LSD_第07話後編

Last-modified: 2008-05-04 (日) 05:56:34

「八神部隊長、ハラオウン隊長。先に現場へ行ってください」
 エクシードモードの”レイジングハート”を横に一閃。なのはの周囲に無数の桜色の球体が現れる。
「彼らは私とヴィータ副隊長、シグナム副隊長で何とかします」
 なのはと同時に前に出るヴィータ、シグナム。すでに彼女らも臨戦態勢に入っている。
 それに呼応するように彼らから放たれる殺気も強まる。
<なのは……>
 心配そうな親友に、なのははいつもの明るい声で応じる。
<すぐに追いつくから、心配しないで>
 僅かに顔を傾け笑み見せる。不安の色は消えないものの納得はした様子で、フェイトははやてと共に先に進む。
 その彼女たちに向き直るカーキ色の魔導士。奇妙な雄叫びを上げて砲撃を放とうとする。
「――!」
 それが合図となった。なのは達はそれぞれ、己の相手に向かって行く。
「今日こそ滅殺!」
 なのはの相手――黒の魔導士、名前はクロトといった――は射撃魔法を放ちながら、猛スピードで迫ってくる。
『アクセルシュート』
 桜色のスフィアを正面に半数発射する。数十もある光弾をクロトは全くスピードを落とさず突っ込み、かわす。
「見慣れてんだよ! お前のヘナチョコ弾は!」
 光弾の群れを抜けたと同時、残り半数のスフィアを、先程放ったリミッター状態のスピードではなく、本来のスピードで放つ。
「なっ!?」
 クロトの戦いの愉悦に染まっていた表情が瞬時に驚愕へと移り変わる。急停止し防御魔法を展開。何とか全弾防ぎきるが、
「後ろ、見なくていいの?」
 先程回避された弾が驟雨のようにクロトの背に襲いかかる。反応することもできず打ちのめされるクロト。 
「…お前っ! 抹殺!」
 一瞬蹌踉めくも、すぐに体勢を立て直し鉄球の一撃を放つクロト。軽やかになのははそれをかわし再びアクセルシューターを放ち、今度は全方位から同時に向かわせる。
 バリアを張り防ぐ魔導士。その間”レイジングハート”のカートリッジを伸縮。
「ディバインバスターっ!」
 放たれる砲撃はバリアを解除した魔導士へものの見事に命中――
「回避された。レイジングハート!」
『左上を! マスター!』
 相棒の声と同時に迫るどす黒い怒気。なのはが離れた瞬間、その場所を鉄球が通り過ぎるが――
「滅っ、殺――!」
 かわした鉄球が急な方向転換をしてなのはに迫る。思わすなのはは防御魔法で鉄球を受け止める。
『マスター!』
 呼ぶ声に反応すれば、背後から魔導士が迫ってきていた。

 

――鉄球でこちらの動きを止めて、後ろからの強襲…! 
「もらっ」
『ディバインシューター!』
 回避姿勢をとりつつ放つスフィア。しかし相手の勢いを完全には止められず、弾き飛ぶなのは。
「くっ…!」
 危なかった。気が付くのが後数秒遅れていたらまともに食らっていた。
 しかし今のような変則的な攻撃は今までになかった。まさか自分達同様、彼らは手を抜いていたのだろうか。
 警戒するなのはだが、幾度かの攻防の後それが杞憂だと気が付く。先程と同じような見慣れぬ攻撃は幾度と仕掛けてくるも、動きや魔力などが上がった様子は感じられないのだ。
 野生の獣が本能でやり方を変えた。そのような印象だ。放つ言葉も、表情もいつもと変わりない。
 とは言え油断はしない。リミッター解除をして力が上回ったとは言え、相手もそれに近いレベル。気を抜けば堕ちるのはこちらだ。
「堕ちろ――っ!」
 放ってくる砲撃に、なのはも鏡のように返す。数秒の競り合いの後、競り勝ったのはなのはの砲撃だ。
 桜色の砲撃に包まれ、吹き飛ぶクロト。しかしすぐさま体勢を立て直すと高速でこちらに向かってくる。
 相変わらず並ならぬ強靱さだ。並の魔導士なら何十人が昏倒するほどの魔力ダメージを与えているというのに、まるで堪えた様子がない。
 これがブーステッドマン、戦うためだけに造られた魔導士というものなのか。
「一つ聞かせて。あなたはどうして戦っているの」
 数十回目の交差の後、前々からずっと思っていたことをなのはは訊ねる。鬼のような形相を浮かべていたクロトは一瞬呆けた顔になり、すぐ見下すような笑みを浮かべて、
「戦うのが仕事――いや、ボクらの存在意義だからさ」
「存在意義?」
「僕達のオリジナルもいっぱいいっぱい戦って、敵を倒したって聞いてる。ならそのクローンであるボクらも当然、戦うべきさ」
 当然のように言う彼に、なのはは絶句する。
「戦って、戦って。敵をいっぱいいっぱい倒す。それでいいのさ。
 何より、僕達はそれで満足してるからね。楽しいし」
 心底満足そうに笑うクロトを見て、なのはは憤るよりも、悲しくなる。
 彼は、彼らは知らないのだ。戦うこと以外のことを。本当に戦うことだけの存在なのだ。
「……レイジングハート」
「だからお前もさっさと堕ちろよ! 抹殺!」
 放たれる鉄球。目の前まで迫ったそれは、レストリクトロックで静止する。
『バレルショット』
 直後、放った衝撃の渦がクロトの体を硬直させる。さらにカートリッジ音を鳴らせつつ、四肢にリングバインドをかける。
「な!?」
「……あなたのオリジナルの人は、あなたの言うとおりたくさん戦って戦って、多くの人を傷つけたのだと思う。
 でも、あなたはその人じゃない」
 凄絶なまでに美しく、凶暴な桜色の魔力が”レイジングハート”の杖先に収束する。

 

『エクセリオンバスター』
 放たれる極大の砲撃。目映い光がクラナガンの空に弾け、地鳴りのような爆発音を響かせる。
 気絶し、地上へ落下するクロトをバインドで縛り、なのはは言う。
「戦う事じゃない、あなたの、あなただけの存在意義はあるよ。きっと」
 駆けつけていた局員に魔導士を任せ、なのはは友の待つ空へ向かった。

 
 

「クロト!」
 撃墜され、捕縛された仲間を見て叫ぶ青緑の騎士甲冑を纏う魔導士。
 こちらから目を離した一瞬の隙を、シグナムは見逃さない。敵を間合いに捕らえると同時、大上段から斬撃を放つ。
「っ!」
 右手に持つ砲塔で受け止める魔導士。以前なら互角の鍔迫り合いだったがリミッター解除したシグナムの一撃は、受け止めた砲身ごと魔導士をはじき飛ばす。
「ちぃっ!」
 弾いたと同時に誘導弾を放つ魔導士だが、その行動もシグナムの予想の範疇。咄嗟に発動しただけあって軌道も出鱈目、速度もさして速くないそれをかいくぐり剣戟を叩き込む。
 魔導士は防御魔法を張って剣戟を受け止めたり、弾幕や牽制の射撃を放ってくる。自分の距離をとろうとするが、シグナムは引き離されない。
 シグナムは目の前の男よりずっと腕のいい砲撃魔導士との交戦経験がある上、彼らクローン魔導士についてのシュミレートや研究も行っている。いい加減成長を見せない彼らの野生じみた攻撃にも慣れてこようというものだ。
「おおおおっ!」
 再度、振り下ろしの一撃。再び砲身で止めた、と思われたが刃が流れる。
「オラァ!」
 ”レヴァンティン”の刃を砲身で受け流したのだ。僅かに蹌踉めいたシグナムへ、魔導士は反転。ゴテゴテの青緑の甲冑を着る身のこなしとは思えないほどの鋭い蹴りを放ってくる。
 初めての、砲撃以外の攻撃に驚きはしたが蹴り自体はそう驚くべき程のものではない。身を屈めてかわす。
 こちらが体勢を立て直したときには魔導士は離れており、右腕と、両肩にマウントされた砲塔に魔力の光が輝いている。
 相手にとっては絶好の、こちらにとっては一瞬で捕らえきれない距離。砲塔から放たれる光も数秒後には発射されるというのもわかっている。
「まだ、わかっていないようだ。――レヴァンティン」
『シュランゲフォルム!』
 主の命を受け、瞬時に魔剣は連結刃へと姿を変えると、隼の如く滑空し魔導士の両足へ切っ先を絡ませる。
「ああああっ!」
 大きく体を動かし、”レヴァンティン”を振り回すシグナム。なのはが撃墜した魔導士が鉄球を振り回すように数回振り回し、近くの廃ビルめがけて放り投げる。
 抵抗もせずビルに突っ込む魔導士。それを見届けた後、後ろで似たような轟音がきこえる。
 見れば地上近くの空域で”グラーフアイゼン”をギガントフォームに変え肩に担ぐヴィータの姿と、その眼下にはものの見事に陥没し、空いた穴と、湧き出る煙が見える。

 
 

<……ヴィータ、少しやり過ぎだ>
<おめーだって、似たようなことしただろ>
<壊した場所が違う。誰もいない廃ビルと人々の通る道路。迷惑度と被害度はどちらが大きい?>
<うっせーなぁ……と、来るぞ>
<ああ>
 念話を打ち切り、シグナムは急上昇。直後三つの砲撃がビルから放たれる。
 ビルを破壊して出てきた魔導士はいくらかのダメージは受けているようだが、それでもまだまだ戦えそうな様子だ。
「てめぇぇぇぇっ!」
 放たれる砲撃を軽やかにシグナムは回避し、シュランゲフォルムの”レヴァンティン”を振るう。
「私は高町のように、甘くはないぞ」
 砲撃をかいくぐる連結刃は魔導士の右手から砲塔をはじき飛ばす。さらに続く動きで右腕を縛ると、先程の再現。魔導士を振り回し先程叩き込んだビルへ、今度は屋上から縦に、叩きつける。
 さらにシグナムはビル手前の道路に降り立つと、ビルの真ん中程までに埋まったレヴァンティンを引き抜きカートリッジ、ロード。
「飛龍、一閃!」
 切り上げる連結刃の斬撃はビルをバターの如く切り裂き、さらに連結刃はビルに巻き付き、炎を巻き起こす。
 これだけやれば一流の魔導士でも生きてはいないだろうが彼らは別だ。このぐらいで死ぬような連中ではないと知っている。
 とはいえこれだけやられればさすがに立ち向かっては来れないだろう――そう思ったとき、炎に包まれたビルを突き破る砲撃。
「な――」
 直進してくる砲撃をシグナムは思わず身構えて受け止める。だが予想を超えた威力に押され、近くのビルへ叩きつけられる。
――まさか……あれだけの攻撃を受けてまだ戦えるのか!?
 シグナムがめり込んだ壁から離れると当時に、姿を見せる魔導士。騎士甲冑はボロボロ、背部の砲身の片方は無惨に砕け、右手に持つ砲身は火花を散らしている。
 だがこちらを見る魔導士の目はぎらぎらと異様に輝いている。シグナムは一瞬気圧されるも覚悟を決め、”レヴァンテイン”を構え直すが、
「……先程のは、最後の一撃だったのか」
 糸が切れたかのように魔導士は地面に倒れる。傷だらけな魔導士を見てシグナムは近くの局員達に救援を要請した。

 
 

「シグナムも終わったみてーだな。そんじゃあたしも一気にカタつけるか!」
”グラーフアイゼン”を握る両手に力を込め、ヴィータはカーキ色の魔導士に迫る。
 魔導士が放つ砲撃や魔法弾を淀みのない動きでかわし接近。鉄鎚を振り下ろす。
「らぁっ!」
 魔力の籠もった鉄鎚が振り下ろされた先には、魔導士の顔面を守るべく正面に移動した、両肩に装着されてある盾がある。
 淡いカーキ色の魔力を発する盾。”グラーフアイゼン”の一撃はその魔力を浴びて、受け流される。

 

 ゲシュマイディッヒ・パンツァー。魔力をねじ曲げるCEの特異魔法。今までこの盾や魔法に散々直撃を流されていた。
 だが、もう違う。
 鉄鎚を振り切った体勢のヴィータに魔導士が正面に回していた盾を元に戻し、持っている鎌を振り下ろす。
 目に見えずとも、長年の戦闘経験でそれを察知したヴィータはパンツァーシルトを発動させ受け止める。
「いい加減、お前達の考えのない戦い方には飽き飽きしてんだよ!」
 振り切った体勢から瞬時に再び降り上げの姿勢をとり、鉄鎚を振り下ろす。鎌を引き再び盾を展開する魔導士。
 ヴィータはスピードを緩めず――相手の盾の前に鉄球を二つ精製し――鉄鎚を振り下ろした。
 展開した盾に叩きつけられる魔力の籠もらない鉄球。それは拳大の穴を盾に刻みつけ、新たなひび割れを刻む。
 目の前の魔導士は純粋なミッド式魔法を使用する魔導士にとっては最悪の相手だ。なにせありとあらゆる魔力をねじ曲げてしまうのだから。
 だが古代ベルカ式の使い手であるヴィータにとってはそうではない。今のように魔力の籠もらない物体を攻撃に利用する手もあるし、何より彼女の手には何者をも打ち砕く鉄の伯爵がある。純粋なパワーだけでも、押しつぶせる。
「あああっ……!」
 ヴィータの一撃を受けて吹き飛ぶも、牽制の射撃に湾曲する砲撃を放ってくる。射撃はともかく湾曲する砲撃は一度かわしたつもりでもあらぬところから襲ってくるので注意が必要だ。
 射撃をかわし、砲撃が向かってこないことを確認してヴィータは正面に向き直る。
「死ねよー!」
 音の外れた声を出し、鎌を振り回す魔導士。近接近では叶わないと先程、何度も地面に叩きつけて教えてやったというのに、この攻め方。
「頭ねーのかよ!」
 鎌の斬撃と本人をまとめて”グラーフアイゼン”でぶっ飛ばす。体勢を立て直した魔導士の背後に移動し、こちらに振り向く前にさらにもう一発。
 今日で何度目になるか、魔導士が地面に叩きつけられる。
「……そろそろ上がってくるかな」
 呟いて数秒、崩落跡からもうもうと沸いてでている煙を突き破って魔導士が飛び出してくる。
「この、この、このー!」
 感情のままの無茶苦茶な砲撃。それらを気を緩めず回避しながらヴィータは一体どうやったら捕縛できるか考える。
――あーもう、面倒だな。リミットブレイクで一気に終わらせるか?
 幾つかの方法を考えるも時間がかかったり、成功率などに問題があったりなどの問題点が出てきて、思わずそんなことを考えてしまう。
 だがすぐにその方法も却下する。魔力消費が半端ではないリミットブレイクをここで使用しては後々で困ることになりかねない。かといって目の前の相手は半端な攻撃では倒せない。
「っ!?」
 湾曲した砲撃が騎士甲冑にかする。ヒヤリとし、ヴィータは魔導士を見やる。
 傷つきボロボロの姿。しかし怒りと狂気の色はその面から少しも色あせていない。

 

――甘かった
 目の前の相手には捕縛する、と言う甘い考えで挑むべきではない。戦えなくなるまで完膚無きままに叩きのめすべきだ。
 決意し、ヴィータは早速行動に移る。慣れきった砲撃や弾幕をかいくぐり懐に入るや”グラーフアイゼン”を叩きつける。
 敵は当然両肩の盾を前に出し、”ゲシュマイディッヒ・パンツァー”を発動。それがわかっているヴィータは初撃はわざと外し、二撃目に力を込める。
 攻撃を逸らしたはずの相手が即座に攻撃をしてくることに驚く魔導士。吹き飛ぶ瞬間、驚愕の表情が一瞬見える。
 ヴィータは手を緩めない。すぐさま追いつき”グラーフアイゼン”を振るう。前回の轍を踏まぬよう足りない頭で考えたのか、今度は盾を展開しない。
 だがヴィータにとってそれは望む展開だ。初撃に魔力を込めて叩きつける。
 ヴィータが向かってくる度、魔導士は先と同じ方法か、それ以外の防御、または攻撃を仕掛けてくる。
 繰り返すが、彼らは強い。リミッター解除した自分達に匹敵する魔力量と魔法を持っている。
 だがその力を最大限に生かす理性と知恵がない。――だから感情にまかせた、魔法に頼り切った行動しかできない。
 もう何度目になるか、”グラーフアイゼン”に吹き飛ばされる魔導士。ヴィータは魔導士を追わず”ギガントフォーム”の鉄鎚を構え直す。
「これで、終わり…だっ!」
 右から左に大きく振るうと、デバイスモードの名を表わすかのような巨大な鉄鎚に変化する。
「ギガント・シュラーク!!」
 振り下ろされる巨人の鉄鎚を受け止めべく魔導士は盾と魔法を発動させる。――だがあまりの大きさに盾も、魔法も効果は発揮されない。
 近くに並ぶ小さなビルを巻き込み、鉄の伯爵は破壊の跡をクラナガンの大地に刻む。
 怪獣のような叫び声に似た轟音が収まり、叩きつけた場所には大の字で倒れている魔導士の姿がある。
 地上におり、間近で見ると苦しげに呻いている。昏倒しているかと思ったが、この様子を見てヴィータは彼の頑丈さに呆れる。
 念話で近くにいる局員に捕縛と連行を頼むと、消費したカーリッジに弾丸をつめつつ空へ上がる。
「終わったようだな」
「まぁな。しぶとかったけど。…てか、待ってたのかよ」
「少し疲れたのでな。――お前もそうなのだろう?」
 ヴィータは黙り、そっぽを向く。確かに彼女の言うとおり、結構な疲労がある。体力も魔力、それなりに消耗してしまった。
 だがあえて、こう言う。
「別に。こんぐれー大したことねーよ。それよりもさっさとはやてやなのは達と合流しようぜ」
「そうだな。あまり遅くなっては余計な心配をさせてしまうからな」
 微笑して頷くシグナム。なのは達の向かった先へ視線を向けたその時、全身におぞましい殺気が降りかかる。
 忘れようもない、あの男が放っているものだ。

 

「シグナム!」
 叫びと同時、殺気の方向へ振り向く。どこかの企業ビルの頭頂部に青紫の甲冑を着た狂人がいる。
「ほう、あのクローン共を倒したか。大した傷も負わず、これが貴様達の本来の実力というわけか」
 こちらを見下すアッシュ・グレイ。ヴィータとシグナムは同時に動き彼の正面と背後に回り込む。
「今日こそ、逃がしはせん」
「叩きのめす」
 目の前の男は先程の魔導士よりも数段強敵だ。だがリミッター解除した自分とシグナムの二人がかりで負けるとは思わない。奴のデバイス”リジェネレイト”を考慮したとしても。
 自分とシグナムを交互に見て、アッシュは笑みを浮かべ、言う。
「本来の貴様達を殺すには”リジェネレイト”では時間がかかる。まだあと四人もいることだし――」
 言葉を紡ぐアッシュの騎士甲冑が変化していく。
「さっさと終わらせるか。この”テスタメント”で」

 
 

 ガジェットやMAの群れを突破し、最後に立ち塞がったザムザザーを撃墜すると、休む間もなく周囲を索敵する。
「アズラエルはどこに…!?」
 ガジェットがあちこちにいるせいか、クラナガンの空はAMFの濃度が濃い。念話に索敵魔法は役に立たず、電波状態もあまりよくはない。
 それでも三人は周囲を必死に探す。
「! フェイトちゃん! あそこ!」
 なのはが叫ぶ。彼女の示す方角を見ると桜色のサーチャーと、その側に足下に巨大な三角魔法陣を展開しているアズラエルの姿がある。
 また何か呼び出すつもりなのか。止めるべく三人は急行する。
「そこまでです!」
「観念して、武装の解除と機動兵器を停止してください!」
 フェイト、なのは、はやての順で辿り着き、アズラエルを囲む。
「ご苦労様ですね。――でも、一足遅かったな」
 しかし彼は全く意に介さず、歪んだ笑みを浮かべ右手を振り上げる。
 するとそれが合図だったのか、足下に敷かれていた未完成と思われていた魔法陣が輝きだし、同時にガジェット達が発生した六つの発生源からも光が立ち上る。
「ハハハハハハハハッ」
 高笑いするアズラエル。彼を桜と黄金のバインドのが縛り上げる。――だが彼の周囲から六つの光と同様の光が発し、その光がバインドを霧散してしまう。
「遅いんだ。遅すぎたんだよお前達は! このボクが、ただあちこちに逃げ回っていただけだと思っていたのか!」
 空に向かって突き立つ光はゆっくりと魔法陣を描いていく。
「疑問にも思わなかったのか!? ボクの隠れ家の多さを! お前達はボクばかりを見ていた! だから見落としていた! ボクのいた場所に何があるのか、その仕掛けを!」
 高笑するアズラエル。彼は天に伸びる光へゆっくりと移動する。
 逃すまいとはやては近づくが、突然足下に浮かび上がった魔法陣から沸いてでたバインドが体を縛る。

 

「お前達の犯した最大の致命的ミスはこのボク、ムルタ・アズラエルを侮ったことだ!」
 一本一本の強度はさほど強くないものの、体の箇所に無数に、そして複雑に絡まっている。なのは達も同様の姿でバインドを解除するのにてこずっている。
「CEのデータを見ただけでボクのことを知ったと思いこんだ。どこにでもいる、ただの一流の召還士だと」
 謳うように言葉を紡ぐアズラエル。空へ浮かび上がった彼はオーケストラの指揮者のように両腕を動かす。
 すると空に魔法陣を描いていた光の動きが、俄然よくなる。
「もし”ロゴス”のデーターベースが残っていれば正確な情報を知ることもできただろうに。……まぁボクが目覚めたときに、真っ先に命令して消してしまったからやはり残っていても意味はないか」
 バインドを破壊しアズラエルへ迫るフェイト。しかし彼の前に魔法陣が浮かび上がったかと思ったその時、ザムザザーが姿を見せる。
「ボクの、いや数多くの兵器を造りあげたアズラエル家の当主が持つ固有スキル。我が家の刻印が刻まれた兵器を無尽蔵に召喚する技能――『アズラエル・ハンガ』」
 ザムザザーを破壊するも次々と浮かび上がる魔法陣。そこからMA達、さらには見たこともないような兵器が数多く出てくる。
 一つ一つは消して脅威ではない。しかしこの状況では最悪の――アズラエルにとっては最高の――時間稼ぎ要員だ。
「魔法が完成するまでのしばしの時間、そいつらと遊んでいろ」
 向かってくる兵器群は主の命のまま、はやて達の前に立ち塞がる。
 そして半数ほど撃墜した時、天空に刻まれた魔法陣は輝きを放ち、空間が大きく歪む。
 雷を伴った歪みと共に現れたものを見て、はやては叫ぶ。
「戦艦!?」
「名はドミニオン。青き清浄なる世界を守護する偉大なる天使だ」
 漆黒に染まるその戦艦は、天使と呼ぶにはあまりにも禍々しい輝きを放っていた。