GUNDAM EXSEED_B_63

Last-modified: 2015-12-31 (木) 14:36:00

「前方に敵MS部隊。数は少ないですが、ヤキン・ドゥーエで交戦したヴォル・グリムです」
ミシィが艦内に連絡すると、アッシュたち、MS部隊が出撃する。ヤキン・ドゥーエ戦で機体こそ無事だったものの、負傷したものやその後に体調を崩したものたちもいたのでアッシュは思いきって、精鋭のみで、アプリリウスへとやって来ていた。
だが、まさか、敵が自分たちよりも少ないとは思わなかった。機体は純白、青、ピンク、緑に、灰色のヴォルグリムだけだった。
アッシュはどういうつもりだと尋ねたくなり、純白のヴォル・グリムのパイロットに問う。
「これは何かの作戦か?それとも罠か」
そんなアッシュの言葉に純白の機体のパイロットは快活に笑ってから、言葉を返す。
「罠でも何でもない。他の兵は皆、アプリリウスより後方に撤退した。下手にアプリリウスを守って兵力を消耗させるより、後方に回して温存して反撃の時に使った方が有用だとロウマが命令したのだ。コロニーは守り難く攻め易いとロウマは言っていたな」
戦略的なことを考え、兵を後方へと下がらせということか。しかし、それならばとアッシュは腑に落ちないことがあった。
「ならば、何故きみ達は残っている。きみ達も相当な戦力だろう?」
アッシュは戦いの前になぜこんな問答をしているのか自分でも訳が分からなかったが聞いてみたかった。
「まぁ、犬の意地といった感じか、いいように使われ馬鹿にされ続けても、それでも取り立ててくれた最低限の恩は返さないといけないんでね。それに望んではいないだろうけれど死んでいった。仲間の弔い合戦の意味もある」
そう言うと、純白のヴォル・グリムは長大な対艦刀を抜き放ち、対艦刀でコロニーを指し示す。
「アッシュとセインという名の奴だけはここを通って良い。ロウマが中で待っている」
アッシュは、これこそ罠なのかもしれないと思った。だがセインの、
「アッシュさん行きましょう!」
その言葉に押されて機体をコロニーへ向けて進ませるのだった。
それについて他の機体も動き出そうとした瞬間、緑のヴォル・グリムのスナイパーライフルから発せられたビームと、重武装型であるピンクのヴォル・グリムの砲撃が、クランマイヤー王国のMSの行く手を遮った。
「ただし、他のものは私たちを倒さなければ、通すわけにはいかないな」
そう言って純白のヴォル・グリムを含め、全てのヴォル・グリムが武器を構える。
「手負いの獣の恐ろしさを教えてやろう。ガルム機兵隊!全機戦闘開始!」
その言葉が、ロウマの忠犬たちの最後の戦い開始を告げる咆哮となり、クランマイヤー王国のMS隊へと襲い掛かった。

 
 

「置いてくる形になってしまいましたけど、大丈夫でしょうか?」
自分でアッシュを勢いづかせたというのに、セインは今更になって心配が増してきていた。
「イオニスもストームいる。何とかしてくれるさ」
それよりも、ロウマが待っているという言葉が気になりながら、アッシュとセインは砂時計型をしたコロニーであるアプリリウスへと侵入するのだった。
不思議なことに邪魔するものは何も無い。ロウマならばトラップの一つでも仕掛けてくるかと思ったがそんなこともなく、二機はアプリリウス市外へと降りたった。敵の姿が見えず警戒を強める二人だったが、直後にロウマの声がアプリリウス市内に響き渡る。
「ようこそ、クソヤローさん達。おまえのせいで俺は全て台無しだよ。監禁して無力化してたアッシュ君はいつのまにか、一国の摂政である種のカリスマになり、その辺で野垂れ死にがお似合いのセイン君は、最高のガンダムに乗ってエースパイロットになってやがる」
その声が聞こえた直後に、二機の真上からビームが降り注いだ。アッシュのEX・キャリヴァーとセインのオーバーブレイズガンダムは問題なく回避し、敵を警戒する。
「まったく、どこで間違えたのか、俺も不思議でしょうがないよ。極め付けにヤキン・ドゥーエも陥落で俺の出世の道と、これまでの名声も地に落ちた。正直に言うと俺は俺が悪いとは思わないんだよね。結局は君らが悪い」
ビームマシンガンがオーバーブレイズガンダムを襲うがセインはそれをシールドで防御し、撃ってきたその先にある機体を見据えた。
そこにいたのは、大型のMSだった。頭部は騎士の鉄兜を思わせ、その両肩は横に突き出し、その先端には二連装のビームマシンガンが装備され、腹部には巨大なビームの発射口があった。
そして異様なのは、機体の背中に生えるアームとその先端に付く、八つの蛇の頭のようなユニット、そしてなぜか生えている尻尾だった。
機体のサイズはフレイドとほぼ同じか、それより少し大きいくらいかとセインは思った。
「俺は色々、思ったんだけど、とりあえずキミらをぶち殺すことにした。キミらは反省して俺に謝罪しろと言っても、謝罪も反省もしないだろうから、俺が一番スッキリする方法をとることにした。別に反撃はしてもいいよ。
俺としては何もせずに俺に申し訳ないという気持ちを抱いたまま死んで欲しいけどね。ちなみに市民は全員避難中。観客がいないのは個人的に残念だけど。まぁ一般人に色々期待するほうがおかしいってもんだ。まぁキミらも市街が壊れるのを気にしなくて楽だろ?」
確かに市街を気にしなくていいというのはありがたいが、そんな風にセインが思っていると、いつの間にか、ロウマの機体の背後に回り込んでいたアッシュのEX・キャリヴァーがビームサーベルでロウマの機体は何ほどのこともなく、ビームサーベルを受け止める。
セインが驚愕したのは、背を向けずに受け止めた技量よりも、その武器だった。その形状についてセインがすぐに思い浮かべたのはクランマイヤー王国で農作業をしている時に使っていた鉈である。
だが、それと比べると以上に刃が長いが、先端は鋭利ではなく真っ直ぐ平であり、アラン中佐が料理の際に使う中華包丁ともに似ているが、やはり刃の長さが異常であった。
なぜなら、その刃の全長はオーバーブレイズガンダムと同じくらいの長さにセインには見えたからである。
そして異常なのは刃も同じ、発せられるのはビームの刃だが、その幅広さはMSの腕二本分はありそうなビームの刃が、細いが剛健さを感じさせる出力機から伸びていた。
「人が話してんのに――」
アッシュのEX・キャリヴァーはその異常な大剣から離れると、両肩のメガビームキャノンを発射するが、、ロウマの機体は片方の肩のビームキャノンを回避しながら、もう一方は、その異常な大剣で受け止め弾き飛ばした。
刃がビームでその上、ビームの刃自体の幅が尋常ではないのだから、それも簡単なことなのだろうとセインは思った。
「もういいよ、お前ら、俺を殺す気マンマン?クランマイヤー王国の将軍とかで迎える気はないのかい?」
ロウマの機体は異常な形状の大剣を軽く振るうと、奇妙な問いをするが、アッシュとセイン二人の答えは同じだった。

 
 

「「お断りだ」」
そう言うと、ロウマはくくくと笑い、通信機越しでも殺意が伝わる声で言うのだった。
「だったら、殺して問題なしだな。クソ坊ちゃんども!」
セインもアッシュもヤバいと思う状況にはこれまで何度も遭遇してきたが、これは死ぬかなという状況に遭遇するのは、初めてであった。
「機体名はグロリアスルージュ。メイン武器の大剣はハイパービームマチェット、そして両腰に斬機刀だ。これでハンデ無しだ。行くぜ、ロウマ・アンドー、グロリアスルージュ。敵を殲滅する!」
その叫びと共にロウマのグロリアスルージュが、セインのオーバーブレイズガンダムに突っ込んでいった。
セインは咄嗟に下がりながらビームライフルを撃つが、ロウマが言ったハイパービームマチェットの巨大なビーム刃に防がれ、、同時に薙ぎ払いを仕掛けられた。だが、セインのオーバーブレイズガンダムは更に後ろに下がり回避するのだった。
「良くはないが、まぁ良い。どうせ俺が勝つ。それまでの遊びだ。少しは粘れよ」
グロリアスルージュが構える中、セインとアッシュは危機感を募らせる。
結局、蛇は逃げることなく、自らの前に立ちはだかるものに、その刃と牙を向けるのだった。

 

コロニーの外ではガルム機兵隊が、全力を出していた。数は負けているが根性では勝っているという体育会系の根性が全てだったが、隊員全員がそれを受け入れていた。ドロテスとギルベールに関しては絶望が強すぎた。
ガルム機兵隊の隊長である。イザラは対艦刀を振るい、漆黒と金のガンダムに斬撃を叩き込んでいた。
前回と違い器用にシールドで受け止め、右腕の全損を防いでいた。イザラはその一瞬、別のことを考え思い出した。
「キミは不器用だな。救いがたいレベルで、だが器用さがMSの操縦を左右するわけでない。不器用なりの戦い方を身につけたらいい。それが難しいなら力押しで延々といくのも悪くないよ」
それは不器用なイザラにとって救いの言葉だった。そして、それはロウマ言葉である。実際に下についたならば失望が多かったが、その言葉だけがイザラを救い、ここまで伸ばしたのだ。
イザラにとっては、一応は恩人でもある。それに上官に反抗していたら行き場を無くし、途方に暮れていたのを拾ってくれたのもロウマである。そして、今の最高の仲間たちに巡り会わせてくれたのも、一応はロウマのおかげだろう。
気に入らないし、死んで欲しいと思っているのも本音だが、恩があるのも事実だ。
「恩があるならば報いる!」
例えそれが、どれほど小さくてもだ。イザラは覚悟と共に機体に対艦刀での突きを放たせた。
しかし、その刃は黒と金の機体に届くことはなかった。なぜなら、イオニスのフレイド・クルセイダーがビームハルバードで対艦刀の刃を横から弾いたためであった。
「この間合いならば!」
僅かに後ろに下がった、アルバのゴールドフレーム天ジンは巨大な左掌のビーム砲を純白のヴォル・グリムに向けるが、その瞬間、純白のヴォル・グリムは僅かに横方向にスライドした。
そのスライドによって生じた僅か幅のコースをピンポイントでビームが走る。狙いはアルバのゴールドフレームだったが、そのビームは到達する直前で、別方向からのビームが衝突し、掻き消えた。
「邪魔するのは誰っす!?」
ジョットは狙撃の成功を確信していた。だが、それを妨げた相手を探すと。スナイパーライフルを装備した機体の存在を確認した。
なるほど、コイツがクランマイヤー王国のスナイパーっすか、とジョットはクランマイヤー王国襲撃時から気になっていた相手をようやく見つけた。それはストームの乗るザバッグであった。

 
 

「あんまり、狙い撃ちしないでよ。こっちは突撃思考が多いんだからさ」
ストームはそう言いながら、純白のヴォル・グリムをスナイパーライフルで適当に撃つが、青いヴォル・グリムが割って入り、両手に構えたビームジャベリンで、スナイパーライフルのビームを弾く。
「……下がれ……」
イザラは一瞬、誰の声か分からなかったが、ガウンの声だと予想し、機体を後退させる。追おうとする、アルバの天ジンはピンクのヴォル・グリムの砲撃と灰色のヴォル・グリムのドラグーンによって行く手を遮られた。
「く、私は何も出来ない」
今の所、戦果を挙げることもなくやられっぱなしのアルバはコックピットで苦渋の一言を漏らすが、ストームは言う。
「いや、良いよ。坊ちゃんが前に出てるから、白いのを引き付けられる。正直、白いのは怖いからね。不器用突貫型だけど、その分、突破されるとこっちの全体が崩れるから、今のままなるべく白いのを頼むよ」
ストームはそう言って、通信を切った。とは言ってもあんまり良くもないかなぁと、状況を見て思う。基本的にイオニスは青い奴と戦っているが、青いのが常に危険な味方のフォローに入る。それに合わせてイオニスも味方のフォローに入るが戦いの決め手とはならない。
それに数の優位に関してだが、ジェイコブ三兄弟とセーレが完全にピンクの機体に引き付けられている。ジェイコブ三兄弟の腕はこの中では劣る方だから仕方ないし、セーレもジェイコブ三兄弟より少し上程度。対応する数を減らしたら即死かもしれない。
無理はさせられないと、ストームはピンクの機体の対応を四機に任せることにした。数の有利は捨てるしかないが、全員生きて帰るにはこうするしかないと思っての判断だった。
グリューネルトに関しては正直、想像以上に働いてくれている。アルミューレ・リュミエールによる防御で、ドラグーンをほぼ完封してくれている。攻撃は出来ないだろうが、灰色の機体の相手はグリューネルト機に任せるしかないとストームは思うのだった。
そして、自分だが、やることは単純である。とにかく緑色の狙撃タイプを仕留める。それで、こちら側の安全度は飛躍的に上がるはずだとストームは考えるのだった。

 

ガルム機兵隊は敵を前にしながらも、和やかに通信をしていた。
「まさかガウンが喋るとはな」
イザラが言うと、アリスが調子に乗って話し出す。
「すっごい美声でしたよー!なんで喋らなかったんですー!?」
アリスのはしゃぐ声に応じて、ゼロも普段は思い口を開いた。
「……声……好き……」
イザラは感慨深い思いに襲われていた。ガウンが喋ってくれたのもそうだが、ゼロも最近は自分の気持ちを言葉に出せるようになってきていることが嬉しかった。
正直、ここで終わらせたくはなかったがガルム機兵隊は全員が、ここを死地と定めている。
「自分も疑問っす、声かっこいいのに」
ジョットにまで言われると、ガウンは答えを窮しながら言うのだった。
「……恥ずかしい……」
恥ずかしいだけで喋らなかったのかと、イザラは情けないような微笑ましいような気持ちに襲われた。だが。まぁ個性的な人間が集まるのがガルム機兵隊なのだからそれでいいとイザラは思い、目の前に見える敵を見据え命令を下す。
「ガルム機兵隊は決死の覚悟で戦うが、なるべく生き残れ!全機行くぞ!」
命令としてはこれぐらいしか自分の出せるものはない。だがまぁ、何とか生き残ってくれる仲間がいてくれたら嬉しいとイザラは思いながら、新たな乗機を突進させるのだった。

 
 

楽しい戦いだぜ。ハルドはそう思いながら流星のように、襲い掛かるフリーダムガンダム・センチネルの攻撃をシールド防ぎながら思った。
フリーダムは光の翼と黄金に光るようになった関節を煌めかせながら、ほとんど目に見えない速度で、ヴァリアントガンダムのシールドを躱して蹴りを入れ、即座に拳で何発も殴る。
武器で攻撃しないのか、ハルドは疑問だったが、武装が機能を発生するのが遅すぎるのだと理解した。ビームライフルだったら、ビームが発射されるよりパンチの方が数倍速く、ビームサーベルも刃が発生するまでの時間を考えたならば、蹴り飛ばした方が速い。
ハルドはひたすらに殴る蹴るの攻撃を受けながら、造った奴は頭がおかしいとしか思えなかった。フリーダムガンダム・センチネルは開発者の完全な自己満足の機体だ。パイロットのことなんか考えていないし、どう考えても機能を持て余している。
どう考えても、あと少しだけ遅ければ、ハルドはビームサーベルやら何やらで命を奪われていたが、機体性能を極限まで追求した結果。パイロットがマトモに装備も扱えない有様だ。この世は馬鹿が多すぎるとハルドは思いながら、機体を動かす。
フリーダムが殴ってくる拳に合わせて、ヴァリアントガンダムの左手で腰アーマーから抜いたソリッドナイフを腕へち突き立てた。まぁ、こんなもんよと思った瞬間にナイフが突き刺さった方の腕で殴られ、ヴァリアントガンダムは大きく弾き飛ばされる。
その瞬間、弾き飛ばされたヴァリアントガンダムの先にフリーダムが待ち受けていた。だが、ハルドは何とも思わず弾き飛ばされた機体の姿勢を制御することなく、ビームライフルをを撃つ。
対して、フリーダムはビームサーベルを抜き放ち、ヴァリアントガンダムに斬りかかるため、突進する。そして二機は交錯した。その結果は、それまでとは全く逆の物であった。
フリーダムの左肩をビームライフルがかすめ、冷却のために展開していた装甲が丸ごと千切れ飛んだ。対して、ヴァリアントガンダムは全くの無傷であった。
「まぁ、もう少しだな」
ハルドは余裕を持って言うのだった。
「そっちの弱点は見えた」
そう言われた瞬間にフリーダムは再び、閃光のような速さで動くが、動いた先に何故かヴァリアントガンダムの脚があり、蹴り飛ばされていた。
「弱点の一、初動は直線にしか動けねぇんだろ?」
ハルドにそう言われても、ユリアスは理解できなかった。
「基本的に機体が速すぎるから、初っ端から変な稼働を取らせられない。俺もバカみたいな加速の機体に乗った経験があるから言えるが、とにかく初動は真っ直ぐだ。そうしないとパイロットが死ぬ」
ユリアスは機体を動かし、ヴァリアントガンダムに突撃させるが、ヴァリアントガンダムは容易く回避する。そして、ユリアスは追撃のために、機体をターンさせ、ヴァリアントガンダムの方を向かせようとした瞬間。
そのヴァリアントガンダムが目の前にいて、フリーダムに頭突きを叩き込む。
「弱点二、速すぎて機体を制御できないから、必ず反転やターン何か姿勢制御時に隙ができる」
ハルドの言葉に惑わされぬようにフリーダムを動かすユリアスだったが、一瞬、息が止まり機体の速度を低下させざるをえなかった。その瞬間、ヴァリアントガンダムがビームライフルの銃口をフリーダムの後頭部に突きつけていた。
「弱点三、人間が乗っていること。コーディネイターとかナチュラルが問題じゃなく人間の体じゃ、その機体の高速機動に耐えられるのは三回までということだ。おそらくGの影響とかで肺が圧迫され、呼吸がほとんどできないんだろうな」
ヴァリアントガンダムはフリーダムの後頭部を蹴り飛ばした。体勢を崩したものの、フリーダムはすぐに通常の姿勢に戻る。
ハルドは、その必死な姿を見ながら、何ともと思う。
「ロウマに何か言われたんだろう?」
ヴァリアントガンダムはフリーダムと向かい合った状態でパイロットが相手に通信する。
「動きが気持ち悪いくらいに必死だ。この前、戦った時の方が強く感じるぜ」
そんなハルドの言葉にユリアスは振り絞るような声で話始めた。
「……勝たなければ存在意義が無いと。僕は戦うために作られた人造人間で、勝たなければ廃棄処分だと……」
ロウマ・アンドーは言った。ユリアス・ヒビキは作られた人間だと。最高の精子と最高の卵子を組み合わせて、その上で最高の遺伝子操作を行った戦闘に特化した人造人間だと。作られてから三年程度。記憶も全部作り物。
ロウマは続けた。ユリアスに価値があるのは敵に負けないからだと、敵を倒せないなら存在する価値が無い。それに三年も使えばもう充分使いきったと言えるし、壊しても何の問題も無い。

 
 

しかし、ロウマは言う。ハルド・グレン、奴に勝てればお前は最強であり、この先も存在する価値が認められる。だから、死ぬ気で戦ってハルドを倒してこいと、自分の存在価値と未来を掴むために。ロウマはそう言って、ユリアスを送り出したのだった。
ユリアスは信じたくなかった。この身体が誰かによって作られたもので、記憶すらにせものであることを、しかし調べるにつれて、信じざるをえなかった。ユリアスは自分の過去を証明できるものを何一つ持ち合わせていなかったのである。
必死で過去を探すユリアスを見て、ロウマは言った。洗脳をかけていたから、お前はお気楽に目の前のことにしか基本的に注意が行かないし、思い出すという行為にも制限がかかっていたから、今まで気づかなかった。それだけのことだと。
ユリアスは目の前が真っ暗になった。そして自分という人間が崩れていく気がした。崩れる一歩直前でユリアスは踏みとどまった。それはハルド・グレンという存在によってである。
ハルド・グレンを殺せば、自分は存在する価値が認められる。それを心から理解した時、ユリアスは自分という存在を確立させるためにハルド・グレンを殺さなければいけないという決意を固めたのであった。
そして今、ユリアスはハルドを前にして、この戦場に立っているのだった。
「ふーん」
ハルドはさして興味がないのか、適当な言葉を返した。その態度にユリアスは怒り、フリーダムを動かすが、ヴァリアントガンダムは容易く、その動きについていき、ついには、フリーダムの頭部にビームライフルの銃口を突きつけた。
「必死過ぎて動きが単調だから弱いのか。がっかりしてきたぜ」
フリーダムビームサーベルを抜き放ち、ビームライフルを薙ぎ払おうとするが、それより速くヴァリアントガンダムはビームライフルを引き、前蹴りをフリーダムに叩き込んだ。蹴飛ばされ吹き飛ぶフリーダムとヴァリアントガンダムの間に距離が開く。
「……誰だって必死だ。どいつもこいつもな。勝たなきゃ生きて未来を掴めない。みんな、てめぇと同じ条件だ。きっと、てめぇは今まで自分が死ぬなんてことを考えずに戦ってきたんだろうなぁ。
まぁ分かるぜ、そんだけ強けりゃ、戦場で負けることも死ぬことも思いつかねぇもんな。まぁ、それを今更言ってもしょうがねぇけど。だけどなぁ、今のてめぇは何だ?死ぬのが怖くてビビッていやがる、なんだそりゃ、クソ情けない。気合を入れろ。根性すえろ。
そして……思い出を守れ。作られた人間だろうが、これまで生きてきた思い出があるだろ?そいつを守るために必死になるんだよ。勝ち取るためじゃない、すでに心にある物を守るために戦ってみろ。てめぇみたいなヘタレ野郎には、そっちの方があってるだろ」
思い出、生きてきた、これまでの……。その瞬間、ユリアスの胸に確かに、ユリアスという人間として生きてきた三年間の思い出が去来する。
そして、その中でも最も輝くもの、それはたった一人の女性の笑顔。エミル・クラインの笑顔だった。失う訳にはいかない、この心の中にある思い出だけは絶対に守らなければいけないものだ。そう、エミル・クラインの笑顔という思い出だけは。
ハルドはフリーダムから発せられる気配が、それまでとは違ったものになるのを感じ取った。我ながらバカなことを言ったものだと思うが、これで良い。全力で戦わなければ意味がないのだから。
「僕は、この戦いの勝利を、エミルと彼女の笑顔に誓う!」
「女の名前を叫ぶか、カッコいいぜ。ユリアス君よ」
それに、この場で名前を呼ばれる女もなかなかのものだ。アッシュは妹は馬鹿だと言うが、こういう男に愛されるのだ。馬鹿の一言で済まされるような女じゃないだろうなと、ハルドは余計なことを考えていた。
しかし、その間にフリーダムはビームライフルをヴァリアントガンダムに撃っていた。だが、ハルドは単調な射撃だと思い、回避した。そして、次は超高速移動による近接での攻撃が来ると思い、機体をスライドさせて移動させる。
これで当たらない。そうハルドが思った瞬間、ヴァリアントガンダムの右肩の追加ブースターユニットが斬り裂かれた。ハルド即座にブースターユニットをパージし誘爆を防ぐが直後に、背中を衝撃が襲った。
ヴァリアントガンダムは背後に回り込んだフリーダムに蹴り飛ばされていたのだった。ハルドは機体を操り、振り向かせるフリーダムを撃つが、フリーダムは何ほどのこともないといったように、スッとビームを躱して見せる。
「一皮剥けたか」
「ええ、おかげさまで」
動きのキレが想像を絶するレベルに到達している。あんな言葉だけで、ここまで伸びるかとハルドは驚愕する思いだった。だが、それでいいとも思う。全力を尽くす、それに真に相応しい相手だとハルドはフリーダムを見据えるのだった。

 
 

アプリリウス市内の戦いも激化しつつあった。と言ってもロウマのグロリアスルージュが一方的に攻撃をするばかりであったが。
「消えろや!」
グロリアスルージュの腹部のビーム砲が、アッシュの乗るEX・キャリヴァーの隠れるビルを消し飛ばす。
間一髪、ビームを避けたEX・キャリヴァーは、回避機動をしながらビームライフルを連射するが、グロリアスルージュは、その巨体からは想像も出来ないほど軽やかな動きで、アッシュの射撃の全てを回避する。
即座に、セインのオーバーブレイズガンダムがビームライフルを撃つが、それすらロウマは見切っており、左手、右腰の日本刀型の実体剣を抜き放つと、実体剣の刃でビームを切り裂き霧散させる。
「分かってはいたが、強いな」
アッシュはセインに通信すると、セインも同意の返事を返してきた。
「反応速度はハルド並で、近接戦の技量はイオニス以上と見ていい。さて、どうするセイン君?」
アッシュは若干だが、手詰まり感を抱いていた。
「とにかく粘って勝つ。……くらいしか思いつきません」
アッシュは正直で良いと思った。しかし、現状ではそれが正解だろう。もう少し粘れば、機体の癖や弱点も見えてくるかもしれない。
「では、現状は、その方向性で!」
アッシュはセインに、そう言うと、自機を動かし、アッシュの機体の動きに合わせてセインの機体も動き出す。
「おいおい、我慢比べか。勘弁しろよ。こっちはとっくに堪忍袋の緒が切れてんだからよ!」
ロウマの声がした瞬間、グロリアスルージュのバックパックにある蛇の頭のようなユニットの内の二機がスラスターを吹かし、アッシュとセインの機体にそれぞれ襲い掛かる。
「ドラグーンか!?」
アッシュのEX・キャリヴァーは動きながら、蛇の頭のようなユニットにビームライフルを撃つが、蛇の頭のようなユニットはビームシールドを発生させ、それを防ぐ。
「ドラグーンじゃない、スネークヘッドっていうれっきとした武装だ」
ロウマの声が聞こえるが、セインはそれには構っていられず、スネークヘッドを引き離すように回避しようとした瞬間、スネークヘッドの蛇の口らしき部分が開き、ビームを発射する。
その程度ならば、問題なく避けられるセインがそう思った瞬間だった。
オーバーブレイズガンダムのビームライフルが水銀の槍によって貫かれ、破壊される。
「これはっ!」
「そうだよ、マリスルージュに搭載されていたギフト“ヘルメスの水銀球”だ」
それが、スネークヘッド、いやスネークヘッドとグロリアスルージュを繋ぐ水銀から作り出され、オーバーブレイズガンダムのビームライフルを貫いたのだ。
セインはスネークヘッドの方に気を取られ、それを本体とつなぐ部分を見落としていたのだった。
ロウマはアッシュの方を追わせるのを諦めたのか、二機のスネークヘッドがグロリアスルージュのバックパックに再び接続される。
セインは、ロウマの言う“ヘルメスの水銀球”というものについて思い出す。
それは“ギフト”羽クジラの化石から取り出した遺伝子データを解析した結果、つくることに成功したという現代科学の常識を超えた道具。オーバーブレイズガンダムにも搭載されている物だ。
“ヘルメスの水銀球”は真空中でも液体を保つ奇妙な金属で、人間の脳波によって形を自由に変えるうえ、その強度も自由自在という道具だったと思い出す。
「俺が“ギフト”も無しの機体に乗ると思ったのかい?つくづく考えが甘いなぁ」
セインとアッシュの目の前で、グロリアスルージュは、背中のバックパックのスネークヘッドを全て伸ばす。そのスネークヘッドの身体は全て水銀で出来ており、八つの蛇の頭が、セインとアッシュの機体を睨んでいた。そしてロウマは言う。
「この機体の本当の名前はグロリアスルージュじゃないんだよね」
そう言うと、ロウマは自機の頭部を左手に持った実体剣で叩く。すると、頭部が不自然なひび割れを起こし、その内に隠れた真の姿が露わになる。
「機体名クズオロチ。背中のスネークヘッド八頭と、そしてこの頭で九頭。だからクズオロチさ」
砕けた頭部から現れたのは蛇としか思えない頭部であった。
「クズがクズオロチなんて機体使ってたら、洒落にしても面白くないから、グロリアスルージュなんて名前を付けたけど、どうでもいいわな、もう」
ロウマは全てに飽きたように言いながら、バックパックの八頭のスネークヘッドにビームを発射させるのだった。

 
 

「うおおおおおお!」
イザラの純白のヴォル・グリムがイオニスのフレイド・クルセイダーと鍔迫り合いをしていた。イオニスの方は片手だったが、それでもイザラは満足だった。自分の成長が実感できたからだ、機体性能はあるだろうが、以前は剣を合わせた瞬間に受け流された。
それが今は拮抗している。高みを目指す自分にとって、これより嬉しいことはなかった。
「腕を上げたな。白の勇士!」
イオニスは一度戦った相手は忘れず、そして相手への敬意も決して忘れない。だから褒める。
その瞬間、、青のヴォル・グリムがイオニスの機体に蹴りを入れ、無理矢理、間合いを離し、同時にジョットのヴォル・グリムがイオニスのフレイド・クルセイダーを狙い撃とうとビームを発射する。
だが、何度目か分からないが、途中でビームが別方向からビームにぶつかり消滅した。
「また!」
ジョットはクールにいきたかったが、こう何度も邪魔されれば冷静ではいられない。
「バック!」
アリスが部隊の全員に叫んで砲撃を行う。アリスの声で全機が一瞬後退し、その直後に強力な面制圧砲撃が行われるが、それを完全に防ぐのはグリューネルトのフレイド・クルセイダーのアルミューレ・リュミエールだった。
その瞬間にアルミューレ・リュミエールを超えてドラグーンが動き、クランマイヤー王国の機体を襲うが、即座に全機が背後をカバーしあい、ドラグーンから身を守る。
「いやはや、なんとも、ははははは!」
急にイオニスが笑い出したので、通信を繋いでいる全員がグリューネルト以外ビクリとした。
「楽しいと思わんか戦いは。こう言っては多くの人々に非難を受けるだろうが、それでも私は楽しい。こんな意地と意地のぶつかり合いがあるか!?」
疑問形の言葉に答えたのはジェイコブだった。
「たぶん、無いと思いますけど」
するとイオニスがが大声で言う。
「そうだ、無いのだ。いつの日か戦いは人の遊戯となるだろう。それが人の進歩なら私は認める。だが、意地と意地、そのぶつかり合いという構図だけはなくなって欲しくはないのだ!」
そう言ってイオニスのフレイド・クルセイダーは再び最前線に突っ込んでいく、そして当然というようにグリューネルトのフレイド・クルセイダーも同様に。
「ああいう感じなの、嫌いじゃないのよね」
そう言って、ストームのザバッグが適当な方向に移動していく。
「私にはまだわからん境地だ」
半ば感心しながら、くそ真面目に、アルバのゴールドフレーム天ジンがイオニスの後を追う。
「……私は個性が強い方ではないから、なんとも言えないが、とりあえず行くか」
セーレがそう言うと、ジェイコブ三兄弟も、それに従い動き出した。
イザラは敵が動くのを見ながら、こちらも最後の激突だと思った。想像していたより推進剤の消耗とアリスの機体の砲弾の消費が激しい。推進剤の消耗の激しさは、こちらの未熟だが、アリスに関してはガルム機兵隊のカバーのために使ったものだ。責めることはできない。
そもそも責めるよりも、目の前の敵を何とかすることだ。そうイザラを考え、敵を見る。イオニスが乗っているらしき機体と、金と黒のガンダムタイプが前衛に出てきているが、相手として楽なのはガンダムタイプの方だ。
イザラはイオニスか逃げるようで僅かに胸が痛んだがガンダムタイプを狙い、突撃する。ゴールドフレーム天ジンは何の策もなく純白のヴォル・グリムと激突する。
アルバは機体のシールドが限界だと分かっていたので敢えて、巨大な左腕の爪からビームサーベルを出力して防いだが、即座に青い機体が、横合いから天ジンを蹴り飛ばしアルバは衝撃に襲われた。
その瞬間をジョットは見逃さない。一撃で仕留める。そう思い、スナイパーライフルを撃った瞬間だった。機体の銃口からビームが発射された瞬間にジョットは衝撃を感じ、意識を失った。
「ごめんなアルバちゃん」
ストームはコックピットで呟いた。良い囮になってくれたことを感謝する気持ちに溢れていた。そう、ストームのスナイパーライフルはジョットのヴォル・グリムを捉えたものであり、狙撃の瞬間に僅かに止まるジョットを確実に仕留めるために、アルバを使ったのだった。
その甲斐もあり、ジョットのヴォル・グリムはスナイパーライフルで貫かれで機能を停止していた。
同時にアルバの天ジンも左腕を貫かれ、左腕は使い物にならなくなっていた、そこに、純白のヴォル・グリムが迫るが、アルバは咄嗟にシールドのアブソリュートカッターを展開し、純白のヴォル・グリムの対艦刀を斬りつけた。

 
 

その結果、対艦刀は真ん中から切り裂かれ、機能を失う。アルバは即座にシールドを純白のヴォル・グリムに向けた。
イザラはすぐさま機体を後退させたが間に合わない。ゴールドフレーム天ジンのシールドにはビームライフルが内蔵されている。アルバは照準も定めず、滅茶苦茶に撃った結果、純白のヴォルグリムは、大量のビームに貫かれ蜂の巣のようになり、宇宙を漂った。
その瞬間、青いヴォルグリムが両手のビームジャベリンを振るい、ゴールドフレーム天ジンの両腕を斬りおとすが、それと同時にグリューネルトのフレイド・クルセイダーが体当たりで吹き飛ばした。そしてその先にいたのは、イオニスのフレイド・クルセイダーであった。
「機会があれば、一対一での再戦を」
「……機会があれば……」
イオニスは全力を出し切れなかっただろう相手を思いながら、対艦刀を振るい、青いヴォル・グリムを胴体から真っ二つにしたのだった。
そして、残ったのはピンクのヴォル・グリムと灰色のヴォル・グリム。アリスはどこまで頑張るかと思いながら、気づいたら機体にビームスピアが突き刺さっていたのを理解した。
「私を気にしないにもほどがある」
セーレは通信で、そう言った。確かにそうだ。お菓子作りでも気にしなくても良いような素材が味を決めることがある。
アリスは失敗したなぁと思いながら、目立たないセーレの機体に注目しながら、機体の大破を受け入れたのだった。
そして、最後に残ったゼロのヴォル・グリムはドラグーンを縦横無尽に動かし、攻撃する、それらはことごとくストームのザバッグによって破壊された。
そして、残った武装のビームライフルをグリューネルトのフレイド・クルセイダーがアルミューレ・リュミエールで防ぎながら、全くの別方向からアルバの天ジンが右腕のシールドからアブソリュートカッターを伸ばしながら突進し、ゼロのヴォル・グリムを切り裂いた。
そうしてガルム機兵隊のMSは全滅したのだった。
何とかガルム機兵隊のMSに勝ったクランマイヤー王国のMS隊はイオニスを筆頭に叫ぶ。
「一度、シルヴァーナに戻り、補給と修理、終了次第、アプリリウスに上陸するぞ!」
上陸って、ジェイコブ三兄弟などは大袈裟すぎると思ったが、未だにアッシュとセインからの連絡が無いことから、危険を感じるてもいた。
この瞬間にアプリリウスを巡る戦いの一つは終わった。誰もが無視する、ガルム機兵隊の戦いであるが、それが確かにあったことは間違いなく。戦いに加わったガルム機兵隊の全員によこしまな気持ちが無かったことは、ここに記述する。
ガルム機兵隊の全員は極めて不器用な人間であり、一度でも主と認めた相手には忠誠を尽くすこと。できれば、それを愚かと思わないで欲しい。騎士道精神、それが愚かとされる時代に彼らは、それに忠を尽くした存在であることを。
ガルム機兵隊の全機が大破した後もクランマイヤー王国のMS隊は状況対応のためにMSを動かし全機をシルヴァーナに収容したうえで、再び発進させ、先行してアプリリウス市内に降り立ったアッシュとセインの機体を追うのだった。

 
 

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