LOWE IF_58_第04話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 23:18:19

軍服に着替えたキラはホテルへと向かった。何故ならミネルバの一行はディオキアに停泊している間休暇を与えられていて、ディオキアにあるホテルに宿泊しているからだ。
キラもホテルへの宿泊をデュランダルに勧められていたが、これからはミネルバで寝起きをするから早めに慣れておきたいと断っていた。
ホテルについてすぐ、キラはルナマリアを見つけた。

「やあ、ルナマリア。シンを見なかった?」
「お、おはようございますヤマト隊長!シンですか?シンは起きて早々にバイクに乗ってどっか行っちゃいましたよ」
「ヤマト隊長なんて堅いなぁ……キラでいいよ、キラで。そっか、彼に話があったのに残念だな」
「え……じゃあ、隊長今日お暇ですか?実はディオキアの街を散策しようと思ったんですけど、シンは一人でどっか行っちゃうし、レイは議長に与えられた新型に早く慣れたいってシミュレーションに篭りっきりだし……」
「ようするに僕を誘ってるんでしょ?いいよ、行こう」
「え?本当ですか!あ……ありがとうございます!じゃあ、私すぐ着替えてくるんで隊長も着替えてきてください!じゃあ、30分後にホテルの受付で待ち合わせしましょう!」
「うん、わかった。じゃあ、また後でね」
「はい!ありがとうございます!」

頬を赤らめ意気揚々と部屋に戻っていくルナマリア。そんなルナマリアの後ろ姿を冷ややかな目で見るキラ。彼にとってはルナマリアなんてどうでもよかった。
30分後、軍から車を借りてホテルまでやってきたキラはホテルの前で車を止め、ホテルの中へと入っていく。待ち合わせ場所である受付にはルナマリアの姿はなかった。

「こういうとき、女性って何でいつも遅れてくるんだろうね……」

キラは心の中で思っていた言葉を思わず呟いてしまった。
女性とデートをする事はキラにとって実に久しぶりであった。まだ身体が何一つ不自由なく動くようになって日が浅かった頃は、一日一日を生き抜く為キラは女性を食い物にしていた。
実際持ち前のコーディネートされた端整な顔つきに少しの話術を心得ただけで、キラは幾月か衣食住に困らぬ生活を送る事が出来ていた。しかし、そのような生活を送っていたのも偽者と出会うまでだった。
キラが少し前の自分の事を回想していると、後ろの方から高い声が聞こえてきた。どうやら待ち合わせの相手がご到着らしい。

「遅くなってスミマセン!30分後にここで、って言ったの私なのに……」
「ううん、気にしないで。僕も今さっき来たばかりだから」
「本当ですか?……よかったぁ。じゃ、行きましょっか!」

本当は10分ぐらい前から待ってるのにキラは嘘をつく、というかついてしまっていた。条件反射というものは恐ろしいな、とキラは思い苦笑していた。

「どうしたんですか?」
「ううん、なんでもないよ……君は僕の身体を見て、あんな話聞かされたのに何も言わないんだね」
「え……はい。だって、私達は戦争をやってるんですもん。流石にクローンとかの話は少し現実離れしすぎって驚いちゃいましたけど……隊長みたいな人がいても不思議ではないと思います。それに……」
「それに?」
「隊長はアスランを必死に助けようとしてたじゃないですか。だから、隊長は悪い人じゃないって思いましたし……人には触れられたくない所もあるだろうし……」
「……ありがとう」
「いいえ、とんでもないです!……今日は折角の休みですし、楽しみましょ!」

キラは一瞬ルナマリアに気を許してるのに気づき、ハッとした。しかし、彼女も自分の上辺の部分しか見えてないと思うと途端に悲しくなった。
晴れわたる青空の下を走るジープは、ディオキアの市街地に向かってスピードを上げていた。

レイは一人シミュレーターに篭り、議長から与えられたグフイグナイテッドに一日でも早く慣れようと必死だった。
地上に降りてからのミネルバのMS戦において、単独での飛行能力を持たないザクに乗っていたレイは後方支援、または艦の護衛をすることが多かった。
しかし今度与えられたグフは単独での飛行能力を有しており、また装備も近接格闘戦用に偏っていた為、レイは今までとは180度違った戦い方を強いられていた。

「どうやら俺はシンを見習わなければならないようだな」

今し方本日何度目かのシミュレーションを終わらせたレイは、タオルで汗を拭いながら水の入ったボトルを手に取り口に含んだ。
今考えてみれば、士官学校在学時にレイはシンとのMSの一対一による模擬戦においてあまり勝ったことがなかった。とは言うものの、レイも士官学校を主席で卒業しているだけあってMS戦闘も他の生徒と比べると断然強かった。
だが、シンはMSの一対一において無類の強さを誇っていた。

「後でシンの戦闘データでも見てみるとするか」

レイは気を取り直して、再びシミュレーションの中に入ろうとする。その時、レイに声が掛けられる。その声にレイの心が揺すぶられた。

「そろそろシミュレーションにも飽きた頃なんじゃないの、レイ?」

後ろを振り向くと、そこには赤服を身に纏ったキラとルナマリアがいた。レイは一瞬感情を昂らせたが、ルナマリアがいた為それを抑えた。そして、キラには目もくれずにルナマリアに話しかける。

「市街地に出かけていたのではなかったのか?」
「うん、でもキラさんが一度私達の実力を測ってみたいって言ったから早々に切り上げてきちゃった」

ルナマリアのキラの呼び方が変わった事にレイは懸念を抱いた。何故なら、デュランダルがキラに取り込まれた時もそうだった事をレイは強く覚えていたからだ。

「今から2対1の模擬戦をやらないか?もちろん僕が一人の方だけど」
「お断りしときます、隊長」
「何で?君にも悪い話じゃないと思うけどな……議長の期待に応えたいなら、実戦を重ねるべきだと思うけど」
「そうよ、レイ。ここはキラさんの厚意に甘えとこうよ、ね?」
「……わかった、ルナマリア。ここは隊長のご厚意に甘えとくとしよう。ただし、その前に一度だけ一対一での模擬戦を俺にやらさせて欲しい」
「うん、いいよ。じゃあ、時間が勿体無いから早く行こうか」

レイの眼光がキラに向かって鋭く光る。しかしキラはそんなレイに対しただ微笑むだけだった。
ディオキアの基地で2機のMSによる模擬戦が行われようとしていた。一機は白いカラーリングのグフ、もう一機は前大戦の英雄であるフリーダムだった。
しかし、そのフリーダムのカラーリングは白と黒をメインに構成されていて、所々にあしらわれたゴールドやシルバー、紅色がフリーダムを兵器ではない全く別の高貴な物に昇華させるようだった。

「なんだ、この配色は?……お前にこのような趣味があるとは思わなかったな」
「戦場で偽者が出てきた時2機とも同じ色だったら困るでしょ?それに、白と黒は究極の美だからね……この二つを引き立てるには少しだけ派手な色があった方がいいんだよ」
「……己の美意識に酔っていろ、すぐに終わらせてやる」

レイは昂る心を抑える事が出来なかった。普段、冷静なレイをこうまでさせたのはMSに乗る間際のキラからの一言であった。

(なんなら実弾、実剣でやろうか?そっちの方が緊張感があるでしょ……まぁ、仮にそれでやっても僕には傷一つ付けられないと思うけど)

「何をふざけたことを……キラ、あまり俺を舐めない方がいいぞ!」

言葉と共にグフを一気に前進させる。接近戦を得意とするグフにとって、遠距離で戦えるフリーダムに勝つにはいかにして距離を縮めるかがキーだった。
模擬戦の開始の合図と共に全速力で距離を縮めにかかったレイの行動は、キラの不意を衝くのに十分だった。

「まさか、君がいきなりそう来るとはね……よほど、クルーゼの事を口にしたのを怒ってるみたい」

キラは引きながら頭部のバルカンで牽制する。グフが回避することを想定し、避けたところを狙って撃とうと考えていたキラ。しかし、ここでもレイはキラの虚を衝く。

「スピードを緩めない?……面白いことをやるじゃないか、レイ」
「貴様が考えてる程俺は弱くないッ!」

そのまま突進してきたグフを上空に飛んで回避するキラ。だが、そこを狙っていたレイはヒートロッドでフリーダムを襲う。
半身になって回避し、すぐさまビームライフルを放とうとする。が、今グフを狙えば基地に被害が及ぶかもしれない。模擬戦である以上、基地への被害など論外であることはキラにもわかっていた。

「くっ、実弾なんて言わなきゃよかった……遊びが出来ないならとっとと終わらせるよ」

ビームサーベルを引き抜いて、グフとの距離を縮めるフリーダム。フリーダムの圧倒的なスピードによって生じる強烈なGがキラを襲う。キラは思わず顔を歪めるが、それでも口元は笑っていた。

「初めて戦った時よりは大分強くなってるけど……まだまだだよ」

勝負は呆気なく着いた。左手に持ったビームサーベルはグフのテンペストを完全に押さえ、右手に持ったビームサーベルはコクピットの直前で止まっている。
レイはコクピットの中で呆然としていた。フリーダムの狂気ともいえるスピードと、そのスピードを維持したままドラウプニルのビームの雨を潜り抜けるキラの人間離れした操縦技術に。
しばらくして、レイは突然ハイネの言葉を思い出した。

「ハイネ……俺の目の前にいる男はまさしく怪物だ」

背中に脂汗をぎっしりとかいている事など全く気にも留めずに、レイは呟いた。
それからキラとレイは武装を実戦演習用の物に切り替えて、さらにルナマリアを加えて2対1の変則的な実戦演習を行った。しかし、ここでもキラは負けることはおろかMSにかすり傷一つつけないで演習を終わらせた。

「何なのあの人……反応速度が尋常じゃないわ……」
「それにあの射撃の精密さと来たものだ……ルナマリア、お前何回コクピットに当てられた」
「……24、5回よ」

先に各々のMSから降りてきたレイとルナマリアは、今のキラとの演習を思い出していながら話していた。そこに、コクピットから降りてきたキラが現れる。

「お疲れさま、二人とも。レイは回数を重ねる度にグフに慣れてきてたからいいとして……ルナ、君は射撃があまり得意じゃないみたいだね」
「え……あ、はいスミマセン……」
「謝らないでよ、人には得意不得意ってものがあるんだから……でも、君の射撃精度が上がれば上がるほど僕達は大きな戦果を上げられると思うんだ。だから今度一緒に射撃の訓練をしようか」
「え!?は……はい、ありがとうございます!」

キラの言葉を聞いて、思わず卒倒したくなるのを堪えるルナマリア。そんなルナマリアを見てレイは顔に出さずに呆れていた。
そんなところに、緑服を着たザフト兵がキラの前に現れる。緑服はキラに耳打ちすると素早く帰っていった。

「どうしたんですか?」
「シンが外で何かやらかしたらしいから、迎えに行かなきゃならないみたい。二人とも先にミネルバに戻っといて」

「どうして君はこんなところにいるんだい、しかも女の子と一緒に」

キラは開口一番、シンに言い放った。キラの表情はにこやかだったが、その表情の裏では笑っていないことなどシンはすぐに察せた。

「いや、違うんですよこれは……その……」
「あんま外で派手なことやらかさないでよね。ザフト軍人は軍の機密どころか個人の性欲も管理出来ないのか、ってなっちゃうじゃないか」
「そんな事は全然してませんって!」
「ねぇ君、この人にホントに怖いことされてない?」
「怖くない。シン……ステラ……守る」
「ほら何にもしてないじゃないですか!だよねぇ、ステラ♪」
「うん♪」
「顔緩んでるよ、シン」

ステラの口調に一瞬目の色を変えるキラ。だが、それを悟られないようにすぐに戻しにこやかな表情に戻し、そして腑抜けた表情を見せるシンにポカン、と拳骨を一発かます。
シンが音に似合わず重い痛みに顔を歪めてると、岬の方からステラを呼ぶ声が聞こえてきた。

「スティング、アウル!」

ジープで送られてきたステラは嬉々とした表情で二人を呼ぶ。だが、送ってきた相手を見てスティングとアウルは一瞬驚く。
ジープから降りたシンは緑髪のスティングと呼ばれた男にステラが海に落ちたの助けたのだと説明する。その間、アウルはキラに絶えず鋭い視線を送る。それを見て、キラは自分の考えに確信を持った。
立ち去ろうとするキラ達にスティングが話しかけてきた。 

「ザフトの方々には、色々とお世話になりました」
「シン……行っちゃうの?」
「うん……ごめんね、ステラ。でも、また会えるから!」

キラとシンを乗せたジープは三人に別れを告げ、走っていく。帰り道、シンがステラの事を強く想っていることに対しキラはある懸念を抱いていた。

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