GUNDAM EXSEED_B_62

Last-modified: 2015-12-31 (木) 14:34:04

シルヴァーナから発進したアッシュが率いる部隊は、要塞の側面からの侵入を計画し、行動していた。目の前には防衛の部隊が立ちはだかるが、その数は僅かであり、アッシュらは、それらを一蹴して進んでいくのだった。
そんな中、アッシュは違和感を覚えた、簡単に過ぎないかと。前面に防御を集中しているにしても、もう少し、周囲の守りが堅固でいいはずだと。アッシュは何か誘われているような気がして、クランマイヤー王国の兵に注意を促そうとした。その瞬間だった。
前面から強力なビームがクランマイヤー王国の部隊に襲い掛かる。だが、その直前にグリューネルトのカスタムされた機体フレイド・クルセイダーがアルミューレ・リュミエールを展開し、ビーム砲を防ぐ。
「不意打ち、申し訳なしだぜ」
クランマイヤー王国の部隊員全てに向けての通信が聞こえると同時に、前方から奇妙な機体が突進してくる。
セインはその声に聞き覚えがあったため、オーバーブレイズガンダムで前に出て、バックパックの通常時でも使用可能となったブレイズブラスターを発射すると、奇妙な機体は容易く躱すのだった。セインは声の主の名を呼ぶ。
「ギルベール!」
「おうよ!」
返事と共に、ドラグーンが射出される。セインのオーバーブレイズガンダムも同様に、ドラグーンを射出するのだった。
「コイツは僕が倒します。アッシュさん達は先へ行ってください」
アッシュは因縁があることを察し、部隊を先へ進めた。ギルベールは、先へ進む部隊にはさして興味がなかった。それよりも、セインの相手をしてやる方が重要だと思っていた。
ギルベールの駆る機体、それはプロメテウス機関が開発したMA、ヴォル・ビートである。セインの目から見てもそのシルエットは中々に異形であった。
蜂の尻のように膨らんだ下半身には真ん中に巨大なビームの発射口があり、さらにその横にMSの腕が二本ついており、尾の方はスラスターがついている。対して、上半身はあまりにも特徴がないMSだった。
強いて言えば、ロウマのマリスルージュに近いとも言えるが、マリスルージュよりはMSらしく角ばっていた。
「MAヴォル・ビート。それなりの機体だが、セインの坊やに勝てるかい?」
「勝てないと思ったら、みんなを先に行かせないだろ」
「そりゃそうだ」
ギルベールは楽しげに笑う。思えばセーブルの頃からの付き合いか、このガキとは、ほっときゃ戦場で死ぬと思っていたし、捕まって捕虜になった時は終わりだと思っていた。それが、いつの間にか、いっぱしの戦士になってやがる。
「人生は分かんねぇもんだなぁ!」
ギルベールはヴォル・ビートを、オーバーブレイズガンダムに突進させる。
ドラグーンがあるのに?セインは疑問を抱いたが目の前でそれは解消された、ギルベールの機体のドラグーンは防御専用なのだと。
セインは即座に接近戦の判断をした、射撃はドラグーンが全て防ぐため意味がない。セインは両肩のブレードを起動させると、向かってくるギルベールの機体に叩き込んだ。サイズはMSの全長近くある実体部分を芯にして重量を加えたビームブレードだ。
普通に防げるはずが無い、そう思ったが、セインは目を疑った、ギルベールの機体は、四本の腕と妙な形状のビームの発生をする対艦刀で防いでいた。見た目はただの直剣だが、節があり、節ごとにビーム刃は出力していた。
「機体性能が良いのは認めるが、舐めすぎだぜ」
ギルベールの言葉と共に、オーバーブレイズガンダムがパワー負けし、弾き飛ばされる。セインは弾き飛ばされながら機体を操作し、両肩と両足のビームキャノンを撃つが、ドラグーンがビームシールドを張って、本体を守る。
「悪くはねぇよ」
そう言って、ギルベールの機体が直剣を振るう。その瞬間、直剣が、伸びてオーバーブレイズガンダムに襲い掛かる。
セインは一瞬、鞭が襲い掛かって来たとしか思えず、反応が遅れた、その結果、両足のビームキャノンを失い、右肩のビームブレードを切断された。
セインは油断したとは思わなかった。真剣に戦った結果がこれなのだ。セインは今はギルベールの機体の手元に戻っている、直剣を改めて見る。

 
 

「戦いながら思考しろ」
ハルドさんがたまに言っていたなぁと思い、セインは思考する。
基本は鞭のような剣だ。節ごとに分かれて、延長する距離を稼いでいる。節は斬れるか?そんな明らかな弱点を残す馬鹿はいない。ビーム刃の威力から考えて、節にビームサーベルのユニットが組み込まれていると考えた方がいい。
では、弱点は?まず扱いが難しい武器であること、もともとギルベールはヘンテコな武器ばかり使っていたせいで、その適正が高いというだけだ。それでも使いこなせず持て余している。
「四本は持ちすぎだよ。ギルベール」
オーバーブレイズガンダムはビームサーベルを抜き放ち、ヴォル・ビートに向かって突進する。それに対応し、ギルベールが鞭のような剣を振るうがオーバーブレイズガンダムは、かするビーム刃をものともせずに、突っ込む。そしてヴォル・ビートに肉薄した。
だが、その直前にビームシールドを展開したドラグーンが大量に立ちはだかるがセインは、全く相手にせずブレイズブラスターを最大出力で撃ち放ち、全てのドラグーンのビームシールドを貫き消滅させる。
「セイン!」
自分の名前を呼びながら、剣を振るうをギルベール。その件は、背中の砲つまりブレイズブラスターを切り裂いたが、同時に、オーバーブレイズガンダムのビームサーベルの刃も敵を捉えていた。
「……ザイランだったら、もっとやれてたろ……」
「アホ、機体が変わっても今のお前にはかなわねぇよ」
オーバーブレイズガンダムのビームサーベルはギルベールの機体を完全に貫いていた。
「ま、俺のことは忘れて、これからの人生頑張れや、ガキなんだからよ」
そのギルベールの言葉が聞こえた瞬間に、ヴォル・ビートは光に包まれ、爆散したのだった。

 

セインは勝利の実感を得ることもできないまま、ギルベールが散っていく様を見届けた。自分は本当にギルベールに勝ったのか?それすらわからない状態に陥ったセインの前に、一機のMSが現れた。
それは褐色のザイラン。間違いなくドロテスのものだった。
「ギルベールを倒したんだ。次は俺の番だろう」
セインは、自分の心に躊躇う気持ちが生まれていた。本当にこのまま戦っていいのかという迷いであった。
そんな迷いの中、ドロテスのザイランがタックルを仕掛けてくる。だが、セインのオーバーブレイズガンダムはそれを軽く受け流す。
すぐさま、ドロテスのザイランはビームアックスの二刀流をオーバーブレイズガンダムに叩き付けようとするがセインは、その攻撃は簡単に見切り、機体に回避させることも余裕だった。
あれ?セインはドロテスの攻撃に既視感を覚えていた。
「お前と最初に戦った時にした攻撃だ。覚えがあるだろう」
最初というと月面でブレイズガンダムに乗った時だろうか?しかし、セインはドロテスがそんなことをする意味が分からなかった。
「お前はもう、あの時とは全く違うということだ。俺が本気で攻撃を仕掛けても、おそらく楽に対応できるだろう」
ドロテスは自らの敗北を認めるような言葉を口にしながらも、どこか爽快さを感じさせた。
「まさか、あの下手くそが俺より上になるとはな。世の中分からんよ」
セインは快活に言うドロテスの言葉に反論をしたかった。
「機体性能の差があるだろ」
「そんなのはどうでもいいことだ。どんな条件であれお前が上に立った。誇れ、お前は一流だ」
セインは、一流と言われても何も嬉しさを感じなかったどころか寂しさを感じながら、心の奥底では無駄だと分かりながら言うのだった。
「じゃあ、もういいだろ。負けを認めるなりして投降しろよ!僕は……アンタを殺したいと思わない」
セインの言葉に対して、ドロテスのザイランはビームアックスを構えなおした。

 
 

「俺はもう人生にウンザリしてる。俺の人生は絶望だらけだ。いや、ガルム機兵隊の全員……違うな、隊長代理を除いてか。だが、大抵は絶望をロウマに付け込まれ、こうやって戦っている。戦いをやめたところで道はないんだよ。セイン」
そう言って、ドロテスのザイランはビームアックスを構え、オーバーブレイズガンダムに斬りかかるが、オーバーブレイズガンダムは放たれた斬撃を躱し、ドロテスのザイランにビームサーベルを突き立てていた。
「……お前がもっと強くなれば、生かすも殺すも自由になるのだろうがな。それも辛いぞ。生きることを望まない、望まれない人間もいるのだから。それを受け止められるだけの強さはお前にはない。殺すに徹しろ。それがお前の安らぎの道だ」
セインは爆散するドロテスのザイランを見届け、一筋の涙を流した。そしてギルベールを思い出しもう一筋。そして涙を流し終えた瞬間に全てを忘れようとした、おそらく逝った彼らも、忘れることを望んでいるだろうから。
だが、最後にドロテスは煙草をくわえて逝けたのだろうか、あんなに好きだったのにと思いながら、セインは忘れようとしても忘れられない顔が頭にあった。

 

「侵入経路はどうされるんですか?」
今回の戦いもアマツクニの代表の名代として参戦してきたアルバがアッシュに尋ねる。
「その点は大丈夫だ。ヤキンに関してはそれなりに詳しい。ほとんど使われていない搬入口がある。そこを通って行こう」
アッシュは聖クライン騎士団時代の記憶を思い出し、部隊を先導する。なるべく目立たない道があったはずだと思い出した結果が、その搬入口だった。
そして、目立たない道だったというアッシュの記憶は確かであり、搬入口の周囲に敵影は無かった。
「入ると、とりあえず真っ直ぐ。そして広い資材置き場に出る。イオニスとグリューネルトが先頭で行ってくれ」
グリューネルト機ならば、奇襲を受けたとしても、その防御力で持ちこたえることができるし、イオニスはパイロットとしては、現在アッシュが率いるメンバーの中でも最強クラスだ。先陣を切ってもらうには最適なコンビだと思いアッシュは指示を出した。
「先陣を切るのは騎士の栄誉、謹んで受けよう」
そう言うと、イオニスの機体フレイド・クルセイダ―は搬入口に素早く侵入していった。それを追うようにグリューネルトの機体もだ。
アッシュは少し嫌な予感を覚えたが、これは自分が心配性すぎるせいかもしれないと思うのだった。
ほどなくして、イオニスから異常なしとの通信が入り、アッシュは部隊を率い、搬入口へと侵入し、真っ直ぐに進み、資材置き場に出た。
資材置き場は極めて広かったが、現在は使われていないようで、資材らしきものは何も無かった。
「つーか広すぎね?」
ジェイコブ三兄弟の長男のジェイコブが、そう言うとアッシュは説明した。
「昔は、この広さでも足りなかったらしい。ユウキ・クライン初代公王が、コロニー建造のための資材運搬基地としてヤキン・ドゥーエを運用していた時代はな」
まぁ、そういう時代も終わって、今はこの有様だが。おそらく資材置き場も、もっと手ごろな広さで、位置的にも使いやすい場所に移されたのだろうとアッシュ推測した。
「しかし、広いですねぇ、戦闘ができそうなくらい」
ジェイコブ三兄弟の次男のペテロがそう言うと、三兄弟の末の妹マリアが兄を叱る。
「ペテロ兄さんが、そういうこと言うと必ず良くないことが起こるんだから、止めてよね!」
マリアがそんな風に兄を叱った直後だった。ペテロのせいなのかは誰も判断がつかなかったがビームの雨が、アッシュたちの部隊を襲った。
「ほら、兄さん!」
「ええ!僕のせいなの!」
そんな話をしている中で、グリューネルトのフレイド・クルセイダーがアルミューレ・リュミエール――ビームシールドの原型となった広範囲を防御可能な光波シールドを展開し、全てのビームを防ぎ、アッシュ部隊の盾となった。
だが、グリューネルト機、その死角に何かが飛来していく、しかし、グリューネルト機を守るように、イオニス機が立ちはだかり、それを手で掴む。イオニスのフレイド・クルセイダーが握っていたのは、ビームジャベリンだった。
「不意打ち結構。私はしないがな」
そう言って、ビームジャベリンを放り捨てるイオニス機。僕たちは不意打ち結構ではないんだがなと思いながら、アッシュは待ち伏せをされていたことを確信したのだった。
「そうそう簡単に物事は進まないよな」
アッシュが、そう呟くと資材置き場のライトが一斉に点灯し、ロウマ・アンドーの声が聞こえてきた。

 
 

「鼠はネズミ取りで殺す。これが常識だろ?」
そんなロウマの声が聞こえると同時に大量のMSが姿を現す。その多くはアッシュがアービルで戦ったジークシードであったが、そのジークシードを率いるように見たことのないMSが何機かあった。
「俺の使える最高の手駒にはヴォル・グリムっていう良い機体を与えてある。せいぜい頑張って死んでくれ」
ヴォル・グリム、直接戦ったことはないが、ロウマの乗っていたというマリスルージュに酷似した機体が何機か見えた。しかし、マリスルージュと比べると各部の丸みは薄れ、通常のMSと同じように見えた。
そんな風にアッシュが考えていると、不意に純白のヴォル・グリムが機体の全長ほどもある対艦刀を抜刀し、EX・キャリヴァーに襲い掛かる。アッシュは咄嗟にシールド防御したが、そのシールドが切り裂かれ、即座にビームサーベルで、対艦刀の一撃を受け止める。
しかし対艦刀の一撃は重く、防ぎきれずにEX・キャリヴァーは弾き飛ばされる。直後、背後に回り込んでいたジークシードがEX・キャリヴァーを蹴り飛ばし、前方へと弾き飛ばすと、純白のヴォル・グリムが対艦刀を構え、待ち構えていた。
しかし、そこにアルバのゴールドフレーム天ジンが割って入り、対艦刀を持つヴォル・グリムに巨大かつ様々な機能を内蔵した左腕を叩きつける。が、純白のヴォル・グリムはその左腕を躱し、天ジンの右腕を斬りおとした。
アッシュは天ジンを踏み台のようにして、後方に逃がすと同時に、その勢いを利用して前方に加速、ビームライフルを至近距離で純白のヴォルグリムに撃とうとするが、距離がマズかった。
加速した勢いと、ヴォルグリムの前進のスピードが重なり、ビームライフルは長大な対艦刀の餌食となり、斬り捨てられ破壊される。
そして純白のヴォル・グリムは前進の速度を殺さずに、対艦刀を振り下ろすが、EX・キャリヴァーはビームサーベルの二刀流で受け止めると、それとほぼ同時に脚部スラスターの勢いも利用した前蹴りを放ち、純白のヴォル・グリムを蹴り飛ばす。
アッシュは間合いが開いた瞬間を見計らい、両肩のメガビームキャノンを前方の純白のヴォル・グリムに向けて放つが。その間に、ジークシードが二機立ちはだかり、メガビームキャノンの盾となり、純白のヴォル・グリムへと攻撃を届かせない。
純白のヴォルグリムは、二機のジークシードの爆発の中を突っ切って、EX・キャリヴァーに迫っていたが、アッシュはその姿が見えた瞬間に、自身のSEEDを解放した。
その瞬間、全てがスローモーションとなり、純白のヴォル・グリムが対艦刀を振るう姿すらゆっくりと見え、その軌跡を見切り、回避するうえで最適の位置取りをしながら、同時に、純白のヴォル・グリムの腕を斬りおとすまでを予測し機体を動かした。
そして、アッシュのSEEDが限界時間を迎えた瞬間、EX・キャリヴァーは敵の攻撃を紙一重で躱しながらカウンターで、その両腕を奪っていたのだった。
アッシュはコックピットの中で荒く息をついていた。相当な無理をした実感があった。久しぶりにSEEDを使うことと、SEEDを使う訓練を怠っていたツケだと反省しながら、自分の脳が明らかなエネルギー不足に陥っていること理解していた。
相対する、純白のヴォル・グリムは無い両腕で困ったと手をあげるような仕草を見せながら、去って行くのだった。それと同時に、クランマイヤー王国の機体と戦っていたヴォル・グリムも撤退をしていく。
不思議と撤退していくジークシードはなかったが、よく見ると、全てのジークシードをクランマイヤー王国側が撃破していたことに気づいた。
「……全機、無事か?」
アッシュが確認をとったが、全機、それなりにやられたようだったが、武器を持てなくなるほどの損傷や、行動不能になる機体はなかった。結果としてはまずますだと思い、アッシュたちは、僅かに休憩すると資材置き場から、さらに要塞の奥へと進んでいくのだった。

 
 

アッシュたちは、要塞の中央部へと進んでいくが、その間に敵の抵抗はほとんどなかった。そもそもが侵入された際を想定していなかったということだろうと思い、アッシュたちは容易く、ヤキン・ドゥーエの中枢ブロックに辿り着くことができた。
だが、そこで思いもよらないものを見ることになる。それはクリスと虎(フー)その弟子たちの姿だった。
アッシュは何が起こったか分からず、クリスに呼びかけると、虎たちを率いてこっそり侵入していたとのことだった。要塞に関してはMSより人間の方が取り付きやすいし、侵入も容易だという理由でだ。
「一応、この要塞の司令部は占拠してますので、アッシュさんがかっこいい言葉を言えば終わりますよ」
アッシュは必死になって戦って、ここまで来たというのに釈然としない終わり方だと思いながらも、司令部の通信回線を利用し、ヤキン・ドゥーエ要塞周辺の全ての兵に伝える。
「ヤキン・ドゥーエ要塞の司令部はクランマイヤー王国が占拠した!クライン公国軍兵士諸君には賢明な判断を望む!我がクランマイヤー王国は、どのような経緯を持って捕虜になった者に対しても平等かつ、人間的に扱うことを約束する!」
アッシュはそう言って、通信を切った。そしてクリスを締め上げ、、事前に作戦を行う場合は自分に説明しろと、アッシュにしては珍しく、クリスの顔面にパンチを叩き込んだのであった。

 

その後、ヤキン・ドゥーエに残っていた残存兵力は速やかに投降し、捕虜となった。アッシュが捕虜に対して人間的な扱いを約束するといったのも、それなりに効果があったようだった。
ヤキン・ドゥーエの当座の責任者に関してはアッシュがなるわけにもいかず、地球連合の艦隊司令が就任した。アッシュは艦隊司令に尋ねる。
「ロウマ・アンドーの行方に関しては何か掴めていますか?」
艦隊司令は首を横に振る。誠実な人柄であるのは、少しの付き合いで分かったため、嘘をついているということは考えづらかった。
「普通に考えれば、アプリリウスに向かうだろう」
艦隊司令がそう言うと、アッシュも同意した。それでなくともアプリリウスはヤキン・ドゥーエを制圧した以上、同じく押さえておきたい拠点だ。
「アプリリウスへ向かう際には、クランマイヤー王国の部隊も同行しますが、よろしいでしょうか?」
アッシュがそう言うと、艦隊司令は願っても無い申し出だと、アッシュの手を強く握るのだった。
アッシュがアプリリウスに逃げ込んだのは分かる。もとは首都だったこともあるコロニーだ。時間をかければ、アプリリウスにクライン公国の本国からの補給が届き、ロウマは部隊を再編して、ヤキン・ドゥーエを奪い返しに来る可能性がある。
それをさせないためにも、速やかにアプリリウスを制圧し、ヤキン・ドゥーエを中心とした宙域を安定させる必要があるとアッシュは考えながら歩いていた。すると、通路の端に立ったハルドがノンビリとサンドイッチを食べていた。
アッシュも何かを食べたいと思っていた時だったので、ハルドに尋ねてみる。
「何を食べているんだ?」
「スモークサーモンとクリームチーズのサンドイッチ」
こともなげに答えるハルドに対し、アッシュはいいなぁと思うのだった。
「それ、どこで貰えるんだ?」
「アラン中佐が厨房で大量生産中」
ならば、自分も早く貰いに行こうとアッシュが歩き出したが、ハルドの手がそれを止めた。
「アプリリウス行くんだろ?」
誰にも言ってはいないが予想はつくかと思い、アッシュは答える・
「なるべく早く出発する。ロウマが逃げない内にな」
アッシュの言葉にハルドは僅かに否定の色を表情に浮かべた。
「たぶん逃げねぇよ、アイツは。だからこそ気をつけた方がいいんだけどな」
ハルドはそう言うと、アッシュを離した。アッシュはハルドの言葉が気になり、その場にとどまるが、ハルドはさっさと行った方が良いと言ってアッシュを追い払うのだった。
「ケツに火がついた獣、いや、蛇か、それがどんくらい狂暴かは俺も分かんねぇしな」
ヤキン・ドゥーエを落とされ、軍人としての名誉挽回が厳しいロウマ・アンドー。もはや、アプリリウスで何をしたところで実際は手遅れだろう。直接聞いたわけでもないが、功名心や出世のために戦っているロウマは既に崖っぷちに立たされている。
崖っぷちに立った人間が何をするかは、正直ハルドにも想像がつかない。それもロウマほどの男になれば尚更だ。もしかすると案外、何も無く終わるかもしれない。それならいいとハルドは思うと同時に、ユリアスとの決着がどうなるかが気がかりだった。
おそらくロウマと行動を共にしているユリアス。奴との決着だけは必ずつけなければいけない。ハルドは決意を新たにし、手に持った食事を飲み込むのだった。

 
 

クランマイヤー王国の部隊が補給を終え、ヤキン・ドゥーエから出発したのはヤキン・ドゥーエ制圧から三日後であった。地球連合の戦艦も二隻同伴するということで、アッシュらは戦力的な心配はしていなかった。
三日という期間は短く思えるが、クランマイヤー王国のMSは全機が修理を完了していた。とはいっても、それは予備パーツと損傷したパーツを交換し、損傷部分自体の修理を最低限にし、効率化したためであった。
レビー曰く、次に派手に壊したら修理には相当な時間がかかるとのことだった。
ハルドは修理を終えたヴァリアントガンダム眺めながら、隣に立つマクバレルに尋ねる。
「ブレイドライフルの予備はねぇの?」
「あれは、製造に相当な手間がかかる。一つ作るだけでも莫大なコストと時間が必要だ。すぐに代わりは用意できん。だから、ほれ」
マクバレルが視線を向けた先には銃身にビームエッジが取りつけられたビームライフルがあった。
「あれで、我慢しろ。ついでに貴様の要望だが聞いて用意しておいた」
そう言ってヴァリアントガンダムを見ると、両肩と両膝のマウントにブースターユニットが装着され、バックパック脇のマウントにも大型のブースターが装備されていた。そしてバックパック自体はフルアーマー時の大型バックパックだが固定武装は外されていた。
「持っていける武装が極端に減るが構わんのか?」
ハルドはマクバレルの疑問を持った視線を躱して答える。
「いろんな武器持っていって、勝てる相手ってわけでもないしな。あと、シールドは大型ので頼む」
マクバレルとしてはハルドの技量に合わせ、小型シールドしたのだが、まさかハルドの方から、シールドを変えてくれと言われるとはマクバレルは思わなかった。ハルドという男は自信の塊であり、そんなことを言うとはマクバレルは思っていなかったのだった。
「んじゃ、MSの方は適当によろしく。嫁さんとも末永くよろしくやってくんな」
ハルドはマクバレルには別れの挨拶のようにも聞こえる言葉を残して、その場を去って行った。

 

ハルドはボンヤリとシルヴァーナを歩きながら、まだ来ないか……などと思っていると、からかうのにちょうどいい相手が目の前を通り過ぎていくのを見つけた。ハルドは暇つぶしに良いかと思い、セインの後ろに音もなく忍び寄ると、頭を軽く小突く拳を突き出した。
しかし、セインは即座に振り向き、その拳を振り払う。まぐれだったのか、そうでなかったのか、二人とも分からずに、ハルドもセインも驚いた表情をしたが、直後にハルドは笑ってセインの髪をくしゃくしゃとかき回し、笑いながら去って行った。
何がしたかったのか分からず、セインは去って行くハルドの背を見て呆然とするしかなかった。

 
 

そろそろかな、と思いながら、ハルドが訪れたのはアッシュの部屋であった。よくよく考えれば不思議な関係でもある。仲は悪くなく良いとは思うが、仲よしこよしの関係とも少し違うが気に入らないことがあれば、互いに平気で文句を言う、わりと遠慮のない関係。
まぁ、そんなところかと思い、ハルドはノック無しでアッシュの部屋に入る。直後に、
「おい」
と声をかけられたが、ハルドは無視して来客用の椅子に座る。
「おまえのそういう所は、直さないと将来、碌なことにならないぞ」
アッシュは呆れた表情を浮かべながら、執務用のデスクにと椅子に座り、書類仕事をしていた。ハルドはその様子を見ながら言う。
「長生きできなさそうだなぁ」
アッシュは大きくため息をつきながら書類を置いてハルドに言う。
「おまえが、余計なことをしてくれなければ、少しは寿命が延びそうだけどな」
じゃ、これからは大丈夫だと。ハルドは僅かに微笑みを浮かべながら黙るのだった。そして、しばしの沈黙。だが沈黙を打ち破ったのもハルドだった。ハルドは唐突に思い出したようにアッシュに話しかける。
「おまえ、マリアには気をつけとけ。ジェイコブ三兄弟の妹のマリアだ」
いきなりなんだとアッシュは怪訝な表情になる。
「あいつ。おまえに惚れてるからよ。気をつけろって話しだ。おまえ、童貞で押しに弱そうだから間違い起こしそうで、心配なんだよ」
アッシュは何を馬鹿なといった表情に変わり、ハルドに強く言う。
「僕はシイナさんとお付き合いをしてるんだぞ。そんな簡単に目先の欲求につられやしない!」
ホントかよと、ハルドはアッシュが微妙に信用ならなかったが、もう信用するほかなかった。
「分かった信用する。おまえは、あのお嬢さんと結婚しろ。浮気はするな。んでもって幸せになれ。三年間の不幸分を取り戻すくらいな。約束だぞ!」
ハルドはアッシュを指さしながら、一つ一つ確認するように言い、そして言い終えると部屋を出ていった。
アッシュとしては何だ急にと思ったが、急にはいつものことなので、そこまで気にはしなかったが、ハルドの言葉が少し気になった。
「幸せになれってなぁ、これから先も一緒なんだから、嫌でも見れるだろうに。それに約束なんて必要か?」
アッシュはハルドの言葉が別れの挨拶のようで、なんとも違和感を覚えるのだった。

 

ハルドはブリッジを訪れていた。艦長席にはベンジャミンが堂々と座っており、何の心配もなさそうであった。ハルドはベンジャミンの隣に立つと口元にだけ笑みを浮かべながら言うのだった。
「……勝手をするぜ」
「いつものことだ。誰も気にせん。勝手にしろ」
ハルドはそれだけ言うと、ブリッジから出ていった。コナーズがハルドは何の用だったのかをベンジャミンに尋ねる。
「それなりに長い付き合いの者同士の合言葉だ。意味を知っても面白いものではない。気にするな」
そういうとコナーズはイマイチ釈然としないまま操舵に戻るのだった。
そう、本当に面白くない話だ。何をどうしたところで、そう楽しくなることはあるまいとベンジャミンは思い、それを忘れるために今の仕事に集中することにしたのだった。

 

さて、後は俺の問題か。まぁやれないことはないし、やれなくても道連れが増えるだけだが、道連れが増えても楽しいことはないなと思いながら、ノーマルスーツに着替えていた。
「まぁ、いけるだけ、いってみるか」
死ぬ覚悟はとっくに出来ている。後は自分が死力を尽くしたと納得できるかだ。ハルドはそんなことを考えつつノーマルスーツに着替え終わると、MS格納庫に向かうのだった。なんにせよ、今の自分の終わりが近いことをハルドは感じていた。

 
 

攻撃は突然だった。一瞬にして、シルヴァーナの後方を航行する地球連合の戦艦が巨大なビームに貫かれ、撃沈した。そして、もう一隻も同じように一瞬で撃沈される。
次の狙いは間違いなくシルヴァーナだが、ベンジャミンはその、その攻撃を回避する手段を思いつかなかった。しかし、ベンジャミンも想像していなかったことに、シルヴァーナからビームの光が放たれた。
「シルヴァーナは行け、敵は俺狙いだ」
それはハルドの声であり、高機動仕様に装備を換装したヴァリアントガンダムがシルヴァーナから離れていった。
「ハルドさん、僕も!」
セインの声が聞こえたが、ハルドは即座に切って捨てる。
「邪魔だ。来んな」
セインはそう言われて反論しようとしたが、それより早くハルドが言葉を続ける。
「俺に勝つような奴だぞ。てめぇなんか、速攻でやられるっつーの」
そう言われ、セインは少し自信を失ったが、ハルドは最後にセインに言葉を残した。
「自信を持て、セイン。おまえはもうガキじゃなくてパイロットでしかもエースだ。俺が保証してやる。だから、これから先も自信を持って決して臆するなよ!」
認めてくれたということか?セインは、一瞬ハルドの言葉の意味が分からなかった。だが、少しずつ、それを噛みしめると嬉しさと同時に寂しさがセインを襲った。セインはその理由が分からなかった。だが、セインは最後に言いたかった。待ってくれ、と。
しかし、ヴァリアントガンダムはシルヴァーナから遠ざかり、ついには通信圏内からもはずれてしまい、セインは去って行く、その姿を追うことは出来なかった。

 

ヴァリアントガンダムはとにかく真っ直ぐに進んでいた。おそらく、向こうから見つけてくれるだろうと思ってだ。そして、ハルドの思った通り相手の方からヴァリアントガンダムを見つけ、ビームライフルを撃ってくる。
その相手は、当然フリーダムガンダム・センチネルだった。ハルドの乗るヴァリアントガンダムはそのビームを容易く躱し、手に持ったビームライフルを撃ち返す。ユリアスの乗るフリーダム同様に回避し、反撃でビームライフルを撃つ。
極めて単純な攻撃の応酬。しかし、この世でこの攻撃の応酬が出来る人間自体、ほとんどいない。そもそもはユリアスの最初のビームライフルの射撃で仕留められるのが、ほとんどのパイロットであり、ガルム機兵隊のメンバーですら運が絡まなければ、即死である。
二機は適当な距離を取りつつ、ビームライフルを撃ちながら、ウォーミングアップをしていた。撃っては回避、回避しながら撃つなど、攻撃自体にパターンはあれど、見ている分には単調であったが分かる者が見れば想像を絶するような操縦技術の応酬であると分かった。

 
 

「調子は良いかいユリアス君?」
ハルドは気軽に話しかけたが、返事は返ってこない。先日戦った時はもう少し軽やかだった機体の雰囲気に、どこか重くるしいものをハルドは感じた。
そして、ヴァリアントガンダムが撃ったビームを受け止めると。その場に立ち止り、ハルドに告げる。
「……もう、遊びは終わりなんだよ……」
その言葉と同時フリーダムガンダム・センチネルに変化が現れる。腰アーマーのレールガンと背中のビーム砲バラエーナが切り離されていく。
そしてフリーダムガンダム・センチネルの全身装甲がスライドし、冷却機構らしきものが展開されると同時に、象徴的であった青い翼が、鳥が羽を落としていくように散っていく。
その瞬間、ハルドは危険を感じ、シールドを構えたが、何も見えずに、ヴァリアントガンダムが弾き飛ばされる。
ハルドの危険の勘はまだ消えていない。ハルドは直感的に真上にシールドとライフルを構えると、そこにフリーダムガンダム・センチネルが両手にビームサーベル持ち垂直に振り下ろした。
ヴァリアントガンダムはシールドとライフルの銃身のビームエッジでサーベルを防ぎ耐えきった。すると、一瞬消えたように見えた機体は、ヴァリアントガンダムの前に明らかな姿を現した。
それはフリーダムガンダム・センチネルに間違いなかった大きく変貌していた。全身の装甲が展開され、強制的に機体を冷却させ、全身の関節は黄金に輝き、散っていったはずの翼は青く大きな光を放つ物へと変わっていた。
「フリーダムガンダム・センチネル。限界駆動(オーバードライブ)モードだ」
そう言うユリアスの声には苦しげなものが混じっているようにハルドには聞こえた。おそらくパイロットの負担を無視した状態なのだとハルドは察した。
関節はフェイズシフト装甲だろうが、それが黄金に輝くほどの負荷を機体にかけ、冷却が間に合わないために装甲が脆くなることも気にせず、装甲をスライドさせ、機体を冷却させている。
それに背中の青い光の翼とて、絶対的な機動性を確保するために、カタログスペックだけで選んだ、乗る人間のことなど全く考えていない機体。それがフリーダムガンダム・センチネルなのだとハルドは理解した。
「僕は戦う意味を見つけた。そして勝つために全てを捨てる覚悟もできた」
なるほど、機体から漂う重苦しい感じはそういう信念からかとハルドは納得しながらも、ユリアスという男にそれは似合わないような気もした。
「前の軽やかな感じの方が好きだったが、そっちを選んだなら、それでも構わねぇさ。俺には関係ないことだ」
ヴァリアントガンダムは構え、フリーダムが、どこから来ようとも対応できるように備える。対してフリーダムはビームライフルを腰にマウントし、シールドすら捨て、両手にビームサーベルを持ちながら、だらりと手を下げている。
そして、次の瞬間にハルドの視界からフリーダムが消え、ほぼ同時にヴァリアントガンダムの目の前に姿を現し、ビームサーベルを振るう。
対するヴァリアントガンダムもビームエッジが装着されたビームライフルを振るう。
二機のガンダムの刃の激突。それが最強を決める戦いの幕が切って落とされた瞬間であった。

 
 

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