Lnamaria-IF_523第44話

Last-modified: 2008-03-14 (金) 17:45:46

『……私の、負けね…… うぅぅぅぅぅぅぅ……!!』
半壊したハイペリオンからメイリンの、慟哭の泣き声が聞こえる。
私の目の前に、すべての攻撃手段を奪われ、頭部と右足だけを残した凄惨な姿でハイペリオンは漂っている。
私も……ストライクルージュも、きっと外から見れば同じようにぼろぼろだろうな。
メイリンと一緒に襲ってきたメビウスは、フラガさんとキャリーさんに追い払われたみたいだ。
……甘いかな。止めを刺さなかったのは。
あの時、私は咄嗟にガーベラストレートの軌道をずらし、ハイペリオンの正中心ではなく右腕を断ち切った。
ぎりぎりの勝負だった。自分が負けていれば死んでいただろう。でも……
「メイリン。わかってもらえなくてもいいけど。私は、あなたと姉妹だと思っているわ」
『……そんな事、そんな事……』
『おーーーい!』
あ、この声は、ロウ?
リ・ホームが、戦場の流れ弾をうまく避けながらこちらに向かって来る!
『探すのに苦労したぜ! ずいぶんやられてるな、無事か?』
「なんとかねー!」
『ちょうどいい……って言や、なんだけどもさ、プレアからの贈り物があるんだ』
「なに?」
『ちょっとこっち来いよ!』
「なんだ? ルナ! 護衛は俺達でしといてやるから!」
「ありがと、フラガさん!」
私はリ・ホームに乗り移った。
「これは……!」
リ・ホームの格納庫に横たわっていたのは、灰色の、背中にまるでXを背負ったようなモビルスーツだった。
「これが、完成品のドレッドノートさ!」
「完成した、ドレッドノート?」
「ああ、こいつの一番の特徴は核エンジン搭載のパワーに背中のギミック――ドラグーンが、ガンバレルみたいに動かせるって事さ。無線式のガンバレルってとこかな。ビーム砲と多数の推進・姿勢制御用スラスターを備え、高い攻撃力と機動力を持ってる。腰に付いてるビームリーマーもドラグーンと同じように扱えるが、接近戦用のビームスパイクとしても使える。ルナなら扱えるだろうってプレアが。細かい仕様は地球軍式にチューンしてある。PS装甲も、ルナ用に調整済みだ!」
「プレアが?」
「ああ、ルナに使ってもらいたいってさ」
「……わかったわ。ありがたく、受け取る!」
私は乗り込んでスイッチを入れる。識別信号などを確認して、最後にPS装甲のスイッチを入れる。今まで灰色だった機体は深紅に輝いた。
「そう言えばさー、お前と戦ってた奴、どうする?」
――あ!
「収容して! 私の姉妹みたいなもんなの! でも、気をつけて!」


半壊したハイペリオンから救出され、リ・ホームに収容されたメイリンは、すっかりおとなしくなっていた。
私の夢の記憶より少し大人びた姿をした、メイリン。
私を見る目に、力がない。まるで腑抜けのようだ。
「……メイリン。あなたは騙されていたのよ」
「騙され……?」
「私は戦闘用コーディネイターって人に何人も会った事がある。友人よ。文字通り戦闘用に特化されてコーディネイトされて生まれてきた存在……」
「……」
メイリンはわずかにこちらに目を向けた。
「私より、あなたより、戦闘に関してはずっと強いわ。ううん、ナチュラルにも、私が剣術でとうとう勝てなかった人がいたわ。あなたはスーパーコーディネイターって言うけど、それは人類で一番のような、万能の神の様な、そんな存在じゃない。ただ母体の影響が排除されて、設計図通りの結果が出た、それだけの存在よ。あなたがもし私に戦闘で勝ったって、その瞬間はいい気持ちかも知れない。でも、一時の夢よ。そんなの全然偉くない! 例えあなたが私を倒しても、あなたは私にはなれない。人は結局、自分の人生しか歩けないのよ」
「……」
「あなたを戦闘に駆り出した人がなんて言ったか知らない。でも、スーパーコーディネイターってそれだけの物なのよ。戦争はこの戦闘で終わるわ。ううん、終わらせる。そうしたら、私は戦う事を止めるわ。あなたも、出来れば別の道を探して頂戴。戦闘だけが、あなた……私達の能力じゃないわ。あなたの能力を生かす道は一杯あるはずよ」
「なんで……なんでそんなに優しいのよ! 私はあんたを殺そうとしたのに!」
「……言ったでしょ? あなたは、私の……あなたを姉妹みたいに思ってる」
私はぎゅっとメイリンを抱きしめる。メイリンの、体の震えが、熱が伝わって来た。


「じゃあ、ルナマリア・ホーク、ドレッドノート、行きます!」
メイリンをロウに託し、私はリ・ホームから離艦した。
「へぇ、面白い形だなぁ」
「フラガさん、これは私の弟が託してくれた大事な機体なのよ」
「はは。でも、そのカラーリング、似合ってるぜ」
「ありがと!」
「じゃあ、行こうか!」
「ええ!」
私達は再びジェネシスを目指す!




あれは……ビームだ!
レナ・イメリアはザフトのビーム光である事を確認した。
「行くわよ!」
「「了解!」」
この戦いでザフトは大量に新型機を投入して来た。隊長機はもれなくビーム兵器を持った新型だ。
「隊長機さえやれば、後は烏合の衆よ! 個人主義のコーディネイターなんて! 我々の連携攻撃を味合わせてやりなさい!」
「「了解!」


シホ・ハーネンフースは接近して来る地球軍機を見て両肩のビーム砲を発砲する。
「くそ、連射性が低い!」
このままではあっという間に接近されてしまう。
せめて機体が……シグーディープアームズではなくゲイツだったら!
ジュール隊長がザフトを脱走した後、残された隊員がどれだけ理不尽な白眼視に耐えてきたか……
もし、イザーク隊長に再び会う事があったら、絶対ぶん殴ってやる!
そう決意しながらシホはレーザー重斬刀を取り出し、部下に発破をかける。
「接近戦に移る! 気を抜くな!」
「「了解!」」


「接近戦に移ってきたか。思い切りがいいわね。でも私のバスターダガーを舐めるな!」
イメリアはビームサーベルを抜くと、スラスターを生かして軽快な機動を開始する。
「重斬刀? そんな物で! 死ね! ザフト! 弟の仇!」
イメリアはミサイルを乱射する。


相手を砲撃戦用機と見て迂闊に近づいたのがまずかった!
シホは意外に軽快な相手の機動に焦った。
その時、相手がミサイルを乱射して来た。
何発か喰らうか!?
シホは衝撃を覚悟した。
その時、横合いから、ビームが飛んで来、ミサイルを叩き落す。
「大丈夫か!? シホ・ハーネンフース!」
「サトー隊長!」
ミサイルを叩き落したゲイツに乗っていたのは、周囲から白眼視されるジュール隊改めハーネンフース隊を陰日向にかばってくれたサトーであった。
「協力して、叩くぞ! 包囲しろ!」
「了解です!」


くそ! 嫌な時に敵の増援が!
イメリアは心の中で罵った。
「包囲されるな! 散開しろ!」
「「了解!」」


「相手は散開した。確実に一機一機仕留めて行け!」
「はい!」
シホとサトーは協力して敵機を確実に仕留めて行く。
ざまを見ろ。妻と娘の仇だ。
サトーは唇を歪めた。


「くそ、このままでは……近くに誰かいないか!?」
このままでは逃げられもしないまま全滅してしまう。イメリアは救援を呼んだ。
……応答がないまま、時間が過ぎる。
部下達が、一機、また一機とやられていく。
ここまでか……
その時、赤いモビルスーツが飛び込んで来た!
「イメリア教官! 無事か!?」
「その声! エドワード・ハレルソンか! よく来てくれた!」
「押し返すぜ! 教官!」
「ああ!」
エドワードのソドカラミティは、サトーのゲイツと戦い始める。
彼の連れてきた部下達も、ザフトのモビルスーツと戦闘に入る。
もうすぐだ。もうすぐ、ジェネシスに核の花が咲く。そうなればザフトなぞ終わりだ。
弟の仇が取れる。ざまを見ろ。
イメリアは唇を歪めた。




「道は、開けたか」
「ええ、なんとか。ワシントンがジェネシスに接近する事に成功しました」
ワシントンからピースメーカー隊が次々に発艦して行く。
「これで終われば、よいのだがな」
「そう願いましょう」
……ジェネシスに接近したピースメーカー隊が次々に核ミサイルを投下する。
花火のように、数々の光が乱舞する。


「なにぃ!?」
アズラエルは目を疑った。ワシントンからのピースメーカー隊が核攻撃を終えた後、何も変わらない姿をジェネシスは現したのだ。
――!
ジェネシスが光を放つ。
「やばい! 全軍に伝達! ジェネシスの射線から離れろ!」
慌てて動き出す地球軍艦艇。


「ふ……さすがだな。核攻撃などなんともないわ。……にしても地球軍もジェネシスの恐ろしさを思い知ったようだな。散開攻撃をしてきおる。これでは狙えんな。まぁいい、幹を切り倒せば枝も枯れると言うものよ。第三射まで時間を稼がねばならんな。やつらも必死になるぞ。ジェネシス自体に取り付かれては、さすがに厄介だ。ジェネシス発射後、ジェネシスに再び接近されんようにヤキン・ドゥーエ防衛隊は第1を残し、第2から第10まで全て、ジェネシスの防衛にまわせ」
「了解です!」
「さあ、ジェネシス第二射、目標、月面プトレマイオス基地!」
「はっ。目標、プトレマイオス基地!」
ジェネシスの本体内部で炸裂した核から発生したガンマ線レーザーは一次反射ミラーに照され、さらに 一次反射ミラーでガンマ線レーザーを拡散、増幅させ本体に設置された二次反射ミラーに照射される。
増幅されたガンマ線レーザーは二次反射ミラーで更に増幅され……その射線は月に向かった。


「ジェネシス、第二射発射されました」
ホフマン大佐がハルバートンに告げる。
「そんな事言われんでもわかるわ! 目標はどこだ!?」
「目標、月面プトレマイオス基地と思われます!」
「プトレマイオス基地との通信途絶!」
悲鳴のような報告が相次ぐ。
「核攻撃にも耐えるとはな。こうなれば……直接乗り込んで破壊するか……全軍、目標ジェネシス!」
「はっ、目標ジェネシス!」


ジェネシスから放たれた光は……あれは月の方向!?
「お嬢ちゃん! ジェネシスはどうやら核攻撃にも耐えやがったみたいだ!」
「内部から、破壊するしかないか……」
「そうみたいね。急ぎましょう!」


「……ジェネシスの弱点、作業用の開口部は? 狙えなかったんですか?」
平坦な声でアズラエルは尋ねる。
「さすがに……ザフトの抵抗もあり、そこまで肉薄は出来なかったようです」
「…………。スパルタの母の教え――刀の短さを嘆くより、もう一歩踏み込め、か。こうなれば……作業用の開口部に直接陽電子砲をぶち込んでやりますか……」
「アズラエル理事! オーブ艦隊、戦艦イズモから入電! 『我、我がローエングリン4門の力を以ってジェネシスを破壊せんとす』以上です」
「わかってるじゃぁないですか! 承知したと返信を! ドミニオン前進! アークエンジェルにも伝えろ!」
アズラエルは、ふぅっと深呼吸をするとマイクを握る。
「――全軍、聞いてくれ。ジェネシスの攻撃力は凄まじく、地球を撃たれれば世界が滅びるのも時間の問題だ。希望は一つしかない。今、この場でジェネシスを破壊する! それだけが人類が助かる道である。連戦を続ける地球軍の戦力は少なく、ザフトの反撃は強固だ。だが、それでも我々は戦わねばならない。なぜなら……地球軍は敵に背中を見せないからだ! 残された戦力を結集して、ジェネシスに最後の攻撃をかける。総員戦闘を開始せよ!」






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