GUNDAM EXSEED_B_56

Last-modified: 2015-11-28 (土) 23:19:10

調印式の会場の外、捕虜の引き渡しを終了した場では、なぜか一触即発の空気が流れていた。
原因はハルドを筆頭に気性の荒いMSパイロットが、搭乗している機体に、中指を立てさせたり、親指を真下に向けたり、親指で首を掻っ切るような動作をさせていたからだった。クランマイヤー王国側は完全に挑発をしていた。
その上で、クランマイヤー王国側は通信でクライン公国軍を口汚く罵り続けていた。一応、式典が行われる以上、おとなしくしておかなければいけないと思っていたクライン公国軍も、挑発が続けば怒りも限界に達し行動に移そうとするものがいた。
だが、それを遮る機体があった。戦闘に立つユリアス・ヒビキの乗る、フリーダムガンダム・センチネルである。
「挑発をやめて欲しいな。兵が荒れる」
ハルドは望んだ展開が来たと思った。ヴァリアントガンダムをクランマイヤー王国側の先頭に立たせるとユリアスを含めたクライン公国全軍に伝える。
「だったら、俺を黙らせろ。俺が黙れば後ろも黙る」
「それこそ挑発だよ。自分の発言が喧嘩を売っているとは考えないのか?」
ハルドはコックピットの中でニヤリと笑いながら言う。
「喧嘩売るつもりが無かったら、こんな態度はとらねぇよ」
ハルドはそう言いながら、ヴァリアントガンダムの武装からマウントされたものをビームサーベル以外全て外し、オーバーブレイズガンダムに投げ渡す。
その動きに応じるように、フリーダムガンダム・センチネルもライフルとシールドを後ろの機体に投げ渡す。
「式典の最中に殺し合いは良くない。ビームサーベルの低出力モードで戦おう」
「いいね。決闘スタイル。嫌いじゃないぜ」
ビームサーベルの低出力モードならば、機体の切断には至らず、装甲に焦げ跡がつくだけで、人死にが出るということはない。
黒と白のツートンカラーのガンダムタイプと大きな青い翼を持ったガンダムタイプは、互いに向かい合う。いつの間にか、両軍ともに野次や罵倒の言葉は消えており、その二機の決闘を静かに見届ける雰囲気となっていた。
ハルドは恐らくこの機体とパイロットがクライン公国で一番強いと考えていた。そしてユリアスも、この目の前のガンダムタイプがクライン公国ではなくエミル・クラインにとって最も危険だと直感を得ていた。
「来いよ」
「どうぞ」
二人が言葉を発した瞬間に二機のガンダムが動く。フリーダムは左腰のビームサーベルを右手で掴み、抜き打ちを放つ。対してヴァリアントガンダムはバックパックの右側のビームサーベルを右手で掴み振り下ろす。
両者のビームサーベルはぶつかり合い、お互いの勢いを止める。その瞬間にフリーダムが右腰のビームサーベルを抜刀しようとするが、ヴァリアントガンダムが足を伸ばし、蹴りで抜刀しようする左腕を抑えつける。
だが、それも読んでいたように、即座に片足立ちとなったヴァリアントガンダムにフリーダムがローキックを放ち転ばせようとするが、ヴァリアントガンダムはスラスターを噴射しながらバックステップで回避する。
その瞬間に勢いに押され、ヴァリアントガンダムの右手のビームサーベルが弾き飛ばされ、宙を舞う。

 
 

即座にフリーダムの右手のビームサーベルがヴァリアントガンダムを襲うが、まだ、フリーダムの左腕を抑えつけた結果伸び切ったままの右脚が、急速に動き、フリーダムの右腕を強く叩き落とす。
だがフリーダムの動きは止まらず、左腕で右腰のビームサーベルを抜き放ち、斬りつけようした瞬間に、ヴァリアントガンダムはバックパック左のビームサーベル抜き、その剣撃を叩き落としながら、後退しする。
そして、後退しながら、脇にそびえたつビルの壁面を蹴り飛ばし、跳躍すると弾き飛ばされ、宙を舞う、自機のビームサーベルを回収し、そのままスラスターを噴射しながら、高速で落下しながら、ビームサーベルをフリーダムに振り下ろす。
フリーダムは即座に反応し、上空から襲ってくる二本の剣を同じく二本の剣で防ぐ。防がれた瞬間にヴァリアントガンダムは即座に後退をした。
「思った通りだ。つえーつえー」
「キミも相当だがな。名前を聞いても良いかな?僕はユリアス・ヒビキ」
「ハルド・グレンだ。なるべく覚えとけ」
そう言うと、ハルドのヴァリアントガンダムが前に出た。身を沈めながら、下から斜め上への突きを放つと、フリーダムはそれを刃で軽く逸らし反撃に移るが、逸らした刃が即座に軌道を変え
フリーダムを襲うが、フリーダムは何の苦も無く右腕のビームサーベルでその一撃を防ぎ反撃の刃を放とうとした、その瞬間であるフリーダムは顔面に衝撃を受けた。
ヴァリアントガンダムは防がれた瞬間にビームサーベル捨て、両手を地面につき逆立ち状態でフリーダムの顔面にヴァリアントガンダムの踵を叩き込んだのだった。
フリーダムガンダムは咄嗟に目の前にある足を薙ぎ払おうとビームサーベルを振るおうとしたが、脚は大きな動きをして、その刃を躱した。
直後、ユリアスは咄嗟の判断で機体を跳躍させた。何故ならヴァリアントガンダムはまだ一本ビームサーベルを持っているからだ。
そしてユリアスの直感は当たり、逆立ち状態のヴァリアントガンダムは片手にビームサーベルを持ち、フリーダムの脚を薙ぎ払おうとするが、ユリアスはその回避に成功しビームの刃を避ける。
対して、ヴァリアントガンダムは逆立ちから見事に立ち上がり、手放したビームサーベルを悠々と拾いあげる。
野郎、手を抜いてやがるな。ハルドは目の前の機体を睨みつけるが、その口元には笑みがあった。
手を抜かれている。ユリアスはコックピットの中でそう思いながら、僅かに苛立ちを覚えた。こちらも全力ではないが、それでも手を抜かれるというのは人生初めての経験であり、気持ちの良いものではなかった。

 
 

「行く」
「こっちもだ」
二機のガンダムタイプは同時に前へ出ると、互いに右腕のビームサーベルを尋常ではない速度で振るう。二つのビームの刃は宙で交差し激突するが、その瞬間に二機は刃を引き、ヴァリアントガンダムは袈裟斬り、フリーダムは左から右へ大きくビームサーベル薙ぎ払う。
再び交差しぶつかり合う、刃、その時ヴァリアントガンダムはフリーダムの腹に前蹴りを叩き込み、機体をぐらつかせる。
即座にヴァリアントガンダムは左手のサーベルで突きを放つ。回避は不可能に近いタイミング。だがユリアスはそれを可能にする。
フリーダムガンダム・センチネルはぐらついた体勢ながらも、その場で、180度のターンをして相手に背中を見せながらも、ヴァリアントガンダムの突きを躱し、同時にビームサーベルを逆手に持ち替え、後ろ向きのヴァリアントガンダムに突進する。
ヴァリアントガンダムは当然迎撃のビームサーベル振るうがユリアスが凄まじかったのはその瞬間であった。
背を向けながら、ヴァリアントガンダムのビームサーベルを全て、受け止め、更に180度のターンをし回転の勢いで受け止めたビームサーベルを全て弾き、ヴァリアントガンダムと正対する。
しかし、お互いの距離は既にゼロ距離、ハルドは即座に行動にでる。それはMSによる頭突きであった。ヴァリアントガンダムは額をフリーダムガンダム・センチネルに叩き込む。その一撃でフリーダムガンダムが揺れるが、フリーダムも即座に頭突きを返す。
二機のMSは密着した間合いのままで、頭突きの応酬をした、それは意地と意地のぶつかり合いのようであった。
だが、意地は折れずとも機体に限界は来る。先に体勢を崩したのは、フリーダムであった。僅かによろめき、後に下がるフリーダムに対してヴァリアントガンダムは即座にビームサーベルを横薙ぎに払うがそれは大きなミスだった。
ユリアスは衝撃に逆らわず機体を操り、後方によろめくフリーダムのバランサーを解除し、思い切って尻餅をつかせた。これによってヴァリアントガンダムの刃は空を斬り、対してフリーダムは尻餅をついた姿勢ながら完全に隙を取ったのだった。
ユリアスは勝ったと思った瞬間、ヴァリアントガンダムの左手のビームサーベルが逆手に持ち替えられ、足元の敵を突き刺すように迫るのが見えたが、関係なく、フリーダムのビームサーベルを伸ばした。その瞬間である。
「中止だよ。お馬鹿さんたち」
突如、ロウマ・アンドーの声が通信で響き渡った。
「調印式は終了、クライン公国とクランマイヤー王国の戦争は終了。戦う理由は無しだ」
その声が聞こえて、ヴァリアントガンダムとフリーダムガンダム・センチネルは互いの刃を収める。ヴァリアントガンダムは何気ないしぐさで尻餅をついたままのフリーダムガンダム・センチネルに手を差し伸べ、引き起こす。
「僕の勝ちでしたよ」
言われなくとも分かっている。多分コックピット付近に焦げ跡がついているだろうと思った。ハルドはコックピットで一瞬、憮然とした表情を浮かべたが、その表情はすぐさま歓喜の物へと変わった。
間違いなく最強。そんな相手に会えた興奮がハルドの心の内を支配していた。あの男相手なら自分が全力を出し切り、その上で自分を凌駕し、自分を殺して彼女のもとへと連れて行ってくれるかもしれないと思うのだった。

 
 

「いやー負けた、負けた。あいつ強いぜ」
とは言っても今日は遊びのうえにさらに遊びといった具合だ。お互い本気は出してないが。間違いなく、ハルドが見てきた中で一番強いパイロットがユリアス・ヒビキだと思った。生身の強さやメンタルなどを無視して技術だけを語るならばだが。
「あの、大丈夫なんですか?」
セインが通信で尋ねてくるがハルドは何のことか分からず、オーバーブレイズガンダムに預けていた武装を、再びヴァリアントガンダムの武装マウントユニットに接続する。
「僕の目から見てると、速すぎて何が起きてるのか分からなかったんですが、きつくなかったんですか?勝ったか負けたかも分からないし……」
なるほど、外からはそう見えるのか。ハルドはヴァリアントガンダムでオーバーブレイズガンダムの頭を小突くと言い放つ。
「あんなの遊びのレベルだ。もう少し動体視力を鍛えろ」
そう言ってから、ハルドはクランマイヤー王国側に列を整えさせるように指示を出した。どの機体もハルドとユリアスの一騎打ちに夢中になって列が完全に崩れていたからだった。
クライン公国の方を見てみると、ユリアスのフリーダムガンダム・センチネルが何かをしている様子は見えなかったが、MS隊は整列を始めていた。
まぁ、こちらには充分以上に収穫があったとハルドは思い、後はこれから起こりそうな大騒動を期待するだけだった。
「なんか、寂しいぜ。ハルド君はユリアスに夢中か」
ロウマはビルの屋上で黄昏た雰囲気を放っていた。自分はハルドの獲物にはならないかと思うと、関係性が途切れたようで心から寂しく思うのだった。性格的な相性で言えば、自分がハルドと一番相性が良いと思うのだが、そう上手くはいかないということか。
蛇はビルの屋上に座り込み、落ち込んだ気分で、携帯モニターの映像を眺める。調印式は終わったのに何やってんだとロウマは思ったが、直後の姫の発言に目を丸くすることになるのだった。

 

「私、アリッサ・クランマイヤーは“コロニー同盟”の成立をここに宣言します!」
それは終戦協定の調印が終わり、クライン公国の公王が壇上からおりた瞬間に発せられ言葉である。
「場所を考えろ、ここは……!」
怜悧な表情の男が止めに入ろうとしたが、その足元に無音で銃弾が撃ち込まれ、立ち止まらざるを得なくなった。
撃ったのはストームだろう。アッシュは正直、どこから撃ったのか分からなく、ストームに脅威を感じたが、敵ではないのがハッキリしているので無理にでも安心した表情を浮かべることにした。
それとなく見てみるとクライン公国の役人の中に虎(フー)が混じっていた。こういう荒事をやらせたら、最強なのがクランマイヤー王国だと思い知らせてやると思い、アッシュは指で怜悧な表情の男をターゲットに設定する指示を出した。
後は虎が勝手に誰も気づかない内に、その男を連れ出しボコボコにしてトイレなどにでも放置しておくだろう。殺しは厳禁だと伝えているので、皆手加減するはず。アッシュは殺っても良かったかもなと思いながら、会場内の味方の動きに期待した
「私、アリッサ・クランマイヤーは”コロニー同盟”の成立をここに宣言します!」
うん、言葉はしっかりしている。頑張っているなと、アッシュは口元をほころばせた。
「これは反逆であり、反抗です!虐げられてきたコロニーの人々が生み出した結束なのです!」
その瞬間、怜悧な表情の男が口を挟もうとしたが、即座に虎(フー)は男を誰にも気づかれずに黙らせ、別室に連れ出す。アッシュはクライン公国も人材不足だなと思った。もっとも人材を自ら削って行ったというのが正しいのか、独裁と恐怖政治によって。

 
 

「私たち“コロニー同盟”は新たな勢力として、この世界に産声をあげます!まだ力があるとはハッキリと言えない組織ですが、私たちは自由を尊びます!」
ロウマは想像もしていなかった展開になってきていることを感じ、心の中に焦りが生まれてくるのを感じていた。世界を読めているのはロウマ・アンドーという男だという確信が揺らぎ始めていた。
「“コロニー同盟”は弱者の味方です。救いを求める人々の元に参ります。ただし条件があります、それは、“コロニー同盟”に加わること。それさえ約束してくれれば、クライン公国の大艦隊を撃退した、クランマイヤー王国軍が救援に向かいます」
なるほど、傭兵をやるつもりか、ただし代価は同盟加入。ほっとくとコロニーだけで、一大勢力が出来るなとロウマは思った。だが、問題は軍事だ。
アッシュはどこの機体をベースにするかで利権等の問題が起きるかという懸念を抱いていたが、ユイ・カトーと、計画書を提出した後、病院に入院する羽目になったクリスは絶対にクランマイヤー王国主導で進める譲らなかった。
「直接的な支援はいらないとおっしゃるコロニーの方々には、クランマイヤー王国がクライン公国を退けた原動力となった最新鋭MSを格安でお譲りしますので、ご検討ください」
ニコリと姫は言った問題はないとアッシュは思った。遠くでかすかに、パシュっといった音やゴンといった音が聞こえるが無視をした。そしてここからは、全て姫のアドリブに任せた。ハルドがそうしろと言って暴れたからそうしたのだが大丈夫かという不安はあった。
「……ここから先は私の言葉です。子どもの言葉でごめんなさい」
姫はドレスを掴み、俯きながらも叫ぶ。
「皆さん、どうか戦ってください。私たちは戦わなければ身を守れないんです。力の強い者に従うのを私は正しい生き方だと思いません。
私たちコロニーの住人はクライン公国に、その身を脅かされ生きていますが、それが正しい生き方でしょうか。私たちは本来、自由を許された存在なのです。誰からでもなく自分に自らによって、だから戦います。
私は。人々の自由のために、もう何を捨てても良い。この命を捨てても構いません。ただ、宇宙に生きる人々が自由に幸せに生きるためにコロニーは同盟を結び手を取って互いを守りましょう――」
その瞬間、銃声が鳴り響き、弾丸が姫の胸を貫いた。一瞬で会場内は恐慌状態になる。アッシュ自身も混乱しながらも、すぐに姫の元に近寄ったが。だが、姫のそばに落ちていたのはゴム弾であり、アッシュは瞬時に全てを察し、すぐにゴム弾を拾い証拠を隠す。
なにより、担架で運ぶ救急隊員がハルドだったことで自作自演であることを理解した。クズ野郎と思いながらも、アッシュの口元は笑みに変わっていた。ハルドが口を指さすとアッシュは口元の笑みを消し、心配そうな表情浮かべながら、姫を運ぶ担架についていくのだった。

 
 

自由を訴えながらも凶弾によって倒れる姫。出来過ぎた芝居だとロウマは思った。おそらくハルド辺りが一枚かんでいるだろうとロウマは考えるのだった。
「“コロニー同盟”か……」
あの姫の言った言葉が事実になるとしたら、相当に面倒なことになるとロウマは思った。クライン公国と地球連合の二大勢力の均衡の中に、“コロニー同盟”などと言う新興勢力がポッと出てくるのだ。世界の勢力バランスに何らかの乱れが生じるのは明らかだと思った。
ロウマはクランマイヤー王国に対しての誤算を認めざるをえなかった。たいした国ではない、いつかは潰せる。そう思っていた。
適当な大きさになったら潰して自分の点数稼ぎに利用しようとしていたが、ロウマは負け、そしていつの間にかクランマイヤー王国は、あの姫の発言によって世界の話題の中心となろうとしている。
どこで間違えたかは分からないが、このままでは自分にとって面白くないことが起きそうな予感をロウマは抱いた。それも、ただ面白くないだけでは済まなくなりそうななにかをだ。
ロウマは何としてもクランマイヤー王国、しいては“コロニー同盟”の勢いを弱める必要を感じたのだった。
直後に、筆頭政務官のシバリス・カナーバからロウマの携帯電話に連絡が入る。
「貴様は何をやっていた!貴様が潜入させていた兵は全滅の上、私は顔面を殴られ、しばらく表に出られないぐらいに腫れているんだぞ。それに貴様は何をやっているテレビ中継中に一国の代表を狙撃だぞ。誰がどう見てもクライン公国の仕業だと思われるだろうが!」
まーたプッツンモードかよと、ロウマはウンザリしながら、シバリスの顔と表情を思い浮かべる。普段は氷といった感じの男だが、一度熱くなると顔が真っ赤になり炎の男となる。冷静モードなら、話しが通じる。
というか、話さなくても大体相手の思っていることを察するがプッツンモードだとそうはいかないのが面倒だとロウマは思いながら、とりあえず説明を始めた。
潜入させといた兵がやられたのは、クランマイヤー王国側に人間離れしたのが一人いることを伝え、納得させ。
クランマイヤーの姫を撃ったのはクランマイヤー側だということも伝えた。おそらくゴム弾か何かだろうというのがロウマの予想で、壇上で中継を見ていた際にアッシュが何かを隠すのが見えたと説明した。
「それは、つまりアレか。我々は体よく利用されたということか?容疑者に仕立て上げられて」
「それ以外ないね」
シバリスは無言で電話を切った。まーた、プッツンモードかな。あれが無けりゃ最高なんだけど、まぁ無理かとも思う。クライン公国はシバリスが殆ど一人で回しているようなものだ。イライラも溜まるだろうとロウマは思ったが、別に手を貸す気はなかった。
それは約束によるものだった。愛しのバカ女エミル・クラインを公王に即位させるために色々と画策していた際に、シバリスには世話になったが、その際に
「貴様は政治に関わるな。そうすれば、私は手を貸してやる。あの女エミル・クライン程度、軽く公王にして見せよう」
まぁ、そう言う約束をしたおかげで。エミル・クラインを公王にして自分は好き勝手出来る環境を得られたわけだが、それも上手く行かなくなりそうな予感がロウマの内に僅かにだが芽生え始めていた。
ロウマは今後、失敗が起きないよう、万全を期すため、ある人物に電話をするのだった。

 
 

姫の怪我は極めて軽い打撲だった。ハルドはそうなるように撃ったんだから心配するなとアッシュに言うが、アッシュは事前に教えておけとハルドに詰め寄った。
「いいじゃねぇか、効果は抜群だ。世論はこっちより、地球連合もすぐにコロニー同盟の結成には賛成だってな」
アッシュは随分と早いなと思ったが、クリス辺りが内々に情報を伝えていたのかもしれないとアッシュは考えた。
「地球連合もいちいちコロニーを守っていられないってのが本音なんだろう。コロニーはコロニー同士で守り合ってくださいってのが楽で良いと思ったんだろ」
ハルドに言われてアッシュもまぁそうかと納得した。地球連合もコロニーを支配地域に組み込んでいるが、そのせいでコロニー防衛に余計な兵力を割かなければならなくなっている。
地球連合としては、戦略的には重要ではないがクライン公国との領土差を無くすために支配地域に組み込んだコロニーもあり、そういうコロニーは地球連合の本音では邪魔でしかないのだろう。
それに戦略的に重要なコロニーに関してはコロニー同盟の軍事的な支援も期待できると考えると、コロニー同盟の設立は地球連合にとっては、利害関係も一致しているため大きな問題ではないのだろうとアッシュは思った。
「ま、最初はうまくいかねぇだろうと俺は思うけどな」
ハルドはそう言って、アッシュに対して意地の悪い笑みを浮かべた。

 
 

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