R-18_Abe-SpecialEdition_安部高和_01

Last-modified: 2013-12-22 (日) 04:23:19

~スペシャルエディション~
『アスランとハイネの珍道中』

やぁみんな、久しぶり。愛・戦士ことアスラン・ザラだ。・・・え?俺を想って悶々していた?ははっ、相手をしてやりたいのは
やまやまだが、まぁ今は俺の話を聞いてほしい。割とヤベェ事になってるから、さ・・・
戦争終結の後、俺達ミネルバのクルーは休暇を貰ったんだ。
もちろん休暇の使い道は決まっていた。キラの捜索だ。俺をじらしたいのか、あいつはまた姿を消してしまったんだ。
なら追いかけるしかないじゃないか!という事でキラを探しに出かけようとしたんだが、
――「ようアスラン!旅行行こうぜ!!」
オレンジ先輩がそう言ってきたんだ。ええ、もちろん断りましたよ。8ナノ秒という早さで「だが断る」と切り替えしたんだ。
しかしそこはハイネ・ヴェステンフルス。空気の読めなさと話の聞かなさではザフト随一の彼は、そりゃもう
強引に俺を連れ出したんだ。わざわざK3(確保の3。睡眠薬、手錠、目隠し)を用いてな!!
そして気付いたらハイネと旅をしていたんだ。旅行じゃない、旅だ。しかもヒッチハイクだぞ!信じられるか!?
電波少年かっつの!・・・・・・え?知らない?こ、これが若さか・・・・・・!
しかも車はなかなか捕まらず、そして業を煮やしたハイネはこんな事を言い出した。
――「GTAって知ってるか?」
全てを察してしまいましたです、ハイ。その昔、某銀髪がやった手です。
止める術を持たない俺は黙ってハイネの行いを見ていたのだが、あの野郎よりによって黒ベンツに――
――「なんじゃおどれら!!」
ああすいません許してください免許証返して四つん這いになれば返していただけア ッ ー !

「こんボケがっ!!」
アスランとハイネを放り出し、ベンツは走り去っていった。
「あつつつつ・・・・・・」
「乱暴してくれるじゃないか・・・」
ケツを押さえつつ二人は立ち上がり、そして辺りを見回してみた。
乱立する木々。鬱蒼と生い茂る草。ギャーギャーとワケの分からない声で鳴く、ワケの分からない鳥。
「「・・・・・・どこ?」」
一言で言うと、樹海。山の中である事は明白だが、どんな山なのか、そもそもどこの山なのか。
情報はゼロに等しい。つまりこれは、いわゆる、
「・・・・・・俺達、遭難してない?」
アスランの言う通り。アスランとハイネは、この怪しげな山で遭難してしまったのだ。
「そうなんです。なんつってなww」
「・・・・・・」
アスランの胸に殺意が沸いた。

「そんな事より。遭難したなら救助を要請するしかないじゃないか!」
山の救助は大層お金が掛かるがそんな事は言ってられない。アスランは携帯電話を取り出してレスキュー隊に
連絡しようとしたのだが、
「って、電波がないじゃないか!」
「おいおい当然だろ。山で電波ゼロ本は常識だっての」
「悠長な事言ってないでおまえも何か考えろ!!」
「ふっふっふ。アスラン、これ知ってるか?」
ハイネがポケットから取り出したのは、ギターのピックみたいなヤツ。
割るとミネルバが来てくれるアレである。
「こいつを割れば助かるって寸法さ!」
「おお!さすがハイネだ!そこに痺れる、憧れるぅ!!」
「そんじゃ早速・・・」
パキッ
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・なぁ、ハイネよ。それってもしかして・・・」
「俺とした事が・・・・・・」
ハイネが割ったギターのピックみたいなヤツは、実は本当のギターのピックだった。
ハイネの趣味は弾き語りだった。フォークギターを弾けばモテると信じてやまない彼は、性癖が変わった
今でも引き続けていたのだ。まぁ、昭和の頃は確かにモテましたけどね。今はさすがに引く。
「と、とりあえず歩こうぜ!民家があるかも知れないしな!」
「・・・・・・はぁ」
空ポジティブなハイネの後ろを、アスランはため息まじりについていった。

「ねーypwww」
「・・・・・・」
歩く事三時間。民家は無かった。
辺りは既に真っ暗になり、人も歩けば木に当たるみたいな状況になっていた。
「しょうがねぇ、今日はここで野宿だ」
「えー!!」
ハイネの申し出に、アスランは不満の声を洩らした。
「おいおいアスラン。軍人たるもの野宿を嫌がってどうする」
「だって・・・・・・野宿は頭皮に悪いし・・・・・・」
「なんだアスラン、そんな事気にしてたのか。大丈夫だ、髪の毛なんて抜けたってすぐ生えてくるさ」
「・・・・・・」
アスランの胸に殺意が沸いた。生えねぇんだよ!!
「さてと。俺は食料を調達してくるから、アスランは火をおこしといてくれ」
「へーへー」
そしてハイネは消え、その間にアスランは火をおこした。
「・・・・・・キラ」
炎を見つめ、想うはキラの事ばかり。
「そろそろデレ期に入ってもいい頃だろ・・・・・・」
未だにキラはツンデレだと信じてやまないアスラン。ある意味幸せな男だった。

と、
「・・・・・・」
「おかえり・・・・・・ってどうしたんだハイネ?青い顔をして」
「・・・・・・」
青ざめた顔をしたハイネが、アスランの後ろを指す。
「・・・・・・?」
その方向に顔を向けたアスランは、そしてハイネと同じく顔を青ざめさせた。
「クマー」
アスランの背後に、熊がいた。
アスランとハイネは互いの顔を見合わせて、
「「やべぇwwww」」
脱兎の如く逃げ出した。

走るアスランとハイネ。
そして熊もまた、彼らを追ってひた走る。
「な、なんでこっち来るんだよ!!」
「美味しそうだからだろ!!」
「クマー」
一寸先は闇の中、二人は木にぶち当たる事なく走っていた。ある意味強運である。
「ってかさ、熊は火を見たら逃げるんじゃなかったのか!?」
「いやハイネ、俺は聞いた事がある。熊の中には火を恐れない種類のヤツがいるってな!」
「ま、マジかよ!?」
「ああ!そいつは熊の中でも異端の種族、通称亜熊って呼ばれててな!神話の中でよく見る『悪魔』の元となった
熊らしいぞ!」
「そいつは驚きだ!どこで聞いたんだ!?」
「この本だ!」
そう言ってアスランは、リュックから本を取り出した。
――『熊の全てと起源』 民明書房
「やるなぁ民明書房!!」
「だろ!?」
逃げつつお気楽な会話を繰り広げる二人。その様子に怒ったのか、強運の神様は彼らを見放してしまった。
「「あべしっ!!?」」
木にぶち当たった両者。
そして二人の意識は沈んでいった・・・・・・

「ふむ。今日は熊鍋だな」
長髪の男は仕留めた熊を担ぎ、そしてその場を後にしようとした時、ふと足元に転がっている何かを発見した。
「ほう?これは・・・・・・」
そう呟くと、男は二つの『何か』も担いで帰路についた。

「キラ!!!!」
がばっと身を起こすアスラン。大方キラの夢でも見ていたのだろう。アスランの暴君はガッチガチだった。
「・・・・・・って」
そして彼は、自分が布団に寝かされているのに気付いた。
「ここは・・・・・・」
辺りを見るに、どうやら山小屋のようだった。
「俺は確か、熊に襲われて・・・・・・」
自分に何が起こったのかをあれこれ考えるアスラン。と、不意に誰かに声をかけられた。
「お目覚めですか、アスラン」
「え?――って、おまえは!?」
「お久しぶりです、アスラン。まぁそんなに日は経っておりませんが」
金髪ロングの少年。少し前まで同僚だったその男。
レイ・ザ・バレル。山師のような服を着て、彼はアスランの横にいた。
「色々と言いたい事はあるでしょうが、まずはこちらに来てください」
「あ、ああ・・・・・・」
レイに連れられて、アスランは隣りの部屋に行った。
そこには――
「いやハイネ。キミもなかなかいけるクチだねぇ」
「いやいや議長。ささ、もう一杯」
鍋を囲んで出来上がっているハイネとデュランダルの姿があった。
「目が覚めたかアスラン。まぁ座りたまえ」
「ぎ、議長!?」
ギルバート・デュランダル。アスランにとって彼は世界を我が物にしようとした男であり、そしてそんな彼が
レイと同じく山師のような格好をしてハイネと酒を飲んでいるという事実は、アスランの頭を混乱させた。
「ようアスラン、遅いお目覚めだな!先にやらせてもらってるぜ!」
「ハイネ!?おまえ一体何を!?ってか議長もどうして――」
「それは俺が説明します」
そしてレイは、アスランにこれまでの経緯を話した。
「なるほど・・・・・・そうだったんですか」
「ああ。我ながら上手くやれたとは思っているのだが、そっちはどうだ?」
「おかげさまで、今は戦争など起きそうにありません。ってコレうめぇwww」
アスランが口にしている肉は、ついさっき自分達を襲った熊の肉である。
「そうか・・・・・・」
「ぎっちょ~!手が止まってますよぉ~!」
「おっと、私とした事が・・・・・・」
「おじさん!もうその辺にしておいてください!飲みすぎは体に毒です!」
「ハイネもその辺にしておけ。二日酔いは嫌だとあれほど言っていただろう?」
そうして四人は鍋をつついていった。
そしてそろそろお開きになろうという時に、デュランダルがこんな事を口にした。

「いやしかし。まさかキミ達まで軍を辞めるとはね」
「・・・・・・はい?」
「やめれますぇんよ~俺はぁ~」
「・・・・・・そうなのかね?」
「ええ。しかし何故突然そのような事を?」
「いや、それはだな・・・・・・」
「アスラン、ハイネ。休暇はとうに終わっているのではないですか?」
「え・・・・・・?」
「ふぇ・・・・・・?」
アスランとハイネは互いの顔を見合わせて、そしてリュックから手帳を取り出した。
「・・・・・・あの、議長。今日は何日ですか?」
「二十二日、だが」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
そして二人は再び顔を見合わせ、こう言った。
「「す、過ぎとる!!!」」
二人の休暇は十九日まで。都合三日もオーバーしていた。
「や、やばいぞアスラン!!どうする!?」
一気に酔いが覚めたハイネはアスランにそう問うた。
「ど、どうするって・・・・・・」
しかしどうにかする案など持たないアスランも、ハイネ同様おたおたしていた。
「確かザフトの規約だと、無断欠勤は除隊処分、良くて緑への降格だったと記憶していますが」
「「――!!?!?!?!?!?」」
レイの言葉がトドメとなり、二人のおたおたは最高潮に達した。
「いかんな、これは・・・・・・」

深夜。
おたおたするアスランとハイネを寝かせ、そしてデュランダルは電話の受話器を取った。
「おじさん」
「レイ・・・。おまえももう寝るんだ」
「おじさんは何をしようとしているのですか?」
「ふっ・・・・・・未来を創る若者に救いの手を、ね」
「そうですか。それではここはもう・・・・・・」
「ああ。すまんなレイ・・・・・・おまえには不自由な思いをさせる」
「いえ。おじさんが決めた事ですから。俺はついていくだけです」
「・・・・・・ありがとう、レイ」

翌日。
「この道をまっすぐ行けばふもとに降りられる。なに、迷う事はないさ」
「「・・・・・・」」
二人は憔悴していた。まぁクビになるかどうかの瀬戸際だし、この御時世じゃ再就職も厳しいし。
「二人とも元気を出したまえ。タリアならそう悪いようにはしないさ」
「し、しかし・・・・・・」
「頭いてぇ・・・・・・」
「お二人は赤を着る者でしょう?もっとシャキっとしてください。先輩方がそんなだとシンが落胆します」
スデに落胆しているが。
「そ、そうだよな・・・・・・」
「どんな時でも胸を張って・・・・・・あたたたた」
「そうです。それに最後に見たあなた達がそのようなお顔では、俺だってがっかりします」
「・・・・・・最後?」
「いえ、なんでもありません。さぁ、とっとと帰ってください」
「あ、ああ。それじゃあ議長、レイ。お世話になりました」
「今度歌を聴かせて・・・あたたたた」
そしてアスランとハイネは山を降りた。

そのふもと。
「「・・・・・・」」
アスランとハイネは我が目を疑った。
「な、なんでここに・・・・・・」
「ミネルバがいるんだよ・・・・・・」
山のふもとでは、なんとミネルバが待機していた。
もちろん救助を要請した覚えはなく、そしてミネルバがここに来る理由も見当たらない。
と、そこでタリアがこちらに向かってきた。
「や、やばい・・・・・・」
「クビかなぁ?それとも緑かなぁ?」
ビクビクする二人だが、しかしタリアの言葉は二人の予想を軽く越えたものだった。
「二人とも、よくやったわ!」
「「・・・・・・はい?」」
「まさかデュランダルの居場所を突き止めたなんて・・・・・・てっきり死んだものと思っていたのに」
「「・・・・・・」」
イマイチ事情の飲み込めない二人。
アスランは恐る恐る訊いてみた。
「あの・・・・・・それは一体・・・・・・」
「何言ってるの?あなたが私にメールしたんじゃない。うっかり見逃してたみたいだけど、これならあなた達の
無断欠勤は無かった事になるわね」

「・・・・・・」
そこでアスランは思い至った。
――タリアならそう悪いようにはしないさ。
――最後に見たあなた達がそのようなお顔では、俺だってがっかりします。
「・・・・・・そうか」
デュランダルは、自身を自分に見つけさせる事によって、自分達の罪を帳消しにしようとしたのだ、と。
ちなみにタリアに送られたメールの日付は十九日。デュランダルはとある女性に頼んで、タリアのパソコンにハッキングを
してもらったのだ。この手の行為が大得意な者をデュランダルは知っていた。
――「一つ貸しですわよ、デュランダル様」
それはさておき。
「・・・・・・」
ハイネも事情を察したらしく、アスランに目配せをしてきた。
「じゃあ早速捜査に取り掛かるわよ。アスランとハイネ、シンとルナマリアでコンビを組んで。身柄を確保したら
連絡を入れてちょうだい」
「あ、あの!」
話を進めるタリアをアスランは制した。
「どうしたのアスラン?早くしないと逃げられるわ」
「いや、それが、ですね・・・・・・」
そしてアスランとハイネは、口を揃えてこう言った。
「「すいません、見間違いでした」」
「・・・・・・・・・・・・は?」
「ですから、見間違いだったんです」
「よく考えたらアレは議ちょ・・・・・・デュランダルに似た熊でした。ほら、亜熊ってヤツ。知ってるでしょ?」
「・・・・・・。つまり何?あなた達は単なる見間違いでミネルバを動かしたワケ?」
「「すいませんっした!!」」
「・・・・・・覚悟しておきなさいよ」
タリアの冷たいその言葉に、しかし二人は後悔してなかった。
自分のためにデュランダルを売るような真似は、どうしても出来なかった。

山小屋。
飛び立つミネルバを、山頂から眺めるレイとデュランダル。
「おじさん!ミネルバが!!」
「アスランとハイネはそれを選んだか。・・・・・・ふっ、なかなか良い男じゃないか、二人とも」

後日、アスランとハイネに処分が言い渡された。
減給十二ヶ月+トイレ掃除一ヶ月。二人はなんとか降格の憂き目は逃れられた。
「お、シン!小便か!?」
「この便器を使うんだ」
「ちょっ、二人とも近い――」

スペシャルエディション 『アスランとハイネの珍道中』
――完

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