Lnamaria-IF_523第35話

Last-modified: 2008-02-23 (土) 00:30:37

「ははは! パトリックが自ら核動力機で逃げ出したか! こいつは痛快だ!」
クルーゼは背を反らして高笑いを上げた。
が、この程度では到底クルーゼの歓喜は収まらない。腹筋が痙攣する。
「くははは……も、もう我慢できん!」
ソファに置いてあったりらっくまのクッションを抱え込むと床に倒れこんでうーうーと唸ってごろごろ転がりまくる。テーブルに当たり置いてあったウイスキーの瓶、グラスが床に落ち、たちまち絨毯の上に水溜りを作っていく。気にせずクルーゼは床に落ちたウイスキーの瓶を手に取ると直接瓶に口をつけてごくりと飲み、祝杯を掲げるかのように瓶を掲げる。
「これで……これでニュートロンジャマーキャンセラーがアズラエルに渡る! ざまを見ろ人類どもめ! もっと……もっと殺しあえ!」
――ノックの音がする。
「どうしました!? クルーゼ隊長! 何かあったのですか!?」
副官の声だ。
「なんでもないよ。ちょっとお誘いの手紙をもらってね、興奮してしまったようだ」
ふふふ、益々面白くなってきたじゃあないか、この世界は! ザラ派の私に果たして何が目的かな?
クルーゼはテーブルの上を見る。
そこには、とあるクライン派の著名な人物の名前で呼び出しの手紙が置かれていた。

 
 
 
 

「ずいぶんと、あなた達と過ごしちゃったなぁ。別れるのが名残惜しいくらい」
「ああ。俺もだ。だが、永の別れって訳じゃねぇ。イズモはプトレマイオス基地にいるし、会おうと思えばすぐ会えるさ」
「うん、そうよね」
「にゃー」
「お、ブータも挨拶に来たか?」
「にゃおん」
ブータは、ぶるるんと体を揺すると、器用に首輪を外した。外れた首輪を咥えて、こっちに持って来る。
「えーと? もしかして、くれるのかな?」
「ははは。ずいぶん気に入られたようじゃないか。もらっとけよ」
「じゃあ、せっかくだから、頂くね? ブータ!」
「にゃうん」
私が首輪を取ると、ブータは満足そうに鳴いた。
「首輪というよりも、ベルトに近いわね」
試しに自分のウェストに巻いてみる。けっこう、しっくり感がある♪
「へぇ、いいじゃないか。似合ってるぞ」
「そう? えへへ、ありがとね、ブータ」
もう一度ブータにお礼を言う。
……? なんだか身体が軽いような……? 気のせいかな?
「こんにちわ」
「あ、プレア! 調子はどう?」
「ええ、いいですよ」
プレアは時々胸を押さえて苦しそうに息を止めている事があった。プレアは大した事は無いと言うけれど、私はそれが心配だった。
ブータがプレアに近づき、手をぺろりと舐める。
「あなたとも、妙な縁だったけど……なんか他人のような気がしないわ。弟が出来たみたいで楽しかった」
「ええ、僕もねえさんが出来たみたいで嬉しかったです」
「時間が出来たら、また来るからね。あなたは取り返す物を取り返したらオーブに降りるのよね? オーブには私の家もあるの。
もし、行くあてがなければそこで暮らさない? あなたみたいないい子なら、両親もOKだと思うわ」
「え!?」
プレアはびっくりして目を見開いた。
「ふふ。よかったらって事よ」
私はプレアの頭の毛をなでた。
――!?
その時、世界が変わった――

 
 

まるで世界に私とプレアしかいないような、それでいて妙に知覚が広がったような、妙な感覚――
「プレア……あなたは……!?」
「……わかってしまうんですね。もしかしたらあなたも……ニュータイプかも知れない」
「ニュータイプ?」
「特殊な空間把握能力を持ってガンバレルなんかを操作できる人を、僕達はニュータイプと呼んでいます。ニュータイプ同士ではよく
こう言った精神の交感が起きるんです」
「すごいのね……こんな力が……」
「僕にもあなたがわかる。ずいぶん辛い思いをしてきたんですね。でも、それを乗り越えてあなたは今、強い」
「強くなんか、ないわよ」
「強いですよ。ちゃんと、上を見ている」
「私の辛さなんか、あなたに比べればなんでもないわよ。なぜ、あなたはそんなに強いの?」
「僕だって強くない。僕に残された時間は少ない。それならせめて後悔しないで死にたい。それだけです」
「月並みな言葉なんて言えない。でもあなたには生きて欲しい! プレア!」
叫んだ瞬間、急速な勢いで世界が戻る。
私はプレアの頭に手を当てたまま。目の前には、プレアの瞳があった。目が、離せない。手が離せない。離したらどこかに消えてしまいそうで。
……もし、望めば、あの精神の交感は起こるのだろうか?
私はプレアの宿命と気負いを知ってしまった。どうしようもなく分からされてしまったのだ、あの空間で。また、あの状態になったら、
耐え切れないかもしれない。
「にゃー」
ブータが体を擦り付けてくる。魔法は解けた。
「……あ、あれ、本当にあった事なのよね?」
もしあれが私の見た一瞬の幻覚だったら人にはまるで意味の通じない言葉を口に出す。
「……ええ。あんな風に、人はわかりあえるんです」
「他にもこんな人が?」
「ええ、僕の死んでしまった兄弟達……」
そうだ。プレアは失敗したクローン。プレアには常に死の影がまとわりついている。
「みんなあんな風に分かりあえたら、人類もきっと……よりよき道を辿れるかも知れないのに……」
「わかっても、理解しても、譲れないものも、あるわ。いくらあなたの命が長くないって思い知らされても私は嫌だ! プレアに死んでほしくない!」
「ありがとう……」
ブータが今度はプレアに体を擦り付ける。
私はプレアとブータをぎゅっと抱きしめた。
「いきなりどうしたんだ?」
さっぱり訳がわからないと言う目でロウが私達を見てた。

 
 
 
 

「よう、お帰り! ルナ」
「サイ! トール! しっかり訓練やってた?」
「もうばっちりさ! とりあえず宇宙での機動に心配はないね。何しろ上から一方的にやられないってのがいい」
「そうそう。ジェットストライカーだったルナにはわからないけだろうけどさ」
「私だって! ジェットストライカーになるまではどんなに悔しかったか……ディンとか……水中用モビルスーツとかさ」
「そうだったな」
「宇宙には、宇宙の怖さもあるのよ? 推進部が壊れて漂う羽目になったら、味方が見つけてくれなきゃ窒息死」
「地球だって、空飛べたって撃墜されりゃ墜落死だろ? それぞれの死に方があるってだけさ」
「俺は……ミリィが待ってるからな。絶対生きるのをあきらめないよ。救急キットにあるメルカトランフェラーゼを注射して、出来る限り生きるさ」
メルカトランフェラーゼ――宇宙では救急キットの中に含まれている。これを注射して、コクピット内を4℃に設定すると
代謝が抑えられて半コールドスリープ状態になり、酸素の消費量が減り長期間の生存が可能になるという。試した事ないけど。
「でも、今度は地球軍は攻める側だから、その点は気が楽よね。なにかあっても、きっと可能な限り探してくれる」
「そうだな。じゃあ、ルナ。模擬戦やろうか? 腕鈍っていないだろうな」
「失礼ね! じゃあ、あなた達の腕前がどれだけ上がったか試してあげるわ」
「そうだ、ドミニオンの連中に声かけて紅白戦やろうぜ」
「いいわね」

 

ドミニオン隊にお誘いを掛けたら喜んで乗ってきた。
――紅白戦が始まった。

 

合図と同時に5機の105ダガーが突っ込んで来る。
……手強いのが2機! 誰? ジョンさんやエイムズさんじゃない、ダナさん? でも、後もう一人いる!
「スウェン、ミューディー、シャムス! 俺達は第2期シリーズの3機に向かうぞ! 残りはそのままダガーを引き付けて耐久しろ!」
フラガさんの指示が飛ぶ。
「「はい!」」
「サイ、トール! 手強いのが2機いるわ! それは私とキャリーさんに任せて!」
「わかった!」
言ってる間にも相手は切り込んで来る。
模擬刀同士がぶつかる!
実戦なら、一旦引いてもいいけど、ここはフラガさんの指示通りに!
……この2機、連携がいい! 隙があれば後ろのデュエルダガー、バスターダガーの方を狙われる。
その度に、攻撃のチャンスを挫かれる。気が抜けない。
あ……なに? これは?
――相手の位置が、これからの行動が、感覚でわかる……?
今までたまにあったような、集中力が限界まで高まったような感覚とはまた違う感覚。
あ、一瞬、フラガさんと繋がったような……側面から迂回してるのがわかる。
一体何なの?
不思議に思いながら、時間が過ぎる。

 
 
 

『ピー!』
警告音が鳴る。
『シャニ機、撃墜されました』
『オルガ機、撃墜されました』
『クロト機、撃墜されました』
立て続けの報告。
「待たせたな、お嬢ちゃん!」
『七郎機、撃墜されました』
私の目の前の105ダガーが動きを止める。横方から105ダガーを撃墜したのは、フラガさんのビームガンバレルだった。
……紅白戦は、アークエンジェル隊の勝利で終わった。
「あんなのありかよー! あんな武器持って来られたらどうしようもないぜ」
クロトだ。
「違うな。俺が普通のエールパック付けててもお前らやられてたよ」
フラガさんが指摘する。
「お前ら、一機一機は強いが連携がなっちゃいない。それを見て取ったもんでな、そこを突破口にさせてもらった」
「あはは。その通り。こいつら、てんで統制が取れないでやんのよ。好き勝手にやらせとくしかなくってさぁ」
ダナが苦笑して答える。
「だってよー、戦闘になるとつい暴走しちまうんだよ」
「……でも、前よりかは暴走しなくなってきたんじゃないか? 俺ら? 最近減薬されてるし」
「でも、なんか前より覚醒感なくなってきたんだぜ? いいのかよ? なんだか弱くなった気分だぜ?」
「まぁ、アズラエルのおっさんがやってるんだ。かまわんて事だろう。その代わりってゆーかOSも付きっ切りで改良してるみたいだし」
そうか……アズラエルさん、この子達治療してくれてるんだ……よかった。

 
 
 

「強いですね。さすがです、ホーク中尉」
この通信は……私が戦っていた105ダガーから?
「あなたもね。手強かったわ。名前を聞かせてくれる?」
「私達はまだ顔を合わせてなかったですね。最近ドミニオンに配属されたものですから。私は七郎・ソキウスです。
隣で戦っていたのが十一郎・ソキウスです。どうぞよろしく」
「よろしくね。あなた達、兄弟?」
「そんなような物です」
「――おい! お前ら! 未確認飛行物体だ! 距離約2000、イエロー262、34マーク9チャーリー!」
会話はフラガさんの声で断ち切られた。
私達は一斉に警戒態勢に入る。
だんだん近づいてくる未確認飛行物体……あれは! ジャスティスにフリーダム!?
「近づいて来るモビルスーツ! 止まれ! 止まらなければ攻撃する!」
フラガさんが警告する。
2機のモビルスーツは速度を落とした。
『その赤いモビルスーツ、ルナマリアか!? 俺はアスラン・ザラだ! プトレマイオス基地の最高責任者と話がしたい!』
アスラン!?

 

「おい、どうするんだ?」
「基地の最高責任者って誰になるんだ?」
「名前しらねーぞー」
「馬鹿ねぇ。アズラエルさんがいるんだからアズラエルさんに繋げばいいじゃない?」
「そうだな。では、その2機、着いて来い。おかしな真似はするなよ?」
『了解』
私達は、ジャスティスとフリーダムの周囲を取り囲んで基地に帰還した。

 

「……はい。了解しました」
「なんて?」
私は七郎に聞いた。
「アズラエル様はお会いになるそうです。一行に知り合いがいるあなたに連れて来て欲しいと」
「わかったわ。護衛は……大丈夫かしら? アスランなら、変な事はしないと思うけど」
「大丈夫です。アズラエル様の護衛は、私のような者……次郎と三郎が務めております」
「ひょっとして、あなた達、コーディネイター?」
「ええ。あなたには話しても良いか……戦闘用コーディネイターと言うものです。一般のコーディネイターになど遅れは取りません」
「戦闘用……?」
「その話は後で。今は、案内を」
「う、うん」

 

「どうぞ。アズラエルさんがお会いになるそうです」
「うむ」
ジャスティスとフリーダムから出てきたのは、驚く事にパトリック・ザラ前プラント評議会議長に、エザリア・ジュール国防委員長だった。
いったいプラントに何があったの!?

 

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