LOWE IF_vKFms9BQYk_第07話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 21:28:23

第7話

 ザラ隊によって窮地に陥ったアークエンジェルは、オーブにあるモルゲンレーテの地下ドックへと秘密裏に入港した。
 「あなた達の正体を教えてもらいましょうか?」
 マリューは金髪の少女と、その少女の側にいる男を見た。
「オーブの前代表、ウズミ・ナラ・アスハの娘、カガリ・ユラ・アスハだ」
 と金髪の少女の口からとんでもない言葉が出た。
「その護衛、レドニル・キサカ。オーブ軍に所属している」
 横にいた男も続けて正体をさらけ出した。
「ホンモノなのかな?」
 とサイは呟いた。
「君達はオーブ出身なのに知らないのか?」
 ノイマンは小声でサイに聞いた。
「代表は知っていますが、その子供まで知りませんよ。ノイマンさんは、自国の最高権力者の子供知っていますか?」
「……君達の歳の時には、政治なんて興味がなかったよ」
 サイはノイマンの答えに苦笑した。
「トール……」
 ミリアリアがトールに話しかけてきた。
「なに?」
「あの子、どうしてここにいるのかしら?」
 とミリアリアはカガリを見た。
「どうしてって言われても困るんだけど……」
「最高権力者の子供がここにいたら、まずいんじゃないの?」
「まずいと思うけど、実際ここにいるからね……」
「たしかにそれもそうね」
 と二人が話していると、トールの体を横から誰かが突付いてきた。
 トールが顔をそちらに向けると、ムウが困ったような顔をしていた。
「二人の会話、しっかりと嬢ちゃんに聞こえているぞ」
 トールとミリアリアの顔が青ざめていった。
「我々はこの措置をどう受け取ったらよろしいのでしょうか?」
 とマリューはミリアリアとトールの事を無視しキサカに尋ねた。
「オーブの獅子、ウズミ・ナラ・アスハ様に直接聞かれた方がよろしいでしょう」
 マリューはこれからの事を考えると、憂鬱になった。
「今からそのオーブの獅子に会うって事なのかい?」
 ムウの言葉にキサカが頷いた。
「補給が終わるまで、各員体を休めるようにと通達していて」
 ナタルはマリューの言葉を艦全体に伝えた。
「それでは行きますかね」
 ムウ達はウズミに会うためアークエンジェルを後にした。 

「こんな発表、素直に信じろというのか!?」
 オーブ近海中を潜航しているザフトの潜水艦のブリーフィングルームに、イザークの怒鳴り声が響いた。 ブリーフィングルームには、ザラ隊が集まっていた。
 イザークは手に持っていた紙を握り潰していた。
 イザークの手の中で握り潰されている紙は、アークエンジェルの行方に関するオーブの公式発表が表記されている紙だ。
「オーブをもう離脱しましだと……俺はこんな内容信じないぞ!」
 イザークの怒声に皆は耳を押さえた。
「隊長、これからどうするんだ?」
 とディアッカがアスランに聞いた。
「オーブのモルゲンレーテに潜入しようと思っている」
「足つきを隠すならうってつけの場所だな。ついでにそのモルゲンレーテでデータの抜き出しと、施設を破壊するのはどうだ?」
 ディアッカの言葉にアスランは頭を悩ませた。
「ヘリオポリスの件で警備が厳しくなっていると思うが……」
「用意するぐらいなら構わないだろう?」
「それもそうだな……ディアッカ、その件はお前に任せた」
「俺一人でかい?」
「現地の諜報員にすべて集めて貰えればいいだろう?」
「それもそうだな」
「作戦開始時刻は今夜を予定している。後々詳しい時間は通達する。以上だ」

 アスラン達がオーブ潜入を画策している頃、アークエンジェルのオーブ学生達は、キラとフレイを除いて両親と再会していた。
 この再会は、ウズミ・ナラ・アスハの計らいで実現した物だった。
 他のクルーはというと、街に繰り出している等様々であった。
 家族と再会を終えたミリアリアは、街へと繰り出していた。
 一通り見て回ると、ミリアリアは自宅へと向かわずある家へと向かった。
 ミリアリアはその家の前までくると、自分の心臓の鼓動が高鳴るのを感じた。
 インターホンを押すと、家の中から声がし、玄関が開いた。玄関でミリアリアを出迎えたのは、キラの母親だった。
「お久しぶりです、おばさん」
「ヘリオポリス以来ね……ミリィちゃん。外で話すのも何だから中に入りましょ」
 ミリアリアはキラの母親の後に続き、家の中に入った。
 ミリアリアは居間に通された。
 居間には、キラの父親とハロがいた。
(ハロがまた微妙に変わっているわね)
 と考えつつミリアリアは、キラの父親が座っているソファの反対側に座った。
「こんにちは、おじさん」
「こんにちは、ミリィちゃんは親御さんには会ったのかい?」
 キラの父親の質問にミリアリアは「はい」と答えた。
「キラは此処に戻ってきましたか?」
 ミラアリアの質問に、キラの父親は首を横に降った。
「どっちのキラの事かな?」
 キラの父親の言葉にミリアリアは、どこか悲しい表情を浮かべた。
「大丈夫?」
 キラの母親が心配し、ミリアリアの横に座った。
「あなた……」
 とキラの母親が父親の方を見た。
 キラの父親は、ミリアリアがキラの現状を知っている事を察し、本物のキラが今どうしているか全てを話した。
「ひとつ聞いてもいいですか?」
「何かね?」
「キラがザフトに行くのに止めなかったんですか?」
「私達にはあの子は止めらないさ。ミリィちゃん、心配しなくていい。あの子は復讐はしないさ。それはそうと……」
 キラの父親は唐突の話の話題を変えた。
 ミリアリアは一時間ほど談笑するとキラの家を後にした。

 アークエンジェルがモルゲンレーテの地下ドックに入港した夜、オーブのある海岸に四つの影が姿を表した。 
「ようこそ平和の国へ」
 と男が四つの影に近寄った。四つの影はザラ隊の四人のようだ。
「モルゲンレーテに向かってくれ」
 男は四人を車に乗せると、指示されたとおりにモルゲンレーテへと走らせた。
 男は自分の胸ポケットから、IDカードを取り出しアスランに渡した。
「これは!?」
「モルゲンレーテの偽造IDカードだ。これがあればほとんどの区画に出入りできる」
 アスランの問いに男が簡単に答えた。
「これなら作戦の成功率もあがるぜ」
 後ろに座っているディアッカがアスランから三枚のIDカードを抜き取った。
「そういう訳にはいかないさ。中心部に入ろうとしてもそのカードだけでは無理だ。指紋、網膜、声紋確認システムで厳重にガードされている。データだけなら端末から抜き出せばいいだけだがな」
 男からモルゲンレーテの情報を聞いていると、車が急に停止した。
 モルゲンレーテにつく頃には、朝日が昇っていた。
「目的地の場所についたぞ」
 そう言うと男は車から降りた。
「俺は近くの喫茶店でお前たちを待っている」
「すまない」
 アスランは運転席に座ると、モルゲンレーテへの敷地内へと車を発進させた。
「アスラン、これからどうする?」
 ディアッカはアスランにこれからの行動の事を聞いた。
「ディアッカは破壊工作の段取りはできているのか?」
「問題ない。イザークを借りて行ってもいいか?」
「構わない」
 アスランはイザークの意見を聞かずにすぐさま了承した。

 車を駐車場に止めると、4人はモルゲンレーテの工場出入り口に向かった。
 警備員にカードを見せると、難なく中に入れた。
 4人は各自の任務を遂行するため各自で別れたようだ。
 アスランと二コルはカードで入れる区画まで進んだ。
 その区画のコンピュータ室に向かい、モルゲンレーテのデータを見始めた。
 データを見ていると、アークエンジェルのデータが映し出された。
「どうして足つきのデータが?」
「あれもたぶんオーブが作ったんでしょう」
 アスランの疑問にニコルが答えた。
「アスラン、あの戦艦アークエンジェルって言う名らしいですね」
「そうなのか?」
「ええ、先ほどのデータに書いてありました」
「俺達に取っては悪魔だな」
 ニコルはアスランの言葉に苦笑した。
「ここ最近、このデータを見た形跡があるな」
 とアスランは呟いた。
「しかしこのカードすごいですね」
「このカードだけで中心部の数区画手前までこれたからな」
 アスランがカードを見ていると、小さく文字が描かれることに気づいた。
「KとYが描かれているのか?」
「アスランどうかしました?」
「いやこのカードに小さく文字が書かれているんだ」
 ニコルはアスランが見ている同じ所を見た。
「確かにKとYが描かれていますね。誰かのイニシャルですかね」
 アスランはカードをジッと見ると、顔色が変化していった。
「どうかしましたかアスラン?」
 ニコルはそんなアスランを心配し声をかけた。
「いや、数年前親友が言っていた言葉を思い出してな……」
「何ていっていたんですか?」
「自分の趣味の延長線上で将来食って生きたいってな」
「どんな趣味なんですか」
「ハッキング。しかもその腕前は今の俺よりも上だったからな」
 アスランの言葉にニコルは顔を引きつらせた。
 アスランはそんなニコルの姿に笑いながら、作業に戻った。
「アスランこれを見てください」
 ニコルが突然声を上げた。
「どうした!?」
 アスランもニコルが見ていたデータを見た。
「量子通信を利用した無線遠隔操作兵器みたいですね」
 二コルがデータの内容を読み始めた。
「しかしまだこれは、机上の空論のようですね」
「ニコル、モルゲンレーテの全データを抜き取るぞ」
「わかりました」
 二人は素早く端末を操作し、データを抜き取り始めた。

 アスラン、ニコルがデータの抜き出しをしている頃、イザークとディアッカは道に迷っていた。
「ディアッカ、おまえどこに向かっているんだ!?」
「足つきがいそうな所に向かっているんだが」
「どうみても道に迷ってるように思えるんだが?」
「しょうがない、イザークそこで待っていろ」
 とディアッカはそう言うとイザークから離れた行った。
 ディアッカが向かった先には、赤い髪のした女が歩いていた。
 ディアッカはその女の前に止まった。そして何かを話した後イザークの元に戻ってきた。
「イザーク、足つきはここの地下ドックにいるらしい」
 ディアッカのまるで確信のある言葉に、イザークはあまり信じられなかった。
「その目は信じていないな。さっきの女に最近入港した戦艦の修理に来た者だといったら、場所をすぐに答えてくれたぞ」
「確かにここに足つきがいるようだな。アスランと合流するぞ」
 ディアッカとアスランはその場を離れ、アスラン達と合流場所に向かった。
 イザーク達がアスラン達との合流地点に向かうと、ニコルだけがそこにポツンと立っていた。
「ニコル、アスランはどうした?」
 ディアッカの問いに、ニコルは目線をずらした。
 二人はニコルが目をずらした方向を見ると、アスランがフェンス越しに誰かと話していた。
 アスランの手にはトリィが乗っていた。
「君の?」
 アスランはフェンス越しの少年に問うた。
 少年は何も答えなかった。
 キラの後ろから突然サイが姿を表した。
「それこいつのだから返してもらえませんか?」
 とサイがアスランに話しかけてきた。
「ああすまない」
 アスランがトリィを差し出すと、キラはそれを受け取った。
「キラ、トールがお前を探していたぞ」
「わかった」
 キラはアークエンジェルが置いてある地下ドックへと走り出した。
「あ……」
 アスランは走り出したキラを視界から消えるまで見ていた。

 アスランもその場から離れニコル達の所へと足を進めた。
 キラとアスランがいた所には、サイが一人だけポツンと残された。
「サイ、そんな所でどうしたの?」
 ミリアリアが先程アスランがいた所からフェンス越しに話しかけてきた。
「なんでもないさ」
「そういえばさっきサイと話していたのってアスラン・ザラかしら」
「どうだろう。昔キラに見せてもらった写真に、一緒に似ている人に似ていると言えば似ているな」 
「それでキラは何も言わなかったの?」
「何が?」
「昔言っていたじゃない」
 サイはミリアリアが言いたい事を理解した。
「そのアスランっていう奴に一度間近で話す事があったら、からかってやるっていっていたな。しかし戦時下で普通やるか? しかも本人とも決まった訳ではないのに?」
「しないわね……たぶん。しかしあの人達ここに何しに来たんだろ?」
「破壊工作に来たりして……」
「サイ、冗談が過ぎるわよ。キラのおばさんに言うわよ」
 サイはミリアリアの言葉を聞き、体が硬直した。
「そうだな。そろそろ皆の所に戻ろうか」
 二人はキラの後を追うようにアークエンジェルがいる地下ドックへ向かった。
 イザークはアスランが最初に話していたフェンス越しの男に見覚えがあった。
 砂漠で一度、イザークと模擬戦をした相手だった。
 アスランがイザーク達の所に戻ってきた。どうやら話が終わったようだ。
「アスラン、ちょっといいか?」
「ん? どうした」
 イザークは先ほどの男がアスランの知り合いかと聞いた。
 アスランは何も答える事ができなかった。
「知らないみたいだぜ」
 ディアッカの答えがその場の沈黙を破った。

 アスラン達はその夜、オーブから抜け出すと潜水艇に戻り、今後のためにブリーフィングルームで作戦会議を開いていた。
「みんなの情報で、足つきがオーブに潜伏していることは確実となった」
「で、どうするんですか?」
「明日には足つきはオーブから抜け出すらしい。其処でオーブの領海から出たと同時に、奇襲をかける。
 足つきからMSが出る前に沈めるんだ。もし出てきたら作戦変更し、近くにある岩礁地帯に追い込み行動不能にさせる。
 奇襲をかけるのはイザークと、ディアッカで頼む。
 ニコルは岩礁地帯で待機してくれ。俺は上空でイザーク達と足つきの位置情報を逐次皆に教える。皆いいな」 
 アスランの言葉に他のメンバーが頷いた。
「作戦開始時間まで各自解散」
 そういうとアスランはブリーフィングルームから出ていった。
 アスランは自室に戻ると椅子に座り込んだ。
「キラ、今度こそ俺がお前が打つ」
 アスランは自分自身に言い聞かせるように呟いた。
 翌朝、アスランは潜水艇の警報で目を覚まし、発令所に駆け込んだ。
「オーブに動きがあった。だぶん足つきだ」
 先に来ていたイザークがアスランに言った。
 アスランに続いてニコル、ディアッカが発令所に姿を現した。
「動きが早いな」
「こちらを警戒しての事かもしれない」
「皆準備はいいな?」
 アスランの言葉に皆頷いた。
「今から作戦を開始する」
 命令が下ると、四人は格納庫へ向かい発令所を後にした。
「機影が2つレーダーに反応。Xナンバーです」
 とアークエンジェルのブリッジでサイは声を上げた。
「やはりきたわね」
「艦長!」
 ナタルはマリューの命令を待っているようだ。
「ストライク、スカイグラスパーを出撃させて」
 ナタルはマリューの言葉を受け取り、格納庫に伝えた。
「艦長!」
 格納庫のマードックから突然の通信が入った。
「ストライクがもう準備している。そっちもストライクを出せるように早く準備を」
 ミリアリアはマリューの命令を聞き、ストライクの発進シーケンスを始めた。
「ストライク、キラ・ヤマト発進します」
 アークエンジェルからストライクが発進した。

「ディアッカ、足つきからMSが出てくるぞ」
「イザークこっちでも確認した」
「出てくる前に発進口を叩くぞ。ディアッカできるか?」
「全力でやってみるさ」
 ディアッカはバスターの長距離ビームライフルをアークエンジェルのMS発進口に向けた。
 バスターのライフルからビームが放たれたと同時に、ストライクがアークエンジェルの発進口から出てきた。
 ビームはアークエンジェルの右前方を掠めた。
「ちっ!」
 ディアッカが舌打ちをした。
 アークエンジェルから続けてスカイグラスパーが二機発進した。
「作戦変更だ。イザーク、ディアッカ」
「分かっている、アスラン」
 バスターのライフルのビームはストライクを狙わず、アークエンジェルを狙い続けた。
 アークエンジェルは神業的な動きで、ビームの直撃を避けた。
「マジかよ」
 アークエンジェルの動きにディアッカは驚きの声を上げた。
 だが確実にアークエンジェルはアスランの思惑通りの場所に向かっていた。
「ディアッカ!ストライクがそちらに向かっている。その場からはな……」
 突然アスランから通信が入った。
「ディアッカはそのまま打ち続けろ!ストライクは俺が何とかする」
 アスランが話している途中でイザークが割って入ってきた。
 バスターのモニターにストライクが映った。ストライクはバスターを狙っているようだ。
 デュエルはバスターとストライクの間に割って入り、ストライクに向かってビームライフルを構えた。
 ストライクはデュエルのライフルから放たれたビームを簡単に避けた。
 イザークがデュエルのコックピットで舌打ちをする。
「ことごとく避けやがって」
 ストライクがデュエルの攻撃が終わったので辺りを見回した。
 ストライクはバスター、そしてアークエンジェルのから離れた場所にいた。
「ここまで誘導させられた!?」
 キラがその事を気がつくと同時に、金属と何かがこすれる音が辺りを支配した。
 アークエンジェルが岩礁地帯に船体をぶつけていたようだ。
「アークエンジェルが!」
 キラは急いでアークエンジェルへとストライクを加速させた。
 だがストライクの目の前にデュエルが立ちはだかった。
「邪魔だ!」
 キラは素早く操縦桿を動かすと、グゥルを切り落とした。
 グゥルを失ったデュエルは海に向かって落下し始めた。
 ストライクはバスターのグゥルを切り落とした。
 バスターも体勢を崩し、落下し始めた。
「ストライクのパイロットは化け物か!」
 ディアッカがコックピットで負け台詞のような言葉を吐いた。
「イザーク、ディアッカ、一旦母艦に戻れ!」
 アスランは二人に命令を下した。
「分かった」
 二人はアスランの命令に従い母艦へと戻る事にした。
「補給が終わったら戻ってきても構わないな……」
「問題ない」
 アスランは二機が母艦に戻るのを確認すると、イージスをアークエンジェルへと向けた。
 ブリッツは岩礁に乗り上げたアークエンジェルを確認すると、すぐさまブリッツを起動させアークエンジェルへ攻撃を開始した。
 アークエンジェルに衝撃が走る。
「イージスです!」
 MA状態のイージスのスキュラがアークエンジェルを襲う。
 スキュラは確実にアークエンジェルのブリッジを捕らえていた。
 だがそれは何かに遮られた。
 それはデュエルが乗っていたグゥルとストライクの盾だった。
「キラ!」
 アスランはグゥルや盾が飛んできた方向を見た。
 そこにはソードに換装し終えたストライクがいた。
「アスラン!」
 アスランはMAからMSの状態に戻ると、サーベルを構えた。
「キラ、俺がお前を倒す!」
「どうして!?」
「俺はお前に言った筈だ! 倒すとな」
 キラは何も答えない。
 イージスがストライクに向かって走り出す。
 ストライクが一向に動こうとしない。
 サーベルを振り下ろせば、ストライクを切り下ろせる距離まできた。
「僕もアスラン、君を殺したいいんだよ!」
 キラの言葉にアスランの迷いは消えた。
「アスラン、逃げてください」
 突然のニコルからの通信にアスランは驚いた。
 イージスがサーベルを振り上げた瞬間、サーベルの持っていた腕がビームに貫かれた。 
 ムウが乗っているスカイグラスパーからの攻撃のようだ。
「下手糞が!一発で仕留めろと言った筈だ!」
 とアスランの耳にキラの言葉が聞こえた。
「キラ!お前最初から狙っていたのか!?」
「それがどうした!これは戦争なんだろう」
 通信越しにキラの笑い声が聞こえる。
「お仲間が来たみたいだな」
「ニコル、どうしてここに!?」
 アスランに注意がニコルの方へと向いた。
「アスラン!どこを見ている!」
「キラ!?」
 イージスのコックピットに衝撃が走った。
 ストライクの頭部バルカンがイージスを襲った。みるみるとイージスの稼働時間が減っていく。
「他人の心配より、自分の心配をするんだな」
 バルカンを打っているストライクが突然アスランの視界から消えた。
 ストライクはブリッツのグレイブニードルによって吹き飛ばされたようだ。
「アスラン、早く前線から離脱してください」
 ニコルから通信が入った。
「しかし……」
「今の攻撃でイージスはバッテリーが残り少ないはずです。アスランが離脱するまで僕一人で持ち堪えて見せます」
「先ほどの戦闘機は?」
「撤退していきました。だから安心してください」
「わかった」
 アスランは二コルの言葉を信じ、母艦への帰路へと着いた。
「アスランを死なすわけにはいきませんから」
 ニコルはモニターに映る地面に倒れているストライクを睨み付けた。ビームサーベルを抜き出すと、ストライクに向かってブリッツを加速させた。
 ブリッツがサーベルを振りかぶる動作をした時、ストライクは立ち上がろうとしていた。
「遅いですよ」
 ニコルがストライクにサーベルを振り下ろそうとした瞬間、ストライクは体の軸を少しずらしブリッツのサーベルを避けて見せた。
 ストライクは傍にあったシュベルトゲベールを構えると、ブリッツに目掛け振り払った。
「先程とは動きが違う」
 ニコルはその動きに何とか対応し、ストライクの攻撃を避けきった。
 突然、ニコルの顔の表情が変化すると口から赤い液体が流れた。
「無理な加速に体が耐えれませんでしたか」
 二コルが痛みに堪え目前の敵を見据えた。
 ストライクのコックピットではキラが呪詛のごとく何かを呟いていた。
「……ク……に会う…………は死ねないんだ!」
 キラは手に持っている長刀を持ち帰ると、ブリッツに向かって走り出した。
 ニコルはストライクの動きの変化に戸惑った。先程の動きより早く、洗練されていたのだ。
 ストライクの攻撃を何とか避けているが、いつまで続くか分からない状態だ。
「いい加減にしてください」
 ブリッツはミラージュコロイドで姿が消した。
「消えた!?」
 キラは目の前で消えたブリッツに驚き、動きが一瞬止まる。
 ニコルはその行動を見逃さず、すぐさま姿を現すとストライクの向けてビームサーベルを振り下ろした。
 キラは確実に終わりだと感じた。
 だが一向にブリッツのビームサーベルが振り下ろされない。
「キラ、今がチャンスだ!」
 トールから通信が入った。
 トールがスカイグラスパーを使い、ブリッツの行動を止めたようだ。
 ブリッツの動きが止まった。それが致命的だった。相手に隙を見せてしまった。
 ニコルは全身に走る痛みに絶えながら、ブリッツの操縦桿を動かした。
「まさか、もう一機いるとは……」
 ニコルは何とかストライクの攻撃を避けた。
 だが完全には避けきれずストライクの長刀がブリッツの片腕をなぎ払った。
 片腕を切り落とされたブリッツは、ストライクに蹴り飛ばされ海面に叩きつけられ、そのまま沈んでいった。
 すぐさま、ストライクはアーマーシュナイダーを取り出し、沈んでいくブリッツのコックピットに目掛けて投げつけた。
 母艦に戻ったアスランは、イージスのコックピットでシグナルロストとなったブリッツを確認し、言葉を失った。
「そんな馬鹿な……そんな」
 アスランはシグナルロストを表示し続けるモニターを殴りつけた。

 イージスのコックピットに誰かが入ってきた。
 アスランはそんな事も気がつかなかった。
「もうやめろよ」
 アスランに声を掛けてきたのはディアッカであった。
 アスランは何度もモニターを殴り続け、手が傷ついていた。
 しかしアスランは一向に止めようとしない。
「もう好きにしろ。そんの事しても何も変わらないぞ。ニコルも戻ってこない」
 ディアッカはそう言うと、その場を後にした。
 ディアッカがイージスのコックピットから出ると、格納庫の出入り口にイザークが立っているのを発見した。
 ディアッカはイザークの元へと近づいた。
「どうなんだ」
 イザークはイージスを見上げた。
「さっきのイザークより酷いな」
「そうか」
 イザークもブリッツのシグナルロストの情報が入ると、いても立ってもいられず近くにあるロッカーに当たっていたのだ。
「降りてきたみたいだぞ」
 イザークが顔を上へとあげた。
 アスランは二人を無視し、格納庫から出て行った。
「あいつ……」
 イザークがアスランの後を追おうとすると、ディアッカが止めに入った。
「一人にしといてやろうぜ」
「しかし……」
「気持ちの整理が必要だ」
 ディアッカの言葉にイザークは従った。
 アスランはパイロットの着替え室へと向かった。
 部屋に入るとアスランはニコルが使っていたロッカーへと足を進めていた。
 アスランはロッカーのネームプレートを指でなぞる。
 アスランの目から涙が溢れてきた。
「どうしてなんだ……どうして……」
 アスランはニコルの横のロッカーを殴りつけた。それは自分のロッカーだった。
 拳を離すと扉に血がべっとりとついていた。殴った衝撃でアスランの手を切ったようだ。
 アスランがロッカールームから出ようとすると、後ろの方で何かの音がした。
 どうやらニコルのロッカーがさっきの衝撃で開いたようだ。
 ロッカーから紙が数枚床に舞い落ちた。それはどうやら楽譜のようだ。
 その楽譜はすべてが完成していない。
「俺が、私情を挟まなければこんな事には……俺のせいでニコルも、ミゲルも……」
 アスランはその場に崩れ落ちた。
「次は必ず、キラを倒す。倒れていった仲間のためにも!」
 アスランはすぐさま楽譜をロッカーに戻すと、ディアッカ、イザークを探しにでた。

 二人はブリッジにいた。
「二人供、今からすぐに足つきを追うぞ」
 二人はアスランの今までとは違う雰囲気の呑まれ頷いた。
 二人の横にいた艦長、今回の出撃に待ったを掛けた。
「つい先程帰ってきたのに、すぐ出撃など何を考えているんだ!」
 しかし艦長は、三人の目を見ると了承するしかなかった。
 すぐさま補給を終わらすと、アークエンジェルを撃墜するために母艦から飛びたった。 
 先の戦闘から数時間しか経っていない為、アークエンジェルはまだオーブ領海付近の孤島にいた。
 アスラン達、三人は孤島の森を突き進むアークエンジェルを発見した。
「先に行かせてもらう」
「馬鹿やろう!」
 ディアッカがアスランに叫んだ。
 MA状態にイージスを加速させ、アスランはアークエンジェルに接近した。
 アークエンジェルも気付き、イージスを対空バルカンイーゲルシュテルンで狙う。 
 イージスはイーゲルシュテルンのおかげで、アークエンジェルに近づけないでいた。
 アークエンジェルから、ストライク、スカイグラスパーが次々と出てきた。
 アスランはストライクが出撃するのを確認すると、アークエンジェルから離れストライクの所へと向かった。
「アスランそいつはまかせた!」
 ディアッカは、アスランがキラを食い止めている間に、アークエンジェルをつぶす事にした。
 イザークは、アスランと一緒にストライクを潰す事にした。
 バスターのビームがアークエンジェルを襲う。
 ビームはイーゲルシュテルンを貫いた。
 と同時にディアッカはバスターが乗っているグゥルを、アークエンジェルの船尾にぶつけた。
 船尾に搭載されているミサイル発射口を潰す事に成功した。
 そしてディアッカはアークエンジェルの甲板へと着地した。 
「いい加減に沈め!」
 ディアッカはコックピットの中で吼えた。
 バスターのライフルがアークエンジェルのブリッジに照準をつけ、撃とうとした瞬間コックピットが激しい揺れに襲われた。
 バスターのライフルの照準が狂い、ビームが地面と供にアークエンジェルの甲板を抉る。
 ディアッカは、上空を見上げると一機のスカイグラスパーが旋回していた。
 バスターは肩に積んである、ミサイルポットを使用した。
 ミサイルがスカイグラスパーを襲う。
 しかしスカイグラスパーはミサイルを難なく避けた。
 ディアッカはこの事を予想していたかのように、最後のミサイルを避けたと同時に、ライフルをスカイグラスパーに向けて使用した。
 スカイグラスパーはディアッカの攻撃を、何とか避けた。だが完全には避けきれず、翼を切断された。
 この一瞬で形勢は逆転した。
 気が付くとアークエンジェルの火器が、バスターを狙っていた。
「まだ死ぬ訳にはいかない」
 ディアッカはコックピットを開くと、外に出て両手を上へとかざした。 
 アークエンジェルの横に先程のスカイグラスパーが不時着した。
 その頃イザークはようやく、アスランの元へと付いたようだ。
 イージスとストライクの戦いには鬼気迫るものがあった。だが確実にアスランが押されていた。
「アスランそこをどけ!」
 アスランは突然のイザークの言葉を信じ、右へと飛んだ。
 イージスが元々いた後ろから、ストライクに目掛けてグゥルが突っ込んできた。
 ストライクの胸部あたりにグゥルは当たった。直撃したと同時にデュエルがグゥルとストライクに向けてビームを放った。グゥルは、ものすごい勢いで爆発をした。それはアークエンジェルのブリッジからでも見えるぐらいの勢いだ。
 だがストライクはまだ立っていた。片腕をデュエルのビームで貫かれたのか、無くなっていた。
 ストライクがデュエルに向かって突っ込んできた。
 アスランがストライクに向かってMA状態になっているイージスのスキュラを放つ。
 だがストライクは、急速に旋回してそれをかわす。
 その避け方は体に急激のGが掛かる避け方だった。
「あれを避けただと!」
 イザークはストライクのその動きに驚いた。
 Gのある程度の特訓を受けたコーディネータでもきつい避け方なのだが、それがナチュラルにできた事への驚きだった。
 イザークはアスランの声で我に返った。
 モニターを見ると、ストライクがすぐ目の前にいた。
 イザークは操縦桿を動かしデュエルを後方に下げた。
 だが時はすでに遅し、ストライクのビームサーベルがデュエルを無常にも襲う。
「終わりか……」
 イザークが死を覚悟したが、それは一向に訪れない。
 イザークがもう一度モニターを見ると、そこにはストライクの変わりに、イージスが立っていた。
 イージスがストライクをふっ飛ばしたようだ。
「イザーク、お前はもう戻れ!」
 アスランの命令にイザークは怒りをあらわにした。
「その状態で何ができる」
 イザークは自分の機体を確認すると、片腕は切り落とされ、頭部が半分融解していた。
「しかし」
 イザークはまだアスランに抵抗していた。
「無駄に命をなくしてほしくないんだよ」
 とアスランの言葉を聞いたイザークは母艦へと戻った。
「死ぬなよ」
 通信越しにイザークの言葉を聴きアスランは「ああ」と答えた。
「キラ、さあ始めようか……」
 アスランは目の前のストライクを見つめた。
「お友達ゴッコは終わったかいアスラン!?」
「お友達ゴッコだと!? ならお前にもう一度聞く!お前は何のために連合にいるんだ!」
「そんなの決まっているだろう!楽しむためだよ!」
「楽しむ!?」
「もちろん、この戦争をだよ」
「キラァァァァ!おまえはあの時、友の為に残ると言った!それは嘘か?」
「そんな事、覚えていないな」
「覚えていないだと! ふざけるな!」
「ふざけていないさ。覚える価値も無かったって事さ」

 アスランは怒りに我を忘れ、ストライクに向かって突っ込んでいった。
 ストライクはイージスの攻撃を簡単にいなす。
「君が隊長のせいで、仲間が無駄死にしたな。たった一人の友達の為に仲間が何人死んだことか」
「無駄死にだと」
 キラはさらにアスランを挑発した。通信越しにキラの笑い声が聞こえる。
 それがアスランに神経を逆なでにする。面白いようにアスランが挑発に乗り攻撃を繰り出していく。
「君は馬鹿の一つ覚えのように同じ攻撃をするんだね」
 すると突然、アスランの攻撃がやんだ。
「お前は誰だ!」
 とアスランはストライクに向かって叫んだ。
「アスラン何を言っているんだい?僕はキラ・ヤマトだよ」
「俺の知っているキラ・ヤマトではない。だからお前を撃つ」
「そうやって自分の思いを殺すのかい? まぁいいさ。撃てるものなら撃ってみなよ」
 アスランはコックピットで叫んだ。目の前の敵を倒すために!仲間の命を奪ったMSを破壊するために。言葉にならない叫びを上げた。
 するとアスランの中で何か異変が起こった。
 ストライクの攻撃がすべて手に取るように分かるのだ。
 先程とは逆に、圧倒的にストライクを押していた。
 キラはストライクの手に持っている盾を、イージスに向けて投擲した。
 アスランはイージスを動かし飛んできた盾を難なく避けて見せた。
 イージスの後ろには、スカイグラスパーが一機飛んでいた。
「キラァァ!」
 トールの声がキラの耳に届く。
 盾はスカイグラスパーの翼をかすめ、大地へと突き刺さった。
 スカイグラスパーは、そのまま姿勢を制御しきれずあらぬ方向へと墜落していく。
「使えないな」
 キラは冷たい目で墜落するスカイグラスパーを見つめる。
 イージスのコックピットでアスランは、キラの行動に呆然となった。
「自分の仲間の事を気にせず盾を投げつけたのか?」
 キラはモニターに写っているイージスの動きが止まっているのを確認すると、イージスに向かって加速した。
 アスランはストライクが向かってくるのに気づくと、イージスをストライクに向かって加速させた。
「お前は仲間を何だと思っているんだ!」
「使える駒」
 キラの声には感情がこもっていなかった。
「お前は俺が必ず殺してやる!」
 イージスのビームサーベルがストライクのコックピットに振り下ろされる。
 ストライクはそれを紙一重でかわす。
 ビームサーベルはコックピットの装甲を溶かした。
 アスランは、ストライクのコックピットに乗っていキラを見た。
 アスランはキラの表情に驚いた。
 キラは顔は狂気に歪んでいた。
「キラなのか……」
 それはまるで別人かのごとき顔をしていた。
 MA状態になったイージスはストライクががっしりと掴み込んだ。
「キラ!お前を楽にしてやろう」
 アスランがイージスのスキュラを放つ。だがスキュラは不発に終わった。
「バッテリー切れか。くそ!何か方法はないか!」
 イージスとストライクのバッテリーが切れた。
 アスランは素早テンキーである番号を打ち込んだ。するとモニターに10:00と出た。
 すぐさまアスランはコックピットから出ると、イージスから離れた。
「さよならだ、キラ」
 イージスの閃光と共に爆発した。その爆発はストライクも巻き込んだ。
 アークエンジェルのブリッジでミリアリアの叫び声が響いた。
「ミリィ!」
 サイがミリアリアの側に駆け寄った。
 ミリアリアの体が小刻みに震えていた。
「大丈夫か?」
 サイの言葉にミリアリアは何も答えない。
 サイの顔色が変わった。
「この状態は……あの時と一緒か!キラ、トール……生きていてくれ」
 ナタルもミリアリアを心配し、近づいてきた、
「医務室に連れて行っていいですか?」
 サイがマリュー達に問う。
 マリューはミリアリアの状態を見ると、医務室に連れて行く事を了承した。
 ミリアリアは、ブリッジに入ってきた医療スタッフに支えられブリッジから出て行った。
 出て行くミリアリアを見つめるサイの、後ろでマリュー達はアークエンジェルの近くで起こった爆発と炎上する森を見つめ、息を呑んでいた。


第7話完
第8話へ続く

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