Lnamaria-IF_赤き月の鷹_第25話

Last-modified: 2020-01-29 (水) 08:46:16

しあわせのありか

「気をしっかり! バルトフェルドさん!」

アスランが、ミネルバに収容されたジャスティスからバルトフェルドさんを担ぎ出している。
これが名高いアンドリュー・バルトフェルドか。
あたしも手を貸す。

「う……」
「痛いですか? すみません。ストレッチャー早く!」
「……それよりも、教えてくれ。エターナルはどうなった? アークエンジェルは……」
「アークエンジェルは無事です。エターナルは……艦橋以外は無事です」
「……そうか……ラクス!」

彼は気を失ったようだった。そのままストレッチャーに運ばれていった。


「それにしても、ユウナ・ロマ・セイランが生きていたとはねぇ。あたし驚いちゃった」
「ああ、なんでも、黒海遠征で率いていた部隊を中核にして国防本部を制圧、カガリ・ユラ・アスハ代表首長を捕縛したと言う話だ。スカンジナビア王国でも共和派のフォン・マンネルヘイム元帥がクーデターを起こして、話し合いを求めてきたらしい」
「私、嬉しいな。彼が生きててくれて」
「俺もだ」
「いい男っぽかったものねぇ。凛としててさ」
「アスラン……またあの時みたいに閉じこもっちゃった」
「昔仲間だった人を、亡くしたんだものね」
「心配するなよ、ルナ。アスランはまたあの時のように立ち直るさ」
「そう、そうよね!」

戦いは終わった。
その後、プラントのデュランダル議長、オーブ宰相のウナト・エマ・セイラン、スカンジナビア共和国のフォン・マンネルヘイム大統領、そして大西洋連邦のジョゼフ・コープランド大統領を中心として世界各国の首脳と会談が持たれ、しばらく後に新国際連合の発足が宣言される事となる。

エターナル乗員の生き残り、そしてラクス・クラインに同調していた傭兵やジャンク屋ギルド員はプラントによって裁かれる事を免れた。
宰相に返り咲いたウナト・エマ・セイランがしたたかな交渉力で彼らをオーブ国民、軍人であったととして認めさせたのだ。
しかし、その代わり、ジャンク屋ギルドは解体、彼らの黒幕と目されたマルキオ導師は終生軟禁状態に置かれる事となった。

「そう言えば、フリーダムに乗っていたのは、世界的にも有名なサーペントテイルって傭兵部隊のエースだったんだって」
「なんだよ、いきなり」
「ふふ。シンもよくやったって事よ。おめでとう!」
「あ、ありがとう!」

シンとレイ、そしてアスランとハイネは、ネビュラ勲章を受章したのだ。
あたしも三個目を受賞した。そしてそのついでと言う訳でもないだろうけど、再編されるミネルバのモビルスーツ隊の隊長になる。


ミネルバがその傷を癒し、月軌道に配置されると言う時、タリア艦長がいきなり艦を降りる事が知らされた。

「なんでですか? いきなり。私、艦長の下でモビルスーツ隊の隊長やるの楽しみにしてたのに」
「しょうがないでしょ。できちゃったんだから」
「できちゃったって? えー? 赤ちゃん!?」
「ルナマリア、声が大きい」
「あ、すみません」
「それにしても、不思議なものねぇ。ふふ。あ、結婚式には呼ぶから出て頂戴」
「え、誰、そう言えば誰とのお子さんなんですか?」
「……ギルバート・デュランダル」
「えー!? 議長!? あー、やっぱり」
「やっぱり? ばれてたのね。やっぱり艦内じゃまずかったかしらね」
「え!? 艦内でって……」
「あら、やぶ蛇だったかしら。でも計算するとちょうどその頃なのよね」
「あは。とにかく、おめでとうございます!」
「ありがとう。あなたの恋もうまくいくといいわね」


しばらく経って、プラントでアスランにあった時、議長とタリアさんの結婚式の話題になり、ふと彼はつぶやいた。

「そういえばさ、マリューさん――アークエンジェルの元艦長と、バルトフェルドさんが結婚したって知らせてきたよ」
「そう、バルトフェルドさんが……」

アスランは涙ぐんでいた。

「嬉しいよな。昔の仲間が生きててくれて、幸せになってくれて……」

デスティニープランは、結局あたしが心配するまでも無く、評議会、および各国で慎重に協議された上で、導入された。
とりあえず雇用の保障による治安の改善、そしてブレイク・ザ・ワールドからの効率的な復興には役立っているようだ。プラントにもハーフコーディネイターやナチュラルの大規模な移民が募られ、プラント=コーディネイターと言う図式は崩れ始めている。コーディネイターはナチュラルに還るのだ。


口の悪い人は、議長がタリア艦長との間に子供がすんなり授かった事で、遺伝子学者として評価を落としたからデスティニープランで強く出れなくなったのだと言う。それでもいい。議長とタリアさんは、レイ、それに回復したエクステンデットの少年少女も引き取り、にぎやかで十分幸せそうだ。

「シンは? シンは来ないの?」

あたしが議長の――そしてレイの家に行った時、金髪の女の子――ステラがいきなり玄関に走ってきた。
回復したエクステンデットの少女だ。今はこの家の養子となって、学校に行っている。踊りが好きな子だ。

「シンは任務中だ。来月は来るさ」
「なぁんだ」
「レイ! 元気そうね」
「ああ、おかげさまでな」

戦争終結から一年後、今、シンはミネルバ級二番艦「ウラニア」のモビルスーツ隊隊長に任命され、今はミネルバと入れ違いに月軌道艦隊で任務に付いている。
レイは本国防衛艦隊でやっぱりモビルスーツ隊をひとつ任されている。

「ステラは相変わらずシン、シンね。シン、よく来るの?」
「ああ、ルナマリア以上には来てるな」
「ふふ、ステラが目当てかな?」
「そうかもな。最近じゃ二人で出かけたりもしてるみたいだぞ」
「ふふ、そっかー。最初にシン、この家でステラに会った時から気になってたみたいだものね」
「そっちはどうだ? アスランとは」

アスランはアスラン隊隊長になり、あたしがいるミネルバも含めて艦隊を率い、シン達の艦隊と交代で月軌道防衛の任に付いている。当然、旗艦のミネルバに座乗している。

「もちろん順調よ」
「そうか。よかったな」
「ありがと。レイは浮いた話とかないのー?」
「こいつ、ミーア・キャンベルって言うシンガーソングライターと付き合ってるぜ」
「あ、アウル! お久しぶり! 今の本当? ミーア・キャンベルって、大手のミュージックレインボーってレーベルがプッシュしてる歌手よね?」
「ああ。こいつがミーア・キャンベルと街歩いてるところ、見ちまった」
「……まぁ、そんなところだ。ショーンと逢ってる時に紹介されて、意気投合してな」
「やるじゃない! レイ!」

アウル――回復したもう一人のエクステンデット、彼もやはりこの家の養子になっている。彼にははっきりした夢がある。今まで殺す事ばかり教えられてきたからこれからは生かす事――医者になりたい、と言っている。

ショーン。彼はザフトを辞めた。何をするかと思ったら、次に会った時はアクション俳優になっていた。今年、彼が主役の映画が公開される。前評判は上々だ。
ザフトを辞めたと言えばゲイルもそうだ。航空輸送会社を興すと共に作家としても活躍している。最近彼女の書いた『ザ・スペシャリスト あるMSパイロットの告白』と言う本が出版された。

「ぁー」

とことこと、幼い女の子が歩いてくる。

「きゃー! ダイアナちゃん! 歩けるようになったのね!」
「ああ、最近かな? 言葉はまだしゃべらないが。子供はいいな。未来の塊だ」
「可愛い盛りでしょう」
「ああ、妹と言うものは可愛いものだ。さあ、入り口で話していてもしょうがない。上がってくれ」
「そうね。おじゃましまーす」


オーブでは、一旦は代表首長に就任したユウナ・ロマ・セイランだが、奇怪な事に戦争から一年ほど経った頃、国民の統一の象徴として、カガリ・ユラ・アスハを代表首長に返り咲かせた。さらに一年後、二人は結婚した。あたしがその時結婚式に参列する議長の護衛としてオーブを訪れた時には、とても仲睦まじそうな二人に見えた。

結婚式の前日、泊まっている部屋をノックされた。

「どうぞ」

アスランが鍵を開ける。

「え!? カ、カガリ!?」

え? そこには、シャツにズボンといった目立たない服装で、カガリ・ユラ・アスハが立っていた。

「早く中に入れてくれ! 見つかる!」
「あ、ああ」

アスランは手早く彼女を中に入れると鍵をかけた

「……一度、直接会って、話したかった」
「私、席外そうか」
「いや、ルナマリア・ホークと言うそうだな。あなたもいてくれ」
「……はい」

「アスラン。約束を破ってすまない」

彼女は深く頭を下げて、封筒を差し出した。

「だから、これを返さなくちゃと思って」
「これは、オーブの、あの時の?」
「そうだ」
「……カガリ、ひとつ聞いておきたい」
「なんだ」
「本当に、ユウナ・ロマ・セイランが好きで結婚するのか?」
「……ああ。あいつは、国外追放されても足りないくらいの私を見捨てずにいてくれた。そして教えてくれた。上に立つものの責任、義務。私はディオキアでお前に言われて、わかったつもりで全然わかってなかった。今は、ユウナと二人で、これからのオーブを作って行きたい」
「そうか。彼とは戦ってしまったが、案外いい奴みたいだったと感じたよ。それに、父親に似てしたたかになって来ている。うちの議長も苦労している。オーブは安心だろう」
「そうか」
「おめでとう。カガリ。心から祝福するよ」
「……ありがとう。じゃあ、マーナが心配するから帰るな」
「ああ」
「ルナマリアさん」
「あ、はい」
「こいつを頼むな。こいつは時々優柔不断で情けなくて、でも、とってもいい奴なんだ」
「……はい!」

あれから一年後――
アスランはと言えば、今、あたしの左手に指輪を着けている。照れくさそうにする彼の瞳。あたしたちは皆の祝福の中、誓いのキスをした――

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