Lnamaria-IF_523第27話

Last-modified: 2007-11-16 (金) 22:47:31

「なんとか防げたようだな……」
オーブ国防本部では安堵のため息と歓喜の歓声が空間を満たしていた。
「では、私は地球軍幹部と会見をして来る。後を頼むぞ」
ウズミが立ち上がる。それをきっかけに、周囲は戦闘の後始末への奇妙な活気溢れた行動へと移って行った。
「では、ユウナ様、私はカグヤ島へ向かいます」
「待ってくれ、僕も行くよ」
「……戦闘の後と言うのは結構ひどい状況ですぞ?」
「現場と言う物も知っておかなきゃねぇ。君らだって現場も知らない者に命令されるのは嫌だろう?」
「確かに」
その士官は微笑んだ。
「では、行きましょうか」
「待て! ユウナ、私も行く」
カガリも立ち上がる。
「カガリ……いや、君には君の仕事がある」
「え?」
「ウズミ様は地球軍の人達と話し合いが合って忙しい。オーブの国民は戦闘が終わったとは言えまだまだ不安だろう。ホムラ様と一緒に安心させるのが、君の仕事だ」
「ユウナ……」
「僕や他の氏族の者じゃだめだ。アスハ家の君にしか出来ない、君の仕事だ。いいね?」
「……わかったよ。ま、安全だろうと思うが気をつけてな。私の代わりにしっかり現場を見てきてくれ」
「ああ。カガリもしっかりな」
二人は国防本部から出て行った。それぞれの仕事に向かって。




「ようこそオーブへ。アズラエル殿。今回のご助力、感謝いたします」
ヤラファス島にある行政府を訪れたアズラエルに、慇懃な口調でウズミは言った。
「まったくですよ。貴方がもう少し頑固でなければ、こちらの戦力ももっと早く送り込めたんですがねぇ」
皮肉な口調でアズラエルも応じる。
「何事にも、頃合と言う物があるのですよ。早すぎれば攻め落とされていたでしょう。パナマのように」
「ふ。まぁいいでしょう。プラントへの反撃。全面的に協力していただけるのですよね?」
「オーブも腹を括りましたからな。しかし、ブルーコスモス盟主としての貴方に申し上げたい」
「なんです?」
「オーブは、ナチュナルとコーディネイターの共存と言う方針は変えませんぞ」
「ああ、ああ。いいですよ、それは。大西洋連合にもコーディネイターがいない訳じゃありませんからねぇ。地球上には人口比率こそ少ない物の、実数では2千万人以上、プラント以上のコーディネイターが住んでいるんですよ? ちゃんとした心根を持ったコーディネイターなら、それはもう空の悪魔共とは別に扱いますよ」
「空の悪魔か……そう言って相手を蔑視する事は正常な判断を妨げますぞ」
「おや、お気に召さない? じゃあ、言い直しましょうか。プラントの奴らと」
「できれば、彼らと落としどころを見つけるなり何なりして、早く平和になってほしい物ですがね」
「平和! 僕も望んでいますよ。早く平和にしたいとねぇ」
「で、あれば、プラントの独立。認めてやっても良いのでは」
「残念ですが地球連合は、一遍しっかりとプラントを叩き潰さねば危険、と考えていますよ」
「あなたも、でしょう?」
「まぁ、そうですねぇ。なにしろ自分が出資したプラントを乗っ取られたんですよ? 誰が黙って明け渡しますか。テロリストに交渉は不要なんですよ」
「しかし……彼らは不安だったのですよ。食料の自給率0と言うのは。地球にいる人にはわからんそうですよ。補給路が宇宙と言う心細さは。宇宙海賊と言う存在もある。何か事あれば飢える、と言うのは彼らにとって我々が推し量る以上の恐怖だったのでしょう。何しろ彼らはコーディネイターだ。いざと言う時に切り捨てられるかもしれないと……」
「そう言う時は治安維持と食糧供給の確保を理事国の責任で行うことを求めるべきでしょう? ヘリオポリスがプラントと同様の要求を一回でもしましたか? 考えてみてください。オーブのどこかの街、コロニーがプラントと同じことを言って独自軍隊の保持を認めるよう要求したら、政府はどう対応するでしょうか? 普通拒否しますよね。そして政府の拒否を無視してその町が武装を進めたらどうなるでしょう? さらに武装解除を求めて派遣された警官隊を返り討ちにしたら……」
「もう、和平の機会はないのでしょうか?」
「国連が存在していた時に、コペルニクスでこちらが出すはずだった条件、『武装解除すれば一切の罪は問わない』これを彼らが飲んでいてくれればねぇ。話はそこで終わったんですが」
「もし。もし彼らが今それを飲んだらどうします?」
「武装解除ですか? まぁ、まずは自治権は剥奪ですねぇ。ずいぶん彼らに辛い物になるでしょうね。こちらの出す条件は。彼らはそれだけの事をしてしまった」
「そうですか……」
ウズミはため息を吐いた。それは徒労感の篭ったため息だった。だが、そのため息には自分の国民に犠牲を強いらずにすんだ、と言う安心感も確かに込められていたのである。
「まぁ、過酷に過ぎる事を要求するつもりはないですよ」
新たな同盟者に気を使ったのだろう、アズラエルが言った。
「我々は歴史を知っていますからね。ヒトラーが出現するような真似は、しません」
「わかりました。この話はそこまでにしましょう。ところで……」
オーブの政治家としての顔に戻ってウズミが言う。
「プラントへの反撃、協力はしますがそれなりの代価は払ってもらいますよ」
「いいでしょう」
アズラエルも応じる。そしていたずらっぽい笑みを浮かべて言った。
「ところで……連合のモビルスーツの技術、盗用しましたね?」
「な……!」
「いやぁ、サーペントテイルと言う有名な傭兵グールプ、知っているでしょう? それにジャンク屋のロウ・ギュール。ちょうどヘリオポリス崩壊時にザフトのモビルスーツとはとうていかけ離れた形態のモビルスーツを手に入れたって言うから調べさせたんですよ。そしたら……ヘリオポリスで作られていたGにそっくり。オーブのモビールスーツ、M1アストレイもこれまたGにそっくりですし。代価、払ってもらえますね?」
「む……む、いいでしょう! では、具体的な条件を詰めましょう……」
負けられん! オーブの利益のためにも!
相手が一筋縄ではいかない交渉相手と知ってウズミも必死で弁舌を振るい始めた。
彼らの交渉はこれからが本番だった。




私達には、オーブ本土への上陸が許された。
マリュー艦長が配慮してくれて、ヘリオポリス組は真っ先に上陸!
ザフトの攻撃がカグヤ島に集中していた事もあって、街はいつもの日常を取り戻していた。
『……今回のザフトの攻撃による民間人の死傷者は、政府の命令を破りカグヤ島に潜入していた大西洋連邦国籍のジャーナリスト、ジェス・リブルさん一ヶ月の軽傷一人で、当局は回復を待って取調べを……』
ビルの壁面のテレビでニュースをやってる。
「そっか。オーブの民間人、死ななかったんだ」
「よかったな」
「うん、よかった。俺達、オーブを守りきったんだよな?」
「ええ、立派よ! トールもみんなも」
ミリィが誇らしげに言う。
そう言えば、ジャスティスに撃墜された105ダガー。スウェンさんに聞いたら、やっぱりエミリオさんだそうだ。
冷酷な奴だったから、気にする事はない。自分も嫌いだった、とスウェンさんは言ったけど、でも、やっぱりショックだろうな。知り合いが死んで。
実際に顔を合わせた人が死ぬのは、やっぱり嫌だ。ギャバンを思い出してしまう。
「じゃあ、久しぶりに自分の家まで帰って来ようぜ」
「うん、じゃあ、基地でまた!」
私は駆け出す。自分の家に! 見知った通りを走る。あの角を曲がればもうすぐ……。ここだ! 私の家! ベルを鳴らす。鍵が外れる音がする。私はドアを開ける。
「――ただいま!」




ビクトリア宇宙港――C.E.70年3月8日、71年2月13日の2度にわたりザフト地上軍から攻略を受け、奪われた地――ビクトリア大虐殺の悲劇の地。そこに、再び地球軍の姿があった。
「どうやら向こうも迎撃準備は完了しているようだな」
「は!」
「大西洋連邦は、オーブのマスドライバーを無事に手に入れたらしい。我々も負けてはおれんぞ」
「その事ですが、ザフトがマスドライバーの自爆を企むのではないかと心配です」
「それほど心配はいらんよ。どうやらザフトは自分のやった事――虐殺をやりかえされるのが怖いらしい。現地住民の情報では、宇宙へ撤退する準備が進んでいるようだ」
「大西洋連邦からは、パナマ、そしてオーブでザフトがEPM兵器を使用したとの情報が来ております。油断は禁物です」
「そうだな。機動上から落下して来る物体があれば、最優先で叩くように、命令しておけ」
「は!」


「調子はどうだ?」
ロンド・ギナ・サハクは自分の下につけられた部下に尋ねた。
「調子? いいぜぇ」
エドワード・ハレルソンが答える。彼は南アメリカ出身の軍人だ。
「「問題ありません」」
四郎、六郎、七郎、十一郎(といちろう)、十三郎(とうざぶろう)と言ったソキウス――地球連合に作られた戦闘用コーディネイターも答える。彼らはアズラエルから一時的にロンド姉弟に預けられている。
本来は譲渡されるはずだったのだが、はっきりとした証拠はつかまれていないものの、ギガフロート建設の際の襲撃者の様子をサーペントテイルから聞いたアズラエルがロンド姉弟に疑念を持ち、譲渡を取りやめたと言うのも、彼らの知らない裏事情である。
彼らの東アジアニホン地区、そしてオーブでも付けられるような名前は、最近付けられた。少し前まではフォー、シックス、セブンと言った味も素気もない名前で呼ばれていたのだが、ふらりとムルタ・アズラエルが施設に立ち寄り、名付けていった。ソキウス達は今までのようなもろに数字の名前ではなく、人名らしい名前を付けられた事を素直に喜んでいる。
彼らの機体はエドワードと四郎が、カラミティの派生機、ソードカラミティ。七郎と十一郎がカラミティ、十三郎はレイダーの制式仕様機だ。
ギナ自身はオーブがヘリオポリスで開発していたアストレイゴールドフレーム改修機に乗っている。ギガフロート襲撃時より一番大きく変化した所はどのような交渉をしたものか、アズラエルからPS装甲の技術を与えられ、バイタルエリアなど一部がPS装甲化している所だろう。全身ではない。だが、ギナはまったく不安に思っていなかった。ミラージュコロイドもあるし当たらなければよい、と考えている。自信家である。他に左前腕部にツムハノタチと名づけたPS装甲化する鉤爪が付いた事、腰にビームサーベルが装備された事くらいだろうか。


轟音が遠くから聞こえて来る。ギナのモビルスーツによって拡大された視力は空の片隅に飛行機の群れを捕らえる。
おそらく奪回されたスエズ基地から発進したユーラシアのTu-99戦略爆撃機だろう。
「時間どおりだな」
しばらく待つうちにTu-99は頭上に達し、ザフトのモビルスーツの到達し得ない高空から爆弾を投下し始めた。NJの影響下にあっても、ジャイロ、加速度計を使った慣性誘導は可能だ。ぶれが大きくなるが。
爆弾を投下し終えると、Tu-99は大きく旋回して帰って行った。
「うひょー! 敵さん大混乱だね~!」
エドワードが歓声を上げる。
敵の陣地のあちこちで、大爆発が起こっていた。
「爆発が終わったら、出るぞ」
「おう」「「了解しました」」
「くくく。私とダンスを踊れる者がいるかな?」
ギナの目は不吉に輝いていた。




「もう、帰ってしまうのねぇ」
「そうだな。今度はたっぷり休暇取って来い」
「うん、今度来る時は、ゆっくり来るわ」
久しぶりのママの手料理、おいしかった。
きちんと掃除されている私の部屋。嬉しかった。
「ママ、今度来る時は、私、退役してるかも」
「まぁまぁ、そうなったら嬉しいわねぇ。今は毎日心配だもの。毎日、神様とご先祖様にルナの無事をお祈りしているのよ?」
その気持ちが嬉しい。私もしてこう。
まずは神様。神棚の前でニ礼ニ拍手。次にご先祖様。お仏壇にはお線香を上げて、両手の手と手のしわを合わせて、しあわせ。
後ろで、パパとママも手を合わせていた。
「じゃあ、行って来ます!」
「いってらっしゃい。気をつけてね」
ママは玄関に立った私に切り火を切る。
名残惜しいけど、もう行かなきゃ。振り向くと、パパとママは玄関の前に立ってこちらを見ていた。きっと私が見えなくなるまでそうしているのだろう。
……ちょっと、涙が出た。


基地への帰り道、繁華街を通った。あ、りらっくまのクッション! クレーンゲームの中に入っていた。
まだ、時間あるよね?
……取れない。
「お姉ちゃんへただなぁ」
え!? 聞き覚えのあるこの声は……振り向くとそこには赤い目をした10歳くらいの少年がいた。
「シン!」
思わず声が出ていた。
「なんだぁ? どっかでお姉ちゃんに会ったっけ?」
シン! シン・アスカ!
頭が……痛い。
その少年に手を伸ばす。手と手が触れ合う――
「大丈夫かよ、お姉ちゃん?」
ああ、聞き覚えのあるその声。背中に当てられた手から伝わる熱。
――あふれる。流れ込んで来る。私の身体に隠されたもう一つの私の記憶。夢に出てきた断片的な記憶が繋がる。その膨大な、私が今まで生きて来た量と同じくらいの量の記憶が頭の中に展開されていく――
こみ上げる想いに耐え切れず私は眼を閉じた。
「ちょっとあなた、大丈夫?」
少年の後ろにいたフレイよりちょっと年下くらいの少女が私を気遣うように問い掛ける。
「弟の、知り合いですか? あ、私、マユ・アスカって言います」
マユ! シンの妹! でも今、なんて言った!? シンの事、弟って言った?
「あ、私は、ルナマリア・ホークです。シン君に、とってもよく似た人を知ってるもので、つい」
「へぇ。その人の名前はなんて言うんですか?」
「シン・アスカって言うんです」
「……まぁ!」
マユちゃんはあんぐりと口を開けた。
「名前まで一緒なんて!」
「でも、私の知っているシンは16歳ですけど」
そうなんだ。確信する。ここは、やっぱり私のもう一つの人生の記憶――夢の世界とは違うんだ。
「うふふ。お兄さんなんだ」
「でもさあ。お姉ちゃんも、ルナお姉ちゃんも声がそっくりだなぁ」
シンが、口を挟む。
「目を閉じて聞いてると、どっちがどっちかわからないや」
「……そうなの? 自分じゃわからないのよね。自分の声は骨を伝わる音を聞いているから。でも、そうなんだ? 私ってこんな声なんだ? 不思議ですね。なんか、ルナマリアさんには縁を感じます」
あ、そう言えば!
「シン君。この間オーブが攻められた時、ご家族に怪我とかした人はいない?」
「いないよ。みんなちゃんと避難してたもん」
よかった――
(シン。私、シンとシンの家族を守ったよ……)
夢の世界のシンに向けて心の中で呟く。
シン。あなたを愛したから私は私になれた。その顔、その声。私がずっと探してきた、こたえ。
……でも、目の前の少年は、私の愛したシンじゃない。違うんだ。心が痛いけど。
「じゃあね。私、そろそろ行かなきゃ。お姉さんと仲良くね」
「ん。これ、あげる」
「え?」
差し出されたのは、りらっくまのクッション。
「お姉ちゃんへただからさぁ。取ったのやるよ」
自慢気に言うシン。……だめだ。許されなくても一度だけ。
「な、なんだよお姉ちゃん」
私は、シンをぎゅっっと抱きしめた。
頬に伝わる涙が、ずっと求めていた、こたえ。でも、もうお別れしなくちゃ。
「ありがとう」




「サザーランド大佐、カーペンタリア攻略のために、ニューギニア島のこのあたりに基地を作りたいのですが」
副官が地図を指し示す。
「ああ、ウェワクか。いいだろう……にしても、この地域は貧乏らしいな。職もなくその日の生活にも事欠く住民が多いらしい」
「では、慰撫工作の一環として仕事を与えてはどうでしょう?」
「そうだな。雑用の他、少々効率が悪いが基地の建築も少し手伝ってもらおう。協力して大事を成し遂げれば、兵と現地住民の結束も固くなろうというものだ」
「反連合のゲリラやテロリストの攻撃も懸念されます。フェンスを張り、武装した兵を警備に立てましょう」
この会話が後にある事件の解決につながる事を、彼らは知らなかった。






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