Lyrical DESTINY StS_第08話

Last-modified: 2008-03-07 (金) 18:24:52

彼と彼は近い存在だった。
この世の誰よりも近い。
親子と言ってもいいはずだ。
だが、彼にあるのは“守りたい”という意思。
黒い感情は消えて。
新しい優しい感情。
目覚めた彼は、生きる目的を見つけていた。

 

─数年前─

 

誰もいない静かな場所にラウは倒れていた。
痛みで体は動かず、感覚がだんだんぼけていくのがわかった。
「死ぬ・・・の、だな。わた、し・・・は」
しかし、空を見上げれば気持ちのいい青空・・・ラウもこんな場所で最後を
迎えられるのだ、と少しだが気が晴れる思いだった。
「ふ・・・そぐわぬ最後、だな」
このまま静かに眼を閉じ、この呪われた人生に終止符を打とう、そう考えていた。
だが、傷ついた彼に近づく者がいた。
「大丈夫か!?・・・凄いケガだ」
ラウの前に現れた男はラウの傷を見るや否や、ラウの体に触れて、眼を瞑った。
「我が命において、時間たる存在を切断し、彼の者に少しの猶予を」
男が何かを呟くと、突然ラウの周りが光る。
ラウはその光をどうにか視線をずらして見つめた。
不思議な紋様が描かれていて、なにやら体の感覚がぼけていった。
意識はあるのに、先ほどまで感じていた痛みや、死の近づく感覚がなくなっているのだ。
「なに、を?」
「静かにしていなさい・・・私は・・・・・・」
ラウは初めて聞く名前だったが、なぜか心に残った。
そして、目の前の男はラウの体の治癒を始める。
体の感覚がだんだんと戻り始めていることを知り、ラウは拒絶を始める。
「やめ、てくれ・・・私は、どの道長くはない・・・テロメアが短いんだ」
よく見れば、年齢とは不相応に顔の老けが始まっているラウ。
「心配しなくていい。私は君を救う。ソレが苦しみだというのなら・・・ソレからも」
ソレを聞いたラウはいまいち意味を飲み込まず、また苦しみを味わうのか、と
心のそこで目の前の自分を治療する男を憎もうとしていた。
男が治療する中、ラウはだんだんと眠気に襲われ・・・ゆっくりと瞼を閉じた。

 

「ラウ・・・レイを置いていく気なのかい?」
黒髪で長髪の男がラウに問いかけた。
「あの子もできるなら自分の意思で選んでほしいのだよ」
ラウの返答に男はあざ笑うようにラウを見た。
「運命は変わらない・・・結局逃れられないんだよ。
だから、その逃れられない運命の中で人は生きていく」
「・・・人は自ら作り出した闇に食われて滅ぶさ。この私が闇であるように」
その言葉に気持ちなど込めてはいない。
ただ、ありのままに・・・自身が呪われた存在だということを受け入れるだけ。
受け入れた後に、その呪いを課したすべての者たちへ、そして蔓延した業を消し去るために。
彼は戦場をかけた。
優秀な彼は、人を駒として自在に操った。
駒の死に動じず、己が目的のため、すべてを利用する。
そう生きてきた。

 

「人は、人はそんなものじゃない!!」
だが、否定された。否定される事はわかってはいたが。
「僕は!守りたい世界があるんだ!!」
否定したのは、私と同様に業によって生み出された存在。
─キラ・ヤマト・・・最高のコーディネイターとして生み出された者。

 

人は愚かだ。
憎しみの目と心と、引き金を引く者たちしか存在しない。
いったい何を信じれたのか?
なぜ信じなければならないのか?
いつかは、やがていつかはと・・・いつまで自分に言い聞かせれば気が済むのか?

 

人の業・・・直面すれば挫け、中心にいれば広げる。
そんなことを繰り返して、いずれは新たなラウ・ル・クルーゼを生み出すだろう。
そう・・・思っていた。

 

暖かい空気を肌に感じる。
「・・・ん?」
意識が覚醒し、途切れたはずの感覚が戻っているのを感じた。
「ここ・・・は?」
ラウは体を起こし、周りを見渡す。
古風なつくりの部屋で、大きな暖炉が一つ火を燃やしていた。
「やぁ、目が覚めたのかい?」
声がした。

 

振り向けば、煙草をくわえた男が立っている。
「・・・アナタが私を?」
「そうだよ?体の調子はどう?」
言われて、あちこちを見渡す。
完璧に傷が消えていることにも驚いたが、何よりソレを“できた”こと自体にも驚いていた。
ラウはもう助からないほどの重傷だったはず。
腹に風穴は開き、圧力で粉々になったはずの手足の骨も。
すべてが元通りだった。
あり得ない、とラウは冷や汗をかく。
ソレなのに、彼はソレを治したという。
「何者なんだ?アナタは?」
ラウは男を睨みつける。
「・・・何、しがない科学者さ」
今、彼が博士と呼ぶラウルがラウの前にいる人物だ。
「科学者?」
確かに、ラウルの格好は白衣。
ただの医者、という感じでもなかった。
「私はアレからどれくらい眠っていたのですか?」
「ん・・・かれこれ~一週間?」
「!?」
告げられた日数に驚きを隠せないラウ。
「だが心配要らないよ?その間に、すべてを治療しておいたからね」
そう言ってコーヒーを差し出してくるラウル。
「・・・どうも」
とりあえず受け取るラウ。
しばらく沈黙。
そして、コーヒーを飲み終えて口を開いたのはラウルだった。
「君の事は・・・遺伝子情報で確かめたよ」
「!?」
彼の言ったことに異常なほどの驚きを示すラウ。
「本名はアル・ダ・フラガ。だが、ラウ・ル・クルーゼでもある」
ラウルはモニターを表示し、ラウのデータを出す。
「経歴も凄いが、君の世界はもっと凄いね・・・質量兵器に特化し、ソレを元に戦う」
いやはや、とラウルは肩をすくめ、煙草に火をつける。
「君の世界・・・とは、どういうことですか?」
ラウは一番気になったことを聞いた。
「ああ。ここは、君が元いた世界じゃない・・・だが、コーヒーは同じだったろ?」
ラウルの言葉が、ラウには本気か冗談かわからなかった。
「この世界はね、君の世界のように兵器が発達したわけじゃないんだ。
ここはミッドチルダと言ってね。
時空管理局の地上本部がある・・・魔法文明が発達した世界だよ」
ラウルの言った言葉にラウは自分がからかわれているのか、と思った。
彼の世界において“魔法”というものは、現世に存在しない。
まさしくおとぎ話の類だ。
「・・・」

 

だが、ラウルの表情からは読み取れない瞳の奥にある気迫に
なぜか信じなくてはならないような気分になっていた。
「では、なぜ私はこの世界に来てしまったのですか?」
あのまま、死を享受したかった・・・ラウの胸中はそんなところだ。
だが、ラウルは彼にこう言った。
「生きているから生きているんだ。そして、君はこの世界に来た・・・
これは運命かもしれないし、偶然かもしれない・・・だけど、今生きているなら
生きなくてはいけない。ソレが今君が背負う責任なんだよ」
ラウルはソレを笑顔で言った。
その笑顔がラウにはどこまでも眩しく、そして儚く見えた。
「・・・だが、私は長くはない。遺伝子情報で知ったのでしょう?私は・・・」
「ああ大丈夫。君は君だ・・・言っただろう?私はそれらから君を救うとね」
そうして彼は鏡を取り出す。
そこに映っていたのは、まだ仮面をつける前のラウがいた。
「こ、これは!?」
ラウも事実を受け入れられず、自らの顔に触れる。
「・・・馬鹿な」
「君は・・・救われたかい?」
ラウが自分の顔に驚いている中、ラウルはそんなことを口にした。
彼はまだラウのことを救えたと思っていないのだ。
「・・・はい」
その時、ラウは人前で初めて涙を流した。
自分は救われた・・・アル・ダ・フラガの呪縛から逃れ、完璧な“命”を
獲得することができたのだ。
「私は・・・救われました。ありがとう・・・ございます」
心からの言葉に、ラウルもうれしそうに笑った。

 

それから、しばらくラウとラウルは一緒に暮らし、ラウはミッドチルダの
情報を知り、管理局という存在を知った。
「しかし、博士はどうして管理局に入らないのですか?アナタほどの方なら」
この頃からラウはすでに彼のことを博士と呼んでいた。
「何、私は今の管理局が嫌いなんだ・・・だから、仕える気も使われる気もないんだ」
まるで遠くを見るように彼はそういった。
「ラウ・・・どうしてこの世界は、持つものと持たざるものがいるのかな?」
「は?」
彼の唐突な言葉に思わず間抜けな声を上げるラウ。
「私は思うんだ。どうして持たざるものに対抗する力を与えてはいけないのだろう?
ソレがバランスだというのだろうか?
無抵抗に弾圧される人達を容認することが、正しいのだろうか?」

 

ラウはここに来て管理局のことを知った。
才ある者、努力する者・・・だが、その二つは必ず先天的な魔道士としての資質を持つ者たちだ。
つまり、リンカーコアを持つ者。
「・・・私はなんともいえません。私の世界ではバランスなどありませんでしたから」
ただあったのは人の業に溢れかえった存在だけ。
「君も、天に上ってみればわかる・・・遥か上から下を見れば
悲鳴を上げているのはいつも持たざる者たちだ」
このとき、ラウは彼のことがまた一つ理解できた。
彼は、遥か高みを目指し・・・たどり着いたとき、知ってしまったのだ。
持つ者と持たざる者の存在を。
「私・・・は」

 

─第18管理世界・上空─

 

「あの人は“命”を愛している・・・だが、腐りきった部分を排除するためなら
ソレを切り捨てることをいとわない」
ラウの目の前にはそこにいるだけで存在感のある管理局の艦船“スサノオ”があった。
「君たちには・・・いや、その艦には沈んでもらうよ?
さすがに三隻もあると邪魔なのでね・・・行くぞ、ヒロイック・プロヴィデンス!!」
(了解。システム第一段階で起動・・・フォルム“シグー”セットアップ)
ラウの手にあったグレーの結晶体は輝き、ラウの体を包む。

 

結晶体はラウの右腕部分に行き、そこに手甲となって現れる。
そして、グレーのボディアーマー、背部分には四枚の光る長い突起が現れ
ソレが翼のような機能をしている。
体から足の付け根にかけては彼の世界のMS“シグー”と酷似していた。
「ふっ・・・さすがは博士だな。高機動戦なら、“シグー”は使いやすい。では行くぞ!!」
ラウはスサノオに向かい急加速をかけ、突撃する。

 

─スサノオ・ブリッジ─
さすがのスサノオもラウの接近は察知したようだった。
「左舷より接近してくる魔力反応!」
警報が鳴り響き、艦内にアラートの表示が出される。
「何なの!?」
「・・・魔道士です!!魔力波長・・・照合認証なし!推定Sランク相当!」
オペレーターの言葉に、マリューとムウはお互いに顔を見合わせる。
「おいおい・・・なんたってこんな所で!管理局支部に連絡!!武装局員は迎撃だ!」
ムウはオペレーターに指示し、再びマリューを見る。
「どうやら・・・バルトフェルドの意見は実証されちまったね。“赤い翼”には仲間がいた」
「なら、今のうちに・・・叩いて、少しでも相手の戦力低下を!」
「ああ!」
任せとけ、と親指を立ててウインクするムウ。
そんなとき、スサノオに衝撃が走る。
「目標!シールドに接触!AMFを展開している模様・・・シールド破られます!」
「何!?」
モニターに状況が映る。
グレーの光がスサノオのシールドを突破しつつある状況がそこにはあった。
「なんて奴だ・・・艦長!」
「え、ええ!これより目標を“グレー”と呼称します!艦内白兵戦用意!!」
マリューの一言によりすべては始まった。
同時にラウがスサノオのシールドを突き破っていた。
スサノオに轟音が響き渡り、激しく揺れる。
「左舷装甲板大破!シールドも砕かれました!!
敵は艦内第5ブロックに侵入・・・現在局員が抗戦中!!」
状況を聞いて、マリューとムウは無言で頷き、ムウはブリッジを後にする。

 

ブリッジを出て、ムウはかつて感じた感覚に襲われていた。
「この感じ・・・まさか、な」
頭に浮かんだことを振り払い、ムウは走り出す。
その手には眩しく輝く黄金の結晶体が握られていた。

 

─第18管理世界・管理局支部─
上空で突然の爆音に当然、彼らも驚きながら本局に問い合わせたり、と対応を急いでいた。
「スサノオより通信!敵数は1!呼称は“グレー”ライブラリに登録!」
「本局より通信!応援到着は10分後!ソレまで持たせろ、とのことです!」
「くっ・・・スサノオに打電!」
彼らにはどうしようもなかった。
ただ慌てふためき、他の助けを求めるだけ。
目の前の現状を甘んじてみていることしかできないのだ。
これが・・・“弱さ”

 

─スサノオ・艦内─
「死にたくなければどいていたまえ!!」
ラウは向かい来る局員を一喝し跳ね除ける。
「ふざけるなぁ!この犯罪者がぁあああ!!」
ものすごい形相で局員はラウに魔力弾を放つ。
だが、そんなものは高機動型の装備をしているラウには無意味だった。
「遅いのだよ!」
顔面を殴り飛ばし、局員はそのまま地に伏す。
「ふん!」
ラウの進撃は止まらない。
また、彼らにもとめる術はなかった。
「くそっ!やられっぱなしでいられるかよ!!」
すると、ラウの前に三人の魔道士が一つの杖を握ってたっていた。
「行くぞお前ら!」
「「おう!」」
三人の魔道士が一つの杖に魔力を上乗せしていく。
「ほう・・・」
ラウも一度立ち止まり、その有様を見つめる。
「高町教導官直伝の!砲撃魔法だ!」
一人が術式を展開し、二人がそれに魔力を込める。
その行程を行い、照準をラウに向ける。
「では撃って見たまえ・・・君たちが尊敬する人物が教えたその魔法を!!」
ラウは回避行動を取らない。
徹底した防御の形を取っていた。
「なめやがって・・・これが俺たちの意地だぁぁぁぁぁ!!」
「うぉおおおおおおおおおお!!」
魔力が一気に膨れ上がり、光が大きくなる。
そして、その巨大な光は弾けたように、ラウに向かって放たれる。
「来い!!」

 

ラウは右腕の手甲を防御の要とし、防御体勢に・・・ソレも深く。
放たれた砲撃はまっすぐラウに直撃し、爆発を起こす。
「やったか!?」
艦内の狭い通路で行った砲撃はしばらく粉塵が巻き起こり
通路として機能できそうもないほどに壊れていた。
「ったく!始末書を書くのが面倒だな」
一人の男が愚痴をたれるようにスコープで煙の先を見る。
「・・・ん?」
煙の先には魔力反応があった。
「ち、まだ健在か・・・もう一発だ!!」
その場を指揮している男は慢心と油断を捨て、冷静に対処する。
「第二射スタンバイ!」
「了解!」
三人の魔道士は先ほどの一発を放っただけでだいぶ汗をかいていた。
おそらく、後二発ほどが限界だろう。
(警告)
「!?」
指揮をしていた男のデバイスが警告するや否や
即座に反応し三人の魔道士の前に立ち、自身の杖型デバイスを盾に構える。
「いい反応だな」
煙の中から何かが飛び出す・・・ラウだ。
フォルム“シグー”の装甲がだいぶ削られている。
それほどのダメージだったのだろう。だが、ラウはまだ平気だった。
「たぁ!!」
そして、ラウは左手にシグーの剣を出現させる。
(ヘビーブレード)
ソレを手にし、三人の魔道士のカバーに入った指揮官に切りかかる。
「ぐっ!・・・貴様、何者だ!!」
「優秀だな?貴様のように優秀な者が利用されるのは、いささか虫唾が走るというものだな」
ラウが何を言っているのか、男はいまいち理解できなかった。
だが、目の前のラウがただ自分たちにとって敵であり、捕えるべき相手だと思っている。
「貴様を拘束する!」
「やってみたまえ!」
鍔競り合いから一度弾き、男は杖先に魔力をためる。
「このぉ!」
放たれる光。
「ふん!」
だが、ラウはソレを右腕で弾き飛ばし、右腕の位置を多少ずらして
その先にガトリングガンを出現させる。
(バルカン)

 

これは“シグー”の盾内蔵式バルカンだ。ソレを魔力弾式に変更したのだろう。
「くっ!シールド!」
男もシールドを張り、ソレを防ぐ。
「なら、これはどうかね!?」
(APSVショット)
先ほどまでとは違う魔力弾を放つラウ。
ソレは、男の張ったシールドに当たると、最初の数発は弾かれるが
後からの弾は男のシールドにひびを入れ始めたのだ。
「なんだと!?」
「貫通力に特化したこのAPSVショットは・・・元はある質量兵器向けでね?
まぁソレをある程度魔力をも貫通する力を備えさせたわけさ。
まぁ名称が魔法に対して不釣合いではあるがね」
ラウが説明口調で語るも、余裕のない男はソレを聞く暇はなかった。
「ぐ、う・・・ぐぅ!」
「沈みたまえ」
ラウの一言が決め手となったかのように、男のシールドを貫通し、魔力弾は男に直撃する。
「ガハッ!」
そのまま後ろに吹き飛ばされる指揮官。
「そ、そんな・・・」
他の局員たちも彼がやられたことが信じられないのか、固まっていしまっている。
「・・・脱出したまえ?この艦は私が沈めるのだから」
もはやかえるに睨まれた蛇も同然だった。
だが、そこに一人の男が現れる。
「!?」
ラウも感じた・・・懐かしき感覚。
「ムウか!?」
振り向けば、ものすごい魔力がまっすぐに向かってくる。
そして、魔力弾がラウに向け、放たれる。
「ちぃ!」
ラウは一歩地面を弾き、退く。
「・・・ラウ・ル・クルーゼなのか?」
ラウの後ろには彼がいた。

 

─なぜ、なぜ奴がそこに!?
ムウの思いはそれだけだった。
「お前は、ラウ・ル・クルーゼなのか!?」
投げかける質問。
ソレは、彼の笑い声で核心に至る。

 

「フフフ・・・ハーッハッハッハッハ!!君も生きていたとはね・・・
まったく、不幸な宿縁だな!?ムウ・ラ・フラガ!!」
振り向いたラウ。その顔を見たムウの顔を彼は忘れないだろう。
「お前・・・その顔」

 

ゴクリ、と息を飲むムウ。
「私は、アル・ダ・フラガの呪いから開放された。ムウ・・・私は、ラウ・ル・クルーゼだ」
穏やかな笑顔・・・決して“殺意”などなく
ただ今の己を照明するかのようなその笑顔に、ムウは驚くことしかできなかった。
「お前・・・は」
「ムウよ、なぜ君はここにいる?」
ラウは純粋に彼に質問した。ソレは、管理局の表裏を知るものとしての質問だった。
「・・・人を殺さず、済む・・・からだ」
そう、彼もまたその望みを持つ一人。
「なるほど・・・単純な話だ。だが・・・・・・いやよそう。
君はどこにいようが、軍人だ。ならば、形式に拘る性分ではあるまい?」
その一言にムウは眉をひそめる。
「下がりたまえ・・・管理局に入った時点で君は私には勝てん」
ソレは何の根拠があったのか?だが、ただ“人を殺さずに済む”という理由だけの者にラウは決して敗せぬ自身があった。
「・・・随分と変わったな。人の業とやらへの執念は捨てたのか?」
「ソレよりも大切なことを見つけただけさ・・・ムウ。やっと理解できたよ
大切なことが・・・守るべきものが」

 

冷や汗がどっと出た。
ムウはこの時ほど目の前の男ラウ・ル・クルーゼに怯えた事はなかっただろう。
人には色々な強さ、弱さが見れる。
ラウの場合、人への憎しみが強さで・・・結束といったものが弱さになっていた。
しかし、今のラウはすべてが強さ・・・弱さなどない。非の打ち所がないのだ。

 

「(この男から、“守るべきもの”なんて言葉が聞けるなんてなぁ
生きててよかったって奴かぁ?)」
強がるように笑うムウ。
「シラヌイノアカツキ!」
(セットアップ)
そして、デバイスを起動させる。

 

「ほぅ?」
ラウはソレを観察するようにじっと見つめていた。

 

黄金の光はムウの全身にくまなくいきわたると、ソレがだんだん凝縮し
両手足に眩しく輝く手甲となった。
そして、ボディアーマーが装着され
その上から、鎧のように織られた騎士服を肌が露出することなくムウの全身を包む。
ムウの背中に一基、ソレを中心に六つの砲塔が浮いていた。

 

「・・・ドラグーンか?なるほど、君も強くなっているわけだ?」
「行くぜ!!」
「!?」
ムウはその場から猛スピードで弾けた様にラウに突進し
魔力刃を展開して彼を防御ごと弾き飛ばす。
「ぐっ!」
どうにか体勢を保とうとするが、スサノオの狭さに足を取られてしまう。
「ちぃ!」
舌打ちし、現状の理解を早めようとするが・・・そこに、彼は迫っていた。
「だぁらぁあ!!」
気迫で拳を突き出してくるムウ。
「しまっ!」
思考をめぐらせるあまり防御行動が疎かになってしまっていたラウ。
魔力が一気にムウの拳に収束し、ラウの胸部にぶち込まれる。
ムウの拳は彼のボディアーマーを砕き、そして彼をスサノオの艦尾大フロアにまで吹き飛ばされてしまう。

 

ムウたちの戦闘モーションは元々MSのデータを基にしてあるが、MSにはない柔軟な
動きから、白兵戦での魔力強化による攻撃を可能としたのである。

 

─スサノオ・ブリッジ─
「第8ブロックから第11ブロックまで中破!!敵は艦尾ブロックに後退!」
「くっ・・・まったく、場所をわきまえてよ!!」
マリューも誰に宛てたとも知れぬ愚痴を叫ぶ。
「艦長!第3補助機関が近すぎます!
このままでは・・・戦闘の被害に巻き込まれて誘爆する可能性も!!」
スサノオはそれなりの巨大艦船だ。その補助機関が爆発すれば
メインエンジンにも被害がでて、航行不能の恐れもあるだろう。
「くっ・・・どうしたら!」
下唇を噛んで、自身に何のアイデアもないことを歯がゆく思うマリュー。
「艦長!」
その時、一人のオペレーターが叫ぶ。
「どうしたの!?」
「管理局支部から通信!後7分後にクロノ提督のクラウディアが応援に来るとのことです!」
「クラウディアが!?」
意外な名前にマリューは驚く。
「艦長!第一級電文です!」
「呼んで!」
「止むを得ない場合は艦船放棄も許可、とのことです!」
その内容は、万が一の場合、スサノオを捨てろ、とのことだった。
「・・・本船はまだ沈むわけには行かない・・・だけど、もしものときは・・・」
─決断を迫らなければならない。
キャプテンシートに拳を叩きつけ、現状に甘んじるしかない弱さを彼女は恥じる。

 

─スサノオ・艦尾─
「どうしたクルーゼ!」
ムウはあせっていた・・・これ以上ラウが力を解放する前に、けりをつけたいのだ。
「・・・アカツキ、セブン・コンヴァージ!」
(了解、ドラグーンユニット展開)
ムウが指示すると、背中の七つのドラグーンユニットがムウの前に出て、前方に魔方陣を描く。
「七つが一つになりゃあいくらお前だって・・・倒せるだろうよ!!」
躊躇なく発射するムウ。
ソレは単純な収束砲より強く、また速かった。

 

迫り来る砲撃を前に、ラウはなぜかその光をじっと見つめていた。
時が止まったような感覚の中、ゆっくり・・・じっとゆっくりと光は近づく。
「ふっ・・・フォルム“プロヴィデンス”起動」
(プログラムリスタート開始、“シグー”切り離し、フォルム“プロヴィデンス”起動)
機械音がラウにだけ聞こえる。
ソレと同時に、ラウはプロヴィデンスが発した光に包まれ、ムウが放った光を弾き飛ばす。
「何!?」

 

弾き飛ばされた魔力砲は軌道を変え、スサノオの天井を突き破っていった。
「・・・ムウ、言い忘れていたが、私はまだ本気を出していない」
「なっ!?」
煙が巻き上がる。その中心には、グレーの騎士服を着
左腕には巨大な手甲、背中には九つのドラグーンユニットを展開する。
巻き上がる煙の中心に彼は立っていた。
その姿は・・・九つのドラグーンユニットを背中に携えたその姿は神々しく輝いていた。
「壮絶なる“神意”に及ばない力は平伏するほかない。君はどうするのかね?」
不敵な笑みを浮かべ、ムウを見下すかのように、少し上昇し足場を作る。
「だが、俺のバリアジャケットは特別製でな!お前が遠距離から撃とうが、通じないぜ!」
ムウも負けじと、自身の優位性を示そうとする。
「・・・ムウ、一ついいかな?」
だが、ラウはそんな事はまるで気にせず、ムウの一つの質問を渡した。
「な、なんだよ!?」
ムウはまだ少し後ずさる。

 

「どうしてこの世界には、持つ者と持たざる者がいるんだと思う?」

 

ソレはラウルがラウに質問した言葉。
彼は答えを出したいのだ。
自分を救ってくれた人が求める答えを少しでも早く。
「・・・悪いが、俺にはわからんね!そんな難しいこと!!」
そう言ってムウは筒を二つ取り出し、ソレを連結させ両端から魔力刃を精製する。
「そうか・・・では、ムウ?質問を変えよう・・・なぜ、管理局は必要なんだ?」
「!?」
不意打ちのように、問いかけられたその言葉は、管理局の否定とともに、ムウに問いかけられた。
「な、何を・・・?」
「私は・・・思えないんだ!!」
ラウは言葉を起爆剤に、ムウに突進する。
突進しながら後ろのドラグーンユニットたちはそれぞれに意思を持ったかのように動き始める。
「!?」

 

(空間内に敵確認・・・オートで撃破に入ります)
プロヴィデンスはラウにそうつげ、自身の意思で九つのドラグーンユニットを動かしていく。
(1ユニット3ライフル・・・セット)
ラウのドラグーンユニットはユニット一つにつき、三つの砲門がついており
ソレを扱いきれば、どんな敵もラウに近づくことは容易ではないだろう。

 

ドラグーンユニットは変幻自在にムウに接近するが、ムウは動こうとしない。
「はっ!あきらめたのかね!?」

 

ムウの動きが止まったことにより、ラウは一気にたたみかけようとする。
だが、彼の・・・ムウの眼はまだ死んでいない。

 

(ユニットライフル・ファイア)
9つのうち、4つがムウに向けて魔力砲を放つ。
12もの砲撃はまっすぐにムウに向かっていく。
「クルーゼ、敵の能力の把握は最優先事項だぜ!!」
ムウはそれらをよけ、加速し、一気にラウに迫る。
「はやい!?」
「だりゃあ!」
魔力刃を一気に振るうムウ。
ラウも右腕の手甲から魔力刃を出す。
「ほぉ・・・背中のドラグーンは加速装置の役目も果たすわけか?」
「はっ!いちいち説明してる時間はないぜ!」
鍔競り合いになる中、ムウもドラグーンユニットを展開する。
「!?」
ムウはソレを攻撃には使わなかった。
彼が行ったのは、自身のユニットで小さなバトルフィールドを精製したのだ。
そして、その中にラウのドラグーンユニットを外に追いやったのだ。
「フフ・・・ハハハハ・・・ハーッハッハッハ!!」
だが、ラウはそんな事はお構いナシに高笑いをあげる。
「な、何がおかしい!?」
「・・・ムウよ、力の差はあるのだよ?」
ラウを中心に光が放たれた。

─スサノオ・ブリッジ─
「艦長!クラウディアから通信!
転送範囲内に入ったので、すでに二名の魔道士を転送したそうです!」
「二人!?」
応援の少なさに驚くマリュー。
「転送ポートに転送反応!!来ました!」
オペレーターが言うと同時にブリッジに通信が入る。
「こちら、フェイト・T・ハラオウン執務官です!」
「同じくクロノ・ハラオウン提督です」
マリューは二人の応援の・・・後者のほうに驚く。
「て、提督!?な、なぜこちらに!?」
「何、戦力が今なくてね・・・僕とフェイトで援護するしかないんですよ」
そもそも、なぜクロノとフェイトの二人なのか、ソレは20分ほど前に遡る。

 

─20分前・本局─
フェイトはクロノを呼び出しておきながらほっぽったということでお説教を受けていた。
「大体な、最近・・・ホント僕の扱いがひどくないか?!」
たまっている鬱憤まで吐き出そうとしているクロノにフェイトはもういやいやだった。
そんな時、クロノにクラウディアから通信が入った。
「クロノ艦長!X級7番艦スサノオから救援要請です!」
「何!?状況は!?」
「敵数は1!現在、スサノオ内部で交戦中とのこと!
クラウディアはすでに発信可能です!」
「わかった!すぐに戻る・・・フェイト、君も来てくれ!」
「りょ、了解!」
そうして二人はクラウディアに乗り、スサノオの所まで向かったのだ。

 

「クロノ!敵は一人だって話だけど・・・」
「ああ、敵はSランク以上の魔道士だな・・・いくら、強いといっても
X級の艦船に一人で攻め込むなんて、まともな精神とは思えない」
クロノも現状で一人の魔道士が艦船に突っ込むなんて行為はない、と心の中で決め込んでいた。
だが、実際にあったのだから、これも受け入れざるを得ない。
「・・・!?魔力反応!大きい・・・推定S+!」
「何!?」
クロノは両手に自身のデバイスS2Uとデュランダルを持ち、意識をその敵との戦いに向ける。

 

そして、二人はムウとラウが戦う艦尾ブロックに辿りつく。

 

そこで見たものは・・・ムウが壁にめり込み、ラウがその数メートル先で佇んでいる姿だった。
「あ、アナタは!?」

 

フェイトはラウに見覚えがあった。
仮面をしているときだったが、その視線を、その魔力をフェイトは覚えていた。
「やぁ・・・いつぞやの?」
ラウも覚えていたのか、視線をフェイトに向ける。
「それに・・・」
さらにフェイトの横にいるクロノにも視線を移す。
「高名なクロノ・ハラオウン提督・・・ふっ潰しておいたほうが、いいのかな?」
ラウは余裕なのか、まったく攻撃を仕掛けようとしない。

 

「・・・アナタを拘束します」
フェイトはイヤに落ち着いていた。
今回は、前回のようにリミッターはかかっていない。
クロノの許可によって解除されているからだ。

 

「やってみたまえ」

 

ラウの言葉を合図に、クロノとフェイトは動き出す。
フェイトはソニックフォームを発動させ、クロノは得意のスティンガーブレイドを
自身の周りに展開する。
「ふっ!」
ラウはドラグーンユニットを散らばらせ、二人を狙う。
この時、彼は慢心していた。
フェイトとクロノの力が自分には及ばないものだと考えていた。

 

「プラズマランサー!」
(ランサーセット)
「スティンガー・アイスブレイド!エクスキュージョンシフト!!」
フェイトとクロノはラウを挟むように展開し、彼にそれぞれの誘導性魔法を向ける。
「「ファイア!!」」
ソレを動じに放つ二人。
だが、ラウは一瞬でソレをよけ、上空に退避する。
「かかったな!!」
だが、ソレこそがクロノの狙いだった。
「何!?」
ラウが上空に退避したその場所にバインドが発生する。
「ディレイドバインド・・・設置型の拘束魔法だ!」
クロノの表情に笑みが浮かぶ。
「ちぃ!!」
「終わりです!」
フェイトはさらに三重のライトニングバインドをラウにかける。
「ぐっ!」

 

その間に、フェイトとクロノはそれぞれの砲撃魔法のチャージに入る。
「プラズマ・・・」
「ブレイズ・・・」
金色と蒼の魔力が二人の目の前で膨らむ。
「スマッシャー!!」
「キャノン!!」

 

二人の砲撃はラウにまっすぐ進む。
いくらラウといっても拘束された状態でこの魔法たちを受ければただではすまないだろう。
そう思い、二人は勝利を確信した。

 

怒る爆発。
爆発により巻き上がった煙がラウの姿を覆い隠す。

 

「やった・・・かな?」
フェイトはクロノに問いかける。
「・・・たぶん、な。アレを食らって耐え切るのなら、人間じゃないさ」
クロノの返答にフェイトは少しだが安心感を得る。

 

だが、その思いすら儚いものだった。
煙が晴れていき、人影が確認できる。
「・・・クロノ?」
その時、フェイトたちが見たものは、人影の前にもう一人誰かの影があった。
「なっ!?」

 

煙が完全に晴れると、フェイトたちが見たものは・・・未だ拘束されるラウの前に
白衣を来たラウルが浮いていた。

 

「ラウル・・・さん?」
「・・・フェイト」
フェイトは驚愕の眼で、ラウルは悲しい眼でお互いを見つめていた。

 

戦いの中で二人は再会した。
その再会はいったい何を意味するのか?
ラウルの思いと、フェイトの思い。
ソレはぶつかるべきものなのか?
軋む心はさまざまな思いと、悲しみを増やすのだろうか?

 

次回 賢者の“苦しみ”

束の間だけ、ほろ苦い思い。