Lnamaria-IF_523第43話

Last-modified: 2008-03-07 (金) 23:53:37

「じゃあ、ルナマリアさん、また!」
「ええ、この戦争が終わったらまた会いましょう」
第八艦隊が後退するのに伴って、アクタイオン社の人達は、ディープストライカーを持って、引き上げていった。
入れ替わりのように、アークエンジェルのモビルスーツ隊の帰還が伝えられる。
「お帰りなさい! みんな無事ね?」
「ああ! お嬢ちゃんも良くやった!」
「ちぇ! もうちょっとでボアズ攻略できたのになぁ!」
トールがぼやく。水を取り出して一気に飲み干す。興奮しているみたいだ。
「無理は禁物! へたして怪我でもしたら、悔しいでしょ? まぁ、のんびりしようぜ! 第七艦隊が攻め切れなきゃ、また俺らの出番がやって来る」
フラガさんも水の入れ物を取る。
「トール! 無事だったのね!」
ミリィが飛び込んで来た。ミリィも休憩なんだろう。
「必ず帰って来るって約束したろ?」
「でもでも、いつもトールが出撃の時は心配なんだからね!」
ミリィがトールに飛びつく。トールはミリィの背中を優しくなでる。
あー。ご馳走様。


「キング大将、我が軍はすでにボアズの80%の区域を制圧しました!」
攻め手が第七艦隊に交代して1時間ほどもたった頃だろうか。報告が入る。
「ふふふ、圧倒的ではないか、我が軍は。我が艦もボアズに寄せろ。真っ先に入港してやるのだ」
「はっ」
第七艦隊旗艦ルーズベルトはボアズに砲撃を加えながら接近を始めた。


――同時刻ヤキン・ドゥーエ――
「ジェネシス照準、ボアズ!……本当によろしいのでしょうか? あそこではまだ我が将兵が戦っていると言うのに……」
「ボアズはどの道程なく落ちる。プラントを守るために必要な犠牲だ。我がザフト兵士達は喜んで納得してくれる者達ばかりだよ。君は彼らの忠誠を疑うのかね?」
シーゲルは目に力を込めた。見つめられた防衛指揮官はびくっと体を震わすと、目をそらし、スクリーンに目をやる。
「いえ……では、発射用意! カウントダウン、始め!」
「10…9…8…7…6…5…4…3…2…1…発射!!!」


あ……一瞬何かが私の体を走った。
「どうしたんだ? おい、ルナ!?」
「――だ、駄目よ、前へ進んじゃ駄目。光と人の渦がと、溶けていく。あ、あれは憎しみの光……」
「おい。おい? ルナ?」
「どうしたんだ? 一体?」
「変ねえ、どうしたの?」
「ぜ、全滅じゃないけど、ぜ、全滅じゃないけど……」


――アークエンジェル艦橋――
「なんなの? あの光は」
マリューは不吉なものを感じた。
「ボアズの方角ですな」
リーが顎を触りながら答える。
「一体何が?」
「すぐにメネラオスに問い合わせを!」
「はっ」


「ルーズベルトは、キング大将は出ないのか!」
ハルバートンは怒鳴った。
「は、まったく出ません! ルーズベルトの識別信号途絶!」
「ボアズの様子はどうか!? この混乱で逆撃されると第七艦隊は全滅するぞ!」
「ボアズからの反撃、ここから見た様子では皆無です。まるで誰もいなくなったかのような……」
「第七艦隊はボアズ攻略完了していたのか? もしやザフトはそれでやけくそで……」
「ボアズを攻略出来たとの報告も来ておりませんです」
「各艦から、先ほどの光はなんだと問い合わせが来ておりますが」
「後回しにしろ! 今は状況把握が先だ!」
副官のホフマン大佐も怒鳴る。
「第七艦隊で交信できる中で最上級者は誰だ?」
「……それも未だわからない状態です。どえらく混乱しとります」
「……」
ハルバートンはしばし考えた。
「よろしい。一旦本官が第七艦隊の指揮を取る! ボアズ近辺は危険だな。この宙域まで撤退せよと命令しろ!」
「はっ」


「第12分隊はサフランだけだ」
「シスコも被弾している」
「こちらは三隻ね。ずいぶん傷付いてるのがあるわ」
ハルバートンの元に第七艦隊の状況が集約されてくる。
「ずいぶん、やられているな」
「ずいぶんどころじゃありません。壊滅です」
「サザーランド大佐と連絡が付きました! 現段階で最上級者です!」
「ハルバートン少将、アズラエル理事から通信です」
「繋げ」
「はっ」
アズラエルの姿がスクリーンに映った。
『やあ、ハルバートン少将。第七艦隊は手荒くやられたようですね』
「はぁ。残存艦をこちらに撤退させているのですが、この様子では、1/4残ればいい方かと」
『ハルバートン少将、何にやられたか見当は付きますか?』
「おそらく、アズラエル理事からの情報にあったヤキン・ドゥーエ要塞のジェネシスかと」
『僕も同じ意見です。直ちに散開してヤキン・ドゥーエに進軍するべきと思いますがいかがでしょう? 特殊情報部の情報ではザフトは数発は撃てるだけの核を保有しているとの事です。もし地球を撃たれたら人類滅亡です!』
「その通りですな。幸い、第二射までには時間がかかるそうですから、なんとしても急行させてジェネシスを破壊せねば!」
『その通りです! ハルバートン少将、第七艦隊の残存各艦はこの際護衛無しでプトレマイオス基地まで独行で撤退、第六、第八艦隊はただちにヤキン・ドゥーエ攻略に向かうと言う事でいかがです?』
「了解しました。……ホフマン、第七艦隊残存艦には直接プトレマイオス基地に撤退するように伝達せよ。第六、第八艦隊はこれよりヤキン・ドゥーエ要塞、ジェネシス攻略にかかる!」
「第七艦隊、サザーランド大佐からです。我が隊被害少なし、ヤキン・ドゥーエ攻略に参加する、と」
ふ……とハルバートンは口をほころばせた。
「いいだろう。ただし待ってはやれんぞ。サザーランド大佐に被害の少ない艦をまとめさせ、後を追わせろ」
「はっ」


「くそう!」
アズラエルは壁を殴りつけた。
「理事、どうされたので?」
ナタルが気遣わしげに聞く。
「いや、ジェネシスを撃たれるんだったら核ミサイルもっと大量に配備しておくべきだったかなと思いましてね。ワシントンに配備した分で足りますかねぇ? まぁいまさら言ってもしょうがないか。ワシントンから何か報告は?」
「問題はないようです」
「そうですか。こうなったら遠慮なく使わせてもらいましょう。核ミサイルを」
「アズラエル様。マティス様から、ジェネシスの弱点を掴んだと、通信が!」
「なんですって!? それで……いや、自分で見た方が早い」
アズラエルはコンソールを操作する。
「……ふぅむ。ジェネシスのPS装甲は一枚板じゃない。ジェネシス表面には少なくない数の作業用の開口部が存在する、か。いけるかもしれませんね! そこを狙わせるんです! すぐにワシントン、それとアークエンジェルとイズモにも情報の伝達を!」




「我が忠勇なるザフト軍兵士達よ! 今や地球軍艦隊の半数が我がジェネシスによって宇宙に消えた。この輝きこそ我らザフトの正義の証である! 決定的打撃を受けた地球軍にいかほどの戦力が残っていようと、それはすでに形骸である。あえて言おう、カスであると! それら軟弱の集団がこのヤキン・ドゥーエを抜くことはできないと私は断言する。人類は、我ら選ばれた優良種たるプラント国民に管理・運営されてはじめて永久に生き延びることができる。これ以上戦いつづけては人類そのものの危機である。地球軍の無能なる者どもに思い知らせてやらねばならん、今こそ人類は明日の未来に向かって立たねばならぬ時である、と!」


演説を終えて奥に引っ込んだシーゲルの耳に拍手の音が響いた。
ラウ・ル・クルーゼだった。
「なにかね」
「いや何、やけに熱が篭っていましたのでね。あの演説、本当にご自身で信じておられるのかと思いまして」
「何をいまさら」
シーゲルは手を振った。
「人類絶滅。それが私の望みだと言ったろう」
「初めて聞いた時には本気とは思いませんでした」
「なら、今なら信じられるだろう?」
シーゲルは傲然と笑った。
「ジェネシスの第二射でプトレマイオス基地を撃つ、そして後顧の憂いなく最大出力の第三射で地球を撃つ。めでたく人類滅亡だ!」
シーゲルは凄みのある笑みを浮かべて腕を広げた。
「それが君の望みでもある。違うかね?」
「そうですが、なぜか? と思うのですよ。私には人類を憎む理由がある。あなたは?」
「私にもあるのだよ。人類を憎む理由がね。……進化の枠から外れた奇形人類を! いや……なんでもない……」
「……まぁ、いいでしょう。あなたがそうお考えの限り、協力させていただきましょう」
「頼むぞ。ジェネシスの防衛がすべてなのだからな。だからお前にプロヴィデンスを託すのだ」
「了解いたしました! 最高評議会議長殿!」
クルーゼは見事な敬礼を見せるとシーゲルの前から去って行った。




「いい? 核ミサイルを装備したワシントンのピースメーカー隊がジェネシスを攻撃するわ。私達はなんとしてもその血路を開かなきゃいけないの。ボアズと連戦で疲れているでしょうけど、皆、踏ん張って頂戴」
マリューさんが作戦を説明する。
「ああ、踏ん張ってやるぜぇ! 最後の戦いのために!」
フラガさんが声を張り上げる。
「最後の戦いのために!」
「戦いを終わらせるために!」
みんなが手を突き上げ、叫ぶ。
そうだ。これが最後の戦い。最後の戦いにしなきゃ。終わらせなきゃ! こんな戦い!
私はゼリー飲料を飲み干すとパイロットスーツに着替える。
「無事でな。一緒に行ってやれないのが残念だけど」
「ホントにね。無事で帰って来てね」
ミューディーがハグしてくれる。
そう、アークエンジェル隊で出撃するのは三人だけだ。アークエンジェル隊の最精鋭、フラガさんにキャリーさんと私。トールとサイ、カル・バヤン隊のみんなは予備兵力として残る。
「うん、ちゃんと無事で帰ってくるわ!」
さあ、最後の戦い!
「ルナマリア・ホーク、ストライクルージュ、行きます!」


ザフト軍はヤキン・ドゥーエ前面に厚い陣を敷いていた。
私達はすぐ乱戦に持ち込まれる。
「くそ! みんなは無事なの?」
「俺は後ろにいるぞ」
フラガさんだ。
「後ろは任せろ!」
「隣は任せてもらおう」
キャリーさん!
「ええ! みんな、行方不明にならないでね! 帰ったら乾杯しましょう!」
「「OK!」」
みんな、一丸となってザフトの陣を突き進む!


「あう!」
何? 何事? ちゃんと注意してたのに!?
「おい! そこのメビウス! こっちは味方だ!」
キャリーさんが怒鳴る。
「う!」
キャリーさんがメビウスから攻撃を受けた!
「キャリーさん!」
「大丈夫だ! こいつら変だ! ザフトの偽装かもしれん!」
『ルナマリア・ホーーークーーー!』
あ! この声でわかった!――メイリンだ! なんて時に! いや、この乱戦になる時を狙っていたのだろう。
「みんな、気をつけて! こいつら敵よ! 前に私を襲ってきた奴!」
メビウスに紛れて、こちらに突進してくる、もう見慣れたアンノウン――ハイペリオン!
「モビルスーツは私に任せて! みんなはメビウスを!」
「「わかった!」」
『あんたを倒す!』
「――メイリンーーー!」
さまざまな思いを込めて私は叫んだ。
ここまで来たら……倒さなきゃいけないかもしれない!
『一気に決めてやるわ!』
メイリンはアルミューレ・リュミエールを展開した。
私はガーベラストレートを抜く!
『そう何度も! 同じ手に引っかかるか!』
メイリンは、アルミューレ・リュミエールの角度を調整し、ガーベラストレートに対して槍の様に形作った。
ああ……! ガーベラストレートが! ビームの槍の作る分厚いビーム層により、とうとう中ほどが崩壊して、折れた。
でも! 私はガーベラストレートが崩壊しそうになったのを見ると、左手でビームライフルを取る!
「いい手だったけど、抜かったわね! ガーベラストレートに気を取られすぎて、背中ががら空きよ!」
メイリンがアルミューレ・リュミエールを槍の様にした事で、逆にハイペリオンの防御がお留守になってる。
私はすばやくハイペリオンの背後に回りこみ、アルミューレ・リュミエール発生装置が出ているウイングバインダーを撃ち抜いた!
破壊されたウイングバインダーから盛大に放電が発生し、メイリンは体勢を崩す。
「さあ、もうあんたを守ってくれるアルミューレ・リュミエールは無いわよ!」
『くっそおおお!』
メイリンは両手にビームサブマシンガンを持って連射する。連射の速度はこちらより上だ。弾数が多い!
焦るな、集中しろ!
私はビームライフルを連射せず、ゆっくり狙って引き金を絞る――ハイペリオンの左腕のビームサブマシンガンが爆発する。
やった!
「――っつう!」
こっちも被弾した! エールストライカーに当たってしまった!
いきなり速度が落ちてしまう!
『ちゃーんす!』
メイリンは左手の壊れたビームサブマシンガンの残骸を手放すと、左手にビームナイフを構えて突っ込んで来る。その姿は無防備に見えた。
私はビームサーベルを抜く!
――!
「なに!?」
小さな衝撃で座席が少し揺れる。
ストライクルージュのビームサーベルはハイペリオンの左腕を断ち切った。
でも――ストライクルージュの左腕も失った。
左腕の付け根に深々とビームナイフが突き刺さり、付け根の間接部分が小さな爆発を起こして、ストライクルージュの左腕は取れてしまった。
そのビームナイフはハイペリオンの右腕のビームサブマシンガンから発射された物だ。こんなギミックが仕込まれているなんて!
私はとっさにスラスターを吹かすとハイペリオンを蹴り飛ばす! ビームサブマシンガンがハイペリオンの右手から離れる。
『あう!』
メイリンの声。だがメイリンはすぐ立ち直ると、右手にビームナイフを手に取りストライクルージュの左脚を切り飛ばす。
「負ける、もんですか!」
ハイペリオンの胴体を狙った私の斬撃はうまく避けられハイペリオンの左足を切り飛ばす。
『油断したわね!』
しまった! ビームサーベルを蹴り飛ばされた――!
ハイペリオンのビームナイフが迫る!
『これで終わりよ!』
「――まだよ!」
私は残った右手で、頭上に漂っていた、半分程に刀身の長さを減らしたガーベラストレートを掴むと、そのままハイペリオンに振り下ろした――!






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