Lnamaria-IF_523第37話

Last-modified: 2008-02-10 (日) 20:59:31

アスラン達はオーブに降りる事になったと言う。
降りる前に、ちょっとアスラン達と会う事ができた。
「君がルナマリア君かね」
「あ。はい」
「息子がコペルニクスでは世話になったな。その後、色々あったが戦争だ。気に病まん事だ。君も息子も無事だったのだからな」
「はい」
「息子も君と話したがっている。短い時間だが、話すといい」
そう言ってザラさんはシャトルに向かって行った。
パトリック・ザラさん。正統的な軍人のような雰囲気の人だ。とてもエイプリール・クライシスを引き起こすような人には見えない。ううん、アズラエルさんの話だと、黒幕はシーゲル・クラインだったのよね。
「貴様が赤いストライクのパイロットか」
……? 銀髪の人が話しかけて来た。顔に、傷跡が残っている。
「はい……大丈夫ですか? その傷?」
「ん? ふふ」
その人はちょっと皮肉そうに笑った。
「俺はイザーク・ジュールだ。この傷は、お前に付けられた傷だぞ」
「え!? あ……その、すみません」
「ははは。屈辱を晴らすまではと思って残しておいたんだがな。もう消そうと思う。意味が無くなったしな」
「ええ。その方が男前になりますよ」
「ふん。まあ、頑張れ。ここまで生き残ったんだ。やられるんじゃないぞ。そして戦争が終わったら昔話でもしようぜ」
「はい!」
最後に、アスランが話し掛けて来た。
「ルナ……」
「ほんの一ヶ月前は、こんな風に落ち着いて会えるなんて思わなかった」
「俺もだ。事態の急展開に驚いてる。」
「色々あったね」
「ああ……お前はまだ戦うんだな」
「……うん」
「相手がザフトだからな。頑張れとは言い辛いが、無事で……」
「うん、ありがとう」
アスランが手を差し出す。私もその手をしっかり握った。
「戦争が終わったら、きっと会おうね?」
「ああ。じゃあ、そろそろ行くよ」
「うん」
アスランは、シャトルの方へ去って行った。




さぁて! 気持ちを切り替えなくちゃ。今までのテストの遅れを取り戻さなきゃね!
私はディープストライカーのテストの日々に戻る。上の方の意向としては、できればボアズ攻略に使いたいのだそうだ。
私はディープストライカーが与えてくれる加速度が好きになっていた。
そんなある日……
「あれ? あれは……何か、近づいて来る」
アスラン達が飛び込んで来た時の事が頭をよぎる。
ザフト? まさかね。アスラン達が演習宙域に飛び込んで来たせいで、警戒網は広げられているのだ。もし、外部からプトレマイオス基地に向かって来たとしたら、試験宙域に近づく前に哨戒線に引っかかってる。
――!
ビームが向かって来る!
あ、またあの時の感じ……ビームの軌跡が……わかる!
とっさにブースターを吹かして避ける。
敵? まさかと言う思いを抑えてアンノウンに向かう。相手の敵意は疑いないのだ。
――通信!?
『ルナマリア・ホークだな!?』
少女の声だった。
「そうよ! 何よ! いきなり攻撃なんかして! あなたは誰!?」
通信が入った事に少し安心してしまって私は答える。
『あなたが、成功した唯一のスーパーコーディネイターなんて認めない! 私はあなたを倒して私が成功体だと証明する!』
相手がビームライフルを構える! まずい、もう避けきれない! 通信が入った事で気を抜いた! 私の馬鹿!
「光を!」
とっさに私は叫ぶ。
『光が欲しい? 欲しいのなら、あげましょう!』
私の声に『ALICE』が答える。『アルミューレ・リュミエール』が機体の前面に展開される! アンノウンのビームが弾かれる!
『なにぃ!?』
アンノウンの少女の動揺した声が伝わってくる。
――どうする? ディープストライカーは格闘戦に不向きだ。ディープストライカーをパージする? それもだめ! 機動力が落ちてしまう。
なら!
「マイクロミサイル発射!」
ウェポンベイから三角柱が発射され、マイクロミサイルを周囲に乱射する! この飽和攻撃なら!
「――なによ、あれ!」
今度は私が動揺した。アンノウンが機体をまるっと全周を囲むように展開したのは、あれは――!
『これが本物のアルミューレ・リュミエールよ!』
勝誇ったような声が通信機から流れてくる。
「くっ」
簡易ガンバレル! なんとなく今までよりもスムーズに扱える気がする。アルミューレ・リュミエールの発生基部を狙う!
――避けられた。でも、これで隙ができた!
アンノウンからのビーム! 先読み出来る! 当たらない!
方向を微調整、そしてブースターで急加速してアンノウンのすぐ横をすれ違い、引き離す!
アンノウンは最後に大型ビームを放ってきたけど、この猛スピードのディープストライカーに当たるもんですか! 徐々に進路をプトレマイオス基地の方へ修正して撤退する!
アンノウンは、さすがにこの速度に追っては来られかった。
みるみるうちに小さくなっていくアンノウン。
……基地に着くまで、私の頭は一つの事を考え続けていた。
しゃべり方は変わっているけど。ううん、違うけど、あの声は……
私は唇をぎりっと噛み締めた。
――メイリンだ。


基地へ戻って、襲撃された事を報告したら、大騒ぎになった。
それはそうだろう。アスラン達の侵入からこっち、警戒を強めていたのだ。それが――無駄だった事になる。
「大変でしたねぇ、ルナマリアさん」
アズラエルさんも、慌てて飛んで来てくれた。
「警戒を強化したのに、こんな……」
「警備の人達を責めないでください。実は……」
私は、報告の時に伏せていた事を話した。
「相手も、アルミューレ・リュミエールを展開したんです」
「それは……相手はユーラシアの者だったと?」
「戦闘記録を見てもらえばわかりますが、相手は『これが本物のアルミューレ・リュミエールだ』と言っていましたからおそらく。報告の時には、大事になりそうなので伏せておきましたけど」
「……いや、いい判断です。確かに身内に敵が入り込んでいるなんて事がおおっぴらになったら大変だ。ひそかに憲兵を動かしますよ」
「お願いします。あと、一つ……」
「なんですか?」
「相手が、私の事を、成功した唯一のスーパーコーディネイターと呼んでいたんです。何の事だかわかりますか?」
「……あー、うーん……あ、そうだ! メンデルって知ってます? L4にあった実験コロニーなんですけどね。そこで行われていた実験に確かそうした物がありましたよ。確か、コーディネイトしても母体で成長する過程で母体の影響を受けてしまうので、人工子宮で理想的な環境を作りコーディネイトした結果を100%引き出す、と言ったような物でしたかね。スーパーと言うよりはパーフェクトコーディネイターと呼んだ方がいいですかね。それが、あなただと?」
「ええ。そう呼んでいました。私……私の両親は? 私、メンデルで作られたの? 私……!?」
「……うーん、こう言っちゃ何ですがね、あまり気にしない事ですよ。あなたのご両親はあなたに愛情を注いでくれたんでしょう? なら、いいじゃないですか。もし本当の両親でなくとも。僕にとってもそうです。あなたがスーパーコーディネイターなんてご大層な物だろうとそうでなかろうと関係ありません。メンデルの連中は実験に狂って100%に拘ったようですが僕に言わせりゃ90%も100%も大して変わりないですよ。それに計算外の事には喜びもあれば悲しみもあるんです。それが面白いんじゃありませんか」
「そう、ですよね。でも、あの子は違った。それに拘ってる……」
「あの子?」
「どうしよう!? アズラエルさん!? メイリンなの! メイリンの声だったの! メイリンが恨みの篭った声で私を襲って来るの! 私を倒して成功体になるって!」
「落ち着いて、ルナマリアさん! メイリンって、あの、夢の世界の妹さんですね? ユーラシアの部隊を調査させましょう。あなたは、自分の身を守る事に気を使ってください。いいですね?」
「はい……」
翌日から、ディープストライカーの試験には護衛が付く事になった。




「くそう! 私はあぁぁ! 認めない! 認めない! 奴よりも私が劣っているなど!」
「落ち着け! ディープストライカーの性能は君も知っているだろう? 逃げに持ち込まれたら追いつけない」
「そう、そうよね。私とした事が……」
「落ち着いた所で、君に通信が来ているが……ガルシア司令だ」
「いいわよ。出るわ。出して!」
マーク・ピスティスはコンソールを操作した。
『頑張っておるかね。メイリン・パルス』
「なんの用?」
『相変わらずつっけんどんだな。まぁいい。ルナマリア・ホークを狙うのはしばらく中止しろ』
「なぜ?」
『ふふふ、お前の機体のパワーアップによい情報があるのだ』
「なによ? 期待はしてないけど言ってみなさい」
『驚くぞ。ザフトの通信を解析していたところ、面白い命令をキャッチした。――核エンジン搭載モビルスーツを奪還せよとな!』
「……へえ、面白いじゃない!」
『当然それはニュートロンジャマーを無効化する装置の存在も意味する! それを手に入れれば私も……』
「あんたの事なんてどうでもいいわよ。今どこにあるかの情報はないの?」
『あるぞぉ! ケナフとか言う情報屋が売り込んで来てな。正確にはニュートロンジャマーを無効化する装置のありか、と言う事になるか。信頼できるかわからんが、一応行ってみるがいい。座標を送る』
「了解した」
『しかし! 守っているのはあの名高いサーペントテイルだそうだぞ。お前に勝てるかな?』
「関係ないわ。私とハイペリオンならね!」
『そう願いたいものだ。私もあいつらには貸しがあってね。では幸運を祈るよ。くっくっ』
通信は切れた。
「信用するのか?」
「……罠だったら、噛み千切るまでよ。ちょうど基地近くで奴を襲っちゃって、憲兵が動いていると言うわ。ほとぼり冷ますためにもちょうどいい!」




「ふむ。これはいったいどうしたものかなぁ」
劾は悩んでいた。
「確かになぁ。ドレッドノートを運んでいた連中はオーブの戦艦イズモに収容された。ところが! プトレマイオス基地にはザフトの新型の核動力機が逃げ込んじまった。ニュートロンジャマーキャンセラーの技術は地球連合に渡ったと見ていい。ドレッドノートの頭部を持っている意味はもうねえな」
リードが答える。
「アレは俺達が預かるのが今はベストだと思ったから奪ったのだが、こうも急速に事態が動くとはな……」
「しかし、ザフトから最新鋭の核動力機が二機も亡命なんて、プラントには何か起こっているぞ、劾」
「ああ。気になって調べさせてはいる」
ロレッタも心配気な顔をする。
「もし、地球軍の人達がアレを間違った方向に使ってしまったら……大変な事になるわね」
「ああ。俺達にできる事は、地球連合の上層部が愚かでない事を祈るだけだな」
「でもまぁドレッドノートの頭は返すしかないか。……ねぇ、返すって言っても、プレアさんは地球軍に保護されたって事でしょう? へたにプトレマイオス基地に近づいたら、拘束されかねないわ」
「アタシが行きます!」
「風花……」
「確かに、風っ花なら、危険には思われないかも知れねぇなぁ。ロウ・ギュール達は当の戦艦イズモにいるんだろう? 彼らを頼って……なんとかなるかも知れねぇなぁ」
「任せて下さい! ちゃんと事情を説明して来ますから!」
風花は幼い顔を上気させ気負った顔で胸を叩いた。




『警戒! 警戒! アンノウンがそちらに向かっている!』
その日もディープストライカーのテストをしていた私達は、哨戒部隊の警報を受けた。
「……ほんとに、なんでこうも私が出動している時に限って闖入者が続くんだろう?」
「逆を言えば、あなたが出動している時は警戒態勢を上げるようにすれば効率的な運用が出来るでしょう」
「ふふ、七郎、それはいい考えだ」
「あはは」
105ダガーで護衛についてくれている七郎が真面目な声で冗談を飛ばす。
私と十一郎は笑う。
『アンノウンは小型艇の模様!』
「まぁ、とりあえず基地に引き返しますか?」
「そうですね」
アンノウンから通信があったのはその時だった。
『地球軍の皆さん、こちらに敵意はありません! アタシは傭兵の風花・アジャーです! オーブの戦艦イズモにいるロウ・ギュールさんに会いに来ました! 取次ぎをお願いします!』






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