能に満足を覚えながら、両膝の脇にマウントされたミサイルランチャーからミサイルをマリスルージュに全弾発射し、即座にパージする。ミサイルランチャーも奪ったものなので、捨てるのに躊躇いはなかった。 マリスルージュは即座に水銀を展開し巨大な盾とし、ミサイルを全て防ぐ。だが防ぐだけでは駄目だとロウマは反射的に機体を動かした。直後、何らかの弾丸がマリスルージュの頬をかすめた。 ロウマは穴の空いた銀の盾を、形状変化させ、大剣の形に変えながらマリスルージュ移動させる。しかし移動させた瞬間に乗り手のいない、ブースターボードがマリスルージュに直撃する。 #br #br 「取った!」 ハルドの声と共にヴァリアントガンダムが両肩に装備した大口径キャノンを、マリスルージュに速射する。 ロウマは普通の回避は無理だと判断し、マリスルージュをギリギリで繋ぎ止めている銀を溶かし、マリスルージュをバラバラに切り離す。これによって持ってきていた大量の武装は意味をなさなくなったが、やられるよりマシだという判断であった。 大口径キャノンの砲弾は、宙を貫き、マリスルージュには当たらなかった。 「必死だな。ロウマさん」 「ハルド君が相手なら、そうもなるよ」 マリスルージュはすぐに機体を水銀で繋ぎ止め、硬化させ、機体を動ける状態にする。対して、ヴァリアントガンダムは大口径キャノンをパージした。弾数が心もとないのが主な原因であった。 マリスルージュは大剣を右手に持ち、高速機動で、ヴァリアントガンダムに迫る。単純な機動性能なマリスルージュが上だが、機体の挙動速度と追従性なら、ヴァリアントガンダムが上だった。 大剣の一撃に対し、紙一重で躱し、バックパックのビームサーベルを左手で抜き放ち、斬りかかる。だが、それに対し、マリスルージュはバックパックから更に銀の刃を生やし受け止める。 ハルドは一瞬で切れないことを不思議に思った。熱に弱いはずなのにと。だが、ハルドは関係なく機体を動かす。マリスルージュは大剣の二撃目を放っていたが、それも紙一重で躱しヴァリアントガンダムはペネトレイターをバックパックから抜き放ち、撃つ。 だが、マリスルージュはその銃身を素手で掴み持ち上げ、銃口の位置をずらしていた。即座にヴァリアントガンダムの蹴りが放たれるが、マリスルージュは避けずに敢えて受け止めた。バックパックから生える水銀でである。 ハルドは即座に左手のビームサーベルで蹴りを放った右脚を斬りおとす。斬りおとされた右脚は水銀に呑みこまれ、直後に噛み砕かれたようになって放り捨てられた。 ヴァリアントガンダムは、もう一度ペネトレイターを構え撃つ。今度は直撃した。しかし、コックピットではない。ペネトレイターを使っていて、ハルドは分かった、コックピットに当てなければ、全く役に立たない武装だと。 マリスルージュには風穴が一つ増えたが、挙動には問題なくハルドのヴァリアントガンダムに襲い掛かる、その手に持っているのは大鎌であった。それが凄まじい速度で振るわれるが、ヴァリアントガンダムは大きく身を反らし回避しながらビームサーベルを投げる。 だが、ロウマは回避されることも反撃されることも予想しており、もう一本の大鎌を振るう。投擲されたビームサーベル弾き飛ばしながら襲い掛かる大鎌。 だが、ヴァリアントガンダムは無茶な体勢ながらもそれを受け止める。赤いザイランから奪ったハサミ付きシールドでだ。右腕に装備された赤いシールドは縦に展開され、ハサミとなって大鎌の刃を捕まえていた。 ハルドは即座にシールドをパージし、シールドを捨てると、ペネトレイターを撃ちながら、バックパックの左側面にマウントされたソリッドライフル抜き、ソリッドライフルの銃身下部に装着されたグレネードランチャーからグレネードを発射する。 ロウマはヴァリアントガンダムの右手のライフルは防御不可能だと理解したので、グレネードの方に神経を集中し、盾ではなく、水銀の球を投擲する。 #br #br 水銀の球はグレネードに接近した瞬間に大きく広がりグレネードを包んで、弾け飛びながらもグレネードの爆発を無効化させる。 ペネトレイターがマリスルージュを貫いたのを見届けた瞬間にヴァリアントガンダムはマリスルージュに向かって機動する。 ペネトレイターは冷却とクリーニングと弾切れで今は使い物にならないので即座に、捨てる。代わりに腰後ろにマウントしているバズーカに手を伸ばす。 ロウマはこれ以上、弾を防御することはきついと感じていた。水銀が熱を持ちすぎている。一旦すべての水銀を戻して、バックパック内で冷却しなければ最大限の硬化は不可能だと感じていた。そのため、バズーカに関しては何としても躱したかった。 しかし、ロウマの目の前でヴァリアントガンダムは思いもよらない行動に出る。それは手に取ったバズーカをそのままマリスルージュに投げつけるという行為だった。ロウマ一瞬判断に窮した。これにどのような意図があるのかと。 「煙幕弾アクティブ」 ハルドはコックピットの中でそう呟き、左手のソリッドライフルをバズーカに向けて構える。その瞬間、ロウマは誘爆狙いかと思い、機体を即座に後退させた。ソリッドライフルから実体弾が撃ちだされ、バズーカの弾倉を貫いた。 その瞬間である、ヴァリアントガンダムとマリスルージュの間に、煙幕が広がった。これは、ハルドがバズーカの弾倉内にあった煙幕弾だけ、外部から衝撃で爆発した際にも効果を発揮するように設定したためであった。 ロウマは、しくじったと思った。その直後、煙幕の中からビームサーベルが投擲され、マリスルージュに突き刺さる。だが、コックピットは外れている。問題はないとロウマは思い、考える。状況を変える方法を。 ロウマは躊躇を覚えたが、煙幕の中に機体を飛び込ませた。煙幕を展開させるのが敵の狙いで自分の機体が、その煙幕の外にいることをハルドが想定しているなら、この行動の方が裏をかけると考えた結果だった。 そういうクソ度胸、嫌いじゃない。ハルドはそう思いながら、煙幕の中、マリスルージュにブレイドライフル右手に持ち襲い掛かる。位置は背後、やれるかどうかは神のみぞ知ると思いながら、ブレイドライフルを振るおうとした瞬間だった。 ブレイドライフルが不可思議な力によって、抑え込まれていた。ハルドは一瞬だが輝く線を見た。マリスルージュは強硬度のワイヤーを自機の周辺に張り巡らせていたのだとハルドは理解した。 即座にヴァリアントガンダムはワイヤーに絡めとられたブレイドライフルを手放し、後退しようとするが僅かに遅かった。煙幕が僅かに薄れ、マリスルージュがヴァリアントガンダムを見ていた。 「もらう!」 ロウマのマリスルージュは左手に銀色の短剣を握っていた。 「いいや、こっちだ!」 ハルドは後退をやめ、機体を前進させる。マリスルージュに密着させる距離まで。この距離で何を、そう思った瞬間、ロウマは見た。ヴァリアントガンダムの内手首にビームサーベルの出力口らしき物があること。そして、そこから光が放たれたのを。 ヴァリアントガンダムは左手の内手首からビームサーベルを出力させる、マリスルージュの左肩に突き刺し、そのまま刃を走らせ左腕を斬りおとす。 「ハルドぉぉぉ!」 ヴァリアントガンダムは右の内手首からもビームサーベル出力し、両腕を交差させるようにして、マリスルージュの右からに突き刺し、右腕を斬りおとす。 そして最後に交差させた状態の両腕を大きく開き、マリスルージュの胸部を水平に斬り裂いた。その一撃によって、斬り裂かれたバックパックから水銀が漏れ出す。これで再生は出来ないはずと、ハルドは思い、勝利を口にする。 「俺の勝ちだ」 ハルドがそう言った直後、マリスルージュはヴァリアントガンダムを蹴り飛ばし、背を向け撤退していく。ハルドは追ってロウマを仕留めても良かったが、おそらく時間がかかると思った。 ロウマはしぶとい、ロウマだけを狙うよりもロウマの乗る艦を撃破したほうが楽だとハルドは考えながら、右脚を失った乗機を操り、戦場に戻るのだった。 #br #br 「無理だ無理」 ロウマは機体を旗艦へと戻すとヘルメットを脱ぎながら、そう言った。全力の全力を振り絞ってこの結果ならば、自分はハルドにMS戦では勝てないとロウマは思うのだった。今まではもしかしたらという気持ちも多少はあったが、今回負けたので完全に懲りた。 二度とハルドとはMS戦はしないとロウマは心に誓ったのだった。 ロウマは居住まいを正すと、ブリッジに戻り、戦況を確認する。あまり良くない状況ではあった。どうにも押し切れない。 敵の士気が高いせいか、こちらの兵が弱兵なのか、まぁその判断はどうでもいいと思いつつ、ロウマは状況的にある選択も考えていた。だが、簡単に踏み切れるものでもなかった。 #br 「一番でかいのが旗艦だと考えるのが、無難だよな」 ロウマとの戦いを終えたハルドはヴァリアントガンダムの武装を整え、艦隊の後ろを取っていた。ハルドが連れてきた部隊は。ごちゃごちゃとやっていて遅れている。艦隊攻撃はハルドが一人でやる必要があった。 高速で迫る艦隊の背後から迫るヴァリアントガンダムを敵のMS隊が見逃すわけがなく、MS部隊が大挙して押し寄せてくるが、ハルドは戦闘は最小限とし、右脚を失った機体を軽やかに操り、敵のMSをすり抜け、突破していく。 敵の旗艦らしきものは想像以上に巨大であったが、ハルドは全てを壊す必要は無いと思い、ブリッジの位置を考えながら、ペネトレイターを撃てるだけ撃つ。それだけで旗艦らしき戦艦の動きは止まったのだった。 #br 「一隻沈黙です!」 その報告を聞いて、ロウマは決断した。おそらくハルドが一番大きな戦艦が旗艦だろうと誤解して沈黙させたのだろうが、悪いが自分は小回りの利く艦の方が好きなのだと、ロウマはハルドを出し抜いてやったような気分になり、ほくそ笑んだ。 「もう無理だな。全軍、撤退」 これ以上は勝っても負けてもリスクが大きい。勝つにしても消耗が多きすぎると、グチグチ言われるだろうし、負けるなら負けるで当然のように責められる。ロウマとしては、結果はさして変わらないと思ったのだった。 「負けを認めるのは面白くないから、撤退だ。こちらは諸事情により撤退。MS隊にも伝えておけ、艦に関してはルートを指示するので、それに従え」 ロウマは司令官の椅子に身体を預けた。ハルドと戦っていい加減に疲労の限界だ。それに帰ってからの言い訳も用意しなければならないし、許してもらうために金もいるだろうし、殺しを頼まれるかもしれないし、自分から殺しに行かなければいけないかもしれない。 それら諸々を考えると面倒となりロウマは思わず声に出してしまった。 「面倒だ~」 さして戦いの結果に興味が無さそうなロウマの物言いに、旗艦のブリッジにいた全員がロウマに不審気な表情を向けるのだった。 #br #br アッシュは敵の動きに、おかしなものを感じていた。明らかな逃げ腰に変わったためである。何かの作戦かと思ったが、直後にジェイコブからの通信が入り、まさかと思う。 「あの、敵艦が方向を変えて離れてくんですけど、それに合わせてMS部隊も一緒に、どうすればいいんでしょうか?」 追撃?いや、罠かもしれない。下手に追撃をしてリスクを負いたくないと思い、アッシュは追撃はせず、そのまま戦闘を継続するようにジェイコブに言った。だが、そう言った直後で、降伏の信号を出す敵のMSがアッシュの機体の周りにいくつも現れる。 これは、どういうことかと思ったアッシュにストームから通信が入る。 「これ、勝っちゃったんじゃないの?」 いや、まさか、そんなとアッシュは思う。近接戦闘に入ってからはこちらが有利だったが、それにしたって。勝利とは…… アッシュ自身、釈然としない勝利は何度も経験しているが、まさか、この戦いがこんなアッサリと終わるのかとアッシュは不思議な気分になった。 「えーと、敵艦はMSを回収して、どんどん離れていきます」 ジェイコブの通信を聞いてもアッシュは信じられなかった。この自分の周囲の降伏した機体はただ、撤退する艦隊に追いつけないと判断した輩たちだということかと、アッシュは色々と整理がついてきたが、どうにも現実感がなかった。 「よくわかんねーけど、デカい戦艦黙らせたら、敵さん撤退しだしたぞ」 ハルドから通信が入り、アッシュは少し考えながら、クランマイヤー王国の全軍に通信をした。 「もしかしたら勝ったかもしれない」 アッシュはいまだにピンと来なかったが、戦える敵は全て去り、残りは降伏をした敵だけだった。判断にするには早計かもしれないと思ったが、思わず通信で勝ったと口走ってしまった。 困惑はクランマイヤー王国の兵全員にあったようで、皆ぼんやりとしていた。だが少しずつ頭を整理していき、よくよく見れば敵は全部いなくなったわけだし、勝ちなのかと、整理がついた者が小声でオー、と言うとそれにつられて声をあげるものが現れる。 やがて、その声はクランマイヤー王国全軍に広がり、雄たけびは勝鬨の声となって広がって行った。 しかし、それでもアッシュはいまいち釈然としないままだった。勝利した実感はないがこれでいいのかと思いながら、何となく、勝鬨の声を聞いていたのだった。 だが、間違いなく、クランマイヤー王国は勝利したのだった。世界を二分する勢力であるクライン公国の軍隊に敢然と立ち向かい勝利を手にした。これは後に、歴史上においてクランマイヤーの奇跡と呼ばれる歴史の一大転換点となるのだった。 そのことは、この戦場にいるだれも予想だにしていなかったが、クランマイヤー王国の人々は、ただ自分たちの生活を守るために誰もが懸命に戦い、そして勝利を得て、自分たちの生活を守った。この時は、それが全てだったのだ。それが全てで良かったのだ #br #br [[GEB第53話>GUNDAM EXSEED_B_53]] [[【戻】>オリジナル主人公]] [[GEB第55話>GUNDAM EXSEED_B_55]] #br #comment(noname)