Lnamaria-IF_523第34話

Last-modified: 2008-01-05 (土) 00:20:41

私達が、グレイブヤードの技術データ、それからお墓をイズモへ移すのに3日掛かった。
ようやくプトレマイオス基地へ帰還の途につく。
「あ、そろそろブータに猫缶あげる時間だわ。ブーター!」
「にゃーん」
探すまでもなく、ブータが休憩室に入って来る。
「ほーら! おいしい猫缶よ。今度はヘルシーグルメ まぐろ とろみソース仕立て 白身魚入りよ」
容器に猫缶の中身を開けてやると、ブータはがつがつと食べだす。
「またたびもあるから食べ終わったらあげるからね」
「ルナ、もうすっかりブータ係だなぁ」
ロウが感心した様子で言う。
「楽しくって。だってずっとコロニーにいたでしょう? こんな風にずっと一つの動物と一緒にいるなんてなかったのよ。コロニーじゃ人間以外の動物見た事もなかったわ。学校じゃ水槽で小魚飼ってたけど、それくらい」
「じゃあ、ブータはルナが引き取るか?」
「そうしたいけど、今は戦争中だからねぇ」
「じゃあ、ルナが落ち着くまで俺達が預かる。これでどうだ?」
「ありがとう!」
『……これは! ギナ様! 救難信号です!』
ブリッジのクルーから通信が入る。
「ん? ……救難信号? 助けるぜ! ギナ様!」
つくづくロウは困っている者を見つけると放っておけない性質なのだ。
「あ? いいだろう」
「じゃあ、私が行って来るわ!」
暇なのでロウ達としゃべっていた私は志願する。
「おう、頼むわ!」


「……救命ポッドじゃない。船ね」
近づいていくと、救命ポッドじゃないのがわかる。輸送船だ。エンジン付近をやられてる。近くに、モビルスーツがぷかぷか浮いている。一瞬ぎょっとしたが、ハッチを開けて乗員が出てきたのでほっとする。落ち着いてよくみると、皆、頭部だけをやられてる。
「いったいどうしたの!?」
『わからねぇ! あっという間に襲われた! 積荷を取られた! 依頼主がまだ中にいる! 心配だ!』
「わかったわ。行きましょう」
近づくと格納庫辺りをぶち破られてる。海賊にでもやられたのかな?
モビルスーツの乗員と共に船内に入る。
「これは……モビルスーツ!」
格納庫に入ると、一体のモビルスーツが横たわっていた。
「でも頭がない。ゲイツ……に似ているわね。ザフト?」
「いや、あれは……蛇のマークのモビルスーツだった。確か、傭兵部隊サーペントテイル。なぜかこのモビルスーツの頭だけ奪って行きやがったんだ」
私の疑問を勘違いしたのか、ずれた答えが返って来る。
「変なの。そう言えば、あなたたちも頭部だけ破壊されてたのよね? 頭を100個狩るとか誓いでも立ててんのかしら」
私は用心しながら居住区に入っていった。
「プレアの坊ちゃん! 無事ですかい!?」
私達はブリッジに入った。――! 人が倒れてる!
「大丈夫!? しっかりして! 何があったの?」
「……来て、くれたんですね……頼みます! ドレッドノートの頭部を取り戻さなければ……マルキオ様の遺志を……」
弱々しい声でその人は言った。
「ともかく、イズモに収容するわ。知ってる? オーブの戦艦で強いのよ。もう大丈夫だから!」
イズモが近づいて来る。私はその人と護衛のモビルスーツの人達、そして積荷の頭の無いモビルスーツをイズモに収容した。


「大丈夫ですか? 襲撃されたみたいなんです」
私は倒れていた人の様子をお医者様に聞いた。倒れていた人は、金髪巻き毛のかわいらしい子だ。
「うーん、特に外傷もないが……病気かの? なにやら弱っていたからとりあえず栄養剤を注射してみたが……お、気がついたようだ」
「大丈夫? ここはイズモの中よ! もう安心だからね」
「ありがとうございます、助けてくれた人ですね? 大丈夫です。……僕はプレア・レヴェリーと言います」
「襲われていたのは海賊に?」
「……傭兵部隊のサーペントテイルに……」
「そう。あの人達が言っていたのは本当だったのね」
「ほう……私を殺そうとした奴だな」
ギナ様が口を挟む。その言葉にプレアさんはびくっとする。
「殺す……?」
「ああ。色々彼らとは因縁があってな。少年、彼らに狙われると言う事は、単なる海賊に襲われるのとは訳が違う。理由の検討は付いているのか?」
「……ここは、オーブの船、ですよね?」
ちょっととまどって、慎重に、確かめるようにプレアさんは質問する。
「ああ。そして私はサハク家のロンド・ギナ・サハクだ。安心しろ。オーブの大抵の事なら顔が利く」
ほっとプレアさんが溜息をつく。
「秘密に願います」
「わかった。皆もいいな?」
「はい」
「了解!」
「……ザフトでは、ニュートロンジャマーの影響を打ち消す装置を開発していました」
「ほう、やはりな」
ギナ様は頷くと、先を促す。
「それをニュートロンジャマーキャンセラーと言います。完成したそれを組み込んだモビルスーツをドレッドノートと言います。僕と一緒に収容された物です。元々テスト機だったドレッドノートは、テスト終了後にはバラバラのパーツに分解され、核エンジンおよび機密パーツ以外は廃棄処分されるはずでしたが、地球の深刻なエネルギー不足を憂いたマルキオ様はそれを解決する為、僕にドレッドノートをオーブのウズミ様に渡すように頼まれたのです。ですが、肝心のニュートロンジャマーキャンセラーが搭載されている頭部をサーペントテイルに奪われてしまったのです! 頼みます! どうかマルキオ様の遺志を無駄にしないために、協力してください! 取り戻す事を!」
「待て、マルキオの遺志と言ったか? 死んだのか? 彼は?」
「……多分。亡くなられました。殺されたんです」
――!
私達の間を目に見えない衝撃が走る。
「誰に殺されたのだ? 地球連合が彼を手配していたのは知っているな? 連合の手の者か?」
「……いえ、プラント評議会議長シーゲル・クラインにです」
――!
再び私達の間を目に見えない衝撃が走る。
「一体何が起こったのだ?」
「わからない……わからないんです……お二人はナチュラルとコーディネイターとの融和を図る同志で居られたはずなのに……プラントでの隠れ家もシーゲルさんが手配してくれて。ただ、最後の日、クライン邸に出かけられる前、言い残されたんです。時間までに戻らなければ、シーゲルさんに殺されたものと思って、速やかに脱出しドレッドノートをオーブに届けろと……マルキオ様は、それきり戻って来られませんでした」
「……」
医務室を沈黙が支配した。


「いやー、びっくりしたなぁ!」
プレアさんはあの後ぐったりして、ドクターストップがかかり、私達はひとまず医務室から解散した。
「ほんとにねぇ。マルキオさん、よく見つからないなと思っていたら、プラントに逃げていたのね」
「ああ。プロフェッサーはどう思う?」
「仲間割れ、かしらね。でも、単純じゃ無さそうね」
「あ、ひょっとしたら!」
私は口に出す。
「シーゲルさんて地球にニュートロンジャマー打ち込んだ人よね? その効果を無駄にするような事をしようとしたマルキオさんが邪魔になったとか」
「うーん、そっかも知れねぇなぁ。しかし、ショックだよ。俺達マルキオ様に会った事あるんだぜ」
「確かに知り合いが死ぬのはショックよね」
「ああ……」
いったい何が起こったんだろう? 何かが、確実に起こっている……




プラント。アプリリウス――


『召集ラッパの元に
最後の戦闘準備は整った
間もなく全ての通りに
ザフトの旗がはためき
隷属の時は終わるのだ


旗を高く掲げよ!
堅固なる隊列を組み
ザフトは行進する
一糸乱れず確固たる歩みで
同志よ、反動勢力を撃ち
我らの隊列に魂を込めて進軍せよ!


旗を下げよ、死者の前に、瀕死の者に
ザフトの名に於いて堅く宣誓するのだ
来るべき時が来た
尊き犠牲には報復でもって応えると
その時こそ、あまねく祖国に
幸福と安泰が響き渡るだろう!』


パトリックは息子のアスランと、エザリア・ジュール、その息子のイザークを連れて港湾部へと向かっている。
車中にまで、士気高揚のための軍歌が聞こえてくる。
「やれやれ、私が議長だった時以上だな。この軍歌の流し様は」
「ジブラルタルも放棄して……カーペンタリアはまだ耐久しているようですが食料や物資の配給制度も始まり……ジェネシスの方もより一層完成を早めるようにと発破を掛けられています。一体、ザラ議員の評議会議長解任はなんだったのかと……」
悔しそうにエザリアが応じる。
「所詮、この状況では誰が議長をやろうと出来る事は同じなのだ。連合と講和するにしても、地球にニュートロンジャマーを打ち込んだシーゲルに対して優しくしてくれるとは思わんがな。それならいっそアイリーン・カナーバを議長にした方が講和に乗ってくる可能性が高いと言うものだ」
車が港湾施設に着いた。四人は車を降りる。


「気にせず歩けよ、アスラン。慌てるそぶりを見せるな」
「はい、父上」
モビルスーツへの格納庫に向かう通路を四人は進む。
「しかし、本当に危険が迫っているのでしょうか?」
「エザリア、私を信じろ。私が『彼』の秘密を知ったと言う事は早晩『彼』に知れよう。そうなってからでは遅いのだ。このままプラントにいれば、私と私の右腕の君は確実に消される……それだけの闇がプラントにあったという事だ」
「右腕……は、はい……」
エザリアは頬を染めた。
「おい、アスラン。貴様どこまで事情をわかっている? 俺はさっぱりだ」
アスランと共に先頭に立って歩いているイザークが小声でアスランに尋ねる。
「さぁ。とにかく父上がこのままプラントにいては危険だと判断したのだ。俺は父上を信頼している。それで十分だ」
「そうか。俺も母を信じるだけだ」
「ああ」
「しかし、シーゲルが議長に返り咲いてから、ラクス嬢がテレビによく出るようになったな」
パトリックが声を大きくして周囲に聞かせるように話題を振る。
「ええ。以前とは違って、我々ザフトの士気を鼓舞するような演説をされるようになりましたね」
「そうですわね。以前はテレビに出ても政治的な発言はしなかったのに」
「彼女もわかっているのでしょう。今がプラントにとって正念場だと」
「兵のための慰問のコンサートも頻繁に開かれているようですしね」
「アスラン、お前は最近はラクス嬢と会ってないのか?」
「ええ。軍務が忙しくて。コンサート一度くらいは見ておかないと次に会った時に悪いかな?」
いよいよ彼らは格納庫の扉の前に来た。
「こ、これはザラ前議長にジュール国防委員長! お揃いでどうなされたのですか?」
警備の兵が尋ねる。
「なに、最新鋭のモビルスーツを見物に来たのだよ」
普段と変わった様子など毛ほども見せずパトリックが応じる。
格納庫の扉が開かれる。
パトリックは堂々とした態度で中へと入って行く。
「では、イザーク君、エザリアを頼むぞ」
「はっ!」
「アスラン、行こうか」
「はい」
パトリックは近くの兵に歩んで行き、命令する。
「ジャスティスとフリーダムだが、私達が実際に乗って飛んでみたい。私達が乗り込んだらハッチを開けてくれ」
「え? ご自身で操縦するので?」
「息子達だよ。そのためにわざわざ連れて来たのだ」
「了解しました!」
パトリックとアスランはジャスティスに、エザリアとイザークはフリーダムに乗り込む。
「いいぞ。ハッチを開けてくれ」
――エアロックが開かれる。ジャスティスとフリーダムは宇宙に飛び出す!
「……ほほう。これがモビルスーツから見るコロニーの景色か。面白いな」
「父上、急がなくてよろしいので?」
「しばらくは近くを飛び回ってやらんと警戒されてしまう。徐々に離れるのだ」
「はい」
ジャスティスとフリーダムは、しばらくコロニーの周辺を飛び回りながら次第に距離を取り、それから一気に加速してプラントから離れる。


「おい、ジャスティスとフリーダム、いつのまにかあんなに離れちまったぞ!」
「ザラ議員! ジュール国防委員長! 何があったのですか? 離れすぎです!」
「事故か?」
「二機ともか? まさか!」
「しかし、万が一と言う事もある。救助に誰か出せ!」
事態が本部に上がり、警報が出されたのは、二機が既に充分プラントから離れた後だった……






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