Lnamaria-IF_523第03話

Last-modified: 2008-02-22 (金) 22:26:50

「あ、ルナ、気がついたの?」
「あ、ミリィ。私……?」
「あのモビルスーツからこの女の人担いで出てきたら、いきなり倒れるんだもん、心配しちゃった。水飲む?」
私の隣には、副長が寝かされていた。ふと、左手首を見てしまった。切り刻まれた痕。
……見なかった方が良かったな。私も古傷がうずく。
「ありがと、ミリィ」
ミリィからコップを受け取り。水を飲む。おいしい。
「う、うーん」
「あ、こちらも。気が付きました? お水飲みます?」
副長さんが気がついた。腕を押さえながら身体を起す。
「……あ。ありがとう。あなたたちは?」
「私の工業カレッジのゼミの仲間です。副長さん」
「ルナマリアさん、だったわね。戦いはどうなったの?」
「ザフトのモビルスーツなら、ほら!」
ミリィが指し示した先には、片膝を突いて動かないジンがいた。コクピット付近のの黒い色は…考えないようにしよう。
「よくやってくれたわ! よくストライクを守ってくれたわ! ルナマリアさん!」
ストライクって言うんだ。このモビルスーツ。
「無我夢中だっただけですよ」
「それでもよ。この一機があれば……あなたたち! 何してるの!?」
――不意に副長さんが形相を変えて拳銃を放つ!
「そこから離れなさい!」
見ると、カズイたちが私が操縦していたモビルスーツ――ストライクに登ってコクピットを見ていた。
「止めてください! あなたを運んでくれたの、みんななんですよ!?」
ミリィが慌てて止める。
「それでもです! その機体から離れなさい! 助けてもらったことは感謝します。でもあれは軍の重要機密よ。民間人が無闇に触れていいものではないわ」
「なんだよ。さっき操縦してたのはルナじゃんか」
トールが不服そうに言う。副長さんは、鬼の形相になってトールに銃を向ける。
「わかった、わかりましたよ。降りりゃいいんでしょう、降りりゃあ」
トール達は慌てて降りてくる。




「みんなこっちへ。一人ずつ名前を」
マリューは命令する。
「サイ・アーガイル」
「カズイ・バスカーク」
「トール・ケーニヒ」
「ミリアリア・ハウ」
「私はマリュー・ラミアス。地球連合軍の将校です。申し訳ないけど、あなた達をこのまま解散させるわけにはいかなくなりました」
「「えー!?」」
子供達は当然騒ぐが、マリューは後を続けた。自分が開発して来たモビルスーツが4機もザフトの手に渡ってしまった事が、彼女の心の余裕を無くしていた。
どうしても残った一機の機密は守らねば……
マリューは続ける。
「事情はどうあれ軍の重要機密を見てしまったあなた方は、然るべき所と連絡が取れ処置が決定するまで私と行動を共にしていただかざるを得ません」
「そんな!」
「冗談じゃねぇよ!なんだよそりゃ!」
「従ってもらいます!」
「僕たちはヘリオポリスの民間人ですよ? 中立です! 軍とかなんとかそんなの、なんの関係もないんです!」
「そうだよ! 大体なんて地球軍がヘリオポリスに居る訳さ! そっからしておかしいじゃねぇかよ!」
「そうだよ! だからこんなことになったんだろ!?」


ガーン! マリューさんが威嚇射撃をし、銃声が木霊する。
「黙りなさい!何も知らない子供が! 中立だと関係ないと言ってさえいれば、今でもまだ無関係でいられる。まさか本当にそう思っている訳じゃないでしょう? ここに地球軍の重要機密があり、あなた達はそれを見た。
それが今のあなた達の現実です」
「…そんな乱暴な」
「乱暴でもなんでも、戦争をしているんです! プラントと地球、コーディネイターとナチュラル、あなた方の外の世界はね」
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!
「……何よ。コーディネイター、コーディネイターって! ここはオーブよ! コーディネイターとナチュラルうまくやってるのよ! 外の価値観を持ち込まないでよ!」
「ルナマリアさん、黙りなさ……」
「やめろ、ルナ!」
「……え?」
サイが止める間もなく、私はカッターで自分の左腕を切り裂いた!




「な、なにを……ルナマリアさん……」
あー、すかっとした! 腕から流れる血の暖かさに、安心を感じた。
「あんた。地球軍の士官だか知らないけどさぁ、ルナの前でよくもコーディネイターを敵視した発言が出来たな!」
「そうだよ。コーディネイターってばれてからルナがどれだけ嫌がらせ受けたか知ってるのかよ」
「リストカットもようやく収まってきてたのに」
「そうよ。最近、やっと七分袖が着れるって喜んでたのに!」
「――ごめんなさい!」
「…え」
マリューさんがいきなり土下座した。
「迂闊な発言してごめんなさい。……辛かったわよね。いくらオーブと言っても。プラントの奴らがニュートロンジャマーなんて落としたから尚更よね」
マリューさんの顔は、泣き笑いだ。
「私の彼もね、メビウス乗りでね。プラントの奴らに殺られたのよ。ほら、私も」
マリューさんは、左腕を私達に見せた。醜い。でも見慣れている傷跡だった。マリューさんは泣いていた。
「でも! だから! プラントの奴らに一矢報いたいのよ! お願い、今は力を貸して頂戴!」
「……いいよ」
「ルナ?」
なんでだろう。ふと、口をついて出た台詞。それは、マリューさんの涙に本物を感じたからだろう。あるいは、リストカッター同士の共感、かな。
「手伝ってもいいよ。どうせ、どこのシェルターに行けばいいかも、無事かもわかんないし。この人、戦艦の副長なんだって。なんとかしてくれるんじゃない?」
「まぁ、ルナがそう言うなら、な」
「しょうがねーな」
「ありがとう、あなた達!」
マリューさんの顔は涙と鼻水と、土でぐちゃぐちゃだった。でも、私はそれを綺麗だと感じたのだ。
「ほら、大事にしなきゃ。女の子だもんね」
「ミリィ……」
ミリィがリスカした所を止血して手当てしてくれてる。リスカした時の不健康な温かさよりも、伝わってくる確かな暖かさ。
「ごめん。もう、しない」
私は、ミリィの肩で泣いた。




ルナマリアが自らの左腕を切り裂いた時、マリューは時間が止まったように感じた。
少し前の自分がフラッシュバックする。同じように左腕に切りつけて泣き叫んでいる女性が見える……あれは自分だ。
「あんた。地球軍の士官だか知らないけどさぁ、ルナの前でよくもコーディネイターを敵視した発言が出来たな!」
「そうだよ。コーディネイターってばれてからルナがどれだけ嫌がらせ受けたか知ってるのかよ」
「リストカットもようやく収まってきてたのに」
「そうよ。最近、やっと七分袖が着れるって喜んでたのに!」
彼女の友人達の言葉が耳に入ってくる。
思わずマリューは土下座する。それしか謝罪の方法が思いつかなかった。
でも……同時に感じていた。
そうよ。恨みは消せない。そう。コーディネイター全体が悪い訳じゃない。悪いのはザフト。
お願い! 力を貸して! マリューは懇願した。心の底から。
「……いいよ」
最初に口を開いたのは、当のルナマリアだった。
え? いいの? それより。この子は、なんてまっすぐにこちらを見つめてくるのだろう。
綺麗な子だ。それを傷つけてしまった。
罪悪感が疼く。マリューは誓う。もう二度と彼女を傷つけまいと。




「こちらX-105ストライク。地球軍、応答願います。地球軍、応答願います!」
「ナンバー5のトレーラー……あれでいいんですよね?」
「ええそう。ありがとう」
「それで? この後はどうすればいいんです? 」
「ストライカーパックを装備して。そしたら、ルナマリアさんもう一回通信をやってみて!」
「はい」
私はストライカーパックと言う言葉に聞き覚えがあった気がした。
ウィザードシステム。そんな言葉も浮かんできた。まただ。何だろう。一体。
「マリューさん、ストライカーパックってどんな物ですか?」
「ストライカーパックシステムは、戦況に応じて近・中・遠距離用等複数のバックパック、及びその他装備を換装する事によって、1機で各々の専用機と同等かそれ以上の性能を付加する事を目的としているのよ。また、ストライカーは各々のパックが独立したバッテリーユニットを持ち、同時に装着機の補助電源の役割も兼ねているわ。そう言えば……」
マリューさんの目が少しきつくなった。
「ビームサーベルが無いか、とか言ってたわね。なぜ、地球軍の最新の装備を知っているの?」
「え? あ、ふと、口に出ちゃったんですよね」
本当になんでだろう。あの顔をしたモビルスーツ――ストライクには、ビームサーベルが似合う気がしたのだ。
「不思議ですね。そんなに、ロボット物のアニメとか見ていなかったのに」
「……そう。確かにストライカーパックの中には、エールストライカーと言ってビームサーベルが装備されている物もあるわ。でも、いきなり素人のあなたに切り合いをしてもらうつもりはないわ。今装備するのはランチャーパックって言ってね、320mm超高インパルス砲『アグニ』に、右肩に120mm対艦バルカン砲と2連装のミサイルランチャーが付いているわ。もしザフトのMSが出てきたらうまく使って敵を近づけないようにして頂戴。『アグニ』は威力が強力な分、バッテリーの消費も激しいから使いどころに気をつけてね」
「はい、わかりました。あ!」
「どうしたの!? ルナマリアさん」
『…ちら…ク……ジェル……ちらアークエンジェル!』
微かだけど、途切れ途切れだけど、呼びかけて来る艦名は確かにマリューさんの言っていた物だ!
「繋がりましたよ! こちらX-105ストライク。アークエンジェル、応答願います!」
――! 爆発音がした!
「あ! 気をつけて! ルナマリアさん、敵機よ! 早く装備をつけて」
慌てて空を見やると、シャフトからメビウスとジンが……違う、ジンじゃない、シグーだ。戦って、いえ、メビウスがシグーに追われている!
次の瞬間、コロニー内に爆音が響き、大地が割れ、爆炎の中から一隻の戦艦が現れた。




――! シグーに目を付けられた!
慌ててハッチを閉める。
重突撃銃の弾が当たる感触。
私は右肩のコンボウェポンポッド――120mm対艦バルカン砲と350mmガンランチャーから弾を吐き出す!
……だめだ。うまく避けられてしまう。シグーは重突撃銃を撃つのを止めると、シールドからバルカン砲を撃ち出す!
うん、相手の武器もストライクには効いていない! 落ち着け、私!
「よーし、狙いはばっちりよ!」
『アグニ』を構え、バルカン砲で牽制しながらシグーを狙う!
「待って! その方向では!」
「え?」
急にかけられた声に狙いが逸れた。辛うじてシグーの片足を奪ったものの、ヘリオポリスの外壁に穴を開けてしまう。
でも、こんな物、コロニー内でどっちの方向に向かって撃てばいいって言うのよ!
……フォースシルエットなら……まただ。また見知らぬ単語が頭に浮かんで来る。私はもうそれに慣れていた。




「ラミアス大尉!」
「バジルール少尉!」
「御無事で何よりでありました!」
「あなた達こそ、よくアークエンジェルを…おかげで助かったわ」
コロニー内に姿を現した艦――アークエンジェルから降りてきた人達は、どうやら、マリューさんの知り人みたいだ。
私もストライクから降りると、みんなぎょっとした顔になった。
どうしたんだろう? リスカしちゃった傷は包帯で隠れてるはず?
「おいおい何だってんだ? 子供じゃないか!あの嬢ちゃんがあれに乗ってたってのか」
ああ、そう言う事か。
「ラミアス大尉、これは?」
「ああ……」
「へー、こいつは驚いたな」
奥から、さっきのメビウスのパイロットだろう青年がやって来た。
シグーと戦って助かったのだ。きっと腕が良いのだろう。
「地球軍、第7機動艦隊所属、ムウ・ラ・フラガ大尉、よろしく」
「第2宙域、第5特務師団所属、マリュー・ラミアス大尉です」
「同じく、ナタル・バジルール少尉であります」
「乗艦許可を貰いたいんだがねぇ。この艦の責任者は?」
「……艦長以下、艦の主立った士官は皆、戦死されました。よって今は、ラミアス大尉がその任にあると思いますが」
「ええ……」
「無事だったのは艦にいた下士官と、十数名のみです。私はシャフトの中で運良く難を」
「艦長が……そんな……」
「やれやれ、なんてこった。あーともかく許可をくれよ、ラミアス大尉。俺の乗ってきた船も落とされちまってねー」
「あ、はい、許可致します」
「で、あれは?」
話が私の事になった。でもあれ扱いはないでしょう。私はちょっとむっとした。
「御覧の通り、民間人の少女です。襲撃を受けた時、何故か工場区に居て……私がGに乗せました。ルナマリア・ホークと言います」
「ふーん」
「……う、彼女のおかげで、先にもジン1機を撃退し、あれだけは守ることができました」
「ジンを撃退した!?」
「「え!」」
「あの子供が!?」
「俺は、あれのパイロットになるヒヨっこ達の護衛で来たんだがねぇ、連中は……」
「ちょうど指令ブースで艦長へ着任の挨拶をしている時に爆破されましたので……共に……」
「……そうか」
つかつかと、フラガ大尉と名乗った青年がこちらにやって来た。
「な、なんですか?」
「君、コーディネイターだろ」




「気持ち悪い……」
「なんだって?」
「コーディネイターだったら、なんだってのよ」
周囲の兵が、銃を構える。ミリィが悲鳴を上げる。
なによなによなによなによ! コーディネイターがそんなに敵だって言うなら血を流してあげるわよ! 自分で!
「止めて、ルナマリアさん!」
「え?」
カッターを出そうとしたら、マリューさんに、いきなり抱きしめられた。
「自分を、もっと大事にして。ね?」
「マリューさん……ぅ……ぅぁああ……!」
私は、マリューさんから伝わってくる暖かさに、マリューさんの胸に顔を埋めて号泣していた。
「マリュー大尉、これは一体……」
「……皆銃を下ろしなさい。そう驚くこともないでしょう? ヘリオポリスは中立国のコロニーですもの。戦渦に巻き込まれるのが嫌で、ここに移ったコーディネイターが居たとしても不思議じゃないわ。この子はオーブのコーディネイターなのよ。コーディネイターってばれて、かなり嫌な目にも遭ってきたのよ」
「……いや、悪かったなぁ。とんだ騒ぎにしちまって。俺はただ聞きたかっただけなんだよね」
「フラガ大尉、地球軍の士官なら、これからはもっと言葉に気をつけてください」
「だから、悪かったって。でもここに来るまでの道中、これのパイロットになるはずだった連中の、シミュレーションを結構見てきたが、奴等、ノロくさ動かすにも四苦八苦してたぜ。やれやれだな」
「フラガ大尉! どちらへ?」
「どちらって、俺は被弾して降りたんだし、外に居るのはクルーゼ隊だぜ?」
「ええ……」
「あいつはしつこいぞ~。こんなところでのんびりしている暇は、ないと思うがね」




私は、マリューさんと一緒に医務室に来ていた。
「デンギル先生、お世話になります」
「ああ、大変だったな。どれ。銃創は貫通しとるからそれほど心配はいらんな。こっちのお嬢ちゃんは……」
医務室で私の傷を見た医師は、マリューさんを見た。マリューさんは、こくんと頷いた。
「あんたはもう、大丈夫なんじゃな?」
「はい、先生」
「それで、今度はこのお嬢ちゃんか。よくこんな事をやっておるのかい?」
「いえ、最近は全然」
「すみません、私がプレッシャーを与えてしまって」
「そうかそうか。とりあえず止血はしとくが、鉄錠剤出すから飲んでおきなさい」
「やだ、あれまずいのに」
「こんな事をするからだ! 罰だと思って飲んでおきなさい」
「はーい」


『ラミアス大尉! ラミアス大尉! 至急ブリッジへ!』
いきなり、艦内通話機が鳴った。
「どうしたの?」
『モビルスーツが来るぞ! 早く上がって指揮を執れ! 君が艦長だ!』
「私が?」
『先任大尉は俺だが、この艦の事は分からん』
「……分かりました。では、アークエンジェル発進準備、総員戦闘第一戦闘配備。大尉のモビルアーマーは?」
『駄目だ!出られん!』
マリューさんは、こちらに振り向くと言った。
「ルナマリアさん。本当に申し訳ないけど、でも、どうしようもないの。またストライクに乗ってもらえないかしら? このままじゃ確実にこの艦も破壊されるわ」
マリューさんは頭を下げた。
……どうしよう。コロニーの警報レベルは9に上がったと言うことだった。もうシェルターには入れない。
宇宙の真空に晒され、凍りついた死の世界が脳裏に浮かぶ。一度も行った事が無いけど、ユニウス7だ、と心の奥が告げている。
ここがあんな風になっていいの? いい訳ない!
「いいですよ」
「本当!? 助かるわ! ありがとう!」
「でも、次はエールストライカーでお願いします」
「本当にエールストライカーでいいのね? 切り合いになるわよ?」
「相手の武器は効かないんですから、大丈夫です。コロニー壊すわけにはいかないですから。ランチャーストライカーだと、アグニ撃てないとそれほど牽制も出来なかったし」
「ルナマリアさん一人に任せるわけじゃないのよ? 心の余裕を持って、艦砲とも連携して。……ちゃんと帰って来て。それしか言えないけど」
「はい!」
私は格納庫に走った。後ろから、マリューさんもブリッジに走り出す音が聞こえる。
このままコロニーをザフトの奴らに好きに壊させる訳には行かない!
コクピットに入って、状況を把握する。
アークエンジェルからミサイルが放たれ始めたようだ。敵のモビルスーツはそれを躱し……ミサイルは皮肉にもコロニーのシャフトに当たっている! このままじゃコロニーが!
『ストライク! 敵のジンは拠点攻撃用の、重爆撃装備だ。コロニーに遠慮する気は無いらしい。頼むぞ!』
「はい!」
『タンネンバウム地区から更に別部隊侵入! 一機はX-303、イージスだ。ストライクと同じくPS装甲でビームライフルにビームサーベルも持っている! 気をつけろ!』


「じゃ、ルナマリア・ホーク、ストライク、出るわよ!」




動きが鈍い、大型ミサイルを持った重爆撃装備のジンは、どうやらアークエンジェルを狙っているようだった。
「させるもんですか!」
エールストライカーのスラスターを使い、一気にジンの上方に出る。ジンが発射している大型ミサイルをビームライフルで射撃!
やった! あの時は失敗したけど今度は!
ふと、昔こんな切迫した状況でビームライフルを撃っていた事がある気がした。
あの時の挫折感が癒されたと思った。
ミサイルを迎撃した後は上空から加速をつけて下方の死角へ回り込む。ビームライフルからビームサーベルに切り替え、ジンの胴を一薙ぎ! ジンは爆散した。
『いいぞ! ルナちゃん! その調子だ!』
「はい!」
もう一機のジンは!? いた!
『こいつ…すば…い! …ラン! アスラン! ど…にいる!』
アスラン!?
私が残るジンに向かおうとした時、赤いモビルスーツ――イージスが立ちふさがった。
『ルナ! ルナマリア・ホーク!』
え!? イージスから呼びかけて来た! この声は、記憶より少し大人びていて、でも……
「アスラン!? アスラン・ザラなの!?」
何故。記憶より大人びているような、いえ、記憶よりまだ幼いような懐かしいこの声。でも、心のどこかで、お前を裏切った裏切り者を早く倒せと囁きだす。
「何故……何故アスランが!?」
『お前こそ……どうしてそんなものに乗っている!?』
「……あなたこそ、なんでこのコロニーを壊そうとするのよー!」
あ。身体が勝手に操縦桿を動かす。止まらない!
「アスラン、逃げてー!」
『え?』
潜在意識が勝手に放った斬撃はイージスの右腕を切り飛ばした。
次の瞬間、背後から大きな衝撃が来た――!
振り向くと、コロニーのシャフトが、完全に崩れて……
『あー! うわぁぁぁぁ!!』
イージスは宇宙に吸い出されて行った。
「アスラーン!」
……もう、返事が返って来る事は無かった。










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