崩れる日常
「だからー、そういうんじゃないんだってばー」
「えー、うっそー!」
「もう、白状しちゃいなさいよー」
カトー教授のラボに向かっていると、前から明るい声が聞こえてきた。
後輩のフレイとその友達が話してる。
フレイは、同性のあたしから見ても明るい栗色の髪を長く伸ばして、女の子していてきれいだな、と思う。
あたしも伸ばそうと思ったことが何度かあるけど手入れが面倒になって挫折した……
「うふふっ。あら?ミリアリア」
「はーい、フレイ」
「あ、ねぇ、ミリアリアなら知ってるんじゃな~い?」
フレイの友達がミリアリアに話しかけた。なんだろう?
「な~に?」
「やめてよってばもうー!」
「この子ったら、サイ・アーガイルに手紙貰ったのー!なのに何でもないって話してくれないのよ。ねー?」
「え!?」「えー!?」
キラも驚いてる。なんかキラってフレイに憧れてるみたいなのよね。でも、そのショック受けた顔、驚きすぎじゃない?ちょっと悔しい。
「あんた達っ!もういい加減にっ!」
「ん、んん」
咳払いが聞こえた。見たら、男を二人引き連れて、サングラスをかけた女の人が立っていた。
「乗らないのなら先によろしい?」
「あっあーすいません。どうぞ」
気が付けばあたしたちでエレカー乗り場の場所を塞いじゃってた。失敗失敗。
その女の人たちはあたしたちがどくと、さっとエレカーに乗り込んで去っていった。
「っもう!知らないから!行くわよ!」
「ああん、待ってよフレイー」
フレイたちもエレカーに乗り込んで去っていった。
「意外だなぁ、フレイ・アルスターとは。けど強敵だよーこれは。キラ・ヤマト君ー」
「僕は別にっ」
キラをからかいながら、エレカーに乗り込み、しばらくしてカトーゼミに着くと、ひょいとゼミの先輩のサイが顔を出した。
「あ、キラやっと来たか」
「うん。ん?」
キラの視線の先を見ると、金髪の帽子を被った少年がいた。
「だーれ?あの子」
「あ、教授のお客さん。ここで待ってろって言われたんだって」
小声でゼミの仲間のカズィに聞くと、そう教えてくれた。
向こうではキラがサイから何か受け取ってる。うへーとか言ってるから、教授からの新しい頼まれごとだろう。
教授にも困ったもんだ。
そういえば!あたしはキラに近づいて小声で話しかけた。
「ねぇねぇ、そんなことより手紙のこと聞いちゃえば?」
「うわぁ」
「手紙?」
あ、サイに聞こえちゃった。てへ。
「なんでもない!なんでもないったら!」
「なんでもなくないよなー」
トールもにやにやしてからかいに混じる。
そんなこんなであたしたちはゼミのいつもの活動を始めた。
メイリンはキラの手伝いをしてる。あたしの仕事はパワードスーツ(着るロボットみたいなものね)を動かすことだ。
父がこの系統の技術者で、作業用ロボットなんかよく操縦させてもらってるから、ゼミの中では一番操縦がうまいと思う。うん!
……
グラグラ!
「キャー!」
いきなり地面が揺れた。地震!?いや、ここはコロニーだ。そんなものある訳ない!じゃあ、なに!?事故!?
照明も消えた中、みんなで非常口を目指した。
部屋を出ると、職員の人たちもぞくぞくと階段を上がって避難していた。
「いったい、どうしたんです!?」
「知らんよ」
「ザフトに攻撃されてるんだ!コロニーにモビルスーツが入ってきてるんだよ!」
「「「「え!?」」」
「君達も早く!」
なんで!?なんで中立のコロニーが!?そんな、攻撃なんて……
混乱するあたしたちをサイが叱咤した。
「僕たちも行こう!早く!行くぞ!」
「うん!」
「あ、君!」
え?金髪の子、教授のお客さんが、非常口とは別の方に走り出した。
キラはその子を追いかけ始めた。
「キラ!」
「すぐに戻るよ!」
しょうがないな。ほっとけなく感じてあたしも後を追いかけた。
「何してるんだよ!そっち行ったって……」
「何で付いてくる?そっちこそ早く逃げろ!」
「お姉ちゃん!」
え?メイリンまで着いてきちゃったの?
「きゃー!」
その時近くで爆発が起こって金髪の子の帽子が吹き飛ばされた。
「あ……女……の子?」
キラが呆けた声でつぶやく。あたしも呆けてその娘を見つめてた。いやー。女の子だとは思わなかったわ。
「なんだと思ってたんだ!今まで」
「いや、その、ごめん」
「あー、ごめんねー」
なんか、あたしまで釣られて何も言ってないのに謝ってしまった。
「いいから行け!私には確かめねばならぬことがある!」
「行けったってどこへ?もう戻れないよ!」
「・・・」
どうしたのか、金髪の娘はうつむいて何かつぶやいていた。だいじょうぶかな?
キラが、金髪の娘の手を握って走り出した。
「みんな、着いてきて!大丈夫だって。助かるから!工場区に行けばまだ避難シェルターがある!」
走って走って。大きな空間に出た時、下に大きなロボットが横たわっていた。
え!?あれってまさかMS!?なんでここに!?
「こ、これって……」
「はぁ……やっぱり……地球軍の新型機動兵器……うっ……お父様の裏切り者ー!」
チーン!
ラッタルが甲高い金属音を立てた。
金髪の娘の叫び声に気づいて、下から兵士が撃ってきた!
「やばいよキラ!逃げよう!」
「ああ!」
あたしたちは再び安全な場所を探して走り出した。
「はぁはぁ……やっと見つけたー」
「ほら、ここに避難してる人が居る」
「まだ誰か居るのか?」
中の人が声をかけてきた。
「はい。僕と友達が3人です。お願いできますか?」
「四人!?」
「はい!」
「もうここはいっぱいなんだ!左ブロックに37シェルターがあるからそこまでは行けんか?」
「なら3人だけでもお願いできませんか!?女の子なんです!」
「……すまん、なんとか後二人が限界だ!」
「……わかりました。メイリンとあなた、入って!」
「お姉ちゃん!」
「あたしとキラは向こうへ行くから!大丈夫だから、早く!」
あたしはメイリンと金髪の娘をシェルターに押し込んだ。
キラと目を合わせると、再びあたしたちは走り出した。
さっき銃撃された所を通らなきゃいけない。嫌だなー。
「あ!?危ない後ろ!」
オレンジの作業着の女性が撃たれそうになってたけど、キラが声をかけたので難を逃れたようだ。
その女性があたしたちに声をかけてきた。
「来い!」
「左ブロックのシェルターに行きます!お構いなく!」
「あそこはもうドアしかない!」
「え!?うわぁ!」
また爆発が起こった!
「こっちへ!」
「しょうがないみたいね」
「ああ」
爆発をやりすごして、キラとうなづきあうと、MS目指してラッタルから飛び降りた!
あ、あの人が撃たれた!
あわてて駆け寄ると、ザフトの兵士がナイフを持ってこっちに来るのが見えた。怖い!あたしこんなところで死にたくない!
「アス、ラン!?」
「っ!?キラ!?」
え、知り合いなの?
作業着の女性が銃を向けると、その人は後ろに下がっていった。
その人はいきなりあたしたちをMSのコクピットに落とすと、MSを起動させた。
「シートの後ろに!この機体だけでも。私にだって動かすくらい」
「……ガン、ダム?」
表示される画面に表示される文字が縦読みでそう見えた。
そして、スクリーンにパッと周囲の光景が映し出され、このMSは立ち上がったのだ。