Macross-Seed_◆VF791dp5AE氏_第07話_2

Last-modified: 2007-12-26 (水) 12:27:02

ファイアーボンバーの慰問ライブの翌朝。
シンは昨日買ったばかりのファイアーボンバーのファーストアルバムをホテルの個室で聞いていた。

歌声が響く。
ライブでもおなじみの<PLANET DANCE[Duet Version]>の一番のサビ部分だ。
<HEY! EVERYBODY 光を目指せ
踊ろうぜ DANCIN'ON THE PLANET DANCE>
(うーん、何曲か聴いたけどどれもいいよなあ。)
できれば買ってすぐにでも聴きたかったのだが、議長の話のせいですっかり聴きそびれてしまっていた。
ベッドの横に備え付けてあったオーディオにアルバムを入れて曲を聴いていると、なぜもっと早くこれを聴かなかったんだとも思う。
(ま、気分のいい朝になったからいいか。
 えーと、次の歌詞はっと・・・)
「ちょっとシン、起きてる?(コンコン、ガチャ)起きてるわね!」
ルナマリアの声が聞こえたかと思うとノックと同時に遠慮なく入ってくる。
「うわっ、何だよルナ。朝っぱらから騒々しいぞ。
 大体ノックくらいきちんとしてくれよ、着替え中だったらどうすんだよ?」
「別に気にしないわよ、それよりさっさと朝食取りに行くわよ。」
シンの抗議をまったく気にする様子もなく、ルナマリアがシンを急かす。
そんなに食い意地張らなくても、と心の中で呟いていると待ちきれないのかズルズルと部屋の外に引っ張られていく。
「わ、待て、引っ張るなよ。まだCD聴いてる途中なんだぞ?せめてこの曲くらいは――」
<諦めのSAD SONG 嘘つきは歌う
NO THANKS! お呼びじゃないぜ>
「もうっ、シン!とっとと行くわよ!!」
さらに強く引っ張られ、強制的に部屋を後にさせられる。
(そんなに急ぐほど腹が減ってるのに良くこれだけの力が出るなぁ、ルナの奴。
 しかし、二番が流れ始めてからさらにパワーがあがった気がするな。
 これもファイアーボンバーパワーって奴かな?)
などと、シンは見当違いのことを考えつつそのままエレベーターまで引き摺られて行くのだった。



シンを引き摺っている間に少しは気でも紛れたのか、エレベーターを降りた辺りからルナマリアの調子もいつもどおりに戻りつつあった。
しかし、それでもまだ言葉に棘があるような気がする。
「シンはいいわよねぇ、昨日はあんなお褒めの言葉までいただいて。
 今日はオフだし、ルンルンだわよね。」
「・・・どうしたの?」
まさか面と向かって「空腹で気が立ってるからって八つ当たりしないでくれ」とも言えないので、曖昧に聞いてみる。
「べっつにぃ。」
やはり相当空腹でご立腹らしい。コーディネーターとて人間、腹が減れば気が立つはず。
バイキングでがっつかなきゃいいんだけどな、と無用の心配をするシンに近くのテーブルから声がかかる。
「よう、お前ら。昨日のミネルバのヒヨッコだろ、もう一人のフェイスの奴はどうした?」
声をかけてきたのは昨日議長の警護をしていた赤服―確か議長がハイネと呼んでいた―の人物。
昨日は気づかなかったが、胸元にはフェイスの徽章があった。
ルナマリアもそれに気付いたのか、敬礼し挨拶をする。
「失礼しました、おはようございます。隊長はまだお部屋の方かと・・・」

「――でね、その兵隊さんがお顔を真っ赤にして『ありがとうございます』ってすっごく大きな声でね。」
ちょうどアスランも朝食をとりにきたようだ。
ラクス・クラインと仲よさげに腕を組んで談笑している。といってもラクスのほうがしゃべり続けているようだが。
「なるほどな、分かった分かった。サンキューな。」
ハイネ?さんは席を立って、こちらに近づいてくる隊長たちに敬礼をする。
「おはようございます、ラクス様。」
「あら、おはようございます。」
「昨日はお疲れ様でした。基地の兵士たちも大層喜んでいましたね。
 これでまた士気も上がることでしょう。」
「ハイネさんも楽しんでいただけましたか?」
「はい、それはもう。」
流石フェイス、あのファイアー・ボンバーの一人ラクス・クラインと緊張もせず平気で談笑している。
シンのような新参者のファンには正直言って恐れ多すぎる存在だ。
これで熱気バサラまでこの場に居たら、多分膝が震えるだろう。
「昨日はゴタゴタしててまともに挨拶できなかったな。
 特務隊、ハイネ・ヴェステンフルスだ。ヨロシクな、アスラン。」
「こちらこそ。アスラン・ザラです。」
アスランと握手をしながらハイネが笑いかける。
「知ってるさ、有名人。
 お前さん、前大戦ではクルーゼ隊所属だったろ、俺はホーキンス隊でね。
 ヤキン・ドゥーエではすれ違ったかな?」
そういってにやりと笑う。

アスランがハイネの言葉の真意を測りかねていると、マネージャーらしき人がラクスに声をかけてきた。
「ラクス様。申し訳ありませんが、今日の打ち合わせもありますのであちらへ。」
「ええー。」
ラクスが明らかに肩を落としつつ声を出す。
「お願いします。」
「バサラが居るんなら行きますけど、バサラは?」
「・・・・そもそもバサラはんは昨日の夜から行方知れずです。
 多分、恐らく、もうじき顔を出すと思いますので先に待たれてください。」
「はぁ、しょうがないですわね。ではアスラン、また後ほど。」
今何かとんでもない事をマネージャーが口走っていた気がする。
一つ間違えば大事件になりそうな出来事のはずなのに完全にスルーされていたような。
と、ハイネさんがぼそりと呟く。
「あんにゃろ、護衛も付けずに街にでも行きやがったな。
 また面倒起こさなきゃいいんだが。」
「また?」
ハイネさんの呟きを耳にしたルナが、聞き返す。
「前はエヴィデンス01の前で歌って、危うく警備員に取り押さえられかけたんだよ。
 その前は夜の街頭で歌って周辺がパニックになったな。」
「あれって週刊誌のガセネタじゃなかったんだ・・・」
ルナがハイネからの答えを聞いて驚いている。

俺も驚いているんだが、いまいち熱気バサラの噂話を知らない俺にはよく分からないネタだ。
「どっちも議長が色々と手を打ってもみ消したからな。
 あ、この話はオフレコで頼むぜ?出所が俺だってばれると議長にどやされるからな。」
ハイネさんはフェイスだけあって議長とつながりが深いのか、色々と裏話を知っていそうだ。
そういや、ヨウランが「バサラは議長だけでなくてフェイスとも繋がりがあるらしい」とか言ってたな。
そのフェイスってハイネさんのことなんだろうか?

「ま、そんなことより、だ。」
手を打ち鳴らしてこの話はこれで仕舞いだ、と話題を変えるハイネさん。
「オマエラ三人と、昨日の金髪の全部で四人か。ミネルバのパイロットは。」
「はい・・・。」
アスランがよく分かってない感じで相槌を打つ。
「インパルス、ザク・ウォーリア、セイバー、そしてあいつがザク・ファントムか。」
ハイネさんはミネルバの艦載機の名を挙げていく。
次はミネルバのことについて話すつもりなんだろうか。
「で、お前、フェイスだろ。艦長も。」
「はぁ・・・。」
と思えばアスランとタリア艦長の二人のフェイスに話題が行く。
「人数は少ないが、戦力としては十分だよな。
 なのに、何で俺をミネルバに配属するかね、議長は。」
ミネルバに配属、って。
「ミネルバに乗られるんですか!?」
アスランとルナが驚いている。
今度ばかりは俺も二人と同じように驚く。
確かに、ミネルバのMSは少ないが戦力的に考えればそんなに悪くない。
俺のインパルスでほとんどの戦局に対応できるし、空こそ飛べないが汎用性の高いザクも二機ある。
空戦に関しては高速戦闘に対応でき、高威力の砲撃を持つセイバーもある。
勿論戦力が大いに越したことはないと思うけど、だからって何でフェイスのハイネさんが?
「いやね、俺も別にミネルバに戦力を送ること自体は同意なのよ。
 連合の奴らからすれば、オーブ沖で新型MAを撃墜し、インド洋基地にガルナハンのローエングリンゲートを潰してくれたミネルバは憎い敵だ。
 必ずまた攻めてくるだろうからな、そういう意味では増援はいいと思うんだ。」
確かにミネルバの活躍が目覚しかった分、連中の反撃もきついものになると俺も思う。

でも、ハイネさんは配属に納得がいっていないみたいだ。何でだ?
「では、何故配属に異を唱えるかのような言動を?」
「俺に対しての配属に文句言ってるわけじゃない。もう一人の方についてさ。
 幾らあれの実戦データが欲しいからって、何も激戦区のミネルバに乗っけなくてもいいじゃないか。」
「アレ?新型の実験機かなにかですか?」
アレというのがルナも気になったらしい。
「んー。ま、黙っててもいずれ分かるだろうから言っても問題ないよな。
 ミネルバに配属されるのは俺のグフイグナイテッド、形式番号ZGMF-X2000。格闘戦に特化した機体だ。
 ちなみに量産機は青いが、俺の機体はパーソナルカラーのオレンジに塗られてるぜ。
 もう一機は形式番号ZGVF-19P、バルキリー。真紅の可変機だ。」
「あの、グフは分かりますけど、バルキリーってどんな機体ですか?
 形式番号もザクやインパルスと違ってZGVFですよね。」
確か地上用のディンやバクウ、グーンなどのMSは形式番号がZGMFじゃなかったはずだ。
それ以外の機体はジンからグフまでほとんどZGMFのはずなのに、何故コイツだけ?

「あ~、それはだな。初期開発コードがVF-19Pだったんだ。
 その後、地上戦だけでなく宇宙戦でも使えることが分かってな。
 改めて形式番号付ける時に打ち込みミスでZGVF-19Pになって、そのまま直してないんだ。」
裏話なのか、ハイネさんが少し声を落として教えてくれる。
「はぁ、なるほど。で、何でその機体が配属されるのに反対なんですか?」
「ひょっとして整備性がものすごく悪いとかですか?」
「いや、整備に関しては専門の奴らが一緒に乗るはずだ。データ取りも兼ねてるからな。」
「では、何故なんです?」
ハイネが眉根を寄せながら答える。
「それはだな・・・、機体だけじゃなくてパイロットにも問題がありすぎるからさ。」
「え、パイロットに?」
フェイスのハイネさんが顔を顰めるようなパイロットってどんなだ?
執拗に味方を誤射するとか、後ろを執拗に狙ってくるとか、全く場の空気が読めないとかか?
もしくは上司に突っかかるようなタイプの人間だろうか。
「勿体付けずに教えてくださいよぉ。」
ルナがハイネをせっつく。俺もアスランも気持ちは同じだ。
一体どんな問題児が乗っているんだ?
「教えてもいいんだが・・・・・・それをすると、お前等朝飯喰えなくなるけどいいの?
 もうモーニングの時間終わっちゃうぜ?」
言われて料理の置いてある方を見ると、配膳人の人達が料理を下げ始めている。
「す、すいません。流石に朝は食べないとまずいのでこれで失礼させていただきます。」
「おう、早くしねえと喰いっぱぐれちまうぜ。」
急いで俺たちは料理を取り始める。
後ろからハイネさんの笑い声が聞こえていたが、そんなこと気にしてられない。
さっさと喰わないと、本当に何も喰えやしない。
何とか俺たちが料理を取り終えてテーブルに戻ると、ハイネさんはもう居なかった。
代わりに書置きがペーパーナプキンに書かれていた。
<楽しみってのは最後まで取っとくもんだぜ>
<ヒントは機体もパイロットも一度は見てるはずだ>
誰なんだ。くそぅ、気になってしょうがないぞ。


その後、三人で朝食をとったのでそのままの流れでラクス・クラインの見送りに同行することになった。
アスランとラクスがイチャイチャ?するのをルナが凄い形相で睨んでいた。
ルナ、いくらアスランに最後のハンバーグとられたからってそこまで睨まなくても・・・。
見送りが終わるとルナがわざとらしく大きな声で言う。
「さあ、どうしよっかな、これから。」

「どうって。」
朝食が足りなかったんなら、街にグルメツアーでもしに行けばいいのに。
「街に出たい気もするけど、一人じゃ物足りないし。
 レイにも悪いから艦に戻ろっかな~。」
「シンと行けばいいじゃないか。」
アスランが後ろから声をかけてきたが、ルナは無視して来たエレベーターに乗り込もうとする。
しかし、
「きゃあ!」
「おおっと!」
中から出てきた人とぶつかってルナが尻餅をつく。
ルナ、せめて人が降りてから乗り込もうよ。
「いったたあ~。」
「おう、ワリイな。立てっか?」
正面衝突した人が紳士的にルナに手を差し出した。
ルナが「あ、すいません。」とその手をとろうとして、固まった。
不思議に思った俺とアスランも、その人の顔を見て固まった。
逆立った髪、黄色い瞳にサングラス、そして、肩にはギター。
な、何で・・・。
「な、な、なんでバサラさんがこんな場所に!?」

何で熱気バサラさんがこんなところに!!?
ラクス・クラインと一緒についさっき飛び立ったんじゃなかったのか!?
「何でって言われても、見送りに来ただけだぜ?
 結局打ち合わせに行けなかったからな、せめて見送りくらいしてやろうと思ってな。」
「ラクス様でしたらついさっき発たれちゃいましたけど・・・。」
「そっか。ま、いいか。」
バサラさんはさして残念そうなそぶりも見せずに呟く。
い、いいのか、本当に?
「って、あの、熱気バサラさん、ラクスと一緒にディオキアを発ったんじゃ?」
「そ、そうですよ。何でこんな所にまだ居るんですか、それに見送りって一体!?」
アスランとルナがバサラさんに対して突っ込みを入れる。
そりゃ当然だ。ラクスがいったのに何でバサラさんがまだ居るんだ?
「何でっていわれてもよ、そりゃまだこっちに用があるからだろ。」
頬を掻きつつバサラさんが答える。
「一体、何の用事が残っているんです?早く片付けてラクスの後を追わないとまずいんじゃないですか。」
「ワリイが、そう簡単に終わる用事じゃねえんだよ。
 これからしばらくはあいつとは別行動さ。」

「何の用事なんです?よろしければ私たちにできることでしたら可能な限り手伝いますけど・・・」
ルナがバサラさんの手伝いをしたいと申し出た。
「お、俺もできるなら手伝いたいです。」
勿論俺も手伝えるのなら手伝いたい。
「自分も時間の許す限り、手伝わせていただきます。」
アスランも手伝うつもりのようだ。
「おう、お前らミネルバ隊が手伝ってくれるならバッチリだぜ!」
バサラさんが俺たちを頼りにしてくれている。
これだけでテンションが何倍にも跳ね上がった気がする。
・・・あれ。なんでバサラさんは俺たちがミネルバ隊だって知ってるんだろう?
「で、一体どんな用事が残っているんですか?
 それによって私達にできることが決まるんですが。」
ルナが質問している。
「なぁに、簡単さ。戦場で俺のバルキリーとセッションしてくれりゃいいんだよ。」
「・・・・・・あの、戦場で、ってもしかして?」
いやまさか。
「あの~、ひょっとして、バサラさんが・・・。」
ありえないよ、な?
「ミネルバに配属されるっていう新型MS・バルキリーのパイロットだったりしませんよね?」
冗談だろ?
「おうとも、俺がファイアーバルキリーのパイロット、熱気バサラだ!」
そういってバサラさんがギターをかき鳴らす。

不意にハイネさんのセリフと書置きが脳裏をよぎる。
(バルキリー。真紅の可変機さ。)
(ヒントは機体もパイロットも一度は見てるはずだ)
確かに、ライブで見たバサラさんがパフォーマンスに使ってた機体の色は燃えるような赤だった。
パイロットも俺たちはライブで確実に見たことがある。

でもだからって、普通アレとバサラさんが思い浮かぶワケないでしょう、ハイネさん!
バサラさんのギターを聴きながら、ハイネさんの笑い声が頭の中でリフレインされる。

ルナもアスランも俺と同じように茫然自失の状態だ。
しかし、それにかまわずバサラさんはギターを弾いている。
その後、俺たちが何とか動けるまで自分を取り戻したのは、バサラさんのギターが一曲弾き終わった頃だった。

機動戦士ガンダムSEED DESTINY feat.熱気バサラ
第七話 驚愕の事実~FACT~