R-18_Abe-Seed_安部高和_02

Last-modified: 2010-12-17 (金) 01:56:34

「イザーク、忘れたのか?彼はミゲルを倒したのだぞ?」
「それはたまたまです!」
「彼がナチュラルであっても、か?」
「な・・・!?」
イザークは言葉を失った。
黄昏の魔弾と称されたあのミゲル・アイマンを、ナチュラルであり変態である
この男が倒したという事実。
イザークはアイデンティティの崩壊の危機に陥っていた。
「そういう意味では、彼はこれ以上ない戦力であると言えないか?」
「・・・・・・」
「結論は出たようだね」
話が終わったのを見計らい、阿部が口を挟む。
「ああ。今日からキミはクルーゼ隊・・・いや、そんなものに縛られるキミではないな。
まぁ自由にやってくれたまえ」
「そうさせてもらうよ」
「変態だけど頼りにはなりそうだ。よろしくな、おっさん」
かくして、阿部はヴェサリウスの一員となったのであった。
「おっさんじゃない・・・良い男だ」

 

「アルテミス?」
クルーゼは隊員と阿部に今回の作戦概要を告げた。どうでもいいがクルーゼは
やけにつやつやしていた。
アルテミスとは地球連合軍が所持する軍事要塞で、
その防衛能力から難攻不落と称された要塞である。
軍属なら知ってしかるべきものだが、ごく普通のゲイである阿部は
何の事かさっぱり分からなかった。アルテミスって誰?ゲイの神様?
「詳しい説明は省くが、要するに厄介な要塞なのだよ、あれは!その要塞を見れば
誰もが憧れを抱くだろう!故に許されぬ!あれの存在――」
「隊長。そのキャラはまだ先です。最終話あたりの」
「む・・・すまんなニコル。それで今回の任務だが、こいつを落とす」
ざわ・・・ ざわ・・・
「へぇ、おもしろそうじゃないの」
「バカモノ!あれがどういうものか貴様には分からんのか!」
イザークが激昂した。少なくともあの要塞を知っている者であれば、
おもしろそうなどと口には出来ないからである。
「じゃあ教えてくれよ・・・・・・手取り足取りさ・・・」
「股間に手を伸ばすな!いいか、あの要塞はだな・・・・・・
あの要塞は・・・ディアッカ!説明してやれ!」
「やれやれ。いいかいおっさん、あの要塞には――」
「おっさんじゃない良い男だ。ケツ穴に大根が入るのだという事を
身をもって教えてやろうか?」
「・・・阿部さん、あの要塞には厄介なシールドが張られているのさ」
「シールド?・・・なるほど、ペニスを守る皮みたいなものか」
「・・・・・・!!」
アスランがびくってなった。
「アスラン?」
「ほ、ほほほ包茎ちゃうわ!!!」

 

「話を戻すよ。その皮・・・じゃないシールドは『傘』って呼ばれてて、敵機を感知すると
自動で展開される仕組みなんだ。そしてその防御力は折り紙つき・・・今まで幾多の部隊が
それに挑み、敗れたって話さ」
「へぇ・・・」
ディアッカの話を聞き、阿部はアルテミスがどういうものかを理解した。
――つまり、彼女持ちのノンケみたいなものか。
「それでクルーゼ。そんな場所をどうやって落とすんだい?」
「それを考えるために皆を呼んだのだよ」
「・・・・・・」
皆が言葉を失った。そのへん考えてから作戦立てろよ、と。
「・・・・・・僕のブリッツならいけるかもしれません」
皆が黙りこくる中、不意にニコルが発言した。
「ほう?聞かせてもらおうか」
「はい。ミラコロなら見つかんないと思います」
「いい案だニコル。よし、それでいこう」
「早っ」
「決断が早い男ってのはそそるねぇ。脱いでもいいかい?」
「いいわけ――」
「許可する」
「クルーゼ隊長!?」
「そうこなくっちゃ」
阿部は全裸になった。もちろん意味は無い。
「作戦は30分後に執り行う。各自所定の位置で待機!」
「了解!」
クルーゼの号令を合図に、各々は散って行った。

 

「ンフフフフフフフ」

 

「ニコル・アマルフィ、ブリッツ行きます!!」
ニコルはブリッツを発進させた。
同時にミラージュコロイドを展開する。ブリッツの姿は、カメレオンのように
風景――宇宙の色に溶け込んだ。
「これなら見つからないはずだ・・・常識的に考えて」
静かに、そしてゆっくりと、ブリッツをアルテミスへ向かわせた。
「さてと・・・お昼にしましょうか」
イザークに作ってもらった弁当を広げる。
中にはトンカツがぎっしりとつまっていた。ちなみにコクピット内には、
イザークに持たされたお守りがうじゃうじゃと漂っている。
「うめぇwwww」
ブリッツの初陣に相応しい味付けだった。
と――
ガクンッ!
「!?」
不意に、機体を大きな衝撃が襲った。
「見つかったのか!?」
慌てて周囲を見回すニコル。しかし、敵影と思われるものはどこにもなかった。
「いったい、何が起こって――」
「阿部さんが現れた」
「ひっ――!?」
突如、モニター一杯に阿部の顔が映し出された。
「あ、阿部さん!?どうしてここに!?いや、それよりも・・・・・・ミラージュコロイドなんですか!?」
阿部の機体はブリッツのカメラには映ってなかった。考えられるのは自身の機体と
同じミラージュコロイドだけだった。
「良い男に不可能はないのさ」
もちろんインモラルにミラコロは備わっていない。
良い男の為せる業、である。

 

「・・・あなたなら月光蝶とか使えそうな気がします」
「ゲッコーチョー?それは気持ちの良い事なのかい?」
「忘れてください。それより何しに来たんです?今は作戦中ですよ?」
「なぁに、ちょっと楽しもうと思ってね」
「え――」
ぞくり、と悪寒がした。
――考えてみれば、相手は不可視のコートを纏っているので、
今がどういう状態なのかをよく理解してなかった。
「・・・・・・阿部さん、今あなたはどこにいるんですか?」
「決まってるじゃないの。・・・・・・キミの背後さ」
ニコルは悟った。もうオシマイなのだと。
そして、お守りなんていざという時には役に立たないのだという事を。
「さぁ、淫夢の始まりだッフゥゥゥゥゥ!」
「ま、待ってください!今は作戦中ですし、それにミラコロを展開したままで
そのような行為を行うなんて非常識です!」
ミラコロ以前に非常識である。
「ニコル。世界とは観測者がいてこそ成り立つものだ」
「は・・・?」
「誰かが見ているから世界は成り立っている。もしこの世界に生き物が全て消え失せたら、
世界は存在していない事になる。世界を世界と認識する者がいないからね」
「な、何が言いたいんですか・・・?」
「ミラージュコロイドで包まれた俺達は他の誰にも見られない・・・つまり俺達の世界は
俺達二人だけのものなんだ。ならばする事は一つ。人類の起源・・・アダムとアダムの
ように僕達は繋がらなければならないのさ!子孫を残すために!」
「ちょっ、イヴは!?アダムとアダムじゃ子供は出来ませんよ!!」
「問答無用!フンッ!!!」
必殺必中の武装、ゲイ・ボルグがブリッツを貫いた。
「母さん・・・僕の貞操 ア ッ ー !」

 
 

数分後、宇宙を漂うブリッツの姿が発見された。

 
 
 

「いくら赤服とはいえ、まだ子供か・・・」
ブリッツをヴェサリウスの方角に投げ、阿部はニコルの任務を引き継いだ。
「こちらに気付いていない相手をサイレントファック・・・燃えてきたじゃないの」
ニコル一人では全然足りない。自身の暴君は、新たな獲物を求めて止まなかった。
「へぇ・・・近くで見ると結構な大きさじゃないの」
モニターを埋め尽くさんばかりに、アルテミスは阿部の眼前にあった。
この距離の敵機なら問答無用で展開するはずの傘は、今は何の反応も示していない。
「さっすがミラコロ、そこに痺れる、憧れるぅ」
そして、難なくその防衛機構を通り抜けようとしたその時だった。
「へぶしっ!」
みょよよよよ~ん
「あ」
なんと、くしゃみと同時にミラージュコロイドが解けてしまった。
突如現れた敵機に、アルテミスは脊髄反射のように傘を展開した。
「やべっ」
作戦は台無し。警報はけたたましく鳴り響き、要塞内の人間に敵が来た事を知らせた。
「あーどーしよ。これぶっ壊せないかなぁ」
難攻不落、無敵の要塞。その要となる、絶対防御の傘。
試しに阿部はそれを殴ってみた。良い男パーンチ!
「フンッッ!!」
ゴシカァァァァァァァァン!
「あ、壊れた」
傘はあっさりと壊れた。重ねて言うが、難攻不落、絶対無敵の要塞の要である。
「なんだ、ラクショーじゃないの」
立て続けに二つ、三つ。面白いように傘は壊れて行った。
「よっと。・・・おや?」
気付けば阿部の周りを、防衛部隊と思われるメビウスが取り囲んでいた。
「へぇ・・・。MAプレイか・・・燃えるじゃないの」
隠す事無く臆す事無く、阿部はゲイボルグを展開させた。自身の象徴を誇示するかのように。
「さぁ・・・楽しませてもらうよ!」

 

「な、なんだ!?どうしたというんだ!?」
アルテミス基地内。難癖つけてアークエンジェルを拘束していた基地司令は、大きな揺れに襲われた。
「隙ありッ、チェイサー!!」
体勢を崩した司令に、キラは回し蹴りをお見舞いした。
割とシャレにならない音を発し、倒れ伏す基地司令。とりあえず関節の向きが色々オカシイ。
「貴様!何をする!」
「不可能を可能にパーンチ!」
側近と思われる男を沈めたのは、エンデュミオンの鷹ことムウ・ラ・フラガ。
「フラガさん!」
「いくぞ坊主!ここから脱出だ!」
「はいっ!」
キラとフラガは手分けして拘束されていたクルーを救い出し、アークエンジェルへ戻った。

 

「どうなってんだ、こりゃあ・・・」
ムウが見たその光景は、地獄絵図だった。
辺りを力無く漂う、数多のメビウス。エンジントラブルかとも思ったが、しかしコクピットから
脱出を試みる者は誰一人としていない。
それはムウが戦場で初めて見た、異常な光景だった。
「フ、フラガさん!あれを!」
「あ、あれは・・・」
屍の中心部、災厄の元凶たるMSが、いつからかこちらを見据えていた。
「なんだ、ありゃあ・・・」
「・・・・・・悪魔です、あれは」
「知っているのか雷電・・・じゃなくってキラ!?」
「はい・・・・・・。あれは――」

 

突如ドックから出てきた、独特のフォルムを持つ白い戦艦。
そしてそこから出てきたMSとMA。
それを見た阿部の口から、自然に言葉が零れていた。

 

――「うほっ、良い男」

 

「こいつっ!」
「当たれぇッ!」
全方位射撃のガンバレル、ごん太ビームことアグニを、肉色のMSに
向かって放つキラとムウ。
「ンフフフフフフフ」
だが肉色G・・・インモラルには、掠りもしなかった。
「ええいっ、どうして!?」
「落ちろ、落ちろ、落ちろッ!!」
当たったと思ったら、良い男武装その1『質量を持った残像』による分身。
赤服でも10秒でミンチに出来るであろうこの包囲射撃を、阿部はいとも容易く
回避し続けていた。
「情欲は障害があるほど燃えるっていうじゃない?」
確実に二人に近付いていくインモラル。キラはもとより、なんちゃってニュータイプの
ムウも背筋を走る悪寒を止められなかった。

 

遠くに見える、交戦の光。
「頃合か・・・・・・。アスラン、イザーク、ディアッカ!出撃だ!」
阿部を援護すべく、クルーゼは隊員に出撃を命じた。
「了解!アスラン・ザラ、イージス発進する!」
「イザーク・ジュール。デュエル発進!」
「ディアッ(ry」
三機の発進を見届けた後、クルーゼはハンガーへ向かった。
「ニコル。起きるんだ、ニコル」
ブリッツからメカニックの手で降ろされ横たわるニコルにクルーゼは声をかける。
「・・・・・・。く、クルーゼ隊長・・・」
「災難だったな」
「い、いえ・・・。・・・・・・それより隊長、」
「なんだ?」
「・・・・・・や、や り ま せ ん か ?」
「・・・・・・ふっ。そういうだろうと思って準備しておいた」
「隊長・・・」
「さぁ行こうかニコル。また一つ、新たな扉が開かれる」

 

「なんだこりゃあ!?」
ディアッカは思わず声を上げた。
「これを、あの男がヤったというのか・・・!?」
イザークは驚きを、そして恐れを隠せない。
「阿部高和・・・・・・彼は何者なんだ?」
慣性に従い漂うMA。やはり彼らもムウと同じような気分になった。
いち早く気を取り戻したのはイザーク。
「と、とにかく阿部を援護だ!そして足付きを落とすぞ!」
「足付きって突然いわれてもなぁ・・・」
「脈絡ないぞイザーク」
「うるさいっ!暗黙の了解だ!!俺達は足付きを落とすために動いているんだ!」
「はいはい。それじゃさっさと行って、さっさと終わらせますか」
「キラ・・・・・・おまえはそこにいるのか?」

 

「そぉれ良い男キャプチャッ!」
「されるかッ!」
バーニアフルスロットルでインモラルの手をかいくぐるメビウスゼロ。
「つれないねぇ」
「ムウさん離れて!」
ムウに気を取られている隙に、キラはアグニを発射させた。
「おおうっ」
それをモロに浴びるインモラル。通常のビーム兵器を遥かに凌ぐ一撃を、
インモラルはまともに喰らってしまった。
「やった!」
「そんなんじゃあ俺をイかすなんて不可能さ」
が、無傷。
「そ、そんなバカなっ・・・バカなっ・・・!!(ぐわわわわ)」
「ザフトの技術力は世界一ィィィィィッ!」
インモラルはザフト製ではないが、そんな事阿部の知った事ではなかった。
「しかしとんでもないな、PS装甲ってやつは」
「それぜってぇPS装甲じゃねぇよありえねぇ」
はいはい良い男の為せる業良い男の為せる業。
「さぁて・・・ど・っ・ち・に・し・よ・う・か・な・・・」
「キラ!!」
そこで、いつかのようにまた乱入者。
「よくやった阿部!あとは俺達に任せて帰還しろ!」
「もうバッテリーやばいんじゃない?」
今回はそれに加えて二機、合計三機のMSが乱入してきた。
「なに言ってんの。まだまだ食い足りないよ」
「馬鹿を言うな!あれだけ長く交戦してバッテリーが持つはずがない」
「良い男に常識は通用しないのさ」
実際、インモラルのエネルギーは満タンだった。
もちろんこれも良い男の為せる業、である。

 

「いいからおっさんは帰りなって。少しは働かないと緑服あたりに降格されそう
なんでね、俺」
「おまえまたおっさんって言ったろケツにカイラスギリーぶち込むぞ」
「すいませんでした阿部さん許してください」
「キラ!!」
そんな阿部達にはお構いなしに、アスランはストライクへ一直線。
「・・・!?キミはジョニー!ジョニーなのか!?」
「アスランだ!いいからこっちに来いキラ!コーディネーターのおまえがどうして
地球軍なんかに!!?」
「・・・それは!守りたい仲間がここにいるからだ!」
「それは女か!?女なんだなキラ!?おまえはその女の色香に惑わされている
だけなんだ!おまえは昔からそうだった・・・すごく優秀なくせに、どこか抜けてて
おっちょこちょいで、気付けば女などという世界が生み出した害悪に心を奪われる!
目を覚ますんだキラ!女なんかにかまけていても良い事なんて何一つないんだ!
男に必要なもの・・・それは男に他ならないだろう!?だから来るんだキラ!!
俺ならおまえを救ってやれる!おまえを絶対に離しはしない!」
「いやぶっちゃけおまえが嫌だからなんだけどね。キモイし」
「キラ・・・!そうか、おまえは洗脳されてしまったんだな。だが大丈夫だ!俺なら
おまえを正気に戻してやれる!だから(ry」
「うぜー・・・」
「坊主、引き上げるぞ!このままじゃお互い餌食だ!」
「分かりました!・・・じゃあね、ジャッキー。今度会う時は、僕はキミを討つ。
絶対に。確実に。完膚無きまでに。ナメック星人でも再生を諦めるくらいに」
キラとムウはアークエンジェルに戻った。
「二機とも戻ったわね!?全速前進!この空域をマッハで抜けるわ!ほらノイマン、
さっさとGO、GO、GO!!!」
「サー、イエッサー!!」
ばびゅーーーーーーーーん
「キラ・・・・・・」
「ちぃっ、逃がしたか!」
「さぁて、終了終了っと。とっとと帰ろーぜ」
そして残された彼らも、ヴェサリウスへと帰投した。
その中でただ一人、走り去ったアークエンジェルを見つめる者、阿部高和。
独り言のように彼は呟いた。

 

「・・・次に会う時は、もっと良い男になっていてくれよ?・・・キラ・ヤマト」